説明

液体クロマトグラフ用検出器

【課題】
グラジエント溶離を行う液体クロマトグラフの送液装置による混合比の正確性を確認する。
【解決手段】
同一波長で一方は吸収ピークを有し、他方は吸収ピークを有さない2種類の溶液と、溶液を計量する計量手段と、計量した溶液を混合する混合手段とを用い、校正のために測定する最大濃度の溶液を調製する工程と、計量手段を用いて、一方の溶液を必要量計量し該混合手段に流入する工程と、該計量手段を用いて、他方の溶液を必要量計量し該混合手段で混合する工程と、混合した液を検出器のセル部分に導入して測定する工程と、測定した値と該吸光度検出器の出力値を対応付けて記録し、吸光度/濃度の関係式を得る工程と、グラジエント装置の混合比の設定値に基づいて送液した溶液の吸光度から導出される混合比と、前記関係式から導出される混合比とを比較して校正する工程とからなる校正方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ用検出器を用いたグラジエントの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラジエント溶離は、液体クロマトグラフにおける移動相液体を2種以上用い、その混合割合を時間と共に変化させながら分析する手法である。図4は、2液の混合割合を横軸を時間軸として表したグラジエントプロファイルの一例である。この例では、移動相液体としてA、Bの2液を用い、分析開始時はA液90%、B液10%の混合比であるが、開始後時間Tが経過した後(cの時点)はB液の割合が次第に増加し、分析終期にはB液100%となるものである。このように2液の混合比を制御するには、各移動相液体の流路をそれぞれバルブを介して送液ポンプの吸入側で合流させ、これらのバルブを小刻みに開閉する開と閉との時間比率(開度)を制御することで所定の混合比を得る。以上は低圧グラジエントと呼ばれる方法であるが、この他に送液ポンプの吐出側で各移動相液体を混合する高圧グラジエントもあるが本質的な違いはない。
【0003】
グラジエントプロファイルの評価は、設定された混合比で送液がされているかを調べることで行われ、液体クロマトグラフ用の紫外可視吸光度検出器を用いて行われるのが慣行となっている。
【0004】
そのグラジエントプロファイルの評価を行うために用いられる紫外可視吸光度検出器には、少なくとも(1)波長の正確さ、(2)吸光度の正確さについての基準を満たす装置が用いられる。これらの精度を校正するための機構を備えた紫外可視吸光度検出器としては、特許文献1に記載されるように、光源から検出部(感光素子)までの光学系に、値付けされたフィルタを装備したようなものがある。
【特許文献1】特開2001−343283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、特許文献1に記されたような紫外可視吸光度検出器の校正では、光学系に実際の測定には直接関与しない光学フィルタが挿入されることになり、厳密には焦点がずれたり光量が減少したりすることとなり、また、装置に常備せず校正が必要な時に組み込むことも可能ではあるが、その都度煩雑な作業が必要であり、また、精密機械である検出器の筐体を頻繁に開け閉めするのは装置の性能に悪影響を与えることとなる。また、所望の波長領域で所望の吸光度のレベルを有するフィルタをすべて用意するのは現実的ではなく、代表的な波長量領域で適度な吸光度を示すものが使用される。
【0006】
そこで、フローセルに所望の吸収スペクトルを有する溶液を流入させ、校正する波長領域で吸光度を測定する方法が利用されている。使用する溶液の濃度とその濃度で出力される紫外可視吸光度検出器の値を規定しておき、その規定値を満たせば基準を満たすとしている。
【0007】
しかしながら、紫外可視吸光度検出器に用いられる感光素子の光の強度に対する応答は必ずしも直線的であるとは限らない。例えば、図3のように光の強度が強い(測定対象の濃度が低い)場合には直線に近いが、光の強度が弱い(測定対象の濃度が高い)場合には直線上からずれる傾向にあることが知られている。
【0008】
本発明は、吸光度が溶液の濃度に比例するLambert-Beer則を利用し、複数の濃度について吸光度をそれぞれ測定することで、グラジエント評価の際に正確な混合比を実現できるようにするための紫外可視吸光度検出器の校正方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明にかかるグラジエント評価方法は、複数の溶液を経時的に混合比が変化するように設定して送液するグラジエント装置の混合比を評価する方法であって、測定する溶液の濃度に対する紫外可視吸光度検出器の出力応答を用いるグラジエント評価方法において、同一波長で一方は吸収ピークを有し他方は吸収ピークを有さない2種類の溶液と、溶液を計量する計量手段と、計量した溶液を混合する混合手段とを用い、校正のために測定する前記吸収ピークを有する最大濃度の溶液を調製する工程と、計量手段を用いて、一方の溶液を必要量計量し該混合手段に流入する工程と、該計量手段を用いて、他方の溶液を必要量計量し該混合手段で混合する工程と、混合した液を吸光度検出器のセル部分に導入して測定する工程と、混合した液の混合比(濃度)と該吸光度検出器の出力値(吸光度)を対応付けて記録し、吸光度/濃度の関係式を得る工程と、グラジエント装置の混合比の設定値に基づいて送液した溶液の吸光度から導出される混合比と前記関係式より導出される混合比とを比較して校正を行う工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
各濃度における出力の特性が校正された紫外可視吸光度検出器を使用してグラジエント評価を行うので、複数の溶液の混合比について設定した混合比と実際の混合比を正確に比較することができるので、グラジエントプロファイルの正確性を保証することができる。最大の濃度の溶液を同じ計量手段を用いて希釈して調製するので、各濃度での溶液の誤差は、計量手段の誤差程度に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る補正方法を図1に沿って説明する。
校正のために測定する吸収ピークを有する溶液の最大濃度の溶液を調製する(S1)。この溶液を紫外可視吸光度検出器で測定すると、出力値は校正作業中で最大の値を示す。
【0012】
計量手段に一方の溶液を必要量計量し混合手段に流入させ(S2)、計量手段に他方の溶液を必要量計量し混合手段に流入させる(S3)。S2〜S3の作業を適宜回数行い、目的とする濃度の溶液を調製する。図2の例では送液ポンプ4により溶液の吸引を行う。溶液A,Bのいずれから吸引を行うかは、制御部10で設定した混合比で混合されるようにポンプ動作に同期して電磁弁3a,3bの開閉を行うことで決定する。単位時間当たりで3a、3bが「開」となっている時間の比で、溶液A,Bは混合される。吸引された溶液A,Bは混合器Mで混合され、一様な濃度になる。なお、1aは溶液Aを収容する移動相液体容器、1bは移動相Bを収容する移動相液体容器である。
【0013】
混合した液を紫外可視吸光度検出器7のセル部分に導入して吸光度値を測定し(S4)、測定した吸光度値と混合比(濃度)を対応付けて記録し、各濃度の溶液における吸光度値を適宜測定して、吸光度/濃度の関係式を得る。ポンプ4と検出器7の間の流路には、通常は試料注入部やカラムが設置されるが、図2の例では設置していない。また、8は廃液だめである。
【0014】
そして、グラジエント装置の混合比の設定値に基づいて送液した溶液の吸光度値から導出される混合比と、吸光度/濃度の関係式から導出される混合比とを比較して、グラジエント装置で送液する混合比を校正する(S6)。
【実施例】
【0015】
吸光度補正に用いられる試薬として、カフェインのメタノール溶液がある。このカフェインの溶液を用いた場合を例に説明する。
【0016】
例えば、(1)11、(2)16.5、(3)22、(4)27.5mg/Lの溶液を、紫外可視吸光度検出器を用い、272nmにおける吸光度を測定した場合、(1)0.505、(2)0.7753、(3)0.978、(4)1.217という出力がされる。Lambert-Beerの法則に従えば、(1)の溶液の吸光度は、(3)の溶液の吸光度の二分の一、すなわち、0.978/2=0.489、となるはずであるが、実際には(1)の溶液の吸光度は0.505であり、誤差を生じている。
【0017】
これら4つの溶液をそれぞれ個別に調製した場合は、この誤差は溶液の調製作業に起因するものか、上述のような検出器の感光素子の応答特性に起因するかは判別することはできない。しかし、最大濃度の溶液、ここでは(4)の溶液を適宜希釈して低い濃度の溶液を調製した場合は、希釈の際の計量手段(例えば、計量ポンプ、分注器、容器)の計量精度の範囲程度に誤差は収まり、それ以外に大きい誤差は検出器の感光素子応答特性によるものであると推定することができる。
【0018】
実際の濃度とその濃度における検出器の出力値(吸光度値)、言い換えれば、紫外可視吸光度検出器の感光素子に入射する光の強度とその光の強度に対する感光素子の出力値を記録することで、紫外可視吸光度検出器の濃度に対する応答特性を補償することができる。
【0019】
この応答特性が補償された紫外可視吸光度検出器を用いて、グラジエントプロファイルの評価を行う。各時点での混合比から計算される吸光度と実際の吸光度出力値を比較して、混合比率の設定値どおりに送液され混合されているか判断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
グラジエント溶離を行う液体クロマトグラフ装置による分析結果の正確性を検証するために、装置自体の性能を検証する行為に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る吸光度補正を行う順序を示すフロー図の一例である。
【図2】液体クロマトグラフにおけるグラジエント溶離のシステム構成の一例を示す図である。
【図3】溶液濃度に対する応答の紫外可視吸光度検出器の強度を模式的に示した図である。
【図4】グラジエントプロファイルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1a、1b・・・移動相液体容器
2・・・・・・・脱気装置
3a、3b・・・電磁弁
4・・・・・・・送液ポンプ
5・・・・・・・試料注入部
6・・・・・・・カラム
7・・・・・・・検出器
8・・・・・・・廃液溜め
10・・・・・・制御部
A,B・・・・・吸光度校正用溶液
M・・・・・・・混合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶液を経時的に混合比が変化するように設定して送液するグラジエント装置の混合比を評価する方法であって、
測定する溶液の濃度に対する吸光度検出器の出力応答を用いるグラジエント評価方法において、
同一波長で一方は吸収ピークを有し、他方は吸収ピークを有さない2種類の溶液と、溶液を計量する計量手段と、計量した溶液を混合する混合手段とを用い、
a)校正のために測定する前記吸収ピークを有する最大濃度の溶液を調製する工程と、
b)該計量手段を用いて、一方の溶液を必要量計量し該混合手段に流入する工程と、
c)該計量手段を用いて、他方の溶液を必要量計量し該混合手段で混合する工程と、
d)混合した液を吸光度検出器のセル部分に導入して測定する工程と、
e)混合した液の混合比(濃度)と該吸光度検出器の出力値(吸光度)を対応付けて記録し、吸光度/濃度の関係式を得る工程と、
f)グラジエント装置の混合比の設定値に基づいて送液した溶液の吸光度から導出される混合比と該関係式より導出される混合比とを比較して校正を行う工程と
からなることを特徴とするグラジエント評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−234524(P2006−234524A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48104(P2005−48104)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】