説明

液体中のVOC捕集用シリンジおよびそれを用いた液体中のVOC捕集方法

【課題】本発明は、操作が簡便で熟練度を要せず、また、比較的短時間で効率よく環境水中のVOCの捕集が可能な、液体中のVOC捕集用シリンジおよびそれを用いた液体中のVOC捕集方法を提供することを目的とする。
【解決手段】、少なくとも、シリンジ針(5)と、円筒状でシリンジ針(5)接続口とシリンジプランジャー(4a)接続口を有するシリンジ本体(1)と、前記シリンジプランジャー(4a)接続口より挿入され、シリンジ本体(1)内の液体を吸引及び排出するためのシリンジプランジャー(4a)と、前記シリンジ本体(1)内に設置され、円筒状であり、中空部に捕集体(3)と濾過フィルター(5)を有するカセット(2)と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体採取用シリンジに濾過機能を有したフィルター及び液体捕集用カセットを取り付けることにより、環境水中のVOCを簡易に濾過し捕集することができる液体中のVOC捕集用シリンジおよびそれを用いた液体中のVOC捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境水中のVOCを分析する方法としては、 密封可能なバイアル瓶の上部に気液平衡状態となった気相のVOCから一定量をガスタイトシリンジで採取しガスクロマトグラフ−質量分析計(以下GC-MS)に導入し分析する方法(非特許文献1)がある。また、ガラス製容器に採取した試料の適量(0.5-2.5ml)をガスタイトシリンジを用いてパージ容器に注入し、パージ容器を高温槽に入れ試料の温度を一定にした後、不活性ガスをパージガスとして一定量通気し、試料中に含まれる測定対象物質であるVOCを気相に移動させトラップ管で捕集を行い、その後トラップ管からVOCを脱離し、冷却凝縮装置で冷却凝縮させた後、加熱しキャリアーガスでVOCをGC-MSに送り込み分析する方法(非特許文献2)がある。
【0003】
以下に先行技術文献を示す。
【非特許文献1】“3−1−2−1−2 ヘッドスペース-GC-MS”、[online]、平成17年 特許庁標準技術集 質量分析技術(マススペクトロメトリー)224〜225頁、[平成19年10月3日検索]、インターネット<URL:http://www.jpo.go.jp/siryou/index.htm>
【非特許文献2】“3−1−2−1−1 パージトラップ-GC-MS”、[online]、平成17年 特許庁標準技術集 質量分析技術(マススペクトロメトリー)223頁、[平成19年10月3日検索]、インターネット<URL:http://www.jpo.go.jp/siryou/index.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記、従来の環境水中のVOCの分析方法には、下記の問題点がある。すなわち、河川、海、排水などの環境水を捕集する際、濾過をせずに直接試料をGC/MSに導入すると環境水中に含まれる固形成分が導入経路の汚染、カラムの目詰まり、ひいては検出器部への汚染などの影響を及ぼす。そのため、これらの固形成分を除去した後、目的に応じた抽出方法を行いGC/MSに導入する必要がある。また、溶媒などを使用するため、試料は濾過した後、採取現場で直接分析を行うことは困難で、実験室等に持ち帰り、濾過抽出作業を行いGC-MS分析するのが一般的であり、また、濾過抽出作業に時間が掛かると試料中のVOCが飛散してしまうことも考えられ、作業に熟練を要する。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、操作が簡便で熟練度を要せず、また、溶媒等を必要とせず比較的短時間で効率よく環境水中のVOC捕集ができる、液体中のVOC捕集用シリンジおよびそれを用いた液体液体中のVOC捕集方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、本発明の請求項1の発明
は、少なくとも、シリンジ針と、シリンジ針接続口とシリンジプランジャー接続口を有する円筒状のシリンジ本体と、前記シリンジプランジャー接続口より挿入されシリンジ本体内の液体を吸引及び排出するためのシリンジプランジャーと、前記シリンジ本体内に設置され円筒状であり中空部に捕集体を有するカセットと、カセットに連結された濾過フィルターとを有することを特徴とする液体中の揮発性有機化合物(以下VOC)捕集用シリンジである。
【0007】
本発明の請求項2の発明は、請求項1に記載の液体中のVOC捕集用シリンジにおいて、捕集体が、磁石を内包するガラス製攪拌子の外側にポリジメチルシロキサン(PDMS)を塗布されてなり、カセットの一部に磁性を有する金属が設置され、吸引する液体を濾過する濾過フィルターが設置されていることを特徴とする液体中のVOC捕集用シリンジである。
【0008】
本発明の請求項3の発明は、請求項1〜2のいずれか1項に記載の液体捕集用シリンジにおいて、カセットは捕集体部とフィルター部が連結され容易に分離することが可能であることを特徴とする液体中のVOC捕集用シリンジである。
【0009】
本発明の請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体中のVOC捕集用シリンジで、カセットの中空部に固定された捕集体が1個以上であることを特徴とする液体中のVOC捕集用シリンジである。
【0010】
本発明の請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体中のVOC捕集用シリンジを用いることを特徴とする液体中のVOC捕集方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体中のVOC捕集用シリンジおよびそれを用いた液体中のVOC捕集方法によれば、少なくとも、シリンジ針と、シリンジ針接続口とシリンジプランジャー接続口を有する円筒状のシリンジ本体と、前記シリンジプランジャー接続口より挿入されシリンジ本体内の液体を吸引及び排出するためのシリンジプランジャーと、前記シリンジ本体内に設置され円筒状であり中空部に捕集体を有するカセットと、カセットに連結された濾過フィルターとを有することを特徴とする液体中のVOC捕集用シリンジにより、液体中のVOCの捕集を簡易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の液体中のVOC捕集用シリンジの1実施例を示す側面概略図であり、図2は本発明の液体中のVOC捕集用シリンジのシリンジ本体の1実施例を示す側面断面図であり、図3は本発明の液体中のVOC捕集用シリンジのカセットと濾過フィルター装着時の1実施例を示す側面断面図であり、図4は図2、図3に示すA−A’断面図であり、図5は本発明の液体中のVOC捕集用シリンジのカセットと濾過フィルターの組立て図であり、図6は本発明の液体中のVOC捕集用シリンジの環境水捕集時の1実施例を示す側面概略図である。
【0014】
本発明の1実施例の液体中のVOC捕集用シリンジは、図1に示すように、少なくとも、シリンジ針(6)と、円筒状でシリンジ針(6)接続口とシリンジプランジャー(4a)の接続口を有するシリンジ本体(1)と、前記シリンジプランジャー(4a)接続口より挿入されシリンジ本体(1)内の液体を吸引及び排出するためのシリンジプランジャー(4a)と、図2に示すように、前記シリンジ本体(1)内に設置され円筒状であり中空部に捕集体(3)と、濾過フィルター(5)を有するカセット(2)とを有している。前
記シリンジ針(6)には気密性を高めるための開閉コック(7)が付いていることが望ましい。
また、捕集体(3)と濾過フィルター(5)がセットされたカセット(2)は、図3に示すように、カセット装着用プランジャー(4b)で、シリンジ本体(1)に取り付けることが、好ましく行なわれる。
【0015】
前記捕集体(3)は、磁石を内包するガラス製攪拌子の外側にポリジメチルシロキサン(PDMS)を塗布されてなり、前記カセット(2)の一部に磁性を有する金属(8)が設置されている。また、前記カセット(2)の中空部に固定された捕集体(3)は、図4に示すように、1個でも複数個でも必要に応じて決めればよい。ただし、捕集体、例えばTwister(商品名:GERSTEL社製)をジクロロメンタン、クロロホルムなどの塩素化合物に、長時間浸漬することは好ましくなく、これらの成分を多く含んでいるものを捕集するときは注意を要する。
【0016】
カセット(2)に連結が可能な濾過フィルター(5)は容易に分離できることが望ましい。例えば、図5に示すように取り付け取り外しが容易に行えるようネジ込み式で連結がなされる構造が挙げられる。
【0017】
以上のような構造を有する液体中のVOC捕集用シリンジを用いて、図6に示すように、環境水(10)が入ったビーカー(9)に直接シリンジ針(6)を差しこんで、液体の吸引を行うことにより、環境水を濾過してその中に含まれるVOCを捕集することが可能である。
【0018】
前記カセット(2)本体の材質としては、四フッ化エチレン樹脂、ガラス、プラスチック製が望ましく、中空部は、捕集体(3)の不要な移動を防止するために、溝あるいは、凹部を有し、また、カセット(2)を安全に取り外しできるようにネジ部が設けられた構造であり、磁性を有する金属(8)は捕集体(3)が安定して固定できるように、かつカセット(2)の取り付け取り外し時に、シリンジ本体(1)内側を傷つけることのないようにカセット(2)外部に取り付けられることが望ましい。
【0019】
濾過フィルター(5)の材質としては、四フッ化エチレン樹脂、ガラス、プラスチック製が望ましく、フィルター孔の内径は環境水中の固形成分を効果的に濾過できる、0.1〜1.0μmで、カセット(2)と連結と分離が簡便にできるネジ式の構造が望ましい。
【0020】
シリンジプランジャー(4a)側の径は、取り付け取り外し時に比較的、楽な力でセットできるような径であることが望ましい。
【0021】
カセット(2)をセットするカセット装着用プランジャー(4b)は、プラスチック、ガラス、四フッ化エチレン樹脂製が望ましく、取り付け、取り外し時に折れないような強度が必要であり、また、カセットネジ部を削ることのないような硬度であることが望ましい。
【0022】
カセット(2)に取り付ける金属は、捕集体(3)が安定して固定できる磁性を有していればよく、必要以上に強くあるいは大きくする必要はない。また、該カセット(2)の外壁に接着剤で金属を固定する方法は、固定するとき接着剤からのガスの発生があり得るので、金属をカセット本体に埋め込むタイプが望ましい。
【0023】
前記捕集体(3)を安定して固定するための、カセット(2)内側の溝あるいは、凹部は、捕集体(3)よりやや大きい方が望ましいが、カセット(2)に取り付ける金属(8)により安定して固定することが出来れば設ける必要はない。
【0024】
液体中のVOCを捕集した後、該カセット(2)から取り出した捕集体(3)は、通常、専用のガラスチューブに捕集体(3)を入れ、GERSTEL製のパージアンドトラップ装置にセットし、加熱により捕集体(3)から脱着したガスのGC/MS分析を実施することで、捕集成分の定性、定量を行う。
【0025】
該シリンジは濾過フィルター(5)以外洗浄を行うことで再利用が可能である。一度使用された濾過フィルター(5)は廃棄することが望ましい。
【0026】
GC/MSとしては、シリンジカセットより回収した捕集体(3)をガスクロマトグラフのガス流路系に直接接続し、充填管を加熱してガス成分を脱着することができる前処理装置が付帯されている装置が望ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の液体中のVOC捕集用シリンジを用いた液体中のVOC捕集方法について、具体的に実施例を挙げて、さらに詳しく説明する。
<実施例1>
本発明の液体中のVOC捕集用シリンジ(捕集体は1個)を用いて、メタノールで希釈された多種のVOC成分を混合(各成分濃度70ppm相当)した検水5mlを室温(およそ25℃)の環境下で吸引した後、捕集体をVOC捕集シリンジから取りだし、GERSTEL製のパージアンドトラップ装置にセットし加熱することでガスを脱着し、GC/MSにて捕集されているガス成分の分析をした。
【0028】
以下に、本発明の比較例について説明する。
<比較例1>
実施例1において、70ppm相当の多種のVOC成分を混合した検水5mlを20ml容量のバイアル瓶に入れ密封した後、35℃の環境下で30分静置した後、ヘッドスペース部をガスタイトシリンジで1ml捕集しGC-MSにて分析した。
<比較結果>
操作が簡便で熟練度を要せず、また、溶媒等を必要とせず比較的短時間で効率よく環境水中のVOC捕集ができることが、下記のデータテーブル(表1)で示すように、実施例1と比較例1のVOC面積値比較の結果において、検出されたすべての成分のピーク面積値が、実施例1の方が20倍相当大きく設定混合比率に近い結果が感度よく得られていることで確認された。
【0029】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の液体中のVOC捕集用シリンジの1実施例を示す側面概略図である。
【図2】本発明の液体中のVOC捕集用シリンジのシリンジ本体の1実施例を示す側面断面図である。
【図3】本発明の液体中のVOC捕集用シリンジのカセットと濾過フィルター装着時の1実施例を示す側面断面図である。
【図4】図2、図3に示すA−A’断面図である。
【図5】図3に示すカセット部と濾過フィルター部の組立て図である。
【図6】本発明の液体中のVOC捕集用シリンジの環境水捕集時の1実施例を示す側面概略図である。
【符号の説明】
【0031】
1・・・シリンジ本体
2・・・カセット
3・・・捕集体
4a・・・シリンジプランジャー
4b・・・カセット装着用プランジャー
5・・・濾過フィルター
6・・・シリンジ針
7・・・開閉コック
8・・・磁性を有する金属
9・・・ビーカー
10・・・環境水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、シリンジ針と、シリンジ針接続口とシリンジプランジャー接続口を有する円筒状のシリンジ本体と、前記シリンジプランジャー接続口より挿入されシリンジ本体内の液体を吸引及び排出するためのシリンジプランジャーと、前記シリンジ本体内に設置され円筒状であり中空部に捕集体を有するカセットと、カセットに連結された濾過フィルターとを有することを特徴とする液体中の揮発性有機化合物(以下VOC)捕集用シリンジ。
【請求項2】
捕集体が、磁石を内包するガラス製攪拌子の外側にポリジメチルシロキサン(PDMS)を塗布されてなり、カセットの一部に磁性を有する金属が設置され、濾過フィルターは吸引する液体を濾過することを特徴とする請求項1に記載の液体中のVOC捕集用シリンジ。
【請求項3】
捕集体部とフィルター部が容易に分離することが可能であるように連結されていることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の液体中のVOC捕集用シリンジ。
【請求項4】
カセットの中空部に固定された捕集体が1個以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体中のVOC捕集用シリンジ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のVOC捕集用シリンジを用いて液体中のVOC を捕集することを特徴とする液体中のVOC捕集方法。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−103557(P2009−103557A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274951(P2007−274951)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】