説明

液体サンプル中の分析物を測定するための装置及び方法

【課題】液体サンプル、特に体液サンプル中の分析物を測定するための装置を提供する。
【解決手段】液体サンプル、特に体液サンプルを分析するために準備された検査エレメント(5)の分析領域(4)に液体サンプルを加えた後その液体サンプルを分析するように構成された分析装置(2)、及び検査エレメント(5)の作製のために分析領域(4)内の表面を親水性にするように構成された親水性付与装置(3)により、液体サンプル、特に体液サンプル中の分析物を測定する装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体サンプル、特に体液サンプル中の分析物を測定するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置及び方法は、例えば、体液サンプル、特に血液サンプル中の一種以上の分析物を測定するために用いられる。特に、固定式及び携帯式の分析機器、即ち実験室用機器又は手持ち式機器の形態の装置が知られている。いわゆる患者検査及び糖尿病患者の介護及び治療の利用分野では、使い捨て可能な検査エレメントが、例えばテストストリップの形態で、体液サンプル中の分析物を測定するためによく用いられる。これらの検査エレメントは、特に好適な分析領域の形成に関連して、体液又はある種の他の液体サンプル中の一種以上の分析物を測定するように製造されている。液体サンプル中の一種以上の分析物を測定するためには、通常一以上の検査反応が生じる検査エレメントの分析領域に液体サンプルを加える。続いて、この検査エレメントを、特に手持ち式機器でありうる検査又は分析用の機器によって評価する。検査エレメントの評価は、例えば光学的又は電子的な測定方法により行う。
【0003】
液体中の分析物の最適な測定を達成するためには、検査エレメントの分析領域内の表面が親水性であって、液体サンプル物質が容易に拡がることができるようになっている必要があることが多い。親水性表面を形成するためには、分析領域にコーティングを設けることができる。この場合、親水性物質を用いる必然性により、好適な物質の選択が厳しく制限される。このため、同様に検査エレメントの機能性に影響する他の物性が最適に呈されない。機能的なコーティングは、非常に特別な基準を満たすように選ばなければならず、時間や費用のかかる広範な開発活動の主題となる。さらに、コーティングの設置や製造中のプロセス制御対策も費用がかかる。コーティングの設置によって、検査エレメントの分析領域内に親水性表面が提供されるが、これは検査エレメントの耐久性や機械的強度を制限する場合が多いのも事実である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、簡便で信頼性のある方法で液体を測定するための検査エレメント上に親水性表面を提供することができる、液体サンプル中の分析物を測定するための装置及び方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、この目的は、特許請求の範囲に記載の液体サンプル中の分析物を測定するための装置、及び特許請求の範囲に記載の液体サンプル中の分析物を測定するための方法によって達成される。本発明の有利な成果は、従属請求項に記載されている。
【0006】
本発明は、液体サンプル、特に体液サンプル中の分析物を測定するための装置の概念からなり、この装置は、液体サンプルを分析するために具備される検査エレメントの分析領域上に液体サンプルを加えた後、液体サンプルを分析するように構成された分析装置と、検査エレメントの分析領域内の表面を親水性にするように構成された親水性付与装置とを使用する。
【0007】
さらに本発明は、分析機器により液体サンプル、特に体液サンプル中の分析物を測定するための方法の概念を含み、この方法は、液体サンプルの準備、液体サンプルの分析のために具備された検査エレメントの分析領域への液体サンプルの添加、及び分析装置中に組み込まれた分析機器による液体サンプルの分析の工程を含んでおり、ここで、分析領域内の表面は液体サンプルの添加前に親水性付与装置によって親水性とされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の1つの実施形態による装置を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によって、従来技術で知られているコーティングを使用することなく、信頼性のある方法で、液体サンプル中の分析物を測定するために用いられる検査エレメントの分析領域内の表面を親水性にすることができる。検査エレメントを製造する際、親水性表面を形成するために従来技術で用いられているコーティングを省くことができ、その結果、好適なコーティング材料の選択に起因する、検査エレメントの他の機能特性の調製に関する制限が生じない。好ましくは、親水性化は、例えば体液サンプル、好ましくは血液サンプルであることができる液体サンプルを測定するための検査エレメントの製造と直接関連して行う。液体サンプルを測定するための装置は、手持ち式機器又は固定式機器、例えば実験室用機器、例えば固定式又は携帯式の血液解析機器中に組み込むことができる。
【0010】
使用者は、例えば、好ましくは使い捨てできるテストストリップである検査エレメントの分析領域において、分析又は測定をしようとする時はいつでも、実質的にその場に親水性表面を製造することが可能である。この検査エレメントの製造方法は、従来技術では要求された親水性表面を形成するためのコーティングが必要とされないので、全体として簡素化される。
【0011】
本発明の好適な別の態様で提供されるように、親水性付与装置は、親水性化の間分析領域内の表面をプラズマで処理するように構成されたプラズマ処理装置を含む。様々な状況において、表面をプラズマで処理して親水性にできることが知られている。プラズマは通常、イオン又は電子等の自由荷電粒子を有効な程度に含む(部分的に)イオン化されたガスとして説明される。プラズマは、外部電源からのエネルギー入力によって発生する。エネルギーのカップリングが生じない場合は、プラズマは消滅する、即ち、正と負の荷電粒子が再結合して中性の原子、分子又はラジカルを生成する。さらに荷電粒子は、例えば導電性の壁又は真空空間中への両極性拡散によって失われうる。これに加え、プラズマの(熱)放射損失を考慮しなければならない。イオン化粒子の永久的な損失を補償するためには、例えば加速や衝撃イオン化によって、イオン化粒子を継続的に再生しなければならない。プラズマは、エネルギー入力に関して様々な方法で発生させることができる。これらとしては、特に、熱励起、化学反応及び核反応、放射線励起、レーザー光線励起、静電場励起、直流による励起、電磁場による励起、静電容量励起、爆発線による励起、誘導(磁気)励起、マイクロ波放射及びピンチ効果による励起などがある。一種以上のエネルギー入力を用いるプラズマ処理装置は、異なる形態、特に小型モデルで利用できる。
【0012】
本発明の1つの態様では、プラズマ処理は、場合によりオゾン等の一種以上の酸化性物質を含んでいてもよいガス混合物を用いて行うことができる。
【0013】
本発明の意図する1つの態様では、プラズマ処理装置がマイクロ波プラズマ発生器を含むことができる。発生したプラズマは、例えば2.45GHz-ISMバンドで用いられる。低圧プラズマ技術によって、効率的に良質な親水性表面を形成することができる。
【0014】
本発明の有利な実施形態では、プラズマ処理装置がマイクロプラズマリアクター(micro-plasma-reactor)を有する。マイクロプラズマリアクターは、種々の形態でそれ自体公知である。例えば、そのようなマイクロプラズマリアクターは、互いに入り組んだ櫛型の微細構造電極からなるコアを有する。異なるデザインでのリアクターの微細技術による製造は、フォトリソグラフィー法を用いて行われる。特定の狭いギャップ幅の使用によって、低い点火電圧で均一なプラズマを生成することができる。これに関連して、多くのマイクロリアクターを並列に配置することができる。
【0015】
本発明の好ましい別の態様では、親水性付与装置が分析領域内の表面を親水性にするように構成された表面処理装置を含んでおり、この装置は、超音波処理装置、コロナ処理装置、空気イオン化装置、オゾン発生器及びマイクロ波処理装置からなる群から選択される。分析領域の親水性表面を生成するための好適な処理装置を選択することによって、異なる適用要件に適合するように装置を構成することができる。例えば親水化を最適化するために、装置中に複数の処理装置を使用することもできる。
【0016】
本発明の別の有利な態様では、好ましくは、親水性付与装置が親水性を付与するマイクロ装置である。
【0017】
本発明の有利な態様の場合、分析装置及び親水性付与装置を、分析機器の内蔵又は一体型素子として構成することができる。好ましくは、分析装置及び親水性付与装置を、共通のハウジング中に組み込むことができる。
【0018】
液体サンプル中の分析物を測定するための方法の有利な成果に応じて、液体サンプル中の分析物を測定するための装置の関連した有意義な別の開発に関する実施形態がある。
【0019】
以下では、図面を参照して具体例によって本発明をより詳細に説明する。
【0020】
図1は、分析装置2及び親水性付与装置3を有する分析機器1の概略図を示している。分析装置2は、特定の応用に適合するように選択された測定技術又は分析技術により測定される液体サンプルを分析するように構成されており、この液体は検査エレメント5の分析領域4に加えられる。例えば、分析装置2は、測定光を分析領域4の方に向けることができる光学測定装置と共に構成される。これにより例えば、測定下における液体の蛍光及び/又は吸収の特性を評価することができる。特定の応用に応じて、分析装置2は液体サンプルの特性を測定するための一種以上の異なる測定原理を用いることができる。
【0021】
液体サンプルが分析領域4でよく拡がることを確保するためには、分析領域4の表面を親水性にする。親水性付与装置3はこの目的で設けられる。親水性付与装置3はプラズマを発生させるプラズマ処理装置を備えており、このプラズマを用いて分析領域4の表面をプラズマ処理することによりその領域を親水性にする。例示した具体例では、検査エレメント5を分析機器1中に挿入した後にこれが生じる。
【0022】
プラズマを発生させる構成素子はいろいろな形態で、特にマイクロシステム又は小型素子として入手できる。例えば、プラズマを発生させるためにマイクロ波技術を使用するマイクロ波プラズマ発生器を挙げることができ、またマイクロシステム技術の分野でよく知られているマイクロプラズマリアクターもある。しかし、他のデザインもさらに、応用に応じてプラズマ発生装置として用いることができる。
【0023】
他の実施形態では、親水性付与装置3は、分析領域内の表面を親水性にするように構成された少なくとも一種の表面処理装置を含み、これは、超音波処理装置、コロナ処理装置、空気イオン化装置、オゾン発生器及びマイクロ波処理装置の表面処理装置の群から選択される。いろいろなデザインで、特に小型デザインで、それ自体利用できる一種以上のこれらの表面処理装置は、分析装置2中のプラズマ発生装置と共に任意に組み合わすことができる。
【0024】
図示の実施形態で例示されているように、プラズマ処理装置を分析機器1中に内蔵するのが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体サンプル、特に体液サンプルを分析するために準備された検査エレメント(5)の分析領域(4)に液体サンプルを加えた後その液体サンプルを分析するように構成された分析装置(2)、及び検査エレメント(5)の作製のために分析領域(4)内の表面を親水性にするように構成された親水性付与装置(3)により、液体サンプル、特に体液サンプル中の分析物を測定する装置。
【請求項2】
親水性付与装置(3)が、親水性化の間分析領域(4)内の表面をプラズマで処理するように構成されたプラズマ処理装置を含むことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
プラズマ処理装置がマイクロ波プラズマ発生器を有することを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
プラズマ処理装置がマイクロプラズマリアクターを有することを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
親水性付与装置(3)が分析領域(4)内の表面を親水性にするように構成された表面処理装置を含んでおり、該表面処理装置が、超音波処理装置、コロナ処理装置、空気イオン化装置、オゾン発生器及びマイクロ波処理装置からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
親水性付与装置(3)が親水性付与用のマイクロ装置であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
分析装置(2)及び親水性付与装置(3)が分析機器(1)の内蔵素子として形成されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
分析機器(1)を用いて液体サンプル、特に体液サンプル中の分析物を測定する方法であって、該方法が次の工程:
・液体サンプルの準備、
・液体サンプルの分析用に準備された検査エレメント(5)の分析領域(4)への、液体サンプルの添加、
・分析機器(1)中に組み込まれた分析装置(2)による液体サンプルの分析
を含んでおり、液体サンプルを添加する前に、該分析領域(4)内の表面を親水性付与装置(3)によって親水性にする、前記方法。
【請求項9】
親水性付与装置(3)中に組み込まれたプラズマ処理装置を用いてプラズマで表面処理することによって、分析領域(4)内の表面を親水性にすることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
検査エレメント(5)を導入した後に、分析機器(1)中で分析領域(4)内の表面を親水性にすることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
分析領域(4)内の表面を、マイクロ波プラズマ発生器によって提供されるプラズマで処理することを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
分析領域(4)内の表面を、マイクロプラズマリアクターによって提供されるプラズマで処理することを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
親水性付与装置(3)中に組み込まれた表面処理装置のユニットによって、分析領域内の表面を親水性にし、該表面処理装置が、超音波処理装置、コロナ処理装置、空気イオン化装置、オゾン発生器及びマイクロ波処理装置からなる群より選択されることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
血液サンプルが分析される分析領域(4)に血液サンプルを加えることによって血液サンプルを測定することを特徴とする、請求項8〜13のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−71992(P2010−71992A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214623(P2009−214623)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】