説明

液体クロマトグラフィの条件決定支援装置、液体クロマトグラフ、及び液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラム

【課題】以前は経験と勘に頼っていた液体クロマトグラフの負荷量やカラムサイズの決定を適切に支援し、作業効率を向上させる。
【解決手段】液体クロマトグラフの制御用パソコンの条件決定支援プログラムは、実行されるとディスプレイにウインドウ71を表示し、事前の薄層クロマトグラフィで実測された各成分の移動度Rf1,Rf2をユーザにテキストボックス72,73から入力させる。なお、この移動度Rf1,Rf2の入力は、スポット指示領域74に描画される薄層板の図形81上で、薄層クロマトグラフィの結果に応じた位置にスポット図形82a,82bをマウスでドラッグ移動することで行うこともできる。移動度Rf1,Rf2の指定後にOKボタン76をクリックすると、各サイズのカラム(S,M,L,・・・)について、好適な分離度(例えば、Rs=1)を実現するための負荷量が計算されて結果表示領域75に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動相として液体溶媒(溶離液)を用いる液体クロマトグラフィに関する。詳細には、液体クロマトグラフィを行う際の条件検討に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィにおいては、固定相が充填された分離カラムに、複数の成分を有する試料、及び、所定の混合比で混合された複数の溶媒からなる移動相に相当する溶離液が流される。このとき、溶離液とともにカラムに流入した試料は、カラムに充填された固定相に吸着しつつ溶離液の流下に伴って移動し、所定時間後にカラムから排出される。
【0003】
ここで、試料に含まれた各成分が排出されるのに要する時間は、溶離液との親和性やカラムの固定相と各成分との相互作用等に依存し、成分ごとに異なる。具体的にいえば、溶離液との親和性が弱いものや、固定相との相互作用が強いものは、カラム内に長く留まる。一方、溶離液との親和性が強いものや、固定相との相互作用が弱いものは、早く排出される。これによって、カラムに設置された試料が成分ごとに分離されて溶出する。
【0004】
このような液体クロマトグラフィを行う液体クロマトグラフは、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2003−240765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の液体クロマトグラフィにおいては、分離用カラムのサイズと負荷量は、例えば内径が2cmのカラムでは負荷量は大体1グラム近辺が良い、というように、単に経験と勘に頼って決定されることが多かった。また、カラムのサイズと負荷量は、各成分の溶離液との親和性や各成分の固定相との相互作用の差異(選択性)等を考慮せず単純に決定されていたため、予測が外れることも多かった。従って、液体クロマトグラフィによる分析や分取に失敗したり、無用に長時間を要してしまったりすることが頻発しており、クロマトグラフィの効率を低下させてしまっていた。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下のように構成する、液体クロマトグラフィの条件決定支援装置が提供される。即ち、複数の成分について、薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf値の実測値を入力するための実測値入力手段と、この実測値入力手段で入力された移動度Rf値における、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量を求めるための負荷量算出手段と、この負荷量算出手段で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段と、を備える。
【0008】
この構成により、薄層クロマトグラフィで得られた移動度の結果(Rf値)から適切な負荷量を計算してユーザに呈示することができ、ユーザ側としてはこれを参考にしながら条件を決定することで、分離等の作業効率を向上させることができる。
【0009】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記負荷量算出手段は、前記実測値入力手段で入力された移動度Rf値から、当該複数の成分を所定の分離度で分離可能とするために必要な理論段数を求める第1演算手段と、前記理論段数と、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量との関係を予め記憶しておくための記憶手段と、この記憶手段に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段で求められた理論段数から負荷量を求めるための第2演算手段と、を備える。
【0010】
この構成により、適切な分離度を実現するための負荷量をユーザに提示できるので、良好なクロマトグラフィ結果が容易に得られる。
【0011】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記負荷量算出手段は、前記移動度Rf値から、液体クロマトグラフィの複数種類のカラムについて、前記負荷量を当該カラムの種類ごとに求めるものとする。前記負荷量出力手段は、前記カラムのそれぞれの種類について負荷量を出力するように構成されている。
【0012】
この構成により、例えば分離したい試料の負荷量が決まっている場合に、それを好適に分離できるカラムを複数種類の中から適切に選定できるよう、ユーザの条件決定過程を支援できる。
【0013】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記実測値入力手段は、ディスプレイ装置の表示画像の任意の点を指示可能なポインティング装置を含む。前記移動度Rf値の実測値は、前記ディスプレイ装置に描画された薄層板の画像上の点を前記ポインティング装置で指示することにより入力可能である。
【0014】
この構成により、事前に行われた薄層クロマトグラフィでの薄層板の状態をそのまま入力するかのような直感的で優れた操作性を提供でき、容易な操作で的確に移動度Rf値を入力できる。
【0015】
本発明の第2の観点によれば、以下のように構成する、液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムが提供される。即ち、コンピュータを、複数の成分について、薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf値の実測値を入力するための実測値入力手段、この実測値入力手段で入力された移動度Rf値における、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量を求めるための負荷量算出手段、及び、この負荷量算出手段で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段として機能させる。
【0016】
この構成により、薄層クロマトグラフィで得られた移動度Rf値の結果から適切な負荷量を計算してユーザに呈示することができ、ユーザ側としてはこれを参考にしながら条件を決定することで、分離等の作業効率を向上させることができる。
【0017】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムにおいては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記負荷量算出手段は、前記実測値入力手段で入力された移動度Rf値から、当該複数の成分を所定の分離度で分離可能とするために必要な理論段数を求める第1演算手段と、前記理論段数と、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量との関係を予め記憶しておくための記憶手段と、この記憶手段に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段で求められた理論段数から負荷量を求めるための第2演算手段と、を備える。
【0018】
この構成により、適切な分離度を実現するための負荷量をユーザに提示できるので、良好なクロマトグラフィ結果が容易に得られる。
【0019】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムにおいては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記負荷量算出手段は、前記移動度Rf値から、液体クロマトグラフィの複数種類のカラムについて、前記負荷量を当該カラムの種類ごとに求めるものとする。前記負荷量出力手段は、前記カラムのそれぞれの種類について負荷量を出力するように構成されている。
【0020】
この構成により、例えば分離したい試料の負荷量が決まっている場合に、それを好適に分離できるカラムを複数種類から適切に選定できるよう、ユーザの条件決定過程を支援できる。
【0021】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムにおいては、前記実測値入力手段において、前記移動度Rf値の実測値は、コンピュータのディスプレイ装置に描画された薄層板の画像上の点をポインティング装置で指示することにより入力可能であることが好ましい。
【0022】
この構成により、事前に行われた薄層クロマトグラフィでの薄層板の状態をそのまま入力するかのような直感的で優れた操作性を提供でき、容易な操作で的確に移動度Rf値を入力できる。
【0023】
また、本発明の他の観点によれば、上記の構成の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置を備える液体クロマトグラフが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は薄層クロマトグラフィによって各成分の移動度Rf値を実測する方法を示す説明図である。
【0025】
まず図1を参照して、液体クロマトグラフィを行う前段階の工程としての薄層クロマトグラフィ(TLC)について説明する。この薄層クロマトグラフィは、分離する試料の各成分1,2の移動度Rf1,Rf2を実測するために行われるものである。
【0026】
薄層クロマトグラフィの方法を説明すると、先ず、固定相としてのシリカゲル粉末を細長い平板(例えば、ガラス板)の表面上に薄く均一に塗布して、シリカゲル薄層板11を作成する。そして、このシリカゲル薄層板11上のシリカゲルに、分離したい試料を1滴滴下し、試料スポット12を形成させておく。この滴下する試料は、少なくとも2つの成分(成分1と成分2)が混合したものである。
【0027】
次に、このシリカゲル薄層板11の下部を、図1の左側に示すように、容器13に貯溜した溶離液14に浸漬する。すると、薄層板11上のシリカゲル薄層に溶離液14が毛管現象によって吸い上げられてゆく。これに伴い、試料スポット12も上方へ移動するが、試料に含まれた各成分が上昇する速度は、溶離液14との親和性や固定相としてのシリカゲルとの相互作用等に依存し、成分ごとに異なる。従って、所定の時間が経過すると、図1の右側に示すように、試料スポット12に含まれていた成分1は12aの位置まで、成分2は12bの位置まで、それぞれ移動することになる。このようにして2つの成分の分離が実現される。
【0028】
以上の状態で、薄層板11を溶離液14に浸漬する前の試料スポット12の位置から、吸い上げられた溶離液14の上端位置までの距離L0を測定するとともに、試料の各成分の移動距離Lr1,Lr2を併せて測定する。そして、各成分の移動度Rf1,Rf2を、Rf1=Lr1/L0,Rf2=Lr2/L0の式に従って求める。求めた値は、後述する液体クロマトグラフのパーソナルコンピュータへ入力するために、適宜記録しておく。
【0029】
次に、図2及び図3を参照して液体クロマトグラフを説明する。図2は液体クロマトグラフの模式図及びブロック図、図3は液体クロマトグラフの制御用パーソナルコンピュータにおいて、条件決定支援プログラムが実現する機能を示すブロック図である。
【0030】
この液体クロマトグラフ21は、2つの容器31・32と、これらの容器31・32からそれぞれ延びる送液経路の相互接続箇所に設けられる電磁弁33と、ポンプ36と、溶離液34が貯溜される混合器35と、ポンプ37と、インジェクタ38と、カラム39と、検出器40と、フラクションコレクタ41とが、送液方向に従って上記の順に配置されている。また、液体クロマトグラフ21はパーソナルコンピュータ51を備えており、このパーソナルコンピュータ51は、上記の各装置を所望のクロマトグラフィ条件に従って制御する制御装置としての機能と、当該クロマトグラフィ条件をユーザが決定する際にそれを支援する条件決定支援装置としての機能を備えている。
【0031】
容器31には溶媒Aが貯溜され、容器32には溶媒Bが貯溜されている。なお、用いられる溶媒はA,Bの2種類に限定されず、使用状態や目的に応じて数を増やしても良い。一般に、溶媒A及び溶媒Bとしては、非極性分子と極性分子との組み合わせが用いられる。
【0032】
前記ポンプ36は、電磁弁33を介して溶媒A,Bを汲み上げるように構成している。電磁弁33は、前記パーソナルコンピュータ51からの制御信号に基づいて、汲み上げられる溶媒を溶媒A又は溶媒Bから選択し、かつその選択時間の割合を調整することで、所定の混合比の溶離液34とする。なお、この溶離液34は、上記の薄層クロマトグラフィ(図1)において使用された溶離液14と同じ種類のものが使用される。
【0033】
インジェクタ38は試料を保持しており、混合器35からポンプ37により吸引され吐出された溶離液34がインジェクタ38を通過することで、試料を送出するように構成されている。
【0034】
カラム39は内部に固定相が充填された管状容器とされており、この固定相を試料が前記溶離液34とともに通過することで液体クロマトグラフィが行われる。この固定相としては、薄層クロマトグラフィ(図1)において薄層板11に積層されたものと同じものを使用することとし、本実施形態ではシリカゲルを使用している。
【0035】
なお、このカラム39は、カラム寸法(カラム径やカラム長さ)や前記固定相の種類等が異なる複数種類のものが用意されており、これらから1種類を適宜選択して液体クロマトグラフ21にセットして使用できるように構成している。
【0036】
検出器40は、前記カラム39の下流側に配置されており、当該カラム39で行われる液体クロマトグラフィの結果を検出するものである。この検出結果は、上記パーソナルコンピュータ51へ送信されるようになっている。また、フラクションコレクタ41は複数の試験管を備えており、検出器40の分析結果に基づいて、試料に含まれる成分ごとに各試験管に分取できるように構成されている。
【0037】
前記パーソナルコンピュータ51は汎用のものを使用しており、図2に示すように、CPU52と、メモリ53と、ハードディスク54と、外部とのインターフェース55と、キーボード56と、マウス(ポインティング装置)57と、ディスプレイ装置58と、を備えている。
【0038】
そして、前記パーソナルコンピュータ51は、前記薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf1,Rf2の実測値入力手段61と、実測値入力手段61で入力された移動度Rf1,Rf2における、液体クロマトグラフィのカラム39への試料の負荷量を算出する負荷量算出手段62と、この負荷量算出手段62で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段63と、を備えている。
【0039】
また、負荷量算出手段62は、実測値入力手段61で入力された前記移動度Rf1,Rf2から、当該2つの成分を所定の分離度Rsで分離可能とするために必要な理論段数Nを求める第1演算手段64や、前記理論段数Nと、前記カラム39への試料の負荷量との関係を記憶可能な記憶手段65や、この記憶手段65に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段64で求められた理論段数Nから負荷量を求める第2演算手段66を備えている。
【0040】
具体的には、液体クロマトグラフィの制御プログラムや条件決定支援プログラム等を含む各種のソフトウェアがパーソナルコンピュータ51のハードディスク54に記憶されている。そして、上記ハードウェア及びソフトウェアが組み合わされることによって、図2に示す上記の各手段61〜66が構築されている。
【0041】
なお、上記のソフトウェアは、当該プログラムを記録したCD−ROM、FD、MO等の記録媒体を用いてインストールすることで、パーソナルコンピュータ51のハードディスク54に記憶させることができる。あるいは、上記インストールは、インターネット等のネットワークを介して行うことも可能である。
【0042】
上記のパーソナルコンピュータ51を用いて液体クロマトグラフィの条件設定を行うのであるが、この条件には、例えば、溶離液34の混合比や、カラム39へ流入させる溶離液34の流量等が含まれる。パーソナルコンピュータ51はこれらの条件に基づいて電磁弁33やポンプ36・37等を制御し、液体クロマトグラフィを行う。また、パーソナルコンピュータ51は、検出器40からの検出信号を解析し、ディスプレイ装置58に流出曲線を描画させたり、ハードディスク54等に結果を保存したりできるようになっている。
【0043】
ここで、上記液体クロマトグラフィの条件には、前述した複数種類のカラム39のうちどのカラムを選択して用いるのか、及び、前記インジェクタ38にセットする試料の量(負荷量)が含まれている。そして本実施形態では、上記の条件決定支援プログラムによって、ユーザが行うカラム39の種類の選択や負荷量を適切に決定できるよう、その決定過程を支援するようになっている。
【0044】
以下、この条件決定支援プログラムについて説明する。図4は条件決定支援プログラムがディスプレイに表示するウインドウを示す図、図5は各サイズのカラムに対する負荷量の計算結果を表示した様子を示す図、図6はLサイズのカラムを用いた場合の、負荷量と、分離度Rs=1を実現するために必要な理論段数との関係を示す図である。
【0045】
この条件決定支援プログラムが実行されると、上記ディスプレイ装置58には、例えば図4のようなGUI(グラフィカルユーザインタフェース)を備えたウインドウ71が表示される。このウインドウ71には、上記の薄層クロマトグラフィで実測した移動度Rf1,Rf2の数値を入力するためのテキストボックス72,73と、薄層クロマトグラフィのシリカゲル薄層板11でのスポット位置を画面上で指示することで移動度Rf1,Rf2を指定するためのスポット指示領域74と、計算された負荷量の結果を表示する結果表示領域75と、負荷量の計算を指示するOKボタン76と、ウインドウ71を閉じて条件決定支援プログラムの実行を終了するためのキャンセルボタン77と、が配置されている。
【0046】
以上の画面構成で、ユーザはウインドウ71のテキストボックス72,73の部分にマウスポインタ80を合わせるようにマウス57を操作してクリックし、移動度Rf1,Rf2の数値を「0.5」や「0.3」等と、キーボード56から入力する。両テキストボックス72,73に移動度Rf1,Rf2を入力した後は、OKボタン76をクリックする。すると、試料の負荷量が後述する手順に従って計算され、その計算結果が結果表示領域75に表示される。
【0047】
この結果表示領域75はテーブル形式になっており、複数あるカラム39の種類のそれぞれについて、対応する負荷量の数値を一覧形式で出力できるようになっている。本実施形態では、「サイズ」の列にカラム39の種類(本実施形態の液体クロマトグラフ21では、S,M,L,2L,3L,4L,5Lとサイズの異なる計7つの種類のカラム39をセット可能である)を表示し、「g」の列に、当該サイズのカラム39を用いた場合に試料を何グラムセットすべきか(負荷量)を、各サイズについてそれぞれ表示する。例えば図5に示すように、「M」の行に「0.1」と表示され、「L」の行に「1.0」と表示される。
【0048】
この図5の表示から、ユーザは、例えば1グラムの試料を分取したい場合はLサイズのカラム39を用いれば良好な結果が得られるだろうという情報を得ることができる。従って、ユーザはこの情報を参考にして適切なカラム39のサイズを選定できるので、液体クロマトグラフィに無用に長い時間を要したり、分取がうまくいかずに分離をやり直したりすることがなくなり、分析作業を顕著に効率化できる。
【0049】
なお、前記移動度Rf1,Rf2の入力は、テキストボックス72,73を用いてキーボード56から直接入力するのではなく、スポット指示領域74を用いて、マウス57の操作で行うこともできる。このスポット指示領域74には、前記薄層クロマトグラフィでの薄層板11を模した図形81が描かれ、この図形81内に、前記成分1,成分2のスポット位置12a,12bに対応する円状の2つのスポット図形82a,82bが描かれている。スポット指示領域74の下部の長い横線は、移動前の試料スポット12の位置に対応しており、上部の長い横線は、吸い上げられた溶離液14の位置に対応している。即ち、上下の長い横線の間の距離が、図1で図示する距離L0に対応している。
【0050】
図4の表示例では、上側のスポット図形82aはRf1=0.5の位置に描かれ、下側のスポット図形82bはRf2=0.3の位置に描かれている。これを変更するには、例えば下側のスポット図形82bにマウスポインタ80を合わせた状態でマウスボタンを押し下げ、この状態でマウスポインタを上方へ動かして、所望の位置でマウスボタンを離す。すると、スポット図形82bを上側、例えばRf2=0.4の位置へ移動させることができる(そのようにプログラムされている)。この移動と同時に、テキストボックス73に入力されている数値は、新しいスポット図形82bの位置に対応する数値(0.4)に自動的に変更される。また、成分1の移動度Rf1についても、上側のスポット図形82aを上記と同様にドラッグ操作することで、容易に設定することができる。
【0051】
以上により、図1の薄層クロマトグラフィ結果のスポット位置12a,12bをそのままディスプレイ装置58の画面上で指定する感覚で各成分の移動度Rf1,Rf2を指定でき、直感的で優れた操作性が実現されている。また、移動度Rf1,Rf2のマウス57による指示を更に容易とするために、スポット指示領域74には、前記の距離L0を適宜の間隔で等分する目盛78が描かれるとともに、スポット指示領域74の脇の位置には、操作方法を説明する説明文79が表示されている。
【0052】
なお、テキストボックス72,73から移動度Rf1,Rf2を直接数値で入力すると、その数値に対応した位置に、前記スポット指示領域74のスポット図形82a,82bが自動的に移動するようになっている。これにより、ユーザは移動度Rf1,Rf2の入力値の確認を容易に行うことができ、入力ミスが防止される。
【0053】
次に、上記の負荷量の計算について、以下詳細に説明する。一般に試料の液体クロマトグラフィにおいて、当該試料の成分である成分1と成分2との分離の度合いを表す指標(流出曲線におけるピーク、バンドの接近度)として分離度Rsがあり、この分離度Rsは以下の式(1)のように表せることが知られている。
【数1】

なお、上記の式において、Nは理論段数、αは選択性因子、k’は保持比である。
【0054】
ここで前記保持比k’は、溶離液34とともに試料がカラム39に流入し始めてから溶離液34がカラム39から流出するまでの時間(所謂ボイドタイム)をt0とし、溶離液34とともに試料がカラム39に流入し始めてからカラム39から流出するまでの時間をtrとすると、下記の式(2)で表される。
【数2】

【0055】
そして、本実施形態の液体クロマトグラフ21では、目的物質のピーク時間trが上記ボイドタイムt0のほぼ4倍の値になるように、パーソナルコンピュータ51でクロマトグラフィ条件を適宜自動設定するよう構成している(tr=4×t0)。この条件を上記の式(2)に当てはめると、k’=3になる。
【0056】
また、本実施形態の液体クロマトグラフ21では、前記フラクションコレクタ41での各試験管への分取を好適に行うために必要十分な分離度の具体的な値として、Rs=1を設定している。従って、上記の式(1)にRs=1、k’=3を代入し、更にN=の形に変形することで、分離度Rs=1を実現するために必要な理論段数Nの式を下記の式(3)のように導くことができる。
【数3】

【0057】
そして、前記の選択性因子αは、具体的には下記の式(4)で表される。
【数4】

【0058】
上記の式(4)において、k1’及びk2’は、成分1及び成分2についての個別の保持比である。即ち、液体クロマトグラフィ開始から成分1のピークが現れるまでの時間をtr1、成分2のピークが現れるまでの時間をtr2としたときに、k1’及びk2’は、下記の式(5)で表される。
【数5】

【0059】
ここで、上述した薄層クロマトグラフィにおける各成分の移動度Rf1,Rf2は、固定相内の各成分の移動速度の溶離液移動速度に対する比として捉えることができる。一方、液体クロマトグラフィにおいては、固定相内の各成分の移動速度の溶離液移動速度に対する比は、上記のボイドタイムt0を、カラム39内を各成分が移動するのに要した時間tr1、tr2でそれぞれ除することで得られる。従って、各成分について、薄層クロマトグラフィでの移動速度の比(移動度Rf1,Rf2)と液体クロマトグラフィでの保持時間の比(t0/tr1,t0/tr2)とをそれぞれ等しいとおくことで、下記の式(6)を導くことができる。
【数6】

上記の式は、薄層クロマトグラフィと液体クロマトグラフィとを具体的に関係付ける重要な式として知られている。
【0060】
そして、上述の式(5)を変形することで、k1’及びk2’を、移動度Rf1,Rf2を用いて下記の式(7)のように表すことができる。
【数7】

【0061】
この式(7)の関係を式(4)へ代入し、得られたαを更に式(3)へ代入することで、下記の式(8)が導かれる。
【数8】

【0062】
ここで256/9≒28であり、またa=1/Rf1とおくことで、上記の式(8)は下記の式(9)のように変形できる。
【数9】

【0063】
以上により、分離度Rs=1を実現するために必要な理論段数Nと、移動度Rf1,Rf2との関係が得られる。即ち、上記の条件決定支援プログラムでは、上記のOKボタン76がクリックされると、テキストボックス72,73に入力されている移動度Rf1,Rf2から、上記の式(9)を用いて、Rs=1を実現するために必要な理論段数Nを求めるようになっている。以上により、図3に示す第1演算手段64の機能が実現されている。例えば、図4のウインドウでの入力例に示すようにRf1=0.5,Rf2=0.3が指定されたとすると、式(9)から、N≒86が得られる。
【0064】
上記の理論段数Nを求めた後は、上述した各サイズのカラム39のそれぞれについて、当該理論段数Nに対応する負荷量を求める。即ち、前記ハードディスク54には、例えば図6に示すような理論段数Nと負荷量との関係が記憶されている(図3に示す記憶手段65の機能)。この図6に例示するグラフは、横軸に負荷量を、縦軸に理論段数Nを、それぞれ対数目盛で表したものである。このグラフに示すように、負荷量が所定の負荷量を下回っているときは理論段数Nは大きい値で一定であるが、所定の負荷量以上になると、負荷量の増大に従って理論段数Nは対数目盛において直線的(一次関数的)に減少する傾向を示す。
【0065】
本実施形態においてハードディスク54に記憶される条件決定支援プログラムには、図6に例示するような理論段数Nと負荷量との関係を表した所定の関係式が含まれている。なお、この関係式は事前の実験に基づいて求めたものである。
【0066】
また、図6ではLサイズのカラム39についての関係を代表して示しているが、SサイズやMサイズ等の他のサイズのカラム39についても、理論段数Nと負荷量との関係を実験等で事前に求め、それを関係式として表したものが条件決定支援プログラムに含まれている。このようにして、図3に示す記憶手段65の機能が実現されている。
【0067】
次に、前述の計算で得られた理論段数Nに対応する負荷量を、前記の関係式を用いて求める。例えば前記の例では理論段数Nが86と計算されたが、Lサイズのカラム39を使用すると仮定すると、理論段数N=86に対応する負荷量は図6のグラフから1グラムになることが判る。以上のようにして、図3に示す第2演算手段66の機能が実現されている。こうして得られた負荷量は、前述したとおり、ウインドウ71の結果表示領域75に表示される。上記の例に照らして言えば、図5のように、結果表示領域75の「L」の行に「1.0」という計算結果が表示されることになる。
【0068】
なお、図5では計算結果の数値を一部しか図示していないが、上記の対応負荷量の計算は、S,M,L,・・・の全てのサイズについて行われる。例えば、Mサイズのカラム39の場合の関係式を用いるとN=86に対応する負荷量が0.1グラムになると計算された場合、結果表示領域75の「M」の行には「0.1」という計算結果が表示されることになる。
【0069】
以上に示すように、本実施形態の液体クロマトグラフ21が備えるパーソナルコンピュータ51は、複数の成分について、薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf1,Rf2の実測値を入力するための実測値入力手段61と、この実測値入力手段61で入力された移動度Rf1,Rf2から、液体クロマトグラフィのカラム39への試料の負荷量を求めるための負荷量算出手段62と、この負荷量算出手段62で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段63と、を備える。
【0070】
従って、薄層クロマトグラフィで得られた移動度Rf1,Rf2の結果から適切な負荷量を計算してユーザに呈示することができ、ユーザ側としてはこれを参考にしながら条件を決定することで、分離等の作業効率を向上させることができる。
【0071】
また、負荷量の計算は上述したとおり各成分1,2の移動度Rf1,Rf2を基に行われるので、負荷量を合理的に計算することができる。即ち、液体クロマトグラフィでは、成分1と成分2とで溶離液との親和性の差や固定相との相互作用の差が小さい場合は、大きい場合に比べて、良好な分離度を実現するために大きな理論段数(小さな負荷量)が必要になる。この点、本実施形態では、薄層クロマトグラフィにおいて各成分1,2の溶離液との親和性や固定相との相互作用の強弱を意味するパラメータである移動度Rf1,Rf2を使用して負荷量を計算するので、上記のような事情を適切に考慮しながら計算できることになり、この結果、信頼度の高い負荷量をユーザに呈示できるのである。
【0072】
また、負荷量算出手段62は、前記実測値入力手段61で入力された移動度Rf1,Rf2から、当該複数の成分を所定の分離度(本実施形態ではRs=1)で分離可能とするために必要な理論段数Nを求める第1演算手段64と、前記理論段数Nと、液体クロマトグラフィのカラム39への試料の負荷量との関係(図6に例示する関係)を予め記憶しておくための記憶手段65と、この記憶手段65に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段64で求められた理論段数Nから負荷量を求めるための第2演算手段66と、を備える。
【0073】
従って、適切な分離度を実現するための条件をユーザに提示できるので、良好なクロマトグラフィ結果が容易に得られる。
【0074】
また、負荷量算出手段62は、前記移動度Rf1,Rf2から、液体クロマトグラフィのS,M,L,・・・の複数種類のカラム39について、前記負荷量を当該カラム39の種類ごとに求めている。そして、前記負荷量出力手段63は、図5に示すように、前記カラム39のそれぞれの種類(S,M,L,・・・)ごとに負荷量を出力するように構成されている。
【0075】
従って、例えば分離したい試料のグラム数が決まっている場合に、それを好適に分離できるサイズのカラム39をS,M,L,・・・の中から適切に選定できるよう、ユーザの条件決定過程を支援できる。
【0076】
更に、前記実測値入力手段61には、ディスプレイ装置58の表示画像の任意の点を指示可能なマウス57が含まれており、前記移動度Rf1,Rf2の実測値は、前記ディスプレイ装置58のスポット指示領域74に描画された薄層板図形81上の点を前記マウス57のドラッグ操作で指示することにより入力可能になっている。
【0077】
従って、事前に行われた薄層クロマトグラフィでの薄層板11の状態をそのまま入力するかのような直感的で優れた操作性を提供でき、容易な操作で的確に移動度Rf1,Rf2を入力できる。
【0078】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、以上は一例であって、例えば以下のように変更することができる。
【0079】
上記の実施形態ではサイズが異なる複数種類のカラムから適切なサイズのカラム39を選択する場合を示したが、これに限らず、例えば内部の固定相が異なる複数種類のカラムから適切なカラムを選択する場合にも、上記の支援プログラムを適用することができる。
【0080】
上記の条件決定支援プログラムと制御プログラムとを連動させるように構成することができる。例えば、図5の結果表示領域75において「L」の行をダブルクリックすれば、ウインドウ71が閉じられて条件決定支援プログラムが終了するとともに、液体クロマトグラフィの制御プログラムにおいて、Lサイズのカラム39を使用した場合に好適な条件パラメータが直ちに自動設定される、といったようにである。
【0081】
また、上述した負荷量の計算において、上記のRs=1、tr=4×t0等の条件は、分析の目的等を考慮して適宜変更することができる。
【0082】
図4に示すように、ウインドウ71が表示された当初の状態では、移動度Rf1のテキストボックス72には最初から「0.5」の数値(所謂デフォルト値)が入力されている。これは、Rf1=0.5とすると上記の式(9)でa=2となって計算が簡単になり、処理の都合が良いからである。ただし、デフォルト値を0.5にすることに限らず、他の値を採用しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】薄層クロマトグラフィによって各成分の移動度を実測する方法を示す説明図。
【図2】液体クロマトグラフの模式図及びブロック図。
【図3】液体クロマトグラフの制御用パーソナルコンピュータにおいて、条件決定支援プログラムが実現する機能を示すブロック図。
【図4】条件決定支援プログラムがディスプレイに表示するウインドウを示す図。
【図5】条件決定支援プログラムが各サイズのカラムに対する負荷量の計算結果を表示した様子を示す図。
【図6】Lサイズのカラムを用いた場合の、負荷量と、分離度Rs=1を実現するために必要な理論段数との関係を示す図。
【符号の説明】
【0084】
21 液体クロマトグラフ
39 カラム
51 パーソナルコンピュータ
71 ウインドウ
72,73 テキストボックス
74 スポット指示領域
75 結果表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分について、薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf値の実測値を入力するための実測値入力手段と、
この実測値入力手段で入力された移動度Rf値における、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量を求めるための負荷量算出手段と、
この負荷量算出手段で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段と、
を備えることを特徴とする、液体クロマトグラフィの条件決定支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置であって、
前記負荷量算出手段は、
前記実測値入力手段で入力された移動度Rf値から、当該複数の成分を所定の分離度で分離可能とするために必要な理論段数を求める第1演算手段と、
前記理論段数と、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量との関係を予め記憶しておくための記憶手段と、
この記憶手段に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段で求められた理論段数から負荷量を求めるための第2演算手段と、
を備えることを特徴とする、液体クロマトグラフィの条件決定支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置であって、
前記負荷量算出手段は、前記移動度Rf値から、液体クロマトグラフィの複数種類のカラムについて、前記負荷量を当該カラムの種類ごとに求めるものとし、
前記負荷量出力手段は、前記カラムのそれぞれの種類について負荷量を出力するように構成されていることを特徴とする、液体クロマトグラフィの条件決定支援装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置であって、
前記実測値入力手段は、ディスプレイ装置の表示画像の任意の点を指示可能なポインティング装置を含み、
前記移動度Rf値の実測値は、前記ディスプレイ装置に描画された薄層板の画像上の点を前記ポインティング装置で指示することにより入力可能であることを特徴とする、液体クロマトグラフィの条件決定支援装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項6】
複数の成分について、薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf値の実測値を入力するための実測値入力手段、
この実測値入力手段で入力された移動度Rf値における、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量を求めるための負荷量算出手段、及び、
この負荷量算出手段で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段、
としてコンピュータを機能させることを特徴とする、液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムであって、
前記負荷量算出手段は、
前記実測値入力手段で入力された移動度Rf値から、当該複数の成分を所定の分離度で分離可能とするために必要な理論段数を求める第1演算手段と、
前記理論段数と、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量との関係を予め記憶しておくための記憶手段と、
この記憶手段に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段で求められた理論段数から負荷量を求めるための第2演算手段と、
を備えることを特徴とする、液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムであって、
前記負荷量算出手段は、前記移動度Rf値から、液体クロマトグラフィの複数種類のカラムについて、前記負荷量を当該カラムの種類ごとに求めるものとし、
前記負荷量出力手段は、前記カラムのそれぞれの種類について負荷量を出力するように構成されていることを特徴とする、液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラム。
【請求項9】
請求項6から8までの何れか一項に記載の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムであって、
前記実測値入力手段において、前記移動度Rf値の実測値は、コンピュータのディスプレイ装置に描画された薄層板の画像上の点をポインティング装置で指示することにより入力可能であることを特徴とする、液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−163153(P2007−163153A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356233(P2005−356233)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(391048533)山善株式会社 (11)