説明

液体クロマトグラフィー装置及び充填剤の充填方法

【課題】充填剤スラリーをクロマトカラムに供給して充填剤の充填層を形成する際の異物の混入が防止されるとともに、スラリーポンプを用いることなく、スムーズに充填剤スラリーをクロマトカラム内に導入可能な液体クロマトグラフィー装置と、充填剤の充填方法を提供する。
【解決手段】充填剤を充填するには、可動栓3をクロマトカラム2内の底蓋6に対峙する下降限まで下降させておく。弁9a,20は閉じておく。次いで、弁24を開とし、弁棒17を押し上げて弁体16を上昇させ、供給口14を開放する。そして、可動栓3を上昇させスラリーSをクロマトカラム2内に吸引導入する。次いで、弁棒17を引き下げて弁体16をフランジ12a上に着座させ、供給口14を閉鎖する。次いで、シリンダ装置4のピストンロッド36を突出させて可動栓3を下降させ、充填剤を加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー装置に係り、特にクロマトカラム内の充填剤又はそのスラリーを可動栓で加圧するよう構成した液体クロマトグラフィー装置に関する。また、本発明は、このクロマトカラム内に充填剤の充填層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーは、天然物や発酵生産物、遺伝子組み替え等による培養生産物、合成反応物中の目的物質を目的の純度、精製速度で分離精製する手段として広く用いられている。
【0003】
クロマトカラム(液体クロマトグラフィー用カラム)へ充填剤を充填する場合、クロマトカラム内に充填剤スラリーを供給した後、可動栓を駆動手段で駆動させて該スラリーを加圧し、多孔板を有したクロマトカラム蓋又は該可動栓を介してスラリー中の溶媒をクロマトカラム外に押し出し、充填剤の充填層を形成することが行われている。充填終了後は、可動栓による充填層の加圧を維持する(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−346833
【特許文献2】特開2005−321302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、クロマトカラム内に充填剤スラリーを供給するときには、可動栓をクロマトカラム外に離脱させておき、充填剤スラリーを供給した後、可動栓をクロマトカラムに嵌合させ、前進させるようにしている。このように可動栓をクロマトカラム外に位置させて充填剤スラリーを供給する場合、クロマトカラム内に大気中から異物が混入するおそれが大きい。
【0006】
特許文献2では、充填剤スラリー供給用のパイプをクロマトカラム内に進退させるようにしており、そのための駆動機構が必要となる。
【0007】
また、特許文献1,2のいずれにおいても、充填剤スラリーをクロマトカラム内に供給するためのポンプが必要である。スラリーポンプを用いると、その分だけ設備コスト高となる。また、充填剤スラリーがスラリーポンプを通過する際に充填剤が変形又は損壊するおそれがある。
【0008】
本発明は、充填剤スラリーをクロマトカラムに供給して充填剤の充填層を形成する際の異物の混入が防止されるとともに、スラリーポンプを用いることなく、スムーズに充填剤スラリーをクロマトカラム内に導入可能な液体クロマトグラフィー装置と、充填剤の充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の液体クロマトグラフィー装置は、一端側に蓋部が設けられたクロマトカラムと、該クロマトカラム内を移動可能な可動栓とを有する液体クロマトグラフィー装置において、該蓋部と可動栓との一方に該クロマトカラム内に充填剤スラリーを流入させるスラリー供給路が設けられており、該クロマトカラム内に臨む該スラリー供給路末端の供給口に対しクロマトカラム内側から着座して該供給口を閉鎖可能な弁体が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の液体クロマトグラフィー装置は、請求項1において、該スラリー供給路の前記供給口近傍に洗浄流体を供給して該スラリー供給路を洗浄するための洗浄流体供給路が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の液体クロマトグラフィー装置は、請求項2において、前記弁体は管状の弁棒の先端に設けられており、前記洗浄流体供給路は、該弁棒を通して該弁棒の先端部から洗浄流体を前記スラリー供給路に供給するように設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4のクロマトカラムへの充填剤の充填方法は、請求項1ないし3のいずれか1項の液体クロマトグラフィー装置のクロマトカラムに充填剤を充填する方法であって、該充填剤スラリーをクロマトカラムに導入するに際し、前記スラリー供給路にスラリータンクを連通させておき、前記可動栓をクロマトカラムの前記一端側に配置しておき、前記弁体を離座させた状態で可動栓を他端側に後退させて充填剤スラリーを吸引してクロマトカラム内に導入し、その後、該弁体を着座させ、可動栓を前進させることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5のクロマトカラムへの充填剤の充填方法は、請求項4において、前記弁体を着座させた後、前記スラリー供給路の前記供給口近傍に洗浄流体を導入し、スラリー供給路を洗浄することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液体クロマトグラフィー装置及び充填剤の充填方法では、充填剤スラリーをクロマトカラム内に導入するに際し、スラリータンクとスラリー供給路とを連通させると共に、可動栓をクロマトカラムの一端側の蓋部対峙位置に位置させておく。弁体を離座させて供給口を開放させた状態で、可動栓を他端側に向かって移動させ、スラリータンク内のスラリーをスラリー供給路からクロマトカラム内に吸引して導入する。その後、弁体を着座させて供給口を閉鎖し、可動栓を前進させてスラリー中の液分を搾り出すと共に充填剤を加圧して充填剤の充填層を形成する。このように、スラリーポンプを用いることなく、充填剤スラリーをクロマトカラム内に導入することができる。また、充填剤スラリーの導入から充填層の形成に至る間、可動栓がクロマトカラム内に位置するので、クロマトカラム内に異物が混入することが防止される。
【0015】
本発明では、クロマトカラム内に進退する充填剤スラリー供給用パイプ及びその進退用駆動機構が不要であり、設備コストが安い。
【0016】
本発明では、スラリー供給口に対し弁体がクロマトカラム内側から着座するので、可動栓を前進させたときに弁体がスラリー又は充填剤から可動栓に押し付けられるように押圧され、供給口が密閉される。
【0017】
本発明では、充填剤スラリーをクロマトカラム内に導入した後、弁体を着座させて供給口を閉鎖し、次いでスラリー供給口近傍に洗浄流体を供給し、該スラリー供給路を洗浄することができる。例えば、該スラリー供給路内に残留する充填剤スラリーをスラリータンク側へ押し出すことができる。
【0018】
本発明の一態様では、弁棒を管状とし、洗浄流体供給路を弁棒に設ける。これにより、弁棒が流体供給路の管路部と兼用されることになり、装置構成が簡易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る液体クロマトグラフィー装置の断面図である。
【図2】図1の液体クロマトグラフィー装置の一部の拡大図である。
【図3】充填層の形成方法を示す説明図である。
【図4】充填層の形成方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図〜第3図は第1の実施の形態に係る液体クロマトグラフィー装置1を示しており、クロマトカラム2が筒軸心方向を上下方向(この実施の形態では鉛直方向)として設置されている。
【0021】
この液体クロマトグラフィー装置1は、該クロマトカラム2と、該クロマトカラム2内を上下動可能な可動栓3と、該可動栓3を進退(下降・上昇)させるためのシリンダ装置4(第3図)等を備えている。クロマトカラム2は、円筒形のカラム本体5と、該カラム本体5の下端に着脱可能に取り付けられた蓋体としての底蓋6等を備えている。底蓋6の上面には、充填剤を通さない通液性の多孔板7が設けられており、この多孔板7の下側に形成された流路8が液取出口9に通じている。液取出口9からは弁9a及び取出ライン9bを介して液が取り出される。底蓋6はボルト10によってカラム本体5に連結されている。
【0022】
底蓋6から短い管体11が下方に突設されている。第2図に明示の通り、管体11の上部内周面に雌螺子が刻設されており、ジョイント管12の下部外周面の雄螺子が該雌螺子に螺合している。ジョイント管12は、管軸心方向を上下方向としており、多孔板7に設けられた開口13を通って多孔板7の上側にまで延在している。ジョイント管12の上端にフランジ12aが設けられており、該フランジ12aが多孔板7の該開口13の縁部上面にシールパッキン(図示略)を介して重なっている。このジョイント管12の上端部がスラリー供給口14となっている。ジョイント管12を取り巻くシールリング15が多孔板7と流路8の底面との間に介在されている。
【0023】
フランジ12aの上面に着座可能に弁体16が多孔板7の上側に配置されている。この弁体16の下面には、スラリー供給口14を取り巻くように、該弁体16と同心状のOリングなどのシール部材(図示略)が設けられている。
【0024】
弁体16は弁棒17の上端に取り付けられている。弁棒17は、ジョイント管12及び管体11の軸心部を通って管体11の下方にまで延在している。この管体11は管状であり、その上端には溶媒の流出口17aが設けられている。
【0025】
第1図の通り、該弁棒17の下端に継手18を介して溶媒供給用のホース19が接続されている。ホース19には弁20を介して溶媒タンク(図示略)から溶媒が供給可能とされている。
【0026】
弁棒17と管体11の内周面とは摺動パッキン21によって水密的に封じられている。この摺動パッキン21は管体11の内周面に沿って摺動可能である。
【0027】
管体11には、該摺動パッキン21よりも上位の位置から分岐管23が分岐しており、第3図の通り、該分岐管23が弁24及び配管25を介してスラリータンク26の底部に接続されている。
【0028】
スラリータンク26には、スラリーSを攪拌するための撹拌機27が設けられている。スラリータンク26は、クロマトカラム2と略同レベルに配置されることが好ましい。
【0029】
可動栓3の下面には、充填剤を通さない通液性の多孔板30が設けられ、この多孔板30の上側に流路31が形成されている。この流路31は、液流路32を介して可動栓3外に連通している。
【0030】
前記シリンダ装置4は、シリンダと、該シリンダ内のピストンと、該ピストンに連なるピストンロッド36等を備えている。このピストンロッド36の下端が可動栓3に対しコネクタ37を介して着脱可能に連結されている。
【0031】
次に、以上の構成を有する液体クロマトグラフィー装置1への充填剤の充填方法を第3図に基づいて説明する。なお、第3図はこの充填剤の充填方法をその工程順に示す模式的断面図である。
【0032】
この充填方法ではまず第3図(a)の通り、可動栓3をクロマトカラム2内の底蓋6に対峙する下降限まで下降させておく。弁9a,20は閉じておく。次いで、弁24を開とし、弁棒17を手動等によって押し上げて第2図(a)のように弁体16を上昇させ、スラリー供給口14を開放する。そして、可動栓3を上昇させる。これにより、第3図(b)の通り、スラリータンク26内のスラリーSがクロマトカラム2内に吸引されて導入される。可動栓3を規定高さまで上昇させた後、第3図(c)の通り、弁棒17を引き下げて弁体16をフランジ12a上に着座させ、スラリー供給口14を閉鎖する。
【0033】
次いで、弁9aを開とし、シリンダ装置4のピストンロッド36を突出させて可動栓3を下降させ、充填剤の充填層を加圧する。この際、液流路32に配管(第3図では図示略)を接続しておき、充填層から可動栓3側へ搾り出されたスラリー溶媒を抜き出す。底蓋6側へ搾り出された溶媒は液取出口9から流出する。可動栓3によって所定の圧力まで充填層を加圧することにより、充填層が形成される。
【0034】
なお、弁16を閉じた後に、第3図(c)の通り、弁20を開とし、溶媒を弁棒17及び流出口17aから管体11、分岐管23、弁24、配管25内に流し、残留する充填剤スラリーをスラリータンク26に押し返す。その後、弁20,24を閉とする。なお、この場合、溶媒としてはスラリーSの溶媒と同一の溶媒を用いる。
【0035】
充填層が形成されたクロマトカラム2に対し、試料液及び展開液を液流路32を介して可動栓3側から充填層に通液し、分画された画分を液取出口9から分取する。
【0036】
この実施の形態によると、スラリーポンプを用いることなくスラリータンク26内のスラリーをクロマトカラム2内に導入することができ、スラリーポンプが不要となり、設備コストが安くなる。また、スラリーポンプを通過することによる充填剤粒子の変形や損壊が防止される。
【0037】
この実施の形態では、スラリー導入後に、スラリー供給路(管体11、分岐管23、弁24、配管25)を溶媒で洗浄するので、スラリー供給路の閉塞や、充填剤粒子のこびりつきが防止される。この実施の形態では、洗浄流体(溶媒)が弁体16の直下の流出口17aから流出するので、弁体16の下面も含めてスラリー供給路の全体が溶媒で洗浄される。
【0038】
上記実施の形態では、底蓋6側にスラリー供給路を設けているが、第4図のように、可動栓3側にスラリー供給路を設けてもよい。この場合、第2図を上下逆にしたスラリー供給路が可動栓3に設けられている。即ち、詳細な図示は省略するが、可動栓3の多孔板30を通過してジョイント管12が設けられ、管体11が可動栓30上面から上方に突設されている。この管体11が分岐管23、弁24、配管25を介してスラリータンク26に接続されている。ジョイント管12を取り巻くシールパッキン15は多孔板30の上面と流路31の上面との間に配置される。
【0039】
スラリーの充填手順や、その後のスラリー供給路の溶媒による洗浄手順は第3図の場合と同様である。即ち、第4図(a)のように、弁9a,20を閉じ、可動栓3を下降限まで下降させておく。第4図(b)のように、弁24を開とし、弁体16を離座させ、スラリー供給口14を開放させた状態で、可動栓3を上昇させる。これにより、スラリータンク26内のスラリーSがクロマトカラム2内に吸引されて導入される。
【0040】
可動栓3を規定高さまで上昇させた後、第4図(c)の通り、弁体16をフランジ12a上に着座させ、スラリー供給口14を閉鎖する。次いで、弁9aを開とし、シリンダ装置4のピストンロッド36を突出させて可動栓3を下降させ、充填剤の充填層を加圧する。この際、液流路32に配管(第4図では図示略)を接続しておき、充填層から可動栓3側へ搾り出されたスラリー溶媒を抜き出す。底蓋6側へ搾り出された溶媒は液取出口9から流出する。可動栓3によって所定の圧力まで充填層を加圧することにより、充填層が形成される。
【0041】
なお、弁16を閉じた後に、第4図(c)の通り、弁20を開とし、溶媒を弁棒17及び流出口17aから管体11、分岐管23、弁24、配管25内に流し、残留する充填剤スラリーをスラリータンク26に押し返す。その後、弁20,24を閉とする。
【0042】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の構成とされてもよい。例えば、上記実施の形態では可動栓3を上側とし、底蓋6を下側としているが、逆に可動栓3を下側とし、蓋体をカラム頂部に設けてもよい。また、スラリー供給路の洗浄排液は系外に排出されてもよい。この場合、洗浄流体はスラリー溶媒とは異なってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 液体クロマトグラフィー装置
2 クロマトカラム
3 可動栓
5 カラム本体
11 管体
12 ジョイント管
14 供給口
16 弁体
17 弁棒
17a 流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に蓋部が設けられたクロマトカラムと、該クロマトカラム内を移動可能な可動栓とを有する液体クロマトグラフィー装置において、
該蓋部と可動栓との一方に該クロマトカラム内に充填剤スラリーを流入させるスラリー供給路が設けられており、
該クロマトカラム内に臨む該スラリー供給路末端の供給口に対しクロマトカラム内側から着座して該供給口を閉鎖可能な弁体が設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項2】
請求項1において、該スラリー供給路の前記供給口近傍に洗浄流体を供給して該スラリー供給路を洗浄するための洗浄流体供給路が設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項3】
請求項2において、前記弁体は管状の弁棒の先端に設けられており、
前記洗浄流体供給路は、該弁棒を通して該弁棒の先端部から洗浄流体を前記スラリー供給路に供給するように設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項の液体クロマトグラフィー装置のクロマトカラムに充填剤を充填する方法であって、
該充填剤スラリーをクロマトカラムに導入するに際し、前記スラリー供給路にスラリータンクを連通させておき、
前記可動栓をクロマトカラムの前記一端側に配置しておき、
前記弁体を離座させた状態で可動栓を他端側に後退させて充填剤スラリーを吸引してクロマトカラム内に導入し、
その後、該弁体を着座させ、可動栓を前進させることを特徴とするクロマトカラムへの充填剤の充填方法。
【請求項5】
請求項4において、前記弁体を着座させた後、前記スラリー供給路の前記供給口近傍に洗浄流体を導入し、スラリー供給路を洗浄することを特徴とするクロマトカラムへの充填剤の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−159462(P2012−159462A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20846(P2011−20846)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】