説明

液体クロマトグラフ質量分析装置

【課題】水・有機溶媒混合系の溶離液を使用し、この溶離液の組成を時間経過と共に変化させる液体クロマトグラフ質量分析において、良好な分離を確保しつつ、噴霧イオン化の条件を最適化することができ、噴霧イオン化を安定させ、高精度の分析が可能な液体クロマトグラフ質量分析装置を実現する。
【解決手段】液体クロマトグラフ質量分析装置に、グラジエントポンプ1から送液される溶離液と逆の混合比の添加液を送液する逆グラジエントポンプ6を設置する。カラム3とエミッタ4との間に設けられた添加液ジョイント7において、カラム3から溶出した試料成分を含む溶離液に逆グラジエントポンプ6からの添加液を混合し、混合液を一定の混合比に維持する。上記混合液は一定の混合比なので、イオン化効率をほぼ一定とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカラム分離用の溶離液組成が変化する液体クロマトグラフ質量分析装置に係わり、特に電界噴霧方式イオン化法により、安定したイオン化を行ない、高精度の分析を行なう液体クロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ質量分析装置は、バイオ、医薬、環境、材料等幅広い分野で、混合物の分離、定性、定量分析に使用されている。多くの場合、測定対象試料は、複雑な混合物であり、前段の液体クロマトグラムで高い分離能を持つことが要求される。
【0003】
このため、分離カラムに流す溶離液の組成(複数の溶液の混合比率)を時間とともに変化させる手法(グラジェント法)が多く用いられる。溶出した試料成分を含む溶液は、大気圧下での高電界中噴霧によりイオン化が行なわれ、質量分析装置に導かれて、質量分析され質量スペクトルが測定される。
【0004】
ここで、イオン成分を高精度に分析するための技術が特許文献1に記載されている。この特許文献1記載の技術は、陽イオンと陰イオンの両イオン種を同じ分析装置で分析するときに、陽イオン成分のピークと陰イオン成分のピークの重なりをなくし、両イオンを高精度で分析するために、イオン成分の溶出時間(リテンションタイム)を変更する技術である。
【0005】
【特許文献1】特公平7−6960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、溶出成分をイオン化する噴霧イオン化部では、溶離液の組成が変化する場合、一定のイオン化効率を維持するためには、イオン化部において、電界強度、ノズル、対向電極位置、アシストガスの温度流量等の条件も変化させなければならない。特に、溶離液に水を用いる場合にはイオン化が不安定になる。
【0007】
この場合、常に一定の効率を維持するために、電界強度等を溶離液の組成に合わせて変化させる構成とすることも考えられるが、構成が非常に複雑となり、事実上困難であった。
【0008】
このため、溶離液の組成を時間経過と共に変化させるグラジエント法を使用する場合、溶離液の組成の変化に関係なくイオン化効率を一定に維持することが困難であった。
【0009】
本発明の目的は、水・有機溶媒混合系の溶離液を使用し、この溶離液の組成を時間とともに変化させる液体クロマトグラフ質量分析において、良好な分離を確保しつつ、噴霧イオン化の条件を最適化することができ、噴霧イオン化を安定させ、高精度の分析が可能な液体クロマトグラフ質量分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は次のように構成される。
(1)組成比が時間経過と共に変化する溶離液を送液する第1のポンプと、この第1のポンプから送液された溶離液に試料を導入する試料導入部と、上記試料が導入された溶離液が供給される分離カラムと、電界噴霧方式イオン化法により、溶液をイオン化するイオン化部と、イオン化部によりイオン化されたイオンを質量分析する質量分析部とを有する液体クロマトグラフ質量分析装置において、上記第1のポンプから送液され、上記分離カラムから溶出した溶離液と混合され、この混合液の組成比を時間経過に関係なくほぼ一定とする添加液を送液する第2のポンプを備えるものとする。
【0011】
これにより、水・有機溶離混合系の溶離液を試用する液体クロマトグラフ質量分析において、グラジェント法を用いた場合にも、印加電圧、噴霧ノズル位置、アシストガス流量・温度等を一定に保ったまま、噴霧イオン化条件を最適化し、噴霧イオン化を安定させ、高精度の分析を行うことができる。
【0012】
(2)上記(1)において、上記第1のポンプと、上記第2のポンプとを制御し、上記溶離液と、上記添加液の組成比を制御する制御部を更に備え、前記溶離液は有機溶媒を有し、制御部は、上記混合液の有機溶媒濃度が30%以上になるように制御するものとする。
【0013】
(3)上記(2)において、上記制御部は、上記溶離液と、上記添加液の流量を制御し、上記混合液の流量を一定に保つものとする。
【0014】
(4)上記(2)(3)のうちのいずれかにおいて、上記制御部は、上記添加液の組成変化と上記溶離液の組成変化とが逆となるように制御し、上記混合液の組成比を一定に保つものとする。
【0015】
(5)上記(4)において、上記制御部は、上記第1のポンプの溶離液と第2のポンプの添加液の送液タイミングに応じて、添加液の組成比変化を制御するものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水・有機溶離混合系の溶離液を試用する液体クロマトグラフ質量分析において、グラジェント法を用いた場合にも、印加電圧、噴霧ノズル位置、アシストガス流量・温度等を一定に保ったまま、噴霧イオン化条件を最適化し、噴霧イオン化を安定させ、高精度の分析を行うことができる液体クロマトグラフ質量分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図5を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態による液体クロマトグラフ質量分析装置の概略構成図である。
図1において、液体クロマトグラフ質量分析装置は、溶離液A,Bを混合し送液するグラジエントポンプ1と、グラジエントポンプ1から送液された溶離液に試料を導入する試料注入部2と、分離カラム3と、試料を噴霧イオン化するエミッタ4と、生成イオンを質量分析する質量分析部5とを備える。
【0018】
さらに、液体クロマトグラフ質量分析装置は、添加液を送液する逆グラジェントポンプ6と、この逆グラジェントポンプ6により送液された添加液をカラム3とエミッタ4との間でミキシングする添加液ジョイント7と、グラジエントポンプ1の溶液混合比及び逆グラジエントポンプ6の添加液の混合比を制御する制御部(図示せず)とを備えている。
【0019】
グラジエントポンプ1は、試料注入部2を介して、カラム3と接続され、性質の異なる溶離液A(例えば水)と溶離液B(例えばアセトニトリル)を時間の経過に従い定められた混合比で一定流量を送液する。
【0020】
試料注入部2はグラジエントポンプ1から送液された溶離液に、試料を導入し、導入された試料は、カラム3内部においてその成分が分離される。
【0021】
エミッタ4はカラム3と接続され、カラム3内部で分離された試料成分は溶離液と共に、噴霧イオン用エミッタ4に送液される。
【0022】
エミッタ4は質量分析部5と接続され、エミッタ4と質量分析部5との間には1〜3KVの電界が印加されている。エミッタ4は、この電界の作用により溶離液とともに送液された試料成分を1μm以下の電荷を持った微細な液滴の霧にし、蒸発と電荷の作用でイオンを空間に放出(イオンエバポレーション)する。尚、エミッタ4には噴霧をアシストするガスが用いられることもある。
【0023】
生成されたイオンは電界に導かれて質量分析部5に導入され、質量が分析される。質量分析部5で測定された分析結果は、質量分析部5に設けられた検出器で検出され、クロマトグラム図として表示される。
【0024】
ここで、逆グラジェントポンプ6は、グラジェントポンプ1で生成される溶離液A,Bの混合比と逆の混合比の混合溶液を作成し、作成した溶液はカラム3とエミッタ4の間に設けられた添加液ジョイント7を介して、カラム3から溶出された試料成分を含む溶離液に添加される。
【0025】
図2はグラジエントポンプ1から送液された溶離液の組成変化を示す図である。
図2において、横軸は時間軸を示し、縦軸は溶離液の濃度を示し、縦軸は上に行くほど溶離液の濃度が濃くなる事を示している。
【0026】
グラジエントポンプ1は、図1に示すように時間と共に溶離液の濃度を濃い状態にさせる組成変化の制御を行っている。
【0027】
図3はグラジエントポンプ1から送液された溶離液の組成が変化する状態でイオン化を行った場合に得られるクロマトグラム図である。
図3において、横軸は時間軸を示し、縦軸は質量分析部5に設けられた検出器で検出された信号強度を示している。
【0028】
図3に示す図は、逆グラジエントポンプ6からの添加液を混合せずに、グラジエントポンプ1から送液された溶離液により分析を行った測定結果を示したものであり、一般的な液体クロマトグラフ質量分析装置の測定結果と同様な条件で分析が行われたものである。一般的に、液体クロマトグラフ質量分析装置において、エミッタ4が試料成分を含む溶離液を噴霧イオン化する場合の霧のでき方は、溶離液の濃度等の溶離液の性質により変化する。
【0029】
図3に示す分析結果は、図2に示す水系から有機溶媒系へのリッチな状態に組成が変化する溶離液によるものなので、噴霧イオン化の効率がこの溶離液の濃度変化により変化するため、これにより図3に示すように不安定なものとなっている。
【0030】
図4はグラジエントポンプ1から送液された溶離液と、逆グラジエントポンプ6から送液された添加液と、上記の溶離液に上記の添加液を混合した噴霧液の組成変化を示す図である。
図4において、横軸は時間を示し、縦軸は溶離液の濃度を示し、縦軸は上に行くほど溶離液がリッチであることを示している。また、実線は溶離液の濃度を示し、点線は添加液の濃度を示し、2点鎖線は溶離液に添加液を混合しエミッタ4から噴霧する噴霧液の濃度を示している。
【0031】
図4に示すように、グラジエントポンプ1から送液される溶離液に、溶離液とは逆の混合比に制御された逆グラジエントポンプ6から送液される添加液を混合し、液を同一の流量に制御することにより、混合後の噴霧液は常に均一の組成としてエミッタ4に供給される。
【0032】
通常、エミッタ4と質量分析部5との間の電界や温度等イオン化にかかわるパラメータは分析途中に変化させないため、エミッタ4に供給する噴霧液を一定の組成に保つことにより、イオン化条件を常に一定に保つことができる。
【0033】
図5はグラジエントポンプ1から送液された溶離液に逆グラジエントポンプ6から送液された添加液を加えた混合液により分析を行った場合のクロマトグラム図である。
【0034】
図5において、横軸は時間軸を示し、縦軸は質量分析部5に設けられた検出器で検出された信号強度を示している。
【0035】
図5に示す図は、上記に示したように、噴霧液の組成を均一に制御し、その他のエミッタ4と質量分析部5との間の電界や温度等イオン化にかかわる条件を一定にしているため、図3に示すクロマトグラム図と比較して安定した測定結果を得ることでき、高精度の分析を実現することができる。
【0036】
以上のように構成した本発明の一実施形態によれば、水・有機溶媒混合系の溶離液を使用する液体クロマトグラフ質量分析装置において、カラム3の下流に、溶離液の混合比と逆の混合比に制御された添加液を加えることにより、噴霧イオン化の条件を最適化することができ、噴霧イオン化を安定させ、高精度の分析を実現することができる。
【0037】
尚、噴霧イオン化を行う場合には、経験上溶離液の濃度が30%以上であれば、効率よく噴霧イオン化を実施することができるため、溶離液に添加液を加えた混合液の濃度を30%以上に維持することにより、一層安定した測定を行うことができる。
【0038】
また、1回の測定時間は通常1時間程度であるため、グラジエントポンプ1と逆グラジエントポンプ6の送液タイミングは同時に行えば、タイミングのずれは、1分程度となり、混合比のずれは数%程度にしかならないため、送液タイミングのずれはほとんど考慮する必要はない。
【0039】
しかしながら、溶離液がグラジエントポンプ1から送液され、カラム3を通過し、添加液ジョイント7に到達する時間と、添加液が逆グラジエントポンプ6から送液され、添加液ジョイント7に到達する時間は、厳密には異なるため、この到達時間のズレを考慮し、逆グラジエントポンプ6の動作開始時間を遅延させたり、添加液の混合比を制御部により制御することにより、一層高精度な分析を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態による液体クロマトグラフ質量分析装置の概略構成図である。
【図2】グラジエントポンプから送液された溶離液の組成変化を示す図である。
【図3】グラジエントポンプから送液された溶離液により分析を行った場合のクロマトグラム図である。
【図4】グラジエントポンプから送液された溶離液と、逆グラジエントポンプから送液された添加液と、上記溶離液に上記添加液を混合した噴霧液の組成変化を示す図である。
【図5】グラジエントポンプから送液された溶離液に、逆グラジエントポンプから送液された添加液を加えた混合液により分析を行った場合のクロマトグラム図である。
【符号の説明】
【0041】
1 グラジェントポンプ
2 試料注入部
3 分離カラム
4 エミッタ
5 質量分析部
6 逆グラジェントポンプ
7 添加液ジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成比が時間経過と共に変化する溶離液を送液する第1のポンプと、この第1のポンプから送液された溶離液に試料を導入する試料導入部と、上記試料が導入された溶離液が供給される分離カラムと、電界噴霧方式イオン化法により、溶液をイオン化するイオン化部と、イオン化部によりイオン化されたイオンを質量分析する質量分析部とを有する液体クロマトグラフ質量分析装置において、
上記第1のポンプから送液され、上記分離カラムから溶出した溶離液と混合され、この混合液の組成比を時間経過に関係なくほぼ一定とする添加液を送液する第2のポンプを備えることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体クロマトグラフ質量分析装置において、
上記第1のポンプと、上記第2のポンプとを制御し、上記溶離液と、上記添加液の組成比を制御する制御部を更に備え、
上記溶離液は有機溶媒を有し、制御部は、上記混合液の有機溶媒濃度が30%以上になるように制御することを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の液体クロマトグラフ質量分析装置において、
上記制御部は、上記溶離液と、上記添加液の流量を制御し、上記混合液の流量を一定に保つことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項4】
請求項2、3のうちのいずれか1項記載の液体クロマトグラフ質量分析装置において、
上記制御部は、上記添加液の組成変化と上記溶離液の組成変化とが逆となるように制御し、上記混合液の組成比を一定に保つことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項5】
請求項4記載の液体クロマトグラフ質量分析装置において、
上記制御部は、上記第1のポンプの溶離液と第2のポンプの添加液の送液タイミングに応じて、添加液の組成比変化を制御することを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−292542(P2006−292542A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113487(P2005−113487)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】