液体と電極との接触を伴う分析装置における分析物の変質を防ぐ方法

エレクトロスプレーイオン化、電気泳動、電気浸透、電気透析、および液体と電極の接触を伴う任意の装置と共に使用する、分析物の電気分解を防ぐ方法を開示する。電気化学システムの電極表面での、および電気化学過程における、電気分解反応による分析物の変質を防ぐための方法は、ポリマー、プラスチック、および有機化合物を含むがこれらに限定されない電気的に絶縁された物質を用いて、液体噴霧、回転、成形、ゾル・ゲル、浸漬、物理気相蒸着および化学気相蒸着を含むがこれらに限定されないコーティング方法により、種々の環境および基板温度で、電極表面をコーティングすることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、電気化学反応および過程、ならびに関連構造および機器を伴う、システムにおける電極の表面での分析物の変質を防ぐための方法に関する。なお、本出願は、2005年10月14日に出願された、米国特許仮出願第60/727,159号の恩典を主張するものであり、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
質量分析(「MS」)と組み合わせて使用されるエレクトロスプレーイオン化(「ESI」)は、生物工学および生命科学の分野における中核技術のひとつとなっている。ESI/MSは、定性的および定量的な測定のための最も有力な分析技術のひとつとなっている。ESI過程についての理解は、取り組みが進行中である。例えば、分析物の酸化、分析物のイオン化の感度および線形性等のような、ESIの適用の発達と改良には未だ課題がある。特に、分析物の酸化に関する問題は面倒な問題である。
【0003】
ESIは、溶液中のイオンが気相中のイオンへと移行するための過程を提供する。この過程は、大気圧でまたはそれをわずかに変化させて、達成することができる。従来、液体は、周囲の物体および対電極に対して、大きな電位差を有する、小さな「針状」の噴霧放出体(spray emitter)を通して供給される。正イオンモードでESIを作動させるために、通常、放出体のニードルは、対電極よりも数千ボルト高い電位にある。溶液が自由イオンを含有するとすれば、この電位差が、放出体の先端部で、液体表面上に正イオンによる誘導性の帯電を引き起こす。液体表面での正イオンの蓄積が、最終的に液体の表面張力に打ち勝つのに十分な電力を与え、結果として、液体がジェットおよび/または液滴の形態で引き出される。一方、電場が液体に浸透し、負イオンを放出体の方へ押し出す。放出された正イオンとともに、過剰の負イオンが噴霧の先端付近に存在し、正電位の減少を引き起こす。この電位の減少は、高電圧が印加されている陽極までずっと、導電性の液体経路を通して均等化される。液状溶液と陽極の間の界面の両側に電位差が形成されることより、放出体の先端部での正イオンの減少が、速やかに反映され、結果として、溶液中の分析物を含む、イオンおよび中性分子が酸化される。界面での酸化の過程が、電力供給源から液状溶液へ電荷を移動させ、安定した電気噴霧を維持する。界面電位差が、溶液中のどのような種が酸化され得るのかを決定する。多くの場合、最低酸化エネルギーを有する種が、酸化される最初の種である。この種が、噴霧を保持するのに十分な電流を供給できないならば、界面電位差が増加して、より高い酸化エネルギーの種を酸化する。この酸化過程は、噴霧電圧、液体伝導率、液体−電極界面の面積、電極に曝される時間、液体の流速および幾何学的配置に影響される。負電位でESIを実行する、逆の過程に対しては、化学種の還元が起こる。
【0004】
それ故、酸化および還元は、現在実施されるESIの電気化学過程の固有の部分である。残念ながら、この電気化学は、噴霧された液状溶液の分析物分子、内容、および組成の変化を引き起こす。溶液に含まれる試料との二次的反応を順次引き起こす、電気化学的な溶液の変化の結果として、溶液中の試料種の二次的な変質が起こり得る。この問題に取り組む、多様な手法が報告されている。低い酸化エネルギーを有する金属物質が、陽極として使用されてきた。これらの物質は、容易に酸化されるので、任意の分析物が酸化される前に、電極自体が犠牲となる。これは、電極の腐食を引き起こし、溶液中に金属イオンの存在の原因になる。多くの場合、分析物の質量スペクトル中に金属付加体がみられる。溶液の流速が高ければ(電極に曝される時間が短ければ)、分析物の酸化を低減することが立証された。これは、従来の大きなカラムであるLC/ESIが分析物の酸化に関する深刻な懸念を有さない理由である。しかしながら、マイクロカラムLCを備えているナノESI(nanoESI)は、極めてより高い感度を与え、かつ現在のプロテオームの研究に広く用いられるが、低流速が結果として長時間の曝露をもたらすため、この知見から恩恵を受けることはできない。分析物分子を酸化するには、分析物分子が電極表面へ物理的に到達する必要があるという、仮定に基づき、研究者らは電極と溶液の間の界面の面積を減らすことを提案した。分析物の酸化を低減するために、これが有用であることが立証された。しかし、酸化を無くすことはできない。さらに、同じ電気噴霧を維持するために、電極の面積がより小さければ、より高い電流密度を供給しなければならない。これは、界面電位差を増加させ、より高い酸化エネルギーの分析物の酸化を引き起こす。この問題への対処として、溶液伝導率が低い方が、より良いということが報告された。論拠は、低伝導率の溶液を用いた電気噴霧電流がより小さければ、陽極で必要とされる酸化がより少ないということである。限定された種類の試料および溶媒系に影響を与えるだけであることは言うまでもなく、これは、明らかに、この問題の最終的な解決法ではない。当然ながら、同様に、電気噴霧電圧がより低い方が、分析物の酸化を低減するのに有用である。しかし、これはイオン化効率を犠牲にするかもしれず、従って、望ましいまたは現実的な問題解決法ではない。
【0005】
最近、ある研究グループが、他の制御電位電気化学セルを用いて、ESIにおける分析物の電気化学的酸化を制御できたことを報告した。2つのセルは同じ化学溶液を共有したが、このセルの電気回路のループ(loop)とESIセルとが互いに独立するように、このセルを電気的に変動する電源で操作した。この付加したセルの電極はESI放出体(ニードル)の前で、ESIセルの電極の後ろに配置された。これが、ESIセルでの分析物へのいかなる酸化作用をも無くするであろうことを期待して、酸化した分析物分子が、付加したセルの電極を通ったときに、溶液中で電気化学的に還元されるように、動作電圧を調整した。この手法は、電気噴霧の電気化学の理解を示す。しかしながら、この提案された解決法は、ESIシステムに複雑さと費用を追加した。さらに、あらゆる試料と噴霧条件に対して、ESIセルでの分析物の酸化を打ち消す、適当な電圧が必要であるため、この提案された解決法は、それほど実用的で使いやすいとはいえないかもしれない。これは、LC/ESIの場合に特に困難である。この種の手法はまた、余分な死容積をも追加することから、分離特性を必要とするシステムに、この手法はさほど適合しない。
【0006】
ESI電極のすぐ前の溶液中で膜を使用することにより、分析物の酸化を無くすることに成功したことが報告された。膜は、溶液のイオンを通り抜けさせ、電極表面で荷電交換させるが、大きな分析物分子が電極へ到達するのを阻止する、半透膜であった。いろいろな種類の試料溶液に適合させるために必要である、種々の膜を有することは困難であるため、この手法は実用的ではないかもしれないが、それでもやはり、この手法が、分析物分子のESI電極への物理的な接近を防ぐという考えは、依然として意義のあるものである。この技術は、電気噴霧を維持するために電流を流させながら、分析物をESI電極から分離するための新しい方法を必要とする。
【0007】
質量分析に用いられる典型的な電気噴霧のイオン源は、2電極、制御電流電気化学フローセル(controlled-current electrochemical flow cell)である。帯電した電気噴霧液滴プルームが生じる先端にまたは先端近くに設置した、金属キャピラリーまたは他の導電性接触子(conductive contact)が、システムにおける2つの電極のうちのひとつである。ESI-MSの点から分析的に意義のある反応が、システムにおける作用電極として働くこの電極で起こる。回路の対電極は、通常、大気中の試料採取開口プレートまたは注入キャピラリーならびに質量分析計の種々のレンズ素子および検出器である。ESI源からの帯電液滴の生成を維持するために、ESI機器の噴霧先端にある溶液と、導電性接触子で、電気化学反応が起こらなければならない。正イオンモードでの酸化反応および負イオンモードでの還元反応が、放出体電極で優勢であり、一方、正イオンモードでの還元反応および負イオンモードでの酸化反応が、対電極で優勢である。
【0008】
ES質量スペクトル中に観測される、特定の分析物イオンおよびそれらのそれぞれの存在率は溶液組成に関連するので、ESI放出体電極で起こる電気化学反応は、生成して最後に質量分析計により分析される、気相イオンに影響し得る。これは、放出体電極で起こる電気化学反応が、ESイオン源に最初に入った溶液の組成を変える可能性があるからである。特に興味深いのは、これらの電気化学反応および分析物を直接含む組成の変化である。これらの反応は、そうしなければES-MS中で検出されない、中性電気活性分析物をイオン化するのに利用することができる、電気化学的イオン化を含む。他の反応は、分析物の質量、構造、または荷電を改変する反応、および溶液から分析物を除去し得る反応を含む(Karancsi ら, Rapid Commun. Mass Spectrom. 11:81-84 (1997); Berkel ら, J. Mass Spectrom. 35:773- 783 (2000))。後の形式の反応は、未知の分析物または定量化を伴う分析にとって困難な問題であるかもしれない。これら分析物の電気化学反応のいずれかまたは全ての程度を制御する能力は、分析的な利点であるであろう。利点は、質量または荷電における未知の変化を分析する際の混乱を避けること、分析物の最初の溶液状態を保持すること、および異なったイオン種間での荷電分布を避けること含む。いくつかの常用手段は、分析物の電気分解を低減するのに用いることができ、犠牲電極の使用、溶液への酸化還元緩衝剤の添加、高い溶液流速の使用、電極面積を減らすこと、溶液伝導率を下げること、およびより低い電気噴霧電圧を印加することを含む。
【0009】
どの反応が放出体電極で起きる可能性があるのか、それらの割合、およびそれらの範囲を判断する際に、作用電極での界面電位、ES電流の大きさ、電極表面の性質、および分析物の電極への質量移行(mass transport)は、全て重要なパラメーターである。ある一定の印加電圧に対するES放出体電極の界面電位は、一定ではなく、むしろ、相互に作用する変数の数によって、ある一定の高さに調整して、必要電流を供給する。これらの変数としては、ES電流の大きさ、システム中の全ての種の酸化還元性および濃度、溶液流速、電極材料、幾何配置、および面積、ならびに電極表面に対して反応する種のフラックス(flux)に影響を及ぼす、任意の他のパラメーターが挙げられる。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
様々な研究および装置が、電気化学反応により溶液/電極界面で引き起こされる、分析物の変質を低減しようと試みられてきたが、分析物の電気分解を無くす、簡単で普遍的な方法は、未だにない。本発明は、この問題に取り組み、溶液中の電極での電気化学反応誘導性の分析物の変質を防ぐための、簡単で便利かつ普遍的な方法を提供する。
【0011】
本発明の一局面に従って、電気化学システムの溶液中の電極の表面で、電気化学反応により引き起こされる、分析物の変質を防ぐための方法を提供する。該方法は、電極、対電極、および電極と対電極の間にある溶液中の分析物を有する、電気化学システムを提供することを含む。電極は、コーティングされた電極が溶液中の分析物と物理的に接触することを防ぐ、電気的に絶縁された物質である誘電体物質でコーティングされている。電流は、2電極間の溶液中を流れて、電気化学反応を生じさせる。電極のコーティングは、溶液に対して不活性なものであり、分析物が電気化学反応により変質することを防ぐ。
【0012】
本発明のこの局面および他の局面は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲を見ることで明らかとなるであろう。
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、電気化学システムの溶液中の電極の表面で、電気化学反応により引き起こされる、分析物の変質を防ぐための方法に関する。該方法は、電極、対電極、および電極と対電極の間の溶液中にある分析物を有する、電気化学システムを提供することを含む。電極は、コーティングされた電極が溶液中の分析物と物理的に接触することを防ぐ、電気的に絶縁された物質である誘電体物質でコーティングされている。電流が、2電極間の溶液中を流れて、電気化学反応を生じさせる。電極のコーティングは、溶液に対して不活性なものであり、分析物が電気化学反応により変質することを防ぐ。
【0014】
本発明は、エレクトロスプレーイオン化、電気泳動、電気浸透、電気透析、および例えば前記の背景に記載したような液体と電極の接触を伴う、任意のシステムまたは装置を含む、電気化学システムにおける分析物の電気分解を防ぐ方法を提供する。
【0015】
さらなる態様において、コーティングは、コンフォーマル(conformal)で均一であってもよく、また、非コンフォーマルで不均一でもあり得る。コーティングは、単層または多層のものである。コーティングの厚さは、好ましくは0.1ミクロンから100ミクロンの範囲であり、より好ましくは約1ミクロンである。厚さは、必要に応じて、増やしてもよい。
【0016】
一態様において、コーティング蒸着は、液体キャスティング(liquid casting)、ゾル・ゲル法、噴霧、電極の回転、およびコーティング溶液中への電極の浸漬を含む。また、全ての種の物理気相蒸着および化学気相蒸着を含む、気相蒸着によっても、コーティングを蒸着できる。また、溶液中または気相環境で、ポリマーまたは他の有機物質を成長させることによっても、コーティングを形成できる。
【0017】
他の態様によれば、電極表面を前処理して、または前処理せずに、電極の表面上で、コーティングを蒸着するかまたは成長させる。電極の前処理は、表面の下塗り、表面を粗面にすることまたは平滑にすること、表面の高温またはプラズマ処理、ならびに表面を導電性または半導性物質でコーティングすることを含む。
【0018】
さらなる態様によれば、コーティングを蒸着するかもしくは成長させる、またはコーティング後処理工程に供することができる。コーティング後処理工程は、気相中もしくは溶液中での化学処理、大気中もしくはある種の気体中での高温処理である物理学的処理、プラズマ処理である物理学的処理、ならびにエネルギーを持った分子もしくはイオンによる、衝撃処理またはスパッタ処理である物理学的処理を含む。
【0019】
ガスケット材料として使用されるコーティング物質用に、コーティングの硬度特性を設計してもよい。例えば、電極を他の基板に密着させるために、または液体を含有するシステムと組み合わせて、該物質を用いてもよい。例えば、ピペット・チップを電子噴霧チップに連結することが想定される。機械的またはシステムの他の同様の機能を実行する必要がある場合、硬質型の物質が望ましい可能性がある。
【0020】
コーティングは、好ましくは、試料または溶液との相互作用または不適合性を制限するような、不活性のものである。各種のフルオロポリマー配合物が、コーティング物質として使用され得る。
【0021】
この方法は、分析物と電極との直接的な物理的接触を避けるために、電極の表面上に、電極での分析物の電気分解および/または変質を防ぐ、コーティングを提供する。電極表面上のコーティングに有用なコーティング物質は、電気的に絶縁された物質および誘電体である。このようにして、コーティングされた電極は、依然として電気伝導性電極として機能する。
【0022】
このコーティングに使用できる物質としては、全てのフッ素化ポリマー、テフロン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリアミド、全ての種のワックス、種々のポリマーの混合物、PVC、PVDP、バイトン(viton)、ノルプレン(norprene)、ハイパロン(hypalon)、ポリウレタン、シリコン、ビニル、PTFE、ネオプレン、およびカプトン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。適したコーティング物質としては、さらに任意の形態のポリマー、プラスチック、有機化合物、エラストマー、モノマー、無機−有機化合物およびそれらの混合物が挙げられる。物質としてはまた、ポリマーと無機化合物の混合物、ポリマーと無機物質粒子の混合物、ポリマー粒子と無機元素含有ポリマーの混合物も挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、ポリプロピレンは、炭素粒子、ガラス粒子、シリコン粒子、またはセラミック粒子を含有することができる。コーティング物質としては、さらに、非架橋のまたは架橋のポリマー、モノマー、ポリマー、プラスチック、有機物質、エラストマー、およびワックス等が挙げられる。
【0023】
電極材料としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない:
金、白金、銀、銅、鉄、タングステン、パラジウム、アルミニウム、全ての種のステンレス鋼、全ての金属元素およびそれらの合金もしくは混合物、全ての電気伝導性物質、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素、GaAs、GaN、AlN、全ての半導性元素もしくは化合物、導電性ポリマー、導電性有機化合物、黒鉛、炭素、炭素ドープポリマー(carbon doped polymer)、ならびにポリマーと導電性粒子の混合物。
【0024】
電気化学システムの電極または基板がコーティングされる場合、コーティングは、分析物溶液に対して不活性なものである。該コーティングは、分析物溶液により、酸化されたりまたは溶解されたりしない。さらに、分析物溶液中にある分析物と他の成分のどちらも、コーティングの表面上に吸収されたりまたは吸着したりしない。電極の表面上のコーティングは、エレクトロスプレーイオン化システムにおける分析物の変質を防ぐ。電極の表面上のコーティングは、エレクトロスプレーイオン化システムにおいて、分析物が化学的に酸化される、還元される、分解する、断片化する、または付加体を形成するのを防ぐ。
【0025】
コーティングは、電極の固体表面と物理的に接触しており、それ故、コーティングと電極の間に溶液は存在しない。これは、エレクトロスプレーイオン化システムにおける電極の表面上に、電気的に絶縁された物質であり誘電体の性質である、コーティングを提供する。従って、溶液中の分析物を保護するために膜が備え付けられ、試料流体が膜と電極の間にあることを含む、試料流体が膜の両側に存在するシステムとは、本発明のコーティングされた電極は異なる。電極の表面上のコーティングは、電極のコーティングされた表面を、噴霧される試料流体から物理的に分離した。
【0026】
コーティングされる電極は、任意の形状のものであり得る。電極表面は、滑らかであることまたは粗いことがあり得る。コーティングされた電極表面は、分析物含有溶液と接触する、電気化学システムにおける任意の場所に設置され得る。
【0027】
一般的に、本発明の原理に従って行われる方法は、以下の工程のいくつかまたは全ての組み合わせを含み得る。
(1) 1つまたは複数のコーティング物質を、溶媒または溶媒混合物に溶解することにより、コーティング溶液を作る工程;
(2) 2種またはそれ以上の溶液または溶媒を混合し、それらを物理的に混合させること、および/または化学的に反応させることにより、コーティング溶液を作る工程;
(3) コーティング物質を含有するコーティング溶液または懸濁液を作る工程;
(4) 物理スパッタ蒸着(physical sputter deposition)のために、スパッタシステム(sputter system)およびターゲット材(target material)を準備する工程;
(5) 物理化学反応性スパッタ蒸着(physical chemical reactive sputter deposition)のために、スパッタシステム、ターゲット材、およびスパッタガス(sputter gas)を準備する工程;
(6) 物理気相蒸着のために、熱蒸発システムおよび蒸発させる物質を準備する工程;
(7) 物理化学蒸着のために、熱蒸発システムおよび化学反応システムならびに蒸発させる物質を準備する工程;
(8) 化学気相蒸着のために、化学気相蒸着システムおよび化学反応に関与するガスを準備する工程;
(9) イオン蒸着のために、真空システムを準備する工程;
(10) コーティングの蒸着を受けるために、基板の加熱、基板のプラズマ処理、基板を研磨することまたは粗面にすること、基板の下塗り、ならびにそれらの上に導電性および/または非導電性の薄層をコーティングすることにより、基板、例えば電気-化学システムで使用される電極を準備する工程;
(11) 作ったコーティング溶液を電極の表面上に噴霧して、表面を被覆する層を形成する工程;
(12) 作ったコーティング溶液中に電極を浸漬するか、または電極の表面上に、作ったコーティング溶液を塗布して、作ったコーティング溶液の層を、電極表面上に形成させる工程;
(13) 電極の表面に、空気または窒素を吹き付けて、作ったコーティング溶液の層を、電極表面上に形成させる工程;
(14) ゾル・ゲル法を用いて、電極上にコーティングの層を形成させる工程;
(15) コーティングから溶媒を追い出す一定時間、コーティングした電極を高温で加熱する工程;
(16) 準備したスパッタシステム中に電極を置き、スパッタリング(sputtering)を行って、電極の表面上にコーティングの層を蒸着させる工程;
(17) 準備した熱蒸発システム中に電極を置き、電極の表面上にコーティングの層を蒸着させる工程;
(18) 準備した化学気相蒸着システムに電極を置き、電極の表面上にコーティングの層を蒸着させる工程;および
(19) 高温での焼きなまし、プラズマ処理、イオン衝撃、または化学反応での処理を用いて、コーティングの蒸着後処理を行う工程。
【0028】
一態様において、コーティング物質を溶媒に溶解して、コーティング溶液を作る。該溶媒は、有機もしくは無機の溶媒、または以下のいずれかひとつもしくはいずれかの混合物であり得る。
水、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリル、アセトンクロリド、イソプロパノール、メタノールクロリド、またはフッ素化を基礎とするもの(fluorinated based)。
好ましくは、攪拌するかまたは攪拌せずに、室温でまたは高温で、溶媒中に物質を溶解する。好ましくは、コーティング溶液中のコーティング物質の濃度は、0.01グラム/リットルから5000グラム/リットルの範囲である。
【0029】
コーティング溶液は、2種またはそれ以上の溶液および/または溶媒を混合し、それらを物理的に混合させるかおよび/または化学的に反応させることにより、作製され得る。物理的混合は、室温でまたは高温で、拡散、攪拌、または超音波によるものであり得る。好ましくは、作った溶液の組成は、0.01グラム/リットルから5000グラム/リットルの範囲である。
【0030】
コーティング液体は、溶媒または溶液中のコーティング物質の懸濁液であり得る。懸濁液は、化学反応によるか、または強力な物理的混合により、作り得る。好ましくは、懸濁液の濃度は、0.01グラム/リットルから5000グラム/リットルの範囲である。
【0031】
一態様において、コーティング溶液または懸濁液を、電極表面上に噴霧し、コーティングを形成させる。コーティング溶液または懸濁液を、電極表面上に塗布することができ、電極を回転させることにより、表面上に、より均等に分布させることができる。他の態様において、電極をコーティング溶液または懸濁液中に浸漬させ、表面上にコーティング層を形成させる。過剰の溶液または懸濁液を除去する必要がある場合、または溶液または懸濁液を、表面上に、より均等に分布させる必要がある場合、窒素または空気を、電極のコーティングされた表面に吹き付けてもよい。
【0032】
好ましくは、このコーティングに、電極の、熱処理、プラズマ処理、エネルギー粒子処理、または化学処理が続く。熱処理は、不活性ガスまたは大気環境での、高温での焼きなましを含む。焼きなましの温度は、2O℃から800℃の範囲である。このコーティングのプロセスを何度も繰り返して、コーティングする層の厚さを増すことができる。
【0033】
また、コーティング物質を加熱して、真空内で、またはある一定の気相環境で、熱的に蒸発させ、電極上に蒸着させることもできる。電極を、2O℃から500℃の範囲の高温にすることができ、圧力環境は、0.001 Torrから760 Torrの範囲であり得る。
【0034】
本発明の他の態様において、コーティング物質はガスケットとして働き、液状溶液が加圧下にあることを必要とする、電気化学システムにおける溶液中の電極を密封する。
【0035】
本発明のさらなる他の態様において、電極上のコーティングは、電極表面上での分析物分子のいかなる吸着または吸収をも、低減または無くす効果を有する。このコーティングのさらなる利点は、システムの他の部分の表面での吸着または吸収を制限するためにコーティングを配合し得、電気化学反応とは無関係にシステムの他の部分の表面をコーティングし得ることである。コーティングされていない電極表面上で吸着または吸収され得る分析物分子としては、DNA、タンパク質、ペプチド、小分子、および任意のポリマーもしくは有機分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明は、以下の具体的な実施例を参照して、さらに説明されるであろう。この実施例は、説明の目的で提供されるものであり、開示または特許請求の範囲を以下のものに制限するものではないことが理解される。
【0037】
実施例
液体試料を採取してESIチップに送るために、導電性ポリマーまたはプラスチックのピペット・チップが、Advion Biosystem, Inc. のESIチップ技術において用いられる。噴霧の間、高ESI電圧がこのチップに印加される。図1に見られるように、このチップは、噴霧される試料溶液と接触して、ESI回路における作動電極として働く。図1は、Advion BioSciences, Inc., Ithaca, NY のAdvion ESIチップ技術を用いた、ナノ電気噴霧の説明図である。コーティングされていないポリプロピレンのピペット・チップは、黒鉛がドーピングされており、電気伝導性である。ピペット・チップは、フッ素化エラストマーポリマー(fluorinated elastomer polymer)でコーティングされている。ピペット・チップ中に試料溶液が長い間存在することに起因して、溶液中の分析物は、電気分解される(主に、酸化されるか還元される)可能性がずっと高い。本発明は、コーティングされた電極(ピペット・チップ)を提供することにより、分析物の電気分解という上記の問題の解決策を示す。
【0038】
コーティング溶液を、フッ素化溶媒中に市販のフッ素化高分子エラストマー(fluorinated polymer elastomer)に溶解することにより調製する。ピペット・チップをコーティング溶液に浸漬させ、窒素ガスを含む空気で送風乾燥する。溶液の薄層が、チップの表面上に残る。チップを窒素中、4時間、60℃で焼き、溶媒を追い出す。フッ素化ポリマーの薄層を、ピペット・チップの表面上にコーティングさせる。
【0039】
電極/溶液界面で起こるいかなる分析物の電気分解をも防ぐために、このポリマーコーティングされたピペット・チップが、Advion のESIチップ技術において用いられる。また、コーティングは、ガスケットとして働き、ピペット・チップとESIチップとが接するところで、液状溶液を密封するのを助ける。
【0040】
図2は、レセルピンを注入した結果得られた、質量スペクトルであり、図2(A)は、導電性ピペット・チップ(電極)上に、フルオロポリマーのコーティングを有さず、図2(B)は、導電性ピペット・チップ(電極)上に、フルオロポリマーのコーティングを有する。コーティングされていない電極である図2(A)に関して、レセルピン分子はm/z = 609からm/z = 607 ダルトンの化学変化を受ける。コーティングされていない炭素ピペット・チップを用いて得られた、図2(A)は、m/z = 607ダルトンに強いピークを示す。m/z = 607のピークは、m/z = 609ダルトンに現れる、レセルピン分子の酸化生成物である。コーティングされたピペット・チップを用いて得られた、図2(B)に示されるスペクトルに関して、レセルピン分子の変質はみられず、m/z = 609ダルトンに、レセルピンの基準ピークのみが生じている。従って、m/z = 609ダルトンに見られる強いレセルピンのピークは、酸化生成物を含まないと思われる。0.1%酢酸を添加して、メタノールと水が50/50の混合物に溶解した、500 フェムトモルのレセルピン溶液を注入することにより、この実施例に関するデータが生じた。溶液のナノ電気噴霧は、Advion ESIチップ技術を用いて、1,300ボルト、0.3 psiの圧力で実施された。
【0041】
図3は、0.1%酢酸を添加したメタノールと水が50/50の混合物に溶解した、500 フェムトモルのレセルピン溶液を注入した結果生じた、m/z = 609 (レセルピン)のイオン電流のトレースについて、上記の質量スペクトルから抽出したものを示す。溶液のナノ電気噴霧は、Advion ESIチップ技術を用いて、1,300ボルト、0.3 psiの圧力で遂行された。抽出した、図3(A)は、コーティングされていないピペット・チップを用いた場合に、レセルピン強度が経時的に衰えていることを示す。これは、電極(ピペット・チップ)でレセルピン分子が電気分解されたため、レセルピン濃度が経時的に減少していることを示唆する。一方、図3(B)は、コーティングされたピペット・チップ(電極)を用いた場合の、抽出したイオンm/z = 609 (レセルピン)に関する、一定のシグナル強度を示す。これは、電気分解で誘導されるレセルピン分子の変質が回避されたことを示唆する。
【0042】
本発明を好ましい態様で記載してきたが、改変および修正が、本明細書に添付した特許請求の範囲の権限および範囲内とみなされるべきであることが、理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】Advion BioSciences, Inc., Ithaca, NY のAdvion ESIチップ技術を用いた、ナノ電気噴霧の説明図である。
【図2】レセルピンを注入した結果得られた、質量スペクトルである。図2(A)は、導電性ピペット・チップ(電極)上に、フルオロポリマーのコーティングを有しない場合、図2(B)は、導電性ピペット・チップ(電極)上に、フルオロポリマーのコーティングを有する場合である。
【図3】0.1%酢酸を添加したメタノールと水が50/50の混合物に溶解した、500 フェムトモルのレセルピン溶液を注入した結果生じた、m/z = 609 (レセルピン)のイオン電流のトレースについて、抽出したものを示す。図3(A)は、コーティングされていないピペット・チップ(電極)を用いた場合、図3(B)は、コーティングされたピペット・チップ(電極)を用いた場合である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学システムの溶液中の、電極表面での電気化学反応誘導性の分析物の変質を防ぐための方法であって、以下の工程を含む方法:
電極、対電極、および電極と対電極の間の溶液中にある分析物を有する、電気化学システムを提供する工程;
電気的に絶縁された物質でありかつコーティングされた電極が溶液中の分析物と物理的に接触する状態になることを防ぐ誘電体物質で、電極をコーティングする工程;
2電極間の溶液に電流を流して、電気化学反応を生じさせる工程であって、電極のコーティングが溶液に対して不活性なものであり、かつ分析物が電気化学反応により変質することを防ぐ工程。
【請求項2】
電気化学システムが、エレクトロスプレーイオン化、電気泳動、電気浸透、電気透析、または液体と電極の接触を伴う他の電気化学システムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
コーティング物質が、フッ素化ポリマー、テフロン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリアミド、イミド、ワックス、種々のポリマーの混合物、PVC、PVDP、バイトン(viton)、ノルプレン(norprene)、ハイパロン(hypalon)、ポリウレタン、シリコン、ビニル、PTFE、ネオプレン、カプトン、ポリマーと無機化合物の混合物、ポリマーと無機物質粒子の混合物、またはポリマー粒子と無機元素含有ポリマーの混合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
無機元素を含有するポリマーが、炭素粒子、ガラス粒子、シリコン粒子、またはセラミック粒子を含有するポリプロピレンを含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
上にコーティングが形成される電極が、金、白金、銀、銅、鉄、タングステン、パラジウム、アルミニウム、ステンレス鋼、金属、金属合金もしくは混合物、電気伝導性物質、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素、GaAs、GaN、AlN、半導性元素もしくは化合物、導電性ポリマー、導電性有機化合物、黒鉛、炭素ドープポリマー(carbon doped polymer)、またはポリマーと導電性粒子の混合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
電極のコーティングが、0.1 ミクロン〜100 ミクロンの範囲の厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
電極が、以下の工程を含む方法によりコーティングされる、請求項1記載の方法:
(1) 1つまたは複数のコーティング物質を、溶媒または溶媒混合物に溶解することにより、コーティング溶液を作る工程;
(2) 2種またはそれ以上の溶液または溶媒を混合し、それらを物理的に混合させること、および/または化学的に反応させることにより、コーティング溶液を作る工程;
(3) コーティング物質を含有するコーティング溶液または懸濁液を作る工程;
(4) 物理スパッタ蒸着(physical sputter deposition)のために、スパッタシステム(sputter system)およびターゲット材(target material)を準備する工程;
(5) 物理化学反応性スパッタ蒸着(physical chemical reactive sputter deposition)のために、スパッタシステム、ターゲット材、およびスパッタガス(sputter gas)を準備する工程;
(6) 物理気相蒸着のために、熱蒸発システムおよび蒸発させる物質を準備する工程;
(7) 物理化学蒸着のために、熱蒸発システムおよび化学反応システムならびに蒸発させる物質を準備する工程;
(8) 化学気相蒸着のために、化学気相蒸着システムおよび化学反応に関与するガスを準備する工程;
(9) イオン蒸着のために、真空システムを準備する工程;
(10) コーティングの蒸着を受けるために、電極の加熱、電極のプラズマ処理、電極を研磨するまたは粗面にすること、電極の下塗り、ならびにそれらの上に導電性および/または非導電性の薄層をコーティングすることにより、電気−化学システムで使用される電極を準備する工程;
(11) 作ったコーティング溶液を電極の表面上に噴霧して、表面を被覆する層を形成する工程;
(12) 作ったコーティング溶液中に電極を浸漬するか、または電極の表面上に、作ったコーティング溶液を塗布して、作った該溶液の層を、電極表面上に形成させる工程;
(13) 電極の表面に、空気または窒素を吹き付けて、作った該溶液の層を、電極表面上に形成させる工程;
(14) ゾル・ゲル法を用いて、電極上にコーティングの層を形成させる工程;
(15) コーティングから溶媒を追い出す一定時間、コーティングされた電極を高温で加熱する工程;
(16) 準備したスパッタシステム中に電極を置き、スパッタリング(sputtering)を行って、電極の表面上にコーティングの層を蒸着させる工程;
(17) 準備した熱蒸発システム中に電極を置き、電極の表面上にコーティングの層を蒸着させる工程;
(18) 準備した化学気相蒸着システム中に電極を置き、電極の表面上にコーティングの層を蒸着させる工程;または
(19) 高温での焼きなまし、プラズマ処理、イオン衝撃、または化学反応での処理を用いて、コーティングの蒸着後処理を行う工程。
【請求項8】
コーティングされた基板との接触において、基板が溶液中に存在する分析物と物理的に接触することを防ぐ物質で、電気化学システムの非電極基板(non-electrode substrate)を、コーティングすることをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
コーティング物質が、ポリマー、プラスチック、有機化合物、エラストマー、ワックス、無機−有機化合物、およびそれらの混合物を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
防がれる、電気化学反応誘導性の分析物の変質が、電気分解、化学的酸化、化学的還元、物理的切断もしくは断片化、または分析物の付加体の生成を含む、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−511917(P2009−511917A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535760(P2008−535760)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/040285
【国際公開番号】WO2007/047542
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(508357246)アドビオン バイオシステムズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】