説明

液体クロマトグラフ分析方法及び装置

【課題】液体クロマトグラフィーの分離条件を変えることなく、連続的に且つ簡便に脱塩でき、フロー状態のまま各種検出機器による検出が可能な液体クロマトグラフ分析法および分析装置の提供。
【解決手段】液体クロマトグラフ部、脱塩部及び検出・分析部を少なくとも具備する液体クロマトグラフ分析装置を用いて、不揮発性塩を含む移動相溶媒により分析試料を溶出し、次いで検出を行う液体クロマトグラフ分析法において、溶出された分析試料を含む移動相溶媒に不揮発性塩吸着能を有する機能性粒子を接触させて、移動相溶媒から不揮発性塩を分離することによって脱塩処理し、次いで分析試料を検出することを特徴とする液体クロマトグラフ分析法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフと各種分析手段又は分画手段の間に脱塩処理を行う液体クロマトグラフ分析法及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー(LC)は、試料の揮発性や熱安定性に制限されることなく、多様な混合物を分離することが出来る。そして、この液体クロマトグラフィーは、分離物を検出、同定するための各種スペクトロメーター等の検出手段と一体となり、例えば液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)の如く、分析手段としてその効力を発揮する。
【0003】
このような液体クロマトグラフィーでは、従来からリン酸塩などの不揮発性緩衝液を移動相とする分離条件が汎用的に用いられている。特にリン酸塩は、幅広いpH領域で緩衝能をもつために分離条件の検討が容易であること、また紫外・可視光波長領域に吸収を持たないためにクロマトグラムのバックグラウンドレベルが低いことから、汎用されている。
【0004】
しかし、これらの塩類は分析又は分画上、次のような不都合が生じる。すなわち、検出手段として高感度で物質の情報が得られる質量分析装置を用いる場合、塩類の存在によるイオン化効率の低下、イオン源の汚染が大きな問題となる。また、液体クロマトグラフからの溶出液を分画して溶媒を除去し、NMR、IR等により測定する場合においても、溶出液に含まれる多量の塩類が妨害物となり、正確なスペクトルを得ることができないという問題がある。
【0005】
従来、液体クロマトグラフの移動相からの不揮発性塩を除去するための技術として次の技術が知られている。
第1は、二次元液体クロマトグラフを用いた技術であり、二台の逆相液体クロマトグラフの間に流路切り替えバルブ、サンプルループ、トラップカラムを配置したシステムを利用するものである(特許文献1,図1参照)。すなわち、ポンプaから不揮発性緩衝液を含む移動相溶媒を送液、インジェクタbから注入された試料は、一次元目の逆相液体クロマトグラフのカラムcで分離、切り替えバルブdに付属している複数のサンプルループ(図示なし)に、幾つかのセグメントに分けて捕集される。サンプルループに溜めた試料成分溶液を、ポンプfから水を主成分とする不揮発性緩衝液を含まない溶媒で追い出し、トラップカラムeにトラップして溶液中に含まれている不揮発性塩を洗い流す。次いで、ポンプfから送液する液の溶媒組成を水/アセトニトリルなどに変更(グラジエント)して送液、トラップカラムにトラップされている試料成分を溶出させて二次元目の逆相液体クロマトグラフのカラムgに導入して試料成分を再分離、質量分析計に導入するというものである。
【0006】
第2は、イオンクロマトグラフ装置のイオンサプレッサを用いる技術である(特許文献2)。イオンクロマトグラフを用いた分析では、電気伝導度検出器使用時の溶離液由来のバックグランドを低減させるために、イオンサプレッサが用いられることがある。これは溶離液の電気分解とイオン交換膜を利用したもので、溶離液として用いる不揮発性の塩などを水に変えることができるものであり、このサプレッサを、逆相分配クロマトグラフの不揮発性緩衝液除去に応用するものである。
【0007】
しかし、前者では、脱塩操作の際に試料成分を一旦トラップカラムに保持させる必要がある。すなわち、連続脱塩ができないためリン酸塩緩衝液を用いた溶出液を直接質量分析計に導入できず、液体クロマトグラムと同一時間軸で質量分析のデータを取得することができないという問題がある。また、一次元目のクロマト分離において、有機溶媒の割合が大きな溶離液条件でオクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)カラムを溶出した試料成分は、トラップカラムに保持させることが困難である。また、一次元目のクロマト分離で使える移動相条件(有機溶媒の割合)が制限されることも問題である。
【0008】
また後者では、使用できる溶離液に制限があるという問題がある。すなわち、イオンクロマトグラフィーで用いられる溶離液は、基本的に水溶液状態の不揮発性緩衝液であり、有機溶媒は用いられない。そのため、サプレッサ内で使用されるイオン交換膜は、耐有機溶媒性が低い。一方、殆どのLC−MSに用いられている逆相分配クロマトグラフィーでは、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトンなど多くの有機溶媒が用いられる。そのため、このサプレッサをLC−MSに用いることは、溶離液条件に大きな制限がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−531694号公報
【特許文献2】特開平6−194357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、液体クロマトグラフィーの分離条件を変えることなく、連続的に且つ簡便に脱塩でき、フロー状態のまま各種検出機器による検出が可能な液体クロマトグラフ分析法及び分析装置を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明以下の1)〜7)に係るものである。
1)液体クロマトグラフ部、脱塩部及び検出・分析部を少なくとも具備する液体クロマトグラフ分析装置を用いて、不揮発性塩を含む移動相溶媒により分析試料を溶出し、次いで検出を行う液体クロマトグラフ分析法において、溶出された分析試料を含む移動相溶媒に不揮発性塩吸着能を有する機能性粒子を接触させて、移動相溶媒から不揮発性塩を分離することによって脱塩処理し、次いで分析試料を検出することを特徴とする液体クロマトグラフ分析法。
2)前記脱塩処理を、液体クロマトグラフ部と検出・分析部の間に配置され、液体導入部、多相層流を実現するための液-液分離部及び各層を分離・回収するための分離・回収部を具備するマイクロ流路デバイスによって行う上記1)の液体クロマトグラフ分析法。
3)機能性粒子が磁性体含有粒子である上記1)又は2)の液体クロマトグラフ分析法。
4)分析試料の検出が、質量分析である上記1)〜3)のいずれかの液体クロマトグラフ分析法。
5)液体クロマトグラフ部、脱塩部及び検出・分析部を少なくとも具備する液体クロマトグラフ分析装置において、脱塩部が液体クロマトグラフ部と検出・分析部の間に配置され、不揮発性塩吸着能を有する機能性粒子を用いて移動相溶媒から不揮発性塩を分離する手段を備えてなることを特徴とする液体クロマトグラフ分析装置。
6)移動相溶媒から不揮発性塩を分離する手段が、液体導入部、多相層流を実現するための液-液分離部及び各層を分離・回収するための分離・回収部を具備するマイクロ流路デバイスである上記5)の液体クロマトグラフ分析装置。
7)検出・分析部の検出・分析手段が質量分析計である上記5)又は6)の液体クロマトグラフ分析装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液体クロマトグラフの溶出液に含まれる不揮発性塩を、溶出後にフロー状態のまま脱塩できる。従って、液体クロマトグラフにおける膨大な分離条件資産を変えることなく、スペクトロメーター例えば質量分析計をオンラインで接続でき、又分画補集によって容易に目的物質が得られ、広い範囲で効率的に分離、同定ができる。
これにより、不揮発性緩衝液が使えないという理由で質量分析計等を液体クロマトグラフの検出器として選択できなかった問題が解消され、液体クロマトグラフの適用範囲の拡大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の液体クロマトグラフ分析装置の概略図
【図2】本発明液体クロマトグラフ分析装置の概略構成図
【図3】脱塩部の流路構成図
【図4】液-液分離部の流路断面図
【図5】温度制御機構を設けたデバイスの流路断面図
【図6】脱塩部の流路構成図
【図7】脱塩部の流路構成図
【図8】脱塩部の流路構成図
【図9】脱塩部の流路構成図
【図10】脱塩部の流路構成図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液体クロマトグラフ分析法は、液体クロマトグラフ部、脱塩部及び検出・分析部を少なくとも具備する液体クロマトグラフ分析装置を用いて、不揮発性塩を含む移動相溶媒により分析試料を溶出し、次いで検出を行う液体クロマトグラフ分析法において、溶出された分析試料を含む移動相溶媒に不揮発性塩吸着能を有する機能性粒子を接触させて、移動相溶媒から不揮発性塩を分離することによって脱塩処理し、次いで分析試料を検出するものである。
本発明の液体クロマトグラフ分析法を実施するための分析装置の概略構成図を図2に示す。
【0015】
液体クロマトグラフ部における液体クロマトグラフとしては、不揮発性の各種塩類を含む溶媒を移動相として用いる各種のクロマトグラフであればその種類は何れでもよく、例えば、逆相液体クロマトグラフ、イオン交換クロマトグラフ、イオン対クロマトグラフ等が挙げられる。
【0016】
不揮発性の各種塩類を含む移動相溶媒としては、前記の各種のクロマトグラフに用いられる公知のものが使用でき、例えば、リン酸、過塩素酸、アルキルスルホン酸及び/又はこれらの塩よりなる緩衝液、又は当該緩衝液と例えば、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン等の有機溶媒の混合溶液等が挙げられる。
【0017】
検出・分析部における試料の検出は、例えば、質量分析法による測定が挙げられる。質量分析計はその感度が非常に高く、微量の試料で測定可能であることから、本発明の液体クロマトグラフ分析装置に接続される装置として最も適する。
また、本発明による脱塩処理が施された溶出液からは、分画、溶媒除去を行うことにより、目的物質を容易に得ることができ、これらをNMR、IR等の検出手段により測定することも可能である。
【0018】
脱塩処理は、液体クロマトグラフにより溶出された溶出液に対して行われ、不揮発性塩吸着能を有する機能性粒子を用いて移動相溶媒から不揮発性塩を分離する手段を備えてなる脱塩部によって行われる。液体クロマトグラフより溶出された分析試料を含む移動相溶媒は脱塩装置内に導入され、脱塩処理された後、そのまま分析装置に送られる。
【0019】
機能性粒子としては、不揮発性塩を吸着できる粒子、例えばオクタデシル基等の疎水性官能基を有しその細孔や表面に不揮発性塩を吸着可能なシリカゲル、ジルコニア、合成ポリマー等の疎水性微細粒子や、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト等の磁性体粒子と不揮発性塩を吸着可能なチタニア、シリカゲル、ヒドロキシアパタイト、ジルコニア等を含有する磁性体含有粒子等が挙げられる。
【0020】
不揮発性塩吸着能を有する機能性粒子を用いて移動相溶媒から不揮発性塩を分離する手段としては、具体的には、前記液体クロマトグラフ部を通過した移動相溶媒を導入するための液体導入部、多相層流を実現するための液-液分離部、磁性体含有粒子を回収するための磁気回収部、各層を分離・回収するための分離・回収部を具備するマイクロ流路デバイスが用いられる。
【0021】
マイクロ流路デバイスは、マイクロ空間である微細流路を具備した、微量物質の抽出、分離、精製等を行うための3次元構造体である。
マイクロ流路は、マイクロメートルサイズの幅・高さ・直径を有し、液体を流すことが可能な通路であればよく、例えば、幅・深さ・直径は、それぞれ20〜1,000μm程度であればよく、幅100〜300μm、高さ50〜150μm、直径100〜500μmであるのが好ましい。尚、液-液分離部における流路の長さは、液体の導入量によって適宜調整するのが好ましい。
【0022】
本発明のマイクロ流路デバイスは、例えば、流路となる溝部を有する上下又は左右の2つの基板を接合することによって作成することができ、流路は両基板の接合面に設けられた溝部が合わさることで形成される。ここで、接合される上下基板又は左右基板の材質は、同一のものでも良いが、異なる材質のものを自由に組み合わせてもよい。
また、後述する温度制御機構(温度感受性液−液セパレーター機構)を設ける場合には、基板の接合に際しては、テフロン(登録商標)製等の断熱シートを間に挟み込むこともできる。
【0023】
基板の材質としては、例えばステンレス、ハステロイ、チタン、アルミニウム、真鍮等の金属;テフロン(登録商標)、ダイフロン、PEEK等の合成樹脂、硼珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、石英ガラス等などのガラスを用いることができるが、熱伝導率が高く、耐久性、対薬品性に優れる点から金属を用いるのが好ましく、液体クロマトグラフへ応用されている点からステンレスを用いるのがより好ましい。
【0024】
図3に、機能性粒子として疎水性微細粒子を用いる場合のマイクロ流路デバイスの基本的な流路構成図を示した。以下これを例に挙げて説明する。
1は、液体クロマトグラフからの試料成分を含む移動相溶媒を導入するための液体導入孔であり、リン酸塩などの不揮発性塩を含む移動相溶媒が導入される。一方、2は、移動相溶媒に含まれる不揮発性塩を吸着する機能性粒子を分散させた溶液を導入するための液体導入孔である。
【0025】
液体導入孔1及び2からの流路はY字型流路とされ、Y字型の混合部3で両液体が混合され、移動相中の不揮発性塩が機能性粒子に吸着される。尚、不揮発性塩の機能性粒子への吸着は、マイクロ流路へ導入する前段階に、移動相溶媒と機能性粒子分散溶液とを均一に混合可能な高混合性ミキサー等を設置し、予め両液体を混合した後に流路内へ導入することでもよい(図7、図10)。
【0026】
4は、シクロヘキサン等の無極性溶媒を導入するための液体導入孔である。4から導入された無極性溶媒は、Y字型の混合部5において前記混合部3で混合された液体と合流し、液-液分離部において2層流が形成される。
ここで用いられる無極性溶媒は、前記移動相溶媒と2層流を形成可能な溶媒であればよく、シクロヘキサンの他、例えばヘキサン、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン等を用いることができる。
【0027】
液-液分離部の流路内面には、液-液界面を安定して分離させるためのエッジを適宜設けることができる。例えば、上流から下流に向かって(6から8)少しずつ長さを増す構造のエッジ(7a、8a)を設けることができる(図4)。斯かる構造により十分な液−液接触時間と安定した液−液分離の両立が可能となる。
【0028】
また、液−液分離部においては、2相層流の実現を容易にするために、特願2009−19950号に記載の、流路内が流れ方向に直交する流路断面方向に異なる温度分布を形成するような温度制御機構(温度感受性液−液セパレーター機構)を設けることができる(図5)。
当該温度分布は、例えば、層流を流れ方向に対して上下に形成する場合には流路の上部と下部に、層流を流れ方向に対して左右に形成する場合には流路の左部と右部に形成され、上部下部又は左部右部をそれぞれ高温側(例えば、30〜50℃)と低温側(例えば、10〜30℃)に分けることが挙げられる。
斯かる高温側と低温側の温度差は、用いる液体の種類、組み合わせによっても異なるが、10℃以上であるのが好ましく、10〜25℃がより好ましく、15〜25℃であるのがより好ましい。
【0029】
温度制御は、例えば高温側に加温媒体、低温側に冷却媒体を設けることによって行われ、具体的には、層流を流路断面の上下方向に形成する場合には上下の基盤、層流を当該流路断面の左右方向に形成する場合には左右の基盤のそれぞれに加温媒体、冷却媒体を設ければよい。加温媒体としては、ロッドヒーター、シートヒーター、ペルチェモジュール等が挙げられる。
また、冷却媒体としては、冷媒導入装置、ペルチェモジュール等が挙げられる。
斯かる温度制御媒体の設置部位は、その機能に応じて基板の内部又は表面の何れでもよく、また複数設置してもよい。例えば、流路の流れ方向に対して直列に2箇所温度制御媒体を配置して、下流側のみ制御あるいは両方制御という切り替えを行うことも可能であり、このような制御を行うことにより広範な液体導入量に対して対応が可能となる。また、導入する液体の流速に応じて加温・冷却を行うことにより、所望の流速範囲、例えば、1〜200μL/minで液−液分離を行うことが可能となる。
【0030】
尚、上記温度分布が外気温の影響を受け難いように、デバイス全体は断熱材で覆うのが好ましい。
【0031】
液−液分離された各層は、流路の下流の分離・回収部により、不揮発性塩が除去された試料成分を含む移動相溶媒が分離され、検出・分析部へ導入される。
各層の分離は、層流を流れ方向に対して上下に形成する場合には流路を上下に分岐させ、層流を流れ方向に対して左右に形成する場合には左右に分岐させればよい。
【0032】
機能性粒子として、疎水性微細粒子を用いる場合は、不揮発性塩を吸着した粒子は表面疎水性のため無極性溶媒層へ移動することから、不揮発性塩が除去された試料成分を含む移動相溶媒が検出・分析部へ導入される。
【0033】
また、機能性粒子として磁性体含有粒子を用いる場合は、分離・回収部の手前に、可動式磁石18を流路近傍に配置し、磁性体含有粒子を流路内において無極性溶媒側へ引き付けておき、その後、下流のY字型分岐点で無極性溶媒層と移動相溶媒が分離され、不揮発性塩が除去された試料成分を含む移動相溶媒が検出・分析部へ導入される(図8〜10)。
可動式磁石18は、ドライブシャフト(18a)とベルト状磁石(18b)から構成され、流路に沿って、流路の上流から下流に向かって駆動するものである。従って、磁性体含有粒子も当該磁石の動きに合わせて上流から下流へと流路壁面に沿って移動する。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0035】
実施例1
図6に、機能性粒子として疎水性微細粒子を用いる場合であって、温度感受性液−液セパレーター機構を設けた脱塩インターフェイスを示す。
試料成分及びリン酸塩などの不揮発性塩を含む移動相溶媒は、液体導入孔1に導入される。一方、不揮発性塩を吸着するための疎水性微細粒子は、水などの溶媒に分散させて、液体導入孔2から導入される。両者はY字型の混合部3で混合され、不揮発性塩は疎水性微細粒子に吸着される。更に下流にシクロヘキサンなどの無極性溶媒を導入するための液体導入孔4が設けられ、当該液体導入孔4から無極性溶媒が導入され、Y字型の混合物5で移動相溶媒と合流される。14には図5で示した温度感受性液−液セパレーター機構が設けられている。すなわち、流路の上側ブロック13aの表面にシートヒーターを設置して高温とし、下側ブロック13bの下側にペルチェクーラーを設置して低温とし、両者の温度差を10℃以上に制御されている。これにより、2層流が容易に形成される。更に、下流の流路内には6から8に向かって少しずつ長さを増すエッジ(7a、8a)が設けられ(図4参照)、液−液界面を安定する。
不揮発性塩を吸着した疎水性微細粒子は、その表面疎水性のため無極性溶媒層へ移動し、下流のY字型分岐点で無極性溶媒層が移動相溶媒層から分離され、不揮発性塩が除去された試料成分を含む移動相溶媒層が検出・分析部へ導入される。
【0036】
実施例3
図7に、機能性粒子として疎水性微細粒子を用いる場合であって、外部に高混合効率のミキサーを設置した脱塩インターフェイスデバイスの構成を示す。
試料成分及びリン酸塩などの不揮発性塩を含む移動相溶媒は、ミキサー部の液体導入孔15に導入される。一方、不揮発性塩を吸着するための疎水性微細粒子は、水などの溶媒に分散させて、ミキサー部の液体導入孔16から導入される。両者はミキサー内で混合され、不揮発性塩を吸着した疎水性微細粒子を含む混合液はミキサーの出口から排出され、インターフェイスデバイスの液体導入孔17に導入される。不揮発性塩を吸着するための疎水性微細粒子を分散させた水系溶媒が、再度デバイスの液体導入孔2から導入される。両者がY字型の混合部3で再混合され、残存しているリン酸塩が疎水性微細粒子に吸着される。
シクロヘキサンなどの無極性溶媒を液体導入孔4から導入し、Y字型の混合部7で上流からの液体と合流される。混合部5より下流の流路内には6,7,8の地点で液-液界面を分離させるためのエッジ(6から8に向かって少しずつ長さを増す)が設けられており(図4参照)、2層流が形成される。不揮発性塩を吸着した疎水性微細粒子は、その表面疎水性のため無極性溶媒層へ移動する。流路下流のY字型分岐点で無極性溶媒層が移動相溶媒層から分離され、不揮発性塩が除去された試料成分を含む移動相溶媒層が検出・分析部へ導入される。
【0037】
実施例4
図8に、機能性粒子として磁性体含有粒子を用いる場合の脱塩インターフェイスデバイスの構成を示す。
試料成分及びリン酸塩などの不揮発性塩を含む移動相溶媒は、液体導入孔1に導入される。一方、不揮発性塩を吸着するための磁性体含有粒子は、水などの溶媒に分散させて、液体導入孔2から導入される。更に下流にシクロヘキサンなどの無極性溶媒を導入するための液体導入孔4が設けられ、当該液体導入孔4から無極性溶媒が導入され、Y字型の混合物5で移動相溶媒と合流される。混合部5より下流の流路内には液-液界面を分離させるための、6から8に向かって少しずつ長さを増すエッジが設けられており(図4参照)、2層流が形成される。
流路の下流には、ドライブシャフト(18a)とベルト状磁石(18b)から構成される可動式磁石18が流路近傍に配置されている。不揮発性塩を吸着した磁性体含有粒子は、磁石が配置されている付近の流路内において、磁力によって引き付けられ移動相溶媒から無極性溶媒層へ移動、下流のY字分岐点で無極性溶媒層と移動相溶媒層に分離され、不揮発性塩が除去された試料成分を含む移動相溶媒層が検出・分析部へ導入される。尚、エッジ構造が可動式磁石の先端位置よりも下流となるように、可動式磁石を配置することにより、磁性体含有粒子の移相の妨害を防ぐことができる。
【0038】
図9に、機能性粒子として磁性体含有粒子を用いる場合(磁性体含有粒子を無極性溶媒に分散させた例)であって、実施例1と同様に温度感受性液−液セパレーター機構を設けた脱塩インターフェイスデバイスの構成例を、また、図10に、機能性粒子として磁性体含有粒子を用いる場合であって、実施例2と同様に外部に高混合効率のミキサーを設置した脱塩インターフェイスデバイスの構成例を示した。
【符号の説明】
【0039】
a ポンプ
b インジェクタ
c カラム
d 切り替えバルブ
e トラップカラム
f ポンプ
g カラム
1 液体(移動相溶媒)導入孔
2 液体(機能性粒子)導入孔
4 液体(無極性溶媒)導入孔
3、5 混合部
6〜8エッジ形成部位(7a及び8a エッジ)
9 流路
10 断熱シート
11 シートヒーター
12 ペルチェクーラー
13a 上側ブロック
13b 下側ブロック
14 温度感受性液−液セパレーター機構
15 液体(移動相溶媒)導入孔
16 液体(機能性粒子)導入孔
17 液体(移動相溶媒−機能性粒子)導入孔
18 可動式磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ部、脱塩部及び検出・分析部を少なくとも具備する液体クロマトグラフ分析装置を用いて、不揮発性塩を含む移動相溶媒により分析試料を溶出し、次いで検出を行う液体クロマトグラフ分析法において、溶出された分析試料を含む移動相溶媒に不揮発性塩吸着能を有する機能性粒子を接触させて、移動相溶媒から不揮発性塩を分離することによって脱塩処理し、次いで分析試料を検出することを特徴とする液体クロマトグラフ分析法。
【請求項2】
前記脱塩処理を、液体クロマトグラフ部と検出・分析部の間に配置され、液体導入部、多相層流を実現するための液-液分離部及び各層を分離・回収するための分離・回収部を具備するマイクロ流路デバイスによって行う請求項1記載の液体クロマトグラフ分析法。
【請求項3】
機能性粒子が磁性体含有粒子である請求項1又は2記載の液体クロマトグラフ分析法。
【請求項4】
分析試料の検出が、質量分析である請求項1〜3のいずれか1項記載の液体クロマトグラフ分析法。
【請求項5】
液体クロマトグラフ部、脱塩部及び検出・分析部を少なくとも具備する液体クロマトグラフ分析装置において、脱塩部が液体クロマトグラフ部と検出・分析部の間に配置され、不揮発性塩吸着能を有する機能性粒子を用いて移動相溶媒から不揮発性塩を分離する手段を備えてなることを特徴とする液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項6】
移動相溶媒から不揮発性塩を分離する手段が、液体導入部、多相層流を実現するための液-液分離部及び各層を分離・回収するための分離・回収部を具備するマイクロ流路デバイスである請求項5記載の液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項7】
検出・分析部の検出・分析手段が質量分析計である請求項5又は6記載の液体クロマトグラフ分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−175467(P2010−175467A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20339(P2009−20339)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】