説明

液体クロマトグラフィー用カラム及びその調製方法

【課題】低い流路抵抗であり、かつ十分な分離性能が得られる液体クロマトグラフィー用カラムを調製する。
【解決手段】-30〜0℃の低温下で100〜250 mW/cm2の光強度で100〜240秒の時間での光重合により有機モノリスカラムを調製し、光重合後、カラムをメタノールで洗浄することにより、カラム中心部の”脆い”部分を破壊し、内部に巨大貫通孔を形成させた。これにより、(b)、(c)に示すように、中心部に曲がりくねる巨大貫通孔が形成され、その周りにモノリス構造体が形成された液体クロマトグラフィー用カラムを調製することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー用カラム及びその調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分離分析手法である、液体クロマトグラフィーにおいては、分離場として、通常、微粒子充填型カラムが用いられている。一方、充填カラム以外のカラムとしては、近年、連続多孔性構造体を分離場として用いる「モノリスカラム」が開発され注目されている(特許文献1、非特許文献1参照)。モノリスカラムは、充填型カラムと比較して流路抵抗が小さいため、高速送液分離(高速分離)、長いカラムを用いた分離性能の向上などの利点がある。また、さらに別種のカラムとして、キャピラリー管の内壁のみに固定相が存在する、「中空キャピラリーカラム」も存在する(非特許文献2参照)が、液体クロマトグラフィーの分野では、研究レベルで取り扱われているだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−247515号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Methacrylate-ester-based reversed phase monolithic columns for high speed separation prepared by low temperature UV photo-polymerization”, Hirano, T.; Kitagawa, S.; Ohtani, H., Anal. Sci., 2009, 25, 1107-1113.
【非特許文献2】“Open-Tubular Capillary Columns with a Porous Layer of Monolithic Polymer for Highly Efficient and Fast Separations in Electrochromatography”, Eeltink, S.; Svec, F.; Frechet, J. M. J. Electrophoresis 2006, 27, 4249-4256.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モノリスカラムは流路抵抗が小さいことが特徴ではあるが、より低い圧力での送液を行うためには更なる流路抵抗の低減が必要である。一方、中空キャピラリーカラムは、モノリスカラムよりも流路抵抗が小さく、より低い圧力での送液が可能であるが、試料の保持能力が小さく、場合によっては十分な分離を行うことが困難であるという問題点がある。分離カラムとしては低い流路抵抗だけではなく分離性能も維持する必要がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、低い流路抵抗であり、かつ十分な分離性能が得られる液体クロマトグラフィー用カラム及びその調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を行い、より低い流路抵抗であり、ある程度の試料保持能力と十分な分離性能が得られるカラムとして、モノリスカラムと中空キャピラリーカラムのハイブリッドタイプのカラムを新たに構築した。具体的には、モノリスカラムの中心部に、曲がりくねる巨大貫通孔を形成させることで、流路抵抗を低下させ、巨大貫通孔周りに存在するモノリス部で試料保持力の低下を防ぐ形のカラムを開発した。
したがって、本発明は、中心部に曲がりくねる貫通孔が形成され、その周りにモノリス構造体が形成されている液体クロマトグラフィー用カラムを特徴とする(請求項1)。
また、本発明は、光重合を用いてモノリスカラムを調製する液体クロマトグラフィー用カラムの調製方法であって、光重合後に、カラム中心部に曲がりくねる貫通孔を形成する液体クロマトグラフィー用カラムの調製方法を特徴とする(請求項2)。この場合、より好ましくは、光重合後に、カラムを洗浄することにより、カラム中心部の脆い部分を除去して内部に貫通孔を形成する(請求項3)。また、このカラムの洗浄は、-30〜0℃の低温下で100〜250 mW/cm2の光強度で100〜240秒の時間での光重合を行った後に行うことが好ましい(請求項4)。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態における低流路抵抗性を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態で調製したカラムにおけるアルキルベンゼン類の分離結果を示す図である。
【図3】カラム構造を示す図で、(a)は通常のモノリスカラム、(b)は本発明の第1実施形態におけるモノリスカラム、(c)は本発明の第1実施形態で調製したカラムの共焦点顕微鏡観察である。
【図4】本発明の第1実施形態において、内部に気泡が入らないようにして調製されたカラムにおけるアルキルベンゼン類の分離結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランで内壁を修飾した内径100μm、外径375μmのUV透過フューズドシリカキャピラリーに、メタクリル酸ブチル(モノマー,24%)、二メタクリル酸エチレン(架橋剤,16%)、1-デカノール(細孔形成剤,34%)、シクロヘキサノール(細孔形成剤,26%)、2,2-ジメトキシフェニル-2-アセトフェノン(光開始剤、モノマーと架橋剤の合計に対して1%)からなる重合反応溶液を注入した。このキャピラリーに、-15℃に保った恒温装置内で紫外線(強度170 mW/cm2,波長 365 nm)を照射し、in situ光重合により有機モノリスカラムを調製した。光重合後、カラムにメタノールを送液、未反応物を除去し、カラム長10 cmにカットした。
1〜8分間の範囲で重合時間を変化させたところ、重合時間が短いほど背圧は小さくなる傾向がみられたが、モノリスの耐圧性も低下した。一方、重合時間が2分間のときにカラム効率が最大となった。これらの検討の結果、重合時間は2分間を最適とした。
【0010】
重合時間2分間のカラムの線流速と背圧の関係を図1に示す。線流速1〜50 mm/sという広い範囲で、線流速と背圧の間に良い直線関係がみられた。本実施形態よりも低UV照射強度、高温で調製した既報(通常)の有機モノリスカラム(UV強度2.0 mW/cm2,波長254 nm,照射時間8分,重合温度0℃,反応溶液組成は同じ)と比較して、背圧を約1/3に抑えることができた(図中、黒四角は既報のもの、白四角は本実施形態のものを示す)。
また、アルキルベンゼン標準試料の分離結果を図2に示す。HPLCで一般的に用いられる線流速1 mm/sにおいて、全ての試料成分に関して40,000 - 55,000段/m程度のカラム効率が得られた。このときの背圧は0.08 MPaと極めて低く、市販のモノリスカラムの約1/10に相当する。
上記した実施形態によれば、極めて流路抵抗の小さなメタクリル酸系有機モノリスカラム(市販のモノリスカラムの約1/10に相当)が調製でき、アルキルベンゼン類の分離において50,000段/m程度が得られる。
上記した実施形態について、さらに検討を進めたところ、重合時間を短くした場合、カラム中心部のモノリス構造の機械的強度が低下するため、重合直後のカラムをメタノールで洗浄することにより、カラム中心部の”脆い”部分を破壊し、内部に巨大貫通孔を形成させることが可能であることが分かった。
重合時間が1.5分の場合、カラム全体の重合が不十分であり、洗浄時に全てのモノリスが流出してしまった。一方,重合時間を2分間から16分へと増大させると、洗浄時の流出物(破壊されたモノリス)は減少した。重合時間が4分(240秒)以内であれば、内部に巨大貫通孔を形成させることができた。
重合時間2分で調製したカラムの内部構造の共焦点顕微鏡による観察結果を図3に示す。通常のモノリスカラム(図3(a)参照)では、構造体がカラム内均質に存在するが、本実施形態のカラム(図3(b)参照)では、内部に巨大貫通孔を意図的に形成させる。図3(c)に、本実施形態で調製したカラムの共焦点顕微鏡観察を示す。これから、カラム内に巨大貫通孔が形成されていることが確認できる。
つまり、本実施形態によれば、モノリスカラムと中空キャピラリーカラムのハイブリッドタイプのカラムで、モノリスカラムの中心部に、曲がりくねる10-30μm程度の巨大貫通孔を形成させることで、流路抵抗を低下させ、巨大貫通孔周りに存在するモノリス部で試料保持力の低下を防ぐ形のカラムを得ることができた。
また、上記した実施形態に対し、内部に気泡が入らないようにして調製されたモノリスカラムの、アルキルベンゼン標準試料の分離結果を図4に示す。HPLCで一般的に用いられる線流速1 mm/sにおいて、全ての試料成分に関して68,000 - 129,000段/mの十分な程度のカラム効率が得られた。このときの背圧は0.14MPaと極めて低く,市販のモノリスカラムの約1/5に相当する。また、図4に示す分離例では、中空キャピラリーカラムの数倍程度の保持が得られている。
【0011】
なお、上記した実施形態では、低温下(-15℃)で強い光強度(強度170mW/cm2)で短時間(120秒)での光重合を用いて有機モノリスカラムを調製するものを示したが、調製(重合)条件としては、温度-30〜0℃、光強度100〜250 mW/cm2、時間100〜240秒であれば、上記した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0012】
(他の実施形態)
上記の実施形態では、モノマーとしてメタクリル酸ブチルを用いているが、その他のメタクリル酸エステル(例えばメタクリス酸グリシジルなど)で代用することができる。
上記の実施形態では、細孔径製剤として1-デカノール/シクロヘキサノールを用いているが、その他の細孔径製剤(例えば1-プロパノール/1,4-ブタンジオール、水/1-プロパノール/1,4-ブタンジオールなど)で代用することができる。
また、上記の実施形態では、光重合後、カラムをメタノールで洗浄することにより、内部に巨大貫通孔を形成させるものを示したが、予め螺旋状物をキャピラリーに内にいれておき、光重合後に、その螺旋状物をキャピラリーから抜くことによって、中心部に曲がりくねる貫通孔が形成され、その周りにモノリス構造体が形成されたモノリスカラムを得るようにしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に曲がりくねる貫通孔が形成され、その周りにモノリス構造体が形成されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラム。
【請求項2】
光重合を用いてモノリスカラムを調製する液体クロマトグラフィー用カラムの調製方法であって、
光重合後に、カラム中心部に曲がりくねる貫通孔を形成することを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムの調製方法。
【請求項3】
光重合後に、カラムを洗浄することにより、カラム中心部の脆い部分を除去して内部に前記貫通孔を形成することを特徴とする請求項2に記載の液体クロマトグラフィー用カラムの調製方法。
【請求項4】
-30〜0℃の低温下で100〜250 mW/cm2の光強度で100〜240秒の時間での光重合を行った後、カラムを洗浄することを特徴とする請求項3に記載の液体クロマトグラフィー用カラムの調製方法。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−117950(P2011−117950A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240429(P2010−240429)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)