説明

液体の冷却方法

【課題】揮発成分及び界面活性剤を含有する液体を、その飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気に供給し、揮発成分の少なくとも一部を気化させて、液体を冷却する際に、消泡剤を使用することなく、液体中に泡噛みした気泡を脱泡する。
【解決手段】液体の冷却方法は、揮発成分及び界面活性剤を含有する液体を、該揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気に供給し、該揮発成分の少なくとも一部を気化させて該液体を冷却する際、該圧力雰囲気に該揮発成分以外の気体を導入して、該液体と該気体とを接触させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体の冷却方法及びそれを用いたアニオン界面活性剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発成分を含有する液体を、その飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気に供給し、そして、揮発成分の少なくとも一部を気化させることにより液体を冷却する方法が一般に知られている。このとき、粘度の小さい液体や非発泡性の液体の場合には、蒸発した揮発成分の気泡は容易に液体中を上昇して気液界面に到達した後に破泡されて気相中に分離される。
【0003】
しかしながら、界面活性剤を含有する発泡性液体の場合には、気液界面に到達した気泡は容易には破泡されず、さらに、粘性液体の場合には、気泡が液体内に泡噛みした状態で留まることにより、液体がシェービングクリーム状或いはメレンゲ状となり、そのことが液体の密度及び流動性を低下させる、といった問題を生じる。
【0004】
これらの場合に対し、消泡剤を使用することにより発泡を抑制する方法や発生した泡を消去する方法が知られているが、界面活性剤、糖類、糊料水溶液、食品等の分野では、消泡剤を使用できない場合が多い。
【0005】
そこで、消泡剤を使用せずに脱泡する方法として、例えば、特許文献1には、液体の液面に向けて溶液温度より低い温度のガスを吹き付ける方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、液体を蒸発缶に吹き込む際に配管中で蒸発させて気液混合相として発泡を抑制する方法が開示されている。
【0007】
特許文献3及び4には、減圧下にした脱気装置に液体を供給し、内壁面を伝って流下させるときに液体を冷却することにより気泡を凝縮させる方法が開示されている。
【0008】
また、アニオン界面活性剤の製造方法として、例えば、特許文献5には、アルキル硫酸エステル塩水溶液を循環路に循環させ、循環路を循環するアルキル硫酸エステル塩水溶液に原料のアルキル硫酸エステル及びアルカリを連続供給して中和反応させると共に、循環路を循環するアルキル硫酸エステル塩水溶液から一部分を製品として連続回収し、そして、アルキル硫酸エステル塩水溶液の冷却を循環路に介設された熱交換器で行う方法が開示されている。
【0009】
特許文献6には、硫酸化物と塩基性物質とを接触させて得た混合物のフラッシングを行うことにより、混合物を気相成分と液相成分とに分離し、そのうち液相成分を回収することが開示されている。
【0010】
特許文献7には、アニオン界面活性剤の酸前駆体を含有する酸性液と中和用のアルカリ液とを連続的に薄膜形成式蒸発機に供給し、加熱された蒸発機内壁面にそれらの混合液の薄膜を形成させながら減圧下で中和反応と濃縮・乾燥とを並行して行なうことが開示されている。
【0011】
特許文献8には、アルキルエーテルを硫酸化し、減圧下で含有する気体を除去した後、外部冷却装置を備えた密閉型連続方式で中和するアルキルエーテルサルフェートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭59−111914号公報
【特許文献2】特開平5−49801号公報
【特許文献3】特開2007−252383号公報
【特許文献4】特開2005−161139号公報
【特許文献5】特開平2−218656号公報
【特許文献6】特開2000−96084号公報
【特許文献7】特開平11−172294号公報
【特許文献8】特開2004−359871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、液体の液面に向けて溶液温度より低い温度のガスを吹き付ける方法では、気泡が液面まで上昇する時間が必要となるため、液体を貯留するための手段が必要であり、また、気泡の上昇速度が著しく遅い粘性液体の場合には適用できない。
【0014】
液体を蒸発缶に吹き込む際に配管中で蒸発させて気液混合相とする方法では、液体を蒸発缶に供給する前に加熱する必要があるため、熱安定性の低い液体には適用できず、また、流動状態を間欠流若しくは環状流とする必要があるため、圧力及び温度の操作範囲が限定されるという欠点を持つ。
【0015】
減圧下にした脱気装置に液体を供給し、内壁面を伝って流下させるときに液体を冷却する方法では、泡噛みした液体は熱伝達係数が小さくなるため、内壁面を伝熱面として冷却することは非常に非効率的である。
【0016】
本発明の課題は、揮発成分を含有する液体を、その飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気に供給し、揮発成分の少なくとも一部を気化させて、液体を冷却する際に、消泡剤を使用することなく、液体中に泡噛みした気泡を脱泡することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の液体の冷却方法は、揮発成分及び界面活性剤を含有する液体を、該揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気に供給し、該揮発成分の少なくとも一部を気化させて該液体を冷却する際、該圧力雰囲気に該揮発成分以外の気体を導入して、該液体と該気体とを接触させるものである。
【0018】
本発明のアニオン界面活性剤の製造方法は、アニオン界面活性剤の酸前駆体とアルカリとを中和反応させることにより得られたアニオン界面活性剤水溶液を、揮発成分を水、及び界面活性剤をアニオン界面活性剤として、本発明の液体の冷却方法により冷却するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷却の際、揮発成分以外の気体を導入して液体と接触させることにより、消泡剤の使用の有無に関係なく、液体中に泡噛みした気泡を脱泡することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】冷却装置の構成を示す図である。
【図2】中和装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0022】
(液体の冷却方法)
本実施形態に係る液体の冷却方法は、揮発成分及び界面活性剤を含有する液体を、その揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気の冷却場に供給し、揮発成分の少なくとも一部を気化させて液体を冷却する際、その圧力雰囲気の冷却場に揮発成分以外の気体を導入して、液体と気体とを接触させるものである。
【0023】
一般に、揮発成分及び界面活性剤を含有する液体を、その揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気の冷却場に供給し、揮発成分の少なくとも一部を気化させて液体を冷却する場合、液体が発泡性や粘性を有すると、気泡が泡噛みした状態で留まってシェービングクリーム状やメレンゲ状となり、冷却後に密度の小さい液体が得られることとなる。そこで、揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気の冷却場においては、泡噛みした気体の温度は沸点であるため、例えば、排出ポンプなどによって微小にでも加圧できれば、気泡が凝縮して液体を真密度に近づけることができる。ところが、液体の密度が小さいと、冷却場の容積を大きくとる必要があり、また、キャビテーション防止のためにその高さを十分にとる必要もある。さらに、液体の密度が小さいと流動性が低くなるため、用いる排出ポンプのサイズを大きくする必要がある等の経済的負担も大きくなる。
【0024】
しかしながら、本実施形態に係る液体の冷却方法によれば、上記のような液体の冷却の際、揮発成分以外の気体を導入して液体と接触させることにより、上記のような不具合を生じることなく、また、消泡剤の使用の有無に関係なく、液体中に泡噛みした気泡を脱泡することができる。従って、冷却後の液体への不純物の混入を防止することもできる。
【0025】
本実施形態に係る液体の冷却方法は、連続式、回分式、或いは半回分式のいずれの方式で実施してもよい。
【0026】
連続式の場合には、液体を供給する冷却装置の下部に排出ポンプを設置し、冷却装置から連続的に冷却後の液体を排出する等の形式で冷却を実施することができるが、密度の大きな液体を得ることができるため、排出ポンプに対するNPSHav(有効吸込ヘッド)が大きくなり、キャビテーションを防止することができる。また、装置内に貯留される液体の液面の維持高さを低くすることができることから、装置高さを低くすることによるコストの削減を図ることができる。従って、本実施形態に係る液体の冷却方法は、特に連続式に好適なものである。
【0027】
回分式の場合には、密度の大きな液体を得ることができるため、1回当たりの処理量を大きくすることができ、また、装置容積を小さくすることができるといった経済的メリットを得ることができる。さらに、一般的に最も使用頻度の高い熱交換器を用いた冷却方法と比較すると、圧力損失を低減でき、その効果は液体の粘性が大きいほど顕著であり、また、圧力損失低減のために流路を大きくする等の措置をとる必要が無いため、装置容積を小さくできることから省スペース化を図ることができる。
【0028】
なお、本実施形態に係る液体の冷却方法は、単に冷却のみを目的とする場合だけでなく、揮発成分を気化させることから、それに加えて濃縮や不純物除去を目的とする場合においても有効である。
【0029】
[液体]
液体としては、特に限定されないが、気体導入による脱泡効果が特に顕著であるものとして、例えば、粘性液体、発泡性液体が挙げられる。また液体には固体粒子を含む流体(スラリー)、高粘度で固体粒子を含んだり含まなかったりする流体(ペースト)も含まれる。更に液体中に空気等の気泡を含んだ流体(泡噛み流体)も含まれる。
【0030】
かかる液体は、少なくとも揮発成分と粘性や発泡性を発現させる界面活性剤が含まれたもので構成される。
【0031】
揮発成分としては、例えば、水、有機溶剤等が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;ノルマルヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルムなどの塩化脂肪族炭化水素類等が挙げられる。揮発成分は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種が混合されて構成されていてもよい。
【0032】
界面活性剤は、単一種が含まれていてもよく、また、複数種が含まれていてもよい。かかる物質の含有量は例えば0.1〜90質量%である。上記脱泡効果は高粘度の流体や、高粘度で液体中に空気等の気泡を含んだ流体(泡噛み流体)において特に顕著である。この観点から、界面活性剤の含有量は10〜99質量%が好ましく、30〜95質量%がより好ましく、50〜90質量%が更に特に好ましく、55〜85質量%が特に好ましい
界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、両親媒性ポリマーが挙げられる。
【0033】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などの硫酸エステル型のもの;アルキルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸型のもの;カルボン酸型のもの;リン酸エステル型のもの等が挙げられる。これらのアニオン界面活性剤は、水との混合物を構成した場合、一定の界面活性剤濃度までは濃度上昇するにつれて粘度が上昇して流動性が低下乃至無くなるが、その一定の界面活性剤濃度からさらに濃度上昇させると、ペースト状となって再び流動性を示すことが一般に知られている。このようなペースト状の状態において特に気体導入による脱泡効果は著しいものとなる。
【0034】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル型のもの;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどのエステル型のもの;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのエステル・エーテル型のもの;アルキルアルカノールアミドなどのアルカノールアミド型のもの等が挙げられる。
【0035】
カチオン界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩型のもの、アルキルアミン塩型のもの等が挙げられる。
【0036】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン等のカルボキシベタイン型のもの、アルキルアミンオキサイドなどのアミンオキサイド型のもの等が挙げられる。
【0037】
両親媒性ポリマーとは、疎水性基及び親水性基の両方を有するポリマーのことであり、例えば、反応性界面活性剤と親水性モノマーとの共重合、或いは、イオン性親水性モノマーと疎水性モノマーとの共重合によって合成することができる。なお、反応性界面活性剤とは、分子内に重合性の不飽和二重結合或いはイオン性の親水基及び疎水基を有する界面活性剤である。
【0038】
液体には、その他に用途に応じたそれぞれの構成成分等が含まれていてもよい。
【0039】
液体の粘度は例えば0.01〜1000Pa・sである。液体の粘度は同軸二重円筒型粘度計により測定される値である。
【0040】
液体としては、具体的には、界面活性剤水溶液、洗浄性組成物からなるスラリー、糊料水溶液、糖類、チョコレートや加工豆乳などの食品を含む液体が挙げられる。
【0041】
冷却前の液体は、泡噛みしていてもよい。泡噛みした液体を揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気の冷却場に供給した場合、気泡内の気体が膨張すると共に蒸発した揮発成分に押し出されて脱気される。そのため、泡噛みした液体を用いることによって、冷却前より密度が大きく、且つ流動性の優れる液体を得ることができる。
【0042】
[圧力及び温度]
液体を供給する冷却場の圧力は、その冷却場の温度における揮発成分の飽和蒸気圧以下に設定する。このとき、通常、冷却場を、その温度における揮発成分の飽和蒸気圧の圧力雰囲気に構成することが望ましいが、揮発成分が沸点上昇により所望する温度まで冷却されない場合には、飽和蒸気圧未満の圧力雰囲気に構成することが好ましい。なお、25℃における水の飽和蒸気圧は3.17kPaである。
【0043】
液体を供給する冷却場の温度は、液体の構成にもよるが、例えば−20〜200℃に設定する。
【0044】
[液体の供給操作]
冷却場に供給する液体の温度は、液体の構成にもよるが、例えば0〜220℃に設定する。液体には必ずしも予め加熱等を施す必要はなく、従って、本実施形態に係る液体の冷却方法は、熱安定性に乏しい物質にも良好に適用され得る。
【0045】
液体の冷却場への供給は、その手段が特に限定されるものではないが、噴霧ノズル等の微粒化手段を用いて行うことが好ましい。
【0046】
微粒化手段を用いた液体の冷却場への供給の場合、液体を供給する向きは、特に限定されるものではないが、上から下向きであることが好ましい。また、液体の液滴径は1〜10000μmとすることが好ましい。高粘性のために液体を滴状に噴霧することが困難な場合は、膜状或いは棒状に供給しても構わない。その場合の液膜厚みは1〜10000μmとすることが好ましい。
【0047】
液体の冷却場への供給は、1箇所から行ってもよく、また、複数箇所から行ってもよい。特に、液体が高粘性で圧力損失が大きくなる場合は、複数箇所から行うことが好ましい。
【0048】
[気体]
冷却場に導入する気体は、液体に含有される揮発成分以外の気体である。かかる気体は、液体との反応性を有しなければ特に限定されないが、圧力が減圧条件となる場合には、コンデンサ及び真空ポンプの負荷を低減する観点から凝縮性の気体であることが好ましい。具体的には、かかる気体として、例えば、スチーム(水蒸気)等が挙げられ、揮発成分が水である場合には、空気、窒素等が挙げられる。冷却場に導入する気体は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種の混合気体で構成されていてもよい。
【0049】
冷却場に導入する気体に加えて、同時に液体に含有される揮発成分をも導入してもよい。その場合、全気体に対して、揮発成分の含有量は20質量%以下であることが好ましく、冷却場の圧力雰囲気における揮発成分の分圧を下げて脱泡を促進させる観点から、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であること乃至含まないことが特に好ましい。
【0050】
[気体の導入操作]
冷却場に導入する気体の温度は、特に限定されるものではないが、例えば0〜200℃に設定する。
【0051】
冷却場への気体の導入量は、特に限定されるものではないが、液体の供給量に対して0.0001〜10質量%とすることが好ましく、コンデンサ及び真空ポンプの負荷を低減する観点から2質量%以下とすることがより好ましく、1質量%以下とすることが特に好ましい。
【0052】
冷却場への気体の導入の向きは、特に限定されるものではなく、液体を供給する向きとは反対の液体と向流接触させる向きであってもよく、また、液体を供給する向きと同じ液体と並流接触させる向きであってもよい。
【0053】
冷却場への気体の導入は、気液界面積を大きくして脱泡を効率的に行う観点から、揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気を構成する装置内(冷却場)に供給された液体が装置内壁又は装置内に貯留された液体の液面に到達するまでの間に、気体が液体に接触するように行うことが好ましい。従って、冷却場への気体の導入は、液体供給口に対して直接的に行うことが好ましい。なお、液体が装置内壁又は装置内に貯留された液体の液面に到達した後に、気体が液体に接触するような冷却場への気体の導入態様であってもよい。
【0054】
冷却場への気体の導入は、1箇所から行ってもよく、また、複数箇所から行ってもよい。特に、液体の供給を複数個所から行う場合には、気液の接触を効率的に行うために、気体の導入も複数箇所から行うことが好ましい。
【0055】
[冷却装置]
図1は本実施形態に係る液体の冷却方法に使用可能な冷却装置100の一例を示す。
【0056】
この冷却装置100は、上側ベッセル111及び下側ベッセル112が上下に設けられ、そして、上側ベッセル111の下部と下側ベッセル112の上部とが上下方向に延びる連結配管113で連結された構成を有する。
【0057】
上側ベッセル111の上部の天板部には、液体供給管121、第1気体導入管122、及び第1気体排出管123のそれぞれが接続されて貫通状態で下向きに開口を有するように設けられている。液体供給管121は上側ベッセル111の他の位置に設けられていてもよいが、供給した液体の滞空時間を長くして脱泡を促進させる観点から、このように上側ベッセル111の上部の天板部に設けられていることが好ましい。上側ベッセル111の容量は例えば1〜10000Lである。
【0058】
液体供給管121の先端には噴霧ノズル131が取り付けられている。上側ベッセル111に液体を供給する方法は、特に限定されるものではないが、気液界面積を大きくして冷却効率を高める観点から、前述の通り、このような噴霧ノズル131等の微粒化手段を使用することが好ましい。微粒化手段としては、噴霧ノズル131が、微粒化のために動力を必要とせず、省エネルギーで、かつ、メンテナンスが容易であるという観点から好ましい。市販の噴霧ノズル131の具体例としては、例えば、商品名:スパイラルジェットスプレーノズル[スプレーイングシステムスジャパン社製]、商品名:フルジェットスプレーノズル[スプレーイングシステムスジャパン社製]、商品名:空円錐ノズルAAPシリーズ[いけうち社製]、商品名:充円錐ノズルAJPシリーズ[いけうち社製]等が挙げられる。また、それ以外の微粒化手段としては、例えば、噴射弁のように圧力エネルギーにより微粒化するもの、2流体ノズルのように気体エネルギーにより微粒化するもの、回転噴孔や回転円盤のように遠心力により微粒化するもの、ノズル振動や超音波などの振動エネルギーにより微粒化するもの等が挙げられる。噴霧ノズル131は、フルコーンタイプのものであってもよく、また、ホロコーンタイプのものであってもよい。
【0059】
下側ベッセル112の上部には、第2気体排出管124が接続されて下向きに開口を有するように設けられている。下側ベッセル112の中間部には、第2気体導入管125が接続されて貫通状態で横向きに開口を有するように設けられている。下側ベッセル112の下部(底部)には、排出ポンプ141が介設された液体排出管126が接続されている。下側ベッセル112の容量は例えば1〜10000Lである。
【0060】
ここで、液体の冷却を連続式で実施する場合には、排出ポンプ141のNPSHre(必要有効吸込ヘッド)よりもNPSHavを大きくしてキャビテーションを防止し、そして、排出流量を制御して冷却した液体の液面を液体排出管126内乃至下側ベッセル112内に維持できるように、下側ベッセル112と排出ポンプ141との間の液体排出管126の部分が十分な長さを有することが好ましい。このとき液体の液面検出器として用いることができるものとしては、例えば、差圧式レベル計、超音波レベル計、レーダーレベル計等が挙げられる。また、液体の冷却を回分式又は半回分式で実施する場合には、必ずしも液体排出管126が下側ベッセル112の下部(底部)に接続されていなくてもよい。
【0061】
連結配管113の中間部には、第3気体導入管127が接続されて貫通状態で横向きに開口を有するように設けられている。連結配管113は、例えば、長さが50〜10000mm、及び内径が10〜1000mmである。
【0062】
なお、この冷却装置100には、装置内の液体を保温するための温水ジャケットや電気トレース等の保温手段が設けられていてもよい。
【0063】
この冷却装置100を用いた本実施形態に係る液体の冷却方法では、液体供給管121を介して噴霧ノズル131から液体が上側ベッセル111内に供給される。そして、装置内に供給された液体は、揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気の冷却場とされた装置内において、揮発成分の飽和蒸気圧となる温度、つまり、その圧力での沸点まで冷却される。一方、第1〜第3気体導入管122,125,127のいずれかを介して気体が装置内に導入され、また、第1及び第2気体排出管123,124のいずれかを介して気体が装置外に排出される。
【0064】
このとき、第2気体導入管125を介して気体を装置内に導入し、第1気体排出管123を介して気体を装置外に排出する構成では、装置内に導入された気体が下側ベッセル112から連結配管113を介して上側ベッセル111に流動し、つまり、気体が液体と逆向きに流動し、気体と液体とが向流接触する(以下、「気液向流接触条件1」という。)。同様に、第2気体導入管125を介して気体を装置内に導入し、第2気体排出管124を介して気体を装置外に排出する構成では、装置内に導入された気体が下側ベッセル112内で下から上向きに流動し、つまり、気体が液体と逆向きに流動し、気体と液体とが向流接触する(以下、「気液向流接触条件2」という。)。また、第3気体導入管127を介して気体を装置内に導入し、第1気体排出管123を介して気体を装置外に排出する構成では、装置内に導入された気体が連結配管113から上側ベッセル111に流動し、つまり、気体が液体と逆向きに流動し、気体と液体とが向流接触する(以下、「気液向流接触条件3」という。)。なお、気液向流接触条件1及び3では、液体供給管121及び噴霧ノズル131を介して上側ベッセル111に供給された液体が上側ベッセル111及び連結配管113の内壁に衝突するまでの間に液体を気体に向流接触させることができ、気液向流接触条件2及び3では、上側ベッセル111及び連結配管113の内壁に衝突して下側ベッセル112に落下した液体を気体に向流接触させることができる。
【0065】
また、第1気体導入管122を介して気体を装置内に導入し、第2気体排出管124を介して気体を装置外に排出する構成では、装置内に導入された気体が上側ベッセル111から連結配管113を介して下側ベッセル112に流動し、つまり、気体が液体と同じ向きに流動し、気体と液体とが並流接触する(以下、「気液並流接触条件1」という。)。同様に、第3気体導入管127を介して気体を装置内に導入し、第2気体排出管124を介して気体を装置外に排出する構成では、装置内に導入された気体が連結配管113から下側ベッセル112に流動し、つまり、気体が液体と同じ向きに流動し、気体と液体とが並流接触する(以下、「気液並流接触条件2」という。)。
【0066】
気体導入位置及び気体排出位置の位置関係は、特に限定されるものではないが、装置内(冷却場)の圧力雰囲気における揮発成分の分圧を下げて脱泡を促進させる観点から、気液並流接触条件よりも気液向流接触条件が好ましい。また、揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気を構成する装置内(冷却場)に供給された液体が装置内壁又は装置内に貯留された液体の液面に到達するまでの間に、気体が液体に接触するようにすることで、気液界面積を大きくして脱泡を効率的に行う観点からは、上記気液向流接触条件1及び3が最も好ましい。
【0067】
なお、本実施形態に係る液体の冷却方法に使用可能な冷却装置としては、図1に示す構成のものに限定されず、少なくともベッセル、並びに、各々、それに接続された液体供給部、気体導入部、及び気体排出部を備えた構成であればよい。
【0068】
(アニオン界面活性剤水溶液の製造方法)
本実施形態に係るアニオン界面活性剤の製造方法は、アニオン界面活性剤の酸前駆体とアルカリとを中和反応させることにより得られたアニオン界面活性剤水溶液を、揮発成分を水、及び界面活性剤をアニオン界面活性剤として、本実施形態に係る液体の冷却方法により冷却するものである。
【0069】
以下、本実施形態に係るアニオン界面活性剤の製造方法について、アニオン界面活性剤水溶液を循環させて連続式でアニオン界面活性剤を製造する方法を説明する。なお、本実施形態に係るアニオン界面活性剤の製造方法は、これに限定されるものではなく、回分式や半回分式の方法であってもよい。
【0070】
図2は本実施形態に係るアニオン界面活性剤の製造に使用可能な中和装置200の一例を示す。
【0071】
この中和装置200は、循環路210とそれに介設された循環ポンプ220とを備えている。この循環路210にはアニオン界面活性剤水溶液が満たされ、循環ポンプ220は、そのアニオン界面活性剤水溶液を送液して循環路210を循環させる。
【0072】
循環路210における循環ポンプ220の下流側には原料混合器230が介設されている。この原料混合器230には、原料であるアニオン界面活性剤の酸前駆体を供給する酸供給管231及びアルカリを供給するアルカリ供給管232が接続されている。原料混合器230は、連続式のものであれば特に限定されるものではなく、駆動式のものでもよく、また、スタティック式のものでもよい。これらのうち、圧力損失が小さく、混合を充分に行うためには、駆動式のものの方が好ましい。この原料混合器230は、酸供給管231からのアニオン界面活性剤の酸前駆体及びアルカリ供給管232からのアルカリを、循環路210を循環するアニオン界面活性剤水溶液と共に混合して中和反応させ、それを再び循環路210に連続供給する。従って、これらの原料混合器230、酸供給管231、及びアルカリ供給管232が材料供給部を構成する。
【0073】
循環路210における原料混合器230の下流側で且つ循環ポンプ220の上流側には除熱冷却器240が介設されている。除熱冷却器240から循環ポンプ220までのエレベーションはNPSHavが循環ポンプ220のNPSHre以上になるように設計される。除熱冷却器240は、循環路210が槽上部及び槽下部にそれぞれ接続された冷却槽241を有し、冷却槽241内の上方部には噴霧ノズル242が設けられており、その噴霧ノズル242は槽上部に接続された循環路210から延びた管の先端に取り付けられている。また、冷却槽241の槽上部(天板)には図示しない真空ポンプから延びる気体排出管243が接続されていると共に、槽下部には図示しない除熱エア源から延びる気体導入管244が接続されている。この除熱冷却器240は、気体排出管243から排気して水の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気の冷却場とした冷却槽241内に、噴霧ノズル242からアニオン界面活性剤水溶液を噴霧し、アニオン界面活性剤水溶液に含まれる水の少なくとも一部を気化させることにより、アニオン界面活性剤水溶液を冷却する。従って、この除熱冷却器240が冷却部を構成する。また、気体導入管244から除湿エアを導入してアニオン界面活性剤水溶液の脱泡を行う。
【0074】
循環路210における除熱冷却器240及び循環ポンプ220の下流側で且つ材料混合器の上流側には製品回収管250が接続されている。製品回収管250は、循環路210を循環するアニオン界面活性剤水溶液から一部分を製品として連続回収する。従って、この製品回収管250が回収部を構成する。
【0075】
この中和装置200を用いた本実施形態に係るアニオン界面活性剤の製造方法では、循環路210には循環ポンプ220の送液によってアニオン界面活性剤水溶液が循環する。
【0076】
ここで、循環路210を循環させるアニオン界面活性剤水溶液の流量は例えば0.01〜100ton/hrである。循環路210でのアニオン界面活性剤水溶液の温度は、特に限定されるものではないが、粘度を下げて流動性を高める観点から、0℃以上であることが好ましく、20℃以上であることが好ましい。一方、分解を抑制する観点からは150℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。
【0077】
原料混合器230では、酸供給管231からアニオン界面活性剤の酸前駆体及びアルカリ供給管232からアルカリがそれぞれ連続供給され、それらは原料混合器230において循環路210を循環するアニオン界面活性剤水溶液と共に混合されて再び循環路210に連続供給される。
【0078】
ここで、アニオン界面活性剤の酸前駆体としては、例えば、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルなどの硫酸エステル;アルキルベンゼンスルホン酸などのスルホン酸;カルボン酸;リン酸エステル等が挙げられる。酸前駆体は、単一種だけで構成してもよく、また、複数種で構成してもよい。複数種で構成する場合には、複数種の酸前駆体を予め混合して原料混合器230に供給してもよく、また、複数種の酸前駆体をそれぞれ原料混合器230に供給してそこで混合してもよい。
【0079】
アルカリとしては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属炭酸塩及びアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物;アンモニア;モノ、ジ、トリアルカノールアミン;1級、2級、3級アルキルアミン等が挙げられる。アルカリは、単一種だけで構成してもよく、また、複数種で構成してもよい。複数種で構成する場合には、複数種のアルカリを予め混合して原料混合器230に供給してもよく、また、複数種のアルカリをそれぞれ原料混合器230に供給してそこで混合してもよい。アルカリは水溶液として供給してもよく、その場合の濃度は、アニオン界面活性剤が流動性を示せば特に限定されるものではないが、例えば0.1〜90質量%である。
【0080】
酸前駆体とアルカリとの混合比は、酸の中和を完結させる観点から、酸前駆体に対してアルカリが1モル等量以上となるようにすることが好ましい。
【0081】
原料混合器230には、酸前駆体及びアルカリ以外の成分が供給され、それが循環路210を循環するアニオン界面活性剤水溶液に供給されてもよい。かかる成分としては、例えば、濃度調整用の水、pH緩衝剤、粘度調整剤等が挙げられる。pH緩衝剤の具体例としては、例えば、炭酸ナトリウム、リン酸、クエン酸等が挙げられる。粘度調整剤の具体例としては、エタノール、PEG、PPGなどの有機溶剤や炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩等が挙げられる。
【0082】
除熱冷却器240では、冷却槽241内が気体排出管243から排気されて水の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気とされ、そこに噴霧ノズル242からアニオン界面活性剤水溶液が噴霧されると、アニオン界面活性剤水溶液に含まれる水の少なくとも一部が気化することにより、アニオン界面活性剤水溶液が冷却される。また、気体導入管244から除湿エアが導入され、それが噴霧されたアニオン界面活性剤水溶液に接触することにより、アニオン界面活性剤水溶液が脱泡される。
【0083】
ここで、冷却条件は、上記した本実施形態に係る液体の冷却方法の条件が適用され、圧力雰囲気に揮発成分以外の気体を導入し、液体と気体とを接触させる。冷却槽241への供給前の液体の温度は例えば0〜220℃及び常圧下での密度は例えば0.1〜2.0kg/Lである。冷却後の液体の温度は例えば−20〜200℃及び真空下での密度は例えば0.3〜2.0kg/Lである。
【0084】
製品回収管250では、循環路210を循環するアニオン界面活性剤水溶液が分岐して一部分が製品として連続回収される。
【0085】
ここで、循環倍率は、特に限定されるものではないが、循環ポンプ220の負荷を小さくし、装置内滞留量を減らして品種切替時のロスを削減する観点から、30倍以下とすることが好ましく、25倍以下とすることがより好ましい。一方、中和後の中和熱による温度上昇を抑制し、分解を抑制する観点からは、1倍以上とすることが好ましく、2倍以上とすることがより好ましい。なお、循環倍率は、製品回収管250の接続部において、アニオン界面活性剤水溶液のうち循環路210を循環する流量を製品回収管250から回収される流量で除した値として定義される。回収されるアニオン界面活性剤水溶液におけるアニオン界面活性剤の濃度は例えば0.1〜90質量%及びアニオン界面活性剤水溶液の常圧下での密度は例えば0.3〜2.0kg/Lである。
【0086】
以上に説明した本実施形態に係るアニオン界面活性剤の製造方法によれば、アニオン界面活性剤水溶液の冷却を真空除熱で行うので、熱交換器を用いて冷却する場合と比較して、装置コストを低く抑えることができると共に、装置滞留量が少なくなるため品種切換時のロスを低減することができる。また、アニオン界面活性剤水溶液の冷却の際に脱泡も行われるので、別途脱泡工程を設ける必要がない。
【実施例】
【0087】
(液体の冷却)
以下の実施例1〜12及び比較例1〜3を実施した。それぞれの内容は表1及び2にも示す。
【0088】
<実施例1>
図1に示す構成の冷却装置(上側ベッセルの容量120L、下側ベッセルの容量420L、及び連結配管の内径160mm)において、液体供給管の先端に噴霧ノズルA[スプレーイングシステムスジャパン社製、商品名:スパイラルジェットB3/8HHSJ−SS6030]を取り付けた。そして、液体供給管から噴霧ノズルAを介して温度77.8℃のアルキル硫酸ナトリウム水溶液[花王社製、商品名:エマール 2FDH、ペースト状、濃度65質量%、密度1.08kg/L](以下、「AS」という。)を上側ベッセル内に1ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度32.6℃の除湿エアを連結配管内にASの流量に対して0.3質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は11.4分とした。
【0089】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.88kg/L、及び温度は62.2℃であった。また、真空ブレイク後、常圧下における密度は1.08kg/Lであった。
【0090】
なお、真空下における液体の密度は、排出ポンプを介して液体排出管から排出される液体の質量を測定し、また、真空ブレイク後の下側ベッセルの壁面に付着した液体の付着レベルから体積を算出し、そして、質量を体積で除することにより求めた(以下、同様)。
【0091】
<実施例2>
図1に示す構成の冷却装置(上側ベッセルの容量120L、下側ベッセルの容量420L、及び連結配管の内径160mm)において、液体供給管の先端に噴霧ノズルB[スプレーイングシステムスジャパン社製、商品名:スパイラルジェットB3/4HHSJ−SS60210]を取り付けた。そして、液体供給管から噴霧ノズルBを介して温度77.2℃のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム水溶液[花王社製、商品名:エマール 270J、ペースト状、濃度70質量%](以下、「AES」という。)が泡噛みした密度0.71kg/Lの流体(以下、「泡噛みAES」という。)を上側ベッセル内に1ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度21.6℃の除湿エアを連結配管内に泡噛みAESの流量に対して1.0質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は5.4分とした。
【0092】
その結果、下側ベッセルに貯留したAESの真空下における密度は1.05kg/L、及び温度は60.8℃であった。
【0093】
<比較例1>
図1に示す構成の冷却装置(上側ベッセルの容量120L、下側ベッセルの容量420L、及び連結配管の内径160mm)において、液体供給管の先端に噴霧ノズルC[スプレーイングシステムスジャパン社製、商品名:スパイラルジェットB3/8HHSJ−SS12030]を取り付けた。そして、液体供給管から噴霧ノズルCを介して温度72.0℃のASを上側ベッセル内に1ton/hrの流量で供給した。気体の導入は行わなかった。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。運転時間は23.3分とした。
【0094】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.25kg/L、及び温度は60.4℃であった。
【0095】
<比較例2>
比較例1で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルCを介して温度74.0℃のASが泡噛みした密度0.61kg/Lの流体(以下、「泡噛みAS」という。)を上側ベッセル内に1ton/hrの流量で供給した。気体の導入は行わなかった。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。運転時間は5.0分とした。
【0096】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.06kg/L、及び温度は60.9℃であった。
【0097】
<実施例3>
実施例1で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルAを介して温度75.3℃のASを上側ベッセル内に3ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度20.3℃の除湿エアを連結配管内にASの流量に対して0.4質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は9.4分とした。
【0098】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.82kg/L、及び温度は58.9℃であった。また、真空ブレイク後、常圧下における密度は1.08kg/Lであった。
【0099】
<実施例4>
実施例1で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルAを介して温度75.9℃のASを上側ベッセル内に3ton/hrの流量で供給した。また、第2気体導入管から温度16.1℃の除湿エアを下側ベッセル内にASの流量に対して0.4質量%の流量で導入し、下側ベッセルの第2気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件2である。運転時間は10.9分とした。
【0100】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.53kg/L、及び温度は62.3℃であった。
【0101】
<実施例5>
実施例1で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルAを介して温度74.8℃のASを上側ベッセル内に3ton/hrの流量で供給した。また、第1気体導入管から温度16.0℃の除湿エアを上側ベッセルにASの流量に対して0.2質量%の流量で導入し、下側ベッセルの第2気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液並流接触条件1である。運転時間は8.8分とした。
【0102】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.44kg/L、及び温度は61.6℃であった。
【0103】
<実施例6>
図1に示す構成の冷却装置(上側ベッセルの容量120L、下側ベッセルの容量420L、及び連結配管の内径160mm)において、液体供給管の先端に単管ノズルを取り付けた。そして、液体供給管から単管ノズルを介して温度75.8℃のASを上側ベッセル内に3ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度23.1℃の除湿エアを連結配管内にASの流量に対して0.4質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は5.5分とした。
【0104】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.60kg/L、及び温度は64.9℃であった。
【0105】
<実施例7>
実施例2で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルBを介して温度75.4℃の泡噛みASを上側ベッセル内に3ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度25.2℃の除湿エアを連結配管内に泡噛みASの流量に対して0.3質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は7.4分とした。
【0106】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.64kg/L、及び温度は61.1℃であった。また、真空ブレイク後、常圧下における密度は1.06kg/Lであった。
【0107】
<実施例8>
ポリオキシエチレンアルキルエーテル[花王社製、商品名:エマルゲン 106]とASとを質量比54:46で混合して活性剤混合液(以下、「AS/AE」という。)を得た。混合液中の活性剤濃度は84%であった。
【0108】
実施例1で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルAを介して温度80.6℃のAS/AEを上側ベッセル内に3ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度21.8℃の除湿エアを連結配管内にAS/AEの流量に対して0.4質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は6.2分とした。
【0109】
この実施例8では、AS/AEが下側ベッセルに落下する際に、壁面への飛び散りが多く、付着レベルの判別が困難であったため、真空下における密度を算出することができなかった。しかしながら、容積式の排出ポンプにより排出した液体の流量が実施例3の場合に比較して大きかったため、実施例3の場合よりも真空下における密度が大きかったと推測される。AS/AEの温度は60.4℃であった。
【0110】
<実施例9>
実施例2で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルBを介して温度74.4℃のASを上側ベッセル内に5ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度22.4℃の除湿エアを連結配管内にASの流量に対して0.5質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は5.2分とした。
【0111】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.74kg/L、及び温度は61.9℃であった。
【0112】
<実施例10>
実施例2で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルBを介して温度78.0℃のASを上側ベッセル内に5ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度80.8℃の除湿エアを連結配管内にASの流量に対して0.5質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は4.9分とした。
【0113】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.78kg/L、及び温度は61.1℃であった。
【0114】
<実施例11>
実施例2で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルBを介して温度79.5℃のASを上側ベッセル内に5ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度31.8℃及び相対湿度43.7%の大気を連結配管内にASの流量に対して0.5質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は4.4分とした。
【0115】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.59kg/L、及び温度は62.4℃であった。
【0116】
<実施例12>
実施例2で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルBを介して温度56.2℃のアルキル硫酸ナトリウム水溶液[花王社製、商品名:エマール 2F−HP、低粘度液体、濃度30質量%、密度1.03kg/L](以下、「低粘度AS」という。)を上側ベッセル内に5ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度14.1℃の除湿エアを連結配管内に低粘度ASの流量に対して0.4質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを10.2kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。運転時間は3.3分とした。
【0117】
その結果、下側ベッセルに貯留したASの真空下における密度は0.75kg/L、及び温度は40.0℃であった。
【0118】
<比較例3>
実施例2で用いたのと同じ冷却装置を構成した。そして、液体供給管から噴霧ノズルBを介して温度72.7℃のASを上側ベッセル内に5ton/hrの流量で供給した。また、第3気体導入管から温度150℃のスチームを連結配管内にASの流量に対して0.2質量%の流量で導入し、上側ベッセルの第1気体排出管から排出した。このとき、上側ベッセル、連結配管、及び下側ベッセルを20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。この気液接触は気液向流接触条件3である。
【0119】
この比較例3では、脱泡が進まず、冷却装置内に泡噛みしたASが充満し、運転開始から1分後には第2気体排出管からオーバーフローして運転が不可能となった。また、装置内のASの温度は71.4℃であった。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
(アニオン界面活性剤の製造)
図2に示す構成の中和装置を用いてアルキル硫酸ナトリウム(アニオン界面活性剤)の製造を行った。冷却槽内には噴霧ノズル[スプレーイングシステムスジャパン社製、商品名:スパイラルジェットB1/2HHSJ−316L60120]を取り付けた。
【0123】
原料供給部に、アルキル硫酸エステル(アニオン界面活性剤の酸前駆体)、27.0質量%水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ)、及び20.0質量%炭酸ナトリウム水溶液(緩衝剤)を、製品回収管から回収するアルキル硫酸ナトリウム水溶液1質量部に対して、それぞれ0.63質量部、0.34質量部、及び0.10質量部の割合となるように供給した。冷却槽内は、気体排出管からの排気により冷却槽内を20.0kPaの圧力雰囲気に保持した。また、冷却槽内には、気体導入管から温度20.0℃の除湿エアを、アルキル硫酸ナトリウム水溶液の流量に対して0.6質量%の流量で導入した。なお、冷却槽内の噴霧ノズルの噴出口と気体導入管の開口とは1690mm離間しており、アルキル硫酸ナトリウム水溶液と除湿エアとが気液向流接触する構成である。循環倍率は2.8倍とした。
【0124】
このアルキル硫酸ナトリウムの製造において、冷却槽の上流側でのアルキル硫酸ナトリウム水溶液の温度は76.5℃及び密度は1.04kg/L(常圧下)であった。冷却槽の下流側でのアルキル硫酸ナトリウム水溶液の温度は61.8℃及び密度は0.77kg/L(真空下)であった。製品回収管から回収されたアルキル硫酸ナトリウム水溶液のアルキル硫酸ナトリウム濃度は65.0質量%及び密度は1.04kg/L(常圧下)であった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は液体の冷却方法及びそれを用いたアニオン界面活性剤の製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0126】
100 冷却装置
111 上側ベッセル
112 下側ベッセル
113 連結配管
121 液体供給管
122 第1気体導入管
123 第1気体排出管
124 第2気体排出管
125 第2気体導入管
126 液体排出管
127 第3気体導入管
131 噴霧ノズル
141 排出ポンプ
200 中和装置
210 循環路
220 循環ポンプ
230 原料混合器
231 酸供給管
232 アルカリ供給管
240 除熱冷却器
241 冷却槽
242 噴霧ノズル
243 気体排出管
244 気体導入管
250 製品回収管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発成分及び界面活性剤を含有する液体を、該揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気に供給し、該揮発成分の少なくとも一部を気化させて該液体を冷却する際、該圧力雰囲気に該揮発成分以外の気体を導入して、該液体と該気体とを接触させる液体の冷却方法。
【請求項2】
上記気体の導入を、該導入した気体が、揮発成分の飽和蒸気圧以下の圧力雰囲気を構成する装置内に供給された液体に、それが装置内壁又は装置内に貯留された液体の液面に到達するまでの間に接触するように行う請求項1に記載の液体の冷却方法。
【請求項3】
液体と気体とを向流接触させる請求項1又は2に記載の液体の冷却方法。
【請求項4】
上記液体の供給を微粒化手段を用いて行う請求項1乃至3のいずれかに記載の液体の冷却方法。
【請求項5】
上記微粒化手段が噴霧ノズルである請求項4に記載の液体の冷却方法。
【請求項6】
液体に含有された揮発成分が水である請求項1乃至5のいずれかに記載の液体の冷却方法。
【請求項7】
上記圧力雰囲気を揮発成分の飽和蒸気圧未満とする請求項1乃至6のいずれかに記載の液体の冷却方法。
【請求項8】
アニオン界面活性剤の酸前駆体とアルカリとを中和反応させることにより得られたアニオン界面活性剤水溶液を、揮発成分を水、及び界面活性剤をアニオン界面活性剤として、請求項1乃至7のいずれかの液体の冷却方法により冷却するアニオン界面活性剤の製造方法。
【請求項9】
アニオン界面活性剤水溶液が循環する循環路と、
上記循環路に設けられ、該循環路を循環するアニオン界面活性剤水溶液にアニオン界面活性剤の酸前駆体及びアルカリを連続供給する材料供給部と、
上記循環路の上記材料供給部の下流側に介設され、該循環路を循環するアニオン界面活性剤水溶液を請求項1乃至7のいずれかの液体の冷却方法により冷却する冷却部と、
上記循環路の上記冷却部の下流側に設けられ、該循環路を循環するアニオン界面活性剤水溶液から一部分を連続回収する回収部と、
を備えた中和装置を用いる請求項8に記載のアニオン界面活性剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−148763(P2011−148763A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256710(P2010−256710)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】