液体光学素子及びその制御方法
【課題】EW方式の駆動ポンプ部の駆動力を用いた液体レンズなどの液体光学素子において、電極の絶縁膜と液体との摩擦により低下しやすい駆動速度を高速化する技術を提供する。
【解決手段】液体光学素子は、光学有効部と複数の駆動ポンプ部108を有する。駆動ポンプ部は、不混和な液体101、102間の界面103b、103c、103 dの端部を保持する保持部106と、保持部に対して配置された絶縁電極104を有する。電極に印加される電圧を制御することで電極104に接する界面の端部を変位させて液体を移動させることにより、各駆動ポンプ部から連通して存在する液体101、102を含む複数の液体が存在する光学有効部の状態を変化させて光学特性が変化させられる。
【解決手段】液体光学素子は、光学有効部と複数の駆動ポンプ部108を有する。駆動ポンプ部は、不混和な液体101、102間の界面103b、103c、103 dの端部を保持する保持部106と、保持部に対して配置された絶縁電極104を有する。電極に印加される電圧を制御することで電極104に接する界面の端部を変位させて液体を移動させることにより、各駆動ポンプ部から連通して存在する液体101、102を含む複数の液体が存在する光学有効部の状態を変化させて光学特性が変化させられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー可変素子などの光学素子、特に液体を用いてパワーを変化させる液体レンズなどの液体光学素子及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1つの素子で光学的パワーを変化させるパワー可変素子が数多く提案されている。その中で2つの液体の界面を変化させる液体レンズは、偏光依存性がない等の優れた特性を有する。界面を変化させる手法としては、外部にポンプを有しそのポンプで内部の液体の量を変化させるものや、エレクトロウェッティング(以下EWともいう)現象を用いるものなどがある。ここでEW現象は、図14(a)、(b)に示す様に、2つの液体を導電性液体2001と非導電性液体2002で構成し、導電性液体2001と電極2003との間に絶縁膜2004を介して電圧を印加し、液体と絶縁膜との間の接触角αを変化させるものである。このEW現象における液体の駆動力は、印加する電圧と、2つの液体2001、2002と絶縁膜2004の3つが接する部分の長さ(以下接線長ともいう)とに比例して大きくなる。また、EW現象を用いた別の例として、EW現象により、封止された2つの液体を移動させて両者の界面の形状を変化させ、この界面を含むレンズ有効部の光学パワーを変化させる液体レンズが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2に記載の発明では、駆動ポンプ部においてEW現象を用いて2つの液体の界面を変位させ、これによりレンズ有効部の両液体の界面の位置を制御して透過光の位相を変化させている。このとき、EW現象で液体を移動させる力を増大するために、電極を分割して電極の数を増やし、結果として駆動ポンプ部の接線長を増加させ、EW現象による駆動力を増やしている。また、特許文献3に記載の発明では、液体レンズの高速駆動を実現するために、レンズ部をフレネルレンズ化し、フレネルレンズの各リングに電極を配置している。この様な電極配置にすることで、特許文献2の発明と同様、液体全体の量に対する接線長を長くし、駆動力を増大させて高速駆動を実現可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】EP1870741A1
【特許文献2】特開2010−79297号公報
【特許文献3】特表2007−519025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EW現象は、図14(c)に示す様に、電圧を印加することで界面の接触角αを増大させるものである。しかし、電圧が低い領域では、図14(c)に示す様に、印加電圧に対し接触角αは殆ど変化しない(すなわち不感帯を持つ)。この理由は、2つの液体と該液体の接する絶縁膜との間の摩擦によるものと考えられる。この摩擦のため、低い電圧では界面駆動が低速になる現象が生じる。このため、微小な焦点距離変化を与えたい場合ほど、駆動が低速になってしまう。逆に、高い電圧(閾値より十分に大きい電圧)を印加すると、静止摩擦を乗り越えられるため、非常に高速な駆動が可能になる。また、接触角αの変化には、立ち上がり時と立下り時で異なる変化態様を示す所謂ヒステリシスが存在する。このヒステリシスは絶縁膜と2つの液体の物性に依存しており、完全に無くすことは困難である。
【0006】
本発明は、これらの課題に鑑み、摩擦力による応答速度低下を十分無視できる程に大きな電圧を含む離散的な電圧の印加を行いながら、微小な光学特性(焦点距離など)の変化から比較的大きな光学特性の変化までを与えることが可能な技術を提供する。また、この技術を用いて印加電圧制御を適切にすることで、液体や絶縁膜の物性に関わらず、ヒステリシスの低減を行うことが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体光学素子は、光学特性を変化させる機能を担う光学有効部と複数の駆動ポンプ部を有する。各駆動ポンプ部は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、保持部に対して配置され導電性及び非導電性の液体に対して絶縁された電極とを有する。そして、電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェッティング現象により、電極に接する界面の端部を変位させて、保持部と電極によって挟持された導電性及び非導電性の液体を移動させる。このことにより、各駆動ポンプ部から連通して存在する前記導電性及び非導電性の液体を含む少なくとも二種類の非混合の液体が存在する光学有効部の状態を変化させて光学特性が変化させられる。さらに、各駆動ポンプ部の電極に印加する電圧を、動作範囲内にある少なくとも2つの離散的な電圧値とし、複数の駆動ポンプ部の電極への印加電圧をそれぞれ独立に制御することにより光学有効部にある界面の状態を変化させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、EW現象により、連通する光学有効部と複数の駆動ポンプ部との間で液体を移動させ、光学有効部にある液体界面の状態を変化させる液体レンズなどの液体光学素子において、各駆動ポンプ部の電極への印加電圧を、複数の離散的な電圧値とする。そして、この印加電圧をそれぞれ独立に制御する。したがって、ほぼ全ての光学特性可変範囲(焦点距離可変範囲など)での高速駆動を実現することができる。さらに、印加電圧の制御を適切にすれば、ほぼ全ての光学特性可変範囲においてヒステリシスの低減を行うことも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】液体光学素子の第1実施例の液体レンズの断面図。
【図2】第1実施例の液体レンズの正面図。
【図3】第1実施例における、駆動ポンプ部の数の違いによる印加電圧と光学パワーの関係の違い及び印加電圧と光学パワーの関係の別の例を表す図。
【図4】第2実施例の液体レンズを示す図。
【図5】印加電圧と光学パワーの関係におけるヒステリシスを表す図。
【図6】第2実施例の電極構造の別の例、及び第3実施例の液体レンズを示す正面図。
【図7】第3実施例の液体レンズの、駆動ポンプ部の駆動個数と光学パワーの関係図。
【図8】第3実施例におけるEW駆動ポンプ部の動作を表す模式図。
【図9】第3実施例の液体レンズの別の例、及び駆動ポンプ部の駆動方法の例を示す図。
【図10】第4実施例のデジタルビデオカメラの構成、及びウォブリングの駆動方法を説明する図。
【図11】第5実施例のデジタルスチルカメラの外観及びブロック構成を示す図。
【図12】第6実施例のカメラ付き携帯電話のブロック構成図。
【図13】第7実施例の監視カメラの外観及びそのブロック構成を示す図。
【図14】EW現象による接触角の変化、及びEW現象における印加電圧と接触角変化の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特徴は、液体光学素子の駆動ポンプ部に印加する電圧を動作範囲内にある複数の離散的な電圧とし、電圧を印加する複数の駆動ポンプ部をそれぞれ独立に制御することにより光学有効部にある界面の状態を変化させることである。ここで、動作範囲の電圧とは、光学有効部にある界面の状態を有効に確立できる範囲内の電圧値ということであり、典型的には、0と閾値以上かつ破壊電圧以下の電圧である。ただし、破壊電圧に対しては或る程度余裕を持つことが通常であるので、その余裕を考慮した電圧となる。また、駆動ポンプ部では2つの液体の間に界面が形成されて、該界面を移動させて2液体を動かし、駆動ポンプ部と連通する光学有効部の界面の状態を変化させる訳であるが、光学有効部の界面は前記2液体の間で形成されてもよいし、例えば、前記2液体の間に、2液体とは非混合である他の液体を挟み込む形で界面を形成してもよい。また、光学特性を変化させる機能を担う光学有効部は、後述のレンズ機能を有するものの他に種々のものであり得て、駆動ポンプ部から連通して存在する前記2液体の状態の変化で達成できる機能であれば、どの様な機能(例えば、透過光の位相変調、強度変調など)を担うものでもよい。こうした構成の液体光学素子では、複数の駆動ポンプ部への印加電圧として、0及び閾値以上の値から適切に選択すれば、不感帯を避けられて、比較的高速で、小さな光学特性の変化から大きな光学特性の変化までの変化を実現することができる。また、アナログ的(連続的)な電圧印加でなくデジタル的(2値選択的)な電圧印加であるため、結果としてヒステリシスの発生を抑制することができる。以上の考え方に基づいて、本発明の液体光学素子は、上記課題を解決するための手段のところで述べた基本的な構成を有する。また、こうした液体光学素子の制御方法では、複数の駆動ポンプ部の電極への印加電圧を、それぞれ、動作範囲内にある少なくとも2つの離散的な電圧値から選んで、独立に制御する。
【0011】
以下、図を用いて具体的な実施例を説明する。
(第1実施例)
図1と図2を用いて、本発明における第1実施例の説明を行う。図1と図2において、2つの液体(一方が導電性液体、他方が非導電性液体)101、102の界面103のうち、103aが光学特性可変機能を担う光学有効部の界面を構成する。そして、103b、103c及び103dが液体の移動を発生させる部分(以下EW駆動ポンプ部または駆動ポンプ部ともいう)を構成する。ここでEW駆動ポンプ部108a〜108cは、液体界面103b、103c、103d、電極104a、104b、104c、液体に対して電極を絶縁する絶縁膜105、及び突起106b、106c、106dにより構成されている。例えば、電極104aに電圧を印加すると、液体界面103bと絶縁膜105の接触角が変化する。ここで、液体界面103bは、その一方の端を突起106aに接触させてある。液体界面103bは、これの端部を保持する保持部である突起106aにより固定されているため、この端部の位置は移動しない。これに対し、電極104bの側にある液体界面103bの端部は、電圧の印加により絶縁膜105との接触角が変化する。このプロセスの結果、例えば、図1(a)の状態から図1(b)の状態へ液体界面103bの位置が変化する。このとき、液体を密封して収容する筺体107内にある液体101、102の総量は一定のため、液体に流れ(矢印参照)が生じる。この流れにより、光学有効部にあり端部が突起109により固定された界面103aに圧力が加わり、この界面103aの形状が変化する。以上の様に、本実施例の液体光学素子は、光学有効部と複数の駆動ポンプ部を有する。そして、各駆動ポンプ部は、互いに不混和な2液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、保持部に対して配置され2液体に対して絶縁された電極を有する。電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェッティング(EW)現象により、電極に接する界面の端部を変位させて、保持部と電極で挟持された2液体を移動させることにより、各駆動ポンプ部から連通して存在する前記2液体を含む少なくとも二種類の非混合の液体が存在する光学有効部の状態を変化させて光学特性が変化させられる。
【0012】
図2の様に、光学有効部(界面)103aの外側にEW駆動ポンプ部108a〜108cは配置される。駆動ポンプ部の配置は光学有効部(界面)103aの外側であればどこでも構わないが、液体の流れを考えると、なるべく光学有効部に近いことが望ましい。また、本実施例では、駆動ポンプ部108a〜108cそれぞれの大きさは等しく、同じ電圧で駆動させた場合の液体の流量は等しいものとする。尚、図2のA-Aにおける断面図が図1の断面図である。
【0013】
ここで、光学有効部における界面103aの形状を微小に変化させる場合を考える。界面103aの変化による液体レンズの光学パワーの変化は、電極104a〜104cに印加した電圧と、液体を駆動させるEW駆動ポンプ部の個数に比例するものと仮定する(図3(a)参照)。図3(a)の様に、或る光学パワー変化φを与える場合、EW駆動ポンプ部1個(例えば、108aだけ)を動かす場合には、必要な印加電圧はV1となる。これに対し、3つのEW駆動ポンプ部108a〜108cを動作させる場合には、V1より小さな電圧V2を印加する。このとき、3つのEW駆動ポンプ部全てに電圧を印加する場合、図3(a)の様に閾値Vtを僅かに超えた程度の電圧を印加することになる。この閾値Vtは、2つの液体101、102と絶縁膜105の物性によって決まる値であり、この両者の間に働く静止摩擦力に依存する。このため、電圧V2を与えた場合と電圧V1を与えた場合では、静止摩擦力をより大きな力で超えられる電圧V1を与えた場合の方が、より高速に界面が移動し、結果としてより高速なレンズ駆動を達成できる。
【0014】
図1の様に電極の数が3つと少ない場合、与える電圧が0とV1だけの場合には、液体レンズは、初期状態を含め4つの光学パワー状態にしか変化させることができない。このため、図3(b)の様に、0、V1、V3の様に3つ以上の電圧を離散的に与えて電圧状態を変化させてもかまわない。この様に離散的に電圧を与えることで、液体レンズの取り得る光学パワーの数を増加させることができる。このとき、与える電圧は閾値Vtより大きく、可能であれば閾値Vtの1.2倍以上の電圧値を選ぶことが望ましい。また、与える電圧に0Vを含まない形でも構わない。例えば、0でない電圧V4、V5を選んで駆動させても構わない。
【0015】
以上の説明から分かる様に、液体流量の小さいEW駆動ポンプ部を多数配置し、それら駆動ポンプ部を閾値Vtより十分大きい大電圧で駆動させることで、液体レンズの高速駆動を達成することができる。さらには、小さな光学特性の変化も大きな光学特性の変化も実現することができる。より具体的には、例えば、印加電圧制御部で、光学パワーの各値と各駆動ポンプ部の印加電圧の値との対応を表すテーブルを記憶しておいて、装置全体を制御する制御部から或る値の光学パワーが要求されたら、テーブルを参照して、その光学パワーに対応する電圧を各駆動ポンプ部に印加する、といった印加電圧制御を行う。
【0016】
(第2実施例)
図4を用いて、本発明の第2実施例の説明を行う。図4(a)、(b)は第2実施例における液体レンズの断面図、図4(c)は第2実施例における液体レンズの正面図である。第2実施例では、第1実施例と異なり、EW駆動ポンプ部が、液体レンズの光軸を中心に液体レンズの光学有効部の周りを多層に取り巻く配置となっている。図4に示す様に、光学有効部の界面503aを取り巻く様にリング状のEW駆動ポンプ部508a〜508cが配置されている。EW駆動ポンプ部508a〜508cは、第1実施例のEW駆動ポンプ部と同様、液体界面503b〜503d、電極504a、504b、504c、絶縁膜505、及び突起506a、506b、506cにより構成されている。第1実施例と同様、電極504a〜504cそれぞれに電圧を印加することで液体界面503b〜503dが変化し、密閉筺体507内に収容された液体501、502を押すことで光学有効部の液体界面503aの形状が変化する(図4(b)参照)。
【0017】
この様にEW駆動ポンプ部508a〜508cを光学有効部を取り巻く様に配置することで、光学有効部の界面503aとEW駆動ポンプ部508a〜508cとの間の距離を短くできる。このため、不必要な液体の流れが発生せず、界面503aにスムーズな変化を与えることが可能になる。また、EW駆動ポンプ部508a〜508cがリング状の形状をしているため、液体界面503aに対して等方的に液体の流れが発生する。よって、液体界面503aが球面から大きく外れて変化する(非球面化する)様なことを抑制できる。
【0018】
ここで、電極に印加する電圧を0とV1とした場合、印加電圧と液体レンズの持つ光学パワーの関係は図5の様になる。ここで、もし0とV1以外の電圧V2(0<V2<V1)を与えたとする。このとき、前述した様に、液体レンズには、印加電圧と光学パワーの間にヒステリシスが発生してしまい、立ち上がり時と立下り時で異なる光学パワーを示す(φuとφd)。このヒステリシスは、液体501と液体502、絶縁膜505の材料により発生する接触角θのヒステリシス(前進角・後退角)などに起因する。このヒステリシスを完全に0にすることは困難であり、与える電圧をアナログ的に与えている限り、液体レンズにはヒステリシスが発生してしまう。これに対し、本実施例における液体レンズでは、与える電圧は0とV1(ヒステリシス領域外の電圧)の2つの電圧しか与えない。このため、接触角の前進角・後退角はともに等しい値になり、各駆動ポンプ部の駆動により発生する光学パワーは図5のφ0とφだけとなり、ヒステリシスの発生を抑えることが可能になる。この様に、本実施例では、アナログ的に電圧を印加せずデジタル的な2つの電圧の印加を行うため、中間的な電圧で発生する接触角の差の発生を抑え、結果としてヒステリシスを低減することができる。ただし、3つ以上の電圧をデジタル的に与えるような場合、液体レンズの高速駆動は達成できるが図5の様なヒステリシス(φdとφu)が発生する可能性がある。したがって、要求仕様に応じて、印加電圧制御の態様を決める必要がある。例えば、ヒステリシスを抑制するために、印加電圧の選択範囲は限定されるが、ヒステリシスが小さい領域から選んだ離散的な電圧を印加する制御態様がある。つまり、実施例1の図3(b)に示すように3つ以上の電圧を与える場合、最大、最小になる電圧以外の電圧をヒステリシスの小さい領域から選ぶことで、ヒステリシスの発生を小さくすることが可能となる。
【0019】
ところで、本実施例ではリング状に作製された各電極504a〜504cが繋がった構成をしているが、例えば図6(a)の様に、リング状の電極をさらに電気的に分割し、小さなEW駆動ポンプ部を液体レンズの光軸を中心に点対称に多数構成して夫々を個別に駆動しても構わない。この場合、例えば電極801aから順に、駆動するEW駆動ポンプ部の数を増やしていくことで、ヒステリシスの発生を防ぎながら合計で9状態の光学的パワーを与えることのできる液体レンズを構成できる。もちろん、駆動する順番はこれに限らず、例えばランダムに選択される様にしても構わない。すなわち、例えば、1つ駆動の場合は電極801aのみ、3つ駆動の場合は電極801a,c,dを動かしてもよいし電極801b,g,hや電極801c,d,fを動かしてもよいという様に、動かす駆動ポンプ部の個数だけ合っていればどれを動かしても構わない様にしてもよい。
【0020】
この様にEW駆動ポンプ部をリング状に配置することで、液体の流れを均一化させ、光学有効部の液体界面の形状を崩さず、光学パワー変化を与えることが可能になる。また、0と大電圧といった2つの電圧での駆動を行うことで、ヒステリシスの低減も実現することができる。
【0021】
(第3実施例)
図6(b)を用いて本発明の第3実施例について説明を行う。図6(b)は第3実施例における液体レンズの上面図である。第3実施例は、第2実施例で説明した様なリング状のEW駆動ポンプ部をさらに三角柱状の小さなEW駆動ポンプ部に小分けした構造を有する。図6(b)の様に、光学有効部901を取り囲む様に、電気的に独立な略三角柱状をしたEW駆動ポンプ部902が多数配列される。図6(b)ではEW駆動ポンプ部902が48個並んだ形をしているが、もちろんこの数に限られない。詳しくは、図6(b)の構成では、各三角柱の各斜辺に互いに絶縁された一対の電極があって(1つの三角柱に注目すると、その2つの斜辺にある2つの電極は電気的に繋がっている)、各三角柱の電極が独立に制御される。つまり、本実施例では、駆動ポンプ部は、その界面の形状が三角形状の三角柱状の形状を有し、三角柱状の駆動ポンプ部は、光学有効部の周りに、保持部が配置された三角柱の一面が交互に互い違いに対向面に来るよう配置されている。
【0022】
1つ1つのEW駆動ポンプ部902には大きな電圧V1を与える。EW駆動ポンプ部902は小さいため、送ることのできる液体量は非常に小さい。このため、高い電圧V1を与えながら微小な光学パワー変化を達成することができる。また、EW駆動ポンプ部902は高速な応答が可能になる。さらに、EW駆動ポンプ部902の個数が多いため、EW駆動ポンプ部902の動作個数を制御することで、略連続的に大きな光学パワー変化を与えることもできる。図7はこのことを示している。
【0023】
図8は、小分けされた三角柱状のEW駆動ポンプ部902を1つ取りだし、その動作を表した模式図である。EW駆動ポンプ部902は、第1実施例のEW駆動ポンプ部と同様、2つの液体1101、1102とそれらによる液体界面1103、電極1104、絶縁膜1105、及び突起1106で構成される。図8は、簡単のため、三角柱を成すEW駆動ポンプ部の手前の面を透過する図としているが、本来この面には奥の面と同様に、隣接するEW駆動ポンプ部の電極1104と絶縁膜1105が配置されている。ここで、導電性液体1101と電極1104の間に電圧V1を印加する。すると、液体界面1103と絶縁膜1105との接触角が変化し、液体界面1103が成す三角形の頂点1107の位置が移動する(図8(b)参照)。この結果、液体1102が液体界面1103により押される形になり、矢印の様に液体の流れが生じる。この液体の流れが光学有効部901にある液体界面(不図示)を押すことにより、第1及び第2実施例と同様に液体界面の形状が変化し、光学的パワーの変化を与える。
【0024】
図6(b)の実施例と第二実施例の図4の構造を組み合わせ、図9(a)の様にEW駆動ポンプ部902が多層構造を成す様な構成にしても構わない。また、図9(b)に示す様に、EW駆動ポンプ部を同時に複数個駆動ないし多数駆動させる場合には、光学有効部1301の中心(光軸)に対して点対称な位置にある駆動ポンプ部を動作させることが望ましい。この場合、EW駆動ポンプ部は常に最低2個を同時駆動させる。例えば3個の駆動ポンプ部を動作させる場合には、図9(c)に示す様に、光軸中心に120度点対称にある位置のEW駆動ポンプ部を駆動させる。この様に駆動させることで、各EW駆動ポンプ部による液体の流れを妨げず、かつ光学有効部1301において均一な流れを発生させ、光学有効部1301の液体界面が球面から外れて変化することを抑制できる。
【0025】
この様に、液体流量の小さいEW駆動ポンプ部を多数配置することで、略連続的な光学パワー変化を与えることが可能になる。さらに、光軸の周りに点対称な位置のEW駆動ポンプ部を駆動させることで、液体界面形状を球面のまま変化させることが可能になる。尚、ここまでの第1から第3の実施例における液体レンズは、電圧印加によりEW駆動ポンプ部を駆動すると、光学パワーが大きくなる液体レンズとなっている。しかし、これに限るものでなく、2つの液体の屈折率や界面の曲率を適宜選ぶことで、電圧印加とともに光学パワーが小さくなる液体レンズを構成することもできる。また、第2実施例や第3実施例において、それぞれのEW駆動ポンプ部の大きさを異ならせ、必要な液体の駆動量に合わせて、動かすEW駆動ポンプ部が適宜選択されるなどの構成を取っても構わない。
【0026】
(第4実施例)
図10(a)を用いて本発明の第4実施例について説明する。第4実施例は、本発明の液体光学素子である液体レンズをデジタルビデオカメラに適用した例である。ここで用いている液体レンズは、第3実施例の液体レンズを想定している。
【0027】
本実施例のデジタルビデオカメラでは、画像のピント合わせに際して画像のコントラストを検出し、ピントをずらしながら最もコントラストの高い位置をピント位置として検出する。このとき、大きくピントがずれていた場合、ピント位置を検出するのに時間がかかってしまう。このため、常に小さくピントを移動させ、どちらにピント位置があるかを検出するウォブリングという駆動を行う。ウォブリングでは、撮像素子上で被写界深度以下の幅でピントを前後させ、コントラストの高くなる方にピントを移動させる。ウォブリングの方法としてはレンズや撮像素子を微小移動させる方法が考えられるが、この方法ではモータなどの移動手段や、それらによって発生する音が動画に入り込む可能性がある。これに対し、EW駆動ポンプ部を用いた液体レンズは、可動部が存在しないため、ピントを微小移動させるウォブリング素子として非常に有効に用いることができる。
【0028】
ウォブリング素子として液体レンズを用いた場合の構成図を図10(a)に示す。撮像素子1401上の被写体1402の像1408は、撮像素子1401により電気信号化され、画像処理回路1403に送られる。画像処理回路1403では、得られた画像のコントラストを検出し、被写体1402に対しピントが前にあるのか後ろにあるのかを判断する。このとき、被写体像1408がボケている場合、被写体像1408のコントラストは低い。そこで、図10(b)に示す様に、撮像素子1401で画像を取り込むタイミングと、本発明の液体レンズ1407のピント微小変動のタイミングを同期させる。これにより、図10(c)の様に、現在のピント位置1501の前後での被写体のコントラストを検出できる。このとき、例えば、被写体像1408のベストピント位置が1502であった場合、1502の方向にピントを移動させるほど画像のコントラストは高くなる。このため、液体レンズ1407の光学パワーを微小変動させ、現在のピント位置前後での像のコントラストを計測することで、被写体像1408のピント方向を把握することが可能になる。
【0029】
ここで、被写界深度は、被写体からの光を結像する光学系のF値によって変化する。つまり、被写体が明るい場合には絞りは絞り込まれるため、被写界深度は深くなる。このため、ピントの方向を掴むにはウォブリングでのピント移動量を大きくする必要がある。このため、撮像光学系1404の絞り1405のF値を検出し、液体レンズ駆動回路1406にそのF値の情報を送る。液体レンズ1407は駆動回路1406の信号に合わせ、光学パワーの変動量を変化させる。これにより、撮像素子1401上の像のボケ量が増減される。この光学パワーの変動量は絞り1405のF値に比例し、絞りが開く(暗い場所)の場合は変動量が小さく、絞りが絞られる(明るい場所)の場合は変動量が大きくなる。即ち、被写体が暗い場合には図9におけるEW駆動ポンプ部902は少ない数が駆動され、被写体が明るい場合にはEW駆動ポンプ部902は多くの数が駆動されることになる。このとき、ウォブリングの周波数はビデオのフレームレートの1/2で駆動される。これは2フレームでピント位置を前後に振るためである。即ち、60fpsで動画を撮影する場合、液体レンズ1407の駆動周波数は30Hzとなる。この様な高い周波数で駆動するためにも、EW駆動ポンプ部に高い電圧を与えられる本発明の液体レンズの構成が望ましい。
【0030】
(第5実施例)
図11(a)を用いて、本発明の第5実施例の説明を行う。第5実施例は、本発明の液体光学素子である液体レンズをデジタルスチルカメラに適用した例である。図11(a)は液体レンズを適用したデジタルカメラの外観を示す模式図であり、1601は撮影レンズ、1602はファインダ、1603はフラッシュ発光部、1604はシャッタースイッチである。
【0031】
図11(b)は、図11(a)のデジタルカメラの主要部のブロック図である。図11(b)のデジタルカメラでは、本発明の液体レンズ1702を固体レンズ1701と組み合わせてユニット化して用いており、固体レンズ1701と液体レンズ1702の光学系を経た光は、絞り1703、シャッター1704を経て撮像素子1705に像を結ぶ。液体レンズ1702、絞り1703、シャッター1704はカメラ制御部1706からの制御信号により制御される。図11(b)における他の要素はデジタルカメラにおける一般的なものであるが、以下簡単に説明する。1707は信号処理部でアナログ信号処理を行い、A/D変換器1708でアナログ信号をデジタルに変換する。画像メモリ1709はデジタル信号を格納するメモリであり、画像処理部1710は信号変換、信号補正等を行う。メインCPU1711はデジタルカメラの全動作を制御する。CPU1711はROM1712に格納された制御プログラムの実行により画像処理部1710、カメラ制御部1706等の制御を行う。1713はプログラム実行の作業領域を提供するRAMであり、1714は画素表示部1715に表示させる撮影画像を記憶する画像メモリである。圧縮/伸長処理部1716は画像メモリ1709内の画像情報を符号化し、符号化したデータはI/F1717を介してメモリカード1718に格納される。カメラ制御部1706は操作スイッチ1719からの操作信号に基づき各種動作を実行する。
【0032】
シャッタースイッチ1604が押下されることで、カメラ制御部1706は調光制御部1720に信号を送り、フラッシュ1603を発光させる等の所定の動作がなされる。この際、撮影レンズ1601内に配置された液体レンズ1702は、メインCPU1711からの信号に従い、撮像レンズ1601による像を撮像素子1705上に結ぶよう光学パワーを変化させピント位置を制御する。1721は通信用回路であり、撮影した画像を無線で外部に送信するときなどに用いる。この様に、所謂オートフォーカスに本発明の高速応答可能な液体レンズを適用することにより、高速なオートフォーカスを実現することが可能になる。
【0033】
(第6実施例)
本発明の光学素子である液体レンズをカメラ付き携帯電話の撮影レンズに適用した第6実施例について説明する。図12は、本発明の液体レンズを用いた携帯電話の要部を示す模式図である。図12に示したカメラ付き携帯電話では、カメラ部1801の撮影レンズ部1802の少なくとも一部として本発明の液体レンズ1803を搭載し、CCD等の撮像素子1804に像の焦点が合う様に構成している。本発明の液体レンズは、高速な応答が期待されるので、カメラのオートフォーカス素子として有効性が高い。
【0034】
図12における他の要素はカメラ付き携帯電話における一般的なものであるが、以下簡単に説明する。1805は携帯電話の制御部であり、CPU1806とROM1807を含んで構成される。1808はアンテナ、1809は無線部であり、これらは制御部1805に接続されている。1810はマイク、1811はレシーバ、1812は画像記憶部であり、カメラ1801で撮影された画像は画像記憶部1812に記憶される。1813は操作キーであり、1814はLCD等の表示部、1815はカメラ撮影のシャッターキーである。
【0035】
(第7実施例)
図13を用いて、本発明における第7実施例を説明する。第7実施例は、本発明の液体レンズを監視カメラに適用した例である。図13(a)は、本発明の液体レンズを用いた監視カメラの外観を示す模式図であり、図13(b)は、監視カメラシステムのブロック回路図である。図13(a)において、1901はレンズユニット部、1902は雲台ユニット部、1903はレンズユニット部を覆うカバーである。
【0036】
図13(b)において、レンズユニット部1901を構成するレンズの1つとして本発明の光学素子である液体レンズ1904を組み込んだ点が本実施例の特徴である。図13(b)おいては、固体レンズ群1905、液体レンズ1904、撮像素子1906が光軸に沿って並べられており、撮像素子の出力は増幅器1907を介して映像処理回路1908、フォーカス処理回路1909にそれぞれ接続されている。雲台ユニット1902にはレンズユニット1901の駆動のためのパン方向駆動モータ1910、チルト方向駆動モータ1911が設けられている。映像処理回路1908の出力は雲台ユニット部内のネットワーク処理回路1913に接続され、フォーカス処理回路1909の出力はCPU1912に接続されている。CPU1912の出力はネットワーク処理回路1913を介して外部のLAN1914に接続され、LAN1914にはパーソナルコンピュータ1915が接続されている。また、CPU1912の出力はパン駆動回路1916、チルト駆動回路1917を介して駆動モータ1910、1911に接続され駆動用の信号をこれらに供給する。さらに、CPU1912は液体レンズ駆動回路1918に接続されている。液体レンズ1904は液体レンズ駆動回路1918により駆動され、焦点の調整を行う。本発明の液体レンズは高速応答が可能であるので、本実施例の監視カメラではフォーカスの高速化が図れる。
【符号の説明】
【0037】
101、102・・・液体(導電性液体、非導電性液体)、103a・・・光学有効部の界面、103b、103c、103 d・・・駆動ポンプ部の界面、104a、104b、104c・・・電極、105・・・絶縁膜、106a、106b、106c・・・駆動ポンプ部の突起(界面の端部の保持部)、108a、108b、108c・・・駆動ポンプ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー可変素子などの光学素子、特に液体を用いてパワーを変化させる液体レンズなどの液体光学素子及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1つの素子で光学的パワーを変化させるパワー可変素子が数多く提案されている。その中で2つの液体の界面を変化させる液体レンズは、偏光依存性がない等の優れた特性を有する。界面を変化させる手法としては、外部にポンプを有しそのポンプで内部の液体の量を変化させるものや、エレクトロウェッティング(以下EWともいう)現象を用いるものなどがある。ここでEW現象は、図14(a)、(b)に示す様に、2つの液体を導電性液体2001と非導電性液体2002で構成し、導電性液体2001と電極2003との間に絶縁膜2004を介して電圧を印加し、液体と絶縁膜との間の接触角αを変化させるものである。このEW現象における液体の駆動力は、印加する電圧と、2つの液体2001、2002と絶縁膜2004の3つが接する部分の長さ(以下接線長ともいう)とに比例して大きくなる。また、EW現象を用いた別の例として、EW現象により、封止された2つの液体を移動させて両者の界面の形状を変化させ、この界面を含むレンズ有効部の光学パワーを変化させる液体レンズが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2に記載の発明では、駆動ポンプ部においてEW現象を用いて2つの液体の界面を変位させ、これによりレンズ有効部の両液体の界面の位置を制御して透過光の位相を変化させている。このとき、EW現象で液体を移動させる力を増大するために、電極を分割して電極の数を増やし、結果として駆動ポンプ部の接線長を増加させ、EW現象による駆動力を増やしている。また、特許文献3に記載の発明では、液体レンズの高速駆動を実現するために、レンズ部をフレネルレンズ化し、フレネルレンズの各リングに電極を配置している。この様な電極配置にすることで、特許文献2の発明と同様、液体全体の量に対する接線長を長くし、駆動力を増大させて高速駆動を実現可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】EP1870741A1
【特許文献2】特開2010−79297号公報
【特許文献3】特表2007−519025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EW現象は、図14(c)に示す様に、電圧を印加することで界面の接触角αを増大させるものである。しかし、電圧が低い領域では、図14(c)に示す様に、印加電圧に対し接触角αは殆ど変化しない(すなわち不感帯を持つ)。この理由は、2つの液体と該液体の接する絶縁膜との間の摩擦によるものと考えられる。この摩擦のため、低い電圧では界面駆動が低速になる現象が生じる。このため、微小な焦点距離変化を与えたい場合ほど、駆動が低速になってしまう。逆に、高い電圧(閾値より十分に大きい電圧)を印加すると、静止摩擦を乗り越えられるため、非常に高速な駆動が可能になる。また、接触角αの変化には、立ち上がり時と立下り時で異なる変化態様を示す所謂ヒステリシスが存在する。このヒステリシスは絶縁膜と2つの液体の物性に依存しており、完全に無くすことは困難である。
【0006】
本発明は、これらの課題に鑑み、摩擦力による応答速度低下を十分無視できる程に大きな電圧を含む離散的な電圧の印加を行いながら、微小な光学特性(焦点距離など)の変化から比較的大きな光学特性の変化までを与えることが可能な技術を提供する。また、この技術を用いて印加電圧制御を適切にすることで、液体や絶縁膜の物性に関わらず、ヒステリシスの低減を行うことが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体光学素子は、光学特性を変化させる機能を担う光学有効部と複数の駆動ポンプ部を有する。各駆動ポンプ部は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、保持部に対して配置され導電性及び非導電性の液体に対して絶縁された電極とを有する。そして、電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェッティング現象により、電極に接する界面の端部を変位させて、保持部と電極によって挟持された導電性及び非導電性の液体を移動させる。このことにより、各駆動ポンプ部から連通して存在する前記導電性及び非導電性の液体を含む少なくとも二種類の非混合の液体が存在する光学有効部の状態を変化させて光学特性が変化させられる。さらに、各駆動ポンプ部の電極に印加する電圧を、動作範囲内にある少なくとも2つの離散的な電圧値とし、複数の駆動ポンプ部の電極への印加電圧をそれぞれ独立に制御することにより光学有効部にある界面の状態を変化させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、EW現象により、連通する光学有効部と複数の駆動ポンプ部との間で液体を移動させ、光学有効部にある液体界面の状態を変化させる液体レンズなどの液体光学素子において、各駆動ポンプ部の電極への印加電圧を、複数の離散的な電圧値とする。そして、この印加電圧をそれぞれ独立に制御する。したがって、ほぼ全ての光学特性可変範囲(焦点距離可変範囲など)での高速駆動を実現することができる。さらに、印加電圧の制御を適切にすれば、ほぼ全ての光学特性可変範囲においてヒステリシスの低減を行うことも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】液体光学素子の第1実施例の液体レンズの断面図。
【図2】第1実施例の液体レンズの正面図。
【図3】第1実施例における、駆動ポンプ部の数の違いによる印加電圧と光学パワーの関係の違い及び印加電圧と光学パワーの関係の別の例を表す図。
【図4】第2実施例の液体レンズを示す図。
【図5】印加電圧と光学パワーの関係におけるヒステリシスを表す図。
【図6】第2実施例の電極構造の別の例、及び第3実施例の液体レンズを示す正面図。
【図7】第3実施例の液体レンズの、駆動ポンプ部の駆動個数と光学パワーの関係図。
【図8】第3実施例におけるEW駆動ポンプ部の動作を表す模式図。
【図9】第3実施例の液体レンズの別の例、及び駆動ポンプ部の駆動方法の例を示す図。
【図10】第4実施例のデジタルビデオカメラの構成、及びウォブリングの駆動方法を説明する図。
【図11】第5実施例のデジタルスチルカメラの外観及びブロック構成を示す図。
【図12】第6実施例のカメラ付き携帯電話のブロック構成図。
【図13】第7実施例の監視カメラの外観及びそのブロック構成を示す図。
【図14】EW現象による接触角の変化、及びEW現象における印加電圧と接触角変化の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特徴は、液体光学素子の駆動ポンプ部に印加する電圧を動作範囲内にある複数の離散的な電圧とし、電圧を印加する複数の駆動ポンプ部をそれぞれ独立に制御することにより光学有効部にある界面の状態を変化させることである。ここで、動作範囲の電圧とは、光学有効部にある界面の状態を有効に確立できる範囲内の電圧値ということであり、典型的には、0と閾値以上かつ破壊電圧以下の電圧である。ただし、破壊電圧に対しては或る程度余裕を持つことが通常であるので、その余裕を考慮した電圧となる。また、駆動ポンプ部では2つの液体の間に界面が形成されて、該界面を移動させて2液体を動かし、駆動ポンプ部と連通する光学有効部の界面の状態を変化させる訳であるが、光学有効部の界面は前記2液体の間で形成されてもよいし、例えば、前記2液体の間に、2液体とは非混合である他の液体を挟み込む形で界面を形成してもよい。また、光学特性を変化させる機能を担う光学有効部は、後述のレンズ機能を有するものの他に種々のものであり得て、駆動ポンプ部から連通して存在する前記2液体の状態の変化で達成できる機能であれば、どの様な機能(例えば、透過光の位相変調、強度変調など)を担うものでもよい。こうした構成の液体光学素子では、複数の駆動ポンプ部への印加電圧として、0及び閾値以上の値から適切に選択すれば、不感帯を避けられて、比較的高速で、小さな光学特性の変化から大きな光学特性の変化までの変化を実現することができる。また、アナログ的(連続的)な電圧印加でなくデジタル的(2値選択的)な電圧印加であるため、結果としてヒステリシスの発生を抑制することができる。以上の考え方に基づいて、本発明の液体光学素子は、上記課題を解決するための手段のところで述べた基本的な構成を有する。また、こうした液体光学素子の制御方法では、複数の駆動ポンプ部の電極への印加電圧を、それぞれ、動作範囲内にある少なくとも2つの離散的な電圧値から選んで、独立に制御する。
【0011】
以下、図を用いて具体的な実施例を説明する。
(第1実施例)
図1と図2を用いて、本発明における第1実施例の説明を行う。図1と図2において、2つの液体(一方が導電性液体、他方が非導電性液体)101、102の界面103のうち、103aが光学特性可変機能を担う光学有効部の界面を構成する。そして、103b、103c及び103dが液体の移動を発生させる部分(以下EW駆動ポンプ部または駆動ポンプ部ともいう)を構成する。ここでEW駆動ポンプ部108a〜108cは、液体界面103b、103c、103d、電極104a、104b、104c、液体に対して電極を絶縁する絶縁膜105、及び突起106b、106c、106dにより構成されている。例えば、電極104aに電圧を印加すると、液体界面103bと絶縁膜105の接触角が変化する。ここで、液体界面103bは、その一方の端を突起106aに接触させてある。液体界面103bは、これの端部を保持する保持部である突起106aにより固定されているため、この端部の位置は移動しない。これに対し、電極104bの側にある液体界面103bの端部は、電圧の印加により絶縁膜105との接触角が変化する。このプロセスの結果、例えば、図1(a)の状態から図1(b)の状態へ液体界面103bの位置が変化する。このとき、液体を密封して収容する筺体107内にある液体101、102の総量は一定のため、液体に流れ(矢印参照)が生じる。この流れにより、光学有効部にあり端部が突起109により固定された界面103aに圧力が加わり、この界面103aの形状が変化する。以上の様に、本実施例の液体光学素子は、光学有効部と複数の駆動ポンプ部を有する。そして、各駆動ポンプ部は、互いに不混和な2液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、保持部に対して配置され2液体に対して絶縁された電極を有する。電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェッティング(EW)現象により、電極に接する界面の端部を変位させて、保持部と電極で挟持された2液体を移動させることにより、各駆動ポンプ部から連通して存在する前記2液体を含む少なくとも二種類の非混合の液体が存在する光学有効部の状態を変化させて光学特性が変化させられる。
【0012】
図2の様に、光学有効部(界面)103aの外側にEW駆動ポンプ部108a〜108cは配置される。駆動ポンプ部の配置は光学有効部(界面)103aの外側であればどこでも構わないが、液体の流れを考えると、なるべく光学有効部に近いことが望ましい。また、本実施例では、駆動ポンプ部108a〜108cそれぞれの大きさは等しく、同じ電圧で駆動させた場合の液体の流量は等しいものとする。尚、図2のA-Aにおける断面図が図1の断面図である。
【0013】
ここで、光学有効部における界面103aの形状を微小に変化させる場合を考える。界面103aの変化による液体レンズの光学パワーの変化は、電極104a〜104cに印加した電圧と、液体を駆動させるEW駆動ポンプ部の個数に比例するものと仮定する(図3(a)参照)。図3(a)の様に、或る光学パワー変化φを与える場合、EW駆動ポンプ部1個(例えば、108aだけ)を動かす場合には、必要な印加電圧はV1となる。これに対し、3つのEW駆動ポンプ部108a〜108cを動作させる場合には、V1より小さな電圧V2を印加する。このとき、3つのEW駆動ポンプ部全てに電圧を印加する場合、図3(a)の様に閾値Vtを僅かに超えた程度の電圧を印加することになる。この閾値Vtは、2つの液体101、102と絶縁膜105の物性によって決まる値であり、この両者の間に働く静止摩擦力に依存する。このため、電圧V2を与えた場合と電圧V1を与えた場合では、静止摩擦力をより大きな力で超えられる電圧V1を与えた場合の方が、より高速に界面が移動し、結果としてより高速なレンズ駆動を達成できる。
【0014】
図1の様に電極の数が3つと少ない場合、与える電圧が0とV1だけの場合には、液体レンズは、初期状態を含め4つの光学パワー状態にしか変化させることができない。このため、図3(b)の様に、0、V1、V3の様に3つ以上の電圧を離散的に与えて電圧状態を変化させてもかまわない。この様に離散的に電圧を与えることで、液体レンズの取り得る光学パワーの数を増加させることができる。このとき、与える電圧は閾値Vtより大きく、可能であれば閾値Vtの1.2倍以上の電圧値を選ぶことが望ましい。また、与える電圧に0Vを含まない形でも構わない。例えば、0でない電圧V4、V5を選んで駆動させても構わない。
【0015】
以上の説明から分かる様に、液体流量の小さいEW駆動ポンプ部を多数配置し、それら駆動ポンプ部を閾値Vtより十分大きい大電圧で駆動させることで、液体レンズの高速駆動を達成することができる。さらには、小さな光学特性の変化も大きな光学特性の変化も実現することができる。より具体的には、例えば、印加電圧制御部で、光学パワーの各値と各駆動ポンプ部の印加電圧の値との対応を表すテーブルを記憶しておいて、装置全体を制御する制御部から或る値の光学パワーが要求されたら、テーブルを参照して、その光学パワーに対応する電圧を各駆動ポンプ部に印加する、といった印加電圧制御を行う。
【0016】
(第2実施例)
図4を用いて、本発明の第2実施例の説明を行う。図4(a)、(b)は第2実施例における液体レンズの断面図、図4(c)は第2実施例における液体レンズの正面図である。第2実施例では、第1実施例と異なり、EW駆動ポンプ部が、液体レンズの光軸を中心に液体レンズの光学有効部の周りを多層に取り巻く配置となっている。図4に示す様に、光学有効部の界面503aを取り巻く様にリング状のEW駆動ポンプ部508a〜508cが配置されている。EW駆動ポンプ部508a〜508cは、第1実施例のEW駆動ポンプ部と同様、液体界面503b〜503d、電極504a、504b、504c、絶縁膜505、及び突起506a、506b、506cにより構成されている。第1実施例と同様、電極504a〜504cそれぞれに電圧を印加することで液体界面503b〜503dが変化し、密閉筺体507内に収容された液体501、502を押すことで光学有効部の液体界面503aの形状が変化する(図4(b)参照)。
【0017】
この様にEW駆動ポンプ部508a〜508cを光学有効部を取り巻く様に配置することで、光学有効部の界面503aとEW駆動ポンプ部508a〜508cとの間の距離を短くできる。このため、不必要な液体の流れが発生せず、界面503aにスムーズな変化を与えることが可能になる。また、EW駆動ポンプ部508a〜508cがリング状の形状をしているため、液体界面503aに対して等方的に液体の流れが発生する。よって、液体界面503aが球面から大きく外れて変化する(非球面化する)様なことを抑制できる。
【0018】
ここで、電極に印加する電圧を0とV1とした場合、印加電圧と液体レンズの持つ光学パワーの関係は図5の様になる。ここで、もし0とV1以外の電圧V2(0<V2<V1)を与えたとする。このとき、前述した様に、液体レンズには、印加電圧と光学パワーの間にヒステリシスが発生してしまい、立ち上がり時と立下り時で異なる光学パワーを示す(φuとφd)。このヒステリシスは、液体501と液体502、絶縁膜505の材料により発生する接触角θのヒステリシス(前進角・後退角)などに起因する。このヒステリシスを完全に0にすることは困難であり、与える電圧をアナログ的に与えている限り、液体レンズにはヒステリシスが発生してしまう。これに対し、本実施例における液体レンズでは、与える電圧は0とV1(ヒステリシス領域外の電圧)の2つの電圧しか与えない。このため、接触角の前進角・後退角はともに等しい値になり、各駆動ポンプ部の駆動により発生する光学パワーは図5のφ0とφだけとなり、ヒステリシスの発生を抑えることが可能になる。この様に、本実施例では、アナログ的に電圧を印加せずデジタル的な2つの電圧の印加を行うため、中間的な電圧で発生する接触角の差の発生を抑え、結果としてヒステリシスを低減することができる。ただし、3つ以上の電圧をデジタル的に与えるような場合、液体レンズの高速駆動は達成できるが図5の様なヒステリシス(φdとφu)が発生する可能性がある。したがって、要求仕様に応じて、印加電圧制御の態様を決める必要がある。例えば、ヒステリシスを抑制するために、印加電圧の選択範囲は限定されるが、ヒステリシスが小さい領域から選んだ離散的な電圧を印加する制御態様がある。つまり、実施例1の図3(b)に示すように3つ以上の電圧を与える場合、最大、最小になる電圧以外の電圧をヒステリシスの小さい領域から選ぶことで、ヒステリシスの発生を小さくすることが可能となる。
【0019】
ところで、本実施例ではリング状に作製された各電極504a〜504cが繋がった構成をしているが、例えば図6(a)の様に、リング状の電極をさらに電気的に分割し、小さなEW駆動ポンプ部を液体レンズの光軸を中心に点対称に多数構成して夫々を個別に駆動しても構わない。この場合、例えば電極801aから順に、駆動するEW駆動ポンプ部の数を増やしていくことで、ヒステリシスの発生を防ぎながら合計で9状態の光学的パワーを与えることのできる液体レンズを構成できる。もちろん、駆動する順番はこれに限らず、例えばランダムに選択される様にしても構わない。すなわち、例えば、1つ駆動の場合は電極801aのみ、3つ駆動の場合は電極801a,c,dを動かしてもよいし電極801b,g,hや電極801c,d,fを動かしてもよいという様に、動かす駆動ポンプ部の個数だけ合っていればどれを動かしても構わない様にしてもよい。
【0020】
この様にEW駆動ポンプ部をリング状に配置することで、液体の流れを均一化させ、光学有効部の液体界面の形状を崩さず、光学パワー変化を与えることが可能になる。また、0と大電圧といった2つの電圧での駆動を行うことで、ヒステリシスの低減も実現することができる。
【0021】
(第3実施例)
図6(b)を用いて本発明の第3実施例について説明を行う。図6(b)は第3実施例における液体レンズの上面図である。第3実施例は、第2実施例で説明した様なリング状のEW駆動ポンプ部をさらに三角柱状の小さなEW駆動ポンプ部に小分けした構造を有する。図6(b)の様に、光学有効部901を取り囲む様に、電気的に独立な略三角柱状をしたEW駆動ポンプ部902が多数配列される。図6(b)ではEW駆動ポンプ部902が48個並んだ形をしているが、もちろんこの数に限られない。詳しくは、図6(b)の構成では、各三角柱の各斜辺に互いに絶縁された一対の電極があって(1つの三角柱に注目すると、その2つの斜辺にある2つの電極は電気的に繋がっている)、各三角柱の電極が独立に制御される。つまり、本実施例では、駆動ポンプ部は、その界面の形状が三角形状の三角柱状の形状を有し、三角柱状の駆動ポンプ部は、光学有効部の周りに、保持部が配置された三角柱の一面が交互に互い違いに対向面に来るよう配置されている。
【0022】
1つ1つのEW駆動ポンプ部902には大きな電圧V1を与える。EW駆動ポンプ部902は小さいため、送ることのできる液体量は非常に小さい。このため、高い電圧V1を与えながら微小な光学パワー変化を達成することができる。また、EW駆動ポンプ部902は高速な応答が可能になる。さらに、EW駆動ポンプ部902の個数が多いため、EW駆動ポンプ部902の動作個数を制御することで、略連続的に大きな光学パワー変化を与えることもできる。図7はこのことを示している。
【0023】
図8は、小分けされた三角柱状のEW駆動ポンプ部902を1つ取りだし、その動作を表した模式図である。EW駆動ポンプ部902は、第1実施例のEW駆動ポンプ部と同様、2つの液体1101、1102とそれらによる液体界面1103、電極1104、絶縁膜1105、及び突起1106で構成される。図8は、簡単のため、三角柱を成すEW駆動ポンプ部の手前の面を透過する図としているが、本来この面には奥の面と同様に、隣接するEW駆動ポンプ部の電極1104と絶縁膜1105が配置されている。ここで、導電性液体1101と電極1104の間に電圧V1を印加する。すると、液体界面1103と絶縁膜1105との接触角が変化し、液体界面1103が成す三角形の頂点1107の位置が移動する(図8(b)参照)。この結果、液体1102が液体界面1103により押される形になり、矢印の様に液体の流れが生じる。この液体の流れが光学有効部901にある液体界面(不図示)を押すことにより、第1及び第2実施例と同様に液体界面の形状が変化し、光学的パワーの変化を与える。
【0024】
図6(b)の実施例と第二実施例の図4の構造を組み合わせ、図9(a)の様にEW駆動ポンプ部902が多層構造を成す様な構成にしても構わない。また、図9(b)に示す様に、EW駆動ポンプ部を同時に複数個駆動ないし多数駆動させる場合には、光学有効部1301の中心(光軸)に対して点対称な位置にある駆動ポンプ部を動作させることが望ましい。この場合、EW駆動ポンプ部は常に最低2個を同時駆動させる。例えば3個の駆動ポンプ部を動作させる場合には、図9(c)に示す様に、光軸中心に120度点対称にある位置のEW駆動ポンプ部を駆動させる。この様に駆動させることで、各EW駆動ポンプ部による液体の流れを妨げず、かつ光学有効部1301において均一な流れを発生させ、光学有効部1301の液体界面が球面から外れて変化することを抑制できる。
【0025】
この様に、液体流量の小さいEW駆動ポンプ部を多数配置することで、略連続的な光学パワー変化を与えることが可能になる。さらに、光軸の周りに点対称な位置のEW駆動ポンプ部を駆動させることで、液体界面形状を球面のまま変化させることが可能になる。尚、ここまでの第1から第3の実施例における液体レンズは、電圧印加によりEW駆動ポンプ部を駆動すると、光学パワーが大きくなる液体レンズとなっている。しかし、これに限るものでなく、2つの液体の屈折率や界面の曲率を適宜選ぶことで、電圧印加とともに光学パワーが小さくなる液体レンズを構成することもできる。また、第2実施例や第3実施例において、それぞれのEW駆動ポンプ部の大きさを異ならせ、必要な液体の駆動量に合わせて、動かすEW駆動ポンプ部が適宜選択されるなどの構成を取っても構わない。
【0026】
(第4実施例)
図10(a)を用いて本発明の第4実施例について説明する。第4実施例は、本発明の液体光学素子である液体レンズをデジタルビデオカメラに適用した例である。ここで用いている液体レンズは、第3実施例の液体レンズを想定している。
【0027】
本実施例のデジタルビデオカメラでは、画像のピント合わせに際して画像のコントラストを検出し、ピントをずらしながら最もコントラストの高い位置をピント位置として検出する。このとき、大きくピントがずれていた場合、ピント位置を検出するのに時間がかかってしまう。このため、常に小さくピントを移動させ、どちらにピント位置があるかを検出するウォブリングという駆動を行う。ウォブリングでは、撮像素子上で被写界深度以下の幅でピントを前後させ、コントラストの高くなる方にピントを移動させる。ウォブリングの方法としてはレンズや撮像素子を微小移動させる方法が考えられるが、この方法ではモータなどの移動手段や、それらによって発生する音が動画に入り込む可能性がある。これに対し、EW駆動ポンプ部を用いた液体レンズは、可動部が存在しないため、ピントを微小移動させるウォブリング素子として非常に有効に用いることができる。
【0028】
ウォブリング素子として液体レンズを用いた場合の構成図を図10(a)に示す。撮像素子1401上の被写体1402の像1408は、撮像素子1401により電気信号化され、画像処理回路1403に送られる。画像処理回路1403では、得られた画像のコントラストを検出し、被写体1402に対しピントが前にあるのか後ろにあるのかを判断する。このとき、被写体像1408がボケている場合、被写体像1408のコントラストは低い。そこで、図10(b)に示す様に、撮像素子1401で画像を取り込むタイミングと、本発明の液体レンズ1407のピント微小変動のタイミングを同期させる。これにより、図10(c)の様に、現在のピント位置1501の前後での被写体のコントラストを検出できる。このとき、例えば、被写体像1408のベストピント位置が1502であった場合、1502の方向にピントを移動させるほど画像のコントラストは高くなる。このため、液体レンズ1407の光学パワーを微小変動させ、現在のピント位置前後での像のコントラストを計測することで、被写体像1408のピント方向を把握することが可能になる。
【0029】
ここで、被写界深度は、被写体からの光を結像する光学系のF値によって変化する。つまり、被写体が明るい場合には絞りは絞り込まれるため、被写界深度は深くなる。このため、ピントの方向を掴むにはウォブリングでのピント移動量を大きくする必要がある。このため、撮像光学系1404の絞り1405のF値を検出し、液体レンズ駆動回路1406にそのF値の情報を送る。液体レンズ1407は駆動回路1406の信号に合わせ、光学パワーの変動量を変化させる。これにより、撮像素子1401上の像のボケ量が増減される。この光学パワーの変動量は絞り1405のF値に比例し、絞りが開く(暗い場所)の場合は変動量が小さく、絞りが絞られる(明るい場所)の場合は変動量が大きくなる。即ち、被写体が暗い場合には図9におけるEW駆動ポンプ部902は少ない数が駆動され、被写体が明るい場合にはEW駆動ポンプ部902は多くの数が駆動されることになる。このとき、ウォブリングの周波数はビデオのフレームレートの1/2で駆動される。これは2フレームでピント位置を前後に振るためである。即ち、60fpsで動画を撮影する場合、液体レンズ1407の駆動周波数は30Hzとなる。この様な高い周波数で駆動するためにも、EW駆動ポンプ部に高い電圧を与えられる本発明の液体レンズの構成が望ましい。
【0030】
(第5実施例)
図11(a)を用いて、本発明の第5実施例の説明を行う。第5実施例は、本発明の液体光学素子である液体レンズをデジタルスチルカメラに適用した例である。図11(a)は液体レンズを適用したデジタルカメラの外観を示す模式図であり、1601は撮影レンズ、1602はファインダ、1603はフラッシュ発光部、1604はシャッタースイッチである。
【0031】
図11(b)は、図11(a)のデジタルカメラの主要部のブロック図である。図11(b)のデジタルカメラでは、本発明の液体レンズ1702を固体レンズ1701と組み合わせてユニット化して用いており、固体レンズ1701と液体レンズ1702の光学系を経た光は、絞り1703、シャッター1704を経て撮像素子1705に像を結ぶ。液体レンズ1702、絞り1703、シャッター1704はカメラ制御部1706からの制御信号により制御される。図11(b)における他の要素はデジタルカメラにおける一般的なものであるが、以下簡単に説明する。1707は信号処理部でアナログ信号処理を行い、A/D変換器1708でアナログ信号をデジタルに変換する。画像メモリ1709はデジタル信号を格納するメモリであり、画像処理部1710は信号変換、信号補正等を行う。メインCPU1711はデジタルカメラの全動作を制御する。CPU1711はROM1712に格納された制御プログラムの実行により画像処理部1710、カメラ制御部1706等の制御を行う。1713はプログラム実行の作業領域を提供するRAMであり、1714は画素表示部1715に表示させる撮影画像を記憶する画像メモリである。圧縮/伸長処理部1716は画像メモリ1709内の画像情報を符号化し、符号化したデータはI/F1717を介してメモリカード1718に格納される。カメラ制御部1706は操作スイッチ1719からの操作信号に基づき各種動作を実行する。
【0032】
シャッタースイッチ1604が押下されることで、カメラ制御部1706は調光制御部1720に信号を送り、フラッシュ1603を発光させる等の所定の動作がなされる。この際、撮影レンズ1601内に配置された液体レンズ1702は、メインCPU1711からの信号に従い、撮像レンズ1601による像を撮像素子1705上に結ぶよう光学パワーを変化させピント位置を制御する。1721は通信用回路であり、撮影した画像を無線で外部に送信するときなどに用いる。この様に、所謂オートフォーカスに本発明の高速応答可能な液体レンズを適用することにより、高速なオートフォーカスを実現することが可能になる。
【0033】
(第6実施例)
本発明の光学素子である液体レンズをカメラ付き携帯電話の撮影レンズに適用した第6実施例について説明する。図12は、本発明の液体レンズを用いた携帯電話の要部を示す模式図である。図12に示したカメラ付き携帯電話では、カメラ部1801の撮影レンズ部1802の少なくとも一部として本発明の液体レンズ1803を搭載し、CCD等の撮像素子1804に像の焦点が合う様に構成している。本発明の液体レンズは、高速な応答が期待されるので、カメラのオートフォーカス素子として有効性が高い。
【0034】
図12における他の要素はカメラ付き携帯電話における一般的なものであるが、以下簡単に説明する。1805は携帯電話の制御部であり、CPU1806とROM1807を含んで構成される。1808はアンテナ、1809は無線部であり、これらは制御部1805に接続されている。1810はマイク、1811はレシーバ、1812は画像記憶部であり、カメラ1801で撮影された画像は画像記憶部1812に記憶される。1813は操作キーであり、1814はLCD等の表示部、1815はカメラ撮影のシャッターキーである。
【0035】
(第7実施例)
図13を用いて、本発明における第7実施例を説明する。第7実施例は、本発明の液体レンズを監視カメラに適用した例である。図13(a)は、本発明の液体レンズを用いた監視カメラの外観を示す模式図であり、図13(b)は、監視カメラシステムのブロック回路図である。図13(a)において、1901はレンズユニット部、1902は雲台ユニット部、1903はレンズユニット部を覆うカバーである。
【0036】
図13(b)において、レンズユニット部1901を構成するレンズの1つとして本発明の光学素子である液体レンズ1904を組み込んだ点が本実施例の特徴である。図13(b)おいては、固体レンズ群1905、液体レンズ1904、撮像素子1906が光軸に沿って並べられており、撮像素子の出力は増幅器1907を介して映像処理回路1908、フォーカス処理回路1909にそれぞれ接続されている。雲台ユニット1902にはレンズユニット1901の駆動のためのパン方向駆動モータ1910、チルト方向駆動モータ1911が設けられている。映像処理回路1908の出力は雲台ユニット部内のネットワーク処理回路1913に接続され、フォーカス処理回路1909の出力はCPU1912に接続されている。CPU1912の出力はネットワーク処理回路1913を介して外部のLAN1914に接続され、LAN1914にはパーソナルコンピュータ1915が接続されている。また、CPU1912の出力はパン駆動回路1916、チルト駆動回路1917を介して駆動モータ1910、1911に接続され駆動用の信号をこれらに供給する。さらに、CPU1912は液体レンズ駆動回路1918に接続されている。液体レンズ1904は液体レンズ駆動回路1918により駆動され、焦点の調整を行う。本発明の液体レンズは高速応答が可能であるので、本実施例の監視カメラではフォーカスの高速化が図れる。
【符号の説明】
【0037】
101、102・・・液体(導電性液体、非導電性液体)、103a・・・光学有効部の界面、103b、103c、103 d・・・駆動ポンプ部の界面、104a、104b、104c・・・電極、105・・・絶縁膜、106a、106b、106c・・・駆動ポンプ部の突起(界面の端部の保持部)、108a、108b、108c・・・駆動ポンプ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学特性を変化させる機能を担う光学有効部と複数の駆動ポンプ部を有し、
前記各駆動ポンプ部は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、前記保持部に対して配置され前記導電性及び非導電性の液体に対して絶縁された電極とを有し、前記電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェッティング現象により、前記電極に接する前記界面の端部を変位させて、前記保持部と前記電極によって挟持された前記導電性及び非導電性の液体を移動させることにより、前記各駆動ポンプ部から連通して存在する前記導電性及び非導電性の液体を含む少なくとも二種類の非混合の液体が存在する前記光学有効部の状態を変化させて光学特性を変化させられる液体光学素子であって、
前記各駆動ポンプ部の電極に印加する電圧を、動作範囲内にある少なくとも2つの離散的な電圧値とし、前記複数の駆動ポンプ部の電極への印加電圧をそれぞれ独立に制御することにより前記光学有効部にある界面の状態を変化させることを特徴とする液体光学素子。
【請求項2】
前記少なくとも2つの電圧のうち、1つの電圧は0Vであることを特徴とする請求項1に記載の液体光学素子。
【請求項3】
前記複数の駆動ポンプ部は、前記光学有効部の界面により構成される液体レンズの光軸を中心に点対称に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の液体光学素子。
【請求項4】
前記駆動ポンプ部は、複数個駆動される際に、前記光軸を中心に点対称の位置にある前記駆動ポンプ部が選択されて駆動されることを特徴とする請求項3に記載の液体光学素子。
【請求項5】
前記駆動ポンプ部は、その界面の形状が三角形状の三角柱状の形状を有し、
前記三角柱状の駆動ポンプ部は、前記光学有効部の周りに、前記保持部が配置された前記三角柱の一面が交互に互い違いに対向面に来るよう配置されていることを特徴とする請求項3または4に記載の液体光学素子。
【請求項6】
前記複数の駆動ポンプ部は、前記光学有効部の界面により構成される液体レンズの光軸を中心に前記光学有効部の周りに多層に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の液体光学素子。
【請求項7】
液体レンズとして構成された請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体光学素子と固体レンズをユニット化したことを特徴とするレンズ。
【請求項8】
液体レンズとして構成された請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体光学素子を、被写体からの光を結像する光学系の少なくとも一部として搭載したことを特徴とするカメラ。
【請求項9】
デジタルカメラまたは監視カメラであることを特徴とする請求項8に記載のカメラ。
【請求項10】
カメラ部を有し、
液体レンズとして構成された請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体光学素子を、前記カメラ部において被写体からの光を結像する光学系の少なくとも一部として搭載したことを特徴とするカメラ付き携帯電話。
【請求項11】
光学特性を変化させる機能を担う光学有効部と複数の駆動ポンプ部とを有し、前記各駆動ポンプ部は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、前記保持部に対して配置され前記導電性及び非導電性の液体に対して絶縁された電極とを有し、前記電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェッティング現象により、前記電極に接する前記界面の端部を変位させて、前記保持部と前記電極によって挟持された前記導電性及び非導電性の液体を移動させることにより、前記各駆動ポンプ部から連通して存在する前記導電性及び非導電性の液体を含む少なくとも二種類の非混合の液体が存在する前記光学有効部の状態を変化させて光学特性を変化させられる液体光学素子の制御方法であって、
前記複数の駆動ポンプ部の電極への印加電圧を、それぞれ、動作範囲内にある少なくとも2つの離散的な電圧値から選んで、独立に制御することを特徴とする液体光学素子の制御方法。
【請求項12】
前記駆動ポンプ部を、複数個駆動する際に、前記光軸を中心に点対称の位置にある前記駆動ポンプ部を選択して駆動することを特徴とする請求項11に記載の液体光学素子の制御方法。
【請求項1】
光学特性を変化させる機能を担う光学有効部と複数の駆動ポンプ部を有し、
前記各駆動ポンプ部は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、前記保持部に対して配置され前記導電性及び非導電性の液体に対して絶縁された電極とを有し、前記電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェッティング現象により、前記電極に接する前記界面の端部を変位させて、前記保持部と前記電極によって挟持された前記導電性及び非導電性の液体を移動させることにより、前記各駆動ポンプ部から連通して存在する前記導電性及び非導電性の液体を含む少なくとも二種類の非混合の液体が存在する前記光学有効部の状態を変化させて光学特性を変化させられる液体光学素子であって、
前記各駆動ポンプ部の電極に印加する電圧を、動作範囲内にある少なくとも2つの離散的な電圧値とし、前記複数の駆動ポンプ部の電極への印加電圧をそれぞれ独立に制御することにより前記光学有効部にある界面の状態を変化させることを特徴とする液体光学素子。
【請求項2】
前記少なくとも2つの電圧のうち、1つの電圧は0Vであることを特徴とする請求項1に記載の液体光学素子。
【請求項3】
前記複数の駆動ポンプ部は、前記光学有効部の界面により構成される液体レンズの光軸を中心に点対称に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の液体光学素子。
【請求項4】
前記駆動ポンプ部は、複数個駆動される際に、前記光軸を中心に点対称の位置にある前記駆動ポンプ部が選択されて駆動されることを特徴とする請求項3に記載の液体光学素子。
【請求項5】
前記駆動ポンプ部は、その界面の形状が三角形状の三角柱状の形状を有し、
前記三角柱状の駆動ポンプ部は、前記光学有効部の周りに、前記保持部が配置された前記三角柱の一面が交互に互い違いに対向面に来るよう配置されていることを特徴とする請求項3または4に記載の液体光学素子。
【請求項6】
前記複数の駆動ポンプ部は、前記光学有効部の界面により構成される液体レンズの光軸を中心に前記光学有効部の周りに多層に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の液体光学素子。
【請求項7】
液体レンズとして構成された請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体光学素子と固体レンズをユニット化したことを特徴とするレンズ。
【請求項8】
液体レンズとして構成された請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体光学素子を、被写体からの光を結像する光学系の少なくとも一部として搭載したことを特徴とするカメラ。
【請求項9】
デジタルカメラまたは監視カメラであることを特徴とする請求項8に記載のカメラ。
【請求項10】
カメラ部を有し、
液体レンズとして構成された請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体光学素子を、前記カメラ部において被写体からの光を結像する光学系の少なくとも一部として搭載したことを特徴とするカメラ付き携帯電話。
【請求項11】
光学特性を変化させる機能を担う光学有効部と複数の駆動ポンプ部とを有し、前記各駆動ポンプ部は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、前記保持部に対して配置され前記導電性及び非導電性の液体に対して絶縁された電極とを有し、前記電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェッティング現象により、前記電極に接する前記界面の端部を変位させて、前記保持部と前記電極によって挟持された前記導電性及び非導電性の液体を移動させることにより、前記各駆動ポンプ部から連通して存在する前記導電性及び非導電性の液体を含む少なくとも二種類の非混合の液体が存在する前記光学有効部の状態を変化させて光学特性を変化させられる液体光学素子の制御方法であって、
前記複数の駆動ポンプ部の電極への印加電圧を、それぞれ、動作範囲内にある少なくとも2つの離散的な電圧値から選んで、独立に制御することを特徴とする液体光学素子の制御方法。
【請求項12】
前記駆動ポンプ部を、複数個駆動する際に、前記光軸を中心に点対称の位置にある前記駆動ポンプ部を選択して駆動することを特徴とする請求項11に記載の液体光学素子の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−101227(P2013−101227A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245005(P2011−245005)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]