説明

液体処理方法

【課題】病害菌の繁殖を効率的に抑制する安価な液体処理方法を提供する。
【解決手段】濾過面に無機銀系抗菌剤層を形成したシート状の濾過材を、一端から渦巻き状に巻き込んで円筒状に形成するとともに、筒状の濾過ケースに装入して、該濾過ケースを軸方向の中心軸の周りに回転させ、該濾過ケースの軸方向に供給されて前記濾過材により濾過される被処理液体に遠心力を作用させる。これにより、被処理液体中に存在する被濾過物質(病原菌)に応力が加わり濾過材の無機銀系抗菌剤層に接触・固定される。従って、被濾過物質(病原菌)は無機銀系抗菌剤の抗菌作用を効果的受けることができ、十分な除菌効果により病害菌の繁殖を効率的に抑制する安価な液体処理方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に存在する病害菌、原虫類の除菌処理を行う液体処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、農業分野に於いては水耕栽培やロックウールなどの固形培地栽培など、養液を用いた作物の栽培が盛んに行われるようになった。しかしながら、使用する原水中や栽培環境から侵入する病害菌が循環養液中で繁殖し、栽培植物に悪影響を与える事例が増加している。また、生活用水中に繁殖したレジオネラ菌や、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染、腸管出血性大腸菌O−157や黄色ブドウ球菌による食中毒等、細菌・糸状菌類による人体への悪影響が問題となっている。これらの問題に対し、主に塩素系や有機系の薬剤等を用いて殺菌する方法、砂濾過による滅菌方法、オゾンを使用した殺菌システム或いは紫外線ランプを用いた養液の滅菌方法や抗菌剤を使用したろ過方法等が提案されている。
【0003】
しかしながら、上記塩素系薬剤を用いて殺菌する方法では、即効性はあるが持続性が無い。このため継続的に薬剤を使用する必要がありコスト高となる。また、塩素系薬剤の欠点として発ガン性を有するトリハロメタンの生成を促す。有機系薬剤を用いて殺菌する場合は、その有機系薬剤を注入した循環液が排出されると、環境に対する影響が非常に大きい。さらに、各種濾材による細菌の物理的吸着方法については、その濾過精度が充分でなく現状では効果的でないうえに、設備を大型化する必要がありイニシャルコストが高くなる。オゾン水により殺菌する場合も持続性がなくコスト高となる。オゾンや紫外線ランプを用いると、微量要素の沈着を誘導するため養液の管理が難しくなる。抗菌剤を用いたろ過方法は、抗菌効果が得られるのに時間がかかり、少流量しか処理できない等の問題点がある。
【特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、病害菌の繁殖を効率的に抑制する安価な液体処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための請求項1に記載の液体処理方法は、濾過面に無機銀系抗菌剤層を形成したシート状の濾過材を、一端から渦巻き状に巻き込んで円筒状に形成するとともに、筒状の濾過ケースに装入して、該濾過ケースを軸方向の中心軸の周りに回転させ、該濾過ケースの軸方向に供給されて前記濾過材により濾過される被処理液体に遠心力を作用させることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の液体処理方法は、請求項1に記載の構成において、前記無機銀系抗菌剤層を形成する無機銀系抗菌剤は、被処理液体中への成分溶出量が50ppb以下であることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の液体処理方法は、請求項1又は請求項1に記載の構成において、前記シート状濾過材は、表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で2μm以上2mm以下、粗さピッチで10μm以上5mm以下に生成されものであることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の液体処理方法は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の構成において、前記被処理液体の通過方向と平行の前記濾過材の隣り合う無機銀系抗菌剤層の間隔を、0.5mm以上5mm以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の液体処理方法によれば、濾過ケースの軸方向に供給されて前記濾過材により濾過される被処理液体に遠心力を作用させるものであり、被処理液体中に存在する被濾過物質(病原菌)に応力が加わり濾過材の無機銀系抗菌剤層に接触・固定される。従って、被濾過物質(病原菌)は無機銀系抗菌剤の抗菌作用を効果的受けることができ、十分な除菌効果により病害菌の繁殖を効率的に抑制する安価な液体処理方法を提供できる。
【0010】
請求項2に記載の液体処理方法によれば、無機銀系抗菌剤層を形成する無機銀系抗菌剤の被処理液体中への成分溶出量が50ppb以下であるから、長期間に亘って使用しても環境に悪影響を及ぼすことがない。
【0011】
請求項3に記載の液体処理方法によれば、シート状濾過材は、表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で2μm以上2mm以下、粗さピッチで10μm以上5mm以下に生成されものであり、濾過材表面の凹部での流速が、通過液体の流速と比較し大幅に流速が低下するため、濾過材の無機銀系抗菌剤層に接触した病原菌等の被濾過物質を効率的に補足・固定化することができる。
【0012】
尚、表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で2μm未満であると、病原菌の大きさより捕捉可能な凹凸部分が小さくなり、効率的な捕捉・固定化が困難になるという不都合があり、2mmを超えると病原菌の大きさをはるかに超えるため捕捉・固定化が出来なくなるという不都合がある。そして、粗さピッチで10μm未満であると、被処理液体が凹部に入り込むことが難しく通過流体の流速が大幅に低下しないため、病原菌等の被濾過物質を効率的に補足・固定化することが困難になるという不都合があり、5mmを超えると捕捉可能な凹部の数量が少なくなり耐久性が劣るという不都合がある。
【0013】
請求項4に記載の液体処理方法によれば、被処理液体の通過方向と平行の前記濾過材の隣り合う無機銀系抗菌剤層の間隔を、0.5mm以上5mm以下としたことにより、過大な遠心力を被処理液体に作用させなくても、非処理液体中に存在する病原菌等の被濾過物質を濾過材の無機銀系抗菌剤層に効率的に接触させることが可能となる。また、上記間隙を設けることにより大量の被処理液体を処理することが可能となる。
【0014】
尚、無機銀系抗菌剤層の間隔が0.5mm未満であると、被処理液体が圧力損失を受けなくて通過できる流路が著しく低下するため、大量の被処理液体を処理することが困難になるという不都合があり、5mmを超えると病原菌等の被濾過物質を無機銀系抗菌剤層に接触させるために大きな遠心力を負荷する必要があり、そのための動力源は大幅なコストアップに繋がるという不都合がある。
【実施例】
【0015】
本実施例では、Li-Ti-Alリン酸系結晶化ガラスを担体として、LiとAgをイオン交換し、成分溶出量が20ppbの無機銀系抗菌剤(以下、単に抗菌剤という。)を得た。この抗菌剤をパルプ繊維に対し3wt%添加し水中に分散した後、抄紙法を用いて表裏両面或いは片面に抗菌剤層を形成して、厚み0.6mmの抗菌紙(濾過材)を作成した。この抗菌紙の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で20μm、粗さピッチで50μmであった。そして、この抗菌紙を一端から芯材に渦巻き状に巻いて円筒状に形成するとともに、φ40mmの筒状の濾過ケースに装入した。このときの、隣り合う抗菌紙の間隔(即ち、抗菌剤層の間隔)は適宜スペーサ(図示しない。)を配置して1mmに設定した(図1参照)。
【0016】
(比較例1)
上記実施例と同様の抗菌剤を使用して、添加量3wt%、厚み0.6mmのポリエチレンフィルムを作成した。この抗菌ポリエチレンフィルムの表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で1μm、粗さピッチで8mmであった。得られた抗菌ポリエチレンフィルムを、実施例と同様にφ40mmの筒状の濾過ケースに装入した。
【0017】
(比較例2)
上記実施例で使用した抗菌剤を微粉砕し粒径0.8μmとした粉体を使用して、添加量3wt%、厚み0.6mmのポリエチレンフィルムを作成した。この抗菌ポリエチレンフィルムの表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で0.9μm、粗さピッチで3.5mmであった。得られた抗菌ポリエチレンフィルムを、実施例と同様にφ40mmの筒状の濾過ケースに装入した。
【0018】
(比較例3)
上記実施例と同様の抗菌剤を使用して、添加量3wt%、及び粒子径1mmのアルミナ粒子を0.1wt%添加して、厚み3.0mmのポリエチレンフィルムを作成した。この抗菌ポリエチレンフィルムの表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で2.5mm、粗さピッチで6.0mmであった。得られた抗菌ポリエチレンフィルムを、実施例同様の方法を用い、φ200mmの筒状の濾過ケースに装入した。
【0019】
(比較例4)
上記実施例と同様の抗菌紙を使用して、抗菌紙の間隔を10mmに設定してパイプ内に配置した。使用した抗菌紙の量は実施例と同様とした。
【0020】
(比較例5)
上記実施例と同様の抗菌紙を使用して、抗菌紙の間隔を0.3mmに設定してパイプ内に配置した。使用した抗菌紙の量は実施例と同様とした。
【0021】
上記実施例及び比較例1,2、3、4、5の各濾過材を装入した濾過ケースを、回転なし、10rpm、30rpm、60rpmで回転しながら、バラなどの根腐れ病原菌で知られるPythium族菌の遊走子懸濁液(104cfu/ml)を20l/min、40l/min、100l/minの流量で通過させて除菌率を測定した。実施例の測定結果を表1に、比較例1〜5の測定結果を表2〜表6に示す。
尚、濾過ケースは図2に示すように、軸方向の中心軸の周りに回転させ、該濾過ケースの軸方向に供給される被処理液体に遠心力を作用させて濾過材により濾過する。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
上記実施例及び比較例1,2,4,5については、総通水量100トン後においても除菌率の変化は無かったが、比較例3では総通水量100トン後で各条件での除菌率は当初の約50%に低下した。
【0029】
上記実施例の結果で示すように、回転数を高めると除菌率が上昇し、流量20l/min、40l/minでは、回転速度が30rpm、60rpmのとき除菌率が100%となった。また、比較例1、2の抗菌ポリエチレンフィルムは、除菌効果が殆どなかった。比較例3のように、粗さピッチが5mm以上の場合は、当初の除菌率は高いが耐久性に問題がある。比較例4の抗菌剤層の間隔が10mmでは、除菌効果が殆どなかった。比較例5の抗菌剤層の間隔が0.3mmでは、抗菌効果は高いが100l/minの大流量を通水させることが出来なかった。
【0030】
表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で2μm未満であると、病原菌より捕捉可能な凹凸部分が小さくなり、効率的な捕捉・固定化が困難になるという不都合があり、2mmを超えると病原菌の大きさをはるかに超えるため捕捉・固定化が出来なくなるという不都合がある。そして、粗さピッチで10μm未満であると、 被処理液体が凹部に入り込むことが難しく通過流体の流速が大幅に低下しないため、病原菌等の被濾過物質を効率的に補足・固定化することが困難になるという不都合があり、5mmを超えると捕捉可能な凹部の数量が少なくなり耐久性が劣るという不都合がある。
【0031】
また、無機銀系抗菌剤層の間隔が0.5mm未満であると、被処理液体が圧力損失を受けなくて通過できる流路が著しく低下するため大量の被処理液体を処理することが困難になるという不都合があり、5mmを超えると病原菌等の被濾過物質を無機銀系抗菌剤層に接触させるために大きな遠心力を負荷する必要があり、そのための動力源は大幅なコストアップに繋がるという不都合がある。
【0032】
上記説明により明らかなように本願発明の液体処理方法は、従来抗菌剤の抗菌効果は発現するのに時間が掛かるため、瞬間的に病原菌と抗菌剤が接触しただけではその効果が得られなかった問題点を解決したもので、表面に抗菌剤層を形成した紙状、シート状、マット状などの材料を濾過材として被処理液体を濾過するとき、回転による遠心力を作用させることにより、被処理液体中に存在する病原菌を効率的に除菌することができる。
【0033】
本願発明の液体処理方法については、被処理液体が濾過材を通過するときに、被処理液体中の存在する病原菌等の被濾過物質が、多層形態の抗菌剤層に確実に押し付けられる遠心力を発生することが必要である。このため、被処理液体の流速と流量、通路断面積により最適な回転遠心力を被ろ過物質に負荷させることが重要である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】濾過材の斜視図である。
【図2】濾過材を挿入した濾過ケースを回転させた回転させた状態を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0035】
無し

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過面に無機銀系抗菌剤層を形成したシート状の濾過材を、一端から渦巻き状に巻き込んで円筒状に形成するとともに、筒状の濾過ケースに装入して、該濾過ケースを軸方向の中心軸の周りに回転させ、該濾過ケースの軸方向に供給されて前記濾過材により濾過される被処理液体に遠心力を作用させることを特徴とする液体処理方法。
【請求項2】
前記無機銀系抗菌剤層を形成する無機銀系抗菌剤は、被処理液体中への成分溶出量が50ppb以下であることを特徴とする請求項1に記載の液体処理方法。
【請求項3】
前記シート状濾過材は、材料表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で2μm以上2mm以下、粗さピッチで10μm以上5mm以下に生成されものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体処理方法。
【請求項4】
前記被処理液体の通過方向と平行の前記濾過材の隣り合う無機銀系抗菌剤層の間隔を、0.5mm以上5mm以下としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の液体処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−178762(P2008−178762A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12252(P2007−12252)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】