説明

液体クロマトグラフィー用部材

【課題】カラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、検体の測定を繰り返しても、通液圧力上昇が生じ難い液体クロマトグラフィー用部材を提供する。
【解決手段】充填剤粒子が充填された分析用カラムと、異物を濾過するためのフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、前記分析用カラムと前記異物を濾過するためのフィルタとが、上流側から異物を濾過するためのフィルタ、分析用カラムの順で、両者の間が実質的にゼロ距離となるように1つの筒状容器内に一体化されて配置されており、前記充填剤粒子は、平均粒径が2μm〜20μmであり、かつ、前記異物を濾過するためのフィルタは、濾過粒度が前記充填剤粒子の平均粒径の1/6〜1/3であり、有効濾過面積が23.75mm〜50.24mmである液体クロマトグラフィー用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填剤粒子が充填されたカラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、検体の測定を繰り返しても、通液圧力の上昇が生じ難い液体クロマトグラフィー用部材に関する。また、本発明は、充填剤粒子が充填されたカラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、カラムとプレフィルタとの交換頻度が同程度である液体クロマトグラフィー用部材に関する。更に、本発明は、充填剤粒子が充填されたカラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、カラムとプレフィルタとが一体化され、交換作業が容易で、かつ、分離性能に優れた液体クロマトグラフィー用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化学、生化学、医学などの分野において、検体中の成分の測定や分析に液体クロマトグラフィーが汎用されている。例えば、医学の分野では、糖尿病診断の指標となるヘモグロビンA1cの測定に液体クロマトグラフィーが利用されている。ヘモグロビンA1cは、血液中の糖がヘモグロビンのβ鎖N末端と化学的に結合した糖化ヘモグロビンであり、ヘモグロビン類中のヘモグロビンA1cの割合、すなわち、糖化ヘモグロビンと非糖化ヘモグロビンとの合計に対する糖化ヘモグロビンの割合は、1〜2ヶ月の期間の血糖値の平均を反映すると言われている。そのため、ヘモグロビン類中のヘモグロビンA1cの割合を示すヘモグロビンA1c値(%)は、血糖値と異なり、一時的な変動を示さないため、糖尿病診断の指標として広く用いられている。
【0003】
液体クロマトグラフィーの検体注入装置からカラムに至る流路には、異物を濾過するために、インラインフィルタなどのフィルタ類が設置されている。このようなフィルタ類は、流路、特にカラム本体に異物が詰まり、通液圧力が変動するのを防止するために設置される。とりわけ、カラムの上流に、異物を濾過するために設置されるプレフィルタは、カラムでの異物の詰まりに直結する重要なフィルタである。
【0004】
フィルタ類で捕捉される異物としては、例えば、移動相や反応試薬などに混入していたもの、送液ポンプなどの装置の一部から混入してきたもの、検体に由来するものなどが挙げられる。これらの異物は、カラムに充填されている充填剤粒子の表面に吸着したり、検出器のセルに吸着したりして、測定や分析に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、これらの異物を効率的に捕捉するため、様々なフィルタが開発されている。
【0005】
しかしながら、異物をより効率的に捕捉するためにフィルタ類の濾過効率を上げると、フィルタ類に異物が詰まり易くなり、通液圧力が変動する。特に、ヘモグロビン類の分析のように大量の検体を連続測定する場合や、溶血させた血液検体のように異物を多く含む検体を測定する場合は、異物がフィルタに詰まって通液圧力が上昇し易いという問題がある。通液圧力が変動すると、検体の測定又は分析が正確かつ迅速にできないことがある。
【0006】
一般的に、フィルタ類の詰まりによる通液圧力の上昇を抑える方法としては、フィルタの濾過面積を大きくする方法、フィルタの空隙率を大きくする方法、フィルタの構成を改良する方法などがある。しかしながら、フィルタの濾過面積や空隙率を大きくしすぎると、フィルタ内における検体や移動相の拡散が大きくなりすぎ、測定或いは分析の精度が悪くなる。
フィルタの構成を改良した例としては、特許文献1に、孔径の異なる2層構造のフィルタを用いる方法が開示されている。また、特許文献2には、濾紙とフィルタとを組み合わせた2層構造体を用いる方法が開示されている。これらの方法は、2種のフィルタを組み合わせることにより、異物の濾過効率を下げることなく、異物による詰まりを防止しようとするものである。しかしながら、これらの技術思想は、フィルタのみに着目したものであり、フィルタと同様に異物による詰まりが問題となるカラムを含めた検討はなされてない。
【0007】
例えば、ヘモグロビンA1c値を測定するために用いられるヘモグロビン類分析用のカラムは、メーカーの保証検体数によって異なるが、通常1500検体から3000検体を測定するごとに交換される。これに対して、カラムの上流に設置されるプレフィルタは、通常数百検体に1回の割合で交換される。このようにフィルタ類の交換は、カラムに比べて交換頻度が高く、作業的、コスト的に大きな負担となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−262054号公報
【特許文献2】特開平5−203634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、充填剤粒子が充填されたカラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、検体の測定を連続的に繰り返しても、通液圧力の上昇が生じ難く、また、カラムとプレフィルタの交換頻度が同程度である液体クロマトグラフィー用部材を提供することを目的とする。更に、本発明は、充填剤粒子が充填されたカラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、カラムとプレフィルタとが一体化され、交換作業が容易で、かつ、分離性能に優れた液体クロマトグラフィー用部材に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、充填剤粒子が充填された分析用カラムと、異物を濾過するためのフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、前記分析用カラムと前記異物を濾過するためのフィルタとが、上流側から異物を濾過するためのフィルタ、分析用カラムの順で、両者の間が実質的にゼロ距離となるように1つの筒状容器内に一体化されて配置されており、前記充填剤粒子は、平均粒径が2μm〜20μmであり、かつ、前記異物を濾過するためのフィルタは、濾過粒度が前記充填剤粒子の平均粒径の1/6〜1/3であり、有効濾過面積が23.75mm〜50.24mmである液体クロマトグラフィー用部材である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明の液体クロマトグラフィー用部材は、カラムとプレフィルタとを有する。
上記カラムは、筒状容器内に充填剤粒子が充填されたものである。
上記充填剤粒子としては、シリカなどの無機系粒子、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体などの樹脂からなる有機系粒子、これらの粒子の表面にイオン交換基を結合させたものなどが挙げられる。
【0012】
上記充填剤粒子の平均粒径の下限は2μm、上限は20μmである。上記充填剤粒子の平均粒径が2μm未満であると、カラムの通液圧力が高くなりすぎて装置への負担が大きくなりすぎる。上記充填剤粒子の平均粒径が20μmを超えると、分離性能が低下し、例えばヘモグロビンA1cの測定に用いた場合にはヘモグロビン類の分離が不充分となる。上記充填剤粒子の平均粒径の好ましい下限は6μm、好ましい上限は12μmである。
上記充填剤粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される。
【0013】
上記カラムの内径の好ましい下限は2.0mm、好ましい上限は6.0mmである。上記カラムの内径が2.0mm未満であると、カラム内を流れる移動相の線速度が高くなりすぎて、通液圧力が上昇しすぎることがある。上記カラムの内径が6.0mmを超えると、カラム内における検体や移動相の拡散が起こりすぎて、分離性能が低下することがある。上記カラムの内径のより好ましい下限は3.0mm、より好ましい上限は5.0mmである。
【0014】
上記カラムの長さの好ましい下限は10mm、好ましい上限は50mmである。上記カラムの長さが10mm未満であると、理論段数の低下に伴って分離性能が低下することがある。上記カラムの長さが50mmを超えると、検体の溶出に時間がかかって測定時間が長くなったり、通液圧力が高くなったりすることがある。上記カラムの長さのより好ましい下限は15mm、より好ましい上限は40mmである。
【0015】
上記カラムの上流側及び下流側には、カラム内の充填剤粒子が筒状容器から漏れ出るのを防止するためのフィルタが配置されているのが好ましい。このフィルタは、異物を捕捉するためのものではなく、充填剤粒子が筒状容器から漏れ出るのを防止することができればよいが、後述するプレフィルタが、カラムと一体化され、カラムに極めて近接して設置されている場合には、上流側のフィルタは省略し、プレフィルタによりカラム内の充填剤粒子が筒状容器から漏れ出るのを防止してもよい。
【0016】
上記プレフィルタは、例えば、紙、樹脂、金属などからなるものを用いることができる。なかでも、特開2006−189427号公報に記載された孔径の異なる3層からなる構造を有するステンレス製のフィルタが好適である。
上記プレフィルタの濾過面の形状は、円状であっても、その他の形状でもよい。
【0017】
上記プレフィルタは、濾過粒度が上記充填剤粒子の平均粒径の1/6〜1/3である。これにより、プレフィルタで捕捉されずプレフィルタを通過する異物は、カラム内の充填剤粒子の間隙を通ってカラムでも捕捉されず通過することから、プレフィルタ及びカラムの詰まりが抑制される。上記プレフィルタの濾過粒度が上記充填剤粒子の平均粒径の1/6未満であると、プレフィルタの詰まりの発生時期が、カラムの詰まりの発生時期に比べて著しく早くなり、頻繁にプレフィルタを交換する必要が生じる。上記プレフィルタの濾過粒度が上記充填剤粒子の平均粒径の1/3を超えると、プレフィルタの詰まりは遅くなるものの、カラムの充填剤粒子の間隙に異物が詰まってしまい、分離性能が低下してしまう。好ましくは、濾過粒度は、上記充填剤粒子の平均粒径の1/5〜1/3である。
【0018】
なお、上記濾過粒度は、粒径が既知の標準粒子を濾過したときに、プレフィルタでの標準粒子の捕捉率が95%以上となる粒径のことを意味する。上記標準粒子としては、例えば、モリテックス社製のポリスチレン製標準粒子が市販されている。
上記標準粒子の捕捉率(%)は以下の方法により測定される。
プレフィルタを液体クロマトグラフに接続し、移動相として純水を送液する。標準粒子検体を一般的な送液速度、例えば1.7mL/minで流し、得られるクロマトグラムのピーク面積(1)を算出する。ピーク面積(1)は、プレフィルタで捕捉されずに通過した標準粒子の量を反映している。
次に、上記プレフィルタを配管に変えて、同様の標準粒子検体を流し、得られるクロマトグラムのピーク面積(2)を算出する。ピーク面積(2)は、流した標準粒子の量を反映している。
ピーク面積(1)及びピーク面積(2)から、以下の式により標準粒子の捕捉率(%)が算出される。
標準粒子の捕捉率(%)=100−(ピーク面積(1)/ピーク面積(2))×100
【0019】
上記プレフィルタの有効濾過面積の好ましい下限は7mm、好ましい上限は80mmである。上記プレフィルタの有効濾過面積が7mm未満であると、異物を捕捉できる範囲が狭いために、プレフィルタが詰まりやすくなる。上記プレフィルタの有効濾過面積が80mmを超えると、プレフィルタ内における検体又は移動相の拡散が起こりすぎ、分離性能が低下することがある。上記プレフィルタの有効濾過面積のより好ましい下限は12mm、より好ましい上限は65mmである。
【0020】
上記プレフィルタの厚さの好ましい下限は0.1mm、好ましい上限は10mmである。上記プレフィルタの厚さが0.1mm未満であると、プレフィルタが詰まりやすくなる。上記プレフィルタの厚さが10mmを超えると、プレフィルタ内における検体又は移動相の拡散が起こりすぎ、分離性能が低下することがある。上記プレフィルタの厚さのより好ましい下限は0.2mm、より好ましい上限は3mmである。
【0021】
上記プレフィルタの空隙率の好ましい下限は60%である。上記プレフィルタの空隙率が60%未満であると、プレフィルタが詰まりやすくなる。上記プレフィルタの空隙率のより好ましい下限は65%である。上記プレフィルタの空隙率の上限は、あまり高くなると所望の濾過粒度が得られなくことがあるので、90%が好ましい。
【0022】
本発明の液体クロマトグラフィー用部材は、上記カラムとプレフィルタとが別々に配置されていてもよく、1つの筒状容器内に一体化されて配置されていてもよい。いずれの場合も、プレフィルタがカラムの上流となるように装置の配管に結合される。
【0023】
上記カラムとプレフィルタとが別々に配置されている場合には、上記カラムとプレフィルタとを別々に交換することができる。一方、上記カラムとプレフィルタとが一体化されて配置されている場合には、上記カラムとプレフィルタを一括して交換することができることから交換作業が容易であることに加え、空間占有容積低減により装置の小型化も可能となる。更に、カラムとプレフィルタとを一体化した場合には、カラムとプレフィルタとの間が実質的にゼロ距離となるので、カラムとプレフィルタとの間で検体や移動相の拡散がほとんど生じない。そのため、分離性能が向上し、測定時間をより短縮することができる。
【0024】
上記筒状容器は、適当な強度を有する材料から構成され、中に充填剤粒子、或いは充填剤粒子及びプレフィルタが収容可能となっている。筒状容器を構成する材料としては、例えば、ステンレスやチタンなどの金属、フッ素樹脂やポリエーテルエーテルケトンなどの樹脂、ガラスなどが挙げられる。
上記筒状容器は、一体成型されたものであってもよく、分解可能なものであってもよい。
【0025】
上記プレフィルタや筒状容器は、非特異吸着を防止する目的で表面処理が施されていることが好ましい。表面処理とは、表面に化学的処理及び/又は物理的処理を施すことにより、その性質を改変することを意味する。具体的には、例えば、加熱や酸などによる酸化反応により表面を改変する方法、親水性物質や疎水性物質などの所望の特徴を有する物質を被覆するブロッキング処理などが挙げられる。ブロッキング処理で用いる物質としては、ウシ血清アルブミン、グロブリン、ラクトフェリン、スキムミルクなどの蛋白質や、シリコーン、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0026】
本発明は、カラムに収納される充填剤粒子の平均粒径と、プレフィルタの濾過粒度との組み合わせを調整することにより、プレフィルタの寿命が非常に長くなる。そのため、カラムとプレフィルタの交換頻度を同程度にすることができる。
また、カラムとプレフィルタの交換頻度が同程度であるので、カラムの使用期間中、カラムの上流に設置されるプレフィルタの交換が不要であり、また、カラムとプレフィルタとを一体化させることにより、交換作業を更に容易にし、空間占有容積低減により装置の小型化が可能となる。
【0027】
本発明には、充填剤粒子が充填されたカラムと、プレフィルタ本体とが、1つの筒状容器内に一体化されて配置された液体クロマトグラフィー用部材も含まれる。
例えば、液体クロマトグラフィー用部材を上記プレフィルタ及び上記カラムを有するものとすることで、カラム及びプレフィルタの交換頻度を同程度とすることができる。
交換頻度が同程度であるカラムとプレフィルタとを1つの筒状容器内に一体化して配置することで、1回の交換作業でカラム及びプレフィルタを交換することができ、交換作業を効率的に行うことができる。さらに、カラムとプレフィルタとの間が実質的にゼロ距離となるので、カラムとプレフィルタとの間で検体や移動相の拡散がほとんど生じない。そのため、分離性能が向上し、測定時間をより短縮することができる。
【0028】
図1に、上記カラムとプレフィルタとが別々に配置されている本発明の液体クロマトグラフィー用部材の一例を示した。
図2に、上記カラムとプレフィルタとが1つの筒状容器内に一体化されて配置されている本発明の液体クロマトグラフィー用部材の一例を示した。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、カラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、検体の測定を繰り返しても、通液圧力の上昇が生じ難く、かつ、カラムとプレフィルタの交換頻度が同程度である液体クロマトグラフィー用部材が提供される。また、本発明によれば、カラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、カラムとプレフィルタとが一体化され、交換作業が容易で、かつ、分離性能に優れた液体クロマトグラフィー用部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】カラムとプレフィルタとが別々に配置されている本発明の液体クロマトグラフィー用部材の一例を示す模式図である。
【図2】カラムとプレフィルタとが一体化されて配置されている本発明の液体クロマトグラフィー用部材の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
(1)プレフィルタの準備
孔径12μm、厚さ0.1mmのフィルタ層(外層1)、孔径3μm、厚さ0.2mmのフィルタ層(内層)、孔径12μm、厚さ0.1mmのフィルタ層(外層2)が、この順に積層された3層構造を有する、厚さ0.4mm、空隙率70%のステンレス製繊維焼結フィルタシートを、直径9.0mmの円に打ち抜き、濾過面の面積63.59mmのステンレス製繊維焼結フィルタを得た。得られたステンレス製繊維焼結フィルタに、ヘモグロビン類の非特異吸着を防止するため、ウシ血清アルブミンでブロッキング処理を施した。
表面処理後のフィルタをポリテトラフルオロエチレン製パッキンではさみ込み、流路に接続できるねじ部を設けたポリエーテルエーテルケトン製ホルダに収納してプレフィルタを得た。なお、パッキンが接触する面積を除いたプレフィルタの有効濾過面積は、50.24mmであった。
得られたプレフィルタについて、濾過粒度を求めたところ、3μmであった。
【0033】
(2)カラムの準備
3%ポリビニルアルコール(日本合成化学社製)水溶液に、テトラエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学社製)300g、トリエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学社製)100g及び過酸化ベンゾイル(キシダ化学社製)1.0gの混合物を添加し、窒素雰囲気の反応器中で攪拌しながら、80℃で1時間重合した。
次に、イオン交換基を有する単量体として、2−メタアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亜合成化学社製)100g、ポリエチレングリコールメタアクリレート(日本油脂社製、エチレングリコール鎖n=4)100gをイオン交換水に溶解した。この混合物を1時間重合後の上記反応器中にさらに添加し、窒素雰囲気下で攪拌しながらさらに80℃で2時間重合した。得られた重合組成物を水及びアセトンで洗浄することにより、イオン交換基を有する粒子を得た。
【0034】
得られた粒子10gを溶存オゾンガス濃度100ppmのオゾン水300mLに浸漬し、30分間攪拌した。攪拌終了後、遠心分離機(日立製作所社製Himac CR20G)を用いて遠心分離し、上澄みを除去した。この操作を2回繰り返し、充填剤粒子を得た。
得られた充填剤粒子について、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定したところ、平均粒径は10μm、CV値は14%であった。
得られた充填剤粒子を、内径4.6mm、長さ20mmの円柱状容器に充填してカラムを得た。なお、カラムの上流側及び下流側に、円柱状容器から充填剤粒子が漏れ出すのを防止するため、前記ステンレス製繊維焼結フィルタを直径6.5mmに打ち抜いたフィルタを配置した(図1、2の符号6)。
【0035】
(3)液体クロマトグラフィー用部材の製造
得られたプレフィルタとカラムとを、図1に記載されたように配置して、カラム、プレフィルタ分離型の液体クロマトグラフィー用部材を得た。以下、図1に記載された配置の液体クロマトグラフィー用部材を分離型の液体クロマトグラフィー用部材と記す。
また、得られたプレフィルタとカラムとを、図2に記載されたように配置して、カラム、プレフィルタ一体型の液体クロマトグラフィー用部材を得た。以下、図2に記載された配置の液体クロマトグラフィー用部材を一体型の液体クロマトグラフィー用部材と記す。
【0036】
(実施例2〜6、比較例1、2)
表1に示したプレフィルタ、カラムを用いた以外は実施例1と同様にして、分離型の液体クロマトグラフィー用部材(図1)、及び、一体型の液体クロマトグラフィー用部材(図2)を得た。
なお、プレフィルタの有効濾過面積は、打ち抜き型の直径を変更することで調整し、プレフィルタの濾過粒度は、フィルタ内層の孔径を変えることで調整した。また、充填剤粒子の平均粒径は、重合時の攪拌の回転数を変えることで調整した。
【0037】
【表1】

【0038】
(評価)
(1)通液圧力の評価
実施例及び比較例で得た分離型の液体クロマトグラフィー用部材を下記システムに結合して、液体クロマトグラフィー分析装置を組み上げた。
送液ポンプ LC−20AD(島津製作所社製)
オートサンプラー SIL−20AC(島津製作所社製)
検出器 SPD−M20A(島津製作所社製)
カラムオーブン CTO−20AC(島津製作所社製)
【0039】
この液体クロマトグラフィー分析装置を用いて、下記分析条件にて3000検体連続で測定を行った。
溶離液:第1液 50mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.3)
第2液 ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(和光純薬工業社製)を0.05重量%含む250mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)
測定時間:50秒
流速:1.7mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:415nm
検体:健常人全血を溶血希釈液(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(和光純薬工業社製)を0.1重量%含むリン酸緩衝液(pH7.0))で201倍に希釈したものを評価検体とした。
検体注入量:10μL
【0040】
3000検体連続分析が終了した後、カラム、プレフィルタのそれぞれに溶離液第1液を送液したときの通液圧力を測定した。以下の式により通液圧力の上昇圧力を測定し、カラム及びプレフィルタの上昇圧力が、カラム及びプレフィルタともに0.3MPa以下であった場合を「○」、どちらか一方でも0.3MPaを超えた場合を「×」と評価した。
結果を表2に示した。
上昇圧力=(3000検体連続分析後の通液圧力)−(検体を分析する前の通液圧力)
【0041】
【表2】

【0042】
表2より、実施例1〜6の液体クロマトグラフィー用部材を用いた場合には、プレフィルタ、カラムの圧力上昇はすべて0.3MPa以下であり、3000検体を連続測定した場合であっても、カラム及びプレフィルタともに通液圧力の変動はほとんど生じなかった。実施例2、3、5においてプレフィルタの通液圧力が少し上昇したが、測定精度には問題のない範囲である。
一方、比較例1の液体クロマトグラフィー用部材を用いた場合には、カラムで通液圧力の上昇が見られた。これは、カラムとプレフィルタとの組み合わせが適当ではなく、プレフィルタで捕捉されずに通過した異物が、測定を繰り返すうちにカラム充填剤粒子の間隙に詰まったためと考えられる。比較例2の液体クロマトグラフィー用部材を用いた場合には、プレフィルタで通液圧力の上昇が見られた。これは、プレフィルタで必要以上の異物を捕捉したため、測定を繰り返すうちにプレフィルタに異物が詰まったためと考えられる。
【0043】
(2)耐久性評価
実施例4で製造した分離型の液体クロマトグラフィー用部材又は一体型の液体クロマトグラフィー用部材を下記システムに結合して、液体クロマトグラフィー分析装置を組み上げた。
送液ポンプ LC−20AD(島津製作所社製)
オートサンプラー SIL−20AC(島津製作所社製)
検出器 SPD−M20A(島津製作所社製)
カラムオーブン CTO−20AC(島津製作所社製)
【0044】
これらの液体クロマトグラフィー分析装置を用いて、下記分析条件にてヘモグロビンA1c値の連続測定を行い、耐久性評価を実施した。
結果(HbA1c値)を表3に示した。
溶離液:第1液 50mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.3)
第2液 ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(和光純薬工業社製)を0.05重量%含む250mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)
測定時間:50秒
流速:1.7mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:415nm
負荷検体:健常人全血を溶血希釈液(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(和光純薬工業社製)を0.1重量%含むリン酸緩衝液(pH7.0))で201倍に希釈したものを負荷検体とした。
評価検体:グリコHbコントロールレベル1、2(シスメックス社製)を200μLの注射用水で溶解した後、(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(和光純薬工業社製)を0.1重量%含むリン酸緩衝液(pH7.0))で101倍に希釈したものを評価検体とした。なお、評価検体は、負荷検体を200検体測定する毎に、それぞれ3検体測定し、その平均値を評価検体の測定結果とした。
試料注入量:10μL
【0045】
【表3】

【0046】
表3より、実施例4の分離型の液体クロマトグラフィー用部材、一体型の液体クロマトグラフィー用部材ともに、良好な耐久性結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、カラムとプレフィルタとからなる液体クロマトグラフィー用部材であって、検体の測定を繰り返しても、通液圧力の上昇が生じ難く、カラムとプレフィルタとの交換頻度が同程度である液体クロマトグラフィー用部材を提供することができる。
本発明によれば、カラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、検体の測定を繰り返しても、通液圧力の上昇が生じ難く、かつ、カラムとプレフィルタの交換頻度が同程度である液体クロマトグラフィー用部材が提供される。
また、本発明によれば、カラムとプレフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、カラムとプレフィルタとが一体化され、交換作業が容易で、かつ、分離性能に優れた液体クロマトグラフィー用部材が提供される。
【符号の説明】
【0048】
1 分離型の液体クロマトグラフィー用部材(カラム部分)
1’ 分離型の液体クロマトグラフィー用部材(プレフィルタ部分)
2 一体型の液体クロマトグラフィー用部材
3 ジョイント配管
4 カラムの充填剤粒子の収納部
5 ポリテトラフルオロエチレン製パッキン
6 充填剤粒子の漏れ出し防止のフィルタ
7 プレフィルタ
8 ポリエーテルエーテルケトン製ホルダ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤粒子が充填された分析用カラムと、異物を濾過するためのフィルタとを有する液体クロマトグラフィー用部材であって、
前記分析用カラムと前記異物を濾過するためのフィルタとが、上流側から異物を濾過するためのフィルタ、分析用カラムの順で、両者の間が実質的にゼロ距離となるように1つの筒状容器内に一体化されて配置されており、
前記充填剤粒子は、平均粒径が2μm〜20μmであり、かつ、前記異物を濾過するためのフィルタは、濾過粒度が前記充填剤粒子の平均粒径の1/6〜1/3であり、有効濾過面積が23.75mm〜50.24mmである
ことを特徴とする液体クロマトグラフィー用部材。
【請求項2】
異物を濾過するためのフィルタの厚さが0.1mm〜10mmであることを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用部材。
【請求項3】
異物を濾過するためのフィルタの空隙率が60%〜90%であることを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用部材。
【請求項4】
異物を濾過するためのフィルタの濾過面の形状が円状であることを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用部材。
【請求項5】
分析用カラムの内径が2.0mm〜6.0mmであることを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用部材。
【請求項6】
分析用カラムの長さが10mm〜50mmであることを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用部材。
【請求項7】
分析用カラムは、カラムの上流側及び下流側にカラム内の充填剤粒子が筒状容器から漏れ出るのを防止するためのフィルタが配置されているか、又は、カラムの下流側にのみカラム内の充填剤粒子が筒状容器から漏れ出るのを防止するためのフィルタが配置されているものであることを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用部材。
【請求項8】
分析用カラムに充填された充填剤粒子は、無機系微粒子又は有機系微粒子の表面にイオン交換基を結合させたものであることを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用部材。
【請求項9】
ヘモグロビンA1c測定に使用されるものであることを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−19918(P2013−19918A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−242855(P2012−242855)
【出願日】平成24年11月2日(2012.11.2)
【分割の表示】特願2010−505941(P2010−505941)の分割
【原出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)