説明

液体クロマトグラフィ/質量分析データ中のピークを同定し、スペクトルおよびクロマトグラムを形成するための装置および方法

LC/MSシステムにより生成されるクロマトグラムおよび質量スペクトルは、スペクトルデータおよびクロマトグラフデータの二次元データ行列を作成することにより分析される。二次元行列は、データ行列の連続する列内に、LC/MSシステムの質量分析計部分により生成されるスペクトルを入れることにより作成することができる。この方法により、データ行列の行は、クロマトグラフデータに対応し、データ行列の列は、スペクトルに対応する。イオンに関連するピークをシステムが検出する能力を高めるために、二次元フィルタが指定され、データ行列に適用される。所望のベースラインに従って、二次元フィルタが指定される。階数1および階数2フィルタは、計算効率の改善のため指定できる。二次元フィルタを適用する一方法では、データ行列と二次元フィルタとの畳み込みにより出力データ行列を生成する。検出されたイオンに対応するピークは、出力データ行列中で識別される。例えば、ピークのパラメータが決定され、定量化、または指定された保持時間窓内に入る保持時間を持つ、もしくは指定された質量対電荷比窓内に入る質量対電荷比を持つイオンに関連するピークを同定することによるクロマトグラムもしくはスペクトルの簡素化を含む後処理のために格納される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、2004年2月13日に出願した米国仮出願第60/543,940号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本特許明細書の開示の一部は、著作権保護の対象となる資料を含む。著作権所有者は、特許商標庁の特許ファイルまたは記録の記載に従い誰が特許文書または特許開示のファクシミリ複製を行おうと異存はないが、その他の点ではいかなる形であれすべての著作権を留保する。
【0003】
本発明は、一般に、液体クロマトグラフィおよび質量分析法に関する。より具体的には、本発明は、LC/MSシステムにより収集されたデータからのイオンの検出および定量化、ならびにそのようなデータのリアルタイムの分析に関する。
【背景技術】
【0004】
質量分析計(MS)は、試料中の分子種を同定し、定量化するために広く使用されるよく知られている科学機器である。分析時、試料から取り出された分子はイオン化され、分析のため質量分析計内に導入されるイオンを形成する。質量分析計は、導入されたイオンの質量対電荷比(m/z)および強度を測定する。
【0005】
質量分析計は、単一のスペクトルの範囲内で確実に検出し、定量化できるイオンの個数に関して制限がある。その結果、多くの分子種を含む試料は、従来の質量分析計を使用したのでは複雑すぎて解釈または分析を行えないスペクトルを発生することがある。
【0006】
さらに、分子種の濃度は、広範囲にわたって変化しうる。例えば、生体試料では、典型的には、高い濃度でよりも低い濃度でのほうが、分子種が多い。そのため、かなりの割合のイオンが低濃度のように見える。低濃度は、典型的には、質量分析計の検出限界に近い。さらに、低濃度では、イオン検出は、バックグラウンドノイズの存在、および/または干渉する背景分子の存在の影響も受ける。したがって、このような低存在量化学種を検出することは、できる限り多くのバックグラウンドノイズを除去し、常にスペクトル中に存在する干渉化学種の数を減らすことにより改善することができる。
【0007】
このようなスペクトルの複雑さを低減するために使用される一般的技術は、質量分析計に試料を注入するのに先立ってクロマトグラフ分離を実行することである。例えば、ペプチドまたはタンパク質は、多くの場合、共通の時刻に溶離し、スペクトルが重なるクラスタイオンを発生する。時刻の異なる分子からクラスタを分離すると、このようなクラスタにより発生するスペクトルの解釈が簡単になる。
【0008】
このようなクロマトグラフ分離を実行するために使用される計測器は、ガスクロマトグラフ(GC)または液体クロマトグラフ(LC)を含む。質量分析計に結合された場合、その結果として出現するシステムは、GC/MSまたはLC/MSシステムとそれぞれ呼ばれる。GC/MSまたはLC/MSシステムは、典型的には、GCまたはLCの出力が直接MSに結合されるオンラインシステムである。
【0009】
組み合わせたLC/MSシステムは、分析専門家にとって、広範にわたる試料中の分子種を同定し、定量化するための強力な手段となる。典型的な試料は、数個または数千個の分子種の混合物を含みうる。分子それ自体は、さまざまな特性および特徴を示しうる。例えば、それぞれの分子種は、複数のイオンを生じうる。このことは、ペプチドの質量がその核の同位体形態に依存するペプチド、およびエレクトロスプレー界面がペプチドおよびタンパク質をイオン化できる数種類の荷電状態に見られる。
【0010】
LC/MSでは、特定の時刻に、試料が液体クロマトグラフ内に注入される。液体クロマトグラフは、時間をかけて試料を溶離し、その結果、溶離液が液体クロマトグラフから出る。液体クロマトグラフから出る溶離液は、質量分析計のイオン源に連続的に導入される。分離が進行するにつれ、MSにより発生する質量スペクトルの組成が徐々に変化し、溶離液の変化している組成を反映する。
【0011】
コンピュータベースのシステムは、規則的な時間間隔でスペクトルをサンプリングし、ハードディスクドライブなどの記憶装置に記録する。従来のシステムでは、これらの収集されたスペクトルは、LC分離が完了した後に分析される。
【0012】
収集後、従来のLC/MSシステムは、一次元のスペクトルおよびクロマトグラムを生成する。イオンの応答(または強度)は、スペクトルまたはクロマトグラムに見られるようなピークの高さまたは面積である。従来のLC/MSシステムにより生成されたスペクトルまたはクロマトグラムを分析するために、イオンに対応するそのようなスペクトルまたはクロマトグラムのピークが特定または検出されなければならない。検出されたピークを分析し、ピークを発生させたイオンの特性を決定する。これらの特性は、保持時間、質量対電荷比、および強度を含む。イオンの質量または質量対電荷比(m/z)推定値は、そのイオンを含むスペクトルの推定を介して求められる。イオンの保持時間推定値は、そのイオンを含むクロマトグラムを調べることにより導かれる。単一のマスチャネルクロマトグラムのピーク頂点の時間的位置から、イオンの保持時間が得られる。単一スペクトル走査のピーク頂点のm/z位置から、イオンのm/z値が得られる。
【0013】
LC/MSシステムを使用してイオンを検出する従来の技術は、全イオンクロマトグラム(TIC)を形成することである。典型的には、この技術は、検出を必要とする比較的少数のイオンがある場合に適用される。TICは、それぞれのスペクトル走査の範囲内で、すべてのm/z値にわたって収集されたすべての応答を総和し、その総和を走査時間に対しプロットすることにより生成される。TICのそれぞれのピークは、単一のイオンに対応しているのが理想的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
TIC内のピークを検出するこの方法に伴う問題の1つは、複数の分子からのピークの共溶出がありえることである。このような共溶出の結果、TIC内に見られるそれぞれの孤立ピークは、固有のイオンに対応しない場合がある。そのような共溶出ピークを分離する従来方法では、TICから1つのピークの頂点を選択し、その選択されたピークの頂点に対応する時刻に対するスペクトルを収集する。その結果得られるスペクトルのプロットは、一連の質量ピークであり、それぞれ共通保持時間での単一イオン溶出に対応すると考えられる。
【0015】
複雑な混合物では、共溶出もまた、典型的には、スペクトル応答の総和を収集されたチャネルの部分集合のみについての総和に、例えば、m/zチャネルの制約された範囲にわたる総和により制限する。総和されたクロマトグラムは、制約されたm/z範囲内で検出されたイオンに関する情報を与える。さらに、スペクトルは、クロマトグラフピーク頂点毎に得ることができる。この方法ですべてのイオンを同定するために、複数の総和されたクロマトグラムが、一般に必要である。
【0016】
ピーク検出で遭遇するもう1つの問題点は、検出器雑音である。検出器雑音効果を緩和する通常の技術は、スペクトルまたはクロマトグラムの信号平均をとることである。例えば、特定のクロマトグラフピークに対応するスペクトルを共追加することで、雑音効果を低減することができる。質量対電荷比の値とともに、ピーク面積、および高さも、平均されたスペクトル中のピークを分析することで求めることができる。同様に、スペクトルピークの頂点を中心とするクロマトグラムを共追加することで、クロマトグラムの雑音効果を緩和し、保持時間だけでなくクロマトグラフピーク面積および高さのさらに正確な推定値を得ることができる。
【0017】
これらの問題に加えて、従来のピーク検出アルゴリズムを使用してクロマトグラフまたはスペクトルピークを検出する場合にさらに問題が生じる。手動で実行した場合、このような従来の方法は、主観的であるだけでなく、極めて退屈な作業でもある。自動で実行した場合であっても、このような方法は、例えば、ピークを同定するために使用する閾値について主観的な選択を行うので主観的となりうる。さらに、これらの従来の方法は、単一の抽出されたスペクトルまたはクロマトグラムのみを使用してデータを分析するため不正確になりがちであり、最高の統計的精度または最低の統計的分散を持つイオンパラメータ推定値を与えない。最後に、従来のピーク検出技術では、共溶出およびイオン干渉がよくある問題となる傾向がある場合に、必ずしも、低濃度のイオンについて、または複雑なクロマトグラムについて、一様な再現性のある結果をもたらさない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のいくつかの実施形態のうちの一態様では、LC/MSシステムで収集されたスペクトル走査で測定されたイオンを検出し、それらの走査から、それぞれのイオンの保持時間、質量対電荷比、および強度を決定する。質量対電荷比(m/z)、保持時間、および強度などのイオンパラメータについては、データ行列を作成し、そのデータ行列と高速線形二次元有限インパルス応答(FIR)フィルタとの畳み込み演算を実行し、出力畳み込み行列を生成することにより、その正確で最適な推定を行う。ピーク検出アルゴリズムをこの出力畳み込み行列に適用し、試料中のイオンに対応するピークを同定する。フィルタ処理された行列中で検出されたピークを分析することにより、保持時間、質量対電荷比(m/z)、および強度などのイオンパラメータを推定し、記録することができる。さらに、スペクトル方向およびクロマトグラフ方向の両方の半値全幅(FWHM)などの他のピークパラメータを推定し、格納することができる。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、LC/MS装置により検出されたイオンの実質的に完全な計算法を与えつつ、雑音効果を低減し、従来のLC/MS出力中に典型的に観察される部分的共溶出化合物および未分解イオンを解決しやすくする。イオンパラメータの最適な推定により、推定値の精度および再現性が上がる。
【0020】
スペクトルおよびクロマトグラフの複雑度は、本発明の実施形態を使用することで著しく低減できる。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、検出されたそれぞれのイオンに関連するパラメータのリストまたはテーブルを作成、格納し、収集されたスペクトルまたはクロマトグラフに関連するデータ集合全体を格納することはしない。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態では、作成されたイオンパラメータリストを使用して、所望の特性または関係を有するイオンの部分集合を抽出する。これらの部分集合は、従来のシステムを使用して生成されたものよりも複雑度の小さいスペクトルおよびクロマトグラムを作成するために使用される。例えば、共通の親分子からのイオンは、典型的には、LC/MSクロマトグラムにおいて本質的に同一の保持時間を有する。本発明のいくつかの実施形態では、共通の親イオンを由来とする可能性のあるイオンを同定するために使用できる保持時間窓を指定することができる。このようにして、本発明のいくつかの実施形態では、無関係のイオンを無視しつつ、関係のあるイオンを同定し、グループ化することを容易に行える。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態を使用して生成することができる複雑度の低いスペクトルおよび複雑度の低いクロマトグラムは、LC/MSデータから単一のスペクトル(またはスペクトルの平均)を単に抽出するだけの従来のシステムを使用して得られたものよりも著しく改善される。これは、このような従来の方法で生成されるスペクトルは、典型的に、注目するイオンに無関係のピークの前縁または後縁からのイオンにより汚染されているからである。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態を使用する複雑度の低いスペクトルおよび複雑度の低いクロマトグラムで保持されるイオンは、さらに、従来技術で知られている方法により分析することができる。例えば、これらの方法は、共通の親分子の質量または素性を決定する方法を含む。
【0024】
本発明を使用すると、1回の注入から得られた結果の完全性、精度、および再現性を改善することにより、LC/MS実験結果の完全性、精度、および再現性を高めることができる。さらに、複雑度が低いと、存在するイオンが少なくなり、バックグラウンドノイズが低減し、共溶出化合物および干渉イオンが部分的に分解するため、スペクトルおよびクロマトグラムの解釈が簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態は、溶媒中に溶解できる大分子不揮発性検体を含むさまざまな用途に適用することができる。本発明のいくつかの実施形態は、これ以降、LCまたはLC/MSシステムに関して説明されているが、本発明の実施形態は、GCおよびGC/MSシステムを含む、他の分析技術と連動するように構成することができる。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態による例示的なLC/MSシステム101の概略図である。LC/MS分析は、液体クロマトグラフ104内に試料102を自動的に、または手動で注入することにより実行される。ポンプ103およびインジェクタ105により供給される高圧のクロマトグラフ溶媒流は、強制的に試料102を液体クロマトグラフ104内のクロマトグラフカラム106に通す。カラム106は、典型的には、結合分子が表面に含まれるシリカビーズの充填カラムを含む。試料中の分子種、溶媒、およびビーズ間の競合的相互作用は、それぞれの分子種の移動速度を決定する。
【0027】
分子種は、カラム106内を移動し、特性時間にカラム106から出現する、つまり溶離する。この特性時間は、通常、分子の保持時間と呼ばれる。分子がカラム106から溶離した後、質量分析計108などの検出器に伝達できる。
【0028】
保持時間は、特性時間である。つまり、保持時間tにカラムから溶離する分子は実際には、本質的に時刻tを中心とする期間にわたって溶離する。この期間の溶出プロフィルは、クロマトグラフピークと呼ばれる。クロマトグラフピークの溶出プロフィルは、釣鐘曲線により記述できる。ピークの釣鐘形状は、典型的にはその半値全幅高さ、つまり最大値の半分(FWHM)により記述される幅を持つ。分子の保持時間は、ピーク溶出プロフィルの頂点の時間である。質量分析計により生成されるスペクトル中に出現するスペクトルピークは、類似の形状を持ち、類似の方法で特徴づけることができる。図2は、ピーク頂点204を持つ例示的なクロマトグラフまたはスペクトルピーク202を示す。FWHMおよび高さまたはピーク202も、図2に例示されている。
【0029】
後の説明のために、ピークは、図2に示されているように、ガウスプロファイルを持つと仮定される。ガウスプロファイルについては、FWHMは、ガウスプロファイルの標準偏差の約2.35倍である。
【0030】
クロマトグラフピーク幅は、ピーク高さと無関係であり、実質的に、与えられた分離方法について分子の一定の特性である。理想的な場合、与えられたクロマトグラフ法に関して、すべての分子種は、同じピーク幅で溶離する。しかし、典型的には、ピーク幅は、保持時間の関数として変化する。例えば、分離の最後に溶離する分子は、分離の早い段階で溶離する分子に関連するピーク幅よりも数倍広いピーク幅を示すことができる。
【0031】
その幅に加えて、クロマトグラフまたはスペクトルピークは高さまたは面積を持つ。一般に、ピークの高さおよび面積は、液体クロマトグラフィに注入された化学種の量または質量に比例する。強度という用語は、通常、クロマトグラフまたはスペクトルピークの高さまたは面積のいずれかを指す。
【0032】
クロマトグラフ分離は実質的に連続プロセスであるが、溶離液を分析する検出器は、典型的には、規則正しくあけた間隔で溶離液をサンプリングする。検出器が溶離液をサンプリングする速度は、サンプリングレートまたはサンプル周波数と呼ばれる。それとは別に、検出器が溶離液をサンプリングする間隔は、サンプリング間隔またはサンプル期間と呼ばれる。サンプル期間は、システムがそれぞれのピークのプロファイルの適切なサンプリングを行うように十分長くなければならないため、最小サンプル期間は、クロマトグラフピーク幅により制限される。例えば、サンプル期間は、クロマトグラフピークのFWHMに約5回の測定を行うように設定できる。
【0033】
LC/MSシステムでは、クロマトグラフ溶離液は、質量分析計(MS)108内に導入され、図1に示されているように分析される。MS 108は、脱溶媒和システム110、イオン化装置112、質量分析器114、検出器116、およびコンピュータ118を備える。試料がMS108内に導入されると、脱溶媒和システム110が、溶媒を除去し、イオン発生源112が、検体分子をイオン化する。LC 104から発する分子をイオン化するイオン化法は、電子衝撃(EI)、エレクトロスプレー(ES)、および大気圧化学イオン化(APCI)を含む。APCIでは、イオン化および脱溶媒和の順序は逆になることに留意されたい。
【0034】
次いで、イオン化された分子は、質量分析器114に搬送される。質量分析器114は、質量対電荷比により分子をソートまたはフィルタ処理する。MS 108でイオン化分子を分析するために使用される質量分析器114などの質量分析器は、四重極型質量分析器(Q)、飛行時間型質量分析器(TOF)、およびフーリエ変換型質量分析器(FTMS)を含む。
【0035】
質量分析器は、例えば、四重極飛行時間型(Q−TOF)質量分析器を含む、さまざまな構成によりタンデムで配置できる。タンデム構成では、すでに質量分析された分子のオンライン衝突修正および分析を行うことができる。例えば、トリプル四重極型質量分析器(Q1−Q2−Q3またはQ1−Q2−TOF質量分析器など)では、第2の四重極(Q2)は、第1の四重極(Q1)により分離されたイオンへの加速電圧をインポートする。これらのイオンは、ガスと衝突し、明示的にQ2内に導入される。イオンは、これらの衝突の結果として断片化する。第3の四重極(Q3)またはTOFにより、これらの断片をさらに分析する。本発明の実施形態は、上述のような任意の質量分析法から得られるスペクトルおよびクロマトグラムに適用可能である。
【0036】
次に、m/zのそれぞれの値における分子が検出デバイス116により検出される。例示的なイオン検出デバイスは、電流測定電気計および単一イオン計数多重チャネルプレート(MCP)を備える。MCPからの信号は、弁別器とその後に続く時間領域変換器(TDC)またはアナログ−デジタル(ATD)変換器により分析することができる。本発明の説明のために、MCP検出型システムが想定される。その結果、検出器応答は、特定のカウント数により表される。検出器応答(つまり、カウント数)は、それぞれの質量対電荷比間隔で検出されたイオンの強度に比例する。
【0037】
LC/MSシステムは、一定時間をかけて収集した一連のスペクトルまたは走査を出力する。質量対電荷スペクトルは、m/zの関数としてプロットされた強度である。スペクトルのそれぞれの要素、単一の質量対電荷比は、チャネルと呼ばれる。一定時間にわたって単一チャネルを表示することで、対応する質量対電荷比に対するクロマトグラムが得られる。生成された質量対電荷スペクトルまたは走査は、コンピュータ118により収集し記録することができ、コンピュータ118によりアクセス可能なハードディスクドライブなどの記憶媒体に格納することができる。典型的には、スペクトルまたはクロマトグラムは、コンピュータシステム118により、値の配列として記録され、格納される。配列は、表示し、数学的に分析することができる。
【0038】
MS 108などのMSシステムを構成する特定の機能要素は、LC/MSシステム間で異なることがある。本発明のいくつかの実施形態は、MSシステムを構成できる広範囲にわたるコンポーネントとともに使用するように構成できる。
【0039】
クロマトグラフ分離ならびにイオン検出および記録の後、データは、分離後データ分析システム(DAS)を使用して分析される。本発明の他の実施形態では、DASは、リアルタイムで、またはほぼリアルタイムで、分析を実行する。DASは、一般に、図1に示されているコンピュータ118などのコンピュータ上で実行するコンピュータソフトウェアにより実装される。本明細書で説明されているようにDASを実行するように構成することができるコンピュータは、当業者にはよく知られている。DASは、スペクトルおよび/またはクロマトグラムの視覚的表示を行うことともに、データに関する数学解析を実行するためのツールを提供することを含む多くのタスクを実行するように構成されている。DASによって行われる分析は、単一注入から得られた結果および/または一組の注入から得られる結果を分析して、表示し、さらに分析することを含む。サンプル集合に適用される分析の実施例は、注目する検体に対する較正曲線を生成すること、および不明物内には存在するが、対照中には存在しない新しい化合物を検出することを含む。本発明のいくつかの実施形態によるDASについてここで説明する。
【0040】
図3は、例示的なLC/MS実験中に生成された3個のイオン(イオン1、イオン2、およびイオン3)の例示的なスペクトルを示す。イオン1、イオン2、およびイオン3に関連するピークは、制限された範囲の保持時間およびm/zにおいて出現する。本発明の実施例では、イオン1、イオン2、およびイオン3の質量対電荷比は異なること、およびイオンの親分子は、ほぼ同じ、ただしまったく同じではない、保持時間に溶離されることが仮定されている。その結果、それぞれの分子の溶出プロフィルは、重なり合うか、または共溶出する。これらの仮定の下で、3つの分子すべてがMSのイオン化源内に存在するときがある。例えば、図3に示されている例示的なスペクトルは、3つのイオンすべてがMSイオン源内に存在する場合に収集された。これは、それぞれのスペクトルが、イオン1、2、および3のそれぞれに関連するピークを示すため明らかである。図3に示されている例示的なスペクトルから分かるように、スペクトルピークには重なり合いがない。重なり合いがないということは、質量分析計がこれらのスペクトルピークを分解したということを示す。イオン1、2、および3のそれぞれに対応するピークの頂点の配置は、その質量対電荷比を表す。
【0041】
スペクトル中のイオンが単一スペクトルのみを使って溶離する正確な保持時間またはさらには相対的保持時間を決定することは可能でない。例えば、スペクトルBに対するデータが収集された時刻に、イオン1、2、および3に関連する3つの分子すべてがカラムから溶離していたことが分かるであろう。しかし、スペクトルBのみを分析した場合には、イオン1、2、および3の溶離時間の間の関係を決定することは可能でない。したがって、スペクトルBは、分子がカラムから溶離し始めたときにクロマトグラフピークの開始に対応する時刻に、または分子が溶離をほぼ終了したとき、またはその間のある時刻に、クロマトグラフピークの終わりから、収集されている。
【0042】
保持時間に関係するより正確な情報は、連続するスペクトルを調べることにより得られる。この追加の情報は、溶離分子の保持時間または少なくとも溶離順序を含むことができる。例えば、図3に示されているスペクトルA、B、およびCは、スペクトルAが時刻tAに収集され、スペクトルBがその後の時刻tBに収集され、スペクトルCが時刻tBよりも後の時刻である、時刻tCに収集されるように連続して収集されたと仮定する。次に、それぞれの分子の溶離順序は、時間がtAからtCに進むときに連続的に収集されたスペクトル中に出現するピークの相対的高さを調べることにより決定することができる。このようにして調べることで、時間が進むにつれ、イオン2の強度はイオン1に関して減少し、イオン3の強度はイオン1に関して増大することが分かる。したがって、イオン2は、イオン1の前に溶離し、イオン3は、イオン1の後に溶離する。
【0043】
この溶離順序は、スペクトル中に見つかったそれぞれのピークに対応するクロマトグラムを生成することにより検証することができる。これは、イオン1、2、および3に対応するピークのそれぞれの頂点でm/z値を取得することにより達成できる。これら3つのm/z値が与えられると、DASは、それぞれの走査についてそのm/zで得られた強度をそれぞれのスペクトルから抽出する。次いで、抽出された強度は、溶離時間についてプロットされる。このようなプロットは図4に例示されている。図4のプロットは、図3のピークを調べることにより得られたm/z値でイオン1、2、および3に対するクロマトグラムを表すことが分かる。それぞれのクロマトグラムは、単一のピークを含む。図4に示されているようなイオン1、2、および3に対するクロマトグラムを調査したことで、イオン2が最も早い時刻に溶離し、イオン3が最も後の時刻に溶離することが確認される。図4に示されているクロマトグラムのそれぞれの頂点配置は、それぞれのイオンに対応する分子に対する溶離時間を表す。
【0044】
この導入を念頭に置き、本発明のいくつかの実施形態は、スペクトルおよびクロマトグラムなどの実験的分析出力を分析し、イオンを最適な形で検出し、検出されたイオンに関係するパラメータを定量化する。さらに、本発明のいくつかの実施形態は、著しく簡略化されたスペクトルおよびクロマトグラムを与えることができる。
【0045】
図5は、スペクトルおよびクロマトグラムなどの実験分析出力を処理するための流れ図500である。流れ図500は、上述のDASの場合などさまざまな方法で実現することができる。図5に例示されている本発明の実施形態では、分析は以下のように進行する。
ステップ502:クロマトグラフおよびスペクトルデータを持つ二次元データ行列を作成する。
ステップ504:データ行列に適用する二次元畳み込みフィルタを指定する。
ステップ506:二次元畳み込みフィルタをデータ行列に適用する。
例えば、データ行列は、二次元フィルタと畳み込むことができる。
ステップ508:二次元フィルタをデータ行列に適用した場合の出力中のピークを検出する。それぞれの検出されたピークは、イオンに対応するとみなされる。閾値化は、ピーク検出を最適化するために使用できる。
ステップ510:それぞれの検出されたピークについてイオンパラメータを抽出する。パラメータは保持時間、質量対電荷比、強度、スペクトル方向のピーク幅、および/またはクロマトグラフ方向のピーク幅などのイオン特徴を含む。
ステップ512:抽出されたイオンに関連するイオンパラメータをリストまたはテーブル内に格納する。格納は、ピークが検出される毎に、また複数の、もしくはすべてのピークが検出された後、実行できる。
ステップ514:抽出イオンパラメータを使用して、データの後処理を行う。例えば、イオンパラメータテーブルを使用して、データを簡約することができる。このような簡約は、例えば、窓を掛けてスペクトルまたはクロマトグラフ複雑度を下げることにより行うことができる。分子の特性は、この簡約されたデータから推論することができる。
【0046】
図6および7は、流れ図500の前記のステップを説明する絵図による流れ図である。図6は、本発明の一実施形態によりLC/MSデータを処理する方法の、絵図による流れ図である。より具体的には、絵図による流れ図602のそれぞれの要素は、本発明の一実施形態によるステップの結果を例示している。要素604は、本発明の一実施形態により作成された例示的なLC/MSデータ行列である。後述のように、LC/MSデータ行列は、データ行列の連続する列内に連続する時刻で収集されたLC/MSスペクトルを入れることにより作成することができる。要素606は、所望のフィルタ処理特性に応じて指定することができる例示的な二次元畳み込みフィルタである。二次元フィルタを指定する際の考慮事項について、以下で詳しく説明する。要素608は、本発明の一実施形態により、要素606の二次元フィルタを要素604のLC/MSデータ行列に適用することを表す。二次元フィルタをLC/MSデータ行列に適用するこのような例示的操作は、LC/MSデータ行列と二次元畳み込みフィルタとの畳み込みを行う二次元畳み込みである。フィルタ処理ステップの出力は、出力データ行列であり、その実施例は、要素610として例示されている。フィルタをデータ行列に適用することが畳み込みを含む場合、出力は、出力畳み込み行列である。
【0047】
要素612は、出力データ行列に対しピーク検出を実行し、イオンに関連するピークを同定または検出した例示的な結果を示す。閾値化は、ピーク検出を最適化するために使用できる。この時点で、イオンは、検出されたと考えられる。要素614は、検出されたイオンを使用して作成されたイオン特性の例示的なリストまたはテーブルである。
【0048】
図7は、検出閾値を決定した結果、および本発明の一実施形態によりイオンパラメータテーブルをさらに整理するためのその適用を示す絵図による流れ図702である。要素706は、イオンパラメータリストからアクセスされる例示的なピークデータ、要素704を表す。要素706は、アクセスされたデータを使用して検出閾値を決定した結果を示す。決定された閾値は、ステップ704として生成されたイオンパラメータリストに適用され、実施例がステップ708として示されている編集済みイオンパラメータリストを生成する。そこで、前述のステップをさらに詳しく説明する。
【0049】
ステップ1:データ行列を作成する
LC/MS分析の出力を異なる一連のスペクトルおよびクロマトグラムとしてみなすのではなく、LC/MS出力を強度のデータ行列として構成すると都合がよい。本発明の一実施形態では、データ行列は、データ行列の連続する列内に時間の経つ順に収集されたそれぞれの連続スペクトルに関連するデータを入れ、それにより強度の二次元データ行列を作成することにより、構築される。図8は、時間に従って連続して収集された5個のスペクトルがデータ行列800の連続する列801〜805に格納される例示的なそのようなデータ行列800を示す。スペクトルがこのようにして格納される場合、データ行列800の行は、格納されたスペクトル内の対応するm/z値におけるクロマトグラムを表す。これらのクロマトグラムは、データ行列800内の行811〜815により示される。そのため、行列形式では、データ行列のそれぞれの列は、特定の時刻に収集されたスペクトルを表し、それぞれの行は、固定されたm/zで収集されたクロマトグラムを表す。データ行列のそれぞれの要素は、特定のm/z(対応するスペクトル中の)に対する特定の時刻(対応するクロマトグラム内の)に収集された強度値である。本発明の開示では、列指向のスペクトルデータおよび行指向のクロマトグラフデータを仮定するが、本発明の他の実施形態では、データ行列は、行がスペクトルを表し、列がクロマトグラムを表すように方向づけられる。
【0050】
図9は、データ行列の連続する列内にスペクトルデータを格納することにより上述のように生成されたデータ行列の例示的な絵図表現(特に、等高線プロット)である。図9に例示されている等高線プロットにおいて、イオン1、2、および3はそれぞれ、強度の島として出現する。等高線プロットは、3個のイオンの存在だけでなく、溶離順序がイオン2、続いてイオン1、そしてイオン3の順序であることも顕著に示している。図9は、さらに、3つの頂点902a、902b、および902cも示している。頂点902aは、イオン1に対応し、頂点902bは、イオン2に対応し、頂点902cは、イオン3に対応する。頂点902a、902b、および902cの配置は、イオン1、2、および3に対するm/zおよび保持時間にそれぞれ対応する。等高線プロットの下限である値0よりも上にある頂点の高さは、イオンの強度の尺度である。単一イオンに関連するカウントまたは強度は、長円体領域または島の中に含まれる。m/z(列)方向のこの領域のFWHMは、スペクトル(質量)ピークのFWHMである。行(時間)方向のこの領域のFWHMは、クロマトグラフピークのFWHMである。
【0051】
島を形成する同心円状等高線の一番内側は、最高強度を持つ要素を示す。この局所的極大または極大要素は、最も近い隣接要素よりも大きい強度を持つ。例えば、二次元データ等高線については、局所的極大または頂点は、振幅が最も近い隣接要素よりも大きい任意の点である。本発明の一実施形態では、局所的極大または頂点は、8つの最も近い隣接要素よりも大きくなければならない。表1の実施例では、中心要素が局所的極大であるが、それは、8個の隣接要素のそれぞれが10よりも小さい値を持つからである。
【表1】

【0052】
図9の等高線プロットを通して描かれた6本の線がある。イオン1、イオン2、およびイオン3のラベルが付いている3本の水平線は、図4にそれぞれ示されているようにイオン1、2、および3に対するクロマトグラムに対応する断面を示す。A、B、およびCのラベルが付いている3本の垂直線は、図3にそれぞれ示されているように質量スペクトル3A、3B、および3Cに対応する断面を示す。
【0053】
データ行列が作成された後、イオンが検出される。検出されたイオン毎に、保持時間、m/z、および強度などのイオンパラメータが得られる。データ行列に雑音が含まれず、イオンが互いに干渉しない場合(例えば、クロマトグラフ共溶出およびスペクトル干渉により)、それぞれのイオンは、図9の等高線プロットに例示されているように、強度の固有の孤立した島を生じる。
【0054】
図9に示されているように、それぞれの島は、単一の最大要素を含む。雑音、共溶出、または干渉がない場合、本発明の一実施形態によるイオン検出およびパラメータ定量化は、図10の流れ図1000に示されているように以下のとおり進行する。
ステップ1001:データ行列を形成する
ステップ1002:データ行列内のそれぞれの要素について問い合わせる。
ステップ1004:強度の局所的極大であり、正の値を持つすべての要素を識別する。
ステップ1006:そのようなそれぞれの局所的極大にイオンのラベルを付ける。
ステップ1008:イオンパラメータを抽出する。
ステップ1010:イオンパラメータを表にする。
ステップ1012:イオンパラメータを後処理して、分子特性を得る。
【0055】
ステップ1008で、最大要素を調べることにより、それぞれのイオンのパラメータを得る。イオンの保持時間は、最大要素を含む走査の時間である。イオンのm/zは、最大要素を含むチャネルに対するm/zである。イオンの強度は、最大要素それ自体の強度であるか、または強度は、最大要素を取り囲む要素の強度の総和とすることができる。後述の補間法を使用して、それらのパラメータの推定を改善することができる。例えば、クロマトグラフ方向およびスペクトル方向のピークの幅を含む、二次的観察可能パラメータも、決定することができる。
【0056】
ステップ2および3:フィルタの指定および適用
フィルタの必要性
LC/MS実験に、共溶出、干渉、または雑音が存在しないことは、あるとしても滅多にあることではない。共溶出、干渉、または雑音が存在すると、イオンを正確に、確実に検出する能力がひどく低下する可能性がある。したがって、流れ図1000に示されている単純な検出および定量化手順は、すべての状況に十分とはいえない。
【0057】
共溶出
図11は、有限ピーク幅による共溶出および干渉の効果を示す例示的な等高線プロットである。図11に示されている実施例では、他のイオン、つまりイオン4は、イオン1よりもいくぶん大きいm/zおよび保持時間値を持つだけでなく、イオン1の頂点のFWHM内にあるスペクトルとクロマトグラフの両方の方向に頂点を持つと仮定される。その結果、イオン4は、クロマトグラフ方向でイオン1と共溶出され、スペクトル方向でイオン1と干渉する。
【0058】
図12は、図11の線A、B、およびCにより示されている時刻におけるイオン4の共溶出によるスペクトル効果を例示している。図12に示されているそれぞれのスペクトルでは、イオン4は、イオン1の段部として現れる。これは、イオン4に関連する顕著な頂点がないので、図11に示されている等高線プロットから明らかでもある。
【0059】
そのため、LC/MSシステムにおける検出の問題の1つは、イオンの対が時間とともに共溶出し、スペクトル干渉して、イオンの対が2つのではなく、単一の局地的極大のみを生じることである。共溶出または干渉は、データ行列の中で有意な強度を持つ真のイオンを見逃させる、つまり検出させない可能性がある。真のピークの検出がこのように見逃されることは、偽陰性と呼ばれる。
【0060】
雑音
LC/MSシステムで生じる雑音は、典型的には、検出雑音と化学的雑音の2つのカテゴリに分類される。検出器雑音および化学的雑音は組み合わさって、イオンの検出および定量化が行われる際のベースラインバックグラウンドノイズを定める。
【0061】
検出雑音は、ショットまたは熱雑音とも呼ばれるが、すべての検出プロセスに内在する。例えば、MCPなどの計数検出器は、ショット雑音を加え、電気計などの増幅器は、熱またはジョンソン雑音を加える。ショット雑音の統計量は、一般に、ポアソン統計量により記述される。ジョンソン雑音の統計量は、一般に、ガウス統計量により記述される。このような検出雑音は、システムに内在し、なくすことはできない。
【0062】
LC/MSシステム内に生じる雑音の第2の種類のものは、化学的雑音である。化学的雑音は、複数の発生源に由来する。例えば、分離およびイオン化のプロセスで何気なく捕らえられた小さな分子は、化学的雑音を引き起こす可能性がある。このような分子は、普遍的に存在するもので、それぞれ、与えられた質量対電荷比で本質的に一定の背景強度を生じるか、またはそれぞれのそのような分子は分離され、それにより、特性保持時間でクロマトグラフプロファイルを生じる可能性がある。他の化学的雑音源は、複雑な試料中に見つかり、これは、広いダイナミックレンジわたって変化する濃度を持つ分子と低い濃度ほど効果が有意である干渉要素の両方を含みうる。
【0063】
図13は、雑音の効果を示す例示的な等高線プロットである。図13では、数値的に生成された雑音がイオンピーク等高線プロットに加えられ、それにより、化学的および検出器雑音の効果をシミュレートしている。図14Aは、図13でそれぞれ線A、B、およびCに対応する質量スペクトル(スペクトルA、B、およびC)を例示し、図14Bは、図13でそれぞれイオン1、イオン2、およびイオン3のラベルが付けられている線に対応するイオン1、2、3のクロマトグラムを例示する。図13から分かるように、付加雑音の有害な効果の1つは、それにより、イオン1およびイオン2に関連する公称頂点位置のFWHM内を含む、プロット全体を通して頂点が出現するということである。これらの雑音誘発頂点は、イオンに対応するピークとして誤って識別され、その結果、偽陽性のイオン検出となる可能性がある。
【0064】
そのため、局所的極大は、イオンによるものではなく、雑音によるものといえる。その結果、偽ピーク、つまり、イオンに関連しないピークは、イオンとして数えられる。さらに、雑音は、1つのイオンに対し複数の多重の局所的極大を生じる可能性もある。これらの多重の局地的極大があると、真のイオンに相当しないピークが検出される可能性がある。そのため、単一イオンからのピークは、実際多重ピークは単一イオンのみによるものとである場合に分離イオンとして多重に数えられうる。このように偽ピークをイオンとして検出することは、偽陽性と呼ばれる。
【0065】
雑音効果を無視することに加えて、図10で説明されている単純なイオン検出アルゴリズムは、一般に、統計的に最適ではない。これは、保持時間、m/z、および強度の推定の分散が、単一最大要素の雑音特性により決定されるからである。簡素化されたアルゴリズムでは、最大要素を囲む強度の島の中の他の要素を利用しない。以下でさらに詳しく説明するように、このような隣接要素は、推定の分散を小さくするために使用できる。
【0066】
畳み込みの役割
本発明のいくつかの実施形態によれば、LC/MSデータ行列は、二次元配列である。このようなデータ行列は、フィルタ係数の二次元配列との畳み込みを行うことにより処理することができる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態で採用されている畳み込み演算は、従来のシステムで採用されている単純な信号加算平均スキームに比べて一般的で強力なピーク検出へのアプローチとなる。本発明のいくつかの実施形態で採用されている畳み込み演算では、図10で説明されている方法の制限を取り払う。
【0068】
フィルタ係数は、単一チャネルまたは走査を分析することから得られるものと比べてより信号対雑音比を持つイオンパラメータの推定値を与えるように選択できる。
【0069】
畳み込みフィルタ係数は、特定のデータ集合に対して最高の精度または最小の統計的分散を持つイオンパラメータの推定値を生成するように選択できる。本発明のいくつかの実施形態のこれらの利点は、従来のシステムに比べて、低い濃度のイオンに対し再現性の高い結果をもたらすことである。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態の他の利点は、共溶出され、干渉するイオンを分解するようにフィルタ係数を選択できることである。例えば、質量スペクトルにおいて他のイオンの段部として現れるイオンの頂点は、本発明のいくつかの実施形態において適宜指定されたフィルタ係数を使用して検出されうる。このような検出では、共溶出およびイオン干渉が共通の問題である、複雑なクロマトグラムを分析する際の従来の技術に関連する制限を克服する。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態の他の利点は、ベースライン信号を減算し、イオン強度のより正確な推定値を生成するようにフィルタ係数を選択できることである。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態の他の利点は、畳み込みの計算負荷を最小限に抑え、ピーク検出およびイオンパラメータの推定の演算を高速化するようにフィルタ係数を選択できる。
【0073】
一般に、例えば、サビツキー−ゴーレイ(SG)平滑化および微分フィルタを含む、多数のフィルタ形状が畳み込みで使用可能である。フィルタ形状は、平滑化、ピーク同定、雑音低減、およびベースライン低減を含む、多数の機能を実行するように選択できる。以下では、本発明の好ましい実施形態で使用されるフィルタ形状について説明する。
【0074】
本発明の畳み込みの実装
本発明のいくつかの実施形態による畳み込み演算は、線形、非反復であり、またデータ行列内のデータの値に依存しない。本発明の一実施形態では、畳み込み演算は、コンピュータなどの118などの汎用コンピュータを使用して汎用プログラミング言語により実装される。本発明の他の実施形態では、畳み込み演算は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)と呼ばれる専用プロセッサで実装される。典型的には、DSPベースのフィルタ処理は、汎用コンピュータベースのフィルタ処理に比べて処理速度に勝る。
【0075】
一般に、畳み込みでは、2つの入力を組み合わせて1つに出力を生成する。本発明のいくつかの実施形態では、二次元畳み込みを採用する。二次元畳み込み演算への1つの入力は、LC/MS実験のスペクトル出力から生成された強度のデータ行列である。二次元畳み込み演算への第2の入力は、フィルタ係数の行列である。畳み込み演算は、出力畳み込み行列を出力する。一般に、出力畳み込み行列は、入力LC/MS行列と同じ数の行および列要素を持つ。
【0076】
本発明の説明を簡単にするため、LC/MSデータ行列は矩形であり、フィルタ係数の行列のサイズはピークのサイズに相当すると仮定する。この場合、フィルタ係数行列のサイズは、入力データ行列または出力畳み込み行列のサイズよりも小さい。
【0077】
出力行列の要素は、入力LC/MSデータ行列から以下のように得られる。フィルタ行列が、入力データ行列内のある要素を中心として配置され、次いで、入力データ行列要素が、対応するフィルタ行列要素を掛けられ、積が総和され、これにより、出力畳み込みデータ行列の要素が得られる。畳み込みフィルタは、隣接要素を組み合わせることにより、イオンの保持時間、質量対電荷比、および強度の推定値の分散を低減する。
【0078】
出力畳み込み行列のエッジ値は、出力畳み込み行列のエッジからフィルタ幅の半分以内にある要素である。一般に、これらの要素は、無効なフィルタ処理値を示すために本発明のいくつかの実施形態では無効値に設定されるようにできる。一般に、これらのエッジ値を無視することは、本発明のいくつかの実施形態に対する有意な制限ではなく、これらの無効値は、その後の処理で無視することができる。
【0079】
一次元畳み込み
一次元の場合の畳み込みは、明確に詳述される。この説明の後に、畳み込みを二次元の場合に一般化する。本発明の好ましい実施形態に使用される二次元畳み込み演算は、一連の一次元畳み込みをデータ行列に適用することにより実装されるので、一次元の場合についてまず最初に説明するのが有益である。
【0080】
一次元では、畳み込み演算は以下のように定義される。N個の要素からなる、強度dの一次元入力配列、M個の要素からなる、畳み込みフィルタ係数fの配列が与えられると、畳み込み演算は、
【数1】

として定義されるが、ただし、cは、出力畳み込み配列であり、i=1,...,Nである。便宜上、Mは、奇数として選択される。インデックスjは、j=−h,...,0,...,hまで変化し、hは、h≡(M−1)/2と定義される。
【0081】
そこで、cの値は、dを囲むh個の要素の加重和に対応する。スペクトルおよびクロマトグラムは、ピークを含む一次元入力配列のいくつかの実施例である。畳み込みフィルタfの幅は、ピークの幅くらいに設定される。そのため、Mは、ピークの幅にわたる配列要素の個数のオーダーである。ピークは、典型的には、入力配列の長さNよりもかなり小さい幅を持ち、一般に、
【数2】

である。
【0082】
に対するインデックスiは1からNまでの範囲であるが、本発明のいくつかの実施形態では、cは、エッジ効果を説明するためにi>hまたはi≦(N−h)についてのみ定義される。配列境界の付近の、つまり、i≦hまたはi>(N−h)の場合のcに対する値は、総和に対して定義されない。このようなエッジ効果は、総和が定義される場合に、cに対する値をi>hまたはi≦(N−h)となるように制限することにより取り扱うことができる。この場合、総和は、フィルタfをピークの近傍内のすべての点に適用できるように配列のエッジから十分に離れたところにあるピークにのみ適用される。つまり、フィルタ処理は、データ配列dのエッジのところでは実行されない。一般に、エッジ効果を無視することは、本発明のいくつかの実施形態の有意な制限とはならない。
【0083】
フィルタ処理された値が1<i<hまたはN≧i>(N−h)に対するエッジ付近で必要な場合、データ配列および/またはフィルタ係数は、それらのエッジ要素について修正することができる。データ行列は、h個の要素を配列のそれぞれの末端に付加し、M個の係数フィルタをN+2h個の要素を含む配列に適用することにより修正することができる。
【0084】
それとは別に、フィルタ処理関数の制限を、エッジ付近のフィルタ処理についてM個の未満の点があることを説明するように適宜修正することによりエッジ効果を考慮することができる。
【0085】
二次元畳み込み
上述の一次元畳み込み演算は、本発明のいくつかの実施形態で使用する二次元データの場合に一般化できる。二次元の場合、畳み込み演算への1つの入力は、i=1,...,Mおよびj=1,...,Nで、2つのインデックス(i,j)を添字とするデータ行列di,jである。入力データ行列のデータ値は、実験毎に変わりうる。畳み込みへの他の入力は、さらに2つのインデックスを添字とする一組の固定されたフィルタ係数fp,qである。フィルタ係数行列fp,qは、P×Q係数を持つ行列である。変数hおよびlは、h≡(P−1)/2およびl≡(Q−1)/2と定義される。そのため、p=−h,...,h、およびq=−l,...,lである。
【0086】
i,jとfp,qとの畳み込みを行うと、出力畳み込み行列ci,j
【数3】

が得られる。
【0087】
一般に、フィルタのサイズは、データ行列のサイズよりもかなり小さく、したがって、P<<MおよびQ<<Nである。上記の式は、ci,jが、fp,qの中心をdi,jの(i,j)番目の要素に置き、その後、フィルタ係数fp,qを使用して囲む強度の加重和を求めることにより計算されることを示している。そのため、出力行列ci,jのそれぞれの要素は、di,jの要素の加重和に対応し、それぞれの要素di,jは、j番目の要素を中心とする領域から得られる。
【0088】
i,jに対するインデックスiおよびjは1からN、および1からMまでの範囲であるが、本発明のいくつかの実施形態では、ci、jは、エッジ効果を説明するためにi≧hまたはi≦(N−h)およびj≧lまたはj≦(M−l)についてのみ定義される。配列境界の付近の、つまり、i<hまたはi>(N−h)および/またはj≧lまたはj≦(M−l)の場合のcに対する値は、総和に対して定義されない。このようなエッジ効果は、総和が定義される場合に、ci,jに対する値をそれらの値となるように制限することにより取り扱うことができる。この場合、総和は、フィルタfp,qをピークの近傍内のすべての点に適用できるように配列のエッジから十分に離れたところにあるピークにのみ適用される。つまり、フィルタ処理は、データ配列di,jのエッジのところでは実行されない。一般に、エッジ効果を無視することは、本発明のいくつかの実施形態の有意な制限とはならない。
【0089】
フィルタ処理された値が1≦i<hおよびN≧i>(N−h)に対するエッジ付近で必要な場合、データ行列および/またはフィルタ係数行列は、それらのエッジ要素について修正することができる。1つのアプローチは、h個の要素をそれぞれの行の終わりに付加し、l個の要素をそれぞれの列の終わりに付加することである。次いで、二次元畳み込みフィルタが(N+2h)×(M+2l)個の要素を含むデータ行列に適用される。
【0090】
それとは別に、フィルタ処理関数の制限を、行エッジ付近のフィルタ処理についてはP個の未満の点、および列エッジ付近のフィルタ処理についてはQ個未満の点があることを説明するように適宜修正することによりエッジ効果を考慮することができる。
【0091】
式(2)の実装に対する計算負荷は以下のように計算することができる。fp,qがP×Q個の係数を含む場合、ci,jに対する値を計算するのに必要な乗算の回数は、P×Qである。例えば、P=20およびQ=20の場合、出力畳み込み行列内のそれぞれの出力点ci,jを決定するために400回の乗算が必要であるという結果になる。これは、二次元畳み込みに対する他のアプローチにより緩和できる高い計算負荷である。
【0092】
階数1のフィルタとの二次元畳み込み
式(2)で記述されている二次元畳み込みフィルタは、P×Q個の独立に指定された係数を含むフィルタ行列に適用される。フィルタ係数を指定する方法はほかにもある。その結果得られる畳み込み係数は、それほど自由に指定できないが、計算負荷は緩和される。
【0093】
フィルタ係数を指定するそのような他の方法の1つは、階数1フィルタとして指定することである。階数1畳み込みフィルタを説明するために、LC/MSデータ行列の二次元畳み込みは2つの一次元畳み込みの連続適用により実現できることを考慮する。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、JOHN H.KARL「INTRODUCTION TO DIGITAL SIGNAL PROCESSING」PG.320(ACADEMIC PRESS 1989)(「KARL」)を参照のこと。例えば、一次元フィルタgは、LC/MSデータ行列のそれぞれの行に適用され、中間畳み込み行列を生成する。この中間畳み込み行列に対し、第2の一次元フィルタfがそれぞれの列に適用される。それぞれの一次元フィルタは、異なる一組のフィルタ係数とともに指定することができる。式(3)は、階数1畳み込みフィルタを含むフィルタが連続してどのように適用されるかを示しているが、ただし、中間行列が括弧でくくられている。
【数4】

【0094】
式(3)の実装に対する計算負荷は以下のように計算することができる。fがP個の係数を含み、gがQ個の係数を含む場合、ci,jに対する値を計算するのに必要な乗算の回数は、P+Qである。例えば、P=20およびQ=20の場合、出力畳み込み行列内のそれぞれの出力点ci,jを決定するために乗算は40回あればよい。これから分かるように、これは、それぞれのci,jを決定するために20×20=400が必要である式(2)で記述されている二次元畳み込みの一般的な場合よりも計算効率が高い。
【0095】
式(4)は、連続演算が、データ行列と要素が一次元フィルタの対毎の積である単一係数行列との畳み込みと等価であることを示す式(3)を整理し直したものである。式(4)を調べると、階数1形式を使用する際に、有効な二次元畳み込み行列は、2つの一次元ベクトルの外積により形成される階数1行列であることが分かる。したがって、式(4)は、
【数5】

【数6】

と書き直すことができる。二次元係数行列Fpqは、畳み込み演算から得られる。Fpqは、階数1行列の形式を有し、階数1行列は、列ベクトル(ここでは、f)と行ベクトル(ここでは、g)の外積として定義される。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、GILBERT STRANG「INTRODUCTION TO APPLIED MATHEMATICS」68FF(WELLESLEY−CAMBRIDGE PRESS 1986)(「STRANG」)を参照のこと。
【0096】
階数1フィルタ実装を使用する本発明のいくつかの実施形態では、階数1フィルタは、フィルタ毎に1つずつ、2つの直交する断面により特徴づけられる。それぞれの直交する断面に対するフィルタは、一次元フィルタ配列により指定される。
【0097】
階数2のフィルタとの二次元畳み込み
階数2フィルタとの二次元畳み込み演算が実行できる。階数2フィルタとの二次元畳み込みは、2つの階数1フィルタを計算し、その結果の総和を求めることにより実行される。そのため、4つのフィルタ
【数7】

および
【数8】

が、本発明のいくつかの実施形態で実行される二次元畳み込みに対する階数2フィルタを実装するために必要である。
【0098】
2つのフィルタ
【数9】

および
【数10】

は、第1の階数1フィルタに関連付けられ、2つのフィルタ
【数11】

および
【数12】

は、第2の階数1フィルタに関連付けられる。これら4つのフィルタ
【数13】

および
【数14】

は、
【数15】

のように実装される。
【0099】
フィルタ
【数16】

および
【数17】

は、スペクトル方向に(列にそって)適用され、フィルタ
【数18】

および
【数19】

は、クロマトグラフ方向に(行にそって)適用される。式(7)は、中間行列が中括弧で囲まれている、それぞれのフィルタ対が連続してどのように適用できるか、また2つの階数1フィルタからの結果がどのように総和されるかを示している。式(7)は、本発明のいくつかの実施形態により階数2フィルタを実装する好ましい方法を示している。
【0100】
式(8)は、階数2フィルタ構成の連続演算が、データ行列と要素が2つの一次元フィルタ対の対毎の積和である単一係数行列との畳み込みと等価であることを示す式(7)を整理し直したものである。
【0101】
階数2フィルタの計算要件を分析するために、
【数20】

および
【数21】

が両方ともP個の係数を含み、
【数22】

および
【数23】

が両方ともQ個の係数を含む場合、出力畳み込み行列ci,jの要素に対する値を計算するために必要な乗算の回数は、2(P+Q)である。したがって、P=20およびQ=20の場合、出力畳み込み行列のそれぞれの要素を計算するために乗算は80回だけでよいが、式(2)に示されているような一般的な場合については、それぞれのci,jを計算するのに20×20=400回必要である。
【0102】
そのため、階数2フィルタを使用する本発明の一実施形態では、有効な二次元畳み込み行列は、一次元ベクトルの2つの対の外積の和から形成される。式(8)は、
【数24】

【数25】

のように書き換えられる。
【0103】
二次元係数行列Fpqは、畳み込み演算から得られる。二次元係数行列Fpqは、階数2行列の形式をとり、階数2行列は、STRANGで記述されているように2つの一次独立の階数1行列の総和として定義される。ここで、
【数26】

および
【数27】

は、それぞれ階数1行列である。
【0104】
フィルタ指定
式(2)、(3)、および(7)は、本発明の二次元畳み込みフィルタのすべての実施形態である。式(2)は、フィルタ係数を行列fp,qとして指定し、式(3)は、フィルタ係数を2つの一次元フィルタfおよびgからなる一組のフィルタとして指定し、式(7)は、4つの一次元フィルタ
【数28】

および
【数29】

からなる一組のフィルタとして指定する。
【0105】
式(2)、(3)、および(7)は、これらの係数の好ましい値を指定しない。本発明に対するフィルタ係数の値は、図10の方法の制限を解消するように選択される。フィルタ係数は、検出器雑音および化学的雑音の効果の低減、共溶出および干渉ピークの部分的分解、ベースライン雑音の減算、ならびに計算効率および高速演算の実現を含む複数の目標を遂行するように選択される。
【0106】
整合フィルタ定理(MFT)は、式(2)を使用して実装することができるフィルタ係数を得るための、従来技術で知られている、規範となる方法である。例えば、KARLの217頁、参照により本明細書に組み込まれているBRIAN D.O.ANDERSON & JOHN B.MOORE「OPTIMAL FILTERING 223ff(PRENTICE−HALL INC.1979)(「ANDERSON」)の223ff頁を参照のこと。MFTから得られるフィルタは、信号の存在を検出し、検出器雑音の効果を低減するように設計されている。次いで、このようなフィルタは、LC/MSデータ行列内のイオンを検出するために使用することができ、またイオンの保持時間、質量対電荷比、および強度を決定するために使用することができる。MFTから得られるフィルタは、図10の方法に勝る改善結果となっている。特に、このようなフィルタは、ピーク頂点に隣接するピークの範囲内にある要素からのデータを組み合わせることにより、分散を低減し、精度を高める。しかし、このようなフィルタは、ベースライン雑音を減算するか、または共溶出および干渉ピークを分解するようには設計されていない。フィルタはMFTから得られるが、高速演算向きには設計されていない。
【0107】
MFTおよびMFTから得られる一組のフィルタ係数は図10の方法に勝る改善を示していると説明され、さらに、ベースラインを減算する修正フィルタは、共溶出および干渉の効果を低減するが、検出器雑音および化学的雑音の効果を低減するということも説明されている。このようなフィルタは、平滑化および2階微分フィルタの組合せを採用し、また式(3)および(7)を使用して実装される。好ましい実施形態では、式(7)を平滑化および2階微分フィルタの組合せとともに使用し、雑音を低減し、干渉ピークを分解し、ベースラインを減算し、計算負荷を低減して、高速演算を可能にする。
【0108】
一次元畳み込みの整合フィルタ定理
MFTは、最初に一次元畳み込みについて説明される。次いで、二次元畳み込みに一般化される。
【0109】
に対する係数は、検出関数を実行するように選択される。例えば、整合フィルタ定理(MFT)は、検出関数を実行するために使用できる整合フィルタとして知られている一組のフィルタを実現する。
【0110】
MFTでは、データ配列dは、信号rと付加雑音nの和
【数30】

としてモデル化することができると仮定している。信号の形状は、固定されており、一組の係数sにより記述される。倍率rは、信号振幅を決定する。MFTでは、さらに、信号は有界であると仮定する。つまり、信号は、ある領域の外では0である(または無視できるくらい十分に小さい)。信号は、M個の要素上に及ぶと仮定される。便宜上、Mは、典型的には、奇数として選択され、信号の中心は、sに置かれる。hがh≡(M−1)/2と定義される場合、i<−hおよびi>hなるiについて、s=0である。上記の式において、信号の中心はi=iに現れる。
【0111】
本発明の説明を簡素化するために、雑音要素nは、平均値0および標準偏差σの無相関ガウス偏差であると仮定される。MFTのより一般的な式は、相関または有色雑音に対応している。例えば、ANDERSONの288〜304頁を参照のこと。
【0112】
これらの仮定の下で、それぞれの要素の信号対雑音比(SNR)は、r/σである。信号sを含むデータの加重和のSNRは、h≡(M−1)/2、およびi=−h,...,0,...hとして、信号と一致するように中心が決められた重みwのM要素集合を考慮することにより決定することができる。重みは信号と一致するように中心が決められていると仮定すると、加重和Sは、
【数31】

と定義される。
【0113】
アンサンブル平均による雑音項の平均値は0である。したがって、それぞれの配列内の信号が同じであるが、雑音は異なる、配列の集合にわたるSの平均値は、
【数32】

である。
【0114】
雑音の寄与を決定するために、雑音のみを含む領域に重みが適用される。総和のアンサンブル平均は0である。アンサンブル平均を中心とする加重和の標準偏差は、
【数33】

である。
【0115】
最後に、SNRは、
【数34】

として決定される。この結果は、重み係数wの一般的集合に対するものである。
【0116】
MFTでは、SNRを最大にするwに対し値を指定する。重み係数wが単位長のM次元ベクトルwの要素としてみなされる場合、つまり、
【数35】

となるように重み係数が正規化された場合、ベクトルwがベクトルsと同じ方向を指すときにSNRは最大化される。ベクトルは、それぞれの要素が互いに比例する、つまり、w∝sとなるときに、同じ方向を指す。その結果、MFTは、重み関数が信号自体の形状である場合に加重和が最高の信号対雑音比を持つことを意味する。
【0117】
=sとなるようにwが選択された場合、単位標準偏差を有する雑音に関して、SNRが、
【数36】

に整理される。SNRのこの式は、フィルタ係数の中心がその信号に設定されたときに加重和の信号特性に対応し、フィルタが雑音のみの領域内にあるときに雑音特性に対応する。
【0118】
二次元畳み込みの整合フィルタ定理
一次元の場合について上で説明したMFTは、データの二次元配列で実現される有界二次元信号について二次元の場合に一般化することもできる。前に述べたように、データは、信号+雑音の総和
【数37】

としてモデル化されると仮定され、信号Si,jは、大きさが制限され、その中心は、振幅rの(i,j)に置かれている。それぞれの雑音要素ni,jは、平均値0および標準偏差σの独立ガウス偏差である。
【0119】
信号Si,jを含むデータの加重和のSNRを決定するために、h=(P−1)/2、l=(Q−1)/2、i=−h,...,h、およびj=−l,...,lである、重みwi,jのP×Q要素集合を考える。重みは、信号と一致するように中心が決められる。加重和Sは、
【数38】

である。
【0120】
そのアンサンブル全体にわたるSの平均値は、
【数39】

である。雑音の標準偏差は、
【数40】

であり、信号対雑音比は、
【数41】

である。
【0121】
上述の一次元の場合のように、SNRは、重み関数の形状が信号に比例するとき、つまり、wi,j∝si,jのときに、最大化される。加重和の信号特性は、フィルタ係数の中心がその信号上に置かれている場合に対応し、加重和の雑音特性は、フィルタが雑音のみの領域内にある場合に対応する。
【0122】
整合フィルタは、最適な形で隣接要素を組み合わせることにより最大の信号対雑音比を得る。整合フィルタ係数を採用する畳み込みフィルタは、イオンの保持時間、質量対電荷比、および強度の推定値の最小の分散を出力する。
【0123】
一意的な最大値を出力することが保証されている整合フィルタ
一般に、畳み込みを使用する信号検出は、データ配列にそってフィルタ係数を移動し、それぞれの点で加重和を得ることにより進行する。例えば、フィルタ係数がMFTを満たす場合、つまり、w=s(フィルタが信号に整合している)場合、データの雑音のみ領域では、出力の振幅は、雑音により決まる。フィルタが信号と重なり合うと、振幅は増大し、フィルタが信号と時間的に揃ったときに一意的な最大値に到達しなければならない。
【0124】
一次元ガウス整合フィルタ
一次元畳み込みの前述の技術の一実施例として、信号が単一イオンから得られる単一ピークである場合を考察する。ピーク(スペクトルまたはクロマトグラフ)は、幅が標準偏差σで与えられ、その幅は試料要素の単位で測定される、ガウスプロファイルとしてモデル化されるようにできる。そこで、信号は、
【数42】

である。
【0125】
フィルタ境界は±4σに設定されていると仮定する。整合フィルタ定理により、フィルタは、信号形状それ自体である、つまり、0を中心とし、±4σを境界とするガウス型である。このような整合フィルタの係数は、
【数43】

により与えられる。
【0126】
さらに、システムは、標準偏差に従って4点をサンプリングすると仮定する。その結果、σ=4、したがって、i=−16,...,16であり、フィルタは、この実施例については33点幅である。一次元のガウス整合フィルタ(GMF)の場合、畳み込み出力配列の最大信号は、7.09rであり、雑音振幅は、2.66σである。整合フィルタを使用することに関連するSNRは、2.66(r/σ)である。
【0127】
一次元におけるボックスカーフィルタとガウス整合フィルタとの対比
GMFと一次元の単純ボックスカーフィルタとを対比する。ここでもまた、信号は、上述のガウス形状によりモデル化されるピークであると仮定される。ボックスカーに対するフィルタ境界も±4σに設定されていると仮定する。ボックスカーフィルタの係数は、
【数44】

により与えられる。ボックスカーフィルタの出力は、M個の点にわたる入力信号の平均値である(M=8σ+1)。
【0128】
ここでもまた、さらに、システムは、標準偏差に従って4点をサンプリングし、したがって、ボックスカーフィルタは、33点幅であると仮定する。単位高さのガウスピークについては、ボックスカーフィルタを使用するピーク上の平均信号は、0.304rであり、雑音の標準偏差は、
【数45】

である。ボックスカーフィルタを使用するSNRは、1.75(r/σ)である。
【0129】
そのため、ボックスカーに関するガウス整合フィルタのSNRは、2.66/1.75=1.52、またはボックスカーフィルタにより与えられるものよりも50%以上高い。
【0130】
整合フィルタおよびボックスカーフィルタは両方とも線形である。ガウスピーク形状を有するフィルタのいずれかの畳み込みは、一意的な最大値を持つ出力を生成する。そのため、これらのフィルタはいずれも、本発明のいくつかの実施形態の畳み込みで使用することができる。しかし、ガウス雑音の場合、局所的極大ではSNRが高いので、整合フィルタが好ましい。
【0131】
ガウス雑音およびポアソン雑音
ガウス整合フィルタは、雑音がガウス統計量を持つ場合に最適なフィルタである。計数検出器では、ボックスカーフィルタは、単純にピークと関連するすべてのカウントの総和であるため最適となる。ピークに関連するすべてのカウントを総和するために、ボックスカーフィルタの幅は、ピークの幅に関係していなければならない。典型的には、ボックスカーフィルタの幅は、ピークのFWHMの2から3倍である。
【0132】
二次元ガウス整合フィルタ
二次元畳み込みの整合フィルタ技術の一実施例として、信号が単一イオンから得られる単一ピークである場合を考察する。ピークは、スペクトル方向およびクロマトグラフ方向の両方でガウスプロファイルとしてモデル化されることができる。スペクトル幅は、幅が試料要素の単位で測定される標準偏差σで与えられ、クロマトグラフ幅は、幅が試料要素の単位で測定される標準偏差σで与えられる。そこで、データ行列要素i,jを中心とする信号は、
【数46】

である。
【0133】
フィルタ境界は±4σおよび±4σに設定されていると仮定する。整合フィルタ定理により、フィルタは、信号形状それ自体である、つまり、0を中心とし、±4σおよび±4σを境界とするガウス型である。このような整合フィルタの係数は、p>−4σおよびp<4σ、ならびにq>−4σおよびq<4σについて
【数47】

により与えられる。
【0134】
さらに、システムは、スペクトル方向とクロマトグラフ方向の両方について標準偏差に従って4点をサンプリングすると仮定する。その結果、σ=4およびσ=4、したがって、p=−16,...,16およびq=−16,...,16であり、フィルタは、この実施例については33×33点である。二次元のガウス整合フィルタ(GMF)の場合、畳み込み出力行列における最大信号は、50.3rであり、雑音振幅は、7.09σである。整合フィルタを使用することに関連するSNRは、7.09(r/σ)である。
【0135】
二次元畳み込みフィルタは、クロマトグラフ方向と質量分析方向の両方でLC/MSデータ行列に対しフィルタ演算を実行する。畳み込み演算の結果、出力畳み込み行列は、形状が一般に入力LC/MSデータ行列に関して幅広または他の何らかの形で歪んでいるピークを含む。特に整合ガウスフィルタは、常に、入力ピークに関してクロマトグラフ方向およびスペクトル方向の両方において√2倍に広げられた出力畳み込み行列内にピークを生成する。
【0136】
一見したところ、GMFにより生じた拡大は、保持時間、質量対電荷比、または強度の臨界パラメータの正確な推定を損なう可能性があるように思える。しかし、整合フィルタ定理は、二次元畳み込みが頂点値を生成し、その頂点値の保持時間、質量対電荷比、および強度はピークに関連するすべてのスペクトルおよびクロマトグラフ要素の有効な組合せから得られ、その結果得られる頂点関連値は、そのピークの保持時間、m/z、および強度の統計的に最適な推定値を出力することを示している。
【0137】
二次元のボックスカーフィルタと対照的なガウス整合フィルタ
GMFと二次元の単純ボックスカーフィルタとを対比する。ここでもまた、信号は、上述のガウス形状によりモデル化されるピークであると仮定される。ボックスカーに対するフィルタ境界も±4σに設定されていると仮定する。ボックスカーフィルタの係数は、
【数48】

により与えられる。ボックスカーフィルタの出力は、M×N個の点にわたる入力信号の平均値である。
【0138】
ここでもまた、さらに、システムは、標準偏差に従って4点をサンプリングし、したがって、ボックスカーフィルタは、33×33点幅であると仮定する。単位高さのガウスピークについては、ボックスカーフィルタを使用するピーク上の平均信号は、0.092rであり、雑音の標準偏差は、0.303σである。ボックスカーフィルタを使用するSNRは、3.04(r/σ)である。
【0139】
そのため、ボックスカーに関するガウス整合フィルタのSNRは、7/3=2.3、またはボックスカーフィルタにより与えられるものよりも2倍以上である。
【0140】
整合フィルタおよびボックスカーフィルタは両方とも線形である。ガウスピーク形状を有するフィルタのいずれかの畳み込みは、一意的な最大値を持つ出力を生成する。そのため、これらのフィルタはいずれも、本発明のいくつかの実施形態の畳み込みで使用することができる。しかし、ガウス雑音の場合、局塩的極大ではSNRが高いので、整合フィルタが好ましい。
【0141】
ガウス雑音およびポアソン雑音
二次元のガウス整合フィルタは、雑音がガウス統計量を持つ場合に最適なフィルタである。計数検出器では、ボックスカーフィルタは、単純にピークと関連するすべてのカウントの総和であるため最適となる。ピークに関連するすべてのカウントを総和するために、ボックスカーフィルタの幅は、スペクトル方向とクロマトグラフ方向でピークの幅に関係していなければならない。典型的には、ボックスカーフィルタの幅は、スペクトル方向およびクロマトグラフ方向でピークのそれぞれのFWHMの2から3倍である。
【0142】
LC/MSデータ行列の中のイオンの検出用のガウス整合フィルタ
ガウス整合フィルタでは、二次元畳み込みフィルタの指定(ステップ2)は、上述のようにガウスフィルタ係数fp,qである係数であり、このフィルタの適用(ステップ3)は、これらのフィルタ係数を使用する式(2)に従う。ステップ2およびステップ3のこの実施形態は、イオンを検出し、その保持時間、質量対電荷比、および強度を決定する方法となる。このような方法を実行した結果、検出器雑音の効果が低減し、図10の方法に勝る改善となる。
【0143】
整合フィルタでないフィルタ係数
信号形状に従うもの以外の線形重み係数も使用できる。このような係数は可能な最も高いSNRを発生し得ないため、他の対抗する利点を有することがある。これらの利点は、共溶出および干渉ピークを部分的に分解する能力、ベースライン雑音の減算、および高速演算を可能にする計算効率を含む。ここでは、ガウス整合フィルタの制限を分析し、それらの制限を解消する線形フィルタ係数を説明する。
【0144】
ガウス整合フィルタの課題
ガウスピークについて、整合フィルタ定理(MFT)では、ガウス整合フィルタ(GMF)を、他の畳み込みフィルタと比較して応答が最も高い信号対雑音比を持つフィルタとして指定する。しかし、ガウス整合フィルタ(GMF)は、すべての場合において最適とは限らない。
【0145】
GMFの利点の1つは、それぞれのイオンについて幅の広いまたは範囲の広い出力ピークを生成することである。ピークの広がりを説明しやすくするために、正値および標準幅σを持つ信号と正値および標準幅σを持つフィルタとの畳み込みが行われると、畳み込み出力の標準幅が増大することは、よく知られている。信号およびフィルタ幅を平方して結合することで、
【数49】

の出力幅が得られる。GMFの場合、信号およびフィルタの幅が等しければ、出力ピークは、入力ピークの約√2≒1.4倍、つまり、40%広い。
【0146】
ピークが拡大すると、小さなピークの頂点を大きなピークでマスクされる可能性がある。このようなマスクは、例えば、小さなピークが時間に関してほぼ共溶出し、より大きなピークと質量対電荷比に近接する場合に、発生しうる。このような共溶出を補正する方法の1つでは、畳み込みフィルタの幅を低減する。例えば、ガウス畳み込みフィルタの幅を半分にすると、発生する出力ピークは、入力ピークよりも12%しか広くならない。しかし、ピーク幅は整合しないため、SNRは、GMFを使用して達成されるものに比べて低減される。低減されたSNRの不利点は、ほぼ一致するピーク対を検出する能力が高まるという利点で相殺される。
【0147】
GMFの他の不利点は、正の係数しかないという点である。したがって、GMFは、それぞれのイオンの基礎をなすベースライン応答を保存する。正係数フィルタは、常に、頂点振幅が実際のピーク振幅に基礎となるベースライン応答を加えた総和であるピークを発生する。このような背景ベースライン強度は、検出器雑音とさらに、化学的雑音ともときには呼ばれる他の低レベルピークとの組合せによるものと考えられる。
【0148】
振幅のより正確な尺度を得るために、典型的にはベースライン減算が採用される。このような演算は、典型的には、ピークを囲むベースライン応答を検出し、それらの応答をピーク中心に対し補間し、その応答をピーク値から減算して、ピーク強度の最適な推定値を得る別のアルゴリズムを必要とする。
【0149】
それとは別に、ベースライン減算は、負だけでなく正の係数を持つフィルタを指定することにより実現できる。このようなフィルタは、ときには、逆畳み込みフィルタとも呼ばれ、データの2階微分を抽出するフィルタに形状が類似しているフィルタ係数により実装される。このようなフィルタは、それぞれの検出されたイオンに対する単一の局所的極大応答を生成するように構成されることができる。このようなフィルタの他の利点は、逆畳み込み、または分解能向上の尺度を与えるという点である。そのため、このようなフィルタは元のデータ行列内に出現するピークの頂点を保存するだけでなく、元のデータの中で、独立の頂点としてではなく、段部としてのみ見えるピークに対する頂点を発生することができる。したがって、逆畳み込みフィルタは、共溶出および干渉に関連する問題を解消することができる。
【0150】
GMFの第3の不利点は、一般に、出力畳み込み行列内のそれぞれのデータ点を計算するのに多数の乗算を必要とするという点である。そのため、GMFを使用する畳み込みは、典型的には、他のフィルタを使用する畳み込みに比べて計算コストが高く、また計算速度も遅い。後述のように、GMF以外のフィルタ指定は、本発明のいくつかの実施形態で使用できる。
【0151】
2階微分フィルタの利点
信号の2階微分を抽出するフィルタは、本発明によるいくつかの実施形態によりイオンを検出する際に特に有用である。これは、信号の2階微分が、ピークの最も顕著な特徴である、信号の曲率の尺度だからである。一次元で考察されるか、二次元で考察されるかに関係なく、ピークの頂点は、曲率の大きさが最大であるピークの点である。段付きのピークも、高曲率の領域により表される。したがって、曲率に対する応答性があるため、2階微分フィルタは、ピーク検出を増強するだけでなく、より大きな干渉ピークの背景に対し段付きピークの存在に関して検出を高めるために使用することができる。
【0152】
ピークの頂点の2階微分は、その頂点におけるピークの率が最大の負であるため、負の値を持つ。本発明のいくつかの実施形態は、逆2階微分フィルタを使用する。逆2階微分フィルタは、すべての係数に−1を掛けた2階微分フィルタである。逆2階微分フィルタの出力は、ピーク頂点で正である。特に断りのない限り、本発明で参照されるすべての2階微分フィルタは、逆2階微分フィルタとみなされる。2階微分フィルタのすべてのプロットは、逆2階微分フィルタである。
【0153】
定数または直線(曲率が0である)に対する2階微分フィルタの応答は、0である。そのため、2階微分フィルタでは、ピークの基礎となるベースライン応答に対する応答は0である。2階微分フィルタは、ピークの頂点における曲率に応答し、基礎となるベースラインには応答しない。そのため、2階微分フィルタは、実際には、ベースライン減算を実行する。図15は、クロマトグラフ方向およびスペクトル方向のいずれかまたは両方で適用できる例示的な2階微分フィルタの断面を示している。
【0154】
一次元の2階微分フィルタ
一次元の場合、2階微分フィルタは、平滑化フィルタよりも有利であるが、それは、頂点における2階微分フィルタの振幅が基礎となるピークの振幅に比例するからである。さらに、ピークの2階微分は、ベースラインに応答しない。そのため、実際、2階微分フィルタは、ベースライン減算および補正の演算を自動的に実行する。
【0155】
2階微分フィルタの不利点は、ピーク頂点に関して雑音を増大する望ましくない効果を持つ可能性がある点である。この雑音増大効果は、データを事前に平滑化するか、または2階微分フィルタの幅を広げることにより緩和できる。例えば、本発明の一実施形態では、2階微分畳み込みフィルタの幅は、広げられる。2階微分畳み込みフィルタの幅を広げることで、畳み込み時の入力データ行列中のデータを平滑化する能力が向上する。
【0156】
平滑化および2階微分を得るサビツキー−ゴーレイフィルタ
データの単一チャネル(スペクトルまたはクロマトグラム)については、データを平滑化する(つまり、雑音の効果を低減する)、またはデータを微分する従来の方法は、フィルタの適用を介したものである。本発明の一実施形態では、平滑化または微分は、単一スペクトルまたはクロマトグラムに対応するそのデータ配列と一組の固定値フィルタ係数との畳み込みを行うことにより一次元データ配列に対し実行される。
【0157】
例えば、よく知られている有限インパルス応答(FIR)フィルタは、平滑化および微分の演算を含むさまざまな演算を実行するように適切な係数とともに指定することができる。例えば、KARLを参照のこと。適当な円滑化フィルタは、一般に、対称的な釣鐘曲線を有し、すべて正の値および単一の最大値を持つ。使用できる例示的な平滑化フィルタは、ガウス型形状、三角形状、放物状、台形状、および余弦形状を持つフィルタを含み、それぞれ、単一の最大値を持つ形状であることを特徴とする。非対称のすそを引く曲線を持つ円滑化フィルタも、本発明のいくつかの実施形態で使用することができる。
【0158】
データの一次元配列を平滑化または微分するように指定できるFIRフィルタ族は、よく知られているサビツキー−ゴーレイフィルタである。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、A.SAVITZKY & M.J.E.GOLAY、「ANALYTICAL CHEMISTRY」VOL.36、PP.1627−1639を参照のこと。サビツキー−ゴーレイ(SG)多項式フィルタは、重み付多項式形状の総和により指定される平滑化および微分フィルタの適当な族を与える。このフィルタ族に含まれるゼロ次平滑化フィルタは、フラットトップ(ボックスカー)フィルタである。このフィルタ族に含まれる二次平滑化フィルタは、単一の正の最大値を持つ放物形である。このフィルタ族に含まれる2階微分を持つ二次フィルタは、平均値0を有する単一の負の最大値を持つ放物形である。対応する逆2階微分SGフィルタは、正の最大値を持つ。
【0159】
アポダイズサビツキー−ゴーレイフィルタ
SGフィルタの修正により、本発明で有効に働くあるクラスの平滑化および2階微分フィルタが得られる。これらの修正されたSGフィルタは、アポダイズサビツキー−ゴーレイ(ASG)フィルタと呼ばれる。アポダイゼーションという用語は、重み係数の配列をSGフィルタ係数の最小二乗展開に適用することにより得られるフィルタ係数を指す。重み係数は、アポダイゼーション関数である。本発明のいくつかの実施形態で使用されるASGフィルタについては、アポダイゼーション関数は、以下のソフトウェアコードにおける余弦窓(COSINEWINDOWにより定義される)である。このアポダイゼーション関数が加重最小二乗法を介してボックスカーフィルタに適用されると、ASG円滑化フィルタが得られ、2階微分SG二次多項式に適用されると、ASG2階微分フィルタが得られる。ボックスカーフィルタおよび二階微分二次式は、それだけで、サビツキー−ゴーレイ多項式フィルタの実施例である。
【0160】
すべてのSGフィルタは、対応するアポダイズサビツキー−ゴーレイ(ASG)フィルタを持つ。ASGフィルタは、対応するSGフィルタと同じ基本フィルタ機能を備えるが、ただし、望ましくない高周波雑音成分を減衰する能力が高い。アポダイゼーションは、SGフィルタの平滑化および微分特性を保持するが、高周波遮断特性がかなり改善されている。特に、アポダイゼーションは、フィルタ境界でSGフィルタ係数の急な遷移を除去し、それらを0への滑らかな遷移で置き換える。(これは、0への滑らかな遷移を強制する余弦アポダイゼーション関数である)。滑らかなすそは、上述の高周波雑音による二重計算を行う危険性を低減するため有利である。このようなASGフィルタの実施例は、余弦平滑化フィルタおよび余弦アポダイズ二次多項式サビツキー−ゴーレイ2階微分フィルタを含む。
【0161】
本発明の好ましい実施形態では、これらの平滑化および2階微分ASGフィルタは、LC/MSデータ行列の列および行に適用することに関して指定される。
【0162】
以下のANSI−Cコードは、アポダイズサビツキー−ゴーレイフィルタ(ASG)のN個のフィルタ係数を返す。呼び出し側関数(以下のコードで定義されている)は、
【数50】

である。係数の個数Nは、「ncoef」パラメータで指定される。パラメータ「nderiv」が0である場合、係数(配列coefで返される)は、ASGフィルタの平滑化係数である。パラメータ「nderiv」が2である場合、係数(配列coefで返される)は、ASGフィルタからの2階微分係数である。
COPYRIGHT 1998、Waters Corporation、無断複写、複製、転載を禁ず。
【0163】
【数51】



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【0164】
二次元畳み込みの階数1フィルタの実施例
二次元畳み込みに対する階数1の式の適用の例として、式(3)の中でfおよびgを選択し、ガウスプロファイルを持つようにすることが可能である。その結果得られるFpqは、それぞれの行および列においてガウスプロファイルを持つ。Fpqに対する値は非常に近いが、二次元GMFについてはfp,qに等しくない。そのため、この特定の階数1の式は、GMFと同様にして実行するが、ただし、計算時間が短縮される。例えば、上記の実施例では、PおよびQが20に等しい場合、階数1フィルタ計算要件を使用することによる計算負荷は、400/40=10倍低減される。
【0165】
ガウスプロファイルを持つようにfおよびgを選択すること、および式(3)によるこれらのフィルタの適用は、本発明によるステップ2およびステップ3の一実施形態をなす。
【0166】
しかし、本発明の他の実施形態では、階数1フィルタの次元毎に別々のフィルタを適用することができる。本発明の一実施形態では、例えば、f(スペクトル方向で適用されるフィルタ)は、平滑化フィルタであり、g(クロマトグラフ方向で適用されるフィルタ)は、2階微分フィルタである。このようなフィルタの組合せを通じて、フィルタ処理に典型的に関連する問題を克服する異なる階数1フィルタ実装が指定できる。例えば、GMFに関連する前述の問題を分解するための階数1フィルタを含むフィルタが指定できる。
【0167】
前述の階数1フィルタは、式3により実装され、式2により実装されるGMFよりも計算効率が高く、したがって高速である。さらに、指定されたフィルタの組合せは、定量的作業に使用できる線形ベースライン補正応答をもたらす。
【0168】
さらに、これらのフィルタの組合せは、融合ピークを鋭くするか、またはクロマトグラフ方向に部分的に逆畳み込みを行う。
【0169】
前述の利点を有する本発明のいくつかの実施形態で使用する例示的な階数1フィルタは、FWHMが対応するピークのFWHMの約70%である余弦ASG平滑化フィルタである第1のフィルタf、およびゼロ交差幅が対応するクロマトグラフピークのFWHMの約70%であるASG 2階微分フィルタである第2のフィルタgを含む。他のフィルタおよびフィルタの組合せは、本発明の他の実施形態における階数1フィルタとして使用できる。
【0170】
図16Aは、LC/MSデータ行列の列に適用して中間行列を形成するために階数1フィルタ内で使用する例示的な余弦ASG平滑化フィルタのスペクトル方向の断面を示す。図16Bは、生成された中間行列の行に適用する例示的なASG 2階微分フィルタのクロマトグラフ方向の断面を示す。
【0171】
およびgのフィルタ関数は逆にできる。つまり、fを2階微分フィルタとし、gを平滑化フィルタとすることができる。このような階数1フィルタは、スペクトル方向で段付きピークを逆畳み込みし、クロマトグラフ方向で平滑化する。
【0172】
およびgの両方とも2階微分フィルタであってはならないことに留意されたい。fとgの両方が2階微分フィルタである場合に結果として得られる階数1積行列は、イオンピークとの畳み込みを行ったときに、1個の局所的極大値ではなく、合計5個の正の局所的極大値を含む。4つの追加の正の頂点は、それらのフィルタに関連する負のローブの積から生じるサイドローブである。そのため、この特定のフィルタの組合せにより、提案されている方法に適しない階数1フィルタが得られる。
【0173】
後述の階数2の式は、スペクトル方向およびクロマトグラフ方向の両方で平滑化フィルタおよび2階微分フィルタの特性を持つフィルタを実装する。
【0174】
階数1畳み込みフィルタを使用する本発明のいくつかの実施形態の複数のフィルタ組合せは、表2に示されている。
【表2】

それぞれのフィルタ組合せは、ステップ2の実施形態であり、それぞれ、階数1フィルタであって、式(3)を使用して適用され、それによりステップ3を実現する。他のフィルタおよびフィルタの組合せは、本発明の他の実施形態における階数1フィルタとして使用できる。
【0175】
好ましい実施形態である、二次元畳み込みの階数2フィルタの実施例
階数2フィルタは、2つの次元のそれぞれについて2つのフィルタの指定を必要とする。本発明の好ましい一実施形態では、4つのフィルタは、計算効率の高い方法で上述のようにGMFと関連する問題を解消するように指定される。
【0176】
例えば、本発明の一実施形態では、第1の階数1フィルタは、
【数52】

としてスペクトル平滑化フィルタを、
【数53】

としてクロマトグラフ2階微分フィルタを含む。例示的なこのような平滑化フィルタは、余弦フィルタであり、そのFWHMは、対応する質量ピークのFWHMの約70%である。例示的なこのような2階微分フィルタは、ASG 2階微分フィルタであり、そのゼロ交差幅は、対応するクロマトグラフピークのFWHMの約70%である。第2の階数1フィルタは、
【数54】

としてスペクトル2階微分フィルタを、
【数55】

としてクロマトグラフ平滑化フィルタを含む。例示的なこのような2階微分フィルタは、2階微分ASGフィルタであり、そのゼロ交差幅は、対応する質量ピークのFWHMの約70%である。例示的なこのような平滑化フィルタは、余弦フィルタであり、そのFWHMは、対応するクロマトグラフピークのFWHMの約70%である。他のフィルタおよびフィルタの組合せも、本発明のいくつかの実施形態で使用することができる。このようなフィルタの断面は、それぞれ、図16C,16D、16E、および16Fに例示されている。
【0177】
上述の階数2フィルタは、GMFに勝るいくつかの利点を有する。これは階数2フィルタなので、GMFよりも計算効率が高く、したがって、実行速度が高速である。さらに、それぞれの断面は、2階微分フィルタであり、その係数の総和は0であるため、これは、定量的作業に使用できる線形ベースライン補正応答をもたらし、またクロマトグラフ方向およびスペクトル方向で融合ピークを鋭いものにするか、またはその部分的逆畳み込みを行う。
【0178】
本発明の好ましい階数2フィルタ実施形態では、列フィルタのそれぞれのフィルタ幅(係数の個数に関する)は、スペクトルピーク幅に比例するように設定され、また行フィルタのそれぞれのフィルタ幅(係数の個数に関する)は、クロマトグラフピーク幅に比例するように設定される。本発明の好ましい実施形態では、列フィルタの幅は、互いに等しくなるように、またスペクトルピークのFWHMに比例するように設定される。例えば、5つのチャネルのスペクトルピーク幅FWHMについては、フィルタ幅は、11点に設定され、したがって平滑化および2階微分スペクトルフィルタの両方のフィルタ幅は、11点の同じ値に設定される。同様に、好ましい実施形態では、行フィルタの幅は、互いに等しくなるように、またクロマトグラフピークのFWHMに比例するように設定される。例えば、5つのチャネルのクロマトグラフピーク幅FWHMについては、フィルタ幅は、11点に設定され、したがって平滑化および2階微分スペクトルフィルタの両方のフィルタ幅は、11点の同じ値に設定される。この方法でフィルタ幅を選択すると、等しい次元を有する階数2フィルタを含む階数1フィルタが得られる。つまり、第1の階数1フィルタが次元M×Nを持つ場合、第2の階数1フィルタも次元M×Nを持つ。階数2フィルタは、等しい次元を持つ階数1フィルタで構成される必要はなく、また適当な階数1フィルタを足し合わせて階数2フィルタを形成することができることに留意されたい。
【0179】
階数1フィルタは、足し合わせることで階数2フィルタを構成し、したがって、フィルタは、足し合わせる前に相対的な意味で正規化されなければならない。好ましい実施形態では、第1の階数1フィルタは、スペクトル方向で平滑化フィルタであり、クロマトグラフ方向で2階微分フィルタである。このフィルタの重み付けが第2の階数1フィルタよりも重い場合、組み合わされたフィルタでは、スペクトル方向の平滑化ならびにクロマトグラフ方向のピークのベースライン減算および逆畳み込みをより重視する。そのため、2つの階数1フィルタの相対的正規化は、クロマトグラフ方向とスペクトル方向の平滑化および微分の相対的重要性を決定する。
【0180】
例えば、2つの階数1フィルタ
【数56】

【数57】

を考えるが、ただし、式(11)は第1の階数1フィルタであり、式(12)は第2の階数1フィルタである。本発明の好ましい一実施形態では、それぞれの階数1フィルタは、平方した係数の総和が1に等しくなるように正規化される。この正規化により、平滑化および微分に対する等しい重みをスペクトル方向およびクロマトグラフ方向に与える。つまり、それぞれ次元M×Nを持つ階数1フィルタでは、
【数58】

【数59】

である。
【0181】
好ましい実施形態の平滑化フィルタおよび2階微分フィルタは、適切な倍率をそれぞれの階数1行列の係数に適用することによりこのベースラインを満たすように正規化することができる。
【0182】
さらに、好ましい実施形態では、それぞれの階数1フィルタの行次元は同じであり、それぞれの階数1フィルタの列次元は同じである。その結果、係数を加えて、階数2畳み込みフィルタの点源を、
【数60】

のように求めることができる。式(13)から、2つの階数1フィルタの相対的正規化で、二次元畳み込みフィルタFp,qを決定する必要があることが分かる。
【0183】
二次元畳み込みフィルタの好ましい実施形態に対するフィルタ係数
例示的な階数2フィルタは、図17A〜Kに関して説明されている。このフィルタは、イオンを検出し、ベースライン応答を減算し、部分的融合ピークを分解し、高い計算効率で実行するために使用できるステップ2およびステップ3の一実施形態である。
【0184】
特に、この階数2フィルタは、段付きピークを検出する場合に有用である。本発明のいくつかの実施形態による階数2フィルタは、クロマトグラフ方向およびスペクトル方向の両方の2階微分フィルタを含むことができる。2階微分フィルタの曲率に対する応答性により、このような階数2フィルタは、段付きピークの頂点がデータの中に明白に現れない場合のある段付きピークを検出することができる。階数2フィルタが、曲率を測定する、2階微分フィルタを含むとした場合、データの中に直接現れない第2のピークの頂点は、出力畳み込み行列の中で別の頂点として検出できる。
【0185】
図17Aは、LC/MSデータにおいて生成できるシミュレートされたピークの絵図表現であり、そこでは、横軸は、図に示されているように走査時間およびm/zチャネルを表し、縦軸は、強度を表す。図17Bは、本発明の好ましい一実施形態による、階数2フィルタに対応する畳み込みフィルタ行列を示している。
【0186】
このシミュレーションでは、すべてのイオンのスペクトルピーク幅およびクロマトグラフピーク幅は8点、FWHMである。4つのフィルタすべてに対するフィルタ係数の数は15点である。
【0187】
図17Cは、同じ質量を持ち、ほぼ同時であっても、完全に同時ではない2つのLC/MSピークのシミュレーションを示す。図17Dは、ピーク断面が質量の純粋ピークであることを例示し、図17Eは、ピーク断面が時間の段部1704を示していることを例示している。図17Fから17Hは、図17D〜17Eに例示されている段付きピークを含むそれぞれのサンプリングされた要素に対するシミュレートされた計数(ショット雑音)の効果を例示している。図17Gおよび17Hは、付加された計数雑音により生じる断面を例示している。図17Gおよび17Hの両方から分かるように、多くの局所的極大値が、計数雑音の結果として発生する。したがって、イオンが2個しか存在していなくても、計数雑音は、偽陽性イオン検出を引き起こす可能性のある多数の偽の局所的極大値を生成しうることが分かる。
【0188】
図17I〜Kは、階数2フィルタとシミュレートされたデータとの畳み込みの結果を例示している。結果として得られる出力畳み込み行列(図17Iの等高線プロットにより表されている)は、2つの異なるピーク1702および1706を含む。ピーク1702は、2つのイオンのうちの強度の強い方に関連するピークであり、ピーク1706は、強度の弱い方の段付きイオンのピークである。図17Jは、スペクトル(質量対電荷比)方向の出力畳み込み行列の断面である。図17Kは、クロマトグラフ(時間)方向の出力畳み込み行列の断面である。
【0189】
図17I〜Kを調べて観察されたのは、本発明の階数2フィルタに基づく実施形態が、計数雑音の効果を低減し、複数の局所的極大値を発生する段付きピークの逆畳み込みを行うことである。それぞれの局所的極大値は、1つのイオンに関連付けられる。その結果、本発明のこの実施形態は、さらに、偽陽性率も低減する。イオンパラメータ、m/z、保持時間、および強度は、上述のように検出された局所的極大値を分析することにより得られる。
【0190】
どのようなフィルタも、単一の局所的極大値を生成するのであれば使用できる
上述のフィルタおよび畳み込み方法は、LC/MSデータ行列においてイオンを検出するために使用することができる。フィルタ係数は、他に数組、ステップ2の実施形態として選択できる。
【0191】
入力信号は、一意的な最大値を持つLC/MSデータ行列内のピークであり、したがって、ステップ2の畳み込みフィルタは、畳み込みプロセスを通じてその一意的な正の最大値を忠実に保持しなければならない。畳み込みフィルタがステップ2の実施形態であるために畳み込みフィルタが満たさなければならない一般的要件は、畳み込みフィルタは、一意的な最大値を持つ入力との畳み込みが行われたときに一意的な最大値を生成する出力を持たなければならないというものである。
【0192】
釣鐘状応答を持つイオンの場合、この条件は、断面がすべて釣鐘形状であり、単一の正の最大値を持つ畳み込みフィルタにより満たされる。このようなフィルタの実施例は、逆放物型フィルタ、三角フィルタ、および余弦フィルタを含む。特に、一意的な正の値の頂点を持つという特性を有する畳み込みフィルタでは、そのフィルタは本発明のいくつかの実施形態で使用するのに適当な候補となる。フィルタ係数の等高線プロットは、局所的極大値の個数および位置を調べるために使用できる。フィルタを通るすべての行、列、および対角の断面は、単一の正の局所的極大値を持たなければならない。多数のフィルタ形状が、この条件を満たし、したがって、本発明のいくつかの実施形態で採用されることができる。
【0193】
ボックスカーは、単一の局所的極大値を生成するので使用できる
許容可能な他のフィルタ形状は、定数値を持つフィルタである(つまり、ボックスカーフィルタ)。これは、ピークとボックスカーフィルタとの畳み込みが単一の最大値を持つ出力を生成するからである。本発明のいくつかの実施形態で有利なボックスカーフィルタのよく知られている特徴は、そのような形状が与えられた数のフィルタ点について最小の分散をもたらすことである。ボックスカーフィルタの他の利点は、一般に、ガウスまたは余弦フィルタなどの他の形状を持つフィルタに比べて少ない乗算回数で実装できるという点である。
【0194】
ボックスカーの次元は、スペクトル方向とクロマトグラフ方向の両方でピークの範囲と一致しなければならない。ボックスカーが小さすぎる場合、ピークに関連するすべてのカウントが総和されるわけではない。ボックスカーが大きすぎる場合、他の隣接ピークからのカウントを含めることができる。
【0195】
しかし、ボックスカーフィルタは、さらに、本発明が適用できると思われるいくつかの用途にとってははっきりと不利である。例えば、ボックスカーフィルタの伝達関数は、高周波雑音を通すことを示す。このような雑音は、本発明のいくつかの用途では望ましくないと考えられる、低振幅信号(低SNR)のピークの二重計算を行う危険性を高める可能性がある。したがって、ボックスカー形状と異なるフィルタ形状は、一般に、本発明のいくつかの用途では好ましい。
【0196】
2階微分フィルタは単一の局所的極大値を生成しうる
一意的な最大値を持つ入力との畳み込みを行ったときに一意的な最大値を生成する出力を持つ他の適当なクラスの畳み込みフィルタは、単一の正の局所的極大値を持つが、負のサイドローブを持つフィルタである。このようなフィルタの実施例は、曲率に応答する、2階微分フィルタを含む。適当な2階微分フィルタは、平滑化フィルタから平均値を引くことにより指定することができる。このようなフィルタは、ボックスカー、三角形、および台形の組合せから構成することができ、データを微分するフィルタの最もふつうの指定は、サビツキー−ゴーレイ多項式フィルタである。
【0197】
ガウス雑音およびポアソン雑音
ガウス整合フィルタは、雑音がガウス統計量を持つ場合に最適なフィルタである。計数検出器からの雑音はポアソン統計量を持つ。ポアソン雑音の場合、ボックスカーフィルタは、ピークに関連するすべてのカウントを単純に総和するので、検出で使用するのに最適なフィルタである場合がある。しかし、GMFについて説明されている制限の多くは、ポアソン雑音の場合であっても、ボックスカーフィルタに適用される。ボックスカーフィルタは、ベースライン雑音を減算することはできず、また干渉および共溶出ピークを分解することはできない。さらに、ボックスカーフィルタの伝達関数では、ピーク頂点に対する二重計算を許容する場合がある。
【0198】
好ましい実施形態の階数2フィルタは、ガウス雑音およびポアソン雑音の両方の場合についてSNRにおける妥協の産物である。この階数2フィルタは、ベースライン減算および重なり合うピークの部分的分解を行う利点を有する。
【0199】
フィルタ係数を決定する際のピーク幅の役割
本発明のいくつかの実施形態では、入力行列Dとの畳み込みが行われる畳み込みフィルタFの係数は、イオンに対応するピークの典型的形状および幅に対応するように選択される。例えば、フィルタFの中央の行の断面は、クロマトグラフピーク形状と整合し、フィルタFの中央の列の断面は、スペクトルピーク形状と整合する。畳み込みフィルタの幅はピーク(時間および質量対電荷比)のFWHMと整合できるが、そのような幅整合は必要ないことに留意されたい。
【0200】
イオン強度の解釈およびフィルタ係数のスケーリング
本発明では、強度測定推定値は、局所的極大値のフィルタ出力の応答である。LC/MSデータ行列の畳み込みの相手となる一組のフィルタ係数は、強度のスケーリングを決定する。異なる組のフィルタ係数では、強度スケーリングは異なり、したがって、本発明の強度のこの推定値は、必ずしも、ピーク面積またはピーク高さに正確に対応しない。
【0201】
しかし、強度測定は、畳み込み演算が強度測定の一次結合であるため、ピーク面積またはピーク高さに比例する。そのため、局所的極大でのフィルタ出力の応答は、イオンを生じさせた試料中の分子の濃度に比例する。次いで、局所的極大でのフィルタ出力の応答は、同じく試料中の分子の定量的測定のために使用でき、イオンの応答のピークの高さの面積としてであった。
【0202】
首尾一貫した一組のフィルタを使用して、標準、キャリブレータ、および試料の強度を決定する場合、その結果の強度測定により、強度スケーリングに関係なく正確で定量化可能な結果が得られる。例えば、本発明のいくつかの実施形態により生じる強度は、その後、検体の濃度を決定するために使用できる濃度較正曲線を確定するために使用することができる。
【0203】
非対称ピーク形状
上記の実施例では、スペクトル方向およびクロマトグラフ方向のイオンのピーク形状は、ガウス型であり、したがって対称的であると仮定している。一般に、ピーク形状は対称的でない。非対称ピーク形状のふつうの実施例は、すそを引いたガウス型、つまりガウス型と階段状指数型との畳み込みである。ここで説明される方法は、そのまま、非対称的なピーク形状に適用される。対称フィルタが非対称ピークに適用される場合、出力畳み込み行列内の頂点の位置は、一般的には、非対称ピークの頂点位置に正確には対応しない。しかし、ピークの非対称性に由来するオフセット(クロマトグラフまたはスペクトルのいずれかの方向の)は、事実上一定のオフセットである。このようなオフセットは、従来の質量分析較正により、また内部標準を使用する保持時間較正により、容易に補正される。
【0204】
整合フィルタ定理から、非対称ピークを検出するための最適な形状は、非対称ピーク形状自体である。しかし、対称フィルタの幅が非対称ピークの幅と整合する場合、対称フィルタと整合非対称フィルタとの間の検出効率の差は、本発明の目的に関しては最小となる。
【0205】
補間するフィルタ係数およびオフセットデータの変更
係数修正の他の用途は、質量分析計の較正による小さな変化を補正するため補間を行うことである。このような係数修正は、スペクトル毎に発生しうる。例えば、質量較正の変化がチャネルのわずかな部分のオフセットを0.3だけ引き起こす場合、そのような質量オフセットがない場合に出力がどのようなものになるかを推定する列フィルタ(平滑化および2階微分の両方)を導出することができる。この方法では、リアルタイムの質量補正を行うことができる。典型的には、その結果得られるフィルタはわずかに非対称的である。
【0206】
動的フィルタ処理
フィルタ幅スケーリングなどのフィルタ特性は、LC分離またはMS走査の知られている変化する特性に応じて変化しうる。例えば、飛行時間型(TOF)質量分析計では、ピーク幅(FWHM)は、それぞれの走査の過程において低い値(0.010amuなど)から広い値(0.130amuなど)に変化することが知られている。本発明の好ましい一実施形態では、平滑化および微分フィルタの係数の個数は、スペクトルピークのFWHMの約2倍に等しくなるように設定される。MS走査が、例えば、低質量から高質量へ進行するにつれ、好ましい実施形態で使用される平滑化および2階微分列フィルタの両方のフィルタ幅は、それに応じて、フィルタ幅とピーク幅との間の関係を保存するように拡大することができる。同様にして、クロマトグラフピークの幅が分離中に変化することが知られている場合、行フィルタの幅は、フィルタ幅とピーク幅との間の関係を保存するように拡大または縮小することができる。
【0207】
階数1フィルタおよび階数2フィルタのリアルタイムの実施形態
従来のLC/MSシステムでは、スペクトルは、分離の進行とともに取得される。典型的には、スペクトルは、一定のサンプルレートで(例えば、1秒に1回の割合で)コンピュータメモリに書き込まれる。1つまたは複数の完全なスペクトルが収集された後、これらは、ハードディスクメモリなどの永続性の高い記憶装置に書き込まれる。このような後収集処理は、本発明のいくつかの実施形態でも実行できる。そのため、本発明の一実施形態では、畳み込み行列は、取得が完了した後でないと生成されない。本発明のこのような一実施形態では、元のデータおよび畳み込み行列それ自体は、検出された局所的極大の分析から得られたイオンパラメータリストの場合と同様に、格納される。
【0208】
さらに、階数1フィルタおよび階数2フィルタを使用する本発明のいくつかの実施形態は、リアルタイムで動作するように構成することができる。本発明のリアルタイムの実施形態では、畳み込み行列の列は、データの取得中に得られる。そのため、最初の列(スペクトルに対応する)が得られ、分析され、すべてのスペクトルの取得が完了する前にそのイオンパラメータをディスクに書き込むようにすることができる。
【0209】
本発明のこのリアルタイムの実施形態では、本質的に、コンピュータメモリ内のデータを分析し、イオンパラメータリストのみを永続的ハードディスクドライブに書き込む。この状況において、リアルタイムとは、階数1および階数2のフィルタ処理が、データの取得とともにコンピュータメモリ内のスペクトルについて実行されることを意味する。そのため、分離の開始時にLC/MSにより検出されたイオンは、ディスクに書き込まれたスペクトルの中で検出され、それらのイオンに関連するパラメータを含むイオンパラメータリストの部分も、分離の進行に合わせてディスクに書き込まれる。
【0210】
典型的には、リアルタイム処理の開始には時間遅延が関連する。時刻tおよび幅Δtのクロマトグラフピーク中に溶出するイオンを含むスペクトルは、収集されると直ちに処理することができる。典型的には、リアルタイム処理は、時刻t+3Δt、つまり、3つのスペクトルが最初に収集された後に、開始する。次いで、このクロマトグラフピークの分析により決定されたイオンパラメータは、コンピュータディスクなどの永続的記憶装置内に作成され、格納されるイオンパラメータリストに追記される。リアルタイム処理は、上述の技術に従って進行する。
【0211】
リアルタイム処理の利点は、(1)イオンパラメータリストの高速取得、(2)イオンパラメータリスト内の情報に基づきリアルタイムプロセスをトリガすることを含む。このようなリアルタイムプロセスは、分析のため溶離液を保管する分別捕集および流れ停止技術を含む。例示的なこのような流れ停止技術は、核磁気共鳴(NMR)スペクトル検出器内の溶離液をトラップする。
【0212】
図18は、本発明の好ましい一実施形態によるリアルタイム処理の方法を例示する流れ図1800である。この方法は、ハードウェア、例えば、DSPベース設計で、または上述のDASなどのソフトウェアで実行することができる。当業者にとっては、以下の説明に基づいてそのようなハードウェアまたはソフトウェアを構成する方法は明白なものであろう。説明を簡単にするため、この方法は、DAS実行ソフトウェアにより実行される場合として説明する。図19は、スペクトルバッファ1902、クロマトグラフバッファ1906、および頂点バッファ1910、また流れ図1800に例示されている方法を実行する際の操作方法を示している。
【0213】
DASは、次のスペクトル要素を受け取ることでステップ1802でその方法を開始する。図19では、これらのスペクトル要素は、S1、S2、S3、S4、およびS5として示され、それぞれ時刻T1、T2、T3、T4、およびT5に受け取ったスペクトル要素に対応する。ステップ1804で、DASは、受け取ったスペクトル要素が0であるかどうかを判定する。受け取ったスペクトル要素が0の場合、DASは、次のスペクトル要素を受け取ることでステップ1802でその方法を継続する。スペクトル要素が0でない場合、その強度は、スペクトルフィルタ1904の係数をスケーリングするために使用される。図19に示されている実施例では、スペクトルフィルタ1904は、フィルタ係数F1、F2、およびF3を持つ3要素フィルタである。スケーリングは、それぞれのフィルタ係数に受け取ったスペクトル要素の強度を掛けることにより実行できる。
【0214】
ステップ1808では、スケーリングされたスペクトルフィルタ係数がスペクトルバッファに加えられる。スペクトルバッファは配列である。スペクトルバッファ内の要素の個数は、それぞれのスペクトル中の要素の個数に等しい。
【0215】
総和を実行するために、フィルタ1904は、受け取ったスペクトル要素に対応するスペクトルバッファの要素がフィルタ1904の中心に揃えられるように揃えられる。そこで、時刻T1に、スペクトル要素S1が受け取られると、フィルタ1904の中心、F2は、スペクトルバッファ要素1902aと揃えられ、時刻T2に、スペクトル要素S2が受け取られると、フィルタ1904の中心、F2は、スペクトルバッファ要素1902bと揃えられ、というように続く。これらのステップは、図19に例示されており、そこでは、フィルタ係数F1、F2,およびF3のスケーリング、ならびにスペクトルバッファ1902への加算は、時刻T1、T2、T3、T4、およびT5について例示され、これは、本発明の実施例では、スペクトルバッファ1902を十分満たすスペクトル要素を受け取るために必要な時間である。その結果得られるスケーリングされた総和も、図19のスペクトルバッファ要素に示されている。
【0216】
ステップ1810で、DASは、スペクトルバッファが満杯かどうか、つまり、受け取られ、処理されたスペクトル要素の個数がスペクトルフィルタ内の要素の個数と同じかどうかを判定する。そうでなければ、DASは、次のスペクトル要素の届くのを待つことによりステップ1802でその方法を続行する。スペクトルバッファが満杯の場合、DASは、ステップ1812でこの方法を続ける。
【0217】
ステップ1812で、DASは、新しいスペクトルをクロマトグラフバッファ1906に移動する。クロマトグラフバッファ1906は、Nスペクトルを含むが、ただし、Nは、クロマトグラフバッファ内の係数の個数である。本発明の実施例では、Nは3である。クロマトグラフバッファ1906は、先入れ後出し(FILO)バッファとして構成される。したがって、新しいスペクトルが加えられると、最も古いスペクトルが削除される。ステップ1812で新しいスペクトルが加えられると、最も古いスペクトルが破棄される。ステップ1814で、DASは、クロマトグラフフィルタ1907をクロマトグラフバッファ1906のそれぞれの行に適用する。フィルタの適用後、中央列1908は、出力畳み込み行列の単一列畳み込みスペクトルに対応する。ステップ1816で、DASは、畳み込みスペクトルを頂点バッファ1910に移動する。
【0218】
本発明の一実施形態では、頂点バッファ1910は、幅における3つのスペクトルである、つまり、頂点バッファ1910は、3つの円柱状スペクトルを含む。スペクトル列はそれぞれ、完全なスペクトルの長さを持つのが好ましい。頂点バッファ1910は、FILOバッファである。したがって、クロマトグラフバッファ1906からの新しい列がステップ1816で頂点バッファ1910に付加されると、最も古い円柱状スペクトルが破棄される。
【0219】
後述のようなピーク検出アルゴリズムは、頂点バッファ1910の中央列1912に対し実行することができる。中央列1912は、最も近い隣接値を使用することによりピークおよびイオンパラメータのより正確な分析を行うために使用される。ピークの分析により、DASは、ステップ1820でイオンパラメータ(保持時間、m/z、および強度などの)を抽出してイオンパラメータリストに保存することができる。さらに、スペクトルピーク幅情報も、列にそった局所的極大に隣接する点を調べることにより得られる。
【0220】
頂点バッファ1910は、さらに、幅が3スペクトル分を超えて拡大されるようにできる。例えば、クロマトグラフピーク幅を測定するには、少なくともクロマトグラフピークのFWHMに等しい、例えば、クロマトグラフピークのFWHMの2倍に等しい多数のスペクトルを含むように頂点バッファを拡大する必要があるであろう。
【0221】
本発明のリアルタイムの実施形態では、元のスペクトルは記録の必要がない。フィルタ処理されたスペクトルのみが記録される。そのため、本発明のリアルタイムの実施形態に対する大容量記憶装置の要件は緩和される。しかし、一般に、追加の記憶装置、例えば、RAMが、本発明のリアルタイム実施形態には必要である。本発明の階数1フィルタに基づくリアルタイムの実施形態では、単一スペクトルバッファだけがあればよい。本発明の階数2フィルタに基づくリアルタイムの実施形態については、2つのスペクトルバッファが必要であり、1つは平滑化フィルタ用、もう1つは2階微分スペクトルフィルタ用である。
【0222】
ステップ4:ピーク検出
イオンが存在すると、出力畳み込み行列内に強度の局所的極大を持つピークが発生する。本発明のいくつかの実施形態の検出プロセスでは、このようなピークを検出する。本発明の一実施形態では、検出プロセスは、最大強度が検出閾値の条件を満たすピークを、イオンに対応するピークとして識別する。本明細書で使用されているように、検出閾値条件を満たすことは、検出閾値を克服するベースラインを満たすものとして定義される。例えば、このベースラインは、検出閾値に一致するか、または検出閾値以上である場合がある。さらに、本発明のいくつかの実施形態では、このベースラインは、検出閾値を下回るか、または検出閾値以下である場合がある。
【0223】
出力畳み込み行列内の強度のそれぞれの局所的極大は、イオンに対応するピークの候補である。上述のように、検出器雑音が存在しない場合、すべての局所的極大は、1つのイオンに対応するものとみなされるであろう。しかし、雑音が存在する場合、ある局所的極大(特に、低振幅の局所的極大)は、雑音のみによるものであり、検出されたイオンに対応する真のピークを表さない。したがって、検出器閾値条件を満たす局所的極大が雑音によるものである可能性をほぼなくすように検出閾値を設定することが重要である。
【0224】
それぞれのイオンは、出力畳み込み行列内に強度の一意的な頂点または最大値を生成する。出力畳み込み行列内のこれらの一意的最大値の特性から、試料中に存在するイオンの個数および特性に関する情報が得られる。これらの特性は、ピークの位置、幅、および他の特性を含む。本発明の一実施形態では、出力畳み込み行列内のすべての局所的極大が識別される。その後の処理は、イオンに関連しないと判定されたものを排除する。
【0225】
本発明のいくつかの実施形態によれば、強度の局所的極大は、局所的極大値が検出閾値の条件を満たす場合のみ、検出されたイオンに対応するとみなされる。検出閾値それ自体は、強度の局所的極大が比較される強度である。検出閾値は、主観的または客観的手段により求めることができる。実際、検出閾値は、真のピークの分布を2つのクラスに分け、1つは、検出閾値の条件を満たすクラス、もう1つは、検出閾値の条件を満たさないクラスである。検出閾値の条件を満たさないピークは、無視される。したがって、検出閾値の条件を満たさない真のピークは、無視される。このような無視される真のピークは、偽陰性と呼ばれる。
【0226】
検出閾値は、さらに、雑音ピークの分布を2つのクラスに分け、1つは、検出閾値の条件を満たすクラス、もう1つは、検出閾値の条件を満たさないクラスである。検出閾値の条件を満たす雑音ピークは、イオンとみなされる。イオンとみなされる雑音ピークは、偽陽性と呼ばれる。
【0227】
本発明のいくつかの実施形態では、検出閾値は、典型的には、通常は低い、所望の偽陽性率となるように設定される。つまり、検出閾値は、雑音ピークが与えられた実験において検出閾値条件を満たす確率がありえないように設定される。
【0228】
より低い偽陽性率を得るには、検出閾値は、より高い値に設定される。検出閾値を高い値に設定して、偽陽性率を下げると、偽陰性率、つまりイオンに対応する低振幅の真のピークが検出されない確率を高めるという望ましくない効果が生じる。したがって、検出閾値は、これらの競合因子を念頭に置いて設定される。
【0229】
検出閾値は、主観的または客観的に決定することができる。閾値設定法の目標は、主観的であろうと客観的であろうと、イオンリストを編集するために使用する検出閾値を決定することである。強度が検出閾値の条件を満たさないすべてのピークは、雑音であると考えられる。これらの「雑音」ピークは、除去され、その後の分析には含まれない。
【0230】
検出閾値を設定する主観的方法は、観察された雑音の最大値に近い直線を描くことである。検出閾値の条件を満たす局所的極大は、イオンに対応するピークと考えられる。検出閾値の条件を満たさない局所的極大は、雑音であると考えられる。閾値を決定する主観的方法を使用することができるが、客観的手法が好ましい。
【0231】
本発明のいくつかの実施形態により検出閾値を選択する客観的方法の1つは、出力畳み込み行列データのヒストグラムを使用する。図20は、本発明の一実施形態により検出閾値を客観的に決定する方法の流れ図である。この方法は、さらに、図7に絵図として示されている。この方法は、以下のステップに従って進行する。
ステップ2002:出力畳み込み行列中に見つかったすべての正の局所的極大の強度を昇順で並べ替える
ステップ2004:出力畳み込みデータ行列内の強度データの標準偏差をリスト中の35.1百分位のところにある強度として決定する。
ステップ2006:標準偏差の倍数に基づいて検出閾値を決定する。
ステップ2008:検出閾値条件を満たすピークを使用して編集済みイオンリストまたはイオンパラメータリストを生成する。
【0232】
上記の方法は、局所的極大の大半がガウス雑音によるものである場合に適用可能である。例えば、1000この強度がある場合、ステップ2004では、351番目の強度がガウス標準偏差を表すものと決定する。最大強度の分布がガウス雑音プロセスのみによるものであった場合、値が351番目の強度を超える局所的極大値がガウス雑音分布により予測される頻度で発生する。
【0233】
そこで、検出閾値は、351番目の強度の倍数である。例えば、2つの検出閾値を考える。一方は、2標準偏差に対応する。もう一方は、4標準偏差に対応する。2偏差閾値で生じる偽陰性は少数であるが、偽陽性は多数である。ガウス雑音分布の特性から、2標準偏差閾値は、ピークの約5%は誤ってイオンと識別されることを意味する。4偏差閾値で生じる偽陰性は多いが、偽陽性はかなり少ない。ガウス雑音分布の特性から、4標準偏差閾値は、ピークの約0.01%は誤ってイオンと識別されることを意味する。
【0234】
すべての局所的極大の強度のリストを並べ替える代わりに、強度の1間隔当たりの強度の個数が記録されるヒストグラム表示が使用可能である。ヒストグラムは、一様な間隔で並べられた一連の強度値を選択し、値のそれぞれの対により間隔を定め、それぞれのビンに入る最大強度の個数をカウントすることにより得られる。ヒストグラムは、ビン1つ当たりの強度の数とそれぞれのビンを定義する平均強度値との対比である。ヒストグラムは、強度の分布の標準偏差を決定するためのグラフによる方法である。
【0235】
経験による方法のバリエーションでは、畳み込み出力雑音の標準偏差σと検出閾値を設定するための入力雑音の標準偏差σとの間の関係を使用する。上記のフィルタ分析から、この関係は、
【数61】

として与えられるが、ただし、入力雑音は無相関ガウス偏差であると仮定する。入力雑音σは、背景雑音の標準偏差として入力LCL/MSデータ行列から測定することができる。背景雑音のみを含むLC/MSの領域は、ブランク注入から求めることができる、つまり、LC/MSデータは、試料が注入されない分離から得られる。
【0236】
したがって、出力の標準偏差は、フィルタ係数Fi,jおよび測定された背景雑音σの値のみを使用して推論できる。次いで、検出閾値は、誘導された出力雑音標準偏差σに基づいて設定することができる。
【0237】
ステップ5:ピークパラメータ抽出
イオンに対応するピークであるこれらの局祖的極大を識別した後、それぞれのピークに対するパラメータが推定される。本発明の一実施形態では、推定されるパラメータは、保持時間、質量対電荷比、および強度である。クロマトグラフピーク幅(FWHM)および質量対電荷ピーク幅(FWHM)などの追加のパラメータも推定できる。
【0238】
それぞれの同定されたイオンのパラメータは、出力畳み込みデータ行列内の検出されたピークの局所的極大の特性から得られる。本発明の一実施形態では、これらのパラメータは、(1)イオンの保持時間は、(フィルタ処理された)最大要素を含む(フィルタ処理された)走査の時間であり、(2)イオンのm/zは、(フィルタ処理された)最大要素を含む(フィルタ処理された)チャネルのm/zであり、(3)イオンの強度は、(フィルタ処理された)最大要素それ自体の強度である、というように決定される。
【0239】
スペクトル方向またはクロマトグラフ方向のピークの幅は、ピークをまたがる最も近いゼロ交差点の配置の間の距離を測定するか、またはピークをまたがる最も近い最小値の間の距離を測定することにより決定することができる。このようなピーク幅は、ピークが隣接要素から分解されることを確認するために使用することができる。他の情報も、ピーク幅を考察することによる収集できる。例えば、ピーク幅に対し値が思いがけなく大きい場合は、同時発生ピークを示すことがある。その結果、ゼロ交差または局所的極大の配置を入力として使用し、干渉同時発生の効果を推定するか、またはイオンパラメータリストに格納されているパラメータ値を修正することができる。
【0240】
ピークを分析することにより決定されたパラメータは、隣接要素を考察することによりさらに最適化することができる。畳み込み行列の要素はデジタルデータサンプルを表しているため、クロマトグラフ(時間)次元のピークの真の頂点は、サンプル時間と正確に一致しない場合があり、またスペクトル(質量対電荷比)次元のピークの真の頂点は、質量対電荷比チャネルと正確に一致しない場合がある。その結果、典型的には、時間および質量対電荷比次元の信号の実際の最大値は、サンプル期間または質量対電荷比チャネル間隔の数分の一だけ、利用可能なサンプリング値からオフセットされる。これらの分数オフセットは、曲線当てはめ法などの補間を使用してピークに対応する局所的極大値を持つ要素を囲む行列要素の値から推定することができる。
【0241】
例えば、二次元の状況においてイオンに対応する局所的極大値を含む出力畳み込み行列の要素から真の頂点の分数オフセットを推定する技術では、二次元形状を、局所的極大値を含むデータ行列の要素および最も近い隣接要素に当てはめる。本発明のいくつかの実施形態では、二次元放物形状が使用されるが、それは、頂点の近くの畳み込みピークの形状に対するよい近似だからである。例えば、放物形状は、ピークおよびその8つの最も近い隣接要素を含む9要素行列に当てはめることができる。本発明の範囲および精神において、他の当てはめを補間に使用できる。
【0242】
放物線当てはめを使用することにより、ピーク頂点の補間値を計算し、イオンパラメータを決定する。補間値を使用すると、保持時間、m/z、および強度の推定は、走査時間およびスペクトルチャネルの値を読み取って得られる推定結果よりも正確である。最大値での放物線の値、およびその最大値に対応するその補間時間およびm/zは、イオン強度、保持時間、およびm/zの推定値である。
【0243】
二次元放物線当てはめの最大値の行方向の補間された位置は、保持時間の最適な推定値である。二次元放物線当てはめの最大値の列方向の補間された位置は、質量対電荷比の最適な推定値を与える。ベースラインよりも上の頂点の補間された高さは、イオン強度または濃度の最適な推定値(フィルタ係数でスケーリングされる)を与える。
【0244】
本発明のいくつかの実施形態は、さらに、中間畳み込み行列の結果からピークパラメータを抽出するように構成することもできる。例えば、検出されたイオンに対応する単一ピークを特定するための上述の方法も、行列のそれぞれの行または列内のピークを特定するために使用することができる。これらのピークは、知られている時間または質量値においてスペクトルまたはクロマトグラムを格納するのに有用である場合がある。
【0245】
例えば、2階微分フィルタから得られるスペクトルまたはクロマトグラフは、上述の中間畳み込み行列から行および列毎に取得することができる。これらの中間結果は、局所的極大値についても調べられる。これらの最大値は、実際、クロマトグラムおよびスペクトルの平滑化バージョンである。局所的極大は、抽出され、保存され、特定の時刻または時間範囲の試料のスペクトル成分、または典型的な質量または質量範囲のクロマトグラフ成分に関してさらに詳細を与えることができる。
【0246】
測定誤差
本発明のいくつかの実施形態により得られるそれぞれのイオンパラメータ測定結果は、推定値なので、それぞれのそのような測定に関連する測定誤差がある。これらの関連する測定誤差は、統計的に推定できる。
【0247】
2つの異なる因子が測定誤差に寄与する。1つは、系統誤差つまり較正誤差である。例えば、質量分析計のm/z軸が完全に較正されていない場合、与えられたm/z値はオフセットを含む。系統誤差は、典型的には一定のままである。例えば、較正誤差は、m/z範囲全体にわたって本質的に一定である。このような誤差は、特定のイオンの信号対雑音または振幅に依存しない。同様に、質量対電荷比の場合、誤差は、スペクトル方向のピーク幅に依存しない。
【0248】
測定誤差に寄与する第2の因子は、それぞれの測定に関連する減らすことができない統計誤差である。この誤差は、熱またはショット雑音に関係する効果により生じる。与えられたイオンに対するこの誤差の大きさまたは分散は、イオンのピーク幅および強度に依存する。統計誤差は、再現性の尺度であり、したがって、較正誤差に依存しない。統計誤差は言い換えると、精度である。
【0249】
それぞれの測定に関連する統計誤差は、原理上、測定が行われる計測器の基本動作パラメータから推定することができる。例えば、質量分析計では、これらの動作パラメータは、典型的には、マイクロチャネルカウンティングプレート(MCP)の効率と結びつけられた計測器のイオン化および伝達効率を含む。それとともに、これらの動作パラメータは、イオンに関連付けられたカウントを決定する。カウントは、質量分析計を使用する測定に関連する統計誤差を決定する。例えば、上述の測定に関連する統計誤差は、典型的に、ポアソン分布に従う。それぞれの誤差に対する数値は、誤差伝搬の理論を介して計数統計から求めることができる。例えば、P.R.BEVINGTON、DATA REDUCTION AND ERROR ANALYSIS FOR THE PHYSICAL SCIENCES at 58−64(McGRAw−HILL 1969)を参照のこと。
【0250】
一般に、統計誤差は、データから直接推論することもできる。統計誤差をデータから直接推論する方法の1つは、測定結果の再現性を調べることである。例えば、同じ混合物の反復注入は、同じ分子に対するm/z値の統計的再現性を確定することができる。注入を通して生じるm/z値の差は、統計誤差によるものである可能性が高い。
【0251】
保持時間測定結果に関連する誤差の場合、統計的再現性は、反復注入から生じる系統誤差が統計誤差を隠す傾向があるため実現が困難である。この困難を克服する1つの手法は、共通の親分子から得られた異なるm/z値のイオンを調べることである。共通分子に由来するイオンは、同一の固有保持時間を持つことが予想されるであろう。そのため、共通の親に由来する分子の保持時間の測定と測定の間の差は、ピーク特性の測定に関連する基本的検出器雑音に関連する統計誤差によるものである可能性が高い。
【0252】
本発明の一実施形態を使用してそれぞれの測定が行われ、測定結果が格納されるが、それには、関連する統計誤差および系統誤差の推定値が伴う可能性がある。これらの誤差はそれぞれの検出イオンのパラメータ推定値に適用されるが、その値は、イオン群を分析することにより一般的に推論することができる。適当な誤差分析の後、検出イオンに対するそれぞれの測定関連する誤差は、検出イオン測定に対応する表のそれぞれの行に含めることができる。本発明のこのような実施形態では、表のそれぞれの行に、それぞれのイオンに関連する15回分の測定結果をしまうことができる。これらの測定は、保持時間、質量対電荷比、強度、スペクトルFWHM、およびクロマトグラフFWHMである、行ならびにその関連する統計誤差および系統誤差に対応する検出イオンに対する5回分の測定結果である。
【0253】
上述のように、保持時間およびm/zにおける測定誤差の統計成分、つまり精度は、それぞれのピーク幅および強度に依存する。SNRが高いピークについては、精度は、それぞれのピーク幅のFWHMよりも実質的に小さいと考えられる。例えば、FWHMが20ミリamuで、SNRが高いピークでは、精度は、1ミリamuよりも小さいと考えられる。雑音よりも高くかろうじて検出にかかるピークでは、精度は、20ミリamuと考えられる。統計誤差のこの説明のために、FWHMは、畳み込みの前のLC/MSクロマトグラムにおけるピークのFWHMであると考えられる。
【0254】
精度は、ピーク幅に比例し、ピーク振幅に反比例する。一般に、精度、ピーク幅、およびピーク振幅の間の関係は、
【数62】

と表すことができる。
【0255】
この関係式において、σは、m/zの測定の精度であり(標準誤差として表される)、wは、ピークの幅であり(FWHMのミリamu単位で表される)、hは、ピークの強度であり(後フィルタ処理された、信号対雑音比として表される)、kは、1のオーダーの無次元定数である。kの正確な値は、使用されるフィルタ方法に依存する。この式は、σがwよりも小さいことを示している。そのため、本発明では、検出イオンのm/zの推定を、元のLC/MSデータにおいて測定されたようにm/zピーク幅のFWHMよりも小さい精度で行うことができる。
【0256】
保持時間の測定に関して同様の維持の考慮事項が適用される。ピークの保持時間を測定できる精度は、ピーク幅と信号強度の組合せに依存する。ピークの最大FWHMが0.5分の場合、保持時間は、0.05分(3秒)の、標準誤差により記述される、精度に合わせて測定されるようにできる。本発明を使用することで、検出イオンの保持時間の推定を、元のLC/MSデータにおいて測定されたように保持時間ピーク幅のFWHMよりも小さい精度で行うことができる。
【0257】
ステップ6:抽出パラメータを格納する
上述のように、本発明のいくつかの実施形態の1つの出力は、検出イオンに対応するパラメータのテーブルまたはリストである。このイオンパラメータテーブル、またはリストは、それぞれの検出イオンに対応する行を持ち、それぞれの行は、1つまたは複数のイオンパラメータを含み、必要ならば、その関連する誤差パラメータを含む。本発明の一実施形態では、イオンパラメータテーブル内のそれぞれの行は、保持時間、質量対電荷比、および強度などの3つのパラメータを持つ。追加のイオンパラメータおよび関連する誤差は、リスト内に表現されているそれぞれの検出イオンについて格納することができる。例えば、FWHMにより測定されたとおり検出イオンのピーク幅またはクロマトグラフおよび/またはスペクトル方向のゼロ交差幅も、決定し、格納することができる。
【0258】
ゼロ交差幅は、フィルタ処理が2階微分フィルタで実行される場合に適用可能である。2階微分のゼロ値は、ピークの上り勾配と下り勾配の両方のピークの屈曲点で生じる。ガウスピークプロファイルでは、屈曲点は、ピーク頂点から+/1標準偏差の距離のところで生じる。そのため、屈曲点により測定された幅は、ピークの2標準偏差幅に対応する。そのため、ゼロ交差幅は、約2標準偏差に対応するピーク幅の高さ独立の尺度である。本発明の一実施形態では、テーブル中の行の個数は、検出されたイオンの個数に対応する。
【0259】
本発明は、さらに、データ圧縮の利点も有する。これは、イオンパラメータテーブルに含まれる情報を格納するために必要なコンピュータのメモリは、最初に生成された元のLC/MSデータを格納するために必要なメモリよりも著しく小さいからである。例えば、それぞれのスペクトル内に400,000個の分解要素がある(例えば、50から2000amuの20,000:1MS分解能)、3600個のスペクトル(例えば、1時間の間毎秒1回収集されるスペクトル)を含む典型的な注入は、数ギガバイトを超えるメモリに強度のLC/MSデータ行列を格納する必要がある。
【0260】
複雑な試料では、本発明のいくつかの実施形態を使用し、100,000のオーダーのイオンを検出することができる。これらの検出イオンは、それぞれの行が検出イオンに対応するイオンパラメータを含む、100,000個の行を持つテーブルにより表される。それぞれの検出イオンに対する望ましいパラメータを格納するのに必要なコンピュータ記憶装置容量は、典型的には、100メガバイト未満である。この記憶装置容量は、最初に生成されたデータを格納するために必要なメモリの数分の一にしかならない。イオンパラメータテーブルに格納されるイオンパラメータデータは、さらに処理するためにアクセスされ、抽出されるようにできる。データを格納する他の方法は、本発明のいくつかの実施形態で使用されうる。
【0261】
記憶装置容量要件が著しく低減されるだけでなく、LC/MSデータを後処理する計算効率は、最初に生成されたLC/MSデータではなくイオンパラメータリストを使用してこのような分析が実行された場合に、著しく改善される。これは、処理する必要のあるデータ点の数が著しく削減されるからである。
【0262】
ステップ7:スペクトルおよびクロマトグラムを簡素化する
その結果のイオンリストまたはテーブルと交信して、新規性のある有用なスペクトルを形成することができる。例えば、上述のように、保持時間の向上した推定値に基づくテーブルからのイオンの選択は、複雑度が大幅に低減されたスペクトルをもたらす。それとは別に、m/z値の向上した推定値に基づくテーブルからのイオンの選択は、複雑度が大幅に低減されたクロマトグラムをもたらす。例えば、以下でさらに詳しく説明するように、注目する化学種に無関係のイオンを除外するために保持時間窓を使用できる。保持時間選択スペクトルは、1つのスペクトルの複数のイオンを誘発する、タンパク質、ペプチド、およびその断片化生成物などの分子種の質量スペクトルの解釈を簡素化する。同様に、同じ、または類似のm/z値を持つイオンを区別するために、m/z窓が定義されうる。
【0263】
保持窓の概念を使用すると、LC/MSクロマトグラムからの簡素化されたスペクトルを取得できる。窓の幅は、クロマトグラフピークのFWHM以下となるように選択できる。場合によっては、ピークのFWHMの1/10などの小さな窓が選択される。保持時間窓は、一般に、注目するピークの頂点に関連付けられた、特定の保持時間を選択し、次いで選択された特定の保持時間を中心とする値の範囲を選択することより定義される。
【0264】
例えば、最高の強度値を持つイオンを選択し、保持時間を記録できる。保持時間窓は、記録された保持時間を中心として選択される。次いで、イオンパラメータテーブル内に格納されている保持時間が調べられる。保持時間窓内に入る保持時間を持つイオンのみが、スペクトルに含まれるものとして選択される。30秒のFWHMを持つピークでは、保持時間窓の有用な値は、±15秒と長いか、または±1.5秒と短い。
【0265】
保持時間窓は、ほぼ同時に溶出するイオンを選択するように指定することができ、そのため、関係付けに対する候補となる。このような保持時間窓は、無関係の分子を除外する。そのため、保持窓を使用してピークリストから得られるスペクトルは、注目する化学種に対応するイオンのみを含み、それにより、生成されるスペクトルが著しく簡素化される。これは、典型的には注目する化学種に無関係のイオンを含む、従来の技術により生成されるスペクトルに勝る大きな改善である。
【0266】
イオンパラメータテーブルを使用することで、クロマトグラフピーク純度を分析する技術が実現される。ピーク純度は、ピークが単一イオンによるものか、それとも共溶出イオンの結果によるものかを指す。例えば、分析者は、本発明のいくつかの実施形態により生成されるイオンパラメータリストを参照することにより、注目する主ピークの時間内に化合物またはイオンがどれだけ溶離するかを決定することができる。ピーク純度の尺度または測定ベースラインを与える方法は、図21を参照しつつ説明される。
【0267】
ステップ2102では、保持時間窓が選択される。保持時間窓は、注目するイオンに対応するピークのリフトオフおよびタッチダウンに対応する。ステップ2104では、イオンパラメータテーブルに対し問い合わせをして、選択された保持時間窓内ですべてのイオン溶離を同定する。ステップ2106で、同定されたイオン(注目するイオンを含む)の強度が総和される。ステップ2108では、ピーク純度測定ベースラインが計算される。ピーク純度測定ベースラインは、多数の方法で定義できる。本発明の一実施形態では、ピーク純度測定ベースラインは、以下のように定義される。
純度=100*(注目するピークの強度)/(保持窓内のすべてのピークの強度の総和)
それとは別に、本発明の他の実施形態では、ピーク純度は、以下のように定義される。
純度=100*(最も強い強度)/(保持窓内のすべてのピークの強度の総和)
ピーク純度の両方の定義において、ピーク純度は、パーセント値として表される。
【0268】
本発明のスペクトル簡素化特性を使用すると、生体試料の研究が行いやすくなる。生体試料は、LC/MS法を使用して通常分析される混合物の重要なクラスである。生体試料は、一般に、複雑な分子を含む。そのような複雑な分子の特徴は、特異分子種は複数のイオンを発生しうるという点である。ペプチドは、異なる同位体状態で天然に存在する。したがって、与えられた電荷で現れるペプチドは、m/zの複数の値で現れ、それぞれそのペプチドの異なる同位体状態に対応する。十分な分解能があれば、ペプチドの質量スペクトルは、特徴的イオン群を示す。
【0269】
典型的に高い質量を持つタンパク質は、異なる荷電状態にイオン化される。タンパク質における同位体変化は質量分析計では分解できないが、異なる荷電状態で現れるイオンは、一般に、分解できる。このようなイオンは、タンパク質の同定を支援するために使用できる特徴的パターンを発生する。そこで、本発明の方法では、共通保持時間があるため共通タンパク質からイオンを関連付けることができる。次いで、これらのイオンは、例えば、Fenn他の米国特許第5,130,538号で開示されている方法により分析できる簡素化されたスペクトルを形成する。
【0270】
質量分析計は、質量それ自体ではなく、質量対電荷比のみを測定する。しかし、ペプチドおよびタンパク質などの分子の荷電状態を、それらが発生するイオンのパターンから推論することが可能である。この推論された荷電状態を使用すれば、分子の質量が推定可能である。例えば、タンパク質が複数の荷電状態で生じる場合、m/z値の間隔から、電荷を推論し、その電荷を知ってそれぞれのイオンの質量を計算し、最終的に荷電されていない親の質量を推定することが可能である。同様に、ペプチドについては、m/z電荷が特定の質量mに対する同位体値における電荷によるものである場合に、電荷を隣接するイオンの間の間隔から推論することが可能である。
【0271】
m/z値を使用してイオンから電荷および親質量を推論するよく知られている技術が多数ある。例示的なこのような技術は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第5,130,538号で説明されている。これらの技術のそれぞれの要件は、正しいイオンの選択およびm/zに対する正確な値の使用である。検出されたイオンパラメータテーブルで表されるイオンは、精度を高めた結果を出すためにこれらの技術への入力として使用できる高精度の値を与える。
【0272】
さらに、引用されている方法のいくつかでは、スペクトル内に出現しうるイオンを区別することによりスペクトルの複雑度を下げることを試みている。一般に、これらの技術は、顕著なピークを中心とするスペクトルを選択するか、または単一ピークに関連するスペクトルを組み合わせて、単一の抽出されたMSスペクトルを取得することを伴う。そのピークが複数の同時発生イオンを発生した分子からのものであったなら、スペクトルは、無関係の化学種からのイオンを含むすべてのイオンを含むであろう。
【0273】
これらの無関係の化学種は、注目する化学種とまったく同じ保持時間に溶離するイオンからのものである可能性があるか、またはより一般に、これらの無関係の化学種は、異なる保持時間に溶離するイオンからのものである。しかし、これらの異なる保持時間がクロマトグラフピーク幅のFWHM程度の窓内に含まれる場合、これらのピークの前部または尾部からのイオンは、スペクトル内に現れる可能性が高い。無関係の化学種に関連するピークの出現は、検出し、除去するためにその後の処理を必要とする。それらが同時に生じるいくつかの場合、測定を偏らせる可能性がある。
【0274】
図22Aは、2つの親分子およびその結果の多数のイオンから得られる例示的なLC/MSデータ行列を示す。この実施例では、LC/MSデータ行列において、化学種は時刻t1に溶離し、4個のイオンを発生し、他の化学種は時刻t2に溶離し、5個のイオンを発生する。2つの異なる化学種があるとしても、時刻t1または時刻t2にスペクトルが抽出されるとすれば、その結果のスペクトルは、9個のイオンのそれぞれから1個ずつ9個のピークを含むであろう。しかし、本発明では、これら9個のイオンのそれぞれについて9つの正確な保持時間(さらにはm/zおよび強度)を得るであろう。次いで、スペクトルが、t1に実質的に等しい保持時間を持つイオンのみから構成されていれば、4つのイオンのみが存在する。この簡素化されたスペクトルは図22Bに示されている。次いで、同様に、スペクトルが、t2に実質的に等しい保持時間を持つイオンのみから構成されていれば、5つのイオンのみが存在する。この簡素化されたスペクトルは図22Cに示されている。
【0275】
応用例
LC/MSシステムで試料が収集されるときに、保持時間を正確に推論するために、クロマトグラフピーク上で複数のスペクトルが典型的には収集される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、FWHM毎に5つのスペクトルが収集される。
【0276】
LC/MSシステムの構成をスペクトル毎に変えることが可能である。例えば、すべての偶数スペクトルを一方のモードで収集し、すべてのインターリーブする奇数スペクトルを別のモードで動作するように構成されたMSで収集することができる。例示的なデュアルモード収集動作は、一方のモード(LC/MS)では非断片化イオンが収集され、第2のモード(LC/MSE)では、第1のモードで収集された非断片化イオンの断片が収集されるLC/MSEと交互に動作するLC/MSで採用することができる。これらのモードは、衝突室を横断するときにイオンに印加される電圧のレベルにより区別される。第1のモードでは、電圧は低く、第2のモードでは、電圧は高い(Bateman他)。
【0277】
このようなシステムでは、一方のモードでシステムにより収集された断片またはイオンは、未修飾イオンと同じ保持時間を持つクロマトグラフプロファイルとともに現れる。これは、非断片化および断片化イオンが同じ分子種に共通であり、分子の溶出プロファイルがそこから派生するすべての非断片化および断片化イオンにインプリントされるからである。オンラインMSのモードを切り替えるために要する余分な時間はピーク幅またはクロマトグラフピークのFWHMに比べて短いため、これらの溶出プロフィルは実質的に時間的整合性を持つ。例えば、MS内の分子の輸送時間は、典型的には、ミリ秒またはマイクロ秒のオーダーであるが、クロマトグラフピークの幅は、典型的には、秒または分のオーダーである。したがって、特に、非断片化イオンおよび断片化イオンの保持時間は、実質的に同じである。さらに、それぞれのピークのFWHMは同じであり、さらに、それぞれのピークのクロマトグラフプロファイルは実質的に同じである。
【0278】
2つの動作モードで収集されたスペクトルは、2つの独立のデータ行列に分解することができる。上述の畳み込み、頂点検出、パラメータ推定、および閾値設定の演算は、両方に対し独立して適用することができる。そのような分析の結果、イオンの2つのリストが得られるが、リスト内に現れるイオンは、互いに関係を有する。例えば、一方の動作モードに対応するイオンのリスト内に出現する高い強度を持つ強いイオンは、他方の動作モードに応じて収集される修飾イオンのリスト内に対応物を持ちうる。このような場合、イオンは、典型的には、共通の保持時間を持つ。そのような関係のあるイオンを分析のため互いに関連付けるために、上述のように保持時間を制約する窓を両方のデータ行列において見つかるイオンに適用することができる。そのような窓を適用した結果、共通保持時間を持ち、したがって関係がある可能性のある2つのリスト内のイオンを識別する。
【0279】
これらの関係のあるイオンの保持時間が同じであっても、検出器雑音の効果により、これらのイオンの保持時間の測定値はいくぶん異なる。この違いは、統計誤差の現れであり、イオンの保持時間の測定の精度を測定するものである。本発明では、イオンの推定保持時間の差は、クロマトグラフピーク幅のFWHMよりも小さい。例えば、ピークのFWHMが30秒である場合、イオン同士の間の保持時間のバラツキは、低強度ピークでは15秒未満、高強度ピークでは1.5秒未満である。同じ分子のイオンを収集する(また、無関係のイオンを除去する)ために使用される窓幅は、この実施例では、±15秒程度と大きいか、または±1.5秒程度と小さいものとすることができる。
【0280】
図23は、本発明の実施形態により、関係するイオンを、生成された未修飾および修飾されたイオンのリストでどのように同定できるかを示す絵図表である。データ行列2302は、未修正のMS実験の結果得られるスペクトルにおいて検出される3つの前駆体イオン2304、2306、および2308を示している。データ行列2310は、断片化を引き起こすために例えば上述のようにMSを修正した後、実験から得られる8個のイオンを示す。データ行列2310内のイオンと関係するデータ行列2302内のイオンは、ラベルt0、t1、およびt2が付けられている3本の縦線により示されるように、同じ保持時間で現れる。例えば、データ行列2310内のイオン2308aおよび2308bは、データ行列2302内のイオン2308に関係する。データ行列2310内のイオン2306a、2306b、および2306cは、データ行列2302内のイオン2306に関係する。データ行列2310内のイオン2304a、2304b、および2304cは、データ行列2302内のイオン2304に関係する。これらの関係は、それぞれ時刻t0、t1、およびt2を中心とする適切な幅の保持時間窓により識別できる。
【0281】
イオンパラメータリストは、さまざまな分析に使用することができる。このような分析の1つは、フィンガープリンティングまたはマッピングを伴う。全体的によく特徴付けられた、本質的に同じ組成の、成分が同じ相対量だけ存在する、混合物の実施例が多数ある。生物学的実施例は、尿、脳脊髄液、および涙などの最終代謝産物を含む。他の実施例は、細胞組織および血液中に見られる細胞集団のタンパク質成分である。他の実施例は、細胞組織および血液中に見られる細胞集団のタンパク質成分の酵素消化物である。これらの消化物は、デュアルモードLC/MSおよびLC/MSEにより分析できる混合ペプチドを含む。工業で使用される実施例は、香水、香料、フレーバー、ガソリンまたは油の燃料分析を含む。環境的な実施例は、農薬、燃料、および除草剤、ならびに水および土壌の汚染を含む。
【0282】
これらの流動体で観察されると予想されるものからの外れる異常性は、製剤物質の摂取または注射から生じる代謝産物の場合の生体異物、代謝流動体の不正使用の薬剤の証拠、ジュース、フレーバー、および香料などの混ぜ物作成、または燃料分析を含む。本発明のいくつかの実施形態により生成されるイオンパラメータは、フィンガープリントまたは多変量解析について当業で知られている方法への入力として使用できる。SIMCA(スウェーデン、Umetrics)、またはPirouette(米国ワシントン州ウッデンビル、Infometrix)などのソフトウェア分析パッケージは、試料母集団間のイオンの変化を識別することにより、フィンガープリントまたは多変量解析技術を使用してそのような異常性を検出するように構成することができる。これらの分析は、混合物中の実体の正規分布を決定し、次いで、ベースラインから逸脱する試料を同定することができる。
【0283】
化合物の合成では、追加の分子的実体とともに所望の化合物を生成することができる。これらの追加の分子的実体は、合成経路を特徴付ける。イオンパラメータリストは、実際、化合物の合成の合成経路を特徴付けるために使用できるフィンガープリントとなる。
【0284】
本発明が適用可能な他の重要な応用例に、バイオマーカー発見がある。濃度の変化が疾病状態と、または薬剤の作用と一意に相関する分子の発見は、疾病の検知、または薬剤を発見するプロセスにとって基本的なものである。バイオマーカー分子は、細胞集団内、または代謝産物中、または血液および血清などの流動体中に出現しうる。よく知られている方法を使用する対照および疾病または投薬状態について生成されたイオンパラメータリストの比較は、疾病または薬剤の作用のマーカーである分子を同定するために使用できる。
【0285】
本発明の好ましい実施形態の前記の開示は、例示および説明を目的として提示された。この説明は網羅的であることを意図しておらず、また本発明を開示した正確な形態だけに限る意図もない。本明細書で説明されている実施形態の多くの変更形態および修正形態は、上記開示に照らして当業者には明白なことであろう。本発明の範囲は、付属の請求項のみにより、またその同等の項目により、定められるものとする。
【0286】
さらに、本発明の代表的実施形態を説明する際に、明細書において本発明の方法および/またはプロセスを特定の一連の工程として提示している可能性がある。しかし、方法またはプロセスが本明細書に記載されている工程の特定の順序に依存しない限り、方法またはプロセスは、説明されている特定の一連の工程に限定されるべきではない。当業者であれば理解するように、他の一連の工程も可能である。したがって、明細書に記載されている工程の他の順序は、請求項に対する制限と解釈すべきではない。さらに、本発明の方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、書かれている順序で工程を実行することに限定されるべきではなく、また当業者であれば、順序を変更することができ、それでも本発明の精神および範囲内あることを容易に理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0287】
【図1】本発明の一実施形態による例示的なLC/MSシステムの概略図である。
【図2】例示的なクロマトグラフまたはスペクトルのピークの図である。
【図3】3度例示的なLC/MS実験中に生成された3個のイオンの例示的なスペクトルを示す図である。
【図4】図3の例示的なイオンに対応するクロマトグラムを示す図である。
【図5】本発明の一実施形態によりデータを処理する方法の流れ図である。
【図6】本発明の一実施形態によりデータを処理する方法の、絵図による流れ図である。
【図7】本発明の一実施形態によりイオンを検出する際に使用する閾値を決定する方法の、絵図による流れ図である。
【図8】本発明の一実施形態による例示的なデータ行列を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態により図3および4のデータから作成された例示的なデータ行列の等高線表現図である。
【図10】本発明の一実施形態により雑音が存在しない場合にデータを処理するための簡略化された方法の流れ図である。
【図11】図9の例示的なデータ行列に対する共溶出イオンの効果を示す図である。
【図12】図3に示されている例示的なデータに対する共溶出イオンの「段付き」効果を示す図である。
【図13】本発明のいくつかの実施形態により作成されたデータ行列内の例示的なデータに雑音がどのような影響を及ぼすかを示す図である。
【図14A】図13に示されているデータ行列に示されている例示的なデータに対応する3個のイオンのスペクトルを示す図である。
【図14B】図13に示されているデータ行列に示されている例示的なデータに対応する3個のイオンのクロマトグラムを示す図である。
【図15】本発明の一実施形態による例示的な一次元アポダイズサビツキー−ゴーレイ2階微分フィルタを示す図である。
【図16A】本発明の一実施形態によるスペクトル(m/z)方向の例示的な一次元フィルタの断面を示す図である。
【図16B】本発明の一実施形態によるクロマトグラフ(時間)方向の例示的な一次元フィルタの断面を示す図である。
【図16C】本発明の一実施形態によるスペクトル(m/z)方向の例示的な一次元平滑化フィルタf1の断面を示す図である。
【図16D】本発明の一実施形態によるクロマトグラフ方向の例示的な一次元2階微分フィルタg1の断面を示す図である。
【図16E】本発明の一実施形態によるクロマトグラフ方向の例示的な一次元平滑化フィルタg2の断面を示す図である。
【図16F】本発明の一実施形態によるスペクトル(m/z)方向の例示的な一次元2階微分フィルタf2の断面を示す図である。
【図17A】本発明のいくつかの実施形態によるデータ行列に格納されるようなLC/MSデータにより生成できる例示的なピークを示す図である。
【図17B】本発明の一実施形態による例示的な階数2フィルタの点源応答(有限インパルス応答)を示す図である。
【図17C】質量が等しく、ほぼ同時であっても、完全に同時ではない2つのLC/MSピークのシミュレーションを示す図である。
【図17D】図17Cの2ピークシミュレーションの質量のピーク断面を示す図である。
【図17E】図17Cの2ピークシミュレーションの時間のピーク断面を示す図である。
【図17F】図17Cの2ピークシミュレーションに計数(ショット)雑音を加える効果を示す図である。
【図17G】図17Fの追加雑音2ピークシミュレーションの質量のピーク断面を示す図である。
【図17H】図17Fの追加雑音2ピークシミュレーションの時間のピーク断面を示す図である。
【図17I】階数2フィルタと図17Fのシミュレートされたデータとの畳み込み演算を行った結果を示す図である。
【図17J】図17Iに示されている結果の質量のピーク断面を示す図である。
【図17K】図17Iに示されている結果の時間のピーク断面を示す図である。
【図18】本発明の一実施形態によりデータのリアルタイム処理を実行する流れ図である。
【図19】図18の流れ図の方法によるデータのリアルタイム処理を実行する方法を示す絵図である。
【図20】本発明の一実施形態により適切な閾値を決定する方法の流れ図である。
【図21】本発明の一実施形態によりピーク純度測定ベースラインを決定する方法の流れ図である。
【図22A】2つの親分子およびその結果の多数の分子から得られる例示的なLC/MSデータ行列を示す図である。
【図22B】時刻t1における図22Aのデータに対応する例示的な複素スペクトルを示す図である。
【図22C】時刻t2における図22Aのデータに対応する例示的な複素スペクトルを示す図である。
【図23】本発明の実施形態により、関係するイオンを、生成された未修飾および修飾されたイオンのリストでどのように同定できるかを示す絵図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を分析するシステムであって、
クロマトグラフ分離のため試料が投入される液体クロマトグラフと、
液体クロマトグラフの出力を受け取り、試料の複数のスペクトルを離散時間で出力する質量分析計と、
質量分析計に結合され、複数のスペクトルを受け取って二次元データ行列内に格納するコンピュータと、
二次元フィルタとを備え、
コンピュータは、二次元フィルタをデータ行列に適用して、出力データ行列を生成し、出力データ行列を調べて、出力データ行列中の1つまたは複数のピークを識別することにより試料中のイオンを検出する、システム。
【請求項2】
データ行列が、データ行列のそれぞれの列が離散時間での複数のスペクトルのうちの1つに対応し、データ行列のそれぞれの行が特定の質量対電荷比に関して試料のクロマトグラムに対応するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
ピークが、それぞれのピークを閾値と比較することにより検出され、閾値を超えるピークは、イオンに関連しているとみなされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
閾値が、ピーク強度のヒストグラムを使用して決定される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
フィルタが、整合フィルタである、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
フィルタが、データ行列の列との畳み込みが行われ第1の中間行列を生成する第1のフィルタおよび中間行列の行との畳み込みが行われ出力データ行列を生成する第2のフィルタを含む階数1フィルタである請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
階数1フィルタが、1つまたは複数の平滑化フィルタを含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
階数1フィルタが、1つまたは複数の2階微分フィルタを含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
フィルタが、第1の階数1フィルタおよび第2の階数1フィルタを含む、階数2フィルタであり、第1の階数1フィルタは、データ行列の列との畳み込みが行われ第1の中間行列を生成する第1のフィルタおよび第1の中間行列の行との畳み込みが行われ第2の中間行列を生成する第2のフィルタを含み、第2の階数1フィルタは、データ行列の列との畳み込みが行われ第3の中間行列を生成する第1のフィルタおよび第3の中間行列の行との畳み込みが行われ第4の中間行列を生成する第2のフィルタを含み、第2および第4の中間行列は、組み合わされて、出力データ行列を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
階数2フィルタが、1つまたは複数の平滑化フィルタを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
階数2フィルタが、1つまたは複数の2階微分フィルタを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
さらに、イオンに対応するパラメータが格納される全イオンリストを含み、パラメータは、イオンリスト内の出力データ行列中のピークの特徴を調べることにより決定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
イオンリストのそれぞれの行が、行が対応する試料中の特定のイオンに関連付けられた1つまたは複数のパラメータを含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
1つまたは複数のパラメータが、特定のイオンに関連する質量対電荷比、特定のイオンに関連する保持時間、および特定のイオンに関連する強度を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
1つまたは複数のパラメータが、ピークの特徴を含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
コンピュータが、さらに、簡素化されたスペクトルまたはクロマトグラムの中に置くべき関係するイオンをイオンリストから抽出することにより簡素化されたスペクトルまたはクロマトグラムを生成する、請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
関係するイオンが、保持窓内に入るイオンとして選択される、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
コンピュータが、さらに、簡素化されたスペクトルの中に置くべき関係するイオンをイオンリストから抽出することにより簡素化されたクロマトグラムを生成する、請求項12に記載のシステム。
【請求項19】
関係のあるイオンが、質量対電荷比窓内に入るイオンとして選択される、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
スペクトルの1つまたは複数が、修正された質量分析計の動作に対応する一組のスペクトルが分析のために生成され、未修正の質量分析計の動作に対応する一組のスペクトルが分析のために生成され、第1のイオンリストが未修正の質量分析計の動作中に検出されたイオンについて生成され、第2のイオンリストが修正された質量分析計の動作により検出されたイオンについて生成されるように質量分析計を修正することにより生成される、請求項12に記載のシステム。
【請求項21】
第1および第2のイオンリスト内の関係するイオンが、保持時間窓を第1および第2のイオンリストに適用することにより同定される、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
修正が、断片化切り換えである、請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
二次元フィルタが、データ行列と二次元フィルタとの畳み込みを行うことによりデータ行列に適用される、請求項1に記載のシステム。
【請求項24】
試料を分析する方法であって、
試料を液体クロマトグラフィに導入し、液体クロマトグラフ出力へのクロマトグラフ分離を行うことと、
液体クロマトグラフィ出力を試料の複数の質量スペクトルを離散時間で出力する質量分析計に導入することと、
複数の質量スペクトルのうちの2つまたはそれ以上をコンピュータに入力することと、
2つのまたはそれ以上の質量スペクトルを二次元データ行列に格納することと、
データ行列に適用する二次元フィルタを指定することと、
二次元フィルタをデータ行列に適用し、出力データ行列を生成することと、
出力データ行列を調べて、出力データ行列内の1つまたは複数のピークを識別することにより試料中のイオンを検出し、それぞれのピークは試料中のイオンに対応することとを含む、方法。
【請求項25】
さらに、データ行列のそれぞれ列が離散時間での複数のスペクトルのうちの1つに対応し、データ行列のそれぞれの行が特定の質量対電荷比に関して試料のクロマトグラムに対応するようにデータ行列を構成することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
さらに、
それぞれのピークを検出閾値と比較することと、
検出閾値の条件を満たすピークを検出されたイオンに関連するピークとして同定することとを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
さらに、
データ行列からピーク強度のヒストグラムを作成することと、
ヒストグラムに従って検出閾値を決定することとを含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
二次元フィルタは、整合フィルタである、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
さらに、
第1のフィルタおよび第2のフィルタを含む階数1フィルタを指定することと、
データ行列の列と第1のフィルタとの畳み込みを行って第1の中間行列を生成することと、
中間行列の行と第2のフィルタとの畳み込みを行って出力データ行列を生成することとを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
階数1フィルタが、1つまたは複数の平滑化フィルタを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
階数1フィルタが、1つまたは複数の2階微分フィルタを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
さらに、
第1の階数1フィルタは第1のフィルタおよび第2のフィルタを含み、第2の階数1フィルタは第3のフィルタおよび第4のフィルタを含む、第1の階数1フィルタおよび第2の階数1フィルタを含む、階数2フィルタを指定することと、
データ行列の列と第1のフィルタとの畳み込みを行って第1の中間行列を生成することと、
第1の中間行列の行と第2のフィルタとの畳み込みを行って第2の中間行列を生成することと、
データ行列の列と第3のフィルタとの畳み込みを行って第3の中間行列を生成することと、
第3の中間行列の行と第4のフィルタとの畳み込みを行って第4の中間行列を生成することと、
第2の行列と第4の行列とを組み合わせて出力データ行列を生成することとを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
階数2フィルタが、1つまたは複数の平滑化フィルタを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
階数2フィルタが、1つまたは複数の2階微分フィルタを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
さらに、
検出されたイオンに対応するものとして識別されたピークの特徴を調べて、検出されたイオンに対応するパラメータを取得することと、
検出されたイオンに対応するパラメータをイオンリストに格納することとを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項36】
イオンリストのそれぞれの行が、行が対応する試料中の特定のイオンに関連付けられた1つまたは複数のパラメータを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
1つまたは複数のパラメータが、特定のイオンに関連する質量対電荷比、特定のイオンに関連する保持時間、および特定のイオンに関連する強度を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
1つまたは複数のパラメータが、ピークの特徴を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
さらに、関係するイオンをイオンリストから抽出し、簡素化されたスペクトルまたはクロマトグラムを作成することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
さらに、
保持時間窓を指定することと、
イオンパラメータリストからの関係するイオンを、保持時間窓内に入る保持時間を持つイオンとして同定することとを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
コンピュータが、さらに、簡素化されたスペクトルの中に置くべき関係するイオンをイオンリストから抽出することにより簡素化されたクロマトグラムを生成する、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
さらに、
質量対電荷比窓を指定することと、
イオンパラメータリストからの関係するイオンを、質量対電荷比窓内に入る質量対電荷比を持つイオンとして同定することとを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
さらに、
分析のため質量分析計の動作に対応する一組のスペクトルを生成することと、
質量分析計の動作中に検出されたイオンの第1のイオンパラメータリストを格納することと、
質量分析計を修正することと、
分析のため修正された質量分析計の動作に対応する一組のスペクトルを生成することと、
修正された質量分析計の動作中に検出されたイオンの第2のイオンパラメータリストを格納することとを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項44】
さらに、
保持時間窓を指定することと、
第1および第2のイオンパラメータリストからの関係するイオンを、保持時間窓内に入る保持時間を持つイオンとして同定することとを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
修正が、断片化切り換えである、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
さらに、データ行列とフィルタとの畳み込みを行うことを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項47】
試料を分析するシステムであって、
試料を液体クロマトグラフに導入し、液体クロマトグラフ出力へのクロマトグラフ分離を行う手段と、
液体クロマトグラフィ出力を試料の複数の質量スペクトルを離散時間で出力する質量分析計に導入する手段と、
複数の質量スペクトルのうちの2つまたはそれ以上をコンピュータに入力する手段と、
2つのまたはそれ以上の質量スペクトルを二次元データ行列に格納する手段と、
データ行列に適用する二次元フィルタを指定する手段と、
二次元フィルタをデータ行列に適用し、出力データ行列を生成する手段と、
出力データ行列を調べて、出力データ行列内の1つまたは複数のピークを識別することにより試料中のイオンを検出し、それぞれのピークは試料中のイオンに対応する、手段とを備える、システム。
【請求項48】
さらに、データ行列のそれぞれ列が離散時間での複数のスペクトルのうちの1つに対応し、データ行列のそれぞれの行が特定の質量対電荷比に関して試料のクロマトグラムに対応するようにデータ行列を構成する手段を備える、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
さらに、
それぞれのピークを検出閾値と比較する手段と、
検出閾値の条件を満たすピークを検出されたイオンに関連するピークとして同定する手段とを備える、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
さらに、
データ行列からピーク強度のヒストグラムを作成する手段と、
ヒストグラムに従って検出閾値を決定する手段とを備える、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
二次元フィルタが、整合フィルタである、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
さらに、
第1のフィルタおよび第2のフィルタを含む階数1フィルタを指定する手段と、
データ行列の列と第1のフィルタとの畳み込みを行って第1の中間行列を生成する手段と、
中間行列の行と第2のフィルタとの畳み込みを行って出力データ行列を生成する手段とを備える、請求項47に記載の方法。
【請求項53】
階数1フィルタが、1つまたは複数の平滑化フィルタを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
階数1フィルタが、1つまたは複数の2階微分フィルタを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
さらに、
第1の階数1フィルタは第1のフィルタおよび第2のフィルタを含み、第2の階数1フィルタは第3のフィルタおよび第4のフィルタを含む、第1の階数1フィルタおよび第2の階数1フィルタを含む、階数2フィルタを指定する手段と、
データ行列の列と第1のフィルタとの畳み込みを行って第1の中間行列を生成する手段と、
第1の中間行列の行と第2のフィルタとの畳み込みを行って第2の中間行列を生成する手段と、
データ行列の列と第3のフィルタとの畳み込みを行って第3の中間行列を生成する手段と、
第3の中間行列の行と第4のフィルタとの畳み込みを行って第4の中間行列を生成する手段と、
第2の行列と第4の行列とを組み合わせて出力データ行列を生成する手段とを備える、請求項47に記載の方法。
【請求項56】
階数2フィルタが、1つまたは複数の平滑化フィルタを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
階数2フィルタが、1つまたは複数の2階微分フィルタを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
さらに、
検出されたイオンに対応するものとして識別されたピークの特徴を調べて、検出されたイオンに対応するパラメータを取得する手段と、
検出されたイオンに対応するパラメータをイオンリストに格納する手段とを備える、請求項47に記載の方法。
【請求項59】
イオンリストのそれぞれの行が、行が対応する試料中の特定のイオンに関連付けられた1つまたは複数のパラメータを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
1つまたは複数のパラメータが、特定のイオンに関連する質量対電荷比、特定のイオンに関連する保持時間、および特定のイオンに関連する強度を含む。請求項58に記載の方法。
【請求項61】
1つまたは複数のパラメータが、ピークの特徴を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
さらに、関係するイオンをイオンリストから抽出し、簡素化されたスペクトルまたはクロマトグラムを作成する手段を備える、請求項58に記載の方法。
【請求項63】
さらに、
保持時間窓を指定する手段と、
イオンパラメータリストからの関係するイオンを、保持時間窓内に入る保持時間を持つイオンとして同定する手段とを備える、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
コンピュータが、さらに、簡素化されたスペクトルの中に置くべき関係するイオンをイオンリストから抽出することにより簡素化されたクロマトグラムを生成する、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
さらに、
質量対電荷比窓を指定する手段と、
イオンパラメータリストからの関係するイオンを、質量対電荷比窓内に入る質量対電荷比を持つイオンとして同定する手段とを備える、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
さらに、
分析のため質量分析計の動作に対応する一組のスペクトルを生成する手段と、
質量分析計の動作中に検出されたイオンの第1のイオンパラメータリストを格納する手段と、
質量分析計を修正する手段と、
分析のため修正された質量分析計の動作に対応する一組のスペクトルを生成する手段と、
修正された質量分析計の動作中に検出されたイオンの第2のイオンパラメータリストを格納する手段とを備える、請求項58に記載の方法。
【請求項67】
さらに、
保持時間窓を指定する手段と、
第1および第2のイオンパラメータリストからの関係するイオンを、保持時間窓内に入る保持時間を持つイオンとして同定する手段とを備える、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
修正が、断片化切り換えである、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
さらに、データ行列とフィルタとの畳み込みを行う手段を備える、請求項47に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図16E】
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【図16F】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図17D】
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【図17E】
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【図17F】
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【図17G】
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【図17H】
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【図17I】
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【図17J】
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【図17K】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図22C】
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【図23】
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【公表番号】特表2007−527992(P2007−527992A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553218(P2006−553218)
【出願日】平成17年2月11日(2005.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/004180
【国際公開番号】WO2005/079263
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(504438255)ウオーターズ・インベストメンツ・リミテツド (80)
【Fターム(参考)】