説明

液体を濾過する構造および方法、および顕微鏡検査法での利用法

本発明は、液体を濾過する構造および方法、およびその利用法に関するものであり、支持体(3)がキャリヤ(1)の切欠きに構成されており、フィルタ隔膜(2)が支持体(3)に平坦に載っている。フィルタ隔膜(2)と支持体(3)は液体に対して透過性に構成されており、そのようにして、特に血液から腫瘍細胞を濾過するためのフィルタとしての役目をする。キャリヤ(1)は顕微鏡用の物体キャリヤの標準形式を有しており、フィルタ隔膜の濾過残滓を容易に取り扱うことができ、顕微鏡で検査することができる。支持体(3)の上にフィルタ隔膜(2)を平坦に載せることで、濾過残滓を特別に良好に顕微鏡検査することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリヤと、フィルタ隔膜と、支持体とを含む、液体を濾過する構造に関するものであり、支持体はキャリヤの切欠きに配置および/または構成されている。さらに本発明は、この構造によって液体を濾過する方法に関し、および、フィルタ隔膜に残っている残滓を顕微鏡検査法で検査するための利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡検査法は、分析化学において広く普及している手段である。特に「ライフサイエンス」の学問では、たとえば組織や細胞の特徴を調べるために欠くことのできないツールである。検査されるべき媒体と顕微鏡の結像コンポーネントとの間の「インターフェース」には、物体キャリヤを使うことが定着している。これは、26×76mm(ISO8255−2)の大きさと、1から1.5mmの厚さのガラス板である。物体はたとえば薄層として物体キャリヤの上に載せられ、通常は大きさが18×18mm、厚みが0.16mmであるカバーガラスで覆うことができる。物体は、たとえば液体膜で取り囲まれた組織断片である。
【0003】
たとえば大きさの異なる固体を相互に分離するため、および/または液体から分離するための濾過技術も、同じく広く知られた技術である。顕微鏡検査法と濾過技術を組み合わせて、濾過プロセスに引き続いて濾過残滓が顕微鏡検査法で検査される。そのためには、たとえばフィルタ隔膜のようなフィルタ媒体を濾過装置から取り外して、物体キャリヤの上に置かなくてはならない。このプロセスは、特に薄いフィルタ隔膜の場合には、たとえば厚さ10μm、直径25mmのフィルタ隔膜の場合には、高い実験技術を必要とし、非常に時間コストがかかり、失敗が起こりやすく、このことは、実際問題として検査方法のいっそう高い費用と結びついている。さらには手作業での相互作用のせいで、品質標準の確保という観点からの標準化が難しくなる。手作業での相互作用で知られている問題は、たとえばフィルタ隔膜の部分的な破損や、フィルタ隔膜と物体キャリヤの間での気泡の堆積であり、そのために以後の顕微鏡検査が難しくなる。
【0004】
たとえば血液検査で濾過された腫瘍細胞の検査にあたって、このようなプロセスを医療診断でルーチン作業として低コストに適用しようとするならば、簡単で低価格な解決法を開発するほかない。そうした解決法は、習熟していない人間でも実行することができるのが望ましい。手作業によるプロセスステップを最低限に抑えることが、改善された標準化の可能性につながるとともに、結果品質の低下を回避することにつながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、標準方式で高い品質をもって適用することができ、簡素に構成されており、簡単に取扱可能であり、ならびに低コストである、液体を濾過する構造および方法を提供することにある。特に本発明の課題は、後続する顕微鏡検査法での検査に良く適している、液体を濾過する構造および方法を提供することにある。この構造は、標準保持部を備える標準器具で適用可能であるのがよく、それは、たとえば光学顕微鏡や蛍光顕微鏡による検査を簡単かつ安価に濾過残滓で連続式に実施できるようにするためである。特に、(循環する)腫瘍細胞の採取と検査を可能にすることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題は、液体を濾過する構造に関しては請求項1の構成要件によって解決され、この構造により液体を濾過する方法に関しては請求項11の構成要件によって解決され、この構造および方法の利用法に関しては請求項14の構成要件によって解決される。
【0007】
液体を濾過する本発明の構造および方法、ならびにその利用法の好ましい実施形態は、それぞれ付属の従属請求項から明らかとなる。このとき主請求項の構成要件を従属請求項の構成要件と組み合わせることができ、また、従属請求項の構成要件を相互に組み合わせることができる。
【0008】
液体ないし懸濁液を濾過する本発明の構造は、キャリヤと、フィルタ隔膜と、支持体とを含んでいる。支持体はキャリヤの切欠きに配置および/または構成されている。フィルタ隔膜は支持体の上で平面的および/または平坦に配置されている。この関連において平坦とは、山状や谷状の隆起のない平坦な平面にフィルタ隔膜が配置されることを意味している。
【0009】
本発明による構造の構成は、フィルタとしての薄いフィルタ隔膜を、標準形式のキャリヤの上に装着することを可能にする。支持体は濾過のときに、フィルタ隔膜を機械的に支えるように作用し、それにより、大量の液体の濾過が適切な時間内に可能となる。フィルタ隔膜を平面的に装着することで、一方では、フィルタ隔膜と支持体との間で数多くの共通の支持個所が成立することが保証される。そのようにしてフィルタ隔膜が非常に薄く構成されていてよく、大量の液体を高い流速で濾過するときに裂けることがない。非常に薄く構成して製造することができるフィルタ隔膜は、厳密に定義された貫通孔ないし穴を有する、たとえば粒子の打込みによってフィルムから製作されたフィルタ隔膜であってよい。均等に配分された多数の支持個所による支持体を用いた良好な支持は、このようなフィルタ隔膜をフィルタとしての使用するために重要である。
【0010】
キャリヤは、ガラスまたはプラスチック、特にポリカーボネートで形成された、特に顕微鏡検査のための物体キャリヤであってよい。これら両方の素材は低コストかつ容易に加工可能であり、可視領域で光に対して透過性である。支持体は構造化されていてよく、特に多孔性であってよい。この構造化は、フィルタ隔膜のための支持個所の数を規定するとともに、フィルタ隔膜を通って貫流した後に、濾過された液体が流出することを可能にする。支持体はプラスチック、特にポリカーボネート、もしくはセラミックで構成されていてよい。プラスチックは容易に構造化することができ、たとえば射出成形技術で低コストに、かつ容易に構造化して製造することができる。セラミックは、定義された穴サイズで容易に多孔性として低コストに製造可能である。フィルタ隔膜のためのキャリヤとして物体キャリヤを利用することは、簡単な取扱と標準器具での使用を可能にする。ガラスまたはプラスチックからなる物体キャリヤは、機械的にも化学的にも非常に安定しており、このことは、たとえば顕微鏡検査の前の濾過残滓の前処理にとって重要である。透明なキャリヤは、特に透過モードならびに反射光モードで、特に光学顕微鏡での利用を可能にする。
【0011】
キャリヤは、1から1.5mmの範囲内の厚みを有することができ、75から76mmの範囲内の長さと、25から26mmの範囲内の幅とを有することができる。フィルタ隔膜は、1から20μmの範囲内の厚み、好ましくは10μmの範囲内の厚みと、25mmの範囲内の直径とを有することができる。このような寸法により、もっとも頻繁に使われる標準器具の物体キャリヤのための保持部で、キャリヤを良好に適用可能である。検査のときに滑ることがない良好な保持が保証される。上述した寸法をもつフィルタ隔膜は、たとえば粒子の打込みによって容易に製造することができ、キャリヤの上に平坦に配置することが良好にできる。このようなフィルタ隔膜は、フィルタ隔膜を通る流体の高い流速での良好なフィルタ作用のときに裂けたり、その他の形で損傷をうけないようにするために、支持体との関連で十分に安定性を有している。
【0012】
キャリヤにある切欠きは、支持体と同じ大きさであってよい。それによってキャリヤでの支持体の良好な保持が可能となり、ないしは、支持体がキャリヤ材料から一体的に製作されていてもよい。後者のケースでは、恒常的に安定した構造が与えられる。支持体は円形に構成されていてよく、フィルタ隔膜は同じく円形に構成されていてよい。このことは、流体のための円形の供給管と円形の排出管とを備えるシステムでの採用を容易にする。さらに丸い構成は、顕微鏡検査を容易にする。円形の領域全体を、顕微鏡の視野のなかで光学的に解像することができるからである。円形の貫流空間での使用がそれによって同じくサポートされ、このような実施形態は、層流や良好な洗浄可能性に関して利点を有している。
【0013】
キャリヤと支持体は、すでに説明したとおり、1つの本体から一体的に構成されていてよい。このことは製造を容易にするとともに、使用時の安定性を向上させる。フィルタ隔膜はその縁部領域でキャリヤに取り付けられていてよく、フィルタ隔膜はキャリヤの切欠きを全面的に覆い、特に切欠きの領域で支持体の上に平坦に載る。縁部領域では、フィルタ隔膜がキャリヤと溶接されていてよい。フィルタ隔膜が全面的に覆う構成により、液体の完全な濾過が可能であり、未濾過の液体が切欠きの縁部領域を通過することがない。液密であってよい良好な取付けは、キャリヤへのフィルタ隔膜の溶接によって与えられる。
【0014】
支持体は、フィルタ隔膜と流体接触している、フィルタ隔膜側を向いている側に構成された通路を含むことができる。このような通路は、濾過された液体をフィルタ隔膜から良好に流出させることを可能にし、それにより、フィルタ隔膜を通って濾過されるべき液体の良好な貫流を可能にする。支持体は、特に、支持体の中央領域からキャリヤの方向に、ないしは以下においてキャリヤの方向と同一に解釈されるフィルタ隔膜の縁部領域の方向に、放射状に延びるように構成された通路を含むことができる。それにより、フィルタ隔膜で覆われている面を通って多数の通路が延びることができる。支持体の中心点から見てキャリヤの方向に、特に支持体の中心点からの距離の2乗で増える通路の数をもって、通路の数が増えてゆくように構成されていてよい。このことは、フィルタ隔膜で覆われる支持体の表面における通路の高くかつ均等な密度をもたらす。
【0015】
さらに支持体は、放射状の通路を相互に流体接続する、円軌道の上に構成された通路を有することができる。星形および円形に延びる通路を備えた構造は、フィルタ隔膜からの濾過された液体の良好な排出を可能にする。円形の通路と星形に延びる通路からなるネットワークは、支持体の表面における通路の高い密度と、通路を含めない支持体面積の最小化とを可能にする。
【0016】
通路は、支持体の中央領域からキャリヤの方向に向かって増えていく深さおよび/または幅ないし通路断面積を有するように構成されていてよい。このことも、上に説明したような、支持体の中央領域から縁部領域に向かって数が増えていく通路と同じ効果を有しており、ないしはこの効果をサポートする。特に通路の断面ないしその通路断面積を、支持体ないし(フィルタ隔膜の表面と向かい合う)支持体表面の中央領域からの距離ないし中心点からの距離の2乗で増やすことができる。このことは、断面ないし断面の面積が、支持体ないし支持体表面の中心点からの、およびこれに伴ってフィルタ隔膜表面からの、距離rの2乗に比例することを意味している。好ましくは、通路断面積の増大は距離rの2乗より大である。通路を構成するさらに別の選択肢は、通路断面積の合計が、支持体および/または隔膜の中心点からの通路の距離rの2乗で増えていく通路断面積を有する構成にある。付言しておくと、通常、隔膜表面ないし隔膜の中心点は、支持体表面ないし支持体の中心点と同一である。支持体の中心点からの距離にともなう通路断面の増大は、フィルタの中央から見て縁部領域の方向へも、濾過された液体のスムーズな流出を可能にし、縁部領域では広い面積に基づいて、および中央領域からくる流体に基づいて、中央領域よりも多くの液体がフィルタを貫流する。
【0017】
支持体の円周の領域には、支持体および/またはキャリヤの厚みを全面的に通過する流体の排出開口部が、支持体および/またはキャリヤに構成されていてよい。このような排出開口部は、1つまたは複数の通路とそれぞれ流体接続されていてよい。通路に集められて運ばれる液体を、排出開口部を介して、キャリヤの前面から裏面へとフィルタ隔膜から離れるように運ぶことができる。フィルタ隔膜を通ってこれから出ていくスムーズな流体流、およびこれに伴うフィルタ隔膜の良好な貫流、そして高い流速での濾過が可能となる。支持体の縁部領域への排出開口部の配置は、広い断面ないし比較的広い断面をもつ排出開口部の構成を可能にし、フィルタ隔膜の安定性や、支持体の支持作用を大幅に制約することがない。
【0018】
フィルタ隔膜と支持体は、接触領域ないし直接的な機械的接触点を備える平坦な共通の面を有することができ、以下においてこれを接触面と呼ぶ。このとき特にフィルタ隔膜は、平坦な接触面に対して100μm以下の最大間隔を有することができる。平坦な面は、平坦な平面での濾過残滓の配置を可能にし、たとえば顕微鏡検査のときに、その平面で濾過された物体に合わせた良好な焦点合わせによる良好な結像が可能となる。支持体は、フィルタ隔膜と支持体との接触領域において、フィルタ隔膜との接触点のところで100μm以下の幅をもつウェブの形態で、特に、三角形の断面(ウェブの高さに沿った切断面)をもつウェブの形態で構成されていてよい。別案として、ウェブは柱の形態で構成されていてもよい(柱が延びている高さないし長手方向に沿って4角形の断面)。小さな幅をもつ支持個所の構成は、フィルタ隔膜を通る液体の良好な排出と、フィルタの残滓の均等な分布とを可能にする。フィルタ隔膜と支持体の間の直接的な機械的接触がある面を最低限に抑えることを、支持体の良好な支持作用のもとで実現することができ、支持作用と最低限の直接的な接触との間で、すなわちフィルタ隔膜を通る液体の良好な貫流と排出との間で、最善の状態が生じる。
【0019】
フィルタ隔膜は、ポリカーボネートフィルムから作成され、マイクロメートル単位の直径、特に8μmの直径の穴を含み、1%から80%の穴密度(総面積に対する穴の面積として)、特に1平方センチメートルあたり105個の穴密度を有する、トラック・エッチド・フィルタ隔膜であってよい。エッチド・フィルタ隔膜は、見通しの立つコストで、厳密に定義された穴直径を有するように製造可能であり、小さい厚みで良好な安定性を有している。
【0020】
本構造は90℃の温度で熱的に安定していてよい。このことは、顕微鏡検査の前の特定の濾過残滓の化学的、生物学的な前処理を可能にする。
【0021】
上に説明した構造を用いて液体を濾過する方法では、液体として血液が使用され、特に、赤血球を溶解させる溶解緩衝液が混合された血液が使用され、この流体から細胞が濾過される。細胞として、血液中にある癌細胞ないし腫瘍細胞、特に白血球を濾過残滓として濾過することができ、健康な細胞は濾過残滓としてフィルタ隔膜によって流体から濾しとられず、もしくはわずかしか濾しとられない。とりわけ8μmの穴サイズをもつトラック・エッチド・フィルタ隔膜としてのフィルタ隔膜の構成は、濾液から健康な細胞を濾しとることなく、もしくはほとんど濾しとることなく、流体からの腫瘍細胞の分離を可能にする。フィルタ隔膜の下側の支持体における特別に均等な通路の構成、ないし通路ネットワークは、特にフィルタ隔膜面全体にわたって均等に、濾過された液体の良好で均等な貫流を可能にする。このことはひいては、フィルタ隔膜面における濾過残滓の、たとえば腫瘍細胞の非常に均等な分布を可能にするので、これに引き続いての顕微鏡検査や、たとえば個々の細胞の良好な光学的解像度が可能となる。
【0022】
改善された検証を行うために、濾過の完了後に濾過残滓を着色することができる。このことは、特に顕微鏡検査の場合に、たとえば腫瘍細胞などの検証を容易にする。フィルタ隔膜、支持体、および/またはキャリヤの90℃までの温度安定性と良好な化学的耐性は、検査に備えた濾過残滓の準備を可能にし、たとえば細胞の分解、タンパク質やDNAの複製とマーキングなどを可能にする。溶解緩衝液の使用は細胞壁の溶解を可能にし、たとえばDNAの複製にPCRを利用することができる。マーキングは、たとえば相補的なDNAフラグメントを通じて、たとえばメチレンブルーなどの結合された顔料で行うことができる。別案として、溶解によって赤血球を溶かし、そのようにして濾過されるべき細胞の数を減らすことができる。白血球は溶解によって溶けることはなく、正常な白血球の直径の最大20倍の直径をもつ大きくなった細胞である腫瘍細胞は、健全な白血球(フィルタ隔膜から出てきた濾液)から濾過残滓として分離することができる。腫瘍細胞の光学検査を準備するための準備ステップは、非常に高いコストのかかる化学的、熱的なステップを含んでいる場合がある。
【0023】
本構造および/または本方法は、濾過をして濾過残滓を顕微鏡検査するため、特に光学顕微鏡または蛍光顕微鏡で検査するために適用することができ、フィルタ隔膜の極端に平坦な構成は、濾過残滓に合わせた良好で簡単な焦点合わせと、光学的に鮮明で良好な濾過残滓の結像とを可能にする。支持体の小さいウェブサイズにより、およびこれと結びついた、フィルタ隔膜と流体接触している利用可能な広い通路の面積により、フィルタ隔膜を通る流体の均等な流れを実現することができ、望ましくない粒子でさほど覆われていない、もしくはまったく覆われていない、均等に分布した濾過残滓を得て調べることができる。このことは、とりわけ透過式または反射式の顕微鏡検査で利点となる。
【0024】
上述した構造を用いて流体を濾過する方法およびその利用法と結びついた利点は、上に構造に関して説明した利点に準ずる。
【0025】
次に、従属請求項の構成要件に基づく発展例を含めた本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明するが、これに限定をするものではない。図面には次のものが示されている:
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】キャリヤと、支持体と、その上に載ったフィルタ隔膜とを有する本発明の構造を平面図として示す模式図である。
【図2】図1に示す構造を示す模式的な断面図である。
【図3】通路と排出開口部とを備える支持体を示す詳細な模式図である。
【図4】図3に示す支持体を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示す本発明の構造は、キャリヤ1と、キャリヤ1の切欠きに配置された支持体3とを含んでいる。キャリヤ1は、光学顕微鏡用の物体キャリヤの形態で平たく構成されている。支持体3から間隔をおいた領域に把持面4としての面が構成されていてよく、これは、当該領域の表面がたとえば粗面化されていることによる。物体キャリヤは、通常、76mmの範囲内の長さLと、26mmの範囲内の幅Bとを有している。別案として、物体キャリヤは75mmの範囲内の長さと25mmの範囲内の幅とを有することもできる。図2には、キャリヤ1の長さLに沿った断面が示されており、キャリヤ1は厚みDXを有している。通常、物体キャリヤは1から1.5mmの範囲内の厚みDXを有している。標準的に用いられるこれ以外のサイズの物体キャリヤも、同じく使用することができる。
【0028】
図1と図2に示すように、キャリヤ1と支持体3の前面6には、円形でフィルム状のフィルタ隔膜2が平坦に配置されている。円形のフィルタ隔膜2は、たとえば25mmの範囲内の円形の直径φMと、10μmの範囲内の厚みDMとを有している。フィルタ隔膜2は縁部領域5で、たとえば溶接や接着によって、キャリヤと機械的に結合されている。フィルタ隔膜2の下方に円形の支持体3が配置されている。支持体は、たとえば23mmの範囲内の円形の直径φSと、キャリヤの厚みに相当する厚みDXとを有している。フィルタ隔膜2は支持体3の上に平坦に載っており、支持体3とフィルタ隔膜2との間の平坦な接触面との相違は、たとえば最大で100μmであってよい。支持体2とキャリヤ1は一体化された本体から成形されていてよく、または円形の支持体3は、特に機械的に安定的にキャリヤ2と結合されて、キャリヤの厚みDXを通って完全に連続する円形の切欠きの中に配置されていてもよい。支持体3および切欠きの円形の形状のほか、たとえば長方形や三角形などこれ以外の形状も可能である。このとき、支持体3とキャリヤ1の切欠きとの間の嵌合式の接触が好ましい。
【0029】
図1と図2に見られるとおり、支持体3の表面には前面6に通路8,10が構成されている。便宜上、図1では通路8,10が略示されているにすぎず、完全には図示されていない。図3には、支持体3の通路8,10の考えられるパターンが詳細に模式的に示されているが、図面を見やすくするために、少数の通路8,10だけで示されている。通路8は、フィルタ隔膜2ないし支持体3の円形の中心点11から縁部領域5の方向へ星形に延びるように、支持体3の表面に構成されている。縁部領域5の方向で、表面における通路8の通路密度を実質的に一定に保つために、通路8の数は中心点11から縁部5の方向に増えていく。中心点11からの距離rに伴って通路8の断面が増えていくとき、最大の距離rは直径φSの半分よりも短い。通路8の数および/または断面の増加により、フィルタ隔膜2を通って濾過されるべき流体の均等な流れが可能となる。別案として、または縁部5の方向での通路8の数の増加との組み合わせで、キャリヤ表面における通路断面ないし通路深さを縁部5の方向で、好ましくは中心点11からの距離rの2乗で増やすことができ、または、円中心点11と円半径r(中心点11と円周の間の距離r)をもつ円の円周に位置している通路8の断面積すべての合計を、距離rの2乗で増やすこともできる。
【0030】
フィルタ隔膜2の縁部領域5のほか、支持体3またはキャリヤ1には、もしくは支持体3とキャリヤ1の間の接触領域には、キャリヤ1ないし支持体3の厚みDXを通って全面的に連続する排出開口部9が配置されている。通路8は排出開口部9で終わっている。フィルタ隔膜2を通って流れる流体は、通路8および排出開口部9を介して、キャリヤの前面6から来てキャリヤ1の裏面7へと達し、そこから運び出すことができる。フィルタ隔膜2の良好で均等な貫流、ならびに流体の良好な濾過が可能となる。特に、フィルタ隔膜面全体にわたって均等な圧力低下が実現される。
【0031】
通路8は、円形に構成された通路10によって相互につながっている。円形の通路10は、フィルタ隔膜2の下方で、特にいっそう均等な改善された流体流につながる。通路8に準じて、通路10の断面および/または数も、中心点11からの距離rが増すにつれて増やすことができ、特に距離rの2乗で増やすことができる。通路8に準じて、通路10および/または通路8の断面の合計も、中心点11からの距離rが増すにつれて、特に距離rの2乗で増やすことができる。
【0032】
フィルタ隔膜2を通る流体の平坦で均等な流れと良好な排出を、支持体3全体にわたってキャリヤ1の裏面7の方向で可能にするために、フィルタ隔膜2と支持体3との間の直接的な接触を最低限に抑えるのが好ましい。そのようにして、フィルタ隔膜表面における濾液の均等な分布を実現することができる。フィルタ隔膜2と支持体3との間の平面的な最小の機械的接触は、たとえば、それぞれの通路8および/または通路10の間に、図4に示すようなウェブ11だけが支持体3の表面に構成される程度に多い数と高い密度で通路8,10が構成されているときに得られる。図4には、図3に示す支持体3の断面が切断線IV−IV’に沿って示されており、図面を見やすくする都合上、少数の通路10とウェブ13だけが図示されている。多い数と高い密度、および特に図4に示すようなウェブ13の三角形状は、フィルタ隔膜2と支持体3との間の最小の直接的な機械的接触を、構造の高い機械的な安定性で可能にする。このようにして、縁部領域5を除く隔膜2の面全体にわたって、特別に均等な流体流が可能となる。
【0033】
本構造の特別に簡素で安価な製造は、キャリヤ1と支持体3の製作にポリカーボネートを使用したときに与えられる。特に、支持体3とキャリヤ1が一体的な本体から製作されていれば、通路8,10を支持体の表面へフライス加工することができる。別案として通路8,10は、たとえば形鋳物やレーザ加工によって構成することができる。排出開口部9は、たとえば穿孔、フライス加工、レーザ加工、形鋳物などによって製作することができる。フィルタ隔膜2は粒子の打込みによってフィルムから作成されていてよく、特に、トラック・エッチド・フィルタ隔膜としてポリカーボネートフィルムから作成されていてよい。縁部領域5では、たとえば接着や溶接によって、フィルタ隔膜2がキャリヤ1へ機械的に取り付けられていてよい。
【0034】
別案として、支持体3の材料としてセラミックを使用すれば、通路8,10に準じて流体の均等な流出を可能にする多孔性層を、支持体3の表面に形成することができる。支持体3が全面的に多孔性材料で構成されているとき、排出開口部9と通路8,10は多孔性により与えられていてよい。
【0035】
定義された穴直径をもつポリカーボネートフィルムで構成されるトラック・エッチド・フィルタ隔膜の使用は、たとえば血液から腫瘍細胞を濾過するために、本発明の構造を適用することを可能にする。たとえば8μmの穴直径では、血液中の健康な細胞(たとえば白血球や赤血球)はフィルタ隔膜2をほぼ通過することができるのに対して、大きすぎて弾性のない腫瘍細胞はフィルタ隔膜2にとどめられる。こうして腫瘍細胞が血液から濾過されて、フィルタ隔膜にとどめられる(濾過残滓)。フィルタ隔膜2の面にわたって均等な流体流は、それが濾過後にフィルタ隔膜2に実質的に均等に分散して存在する形態で、腫瘍細胞の濾過を可能にする。このようにして、腫瘍細胞の光学検査が容易になる。血液に代えて、これ以外の液体や気体、あるいは液体中にある固体も濾過することができる。
【0036】
少なくとも90℃までの範囲内で、本発明による構造に温度安定的な材料を使用することは、フィルタ隔膜2の上での細胞の溶解分解、たとえば細胞のDNAの複製とマーキングを可能にする。別案として、細胞そのものをたとえば顔料によって固有に着色することができる。そのようにして、特に光学顕微鏡や蛍光顕微鏡のような光学検査が容易になる。平たく平坦な平面におけるフィルタ隔膜2の平たい平坦な構成は、濾過残滓の良好な焦点合わせと結像を可能にする。
【符号の説明】
【0037】
1 キャリヤ
2 フィルタ隔膜
3 支持体
8 通路
10 通路
12 接触面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリヤ(1)と、フィルタ隔膜(2)と、支持体(3)とを含み、前記支持体(3)は前記キャリヤ(1)の切欠きに配置および/または構成されている、液体を濾過する構造において、
前記フィルタ隔膜(2)は実質的に平面状および/または平坦に前記支持体(3)の上に配置されている構造。
【請求項2】
前記キャリヤ(1)はガラスまたはプラスチック、特にポリカーボネートで構成された顕微鏡のための物体キャリヤであり、および/または前記支持体(3)は構造化されており、および/または多孔性であり、プラスチック、特にポリカーボネート、またはセラミックで構成されている、請求項1に記載の構造。
【請求項3】
前記キャリヤ(1)は1から1.5mmの範囲内の厚みDXを有するとともに、75から76mmの範囲内の長さLと、25から26mmの範囲内の幅Bとを有しており、前記フィルタ隔膜(2)は1から20μmの範囲内の、好ましくは10μmの範囲内の厚みDMと、25mmの範囲内の直径φMとを有している、請求項2に記載の構造。
【請求項4】
前記キャリヤ(1)の切欠きは前記支持体(3)と同じ大きさであり、および/または円形に構成されており、および/または前記フィルタ隔膜(2)は円形に構成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の構造。
【請求項5】
前記キャリヤ(1)と前記支持体(3)は1つの本体から一体的に構成されており、および/または前記フィルタ隔膜(2)はその縁部領域(5)で前記キャリヤ(1)に取り付けられており、前記フィルタ隔膜(2)は前記支持体(1)の切欠きを全面的に覆っており、特に前記切欠きの領域で前記支持体(3)の上に平坦に載っており、および/または前記縁部領域(5)で前記キャリヤ(1)と溶接されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の構造。
【請求項6】
前記支持体(3)は、前記フィルタ隔膜(2)と流体接続されて構成された、前記フィルタ隔膜(2)のほうを向く側(6)に構成された通路(8,10)を含んでおり、特に、前記支持体(3)の中央領域から前記キャリヤ(1)の方向に延びるように構成された通路(8)を含んでおり、および/または前記支持体の中心点(11)から前記キャリヤ(1)の方向に前記通路(8)の数が増えており、および/または前記通路(8)を相互に流体接続する円軌道に構成された通路(10)を含んでいる、請求項1から5のいずれか1項に記載の構造。
【請求項7】
前記通路(8,10)は前記支持体の中央領域(11)から前記キャリヤ(1)の方向に向かって増える深さおよび/または幅を有するように構成されており、特に前記通路(8,10)の断面は前記中央領域(11)からの距離rの2乗および/またはそれ以上で増えており、および/または前記支持体(3)の中心点(11)からの前記通路(8および/または10)の距離rの2乗で合計が増える通路断面積、特に円周上の通路断面積を有する通路(8および/または10)を有するように構成されており、および/または前記支持体の円周(5)の領域には前記支持体(3)および/または前記キャリヤ(1)に、1つまたは複数の前記通路(8,10)と流体接続された、前記支持体(3)および/または前記キャリヤ(1)の厚みを通って完全に連続する濾液の排出開口部(9)が構成されている、請求項6に記載の構造。
【請求項8】
前記フィルタ隔膜(2)と前記支持体(3)は前記接触面(12)の平坦で平面的な面に位置する多数の接触個所(12)を有しており、特に前記フィルタ隔膜(2)は平坦な前記接触面(12)に対して100μm以下の最大間隔を有しており、前記支持体(3)は前記フィルタ隔膜(2)と前記支持体(3)の接触領域においてウェブ(13)の形態で、特に50μmから500μmの範囲内の幅をもつ三角形の断面をもつウェブ(13)の形態で、および/または柱の形態で構成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の構造。
【請求項9】
前記フィルタ隔膜(2)は、ポリカーボネートフィルムで構成され、マイクロメートル単位の、特に8μmの直径をもつ穴を含み、1平方センチメートルにつき105個の穴密度を有するトラック・エッチド・フィルタ隔膜である、請求項1から8のいずれか1項に記載の構造。
【請求項10】
前記構造は90℃の温度で熱的に安定している、請求項1から9のいずれか1項に記載の構造。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の構造により流体を濾過する方法において、流体として血液が使用され、特に赤血球を溶解するための溶解緩衝液と混合された血液が使用され、前記流体から細胞が濾過される方法。
【請求項12】
細胞として血液中にある癌細胞が濾過され、健康な細胞は、特に白血球は、流体から前記フィルタ隔膜(2)により残滓として濾しとられず、もしくはわずかしか濾しとられない、請求項12に記載の方法。
【請求項13】
前記フィルタ隔膜の濾過残滓が濾過の完了後に着色される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の構造および/または方法の利用法において、濾過残滓を濾過して顕微鏡検査するため、特に光学顕微鏡または蛍光顕微鏡で検査するための利用法。
【請求項15】
顕微鏡検査は蛍光顕微鏡を用いて行われる、請求項14に記載の利用法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−517932(P2013−517932A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550426(P2012−550426)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051064
【国際公開番号】WO2011/092201
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】