説明

液体供給系の脱気装置及びそれを備えたインクジェット印刷装置

【課題】絶対圧力計を用いることなく、気圧変動の影響を回避して絶対圧における正確な目標圧で減圧を行うことができ、過剰減圧による脱気対象への悪影響を抑制できる。
【解決手段】制御部59は、減圧ポンプ57により最大能力で減圧タンク43内の減圧を行う。相対圧力計53の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と、減圧ポンプ57の絶対値基準の到達圧との差分を、最大到達圧相対圧に加算した値を目標相対圧として、制御部は減圧ポンプ57を制御する。したがって、仕様により既知である減圧ポンプ57による到達圧を基準するので、絶対圧力計を用いることなく装置周囲の気圧変動の影響を回避できる。その結果、絶対圧における正確な目標圧で減圧を行うことができ、過剰減圧に起因するインクへの悪影響を抑制でき、ノズル配管31からノズル33へ供給されるインクによる印刷を好適に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体プロセスに用いられる純水や、印刷に用いられるインクなどの液体中に存在する気体を除去する液体供給系の脱気装置及びそれを備えたインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、気体の透過速度が異なり、直列接続された第1の膜モジュール及び第2の膜モジュールと、それぞれの膜モジュールに形成された脱気口から減圧を行う真空ポンプとを備えたものが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
第1の膜モジュール及び第2の膜モジュールは、脱気口を介して真空ポンプにより減圧される。そして、液体を第1の膜モジュールに通水した後、気体の透過速度が第1の膜モジュールよりも小さな第2の膜モジュールに通水することにより、効率的に脱気を行うことができるようになっている。なお、減圧は、各モジュールの気相側に設けられた圧力計により圧力が測定され、その圧力が目標値になるように制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−296005号公報(図1,図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の装置は、現在の圧力が圧力計で測定されているが、絶対圧を計測できる絶対圧力計は非常に高価である。そこで、相対圧による圧力測定を行う一般的な相対圧力計が用いられている。したがって、台風などの気象的影響や、標高が2000mを超える高地のような地理的影響を受ける恐れがある。これらの要因によって装置周囲の気圧が低下する変動が生じると、装置の設計時に想定した基準となる大気圧が低下するので、圧力の目標値が設計時よりも実質的に低下する。換言すると、従来の装置は、装置周囲の気圧変動の影響を受けるので、正確に絶対圧の目標圧に減圧できないという問題がある。
【0006】
因みに、液体は、固有の飽和蒸気圧を有するので、飽和蒸気圧より低い圧力にまで減圧すると、液体が気化する現象が生じる。例えば、印刷用のインクを脱気する場合には、溶媒が蒸発してインクが変質するという不都合が生じる。したがって、脱気は、減圧できればよいというものではなく、脱気対象の液体の飽和蒸気圧より低くならない圧力で減圧を行うことが重要である。
【0007】
なお、上述した絶対圧とは、完全真空のときの圧力をゼロ(基準)として測定した圧力(=ゲージ圧力+大気圧)である。また、上述した相対圧とは、大気圧をゼロ(基準)として測定した圧力である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、絶対圧力計を用いることなく、気圧変動の影響を回避して絶対圧における正確な目標圧で減圧を行うことができ、過剰減圧による脱気対象への悪影響を抑制できる液体供給系の脱気装置及びそれを備えたインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、液体を供給する前に液体に存在する気体を除去する液体供給系の脱気装置において、液体が流通され、脱気口を介して減圧されることにより液体に存在する気体を除去する脱気モジュールと、前記脱気モジュールに脱気対象である液体を供給する供給管と、前記脱気モジュールの脱気口に一端側が連通接続された減圧配管と、前記減圧配管に設けられた開閉弁と、前記減圧配管の他端側に連通接続された減圧タンクと、前記減圧タンク内を減圧する減圧ポンプと、前記減圧タンク内の圧力を測定する相対圧力計と、前記開閉弁を閉止した状態で前記減圧ポンプにより最大能力で減圧を行った後、前記相対圧力計の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と前記減圧ポンプの絶対値基準の到達圧との差分を、前記最大到達相対圧に加算した値を目標相対圧として前記減圧ポンプを制御しながら前記開閉弁を開放する制御部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、制御部は、開閉弁を閉止した状態で減圧ポンプにより最大能力で減圧タンク内の減圧を行う。減圧タンク内の圧力は、減圧ポンプの仕様である到達圧まで低下する。このときの相対圧力計の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と、減圧ポンプの絶対値基準の到達圧との差分を、最大到達圧相対圧に加算した値を目標相対圧として、制御部は減圧ポンプを制御する。したがって、仕様により既知である減圧ポンプによる到達圧を基準とし、減圧タンクの減圧を行って開閉弁を開放して脱気モジュールによる脱気を行うことになるので、絶対圧力計を用いることなく装置周囲の気圧変動の影響を回避することができる。その結果、絶対圧における正確な目標圧で減圧を行うことができ、過剰減圧に起因する液体への悪影響を抑制できる。
【0011】
また、本発明において、前記制御部は、前記供給管から前記脱気モジュールに液体が流通されているときだけ、前記開閉弁を開放することが好ましい(請求項2)。
【0012】
脱気モジュールに供給管から液体が供給されていない状態で脱気を継続すると、徐々に溶媒が揮発して液体が変質する恐れがある。そこで、脱気モジュールに液体が流通されているときだけ開閉弁を開放して脱気することで、そのような不都合を防止できる。
【0013】
また、本発明において、前記減圧ポンプの絶対値基準の到達圧を予め記憶した記憶手段をさらに備え、前記制御部は、前記記憶手段の前記到達圧を参照することが好ましい(請求項3)。
【0014】
減圧ポンプの仕様にあわせて記憶手段の到達圧を変えることができるので、減圧ポンプを交換したとしても、同様の効果を得ることができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、インクジェットヘッドのノズルからインクを打滴して印刷用紙に印刷を行うインクジェット印刷装置において、インクが流通され、脱気口を介して減圧されることによりインクに存在する気体を除去する脱気モジュールと、前記脱気モジュールに脱気対象であるインクを供給する供給管と、前記脱気モジュールと前記ノズルとを連通接続したノズル配管と、前記脱気モジュールの脱気口に一端側が連通接続された減圧配管と、前記減圧配管に設けられた開閉弁と、前記減圧配管の他端側に連通接続された減圧タンクと、前記減圧タンク内を減圧する減圧ポンプと、前記減圧タンク内の圧力を測定する相対圧力計と、前記開閉弁を閉止した状態で前記減圧ポンプにより最大能力で減圧を行った後、前記相対圧力計の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と前記減圧ポンプの絶対値基準の到達圧との差分を、前記最大到達相対圧に加算した値を目標相対圧として前記減圧ポンプを制御しながら前記開閉弁を開放し、前記供給管から前記脱気モジュールにインクを供給してインクの脱気を行いつつ前記ノズル配管から前記インクジェットヘッドの各ノズルにインクを供給する制御部と、を備えているものである。
【0016】
[作用・効果]請求項4に記載の発明によれば、制御部は、開閉弁を閉止した状態で減圧ポンプにより最大能力で減圧タンク内の減圧を行う。減圧タンク内の圧力は、減圧ポンプの仕様である到達圧まで低下する。このときの相対圧力計の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と、減圧ポンプの絶対値基準の到達圧との差分を、最大到達圧相対圧に加算した値を目標相対圧として、制御部は減圧ポンプを制御する。したがって、仕様により既知である減圧ポンプによる到達圧を基準とし、減圧タンクの減圧を行って開閉弁を開放して脱気モジュールによる脱気を行うことになるので、絶対圧力計を用いることなく装置周囲の気圧変動の影響を回避することができる。その結果、絶対圧における正確な目標圧で減圧を行うことができ、過剰減圧に起因するインクへの悪影響を抑制でき、ノズル配管からノズルへ供給されるインクによる印刷を好適に行うことができる。
【0017】
また、本発明において、前記制御部は、前記供給管から前記脱気モジュールにインクが流通されているときだけ、前記開閉弁を開放することが好ましい(請求項5)。
【0018】
脱気モジュールに供給管からインクが供給されていない状態で脱気を継続すると、徐々に溶媒が揮発してインクが変質する恐れがある。そこで、脱気モジュールにインクが流通されているときだけ開閉弁を開放して脱気することで、そのような不都合を防止できる。
【0019】
また、本発明において、前記減圧ポンプの絶対値基準の到達圧を予め記憶した記憶手段をさらに備え、前記制御部は、前記記憶手段の前記到達圧を参照することが好ましい(請求項6)。
【0020】
減圧ポンプの仕様にあわせて記憶手段の到達圧を変えることができるので、減圧ポンプを交換したとしても、同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る液体供給系の脱気装置によれば、制御部は、開閉弁を閉止した状態で減圧ポンプにより最大能力で減圧タンク内の減圧を行う。減圧タンク内の圧力は、減圧ポンプの仕様である到達圧まで低下する。このときの相対圧力計の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と、減圧ポンプの絶対値基準の到達圧との差分を、最大到達圧相対圧に加算した値を目標相対圧として、制御部は減圧ポンプを制御する。したがって、仕様により既知である減圧ポンプによる到達圧を基準とし、減圧タンクの減圧を行って脱気モジュールによる脱気を行うことになるので、絶対圧力計を用いることなく装置周囲の気圧変動の影響を回避できる。その結果、絶対圧における正確な目標圧で減圧を行うことができ、過剰減圧に起因する液体への悪影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図である。
【図2】液体供給系の脱気装置を示すブロック図である。
【図3】液体供給系の脱気装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。
図1は、実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図である。
【0024】
本実施例に係るインクジェット印刷システムは、給紙部1と、インクジェット印刷装置3と、排紙部5とを備えている。給紙部1は、例えば、印刷対象であるロール状の連続紙WPを供給する。インクジェット印刷装置3は、供給された連続紙WPに対して印刷を行う。排紙部5は、印刷された連続紙WPをロール状に巻き取る。
【0025】
給紙部1は、ロール状の連続紙WPを水平軸周りに回転可能に保持し、インクジェット印刷装置3に対して連続紙WPを巻き出して供給する。排紙部5は、インクジェット印刷装置3で印刷された連続紙WPを水平軸周りに巻き取る。連続紙WPの供給側を上流とし、連続紙WPの排紙側を下流とすると、給紙部1はインクジェット印刷装置3の上流側に配置され、排紙部5はインクジェット印刷装置3の下流側に配置されている。
【0026】
インクジェット印刷装置3は、給紙部1からの連続紙WPを取り込むための駆動ローラ7を上流側に備えている。駆動ローラ7によって給紙部1から巻き出された連続紙WPは、複数個の搬送ローラ9に沿って下流側の排紙部5に向かって搬送される。最下流の搬送ローラ9と排紙部5との間には、駆動ローラ11が配置されている。この駆動ローラ11は、搬送ローラ9上を搬送されている連続紙WPを排紙部5に向かって送り出す。
【0027】
インクジェット印刷装置3は、駆動ローラ7と駆動ローラ11との間に、印刷ユニット13と、乾燥部15と、検査部17とを上流側から順に備えている。乾燥部15は、印刷ユニット13によって印刷された部分の乾燥を行う。検査部17は、印刷された部分に汚れや抜け等がないかについて検査する。
【0028】
印刷ユニット13は、インク滴を吐出するインクジェットヘッド19を備えている。印刷ユニット13は、一般的には、連続紙WPの搬送方向に沿って複数個配置されている。例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)イエロー(Y)について個別に4個の印刷ユニット13を備えている。但し、以下の説明においては、発明の理解を容易にするために、1個の印刷ユニット13だけを備えているものとする。また印刷ユニット13は、連続紙WPの搬送方向と直交する水平方向(幅方向)にも複数個のインクジェットヘッド19を備えている。印刷ユニット13は、連続紙WPの幅方向における印刷領域を移動することなく印刷できるだけのインクジェットヘッド19を連続紙WPの幅方向に複数個備えている。つまり、本実施例におけるインクジェット印刷装置3は、インクジェットヘッド19が連続紙WPの搬送方向に直交する水平方向に主走査のために移動することがなく、位置固定のままで連続紙WPを送りながら連続紙WPに対して印刷を行う。この方式は、1パス方式と呼ばれる。
【0029】
ここで、図2を参照して印刷ユニット13における液体供給系の脱気装置について説明する。なお、図2は、液体供給系の脱気装置を示すブロック図である。
【0030】
脱気モジュール23は、液体中の気体を除去するための機能を有する。具体的には、例えば、合成樹脂からなる中空糸を束ねてハウジングに内蔵し、中空糸束の外部を脱気口25を介して減圧し、注入口27から注入された液体から気体を除去する。また、脱気モジュール23は、注入口27と連通し、脱気された液体を供給する供給口29を備えている。なお、本実施例では、液体は印刷用のインクである。
【0031】
脱気モジュール23は、その供給口29とインクジェットヘッド19とがノズル配管31で連通接続されている。ノズル配管31は、インクジェットヘッド19の複数個のノズル33に連通接続され、脱気されたインクを供給される。
【0032】
脱気モジュール23の注入口27には、供配管35の一端側が連通接続されている。供給管35の他端側は、インクタンク37に連通接続されている。供給管35には、液送ポンプ39が設けられている。この液送ポンプ39は、インクタンク37に貯留しているインクを脱気モジュール23の注入口27に圧送する。
【0033】
脱気モジュール23の脱気口25には、減圧配管41の一端側が連通接続されている。減圧配管41の他端側は、減圧タンク43に連通接続されている。減圧配管41には、減圧弁45が設けられている。減圧タンク43には、大気連通管47の一端側が連通接続されており、大気連通管47の他端側は大気に開放されている。大気連通管47には、呼吸弁49が設けられている。
【0034】
なお、上記の減圧弁45が本発明における「開閉弁」に相当する。
【0035】
減圧タンク43は、内部の相対圧力を測定する圧力測定配管51が延出されている。この圧力測定配管51には、相対圧力計53が設けられている。相対圧力計53は、減圧タンク43の内部の相対圧力(ゲージ圧)を逐次測定し、その相対圧力値を出力する。
【0036】
また、減圧タンク43は、排気管55の一端側が連通接続されている。排気管55の他端側には、減圧ポンプ57が連通接続されている。また、排気管55には、操作弁58が設けられている。
【0037】
上述した液送ポンプ39と、減圧弁45と、呼吸弁49と、減圧ポンプ57と、操作弁58とは、制御部59により操作される。制御部59は、CPUなどで構成されている。制御部59には、メモリ61が接続されている。本発明における「記憶手段」に相当するメモリ61は、減圧ポンプ57の仕様上における到達圧を予め記憶されている。この到達圧は、減圧ポンプ57を最大能力で作動させた場合に、最大で減圧することができる仕様上の減圧度を表す。つまり、減圧ポンプ57を動作させると、これ以上は減圧できないという限界値を表す。到達圧は絶対圧であり、この実施例では、例えば、2.5kPa(絶対圧)である。また、メモリ61は、減圧タンク43の減圧の目標である目標絶対圧も予め記憶されている。ここでは、目標絶対圧は、例えば、6kPaである。
【0038】
制御部59の制御について簡単に説明する。制御部59は、まず液送ポンプ39を停止させた状態で、減圧弁45及び呼吸弁49を閉止させ、操作弁58を開放させる。そして、減圧ポンプ57を作動させる。この作動は、減圧ポンプ57の最大能力で行われる。したがって、減圧タンク43の内部圧力は、減圧ポンプ57の到達圧(例えば、2.5kPa(絶対圧))となる。制御部59は、そのときの圧力を相対圧力計53から読み出す。この圧力が例えば、相対圧力で−98.5kPaであったとする。制御部59は、この圧力を最大到達相対圧とし、メモリ61の目標絶対圧と到達圧(絶対圧)との差分を求める。目標絶対圧は、到達圧(絶対値)よりも高い圧力である。制御部59は、この差分を、最大到達相対圧(つまり、絶対値の到達圧に相当する)に加算して、これを目標相対圧とする。制御部59は、相対圧力計53の圧力が目標相対圧となるように、減圧ポンプ57を制御する。そして、圧力計53の圧力が目標相対圧となった時点、あるいは目標相対圧となって安定した時点で、減圧弁45を開放するとともに、液送ポンプ39を作動させ、ノズル33から脱気されたインクを吐出させる。
【0039】
次に、図3を参照して、上述したインクジェット印刷システムにおける液体供給系の脱気装置21の動作について説明する。なお、図3は、液体供給系の脱気装置の動作を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS1
制御部59は、減圧弁45及び呼吸弁49を閉止する。
【0041】
ステップS2,S3
制御部59は、減圧ポンプ57を最大能力で作動させる。これにより、減圧タンク43の内部が減圧ポンプ57の到達圧(2.5kPa)まで減圧される。減圧タンク43内の圧力が到達圧に達する時間は、減圧ポンプ43の容積や、減圧ポンプ43の能力などにより異なる。したがって、工場出荷前に絶対圧力計を減圧タンク43に一時的に取り付けておき、その状態で到達圧に達する時間を測定しておく。そして、到達時間に余裕時間を加えて、その時間を到達圧到達時間としてメモリ61に予め記憶させておき、制御部59が減圧ポンプ43の動作開始から到達圧到達時間に達した時点で次の処理に移行するようにすればよい。
【0042】
なお、本実施例における減圧ポンプ43のように真空到達度が高いものを用いた場合には、減圧弁45を閉止せずに減圧を開始すると、脱気モジュール23内に貯留しているインクが脱気される。すると、減圧タンク43内の圧力が安定しないので、減圧弁45の閉止は必要である。
【0043】
ステップS4〜S6
制御部59は、目標相対圧を求める。目標相対圧は、予めメモリ61に記憶されている目標絶対圧と、減圧ポンプ57の絶対値基準の到達圧の差分を、ステップS3後の相対圧力計53の圧力である最大到達相対圧に加算することで求められる。この値を目標相対圧として、制御部59は、相対圧力計53の圧力が目標相対圧となるように減圧ポンプ57を操作する。そして、相対圧力計53の圧力が目標相対圧に一致した場合には、次の処理に移行する。
【0044】
ステップS7,S8
制御部59は、減圧弁45を開放し、次いで液送ポンプ39を作動させる。これにより、液送ポンプ39からインクタンク37のインクが脱気モジュール23に圧送され、脱気された後にノズル33から吐出される。
【0045】
ここで、減圧タンク43の圧力制御例について示す。上述したように、減圧ポンプ57の到達圧は2.5kPa(絶対圧)であるとし、目標絶対圧は6kPaであるとする。
【0046】
通常時:大気圧は101kPa(絶対圧)であるとする。
減圧ポンプ57で最大に減圧したときの相対圧力計53の圧力(最大到達相対圧)が−98.5kPaであるとする。したがって、目標相対圧は、目標絶対圧(6kPa)と到達圧(2.5kPa)との差分(3.5kPa)を、最大到達相対圧(−98.5kPa)に加算した−95kPaとなる。つまり、最大到達相対圧を到達圧(絶対値)に換算して目標相対圧を定める。
【0047】
台風時:大気圧は95kPa(絶対圧)であるとする。
最大到達相対圧が−92.5kPaとなるので、目標相対圧は、−92.5kPa+3.5kPa=89kPaとなる。
【0048】
標高2000mの高地:大気圧は79.5kPa(絶対圧)であるとする。
最大到達相対圧が−77kPaとなるので、目標相対圧は、−77kPa+3.5kPa=73.5kPaとなる。
【0049】
上述したように本実施例装置によると、制御部59は、減圧弁45及び呼吸弁49を閉止した状態で減圧ポンプ57により最大能力で減圧タンク43内の減圧を行う。減圧タンク43内の圧力は、減圧ポンプ57の仕様である到達圧まで低下する。このときの相対圧力計53の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と、減圧ポンプ57の絶対値基準の到達圧との差分を、最大到達圧相対圧に加算した値を目標相対圧として、制御部は減圧ポンプ57を制御する。したがって、仕様により既知である減圧ポンプ57による到達圧を基準とし、減圧タンク43の減圧を行って減圧弁45を開放して脱気モジュール23による脱気を行うことになるので、絶対圧力計を用いることなく装置周囲の気圧変動の影響を回避できる。その結果、絶対圧における正確な目標圧で減圧を行うことができ、過剰減圧に起因するインクへの悪影響を抑制でき、ノズル配管31からノズル33へ供給されるインクによる印刷を好適に行うことができる。
【0050】
また、一般的に、脱気モジュール23に供給管35からインクが供給されていない状態で脱気を継続すると、脱気モジュール23に滞留しているインクから徐々に溶媒が揮発してインクが変質する恐れがある。しかし、本実施例装置では、脱気モジュール23にインクが流通されるときにだけ減圧弁45を開放して脱気することで、そのような不都合を防止できる。
【0051】
また、本実施例装置は、減圧ポンプ57の絶対値基準の到達圧を予めメモリ61に記憶させている。したがって、減圧ポンプ47の仕様に合わせて到達圧を変更することができ、減圧ポンプ57の故障等により、仕様が異なる減圧ポンプ57に交換しても同様の効果を奏することができる。
【0052】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0053】
(1)上述した実施例では、インクジェット印刷システムのインクジェット印刷装置3における液体供給系の脱気装置21を例に採った。しかしながら、本発明はインクジェット印刷装置3における液体供給系の脱気装置21に限定されるものではなく、例えば、純水供給装置等の液体の脱気装置にも適用することができる。
【0054】
(2)上述した実施例では、脱気モジュール23にインクが供給されるときにだけ脱気を行っているが、常時脱気を行うようにしてもよい。これにより制御を簡易化することができる。
【0055】
(3)上述した実施例では、メモリ61を備えて減圧ポンプ57の到達圧を記憶させており、書き換え可能な構成とした。しかし、減圧ポンプ57を同一仕様のもの以外に交換しない場合には、メモリ61の到達圧を書き換え可能にする必要はない。
【符号の説明】
【0056】
3 … インクジェット印刷システム
19 … インクジェットヘッド
21 … 液体供給系の脱気装置
23 … 脱気モジュール
25 … 脱気口
29 … 供給口
31 … ノズル配管
33 … ノズル
35 … 供給管
37 … インクタンク
39 … 液送ポンプ
41 … 減圧配管
43 … 減圧タンク
45 … 減圧弁
47 … 大気連通管
49 … 呼吸弁
53 … 相対圧力計
55 … 排気管
57 … 減圧ポンプ
59 … 制御部
61 … メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を供給する前に液体に存在する気体を除去する液体供給系の脱気装置において、
液体が流通され、脱気口を介して減圧されることにより液体に存在する気体を除去する脱気モジュールと、
前記脱気モジュールに脱気対象である液体を供給する供給管と、
前記脱気モジュールの脱気口に一端側が連通接続された減圧配管と、
前記減圧配管に設けられた開閉弁と、
前記減圧配管の他端側に連通接続された減圧タンクと、
前記減圧タンク内を減圧する減圧ポンプと、
前記減圧タンク内の圧力を測定する相対圧力計と、
前記開閉弁を閉止した状態で前記減圧ポンプにより最大能力で減圧を行った後、前記相対圧力計の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と前記減圧ポンプの絶対値基準の到達圧との差分を、前記最大到達相対圧に加算した値を目標相対圧として前記減圧ポンプを制御しながら前記開閉弁を開放する制御部と、
を備えていることを特徴とする液体供給系の脱気装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体供給系の脱気装置において、
前記制御部は、前記供給管から前記脱気モジュールに液体が流通されているときだけ、前記開閉弁を開放することを特徴とする液体供給系の脱気装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体供給系の脱気装置において、
前記減圧ポンプの絶対値基準の到達圧を予め記憶した記憶手段をさらに備え、
前記制御部は、前記記憶手段の前記到達圧を参照することを特徴とする液体供給系の脱気装置。
【請求項4】
インクジェットヘッドのノズルからインクを打滴して印刷用紙に印刷を行うインクジェット印刷装置において、
インクが流通され、脱気口を介して減圧されることによりインクに存在する気体を除去する脱気モジュールと、
前記脱気モジュールに脱気対象であるインクを供給する供給管と、
前記脱気モジュールと前記ノズルとを連通接続したノズル配管と、
前記脱気モジュールの脱気口に一端側が連通接続された減圧配管と、
前記減圧配管に設けられた開閉弁と、
前記減圧配管の他端側に連通接続された減圧タンクと、
前記減圧タンク内を減圧する減圧ポンプと、
前記減圧タンク内の圧力を測定する相対圧力計と、
前記開閉弁を閉止した状態で前記減圧ポンプにより最大能力で減圧を行った後、前記相対圧力計の圧力を最大到達相対圧とし、予め設定されている目標絶対圧と前記減圧ポンプの絶対値基準の到達圧との差分を、前記最大到達相対圧に加算した値を目標相対圧として前記減圧ポンプを制御しながら前記開閉弁を開放し、前記供給管から前記脱気モジュールにインクを供給してインクの脱気を行いつつ前記ノズル配管から前記インクジェットヘッドの各ノズルにインクを供給する制御部と、
を備えていることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット印刷装置において、
前記制御部は、前記供給管から前記脱気モジュールにインクが流通されているときだけ、前記開閉弁を開放することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のインクジェット印刷装置において、
前記前記減圧ポンプの絶対値基準の到達圧を予め記憶した記憶手段をさらに備え、
前記制御部は、前記記憶手段の前記到達圧を参照することを特徴とするインクジェット印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−71038(P2013−71038A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210826(P2011−210826)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】