説明

液体クロマトグラフィー装置及び充填剤の充填方法

【課題】充填剤スラリーをクロマトカラムに供給して気泡のない充填剤充填層を形成すると共に、この際の異物の混入が防止される液体クロマトグラフィー装置と、充填剤の充填方法を提供する。
【解決手段】クロマトカラム2と、該クロマトカラム2内に供給された充填剤又はそのスラリーを加圧するための可動栓3とを有する液体クロマトグラフィー装置1において、クロマトカラム2の供給口20と流出口21とを同レベルに設置し、かつ直径方向から周方向にずれた位置に配置する可動栓3を、その下端が供給口20と流出口21の上縁又は下縁との間に位置させておき、充填剤スラリーを供給口20からクロマトカラム2内に供給する流出口21からの流出液を気液分離した後、供給口20に戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー装置に係り、特にクロマトカラム内の充填剤又はそのスラリーを可動栓で加圧するよう構成した液体クロマトグラフィー装置に関する。また、本発明は、このクロマトカラム内に充填剤の充填層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーは、天然物や発酵生産物、遺伝子組み替え等による培養生産物、合成反応物中の目的物質を目的の純度、精製速度で分離精製する手段として広く用いられている。
【0003】
クロマトカラム(液体クロマトグラフィー用カラム)へ充填剤を充填する場合、クロマトカラム内に充填剤スラリーを供給した後、可動栓を駆動手段で駆動させて該スラリーを加圧し、多孔板を有したクロマトカラム蓋又は該可動栓を介してスラリー中の溶媒をクロマトカラム外に押し出し、充填剤の充填層を形成することが行われている。充填終了後は、可動栓による充填層の加圧を維持する(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−346833
【特許文献2】特開2005−321302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2では、カラム内に充填剤スラリーを供給した後、可動栓を前進させて充填剤スラリーを加圧するときに、可動栓と充填剤スラリーとの間にある空気が抜けにくく、カラム内に気泡として残り、容易には抜けきらない。例えば、可動栓でスラリーを加圧して、可動栓側の多孔質板を通してスラリー溶剤を押し出す操作によっても、容易には抜けきらない。可動栓と充填剤スラリーとの間に残留した気泡は、可動栓による加圧の結果、可動栓と充填剤層の間で広がるか、又は、充填剤層の中に潜り込む。可動栓と充填層の間で気泡が広がった領域や、充填層中で気泡が潜り込んだ領域には液が流れない。この為、分離精製工程における液の均一分散流れを阻害し、分離精製効率を大きく低下させる。
【0006】
また、上記特許文献1,2では、クロマトカラム内に充填剤スラリーを供給するときには、可動栓をクロマトカラム外に離脱させておき、充填剤スラリーを供給した後、可動栓をクロマトカラムに嵌合させ、前進させるようにしている。このように可動栓をクロマトカラム外に位置させて充填剤スラリーを供給する場合、クロマトカラム内に大気中から異物が混入するおそれが大きい。
【0007】
本発明は、充填時の気泡の残留が防止され、分離性能の良好な充填剤層を形成することができると共に、充填剤スラリーをクロマトカラムに供給して充填剤の充填層を形成する際の異物の混入が防止される液体クロマトグラフィー装置と、充填剤の充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の液体クロマトグラフィー装置は、カラム軸心方向を上下方向にして配置されたクロマトカラムと、該クロマトカラム内に供給された充填剤又はそのスラリーを加圧するための可動栓とを有する液体クロマトグラフィー装置において、該クロマトカラムの上端側には、該クロマトカラムに充填剤スラリーを供給する供給口及びクロマトカラム内から気体と液体の一方又は双方を流出させる流出口が設けられており、該供給口及び流出口は、該クロマトカラムの軸心に対する中心角θが70〜160°となるように配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の液体クロマトグラフィー装置は、請求項1において、前記中心角θが80〜150°であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の充填剤の充填方法は、請求項1又は2に記載の液体クロマトグラフィー装置に対し充填剤を充填する方法であって、前記可動栓を、その下端が前記供給口及び流出口の上縁に又は上縁と下縁との間に位置するように配置しておき、前記供給口から充填剤スラリーを前記クロマトカラム内に供給し、その後、該可動栓を下降させて充填層を形成することを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の充填剤の充填方法は、請求項3において、充填剤スラリーが前記流出口から溢出するまでクロマトカラム内に供給し、その後、流出口から流出した液を気液分離し、液分を供給口に循環させてクロマトカラム内の気泡を除去し、その後、該可動栓を下降させて充填層を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液体クロマトグラフィー装置及び充填剤の充填方法では、可動栓をクロマトカラムの上縁端側に位置させておき、供給口から充填剤スラリーをクロマトカラム内に供給する。本発明では、クロマトカラムの供給口と流出口とがクロマトカラムの軸心に対し中心角が80〜160°となるように配置されている。また、可動栓を、その下端が供給口及び流出口の上縁と下縁との間に位置するように配置しておく。そのため、供給口からクロマトカラム内に流入したスラリーがクロマトカラム内で旋回し、クロマトカラム内に滞留していた気泡が旋回流に伴われて流出口から流出する。このように気泡を流出させてから、可動栓を前進させてスラリー中の液分を搾り出すと共に充填剤を加圧することにより、気泡を含まない充填剤の充填層を形成することができる。また、充填剤スラリーの供給から充填層の形成に至る間、可動栓がクロマトカラム内に位置するので、クロマトカラム内に異物が混入することが防止(抑制を含む。)される。
【0013】
なお、請求項4の方法によれば、流出口から流出した液を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係る液体クロマトグラフィー装置の断面を示すものであり、図2のI−I線断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】充填層の形成方法を示す説明図である。
【図4】充填層の形成方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係る液体クロマトグラフィー装置1を示しており、クロマトカラム2が筒軸心方向を上下方向(この実施の形態では鉛直方向)として設置されている。
【0016】
この液体クロマトグラフィー装置1は、クロマトカラム2と、可動栓3と、該可動栓3を進退させるためのシリンダ装置(ピストンロッド以外は図示略)等を備えている。クロマトカラム2の下端には底蓋6がボルト10によって着脱可能に取り付けられている。底蓋6の上面には、充填剤を通さない通液性の多孔板7が設けられており、この多孔板7の下側に形成された流路8が液取出口9に通じている。
【0017】
可動栓3の下面には、充填剤を通さない通液性の多孔板12が設けられ、この多孔板12の上側に流路13が形成されている。この流路13は、液流路15を介して可動栓3外に連通している。
【0018】
前記シリンダ装置は、シリンダと、該シリンダ内のピストン(いずれも図示略)と、該ピストンに連なるピストンロッド16等を備えている。このピストンロッド16の下端が可動栓3に対しコネクタ17を介して着脱可能に連結されている。
【0019】
クロマトカラム2の上部の側周面に充填剤スラリーの供給口20が設けられ、それから周方向にずれた位置の側周面に気体の流出口21が設けられている。クロマトカラム2の軸心に対する供給口20と流出口21との中心角θは70〜160°好ましくは80〜150°最も好ましくは約80〜120°である。
【0020】
クロマトカラム2の内周面における供給口20及び流出口21のレベルは同レベルであり、可動栓3をクロマトカラム2の上端部(待機位置)に位置させた状態において可動栓3の下端が供給口20及び流出口21の上縁に又は上縁と下縁との間に位置するレベルとなっている。
【0021】
次に、以上の構成を有する液体クロマトグラフィー装置1への充填剤の充填方法を第1図〜第4図に基づいて説明する。
【0022】
この充填方法ではまず第1図の通り、可動栓3を、その下端が供給口20と流出口21の上縁又は上縁と下縁との間となるクロマトカラム2の上端部の待機位置に位置させる。この状態で充填用溶媒に充填剤を分散させてなる所定濃度の充填剤スラリーを供給口20からクロマトカラム2内に供給する。充填剤スラリーの流入に伴って、クロマトカラム2内の気体(空気)は流出口21を通ってクロマトカラム2外に流出する。
【0023】
クロマトカラム2内がスラリーでほぼ満杯となり、スラリーが流出口21から溢出するようになった後、第3図の通り、流出口21から流出する液を気液分離器22に受け入れ、気液分離する。そして、液分をポンプ23及び配管24を介して供給口20に戻す。このように供給口20からクロマトカラム2内に供給されたスラリー又は液は、クロマトカラム2内で旋回流を形成する。即ち、供給口20と流出口21とが周方向にずれた配置となっており、クロマトカラム2の直径方向には対峙していないので、供給口20からの流入スラリー又は液の少なくとも一部がクロマトカラム2内で旋回する。そして、この旋回流に伴われるようにして、クロマトカラム2内に滞留していた気泡がクロマトカラム2外へ流出し、気液分離器22で分離され、大気等へ放出される。
【0024】
このように、クロマトカラム2内の気泡がすべて流出した後、第4図の通り、シリンダ装置のピストンロッド16を突出させて可動栓3を下降させ、充填剤の充填層を加圧する。この際、液流路15に配管(第4図では図示略)を接続しておき、充填層から可動栓3側へ搾り出されたスラリー溶媒を抜き出す。底蓋6側へ搾り出された溶媒は液取出口9から流出する。
【0025】
可動栓3が下降し、所定の圧力または所定の可動栓位置まで充填層を加圧することにより、気泡を含まない充填剤層が形成される。
【0026】
なお、クロマトカラム2は透明であることが好ましく、アクリルなど透明合成樹脂であることが望ましい。合成樹脂製のクロマトカラムは、強度上、供給口を接線方向に設けるのが困難であり、供給口20を求心方向(半径方向)に設けざるを得ない。流出口も同様である。そこで、本発明では、供給口20とクロマトカラム2の軸心と流出口21とを結ぶ線分の交角すなわち中心角θを70〜160°とすることにより、クロマトカラム2内に旋回流を形成させる。種々の実験の結果、中心角θが70°よりも小さかったり、中心角が160°よりも大きいと、旋回流が形成されにくいことが認められた。
【0027】
上記実施の形態では、供給口及び流出口は1個となっているが、2個以上であってもよい。
【0028】
上記実施の形態では、クロマトカラム2を鉛直に設置するように図示しているが、流出口21を供給口20よりも上側にするようにしてクロマトカラム2を若干(例えば鉛直線に対し数度ないし十数度程度)傾けてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 液体クロマトグラフィー装置
2 クロマトカラム
3 可動栓
7,12 多孔板
20 供給口
21 流出口
22 気液分離器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム軸心方向を上下方向にして配置されたクロマトカラムと、該クロマトカラム内に供給された充填剤又はそのスラリーを加圧するための可動栓とを有する液体クロマトグラフィー装置において、
該クロマトカラムの上端側には、該クロマトカラムに充填剤スラリーを供給する供給口及びクロマトカラム内から気体と液体の一方又は双方を流出させる流出口が設けられており、
該供給口及び流出口は、該クロマトカラムの軸心に対する中心角θが70〜160°となるように配置されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項2】
請求項1において、前記中心角θが80〜150°であることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体クロマトグラフィー装置に対し充填剤を充填する方法であって、
前記可動栓を、その下端が前記供給口及び流出口の上縁に又は上縁と下縁との間に位置するように配置しておき、前記供給口から充填剤スラリーを前記クロマトカラム内に供給し、その後、該可動栓を下降させて充填層を形成することを特徴とする充填剤の充填方法。
【請求項4】
請求項3において、充填剤スラリーが前記流出口から溢出するまでクロマトカラム内に供給し、その後、流出口から流出した液を気液分離し、液分を供給口に循環させてクロマトカラム内の気泡を除去し、その後、該可動栓を下降させて充填層を形成することを特徴とする充填剤の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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