説明

液体処理装置及び液体処理方法

【課題】ボビンを変形させることなく再利用でき、液体を噴出させることなく円滑に液体によって処理でき、しかも金属異物を付着させることのない、液体処理装置及び液体処理方法を提供する。
【解決手段】前記液体処理装置は、ベース(1);一方の端部でベースに固定されているスピンドル(2);被処理体(9)の担持用表面と、スピンドルに配置するための貫通孔とを備え、担持用表面と貫通孔との間が通液可能である被処理体キャリア(3);スピンドルに配置するための貫通孔を有する、被処理体キャリアの押さえ手段(4);並びに、被処理体キャリア押さえ手段をスピンドルの所定の位置に保持することのできる、摩擦握り締めによる締め付け具(5);を備える。前記液体処理方法は、前記液体処理装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体処理装置(特には、液体による染色又は抽出装置)及び液体処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チーズ染色機においては、スピンドルにスペーサーを介して3〜6個程度のチーズ(ボビンに繊維を巻回したもの)を装填し、スピンドル上端のねじ部に押え装置(バネを有する)を螺合することによってチーズを固定した状態で、染色液をチーズ内壁面に供給し、チーズを透過させ、チーズ外壁面から出すことによって染色していた。
【0003】
このようなチーズ染色機においては、スペーサーとチーズとの間に隙間が生じると、その隙間から染色液が漏出し、円滑に染色できないため、押え装置のバネの力を利用することによって、スペーサーとチーズとを密着させている。しかし、染色液の熱によってボビンが収縮しやすい状態にあるところにバネによる圧力が加わるため、ボビンが変形し、再度ボビンを使用することができないという欠点があった。
また、染色液供給時におけるボビンの内圧がバネによる圧力よりも大きくなると、バネが押し上げられ、押え装置の押え金具と内筒との隙間を通じて染色液が噴出し、円滑に染色できない場合があった。
更には、押え装置をスピンドル上端のねじ部に螺合させるには、スペーサーとチーズとが密着するように、或る程度の力が必要となるが、そのためにねじ部との螺合摩擦力が大きくなり、ねじ部の金属が脱落し、異物として繊維に付着してしまうという問題があった。
【0004】
このボビンの変形や染色液の噴出の問題を解決できるとして、特許文献1に記載のチーズ押さえ装置が提案されている。このチーズ押さえ装置では、チーズキャリヤー上に立設されるスピンドルの頭部に嵌入係合する上面壁と周壁とからなる円筒形のキャップ部を設け、前記キャップ部の周壁に接し、この周壁に沿って上下に摺動可能な円筒形の摺動部を設け、前記キャップ部周壁の内径および前記摺動部の内径のうち大きい方の径が前記スピンドルに装填されるチーズのボビン内径よりも大きくなるように構成し、前記キャップ部の上面壁部分と前記スピンドルに装填された最上部のチーズの上端部分との間にチーズを下方に押圧することのできる押圧手段を配置したことを特徴としている。しかしながら、この場合であっても、染色液の熱によってボビンが収縮しやすい状態にあるところにバネによる圧力が加わるため、ボビンが変形しやすいものであると考えられる。また、キャップ部の周壁に接する摺動部を有するため、摺動部から染色液が漏出しやすいものであると考えられる。
このようなことは、染色液を用いる染色装置に限らず、繊維構成樹脂を抽出する抽出液を用いる抽出装置の場合にも同様に生じることであった。
【0005】
【特許文献1】特開平7−11567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、ボビンを変形させることなく再利用でき、液体を噴出させることなく円滑に液体によって処理でき、しかも金属異物を付着させることのない、液体処理装置及び液体処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明による、
ベースと、
一方の端部で前記ベースに固定されているスピンドルと、
被処理体の担持用表面と、前記スピンドルに配置するための貫通孔とを備え、前記担持用表面と前記貫通孔との間が通液可能である、被処理体キャリアと、
スピンドルに配置するための貫通孔を有する、前記被処理体キャリアの押さえ手段と、
前記被処理体キャリア押さえ手段をスピンドルの所定の位置に保持することのできる、摩擦握り締めによる締め付け具と
を備えることを特徴とする、液体処理装置により解決することができる。
本発明の液体処理装置の好ましい態様によれば、スピンドルにおけるベース固定端部とは反対の端部に、掛止部を有する。
【0008】
また、本発明は、前記液体処理装置を用いる、被処理体の液体処理方法であって、
(1)ベースに固定されているスピンドルに、被処理体を担持させた被処理体キャリア、及び被処理体キャリアの押さえ手段を、この順に積み重ねる工程、
(2)前記押さえ手段とそれに直接接触する前記被処理体キャリアとが充分に密着するように、押さえ手段をベース方向に押圧した状態で、押さえ手段を締め付け具により固定する工程、
(3)上記工程(1)及び(2)により被処理体がセットされた液体処理装置を、液体処理用容器に装填する工程、及び
(4)被処理体キャリアの貫通孔側から被処理体方向に、あるいは、その逆方向に、処理液を通液させることにより、被処理体を処理する工程
を含むことを特徴とする、前記液体処理方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、バネによるチーズへの圧力が作用しないため、ボビンは変形しない。また、摺動部等液体の噴出できる箇所がほとんどないため、液体を噴出させることなく、円滑に液体によって処理することができる。更には、スピンドルのネジ部に押え装置を螺合させるものではないため、金属異物を付着させない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の液体処理装置の一態様であるチーズ染色機10の代表的実施態様を、ボビン3に繊維9を巻回した複数のチーズを装填した状態で模式的に示す、縦断面図である。図2は、図1に示すチーズ染色機のA−A線断面図である。なお、図1及び図2において、切断面を示すハッチングは、ボビン3以外は省略している。また、図1は、図2に示す方向Bから見た縦断面図である。
【0011】
図1に示すチーズ染色機10では、そのベース部1に、一方の端部21でスピンドル2が固定されている。ベース部1のスピンドル固定側表面には、後述するベース/ボビン間スペーサー8と接触可能な突起部11を設けることができる。図1に示すスピンドル2は、三ツ矢スピンドル本体23及び延長軸部分24とからなる。スピンドル2の前記固定端部21と反対側の端部22には、掛止用ボルト6が取り付けられている。
【0012】
チーズ(すなわち、被処理体である繊維9を担持用表面31上に巻回したボビン3)を前記スピンドル2に充填する際には、ボビン押さえ用スペーサー4、及びスペーサー保持用セットカラー5は、スピンドル2から外しておく。ボビン3は、担持用表面31と貫通孔32との間で通液可能な構造を有する。チーズは、ボビン3の貫通孔32にスピンドル2を通すことにより、スピンドル2に充填(通常は積層充填)することができる。各チーズの間には、所望により、ボビン間スペーサー7を挟むことができる。また、最下層のチーズとベース部1との間にも、ベース/ボビン間スペーサー8を挟むことができる。
【0013】
所定数のチーズをスピンドル2に充填したところで、中央に貫通孔を有するボビン押さえ用スペーサー4を、スピンドル2に通し、更に、スペーサー保持用セットカラー5をスピンドル2に通す。ボビン押さえ用スペーサー4をベース部方向に押圧し、前記スペーサー4とそれに直接接触するチーズとを充分に密着させる。複数のチーズを積層充填している場合には、前記押圧により、各チーズ間も密着される。あるいは、所望により、チーズ間にスペーサー7を挟んでいる場合には、前記スペーサー7と、それに接触するチーズとの間も密着される。ボビン押さえ用スペーサー4をベース部方向に押圧する手段は、所定の荷重をスペーサー4にかけることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ、ウェイト(重り)などを用いることができる。エアシリンダを用いる場合には、例えば、スピンドル2の先端の掛止用ボルト6を利用して、スペーサー4をベース方向に押圧することができる。
【0014】
ボビン押さえ用スペーサー4をベース部方向に押圧した状態で、セットカラー5で前記スペーサー4を固定することにより、図1に示す状態で、チーズをチーズ染色機にセットすることができる。チーズをセットしたチーズ染色機を、チーズ染色用容器に装填した後、ボビン3の貫通孔32側から繊維9の方向に、あるいは、繊維9側から貫通孔32の方向に、染色液を通液させることにより、繊維の染色工程を実施することができる。より具体的には、例えば、図2に示すボビン3の貫通孔32内を、ベース1側から上方向に向かって循環ポンプで染色液を押し上げると、ボビン3の貫通孔32側から外側に向かって染色液が通液し、更に、繊維9の隙間を通ってチーズ外部まで染色液が染み出る。チーズ外部に染み出た染色液は、チーズとチーズ染色用容器の隙間を利用して循環させることができる。
【0015】
以上、図1及び図2に示す、本発明の液体処理装置の一態様であるチーズ染色機を例にとって本発明を説明したが、本発明の液体処理装置は、被処理体キャリア(例えば、図1及び図2におけるボビン3)の押さえ手段(例えば、図1における押さえ用スペーサー4)をスピンドルの所定位置に保持するために、摩擦握り締めによる締め付け具(例えば、図1におけるセットカラー5)を使用すること以外は、通常の液体処理装置(例えば、チーズ染色機)と同様の構成とすることができる。また、本発明の液体処理方法は、本発明の液体処理装置を使用し、被処理体キャリアの押さえ手段を前記締め付け具により固定すること以外は、通常の液体処理方法(例えば、チーズ染色方法)と同様に実施することができる。
【0016】
本発明で用いる前記締め付け具は、ねじ山を利用しない摩擦握り締め(Friction-grip)によって、被処理体キャリア押さえ手段を、所定の荷重をかけた状態で、スピンドルの所定位置に保持することができる限り、特に限定されるものではなく、例えば、セットカラーを用いることができる。
【0017】
本発明では、被処理体キャリアの押さえ手段をベース方向に押圧した状態で、前記押さえ手段を締め付け具により固定する。押さえ手段にかける荷重は、押さえ手段とそれに直接接触する被処理体キャリアとが充分に密着することができる荷重(好ましくは、前記密着に加え、各被処理体キャリア同士又は被処理体キャリアとスペーサー7とが充分に密着することができる荷重)であり、更には、被処理体キャリアが変形しない荷重である限り、特に限定されるものではなく、通常、50〜150kgfであり、好ましくは80〜120kgfである。
【0018】
本発明では、ねじ山を利用することなく、被処理体キャリアの押さえ手段をスピンドルに固定することができるため、ねじ部の金属が脱落して被処理体に金属異物が混入することがない。なお、本発明の液体処理装置では、スピンドル表面にねじ山を設ける必要はないが、スピンドルと締め付け具との摩擦力を向上させる目的で、スピンドル表面を非平滑面(粗面)とすることができる。なお、被処理体への金属異物の混入が生じなければ、スピンドルの内部表面にねじ山を設けること(例えば、掛止ボルト用のねじ山)を本発明範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の液体処理装置及び液体処理方法は、本発明の液体処理装置を用いて実施可能な、液体により被処理体を処理する任意の処理に適用することができる。このような液体処理としては、例えば、染色液による繊維の染色、あるいは、抽出液による繊維構成樹脂の繊維からの抽出などを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の液体処理装置の一態様であるチーズ染色機の代表的実施態様を、複数のチーズを装填した状態で模式的に示す、縦断面図である。
【図2】図1に示すチーズ染色機のA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1・・・ベース;2・・・スピンドル;3・・・ボビン;
4・・・押さえ用スペーサー;5・・・セットカラー;6・・・掛止用ボルト;
7・・・ボビン間スペーサー;8・・・ベース/ボビン間スペーサー;
9・・・被処理繊維;10・・・液体処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
一方の端部で前記ベースに固定されているスピンドルと、
被処理体の担持用表面と、前記スピンドルに配置するための貫通孔とを備え、前記担持用表面と前記貫通孔との間が通液可能である、被処理体キャリアと、
スピンドルに配置するための貫通孔を有する、前記被処理体キャリアの押さえ手段と、
前記被処理体キャリア押さえ手段をスピンドルの所定の位置に保持することのできる、摩擦握り締めによる締め付け具と
を備えることを特徴とする、液体処理装置。
【請求項2】
スピンドルにおけるベース固定端部とは反対の端部に、掛止部を有する、請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体処理装置を用いる、被処理体の液体処理方法であって、
(1)ベースに固定されているスピンドルに、被処理体を担持させた被処理体キャリア、及び被処理体キャリアの押さえ手段を、この順に積み重ねる工程、
(2)前記押さえ手段とそれに直接接触する前記被処理体キャリアとが充分に密着するように、押さえ手段をベース方向に押圧した状態で、押さえ手段を締め付け具により固定する工程、
(3)上記工程(1)及び(2)により被処理体がセットされた液体処理装置を、液体処理用容器に装填する工程、及び
(4)被処理体キャリアの貫通孔側から被処理体方向に、あるいは、その逆方向に、処理液を通液させることにより、被処理体を処理する工程
を含むことを特徴とする、前記液体処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−91706(P2009−91706A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266076(P2007−266076)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】