説明

液体クロマトグラフ質量分析装置

【課題】
本願発明の課題は、高速液体クロマトグラフ質量分析装置のイオン化部におけるコロナニードルが汚染された場合に、コロナニードルを補修する適切なタイミングを判断しユーザに通知することを可能にすると共に、ユーザが安全に補修作業を行うことを可能にする。
【解決手段】
補修タイミング判断部6は、クロマトグラム作成部5で作成されたクロマトグラムの形状に基づいて、コロナニードル8の汚染状態を判断する。補修タイミング判断部6が、コロナニードル8の補修が必要と判断した場合、その旨を通知部7と安全機構42に伝える。通知部7は、ユーザにコロナニードル8の補修が必要になった旨を伝える。安全機構42は、高圧電源41を制御し、コロナニードル8への印加電圧を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ質量分析装置(以下「LC‐MS」と称す)に関し、更に詳しくは、前記装置に用いるコロナニードルの補修タイミングの判断に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置(MS)と液体クロマトグラフ(LC)を組み合わせたLC‐MSは、化合物の分析に利用可能な装置のうち最も強力な装置の1つであり、化学、環境、薬学及び生物学の研究において広く利用されている。LC‐MSでは、液体クロマトグラフ部で分離された成分を大気圧下でイオン化して質量分析部に導入する方法として、エレクトロスプレーイオン化(ESI )法や大気圧化学イオン化(APCI)法、ESI/APCI兼用法等があり、測定目的に適したイオン源に切替えることを行っている。
【0003】
一般に、APCI法は低極性から中極性、ESI法は中極性から高極性化合物のイオン化に有効である。また、一つの試料中にESI法に適した成分とAPCI法に適した成分が混合している場合や、未知の試料を分析する際にESI法又はAPCI法のうちどちらのイオン化法が適しているか分からない場合には、ESI/APCI兼用法が有効である。以上のように、LC‐MSにおいては、測定目的物の試料によって、適したイオン化法を使い分ける。
【0004】
ESI法では、ESI用スプレーを用いて、液体試料を細いノズルの先端に送り、そのノズルの先端に高電圧を印加する。これによりノズル先端には強い電界が形成され、この強い電界とネブライザガスの作用により液体試料が帯電液滴として噴霧され、更に、液滴内でのイオンのクーロン反発力により液滴の分裂が進行してイオン化が行われる。一方、APCI法では、APCI用スプレーを用いて、ネブライザ(霧化器)においてガス流により強制噴霧した液体試料をヒータで加熱することにより発生させた試料分子に、コロナニードルからのコロナ放電により生成したバッファイオンにより試料の化学イオン化を行う。そして、ESI/APCI兼用法は、ESI用スプレーでESI法によるイオン化を行うと共に、当該スプレーの先端に設けられたコロナニードルからのコロナ放電によってAPCI法によるイオン化を行う。
【0005】
以上から、LC‐MSのイオン化モードが、ESI法を用いたESIモードの場合はESI用スプレーを、APCI法を用いたAPCIモードの場合はAPCI用スプレーに加えてコロナニードルを、ESI/APCI兼用法を用いたESI/APCI兼用モードの場合はESI用スプレーとコロナニードルを使用することになる。
【0006】
液体クロマトグラフ質量分析装置におけるイオン化の際に、コロナニードルを用いるAPCIモード及びESI/APCI兼用モードで、イオン化をした場合、コロナニードルが汚染されることがある。コロナニードルが汚染されると、コロナニードルに流れる電流が増大又は減少し、試料のイオン化が不安定になるため、コロナニードルを補修する必要が生じる。コロナニードルが汚染されるのは、コロナニードルにポリマー等の付着物が堆積するからである。また、移動相やネブライザガスの種類などにより、付着物が発生し易い状況がある。例えば、ESI/APCI兼用モードにおいて、移動相にアセトニトリルを用い、ネブライザガスとして純度の高い窒素ガスを用いた場合、一定時間が経過すると、付着物が生じることが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、コロナニードルを補修するタイミングを判断することは難しく、コロナニードルの補修を必要以上に行ってしまうと時間のロスになり、適切なタイミングで必要最小限の回数行うことが望ましい。また、装置の使用者は、常にコロナニードルの補修が必要であることを念頭に置いて装置を使用するわけではないし、装置作動中は装置から離れて他の作業を行うこともあるため、分析中にコロナニードルが汚染され、不正確なデータがクロマトグラム等に現れていたとしても、分析中はこれに気付かず、実験終了後や実験データを整理する時点になって分析により得られた実験結果のデータから、データの誤りに気付くことが多い。一方、コロナニードルは高圧電源に接続されているため、補修作業時にコロナニードルに高電圧が印加された状態で触れてしまうと、感電のおそれがあり、危険である。そこで、本発明の目的は、コロナニードルを補修するタイミングを自動的に判断しユーザに通知することで適切なタイミングでユーザがコロナニードルの補修作業を行うことを可能にすると共に、補修作業時はコロナニードルへの印加電圧を低減させることによりユーザが安全にコロナニードルの補修作業を行うことを可能にする液体クロマトグラフ質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた発明は、液体クロマトグラフ部と質量分析部との間に、液体試料をイオン化するためのコロナニードルを備えた液体クロマトグラフ質量分析装置において、クロマトグラムの形状からコロナニードルを補修するタイミングを判断する補修タイミング判断部と、補修タイミングをユーザに通知する通知部を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置である。コロナニードルに付着物が堆積することにより、コロナニードルに突出部が発生し、これが原因となって、コロナニードルで放電が起こり、通常よりも大きな電流が流れ、付着物の堆積前に得られるクロマトグラムと比較して、クロマトグラムの強度が部分的に大きくなったり、又は逆に部分的に小さくなったりと、クロマトグラムの形状が不安定になる。そのため、クロマトグラムの形状を観察することにより、クロマトグラムの形状が不安定になった場合にコロナニードルに一定量の付着物が堆積したことを判断し、自動的にユーザに通知することで、ユーザは適切なタイミングでコロナニードルの補修作業を行うことができる。
【0009】
前記補修タイミング判断部が、クロマトグラムの形状からコロナニードルを補修するタイミングを判断する方法としては、ピーク部分以外のクロマトグラムの各時間に対する強度値の最大値と最小値の差が所定の閾値を超えた場合に、コロナニードルは汚染されていると判断することや、クロマトグラムのピーク部分の形状が、所定の閾値の範囲内において正規分布の形状であると判断した場合、コロナニードルは汚染していないと判断し、前記範囲外であり正規分布の形状でないと判断した場合、コロナニードルは汚染していると判断する等すればよい。
【0010】
また、前記課題を解決するためになされた他の発明は、液体クロマトグラフ部と質量分析部との間に、液体試料をイオン化するためのコロナニードルを備えた液体クロマトグラフ質量分析装置において、コロナニードルを流れる電流の電流値からコロナニードルを補修するタイミングを判断する補修タイミング判断部と、補修タイミングをユーザに通知する通知部を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置である。
【0011】
前記補修タイミング判断部が、コロナニードルを流れる電流の電流値からコロナニードルを補修するタイミングを判断する方法としては、特定の所定時間におけるコロナニードルを流れる電流値の最大値と最小値の差と、それ以前の所定時間におけるコロナニードルを流れる電流値の最大値と最小値の差の差分値の大きさが所定の閾値を越えた場合に、コロナニードルが汚染されていると判断する等をすればよい。
【0012】
さらに、前記課題を解決するためになされた他の発明は、前記補修タイミング判断部がコロナニードルを補修するタイミングと判断した場合、コロナニードルに印加する電圧を小さくするか又はゼロにする安全機構を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置である。ユーザにコロナニードルの補修タイミングである旨を通知した後、ユーザはコロナニードルの補修作業を行うが、コロナニードルには高圧電源が接続されているため、コロナニードルに高電圧が印加された状態でユーザがコロナニードルに触れてしまうと、感電のおそれがあり、非常に危険である。そのため、補修タイミングである旨を通知した後は、ユーザがコロナニードルの補修作業を行うことを考慮して、コロナニードルに印加する電圧を、感電しても危険のない程度の電圧まで小さくするか又はゼロにすることで、感電の危険性を防止する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コロナニードルを補修するタイミングを自動的に判断し、ユーザに通知することで、コロナニードルの補修回数を最小限に抑えることができるため、ユーザの負担を軽減させることができる。
【0014】
また、補修タイミングを通知すると共にコロナニードルに印加する電圧を自動で小さく又はゼロにすることにより、補修作業をするユーザが感電する危険性をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を備えたLC‐MSの概略図。
【図2】コロナニードルが汚染されていない状態のクロマトグラム。
【図3】コロナニードルが汚染された状態のクロマトグラム。
【図4】本発明を備えたLC‐MSの概略図。
【図5】コロナニードルが汚染されていない状態のコロナニードルを流れる電流の電流値を示すグラフ。
【図6】コロナニードルが汚染されている状態のコロナニードルを流れる電流の電流値を示すグラフ。
【図7】本発明を備えたLC‐MSの概略図。
【図8】本発明を適用するLC‐MSの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図8は本発明を適用するLC‐MSの構成図である。液体クロマトグラフ(LC)部1と質量分析部(MS)3との間には、LC部1のカラム14を通った試料を気化及びイオン化し、更に気化溶媒を除去してMS部3へと送り込むイオン化部2が設けられている。
【0017】
LC部1では、送液ポンプ12は溶媒槽11に貯留されている溶媒(移動相)を吸引して、一定流量でカラム14に流す。試料注入部13はその溶媒中に所定量の試料液を注入する。カラム14を通過する際に試料液中の各試料成分は分離され、カラム14出口から順次流出して試料流路15を通り、霧化室21へ向かう。一方、ネブライザガスは、ガスボンベ16に貯留されている所定のガスを流量調節器(又は圧力調整弁)17で所定流量に調節して供給される。噴射ガス流路18から流出したネブライザガスが、試料流路15から流出する液体試料を噴霧部22で噴霧する。
【0018】
ESIモードにおいては、噴霧部22にESIスプレーが用いられる。ESIモードでは、液体試料を細いノズルの先端に送り、そのノズルの先端に高電圧を印加する。これによりノズル先端には強い不平等電界が形成され、この強い電界とネブライザガスの作用により液体試料が帯電液滴として噴霧され、更に、液滴内でのイオンのクーロン反発力により液滴の分裂が進行してイオン化が行われる。
【0019】
一方、APCIモードでは、噴霧部22にAPCI用スプレーを用いて、ネブライザ(霧化器)においてガス流により強制噴霧した液体試料をヒータで加熱することにより発生させた試料分子に、コロナニードル8からのコロナ放電で生成したバッファイオンにより試料の化学イオン化を行う。
【0020】
そして、ESI/APCI兼用モードは、噴霧部22にESI用スプレーでESI法によるイオン化を行うと共に、当該スプレーの先端に設けられたコロナニードルからのコロナ放電によってAPCI法によるイオン化を行う。
【0021】
MS部3の分析室34内は、高真空状態に排気されており、霧化室21と分析室34との間に配設された2つの中間真空室32、33は、それぞれ小さな開口を有する隔壁により仕切られており、これにより、霧化室21から分析室34に向かって段階的に真空度が高くなっている。上述したように霧化室21内で発生した試料イオンは、差圧によって中間真空室32、33に引き込まれ、更に分析室34に引き込まれて、4本のロッド電極から成る四重極フィルタ35の中央の空間に送られる。四重極フィルタ35には交流電圧と直流電圧とが重畳された電圧が印加されており、この電圧に応じた特定のm/z(m:統一原子質量単位で割ったイオンの質量、z:電荷数の絶対値)を有するイオンのみが四重極フィルタ35を通り抜けてイオン検出器36に到達する。イオン検出器36では、到達したイオン数に応じた電流が取り出される。
【0022】
図1は、本発明を備えたLC‐MSの概略図である。LC部1で分離された試料が、イオン化部2でイオン化され、MS部3で質量分析が行われる。MS部3の検出器で検出された検出信号はデータ処理部4に送られ、データ処理部4では、クロマトグラム作成部5においてクロマトグラムの作成が行われ、他の部分でもマススペクトルの作成や、定量分析等のデータ処理が実行される。
【0023】
補修タイミング判断部6は、クロマトグラム作成部5で作成したクロマトグラムの形状に基づいて、コロナニードル8の補修の要否を判断する。補修タイミング判断部6が、コロナニードル8の補修が必要と判断した場合、その旨を通知部7と安全機構42に伝える。
【0024】
通知部7は、ユーザにコロナニードル8の補修が必要になった旨を伝える。具体的には、LC‐MSのアプリケーションソフトウェアの画面にその旨を表示して知らせることや、LC‐MSの装置にランプを点灯させて知らせる等の方法が考えられる。
【0025】
一方、高圧電源41に接続されたコロナニードル8に高電圧が印加された状態で、補修作業時にユーザがコロナニードル8に触れてしまうと感電のおそれがあり危険である。そのため、補修タイミング判断部6がコロナニードル8の補修を必要と判断し、通知部7を通じてユーザに補修を促した場合、安全機構42が、高圧電源41を制御し、コロナニードル8への印加電圧を低減させる。この場合、コロナニードル8へ印加する電圧は、ゼロにしてしまってもよいし、ユーザが感電しても危険が生じない程度の電圧へ低減させてもよい。
【0026】
補修タイミング判断部6では、クロマトグラムの形状に基づいて、コロナニードル8の補修の要否を判断するが、その判断の方法の一例を、図2、図3を用いて説明する。図2は、コロナニードルが汚染されていない状態でのクロマトグラムである。いずれの時間も安定したクロマトグラムが得られており、いくつかの時点で鋭いピークが現れている。
【0027】
一方、図3は、コロナニードル8が汚染された状態でのクロマトグラムである。時点10以前は、図2と同じように安定したクロマトグラムが得られているが、時点10以後においてはクロマトグラムが不安定である。時点10以後が不安定なのは、コロナニードル8が汚染されることにより、コロナニードル8を流れる電流の電流値の変動が大きくなり、その結果、イオン化されるイオンの量が不安定になるため、クロマトグラムの形状も不安定になるからである。補修タイミング判断部6は、時点10以後の不安定なクロマトグラムが現れたことをもって、コロナニードル8が汚染されたと判断する。
【0028】
補修タイミング判断部6が、時点10以後に不安定なクロマトグラムが現れたと判断するためには、補修タイミング判断部6において、時点10以前の安定したクロマトグラムと時点10以後の不安定なクロマトグラムを判別する必要がある。その手法は、統計学的手法を用いる等により様々な方法が考えられるが、その一例を説明すると、クロマトグラムを所定の時間区分に分割し、分割した各区分に含まれるデータに対し最小二乗法で近似直線の傾きを求める。そして、求めた近似直線から各点の距離の標準偏差を求め、求めた標準偏差が所定の閾値を越えた場合にコロナニードルが汚染されていると判断する。
【0029】
この場合、クロマトグラムの変動が大きいピーク部分に基づいて汚れがあると判定されないようにするため、予め、ピークの最小半値幅、ピークを検出するためのクロマトグラムの傾き等によりピーク検出を行い、ピーク部分のクロマトグラムは最小二乗法の計算から除外して、ピーク部分以外のデータからコロナニードルの汚染状態を判断する。
【0030】
また、グラジェント比率が変化する場合、クロマトグラムのベースラインが変動する。この場合、グラジェント比率変化によるベースラインの変動とコロナニードルの汚れに起因するノイズの変動値の増加を区別する必要がある。そのため、グラジェント変化はタイミングが既知であるため、例えば、グラジェント比率が急激に変わる場合は、その時間だけ、最小二乗法の近似式の区間をその急激に変化する時間の間に合わせて短くすることで、グラジェント比率変化によるベースラインの変動とコロナニードルの汚れに起因するノイズの変動値の増加を区別する。さらに、ベースラインが安定するまでの間も、ベースラインが安定するまでの間の変動とコロナニードルの汚れに起因するノイズの変動値の増加を区別する必要があるが、グラジェント比率の場合と同様に、最小二乗法の近似式を求める区間を適切に取ることにより、これを区別することができる。
【0031】
また、補修タイミング部6がクロマトグラムを判別する他の例は、時点10以前と時点10以後では、高い強度を示す時点が共にあるため、強度の値のみをもって、時点10以前又は以後を判別することはできない。しかし、時点10以前において、強度が高い時点は、各成分ピークであるため、マスクロマトグラムのピーク部分の形状はおおよそ正規分布の形状になる。一方、時点10以後においては、クロマトグラムが不安定であるため、ピーク部分があっても、当該部分は各成分ピークではないことから、ピーク部分の形状はおおよそも正規分布の形状とはならない。ここで、ピーク部分とは、クロマトグラムのピークの半値幅部分のクロマトグラム又はピークの半値幅の2倍若しくは1.5倍の幅部分のクロマトグラム等のことをさすが、その幅は特に限定されない。このようにして、補修タイミング判断部6は、クロマトグラムのピーク部分の形状が、所定の閾値の範囲内において正規分布の形状であると判断した場合、コロナニードル8は汚染していないと判断し、所定の閾値の範囲外であり正規分布の形状でないと判断した場合、コロナニードル8は汚染していると判断する。
【0032】
次に、コロナニードル8を流れる電流の電流値から、コロナニードル8の汚染状態を判断するLC‐MSを説明する。図4は、本発明を備えたLC‐MSの概略図である。本発明においては、コロナニードル8を流れる電流の電流値から、コロナニードル8の汚染状態を判断するため、コロナニードル8を流れる電流の電流値を検出する電流検出部9を設け、その電流検出器で検出された電流の電流値から、補修タイミング判断部6において、コロナニードル8の汚染状態、すなわち補修の要否を判断する。なお、他の点は図1の説明と共通するため説明は省略する。
【0033】
補修タイミング判断部6では、コロナニードル8を流れる電流の電流値に基づいて、コロナニードル8の補修の要否を判断するが、その判断の方法の一例を図5、図6を用いて説明する。図5は、コロナニードル8が汚染されていない状態でのコロナニードル8を流れる電流の大きさを各時点において表したグラフである。いずれの時点でも、コロナニードル8を流れる電流の大きさは、ほぼ一定範囲で増減しており、安定している。
【0034】
一方、図6は、コロナニードル8が汚染された状態でのコロナニードル8を流れる電流の大きさを各時点において表したグラフである。コロナニードル8を流れる電流の大きさは、時点10以前はほぼ一定の範囲で増減しているが、時点10以後はそれ以前の範囲を超えて電流の大きさが増減し、不安定になる。その理由は、おおよそ時点10において、コロナニードル8が汚染され、コロナニードル8付近に付着物がつき、突出部ができるため、その突出部からの放電により、大きな電流が流れたり、小さな電流が流れたりと、流れる電流の量が不安定になるからである。よって、補修タイミング判断部6は、時点10以後の不安定な電流が現れたことをもって、コロナニードル8が汚染されたと判断する。
【0035】
補修タイミング判断部6が、時点10以後に不安定な電流の電流値が現れたと判断するためには、補修タイミング判断部6において、時点10以前の安定した電流の変動と時点10以後の不安定な電流の変動を判別する必要がある。その手法は、種々の方法が考えられるが、例えば、特定の所定時間におけるコロナニードルを流れる電流値の最大値と最小値の差と、それ以前の所定時間におけるコロナニードルを流れる電流値の最大値と最小値の差の差分値の大きさが所定の閾値を越えた場合に、コロナニードルが汚染されていると判断すればよい。ここでいう所定時間は、1周期以上の時間であれば、特に限定はされない。
【0036】
また他にも、電流値をある時間区分に分割し,分割した各区分に含まれるデータに対し最小二乗法で近似直線の傾きを求め、求めた近似直線から各点の距離の標準偏差を求め、求めた標準偏差が所定の閾値を越えた場合にコロナニードルが汚染されていると判断してもよい。
【0037】
さらに、図7に記載されたLC-MSにおいては、補修タイミングの判断をクロマトグラムの形状とコロナニードルを流れる電流の電流値の両者から判断する。すなわち、補修タイミング判断部6は、クロマトグラム作成部5で作成されたクロマトグラムの形状及び電流検出部9で検出されたコロナニードル8を流れる電流の電流値から、補修の要否を判断する。そして、クロマトグラムの形状及びコロナニードル8を流れる電流の電流値の両方の観点から補修が必要であると判断した場合、その旨を通知部7と安全機構42に伝える。このように、2つの観点から補修の要否を判断することで、補修の要否をより正確に判断することができる。
【0038】
このようにして、クロマトグラム又は/及びコロナニードルを流れる電流の電流値から、コロナニードルを補修するタイミングを自動的に判断し、ユーザに通知することで、コロナニードルの補修回数を最小限に抑えることができる。また、補修タイミングを通知すると共にコロナニードルに印加する電圧を自動で小さく又はゼロにすることにより、補修作業をするユーザが感電する危険性をなくすことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 LC部
2 イオン化部
3 MS部
4 データ処理部
5 クロマトグラム作成部
6 補修タイミング判断部
7 通知部
8 コロナニードル
9 電流検出部
10 時点
11 溶媒槽
12 送液ポンプ
13 試料注入部
14 カラム
15 試料流路
16 ガスボンベ
17 流量調節器(又は圧力調整弁)
18 噴射ガス流路
21 霧化室
22 噴霧部
31 脱溶媒管
32、33 中間真空室
34 分析室
35 四重極フィルタ
36 イオン検出器
41 高圧電源
42 安全機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ部と質量分析部との間に、液体試料をイオン化するためのコロナニードルを備えた液体クロマトグラフ質量分析装置において、クロマトグラムの形状からコロナニードルを補修するタイミングを判断する補修タイミング判断部と、補修タイミングをユーザに通知する通知部を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載された液体クロマトグラフ質量分析装置において、前記補修タイミング判断部は、ピーク部分以外のクロマトグラムの各時間に対する強度値の最大値と最小値の差が所定の閾値を超えた場合に、コロナニードルは汚染されていると判断することを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載された液体クロマトグラフ質量分析装置において、前記補修タイミング判断部は、クロマトグラムのピーク部分の形状が、所定の閾値の範囲内において正規分布の形状であると判断した場合、コロナニードルは汚染していないと判断し、前記範囲外であり正規分布の形状でないと判断した場合、コロナニードルは汚染していると判断することを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項4】
液体クロマトグラフ部と質量分析部との間に、液体試料をイオン化するためのコロナニードルを備えた液体クロマトグラフ質量分析装置において、コロナニードルを流れる電流の電流値からコロナニードルを補修するタイミングを判断する補修タイミング判断部と、補修タイミングをユーザに通知する通知部を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載された液体クロマトグラフ質量分析装置において、前記補修タイミング判断部は、特定の所定時間におけるコロナニードルを流れる電流値の最大値と最小値の差と、それ以前の所定時間におけるコロナニードルを流れる電流値の最大値と最小値の差の差分値の大きさが所定の閾値を越えた場合に、コロナニードルが汚染されていると判断することを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された液体クロマトグラフ質量分析装置において、前記補修タイミング判断部がコロナニードルを補修するタイミングと判断した場合に、コロナニードルに印加する電圧を小さくするか又はゼロにする安全機構を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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