説明

液体クロマトグラフ/質量分析計

【課題】液体クロマトグラフと接続した質量分析計のなどの場合、短時間に複数の試料成分が連続して質量分析計に導入されるため、内部標準試料の導入方法及び質量キャリブレーションが困難となる。本発明は、前記課題を解決することを目的とする。
【解決手段】本発明は上記目的を達成するために、試料中の目的成分を分離する分析手段として液体クロマグラフと分離された試料成分を順次イオン化し、該当成分のマススペクトルを連続して取得する手段の質量分析計とを組み合わせた質量分析方法によるイオンの精密質量数測定において、質量キャリブレーションを行うための既知質量数の内部標準試料を液体クロマトグラフの送液ポンプにて移動相溶媒を混合し、質量分析計に連続導入あるいはパルス導入により内部標準試料を導入し、内部標準試料由来のマススペクトルを参照し、内部標準法によって目的成分のマススペクトルの質量キャリブレーションを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計に関し、液体クロマトグラフにより分離された成分の精密質量数測定を可能とする液体クロマトグラフ/質量分析計、および液体クロマトグラフ/質量分析計の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密質量数測定とは、質量分析計により測定対象イオンの質量数をppmレベル(1/10の精度)の精度で測定することであり、得られた精密質量数結果により対象イオンの元素組成を求める手法である。
【0003】
この手法により精密質量数により求められたイオンの元素組成から測定対象成分の構造解析を行うことが可能となり、構造未知の対象成分については、この精密質量数より得られた元素組成から、未知成分の正確な同定や構造解析を行うことが可能となる。
【0004】
現在、精密質量測定を行うことの出来る質量分析計は、二重収束磁場型質量分析計(double−focusing magnetic sector mass spectrometer)、飛行時間型質量分析計(Time−of−flight Mass Spectrometer, TOF)やフーリエ変換型質量分析計(Fourier transform mass spectrometer, FTMS)などである。
【0005】
飛行時間型質量分析計については、現在、イオン化を行うイオン源と質量分析を行う飛行時間型質量分析計の間に、四重極型質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer, QMS)を配置したQ−TOFと呼ばれるタイプ(特開平11−154486号公報(特許文献1))や、イオン化を行うイオン源と質量分析を行う飛行時間型質量分析計の間にイオントラップ型質量分析計を結合させたイオントラップ−飛行時間型質量分析計(特開2003−123685号公報(特許文献2))などの精密質量数測定が可能な装置が開発されている。
【0006】
どちらのタイプの飛行時間型質量分析計においても精密質量測定時は、精度の向上のために、質量分析時に得られるイオンの質量数を補正(質量キャリブレーション)することが必要不可欠となる。
【0007】
飛行時間型質量分析計において、質量Mの一価のイオンを加速電圧Uにより加速するとイオンは速度vで真空中を飛行する。速度vは次式のように求められる。
【0008】
v=1.39*10√(U/M) ……… (1)
今、長さL(メートル)のTOFの飛行空間をイオンが飛行するに要する時間をt(秒)とすると、tは(2)式のように求められる。
【0009】
t=L/v=L/(1.39*10√(U/M))=k√(M) ……… (2)
ここで、kは装置固有の定数である。即ち、イオンの飛行時間tは質量の平方根に比例する。実際のTOF装置では、イオンの飛行時間即ちイオンの検出時間tとMとの関係は次式のように近似される。
【0010】
M=at+bt+c ……… (3)
a,b,cは定数である。即ち、イオンの質量Mと検出時間tとの間には2次の関係式が成立する。この関係式(3)を求める過程が質量キャリブレーションである。
【0011】
質量キャリブレーションでは、複数の質量既知のイオンを与える標準試料をTOFに導入して質量スペクトルを測定する。出現したイオンの検出時間tと既知の質量値Mを用いることにより、(3)式の定数a,b,cを求めることができる。そのため、標準試料は質量既知のイオンを広範な質量領域に与えるものが用いられる。
【0012】
質量キャリブレーションが完了した後、実際の試料を測定し、(3)式によりイオンの検出時間t0から試料イオンの質量M0を求めることができる。この標準試料による質量キャリブレーションと実試料の測定が独立に、時間経過後に行われる方式が外部標準法である。外部標準法の例としては、例えば特開2001−74697号公報(特許文献3)に開示されている。
【0013】
しかし一般に、この外部標準法によって求まる質量測定の精度は、100〜30ppm(ppm=10−6)程度に過ぎない。この精度の悪さは装置周辺の温度変化等に起因するTOF飛行空間Lの伸び縮みや加速電圧Uや静電レンズ電圧などのドリフトなどに起因する。この程度の精度では、求められた精密質量Mから元素組成を一義的に求めることは出来ない。
【0014】
可能性をできるだけ絞り込んで元素組成を求めるためには、5ppm以下の測定精度が要求される。このレベルの精度を確保するためには、試料イオンと共に標準試料のイオンをTOFに送り込み同時に測定することが必要である。標準試料によって得られるイオンは質量既知である。
【0015】
一般にこの手法は内部標準法と呼ばれている。この内部標準法は、温度ドリフト等を相殺することができ、常に高精度の精密質量測定を可能にする。また、試料と共にTOFのイオン源に導入する内部標準試料は、広範な質量領域にイオンを与える必要がないため、標準試料の選択が容易になる。
【0016】
内部標準法の例としては、例えば特開2001−28252号公報(特許文献4)に開示されている。以上のことから内部標準法は、対象成分の精密質量数測定精度の向上には不可欠な手法である。
【0017】
【特許文献1】特開平11−154486号公報
【特許文献2】特開2003−123685号公報
【特許文献3】特開2001−74697号公報
【特許文献4】特開2001−28252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
精密質量数測定において、質量分析計のみで直接試料成分をイオン化する場合は、質量キャリブレーションは容易である。あらかじめ、測定対象試料中に内部標準試料を混合し、同時にイオン化を行うことにより、精度良く精密質量数を測定することは可能である。
【0019】
しかし、液体クロマトグラフなどのクロマトグラフィーと接続した質量分析計のなどの場合、短時間に複数の試料成分が連続して質量分析計に導入されるため、内部標準試料の導入方法及び質量キャリブレーションが困難となる。
【0020】
すなわち、液体クロマトグラフより分離して流出する複数成分の流出変化推移に合わせるように内部標準試料の導入タイミングを制御するのが非常に難しいのである。
【0021】
本発明は、上記の課題に鑑み、難しい内部標準試料の導入タイミング制御を必要としない液体クロマトグラフ/質量分析計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、移動相溶媒を送液する送液ポンプと,移動相溶媒とともに送られて来る試料の成分を分離するカラムを含む液体クロマグラフと、分離された成分を順次イオン化するイオン源と、イオン化された成分のマススペクトルを連続して取得するイオントラップを含む質量分析計が組み合わされた液体クロマトグラフ/質量分析方法において、目的試料と内部標準試料を混合して記カラムに導入する導入手段を有することを特徴とする。
【0023】
更に具体的に述べると、本発明は、上記目的を達成するために、試料中の目的成分を分離する分析手段として液体クロマグラフと分離された試料成分を順次イオン化し、該当成分のマススペクトルを連続して取得する手段の質量分析計とを組み合わせた質量分析方法によるイオンの精密質量数測定において、質量キャリブレーションを行うための既知質量数の内部標準試料を液体クロマトグラフの送液ポンプにて移動相溶媒と混合し、質量分析計に連続導入あるいはパルス導入により内部標準試料を導入し、内部標準試料由来のマススペクトルを参照し、内部標準法によって目的成分のマススペクトルの質量キャリブレーションを行う。
【0024】
あるいは、試料測定前後の液体クロマトグラフの分離として用いるカラムの洗浄過程及び安定過程時に送液ポンプから既知質量数の内部標準試料を移動相溶媒と混合し、質量分析計に導入し、測定終了後に試料測定前後の内部標準試料のマススペクトルを用いて目的成分のマススペクトルデータを外部標準法により質量キャリブレーションを行う。
【0025】
また、両者の内部標準試料測定の際には、MSデータと同時にMS/MSデータも取得することにより、両データの質量キャリブレーションが可能となる。質量キャリブレーションに用いる内部標準試料については、逆相カラムを用いる場合などは、逆相カラムで保持されない親水性の高い成分を用いることにより安定した連続導入も可能となり、液体クロマトグラフにおける送液ポンプのプログラムにより導入タイミングを自由に設定変更することが可能となる。
【0026】
この導入方法により、試料成分が溶出する間、連続導入、パルス導入あるいは試料測定間に安定した導入が可能となる。
【0027】
精密質量数測定における内部標準試料については、質量キャリブレーションするために充分なイオン量を確保することも重要であるが、しかし、多量の内部標準試料を導入すると、目的成分のイオン化が阻害される等の影響により充分なイオン量を検出することが出来なくなる可能性も考えられる。
【0028】
そのため、内部標準試料を導入する際に、送液ポンプから移動溶媒の混合比を変化させることにより、内部標準試料の導入量も調整可能となる。これにより、液体クロマトグラフにより分離され、質量分析計によって生成した目的成分イオンと内部標準試料のイオンを一回の測定の中で同時に検出することが可能となる。更に測定された内部標準試料のイオンを基に目的成分イオンの精密質量のキャリブレーションを行う。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、目的試料と内部標準試料を混合して前記カラムに導入するので、難しい内部標準試料の導入タイミング制御を必要としない液体クロマトグラフ/質量分析計を提供することができる。
【0030】
また、本発明によれば、液体クロマトグラフの送液ポンプを利用した質量分析計の質量キャリブレーションのための内部標準試料の導入を行うことにより、内部標準法及び外部標準法によって目的成分イオンの精密質量数測定が可能となり、LC/MS分析などの短時間の間に複数の未知成分が次々に質量分析計に導入されるような場合でも、内部標準法及び外部標準法によって目的成分イオンの精密質量数測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施例について説明する。
【0032】
本発明の実施例については、プロテオーム分野における解析を例にして説明する。
【0033】
プロテオーム分野における質量分析計での解析方法は、細胞などから抽出したタンパク質混合物を消化酵素により分解し、生成したペプチド断片を液体クロマトグラフにより各ペプチド成分に分離し、分離されたペプチド成分は質量分析計によりイオン化され、質量分析される。
【0034】
その際、質量分析計内において、1種類のペプチド断片を選定し、このイオンをMS/MS分析を行うことにより、得られた生成物のイオンから各断片のアミノ酸配列を決定する。
【0035】
本発明の実施例の装置構成を図1に示す。
【0036】
細胞などから抽出したタンパク質混合物を消化酵素により分解しペプチド混合物を生成する。生成したペプチド混合物を含む目的試料を液体クロマトグラフ(LC)部1のインジェクタ5から注入し、3液以上の移動相溶媒が送液可能な送液ポンプ2、3、4によって送液される移動相と共にカラム6に送られ、各ペプチド成分に分離される。
【0037】
分離された目的試料成分は、大気圧イオン化室7に導入される(ここではペプチド試料をイオン化する際に適しているイオン源としてESI(Electro spray ionization)イオン源の例で説明する)。
【0038】
ESIイオン源7において、分離されたペプチド成分はイオン化される。ESIイオン源7から噴霧されたイオンはサンプリング部8から真空系に導入され、導入されたイオンを線形イオントラップ部10へ導くイオン輸送部9にて加速される。
【0039】
線形イオントラップ部10は、4本の直線電極である四重極フィルタ11で構成されており、12は入口電極、13は出口電極となる。
【0040】
このような線形イオントラップ部10を用いることにより、MS/MSの為のイオン選択を行うことが可能である。加速されたイオンは、線形イオントラップ部10の空間にトラップされる。
【0041】
試料イオンは、線形イオントラップ部10でトラップされた後、線形イオントラップ部10より試料イオンを四重極フィルタ14に向けて排出する。線形イオントラップ部10より排出された試料イオンは、四重極フィルタ14を経由してエネルギーを均一化され、デフレクタ15、収束レンズ16を通過し偏向、収束される。
【0042】
その後、飛行時間型質量分析計17に入り、押し出し電極18、引き出し電極19からなるイオン加速部で直交方向に加速される。加速されたイオンはリフレクトロン20で折り返された後、検出器21に向かって飛行させ、検出器21にて試料イオンを検出しマススペクトルを得る。
【0043】
線形イオントラップ部10の後段に飛行時間型質量分析計17を配置することにより、質量精度、マススペクトル分解能が向上する。また、本実施例の質量分析装置は、制御部22とデータ処理部23とを備える。
【0044】
データ処理部23は、液体クロマトグラフ1の制御の条件、質量分析計のイオン源2、線形イオントラップ部10の制御の条件等を測定者の入力に基づき制御部22に送る。データ処理部23は、線形イオントラップ部10から飛行時間型質量分析計17を経て検出器21で検出されたマススペクトルデータを信号線を介して受け付け、このデータを処理して記録、表示する。
【0045】
次に本発明の主要部について説明する。
【0046】
本発明の特徴としては、内部標準試料を質量分析計に導入するために液体クロマトグラフ1の送液ポンプのグラジエント機能を用いることである。液体クロマトグラフの送液ポンプ2、3、4は、三液以上(A、B、C以上)の送液が可能なシステム(ここでは、低圧グラジエントポンプの例で説明する)を用いる。
【0047】
目的成分を分離する際の移動相は、Aライン2、Bライン3の送液ラインを使用する。プロテオーム解析においては、0.1%ギ酸を含む水溶液とアセトニトリル水溶液とのグラジエント分離が一般的である。内部標準試料の導入に関しては、Cライン4の送液ラインを使用する。
【0048】
この際、内部標準試料を溶解する溶媒としては、Aラインの送液ラインと同様の0.1%ギ酸を含む水溶液で溶解する。この三液の送液方法により、内部標準試料をESIイオン源に導入し、目的試料成分と内部標準試料のイオン化を行う。
【0049】
内部標準試料の導入方法については、A、Bの送液ラインで通常の分離する際のグラジエントプログラムを設定し、Cの送液ラインについては、一定量の内部標準試料を流し続ける。
【0050】
これにより連続した内部標準試料の導入が可能となり、内部標準法による精密質量数補正のイオンを検出することが可能となる。
【0051】
すなわち、液体クロマトグラフの送液ポンプ2、3、4で内部標準試料と目的試料が混ざって一緒になって液体クロマトグラフのカラム6に導入することにより、前述したような液体クロマトグラフより分離して流出する複数成分の流出変化推移に合わせて内部標準試料の導入タイミングを制御する煩わしさが不要になる。つまり、難しい内部標準試料の導入タイミング制御を必要としない液体クロマトグラフ/質量分析計を提供することが出来る。
【0052】
なお、連続した内部標準試料の導入は、ESIイオン源の汚染する原因となり、ESIイオン源のイオン化効率低下、感度低下を招く可能性もある場合には次のような対応をする。
【0053】
すなわち、パルス導入方式により、一定間隔でCの送液ラインより内部標準試料を導入するプログラムを設定することにより、内部標準試料の導入量を軽減することが可能となる。
【0054】
また、外部標準法により精密質量数補正を行う場合は、試料測定間に液体クロマトグラフに用いる分離カラムの洗浄時間やカラム平衡化時間にCの送液ラインより内部標準試料を導入する。
【0055】
この送液方法により、試料測定間に内部標準試料のマススペクトルを取得することが可能となり、連続試料における測定間においても、測定前後のカラム洗浄、安定化時間に得られた内部標準試料のマススペクトルにより外部標準法により精密質量数の質量キャリブレーションが可能となる。
【0056】
本実施例では、内部標準試料としてペプチド成分(アミノ酸配列例:RRREEEEEEAA)を用いる。このようなアミノ酸配列は、親水性の高いアミノ酸を多く含んでいることから通常、プロテオーム解析で用いられる逆相系のカラムでは保持されない。
【0057】
このため、液体クロマトグラフの送液ポンプから内部標準試料として導入を行っても、液体クロマトグラフの分離カラムに保持されず、ESIイオン源に導入される形となる。ペプチド成分は、ESIイオン源で測定した場合、多価イオンを生成する。
【0058】
例えば、上記ペプチドの場合、精密質量数は、M=1246.5420であるが、ESIイオン源でイオン化した場合、図2に示すようなマススペクトルが観測される傾向にあり、一価イオンとしてm/z=1247.5499、二価イオンとしてm/z=624.2786、三価イオンとしてm/z=416.5215、四価イオンとしてm/z=312.6429のイオンが観測される可能性がある。
【0059】
そのため、一成分の内部標準試料を用いて少なくても二本以上の質量補正用のイオンが観測されることになる。これらの多価イオンピークは質量数が既知であることから、精密質量数測定の内部標準試料ピークとして選択可能である。
【0060】
また、精密質量数を測定する目的成分の質量数領域によっては、ジ・トリペプチドのような短いアミノ酸配列の成分も同時に混合しておくことにより、低分子側からの内部標準試料由来のイオンピークを観測することも可能である。
【0061】
また、上記内部標準試料のMSMS測定を行った場合、ペプチドの連鎖を反映したプロダクトイオンが検出される。ペプチドが一般的にフラグメンテーションする場所は、C−CO、CO−NH及びNH−C結合である。
【0062】
リニアイオントラップによるMS/MS測定では、一般的にCO−NH結合でのフラグメンテーションが多く観測され、ペプチド成分のN末端側が保存されるフラグメントイオンをb系列、C末端側が保存されているフラグメントイオンをy系列と標記される。
【0063】
上記ペプチドの場合、図3に示すような各b、y系列のプロダクトイオンが観測される傾向にあることから、ペプチド成分をMSMSした場合、多くのプロダクトイオンが観測される可能性が高い。
【0064】
そのため、質量数既知のペプチド成分を用いれば、これらのプロダクトイオンの精密質量数も把握出来るため、MS/MS測定時の質量キャリブレーションテーブルとして使用することも可能である。
【0065】
次に図1の構成において、精密質量数測定を行う際、液体クロマトグラフの送液ポンプのグラジエント方法について説明する。
【0066】
図4に、液体クロマトグラフの送液ポンプにおけるA、B送液ラインの移動相溶媒のグラジエントプログラムとC送液ラインにおける内部標準試料の導入タイミングのプログラムチャートを示す。
【0067】
図4において試料注入t1から測定終了t4までの時間は、通常30分から120分程度である。
【0068】
内部標準試料を連続して導入する場合のグラジエントプログラムとしては、通常のグラジエントプログラムとして、A/B=95/5の移動相組成で送液を開始しカラム安定化後、t1からt2の時間でA/B=50/50に移動相組成を変化させる。
【0069】
この際、内部標準試料については、Aの送液ラインの移動相と同じ組成の溶媒で調製しておくことにより、溶媒組成をA/B/C=90/5/5の移動相組成で送液を行う。この設定により、内部標準試料については、5%の組成で連続導入を行い、Aについては、Cの内部標準試料の導入量分差し引く形とする。
【0070】
この設定と同様にt2における移動相組成についてもA/B/C=45/50/5と設定する。この時、Cの内部標準試料の溶媒組成はAの移動相と同一の組成であることから、見かけ上のグラジエント組成は、先のグラジエント条件と同一である。
【0071】
その後、t2からは分離カラムの洗浄プログラムとなるため、A/B/C=5/90/5に変更し、t3までカラム洗浄を行う。カラム洗浄終了後、t3においてカラム平衡化のために初期移動相組成のA/B/C=90/5/5に変更し、t4まで送液を行う。
【0072】
この設定により液体クロマトグラフの送液ポンプより一定量の安定した内部標準試料の導入が可能となる。
【0073】
ESIイオン源の汚染する原因となり、ESIイオン源のイオン化効率低下、感度低下を招く可能性が考えられる場合、パルス導入方式により、一定間隔でCの送液ラインより内部標準試料を導入するグラジエントを設定することにより、内部標準試料の導入時間を軽減することも可能となる。
【0074】
例えば、図5に示すように10分毎に内部標準試料をESIイオン源に導入する場合、先のグラジエント組成において、t1の試料注入からt2までの時間を30分とし、10分毎にCの内部標準試料を5%の組成で一分間導入する場合とする。
【0075】
この場合、t1、t1+10分後、t1+20分後、t2(t1+30分後)の計4回の内部標準試料の導入が行われる。Cの内部標準試料の導入タイミングでは同時にAの移動相の組成を5%差し引いた形のグラジエント組成による送液を行う。
【0076】
測定開始時のt1でのグラジエント組成はA/B/C=90/5/5で開始し、一分後、A/B/C=94/6/0に設定する。測定開始から10分後には、再び内部標準試料を導入するため、グラジエント組成をA/B/C=81/14/5で送液を行う。
【0077】
その一分後には、A/B/C=85/15/0に設定し、Cの送液ラインからの内部標準試料の導入をストップする。
【0078】
このような設定を10分毎にA/Bのグラジエント勾配を考慮してCの送液ラインからの内部標準試料の導入を繰り返すことにより、10分毎のパルス方式による内部標準試料の導入を行う。
【0079】
本実施例では、30分間の測定において、図5に示すように4回の内部標準試料の導入が可能となる。t2からt3の間のカラム洗浄及びt3からt4間のカラム平衡化の時間に関しては、通常の移動相A/Bによるグラジエントプログラムと同様の送液を行う。
【0080】
次に、図6に外部標準法による質量キャリブレーションを行う際の液体クロマトグラフの送液ポンプにおけるA、B送液ラインの移動相溶媒のグラジエントプログラムとC送液ラインの内部標準試料の導入タイミングのプログラムチャートを示す。
【0081】
AとBの送液でのグラジエント送液を行った後にカラム洗浄を目的とし、t2からt3までの時間A/B=10/90の移動相組成でアセトニトリル量を多く流す設定を行う。この送液の間にCの内部標準試料の送液を行う。
【0082】
従って、カラム洗浄のt2からt3の間、A/B/C=5/90/5の送液を行う。これにより、カラム洗浄のt2からt3の間のみ内部標準試料を導入することが可能となり、試料測定間に内部標準試料のマススペクトル測定を行うことが可能となる。
【0083】
この方式を行うことにより、試料測定前後における内部標準試料の精密質量数の確認及び外部標準法による質量補正が可能である。
【0084】
また、すべての導入方式において、内部標準試料の導入を行っている間については、内部標準試料に該当するイオンピークをリニアイオントラップにおけるMS/MS分析の対象とすることにより、内部標準試料に由来するMS/MS分析におけるプロダクトイオンを選択することにより、MS/MS分析時の質量キャリブレーションイオンとして選択することも可能となる。
【0085】
このような内部標準試料の導入を行うことにより、液体クロマトグラフの送液ポンプのグラジエント組成を変化させることにより、測定者が自由に内部標準試料の導入タイミング及び導入量を設定することが可能となる。
【0086】
また、MS及びMS/MS分析において両方の内部標準試料に由来するイオンピークを観測することも可能となる。
【0087】
この結果、リニアイオントラップ/飛行時間型質量分析計により、目的成分のMSスペクトルデータ、MS/MSスペクトルデータ及び内部標準試料のMSスペクトルデータ、MS/MSスペクトルデータが得られる。
【0088】
検出された目的成分のイオンと内部標準試料のイオンは、検出器において電気信号に変換された後に、データ処理装置に取り込まれる。取り込まれたデータは、データ処理装置のディスプレイ等の表示部にマススペクトルとして表示する。
【0089】
マススペクトルは、横軸に質量と電荷との比(m/z)、縦軸にイオン強度として表示される。試料測定者は、これらのマススペクトルをデータ処理装置に表示した後に、精密質量計算を行う目的成分のイオンと内部標準試料のイオンを確認する。
【0090】
測定者は、目的成分のイオン及び内部標準試料のイオンが充分な強度で検出されていることを確認し、データ処理装置に備えられているマウスなどを用いてデータ処理装置の画面上に表示されたイオンピークを指定する。
【0091】
また、m/z値を入力するためのウィンドウを表示させて、入力する方法や、予め測定前に、内部標準試料の質量数は既知質量であることから、データ処理装置に測定時に用いる可能性のある内部標準試料の精密質量数を登録しておいても良い。
【0092】
目的成分のイオンのm/z値を指定することにより、指定ピーク近傍の内部標準試料のイオンも用いて、自動で指定された目的成分の質量キャリブレーションを行い、精密質量数が表示される。
【0093】
内部標準試料を選択する場合は、目的成分のイオンの一番近い内部標準試料のイオンを選択する場合と目的成分は挟み込む形で目的成分の両側に存在する近傍の内部標準試料を選択する場合の指定が可能である。
【0094】
また、内部標準試料のイオンをm/z値で指定した場合は、そのm/z値に相当するマススペクトルを自動表示させ、測定者側に内部標準試料のマススペクトルが分かりやすいように別ウィンドウに内部標準試料に該当するマススペクトルを表示、或いは目的成分のマススペクトルを表示しているウィンドウに同時表示させても良い。
【0095】
質量キャリブレーションを行った後に、精密質量数が表示された目的成分のイオンについては、その精密質量数を用いて分子式の計算を行う。計算によって求められた分子式は、別ウィンドウやマススペクトルデータ上に表示される。
【0096】
本実施例では、上記のように、液体クロマトグラフの送液ポンプにより安定した内部標準試料の導入を行い、内部標準試料のイオンも用いて、測定者が指定した目的成分のイオンについて、容易に精密質量数計算が可能となる。
【0097】
上述したように本発明の実施例によれば、液体クロマトグラフにより分離され、質量分析計によって生成した目的成分イオンの精密質量数測定を液体クロマトグラフの送液ポンプにより導入した内部標準試料を用いて、外部標準法及び内部標準法により質量キャリブレーションすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施例に係わるもので、液体クロマトグラフ/質量分析計の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例に係わるもので、内部標準試料のマススペクトル例である。
【図3】本発明の実施例に係わるもので、内部標準試料のグラグメントイオンリストである。
【図4】本発明の実施例に係わるもので、液体クロマトグラフの送液ポンプにより内部標準試料の導入方法のタイミングチャートである(内部標準法:連続導入)。
【図5】本発明の実施例に係わるもので、液体クロマトグラフの送液ポンプにより内部標準試料の導入方法のタイミングチャートである(内部標準法:パルス導入)。
【図6】本発明の実施例に係わるもので、液体クロマトグラフの送液ポンプにより内部標準試料の導入方法のタイミングチャートである(外部標準法)。
【符号の説明】
【0099】
1…液体クロマトグラフ(LC)部、5…インジェクタ、2…送液ポンプ、3…送液ポンプ、4…送液ポンプ、6…カラム、7…ESIイオン源、8…サンプリング部、10…線形イオントラップ部、9…イオン輸送部、11…四重極フィルタ、12…入口電極、13…出口電極、14…四重極フィルタ、15…デフレクタ、16…収束レンズ、17…飛行時間型質量分析計、18…押し出し電極、19…引き出し電極、20…リフレクトロン、21…検出器、22…制御部、23…データ処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相溶媒を送液する送液ポンプと,前記移動相溶媒とともに送られて来る試料の成分を分離するカラムを含む液体クロマグラフと、分離された成分を順次イオン化するイオン源と、イオン化された成分のマススペクトルを連続して取得するイオントラップを含む質量分析計が組み合わされた液体クロマトグラフ/質量分析計において、
目的試料と内部標準試料を混合して前記カラムに導入する導入手段を有することを特徴とする液体クロマトグラフ/質量分析計。
【請求項2】
請求項1記載の液体クロマトグラフ/質量分析計において、
前記内部標準試料を前記カラムに連続導入する内部標準法が可能なことを特徴とする液体クロマトグラフ/質量分析計。
【請求項3】
請求項1記載の液体クロマトグラフ/質量分析計において、
前記目的試料と前記内部標準試料の導入が断続的なパルス導入を行うことにより外部標準法が可能なことを特徴とする液体クロマトグラフ/質量分析計。
【請求項4】
請求項1記載の液体クロマトグラフ/質量分析計において、
前記内部標準試料は、前記カラムに保持されない成分を除くことを特徴とする液体クロマトグラフ/質量分析計。
【請求項5】
請求項1記載の液体クロマトグラフ/質量分析計において、
前記質量分析計は、ppmレベル(1/10の精度)の精度で精密質量測定を行うことの出来る二重収束磁場型質量分析計、飛行時間型質量分析計やフーリエ変換型質量分析計を含むことを特徴とする液体クロマトグラフ/質量分析計。
【請求項6】
請求項1記載の液体クロマトグラフ/質量分析計において、
前記送液ポンプは前記内部標準試料を送液するポンプを含み、
前記カラムに目的試料を導入するインジェクタを備えることを特徴とする液体クロマトグラフ/質量分析計。
【請求項7】
請求項3記載の液体クロマトグラフ/質量分析計において、
前記目的試料成分と前記内部標準試料の導入は、同期をとって一緒にすることを特徴とする液体クロマトグラフ/質量分析計。
【請求項8】
移動相溶媒を送液する送液ポンプと,前記移動相溶媒とともに送られて来る試料の成分を分離するカラムを含む液体クロマグラフと、分離された成分を順次イオン化するイオン源と、イオン化された成分のマススペクトルを連続して取得するイオントラップを含む質量分析計が組み合わされた液体クロマトグラフ/質量分析計の分析方法において、
目的試料と内部標準試料が一緒に前記カラムに導入されることを特徴とする液体クロマトグラフ/質量分析計の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−31201(P2009−31201A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197500(P2007−197500)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】