Notice: Undefined variable: fterm_desc_sub in /mnt/www/biblio_conv.php on line 353
液体の表面を浮遊する試料の走査電子顕微鏡観察方法
説明

液体の表面を浮遊する試料の走査電子顕微鏡観察方法

【課題】イオン液体の表面を浮遊する微細試料を、イオン液体に覆われることなく走査電子顕微鏡で観察する。
【解決手段】浮遊性あるいは疎水性の試料を親水性のイオン液体水溶液の表面に浮かべることで、微細試料がイオン液体に覆われることを防止する。親水性の試料の場合には、疎水性のイオン液体を使用する。粘性が低く、流動性が大きいイオン液体水溶液を用いることで、微細試料がイオン液体の表面で自由に凝集,分散,整列できるようにし、さらにはイオン液体中に沈降した微細試料の再浮上を可能にする。微細試料の形態が安定した後、走査電子顕微鏡下での観察を容易にするために、電子顕微鏡観察前にイオン液体水溶液を乾燥させることで、イオン液体水溶液の流動性を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施例は、イオン液体に浮かせた微細試料の凝集や分散,個々の試料の配向性などを電子顕微鏡で観察する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体の表面を浮遊する微細試料は親水性,疎水性の違いにより凝集,分散,整列する。さらに個々の粒子が磁場や電界,圧力,温度等の物理条件により特定の向きに配向する現象も見られる。逆に、液面上の微細試料が固定されていないことを利用して、磁場や電界,圧力,温度等の物理条件を制御させることで、微細試料の向きを自在に制御する手法も実用化されている。これらの浮遊形態を電子顕微鏡下で観察することは、触媒や、医薬品,化粧品等の機能性物質,微細結晶や有機粉末材料の物性,微細生物の生態を解析するうえで重要である。しかしながら、従来の手法では液体の表面を浮遊する微細試料を高倍率で観察することは困難であった。これは、電子顕微鏡による観察は真空中で行われるため、水溶液や有機溶媒が真空環境下で揮発してしまうためである。
【0003】
この課題を解決する手法として、クールステージや、クライオステージを用いて、氷点下で液体を凍結させた後に電子顕微鏡で観察を行う手法が考案された。しかしながら、この手法は液体を凍結させるときに微細試料の形状や、凝集,分散,整列,配向性等の形態を変形させてしまう問題や、試料を凍結させたとしても真空中では水分が揮発してしまう問題があった。一方、真空環境中でも蒸発しない液体材料として、油分を使う手法も考えられる。しかし、この手法についても電子ビームの照射に伴い油脂表面に浮いた試料が激しく流動してしまう問題や、チャージアップが生じるといった問題があった。さらに、液体を大気圧下に置き、真空環境下の電子顕微鏡鏡筒内との境界を薄膜で仕切るなどの方法も考案されたが、この方法を用いても液体の表面を浮遊する微細試料の観察は不可能であった。
【0004】
一方、カーボンペーストなどに微細試料を振りかけて、液体上を微細試料が浮遊する方法を擬似的に再現する方法もある。この手法ではチャージアップの問題が解決されており、流動性もないために、電子顕微鏡下の観察が容易になるといった利点がある。しかしながら、カーボンペーストは速やかに固化してしまうために、凝集,分散,整列、あるいは配向が完了する前に速やかに微細試料が固定されてしまうため、液面上を浮遊する微細試料の形態を再現しているとはいい難い。また、一回、カーボンペースト上に試料を振りかけた後は、微細試料が速やかに固定されてしまうため、個々の粒子の向きを制御することは不可能である。
【0005】
従って、電子顕微鏡下で液体中の微細試料を観察および制御する手法として、イオン液体を用いる手法が開発された。例えば、特許文献1(WO2007/083756)では、試料表面にイオン液体を塗布することで、チャージアップの問題を解決し、さらに試料の実際の形状を走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡で観察することが可能である。
【0006】
特許文献2(特開2009−266741号公報)では、マイクログリッドやメッシュ等にイオン液体を保持し、そこに試料を投入することによってイオン液体中に試料を浮かせて観察することが可能である。
【0007】
特許文献3(特開2010−25656号公報)は試料にイオン液体を塗布することで、試料表面が大気に曝されないようにすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2007/083756
【特許文献2】特開2009−266741号公報
【特許文献3】特開2010−25656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術には、次のような問題点がある。特許文献1に記載の発明の場合、試料表面にイオン液体を塗布してしまうため、試料本来の細かな構造や、微細試料がイオン液体に埋もれてしまう問題があった。また、特許文献2に記載の発明の場合、透過電子顕微鏡を用いて、イオン液体中の試料を透過させて観察することは可能であるが、試料がイオン液体の表面に露出していない限り、走査電子顕微鏡では観察できない問題や、試料保持部材を動かさない限り、試料の向きを制御できない問題があった。特許文献3は試料表面にイオン液体を塗布してしまうため、試料本来の細かな構造や、微細試料がイオン液体に埋もれてしまう問題があった。
【0010】
したがって、本実施例は、イオン液体の表面を浮遊する微細試料を、イオン液体に覆われることなく走査電子顕微鏡で観察し、液面上の微細試料の凝集,分散,整列の形態を自然な状態で保持し、さらには個々の微細試料の配向性や向きを制御する手法の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
浮遊性あるいは疎水性の試料を親水性のイオン液体水溶液の表面に浮かべることで、微細試料がイオン液体に覆われることを防止する。親水性の試料の場合には、疎水性のイオン液体を使用する。粘性が低く、流動性が大きいイオン液体水溶液を用いることで、微細試料がイオン液体の表面で自由に凝集,分散,整列できるようにし、さらにはイオン液体中に沈降した微細試料の再浮上を可能にする。微細試料の形態が安定した後、走査電子顕微鏡下での観察を容易にするために、電子顕微鏡観察前にイオン液体水溶液を乾燥させることで、イオン液体水溶液の流動性を低下させる。
【0012】
これらの前処理を実施した後に走査電子顕微鏡下で観察することで、従来の課題を解決する。さらに、疎水性のイオン液体と、親水性のイオン液体を使い分けることで、個々の微細試料の向き及び配向性を制御する。
【発明の効果】
【0013】
本実施例の、浮遊性あるいは疎水性の試料を親水性のイオン液体水溶液の表面に浮かべて観察する手法は、液体表面での微細試料の凝集,分散,整列状態を、自然な状態で電子顕微鏡観察できる効果がある。疎水性の試料の場合には親水性のイオン液体,親水性の試料の場合には疎水性のイオン液体を使い分けることで、試料表面にイオン液体が付着することを防止し、微細試料や試料表面の微細な構造の観察が可能になる効果がある。さらには、不要物をイオン液体中に沈殿させることで、浮遊性あるいは疎水性試料の電子顕微鏡観察が容易になる効果がある。
【0014】
一部だけが親水性化されている試料の場合には、親水化された面だけがイオン液体に接触するため、疎水性部を電子顕微鏡の検出器の方向に向けることが可能である。また、疎水性のイオン液体を用いた場合には、試料の向きが逆転するため、親水性部を電子顕微鏡の検出器の方向に向けることが可能である。このように、本実施例では、親水性あるいは疎水性のイオン液体を使い分けることで、試料の方向性の制御を可能にする効果がある。
【0015】
特に、培養細胞,浮遊性のプランクトン,花粉等の微小生物,触媒,医薬品,化粧品等の機能性物質,疎水性あるいは親水性の樹脂や、両親媒性物質の走査電子顕微鏡下の観察に効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の電子顕微鏡の試料室側面図である。
【図2】実施例1の電子顕微鏡の試料室側面図における、試料を90°傾斜させた説明図である。
【図3】実施例1におけるヒカリモの概略図である。
【図4】実施例1の手法より、ヒカリモの電子顕微鏡画像を得る手順を示した説明図である。
【図5】実施例1において、ヒカリモを含む培養液をシリコンウェハー上に滴下した状態を示した説明図である。
【図6】実施例1において、ヒカリモを含む培養液にイオン液体水溶液を加え、図中、16に示す培養液とイオン液体の混合液を作成した状態を示した説明図である。
【図7】実施例1において、ヒカリモを含む培養液にイオン液体水溶液を加えた後に3時間以上放置した状態を示した説明図である。
【図8】実施例1の方法を用いて、実際にヒカリモを電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡画像であり、本実施例の方法でヒカリモの観察が可能なことを示した説明図である。
【図9】イオン液体を使用せずに、培養液中のヒカリモを電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡画像であり、培養液由来の塩類の結晶が見えており、ヒカリモを見ることができないことを示した説明図である。
【図10】実施例2における、イオン液体水溶液をシリコンウェハー上に滴下した状態を示した説明図である。
【図11】実施例2における、イオン液体の水溶液に花粉を振りかける手順を示した説明図である。
【図12】実施例2の方法を用いて、実際に花粉を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡画像であり、本実施例の方法で花粉の観察が可能なことを示した説明図である。
【図13】実施例3の一部だけが親水性化されている疎水性試料の概略を示した説明図である。
【図14】実施例3において、親水性のイオン液体の水溶液をシリコンウェハー上に滴下した後に、一部だけが親水性化されている疎水性試料を振りかける手順を示した説明図である。
【図15】実施例3において、一部だけが親水性化されている疎水性試料をイオン液体水溶液上に降りかけた後、一定時間放置した状態であり、疎水性部が上方を向き、方向が定まった状態を示した説明図である。
【図16】実施例3において、疎水性のイオン液体に、一部だけが親水性化されている疎水性試料を振りかけた後に、一定時間放置した状態であり、親水性部が上方を向き、方向が定まった状態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本願発明の各実施例について説明する。
【実施例1】
【0018】
図1には、本実施例の電子顕微鏡の試料室側面図を示す。本実施例の電子顕微鏡は走査電子顕微鏡であり、試料室内部は電子顕微鏡対物レンズ1、電子顕微鏡対物レンズ1から試料2に照射される電子ビーム3、試料2からの反射電子信号4を検出する反射電子検出器5、試料2からの二次電子信号6を検出する二次電子検出器7から構成される。試料2はシリコンウェハー8の上に滴下されたイオン液体9の表面に浮いている。本実施例では電子顕微鏡用試料台10上に固定したシリコンウェハー8の上にイオン液体9を滴下したが、電子顕微鏡用試料台10の上に直接イオン液体9を滴下しても良い。試料中に含まれていた不純物11はイオン液体9の液滴の底に沈んでいるが、イオン液体9は電子顕微鏡下では不透明なために、不純物11は電子顕微鏡では観察されない。本実施例では、試料2をイオン液体9の表面に固定することが可能なため、図2に示すように電子顕微鏡用試料台10を直角に傾斜させて、試料2を側面から観察することも可能である。
【0019】
本実施例では、液体上を浮遊する性質を持つ植物プランクトンであるヒカリモを試料として、イオン液体上の微小生物を観察する手法を説明する。ここでの実施例の形態はヒカリモに限定されず、節足動物,プランクトン,培養細胞を代表とする微小生物の観察、その他の密度がイオン液体あるいはイオン液体溶液よりも軽い浮遊性試料,医薬品,化粧品等の機能性物質,微細結晶や有機粉末材料に適応可能である。
【0020】
ヒカリモの概略を図3に示す。ヒカリモは、図3中、12の細胞体と13の柄部から成り、柄部を液面に接するようにして、14の培養液中に浮いている。図4は、本発明の実施形態により、ヒカリモの電子顕微鏡画像を得る手順を示した説明図である。最初にヒカリモを含む培養液をシリコンウェハー上に滴下するが、図5はこの状態を示した説明図である。シリコンウェハーの代わりに電子顕微鏡用の金属性試料台を用いても良いが、試料台の表面が平らであることが望ましい。図5中、14のヒカリモを含む培養液はヒカリモが生息する池の水を利用したものであり、塩類を含む水溶液である。図5中、15に示すヒカリモを含む培養液を滴下するための器具は計量可能なマイクロピペットが望ましいが、培養液の滴下量を規定する必要がなければ、計量機能のないピペットでも構わない。シリコンウェハー、あるいは試料台によって、最適な培養液の滴下量は変わるが、1cm2程度の大きさであれば20μl程度が適当である。
【0021】
次に図6の説明図に示すように、ヒカリモを含む培養液にイオン液体水溶液を加え、図中、16に示す培養液とイオン液体の混合液を作成する。イオン液体水溶液はイオン液体を蒸留水で希釈したものであり、濃度は20%以下が望ましい。イオン液体の濃度が高い場合には乾燥不十分となり、イオン液体が流動化し、電子顕微鏡下での観察に支障をきたす場合がある。本実施例では疎水性の性質を持つヒカリモを例としたために親水性のイオン液体(C8152BF4)を使用したが、親水性の特徴を持つ試料の場合は疎水性のイオン液体を使うことが望ましい。図6中、17に示すイオン液体水溶液を滴下するための器具は計量可能なマイクロピペットが望ましいが、イオン液体の滴下量を規定する必要がなければ、計量機能のないピペットでも構わない。培養液の量によって、最適なイオン液体水溶液の滴下量は変わるが、滴下するイオン液体水溶液の量は培養液よりも少なくすることが望ましい。本実施例では、ヒカリモを含む培養液にイオン液体水溶液を滴下したが、逆に、イオン液体に対し、ヒカリモを含む培養液を滴下しても良い。
【0022】
図7は培養液にイオン液体水溶液を加えた後に3時間以上放置した状態である。3時間以上放置することで、図7中、11に示すヒカリモの細胞体が、12に示す柄部を、16の培養液とイオン液体の混合液に接するようにして浮上する。ただし、ヒカリモが浮上する時間は、ヒカリモの生育状況によって変化するため、3時間の放置時間は目安である。このとき、長時間放置する間に16の培養液とイオン液体の混合液中の水分が蒸発し、体積も小さくなるため、液滴の形状が薄膜上に変化する。16の培養液とイオン液体の混合液中の水分は主に培養液由来であるが、培養液中には塩分も含まれているため、乾燥に伴う塩分濃度の上昇により培養液中の塩分が結晶化する。図7中、18に示す結晶化した塩分は、16の培養液とイオン液体の混合液中に存在するが、結晶化した塩分は光学顕微鏡及び目視で観察可能である。
【0023】
培養液とイオン液体の混合液の乾燥が十分であれば、図7の状態で電子顕微鏡による観察が可能である。乾燥不十分と思われる場合には、真空環境下で乾燥を行えばよい。観察窓が付属した真空脱泡装置を用いれば突沸の有無も確認できるため、電子顕微鏡の試料室に入れる前の前処置および安全対策として有効である。ただし、培養液にイオン液体水溶液を加えた後の乾燥時間が3時間程度の場合には、培養液とイオン液体の混合液の流動性が残っているために、電子顕微鏡下でヒカリモが激しく流動することがある。このため、乾燥時間は、長ければ長いほど良い。ただし、乾燥装置を用いて乾燥時間を短縮することも可能である。
【0024】
図8は実際に、本実施例の方法を用いてヒカリモを電子顕微鏡で観察した例である。図8中、11はヒカリモの細胞体、12はヒカリモの柄部、16は培養液とイオン液体の混合液である。この観察例では試料を70°傾斜させているが、培養液とイオン液体の混合液の流動が最小限に抑えられているため、ヒカリモは直立した状態を保っている。
【0025】
参考として図9に本実施例の方法を用いないで、ヒカリモを観察した例を示す。イオン液体を用いない場合には、ヒカリモの培養液由来の塩類が結晶化し、ヒカリモの観察の障害となる。また、培養液も完全に乾燥してしまうため、液体上を浮遊するヒカリモの観察は不能である。図9中、18が塩類の結晶である。
【0026】
図8の本実施例の方法を用いた場合には、塩類の結晶は培養液とイオン液体の混合液中に沈殿しているか、あるいは混合液中に溶解している状態と思われる。電子顕微鏡下では培養液とイオン液体の混合液は不透明であるために、混合液の内部に沈殿した塩類は観察されない。このため、ヒカリモの観察が容易になる。
【実施例2】
【0027】
以下に本実施例の方法により、砂粒を含む花粉から、花粉だけをイオン液体上に分離し、花粉の電子顕微鏡観察を容易にする方法を説明する。この手法は、花粉だけに留まらず、胞子,ダニ,昆虫を代表とする微小生物の観察、その他の密度が水よりも軽い浮遊性試料あるいは疎水性の試料に適応可能である。
【0028】
最初にイオン液体の水溶液をシリコンウェハー上に滴下するが、図10はこの状態を示した説明図である。シリコンウェハーの代わりに電子顕微鏡用の金属性試料台を用いても良いが、試料台の表面が平滑であることが望ましい。図10中、17に示すイオン液体水溶液を滴下するための器具は、計量可能なマイクロピペットが望ましいが、イオン液体水溶液の滴下量を規定する必要がなければ、計量機能のないピペットでも構わない。シリコンウェハー、あるいは試料台によって、最適なイオン液体水溶液の滴下量は変わるが、1cm2程度の大きさであれば20μl程度が適当である。図10中、19のイオン液体水溶液はイオン液体を蒸留水で希釈したものであり、濃度は5%以下が望ましく、1%でも構わない。イオン液体の濃度が高い場合には乾燥不十分となり、イオン液体が流動化し、電子顕微鏡下での観察に支障をきたす場合がある。イオン液体の水溶液は、イオン液体の濃度が低いほど粘性が小さいので、低濃度のほうがシリコンウェハー上に薄く広げやすい。その後の乾燥により、イオン液体水溶液の水分を除去すると、さらに19のイオン液体水溶液の厚さは薄くなり、薄膜状になる。
【0029】
本実施例では親水性のイオン液体(C8152BF4)を使用したが、親水性の特徴を持つ試料の場合は疎水性のイオン液体を使うことが望ましい。
【0030】
次に図11に示すように、図中、19のイオン液体の水溶液に、20の花粉を振りかけ、一昼夜放置し、余分な水分を乾燥させる。このとき、イオン液体の水溶液を一昼夜放置し、十分に乾燥させてから、20の花粉を振りかけても良い。余分な水分を除去するためには、一昼夜放置することが望ましいが、イオン液体水溶液の滴下量を少なくすることや、乾燥装置を用いることで放置時間を短縮することも可能である。イオン液体水溶液の乾燥前に花粉を振りかけた場合には、乾燥後のイオン液体水溶液の液面上に花粉が半ば埋まった状態になるが、花粉の固定は良好である。一方、イオン液体水溶液の乾燥後に花粉を振りかけた場合には、花粉はイオン液体に埋没することなく、良好に観察できる。何れの場合でもイオン液体水溶液よりも比重が重い物質、例えば砂粒などの不純物はイオン液体中に沈降し、目的物である花粉から分離される。イオン液体は走査電子顕微鏡下では不透明であるために、走査電子顕微鏡の視野から砂粒などの不純物は観察されなくなる。
【0031】
イオン液体の水溶液を乾燥させる前に花粉を降りかけた場合でも、乾燥後に花粉を降りかけた場合でも、どちらもイオン液体水溶液中の水分が十分に蒸発していれば電子顕微鏡で観察することが可能である。十分に乾燥を行うために、電子顕微鏡による観察の前に、真空乾燥を実施しても良い。
【0032】
図12にイオン液体水溶液の乾燥後に花粉を振りかけた場合の電子顕微鏡画像を示す。図12中、19はイオン液体水溶液であり、20は花粉である。20の花粉が19のイオン液体水溶液中に埋没することなく、固定されている。
【実施例3】
【0033】
以下に本実施例の方法により、一部だけが親水性化されている疎水性試料について、試料の方向性を定めて固定する方法を説明する。図13に一部だけが親水性化されている疎水性試料の概略を示す。図13に示すように、一部だけが親水性化されている疎水性試料とは、図13中、21の疎水性部と、22の親水性部から成る試料を指す。
【0034】
最初に、図14中、23に示す親水性のイオン液体の水溶液をシリコンウェハー上に滴下する。シリコンウェハーの代わりに電子顕微鏡用の金属性試料台を用いても良いが、試料台の表面が平らであることが望ましい。シリコンウェハー、あるいは試料台によって、最適なイオン液体水溶液の滴下量は変わるが、1cm2程度の大きさであれば20μl程度が適当である。イオン液体水溶液はイオン液体を蒸留水で希釈したものであり、濃度は5%以下が望ましく、1%でも構わない。次に図14に示すように、図中、23に示す親水性のイオン液体の水溶液に、一部だけが親水性化されている疎水性試料を振りかけ一昼夜放置する。一部だけが親水性化されている疎水性試料が溶液中に含まれている場合には、ピペットなどを用いて、イオン液体水溶液上に滴下する。逆に、試料を含む溶液に対し、イオン液体水溶液を滴下しても良い。
【0035】
一部だけが親水性化されている疎水性試料をイオン液体水溶液上に降りかけた後、一定時間放置することで図15に示すように、一部だけが親水性化されている疎水性試料の親水性部がイオン液体水溶液に接触し、21の疎水性部が上方を向き、方向が定まる。さらに、余分な水分が蒸発することによって、試料がイオン液体水溶液の表面にしっかりと固定される。図15の状態まで処理を行うことで、電子顕微鏡で観察することが可能である。
【0036】
イオン液体の水溶液中の余分な水分を除去するため一昼夜放置することが望ましいが、イオン液体水溶液の滴下量を少なくすることや、乾燥装置を用いることで放置時間を短縮することも可能である。この方法は、一部だけが親水性化されている疎水性試料の疎水性部のみを電子顕微鏡で観察するときに有効である。
【0037】
反対に、一部だけが親水性化されている疎水性試料の親水性部を観察したい場合には、図16に示すように、図中、24の疎水性のイオン液体を用いることで、22の親水性部を上方に向けることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 電子顕微鏡対物レンズ
2 試料
3 電子ビーム
4 反射電子信号
5 反射電子検出器
6 二次電子信号
7 二次電子検出器
8 シリコンウェハー
9 イオン液体
10 電子顕微鏡用試料台
11 不純物
12 ヒカリモの細胞体
13 ヒカリモの柄部
14 ヒカリモを含む培養液
15 ヒカリモを含む培養液を滴下するための器具
16 ヒカリモを含む培養液とイオン液体の混合液
17 イオン液体水溶液を滴下するための器具
18 塩類の結晶
19 イオン液体水溶液
20 花粉
21 一部だけが親水性化されている疎水性試料の疎水性部
22 一部だけが親水性化されている疎水性試料の親水性部
23 親水性のイオン液体の水溶液
24 疎水性のイオン液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンおよびアニオンから構成され、真空中で全く揮発しないか、若しくは殆ど揮発しないイオン液体を必須成分とし、走査電子顕微鏡(SEM)用試料をイオン液体に浮かべて、液体表面での標本の挙動を観察可能にする電子顕微鏡および標本観察方法。
【請求項2】
走査電子顕微鏡で観察する標本の作製方法と標本作成装置であって、
粘性が低いイオン液体水溶液を用いて、標本をイオン液体の内部あるいは表面で自由に運動させた後に、イオン液体を乾燥させ、水分を除去することでイオン液体溶液の粘性を高くし、標本を固定する工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。
【請求項3】
イオン液体に浮かべるための走査電子顕微鏡用標本の作製方法と標本作成装置であって、
粘性が低いイオン液体溶液を電子顕微鏡用試料台の上に塗布した後に、粉末標本をイオン液体上に振りかけることで標本を固定する工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。
【請求項4】
イオン液体に浮かべるための走査電子顕微鏡用標本の作製方法と標本作成装置であって、
イオン液体あるいはイオン液体溶液と粉末標本を含む懸濁液を混ぜ合わせることで試料を固定する工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。
【請求項5】
イオン液体に浮かべるための走査電子顕微鏡用標本の作製方法と標本作成装置であって、
疎水性の標本を親水性のイオン液体に浮かべることで、標本の表面からイオン液体を除去する工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。
【請求項6】
イオン液体に浮かべるための走査電子顕微鏡用標本の作製方法と標本作成装置であって、
親水性の標本を疎水性のイオン液体に浮かべることで、標本の表面からイオン液体を除去する工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。
【請求項7】
親水性の部位と疎水性の部位を含む走査電子顕微鏡用標本の観察方法であって、
親水性の部位と疎水性の部位を含む標本を、疎水性のイオン液体に浮かべることで、親水性の部位を走査電子顕微鏡の検出器の方向に向ける工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。
【請求項8】
親水性の部位と疎水性の部位を含む走査電子顕微鏡用標本の観察方法であって、
親水性の部位と疎水性の部位を含む標本を、親水性のイオン液体に浮かべることで、疎水性の部位を走査電子顕微鏡の検出器の方向に向ける工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。
【請求項9】
イオン液体に浮かべるための走査電子顕微鏡で観察する標本の作製方法と標本作成装置であって、
イオン液体あるいはイオン液体溶液を用いて、イオン液体あるいはイオン液体溶液よりも比重が軽い標本を、イオン液体あるいはイオン液体溶液よりも比重が重い不純物から分離する工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。
【請求項10】
イオン液体に浮かべるための走査電子顕微鏡用標本の作製方法と標本作成装置であって、
陰イオン(アニオン)と塩基由来の陽イオン(カチオン)とがイオン結合した化合物である塩を含む標本から、イオン液体またはイオン液体溶液中に塩を溶け込ませるか、イオン液体またはイオン液体溶液中に塩を結晶化させることで、標本から塩を分離する工程を含む標本の作製方法と標本作製装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−83146(P2012−83146A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228064(P2010−228064)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】