説明

液体の軸封装置とその軸封装置を用いた回転電機

【課題】異なる液体が内蔵される回転機において液体が混合する量を極めて少なくすることができる液体の軸封装置とその軸封装置を用いた回転電機を提供する。
【解決手段】回転軸1と、この回転軸1に接触して取り囲むように配置されたブラシシール4と、このブラシシール4を保持し、2つの液体雰囲気空間を遮断するブラシホルダ3とを備えた液体の軸封装置において、ブラシシール4を軸方向に複数段配置し、前記ブラシシール4間に形成されたキャビティー10内の圧力を、前記液体雰囲気空間の圧力よりも高くしているので、液体がキャビティー10内に漏洩することがなく液体雰囲気空間に戻され、また、ブラシシール4を越えて他液体雰囲気側空間に漏れることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油やシール油などの液体を用いた回転電機の液体の軸封装置とその軸封装置を用いた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に大型の回転電機では、油を潤滑剤としたすべり軸受を採用している。また、高効率を目的とした水素冷却回転電機では、機内冷却用の水素ガスを回転電機内に封じ込めるためにシール油を使ったオイルシールを採用している。これら潤滑油やシール油などの液体が回転電機の機内や機外に漏れることを防止するため、一般的にはラビリンスシールを採用して漏洩防止を行っている。この場合、ラビリンスシールの構造上、回転軸との間には比較的大きな隙間が存在するので、機内の微妙な圧力変動や液体の状態変化により液体が漏洩することは一般的である。このような液体の漏洩を防止するために、ラビリンスシールを多段に設けたり、液体源から十分離した位置にラビリンスシールを配置するなどの対応を行っているが、このような対応では回転電機全体の寸法が大きくなる他、シール性能も十分とは言えず、現状では液体の漏洩防止は極めて困難であった。
【0003】
これらの問題を解決するために近年では、よりシール性能を向上する目的でブラシシールを採用している例もある(例えば特許文献1,2,3参照、ただし、特許文献1と2は気体をシールするために使用)。
【0004】
ブラシシールを使った従来の液体の軸封装置は、例えば図6に示すような構造が一般的である。図6において、1は回転軸、2は回転電機の外形を形成するフレームであり、フレーム2に取り付けられた図示しない軸受によって回転軸1は回転可能に支持されている。3はブラシホルダであり、フレーム2に対して強固にかつ気密に固定され、回転電機内の液体雰囲気の空間と非液体雰囲気の空間とを遮断するように取り付けられている。4はブラシシールであり、ブラシ5をブラシクランプ6で挟み込んで形成され、円周方向に複数に分割されたものをリング状に組合せ、更に分割面を周方向にずらした2列を配して構成されている。7はパッキンであり、ブラシシール4同様円周方向に複数に分割されたものをリング状に組合せて、ブラシシール4の軸方向側面に取り付けられている。9は抑え板であり、ブラシホルダ3内に収納されたブラシシール4およびパッキン7をブラシホルダ3内に固定するため、ブラシホルダ3の軸方向側面に図示しないボルトで固定されている。
また、ブラシシール装置を多段にした例としては特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−90842号公報
【特許文献2】特開2001−295609号公報
【特許文献3】特開2002−303371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3においてはブラシシール装置自体の詳しい構造については触れていないので、前記したような一般的な構造のブラシシールを用いた液体の軸封装置と推定される。従って、このように構成された液体の軸封装置では、ブラシシール4を構成するブラシ5の素線間の隙間およびブラシ5と回転軸1との接触面より少量の液体が漏れることを完全に防ぐことはできない。このため、回転電機の長時間運転においては漏洩液体はその許容値を超え、回転電機内部より溢れ出ることや回転電機の運転に支障をきたす恐れがある。また、回転軸が振動した場合や回転軸の芯に対しブラシシールが偏芯して取り付けられた場合には、液体の漏れ量はより大きくなり、比較的短時間に許容値を超える場合も生じる。そうなると回転電機が全く運転できないことも起こりうる。
【0007】
また、回転電機によっては異なる液体を有し、それぞれの液体が混合することを避ける目的で軸封装置を使用しているものもあり、上記のような従来の液体の軸封装置では、少量づつ液体が漏れ、長時間の運転では異なる液体が混合する場合が生じ、回転電機の運転に支障をきたすことになる。また、ブラシシールを多段に設けた特許文献2のような構造においても、少量づつ液漏れを防ぐことができず、漏洩した液体は時間の経過とともに、多段に設けたブラシシール間の空間に充満し、次のブラシシールへ漏洩して順次漏れていくことになる。従って、従来構造のブラシシールの軸封装置では、例えブラシシールを多段に配置したとしても、少量づつ液体が漏洩するのを防ぐことは極めて困難である。
【0008】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、回転機の非液体雰囲気空間へ液体雰囲気に存在する液体が漏れる量を極めて少なくすることができる液体の軸封装置とその軸封装置を備えた回転電機を提供することであり、また、異なる液体を内蔵する回転機では異なる液体が混合する量を極めて少なくすることができる液体の軸封装置とその軸封装置を用いた回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、回転軸と、この回転軸に接触して取り囲むように配置されたブラシシールと、このブラシシールを保持し、2つの液体雰囲気空間を遮断するブラシホルダとを備えた液体の軸封装置において、前記ブラシシールを軸方向に複数段配置し、前記ブラシシール間に形成されたキャビティー内の圧力を、前記液体雰囲気空間の圧力よりも高くしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ブラシシールを越えて漏洩する漏洩液体の量を少なくすることができ、また液体雰囲気側ブラシシールを越えて漏洩した漏洩液体を液体の戻し用孔により液体雰囲気側空間に戻すことができるので、ブラシシールを越えて非液体雰囲気側空間に漏れる液体の量を極めて少なくすることが可能である。
【0011】
また、それぞれの液体雰囲気側ブラシシールを越えて漏洩した漏洩液体をキャビティー内で飛散することがなく溜り、それぞれの液体の戻し用孔により液体雰囲気側空間に戻すことができるので、ブラシシールを越えて他液体雰囲気側空間に漏れる液体の量を極めて少なくすることができ、また異なる液体の混入を極めて少なくすることができる。
【0012】
さらに、ブラシシール間に形成されたキャビティー内の圧力を、液体雰囲気空間の圧力よりも高くしているので、液体がキャビティー内に漏洩することがなく液体雰囲気空間に戻され、また、ブラシシールを越えて他液体雰囲気側空間に漏れることがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図。
【図2】本発明の第2の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図。
【図3】本発明の第3の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図。
【図4】本発明の第4の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図。
【図5】本発明の第5の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図。
【図6】従来の軸封装置の軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図である。
【0015】
図1において、1は回転軸、2は回転電機の外形を形成するフレームであり、このフレーム2に取り付けられた図示しない軸受によって回転軸1は回転可能に支持されている。3はブラシホルダであり、フレーム2に対して強固にかつ気密に固定され、回転電機内の液体雰囲気の空間と非液体雰囲気の空間とを遮断するように取り付けられている。また、ブラシホルダ3の内径側の空間部には軸方向に、後述するキャビティー10を介して離間する2個のブラシシール即ち、液体雰囲気側ブラシシール4aと非液体雰囲気側ブラシシール4bとを2段収納している。ブラシシール4a,4bはそれぞれブラシ5をブラシクランプ6で挟み込んで形成され、円周方向に複数に分割されたものをリング状に組合せ、更に分割面を周方向にずらした2列を配して構成されている。7は例えばテフロン(登録商標)などの樹脂板からなる樹脂板パッキンであり、ブラシシール同様円周方向に複数に分割されたものをリング状に組合せて、各ブラシシール4aと4bの軸方向側面に回転軸1との初期隙間がゼロとなるように取り付けられている。8は間隔片であり、軸方向に2段に設けられたブラシシール4aとブラシシール4bの軸方向の間に挿入されている。9は抑え板であり、ブラシホルダ3内に収納されたブラシシール4a,4b、樹脂板パッキン7、間隔片8をブラシホルダ3内に固定するためブラシホルダ3の軸方向側面に図示しないボルトで固定されている。10は前述したキャビティーであり、軸方向に2段に設けられたブラシシール4a,4b間に設けられ、回転軸1が回転することによって生じる回転軸1周辺の気体の流れが小さくなる外径を持った空間である。11は貫通孔であり、ブラシホルダ3の外径側に設けられ、ブラシホルダ3によって分断された回転電機の軸方向空間の圧力を連通することによって等しく保つように構成されている。12は液体の戻し用孔であり、液体雰囲気の空間よりブラシシール4aを介してキャビティー10内に漏れた液体を液体雰囲気の空間に戻すために、間隔片8、ブラシホルダ3、抑え板9を連続して貫通している。また、ブラシホルダ3の軸端内径部3aと抑え板9の内径部9aはそれぞれ外側部分を大きく面取りし、当該部分と回転軸1との隙間に液体が溜まることなく、重力で下方に落下するように構成されている。
【0016】
次に、本実施形態の作用について説明する。
回転軸1が回転することにより回転電機のフレーム2内部の液体雰囲気の空間は液体が飛散した状態となるが、その飛散した多くの液体は液体雰囲気側ブラシシール4aでシールされる。しかし、その一部はブラシシール4aのブラシ5間の隙間やブラシ5と回転軸1の隙間を通ってキャビティー10に漏洩液体となって漏れる。このとき樹脂板パッキン7は、抑え板9を締め付けることにより樹脂板パッキン7が変形し、ブラシホルダ3、抑え板9およびブラシクランプ6との隙間を埋めるので、ブラシシール4の背面とブラシホルダ3との隙間からの液体の漏洩を防止することができる。また、回転軸1との初期隙間がゼロに設定されていることから、回転軸1が回転することにより初期摩耗が生じ、回転軸1と樹脂板パッキン7との隙間は回転軸1の振れ回り等も考慮された最小ギャップとなり、液体とブラシシール4aのブラシ5との接触面積を最小限にする。従って、液体がブラシシール4aのブラシ5に染み込むことによってキャビティー10に漏洩する液体の量が極めて少なくなる。更に漏れた漏洩液体は、キャビティー10が存在するので、回転軸1の回転による影響を受けず、重力方向に流れ落ち、液体の戻り用孔12に流れ込み、液体雰囲気の空間に戻される。
【0017】
また、液体雰囲気と非液体雰囲気の空間とは貫通孔11によって連通しているので、液体雰囲気の空間と非液体雰囲気の空間は同じ圧力となる。従って、ブラシシール4には圧力差が掛からないので漏洩液体も増大することはない。またブラシホルダ3の軸端内径部3aと抑え板9の内径部9aは大きく面取りが施されているので、当該部分と回転軸1との隙間に液体が溜まることがなく、ブラシシール4のブラシ5に接触する液体の量も少なくすることができる。
【0018】
上述したように、本実施形態によると、樹脂板パッキン7とブラシホルダ3の軸端内径部3aおよび抑え板9の内径部9aと貫通孔11によりブラシシール4aを越えて漏洩する漏洩液体の量を少なくすることができ、更に液体雰囲気側ブラシシール4aを越えて漏洩した漏洩液体をキャビティー10によりキャビティー10内で飛散することなく重力方向に流れ落ちることで溜り、液体の戻し用孔12により液体雰囲気側空間に戻すことができるので、ブラシシール4bを越えて非液体雰囲気側空間に漏れる液体の量を極めて少なくすることが可能である。
【0019】
(第2の実施形態)
図2は本発明の第2の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図であり、図1の第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明する。
【0020】
図2において、3はブラシホルダであり、フレーム2に対して強固にかつ気密に固定され、回転電機内の液体Q雰囲気の空間と液体R雰囲気の空間とを遮断するように取り付けられている。またブラシホルダ3の内径側の空間部には軸方向に、後述する2つのキャビティー10a,10bを介して離間する3個のブラシシール即ち、液体Q雰囲気側ブラシシール4c,液体R雰囲気側ブラシシール4dおよび中間に配される中間段ブラシシール4eの3段を収納している。ブラシシール4c,4dおよび4eはそれぞれ、ブラシ5をブラシクランプ6で挟み込んで形成され、円周方向に複数に分割された物をリング状に組合せ、更に分割面を周方向にずらした2列を配して構成されている。7は例えばテフロンなどの樹脂板からなる樹脂板パッキンであり、ブラシシール同様円周方向に複数に分割された物をリング状に組合せて、軸方向3段に設けられたそれぞれのブラシシールの軸方向側面の両側に、回転軸1との初期隙間がゼロとなるように取り付けられている。8は間隔片であり、軸方向に3段設けられたブラシシール4d,4e,4cのそれぞれの軸方向の間に挿入されている。9は抑え板であり、ブラシホルダ3内に収納されたブラシシール4d,4e,4c、樹脂板パッキン7、間隔片8をブラシホルダ3内に固定するためブラシホルダ3の軸方向側面に図示しないボルトで固定されている。10a,10bは前述したキャビティーであり、軸方向に3段に設けられたブラシシール4d,4e,4cのそれぞれの間に設けられ、回転軸1が回転することによって生じる回転軸1周辺の気体の流れが小さくなる外径を持った空間である。11は貫通孔であり、ブラシホルダ3の外径側に設けられ、ブラシホルダ3によって分断された回転電機の軸方向空間の圧力を連通することによって等しく保たれる。12a,12bは液体の戻し用孔であり、このうち12aは軸方向に2箇所あるキャビティーのうちの液体Q雰囲気側のキャビティー10aより液体Q雰囲気側に間隔片8、ブラシホルダ3、抑え板9を連続し、一方12bは軸方向に2箇所あるキャビティーのうちの液体R雰囲気側のキャビティー10bより液体R雰囲気側に間隔片8、ブラシホルダ3を連続して貫通している。またブラシホルダ3の軸端内径部3aと抑え板9の内径部9aはそれぞれ内径外側部分を大きく面取りしてある。
【0021】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態のように構成した回転電機の軸封装置では、液体Q雰囲気の液体Qは回転軸1の回転により液体Qの雰囲気空間で飛散しており、液体Q雰囲気側ブラシシール4cによってシールされているが、液体Q雰囲気側ブラシシール4cから漏れる漏洩液体Qの量は、第1の実施形態同様樹脂板パッキン7と、ブラシホルダ軸端内径部3aの形状と貫通孔11からなる構造により従来技術より少なくなる。また、キャビティー10aに漏洩した漏洩液体Qはキャビティー10aによりキャビティー10a内で飛散することなく重力で下部へ流れ液体Qの戻り用孔12aにより液体Qの雰囲気空間に戻され、ブラシシール4eを越えてキャビティー10b側に漏洩する漏洩液体Qの量は極めて少なくなる。
【0022】
一方、液体R雰囲気側の液体Rは回転軸1の回転により液体Rの雰囲気空間で飛散しており、液体R雰囲気側ブラシシール4dによってシールされているが、液体R雰囲気側ブラシシール4dから漏れる漏洩液体Rの量は液体Q雰囲気側ブラシシール4c同様、樹脂板パッキン7、抑え板9の内径部9aの形状と貫通孔11からなる構造により従来技術より少なくなる。更にキャビティー10bに漏洩した漏洩液体Rはキャビティー10bによりキャビティー10b内で飛散することなく重力で下部へ流れ、液体Rの戻し用孔12bにより液体Rの雰囲気空間に戻され、ブラシシール4eを越えてキャビティー10a側に漏洩する漏洩液体Rの量は極めて少なくなる。
【0023】
上述したように、本実施形態によると、樹脂板パッキンとブラシホルダ軸端内径部3aと抑え板9の内径部9aの形状と貫通孔11からなる構造によりブラシシール4eを越えて漏洩するそれぞれの漏洩液体の量を少なくすることができ、更にそれぞれの液体雰囲気側ブラシシール4cと4dを越えて漏洩した漏洩液体をキャビティー10a,10bによりキャビティー10a,10b内で飛散することなく重力方向に流れ落ちることで溜り、それぞれの液体の戻し用孔12aと12bにより液体雰囲気側空間に戻すことができるので、ブラシシール4eを越えて他液体雰囲気側空間に漏れる液体の量を極めて少なくすることが可能であり、液体Qと液体Rの混入を極めて少なくすることができる。
【0024】
(第3の実施形態)
図3は本発明の第3の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図であり、図1の第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明する。
【0025】
図3において、1は回転軸、2はフレームである。3はブラシホルダであり、フレーム2に対して強固にかつ気密に固定され、回転電機内の液体Q雰囲気の空間と液体R雰囲気の空間とを遮断するように取り付けられている。またブラシホルダ3の内径側の空間部には軸方向に、後述する2つのキャビティー10a,10bを介して離間する3個のブラシシール即ち、液体Q雰囲気側ブラシシール4c,液体R雰囲気側ブラシシール4dおよび中間に配される中間段ブラシシール4eの3段を収納している。ブラシシール4c,4dおよび4eはそれぞれブラシ5をブラシクランプ6で挟み込んで形成され、円周方向に複数に分割された物をリング状に組合せ、更に分割面を周方向にずらした2列を配して構成されている。7は樹脂板からなる樹脂板パッキンであり、ブラシシール同様円周方向に複数に分割された物をリング状に組合せて、軸方向3段に設けられたそれぞれのブラシシール4c,4d,4eの軸方向側面の両側に回転軸1との初期隙間がゼロとなるように取り付けられている。8は間隔片であり、軸方向に3段設けられたブラシシール4c,4d,4eのそれぞれの軸方向間に挿入されている。9は抑え板であり、ブラシホルダ3内に収納されたブラシシール4c,4d,4e、樹脂板パッキン7、間隔片8をブラシホルダ3内に固定するためブラシホルダ3の軸方向側面に図示しないボルトで固定されている。10a,10bはキャビティーであり、軸方向に3段に設けられたブラシシール4c,4d,4eのそれぞれの間に設けられ、回転軸1が回転することによって生じる回転軸1周辺の気体の流れが小さくなる外径を持った空間である。13はキャビティー貫通孔であり、液体Q雰囲気側キャビティー10aから回転電機のフレーム2外へ引き出すよう間隔片8aとブラシホルダ3およびフレーム2を連続して貫通するよう設けられている。14はキャビティー貫通孔であり、液体R雰囲気側キャビティー10bから回転電機のフレーム2外へ引き出すよう間隔片8b、ブラシホルダ3およびフレーム2を連続して貫通するように設けられている。
【0026】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態のように構成した回転電機の軸封装置では、液体Q雰囲気の液体Qは回転軸1の回転により液体Qの雰囲気空間で飛散しており、液体Q雰囲気側ブラシシール4cによってシールされているが、液体Q雰囲気側ブラシシール4cからキャビティー10aに漏れる漏洩液体Qの量は、第1の実施形態同様樹脂板パッキン7により従来技術より少なくなる。また、キャビティー10aにはキャビティー貫通孔13より回転電機の外部から液体Qの雰囲気空間より高い圧力を加えることにより、ブラシシール4cには漏洩液体Qの漏洩方向に対し逆向きの圧力が加わるので、ブラシシール4cを構成するブラシ5の隙間やブラシ5と回転軸1の隙間の漏洩液体Qは液体Qの雰囲気空間に戻される。従って、液体Qはキャビティー10a内に漏洩することはなくなる。
【0027】
一方、液体R雰囲気の液体Rは回転軸1の回転により液体Rの雰囲気空間で飛散しており、液体R雰囲気側ブラシシール4dによってシールされているが、液体R雰囲気側ブラシシール4dからキャビティー10bに漏れる漏洩液体Rの量は、第1の実施形態同様樹脂板パッキン7により従来技術より少なくなる。また、キャビティー10bにはキャビティー貫通孔14より回転電機の外部から液体Rの雰囲気空間より高い圧力を加えることにより、ブラシシール4dには漏洩液体Rの漏洩方向に対し逆向きの圧力が加わるので、ブラシシール4dを構成するブラシ5の隙間やブラシ5と回転軸1の隙間の漏洩液体Rは液体Rの雰囲気空間に戻される。従って、液体Rはキャビティー10b内に漏洩することはなくなる。
【0028】
特に、一般的な回転電機では、機内通風のために回転電機内部に冷却用ファンを有しており、このために機内の圧力は大気圧に対し負圧になっているので、この場合にはキャビティー貫通孔13およびキャビティー貫通孔14は大気開放とすることにより同様の効果が得られる。
【0029】
上述したように、本実施形態によると、樹脂板パッキン7に加え、キャビティー貫通孔13とキャビティー貫通孔14を加圧または大気開放することによりブラシシール4cと4dにはそれぞれの漏洩液体の漏洩方向と逆向きに圧力差が加わるので、ブラシシール4eを越えてそれぞれの液体が反対側のキャビティー10bと10aに漏洩することはなくなり、各液体が他の液体に混入することもなくなる。また、キャビティー貫通孔13とキャビティー貫通孔14を大気開放した場合には、加圧装置が必要なくなるので構成が簡素化でき安価となる。
【0030】
(第4の実施形態)
図4は本発明の第4の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図であり、図1の第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明する。
【0031】
図4において、1は回転軸、2はフレームである。3はブラシホルダであり、フレーム2に対して強固にかつ気密性に固定され、回転電機内の液体雰囲気の空間と非液体雰囲気の空間とを遮断するように取り付けられている。またブラシホルダ3の内径側の空間部には軸方向に、後述するキャビティー10を介して離間する2個のブラシシール即ち、液体雰囲気側ブラシシール4aと非液体雰囲気側ブラシシール4bとを2段収納している。ブラシシール4a,4bはそれぞれブラシ5をブラシクランプ6で挟み込んで形成され、円周方向に複数に分割されたものをリング状に組合せ、更に分割面を周方向にずらした2列を配して構成されている。7は樹脂板からなる樹脂板パッキンであり、ブラシシール4a,4b同様円周方向に複数に分割されたものをリング状に組合せて、各ブラシシール4aと4bの軸方向側面に回転軸1との初期隙間がゼロとなるように取り付けられている。15は短ブラシシールであり、回転軸1に接触しない長さ、好ましくは回転軸1が回転することによって生じる回転軸1周辺の気体の流れが小さくなる空間であるキャビティー10を構成できる長さの短ブラシ16の外径側を短ブラシクランプ17によりくわえ込んで構成され、ブラシシールと同様に円周方向に複数に分割され、ブラシホルダ3内でリング状に組合せて軸方向に2段に配置したブラシシール4a,4bの軸方向の間に取り付けられている。また短ブラシクランプ17には半径方向に複数の穴を有している。11は図1の第1の実施形態と同じ貫通孔である。12は液体の戻し用孔であり、短ブラシ15の背面より液体雰囲気空間まで、ブラシホルダ3と抑え板9を連続して貫通する。また、ブラシホルダ3の軸端内径部3aおよび抑え板9の内径部9aの形状も図1の第1の実施形態と同じ形状である。
【0032】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態のように構成した回転電機の軸封装置では、液体雰囲気の液体は回転軸1の回転により液体の雰囲気の空間で飛散しており、液体雰囲気側ブラシシール4aによってシールされているが、液体雰囲気側ブラシシール4aからキャビティー10に漏れる漏洩液体の量は、第1の実施形態同様樹脂板パッキン7と抑え板9の内径部9aにより従来技術より少なくなる。更に、キャビティー10に漏れた液体は、その殆どが回転軸1と接触しない長さの短ブラシ16により捕捉され毛細管現象により順次短ブラシ16の間に染み込んで行く。短ブラシ16に染み込んだ液体は短ブラシクランプ17を伝いながら重力により下方に流れ、短ブラシクランプ17に設けた半径方向孔より液体の戻し用孔12を介して液体雰囲気の空間に戻る。従って、ブラシシール4bを越えて非液体雰囲気の空間に漏洩する液体は極めて少なくなる。
【0033】
上述したように、本実施形態によると、樹脂板パッキン7と抑え板9の内径部9aの形状に加え、ブラシシール4aを越えて漏洩した微量の液体もキャビティー10に設けられた短ブラシシール15によって確実に捕捉され、液体の戻し用孔12を使って液体の雰囲気空間に戻されるので、回転電機が液体を内蔵する場合の液体のシール性能が格段に向上する。また、短ブラシ16の毛細管現象によりミスト状の液体も確実に捕捉できるので、キャビティー10の寸法を小さくでき、ブラシシール装置全体が小さくなるという効果がある。
【0034】
(第5の実施形態)
図5は本発明の第5の実施形態の回転電機における液体の軸封装置の軸方向断面図であり、図1の第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明する。
【0035】
図5において、1は回転軸、2はフレームである。3はブラシホルダであり、フレーム2に対して強固にかつ気密に固定され、回転電機内の液体雰囲気の空間と非液体雰囲気の空間とを遮断するように取り付けられている。またブラシホルダ3の内径側の空間部には軸方向に、後述するキャビティー10を介して離間する2個のブラシシール即ち、液体雰囲気側ブラシシール4aと非液体雰囲気側ブラシシール4bとを2段収納している。ブラシシールはブラシ5をブラシクランプ6で挟み込んで形成され、円周方向に複数に分割されたものをリング状に組合せ、更に分割面を周方向にずらした2列を配して構成されている。7は樹脂板からなる樹脂板パッキンであり、ブラシシール4a,4b同様円周方向に複数に分割されたものをリング状に組合せて、各ブラシシール4aと4bの軸方向側面に回転軸1との初期隙間がゼロとなるように取り付けられている。18は多孔質材からなる間隔片で、軸方向に2段配置されたブラシシール4a,4bの間に挿入されている。9は図1の第1の実施形態と同じ抑え板である。10は前述したキャビティーであり、ブラシシールの側面に配置された樹脂板パッキン7と回転軸1と多孔質間隔片18で囲まれた空間で回転軸1の回転によって生じる回転軸1の周囲の気体の流れが小さくなる外径を有している。11は図1の第1の実施形態と同じ貫通孔である。12は図4の第4の実施形態と同じ液体の戻し用孔であり、多孔質充填材19が充填されている。
【0036】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態のように構成した回転電機の軸封装置では、液体雰囲気の液体は回転軸1の回転により液体の雰囲気空間で飛散しており、液体雰囲気側ブラシシール4aによってシールされているが、液体雰囲気側ブラシシール4aからキャビティー10に漏れる漏洩液体の量は、図1の第1の実施形態同様樹脂板パッキン7と抑え板9の内径部9aの形状により従来技術より少なくなる。更に、キャビティー10に漏れた液体は、その殆んどがキャビティー10の外径側に配置された多孔質間隔片18により捕捉され、この捕捉された液体は、重力により多孔質間隔片18内部を下方へ流れ、キャビティー10の下方に配された液体の戻し用孔12内に充填された多孔質充填材19を介して、液体の雰囲気空間に戻されるので、ブラシシール4bを越えて非液体雰囲気の空間へ漏洩する漏洩液体の量は極めて少なくなる。
【0037】
上述したように、本実施形態によると、樹脂板パッキン7と抑え板9に加え、ブラシシール4aを越えて漏洩した微量の液体もキャビティー10に設けられた多孔質材からなる多孔質間隔片18で確実に捕捉され、更に液体の戻し用孔12に充填された多孔質充填材19により確実の液体雰囲気の空間に導き戻されるので、ブラシシール4bを越えて非液体雰囲気空間に漏洩する液体の量は極めて少なくなり、液体のシール性能が格段に向上する。また、図4の第4の実施形態同様、キャビティー10内のミスト状の液体も多孔質材からなる間隔片によって確実に捕捉できるので、キャビティー10を小さくし、延いてはブラシシール全体を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0038】
1…回転軸、2…フレーム、3…ブラシホルダ、4,4a,4b…ブラシシール、5…ブラシ、6…ブラシクランプ、7…樹脂板パッキン、8…間隔片、9…抑え板、10…キャビティー、11…貫通孔、12…液体の戻し用孔、13…キャビティー貫通孔A、14…キャビティー貫通孔B、15…短ブラシシール、16…短ブラシ、17…短ブラシクランプ、18…多孔質間隔片、19…多孔質充填材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、この回転軸に接触して取り囲むように配置されたブラシシールと、このブラシシールを保持し、2つの液体雰囲気空間を遮断するブラシホルダとを備えた液体の軸封装置において、
前記ブラシシールを軸方向に複数段配置し、前記ブラシシール間に形成されたキャビティー内の圧力を、前記液体雰囲気空間の圧力よりも高くしたことを特徴とする液体の軸封装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体の軸封装置において、前記キャビティーの圧力を大気開放したことを特徴とする液体の軸封装置。
【請求項3】
軸受の潤滑油や機内冷媒ガスのシールにシール油等の液体を使用している回転電機において、請求項1又は2に記載の液体の軸封装置を設けたことを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−149555(P2011−149555A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97334(P2011−97334)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2005−51432(P2005−51432)の分割
【原出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】