説明

液体分注装置

【課題】
液体分注装置の液体タンク内の圧力をより高精度に調節できるようにする。
【解決手段】
液体タンク2内の圧力は真空レギュレータ3内のメインバルブ29と大気吸込み弁の開閉により調節を行なうが、その際、液体タンク2と真空レギュレータ3の間に大気を吸入する継ぎ手5及び分岐管15をとりつけて、液体タンク2が減圧状態になったときには常に大気が流入する構造にしたので、真空レギュレータ3では常にSET側の圧力が上がりすぎる状態となり、メインバルブ29が開いていることになる。メインバルブ29でSET側からVAC側に流れる流量と、分岐管15から大気がSET側に流れ込む流量がつりあうところで、SET側の圧力が一定の値となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学、工業、臨床、バイオ技術などの分野で使用される分析装置において、サンプルや試薬を分注する液体分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液体分注装置の分注素子部分の概略図を図9に示す。1は上端から液体が供給され下端からその液体を吐出する分注素子であり、その上端部には分注素子1に供給する液体を内部に貯える液体タンク2が接続されている。分注素子1から吐出されて滴下する液滴は安定した軌跡を描き、しかもその液滴の体積が一定になる必要がある。分注素子1から吐出されて滴下する液滴量を一定にし、その滴下する軌跡を安定させるために、液体タンク2に圧力調節機構を接続して液体タンク2内の圧力を減圧状態又は加圧状態で一定圧力となるように調節している(特許文献1参照。)。
【0003】
本発明は、液体タンク2内の圧力を減圧状態で一定に調節するものを対象にしている。そこで、液体タンク2内の圧力を減圧状態で一定に調節する従来の圧力調節機構として、液体タンク2に真空ポンプなどの真空圧力源4が接続され、液体タンク2と真空圧力源4との間に液体タンク2内の圧力を調節するための真空レギュレータ3が配置されているものが知られている。
従来の圧力調節機構では、後述の図3に示されるような真空レギュレータ3内のメインバルブ及び大気吸い込み弁の開閉だけで液体タンク2内の圧力調節を行なう。
【特許文献1】特願2004−212377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、実際には真空レギュレータ3の加工精度には限界があり、さらにバルブ開閉に発生する摩擦抵抗があるために、調節できる圧力の安定性には限度がある。そのため、例えば、真空圧力源4によって液体タンク内の圧力が下がりすぎた場合でも大気吸い込み弁が開かないことがあったり、また逆に、圧力が上がりすぎた場合でもメインバルブが開かないこともあったりした。つまり、真空レギュレータ3は、ある一定値以下の圧力変動を整圧することができずに、液体タンク2内の圧力が変化してしまい、分注素子1から吐出される液滴14の軌跡が不安定になったり、分注素子1が液滴を形成できなくなったりすることがあった。
本発明は、液体分注装置の液体タンク内の圧力をより高精度に調節できるようにすることによって吐出される液滴を高精度に制御することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液体分注装置は、上端から液体が供給され下端からその液体を吐出する分注素子と、前記分注素子の上端部に接続され、前記分注素子に供給する液体を内部に貯える液体タンクと、前記液体タンク内の圧力を減圧状態にするために前記液体タンクに接続された真空圧力源と、前記液体タンクと前記真空圧力源との間に配置されたメインバルブを含み、前記液体タンク内の圧力を調節するための真空レギュレータと、前記液体タンクと前記真空レギュレータとの間に設けられた大気吸入機構とを備えている。
【0006】
液体タンクの圧力調節機構は、真空圧力源、真空レギュレータ及び大気吸入機構を備えている。液体タンク内が減圧状態になったときは、常に大気吸入機構から大気が流入し、液体タンク内の圧力はその大気流入量と真空圧力源による排気量とが平衡に達した圧力で一定に保たれる。
大気吸入機構は、吸入量が調節可能であっても吸入量が固定であってもよい。大気吸入機構は開口をもって微量の大気を安定して吸入できるものであればよい。吸入量を調節可能にするには、例えばニードルバルブなど、流量を調節できる機構を備えればよい。吸入量が固定の大気吸入機構としては、例えば吸入量を配管抵抗によって制限する機構を備えればよい。
【0007】
実際に吐出される液滴の状態を監視するために、分注素子から吐出された液体を撮像する撮像装置をさらに備えていることが好ましい。
そのような、撮像装置として、例えばストロボ光源を備え、そのストロボ光源からの発光を分注素子に供給する駆動信号に同期させるものとすることができる。
分注素子は液体の吐出を駆動する素子としてピエゾ素子を備えたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液体分注装置では、液体タンクの圧力調節機構として液体タンク内が減圧状態になったときは、常に大気吸入機構から大気が流入して大気流入量と真空圧力源による排気量との平衡により圧力を一定に保つようにしたので、真空レギュレータの整圧の効果を高めることが可能になる。
【0009】
分注素子から吐出された液体を撮像する撮像装置をさらに備えれば、実際に吐出される液滴の状態を監視することができるようになる。そのような、撮像装置としてストロボ光源を備え、そのストロボ発光を分注素子に供給する駆動信号に同期させれば、液滴の像が停止しているように撮像されるので、液滴の状態の監視が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は一実施例を示したものである。
この液体分注装置は、上端から液体が供給され下端からその液体を吐出する分注素子1としてその液体吐出の駆動素子としてピエゾ素子を備えたものを使用している。分注素子1の上端には吐出する液体を分注素子1に供給するとともに、その液体を貯えておくための液体タンク2が接続されている。液体タンク2にはその内部の圧力を減圧状態にするために真空ポンプなどの真空圧力源4が接続されている。液体タンク2と真空圧力源4との間には、液体タンク2内の圧力を調節するために、メインバルブ29を含む真空レギュレータ3が接続されている。
【0011】
液体タンク2と真空レギュレータ3との間の配管には、分岐用の継ぎ手5を介して、大気吸入機構を構成する分岐管15が接続され、その分岐管15には吸入量が調節可能なニードルバルブ6が接続されている。ニードルバルブ6の大気吸入口には、ほこりを取り除くためのエアフィルタ7が接続されている。
また、液体タンク2と継ぎ手5の間の配管には、その部分の圧力を測定するための圧力センサ8が取りつけられている。9は圧力センサ8の値を表示する圧力センサ表示部である。
【0012】
10は分注素子1のピエゾ素子にピエゾ駆動信号を出力して駆動する分注制御ユニットであり、分注制御ユニット10はコンピュータ11からの制御信号により制御される。
分注素子1の先端にある吐出口から吐出されて落下する液滴14の画像を取り込むために撮像装置12としてCCDカメラが配置され、その落下する液滴14を照射する光源13としてストロボ光源が配置されている。
【0013】
次にさらに詳細に説明する。
分注素子1は、例えば図2に示されるように、先端の吐出部40の孔につながる液体タンク2をピエゾ素子からなる駆動部44により押圧することにより吐出部40から液を吐出するものである。
【0014】
真空レギュレータ3は、図3に示されるように、真空圧力源4に接続されるVAC側(真空側)と液体タンクに接続されるSET側(対象側)との間にメインバルブ29を備え、メインバルブ29はバネ30により閉じる方向に付勢されている。
【0015】
メインバルブ29の弁体はバルブ棒28の下端に取りつけられ、バルブ棒28の上端は大気室27内にあって大気吸込み弁25の弁体を構成している。大気吸込み弁25は真空室31と大気室27の間に配置されており、真空室31はSET側に通じ、大気室27は大気に通じている。
【0016】
大気吸込み弁25の弁座はダイヤフラム26に取りつけられ、ダイヤフラム26は真空室31と大気室27の間にあって、真空室31側からバネ24により押圧できるようになっている。バネ24の上端にはナット23が配置され、ナット23にはネジ棒22が螺合し、そのネジ棒22は摘み21により真空室31の外部から回転させることができるようになっている。
【0017】
真空レギュレータ3は、摘み21を回すとネジ棒22が回転してナット23は真空室31内で上下に移動することができる。ナット23が下がる方向に摘み21を回すと、バネ24は下に押される。バネ24が押されると、バネ24はダイヤフラム26を押し、バルブ棒28を押し下げる。これによってメインバルブ29が開かれる。メインバルブ29が開くとSET側とVAC側の出入り口がつながり、VAC側の真空によってSET側の圧力は低下し始める。SET側は真空室31とつながっており、大気とつながっている大気室27とはダイヤフラム26で隔てられているので、真空室31の圧力が下がると大気室27との圧力差によりダイヤフラム26には押し上げようとする力が作用する。この力及びバネ30がバルブ棒28を押し上げる力と、バネ24の押し下げる力がつりあったところで、SET側の圧力が安定する。
【0018】
SET側の圧力が下がりすぎた場合、真空室31と大気室27との圧力差によりダイヤフラム26には押し上げる力が作用してダイヤフラム26はバネ24を押し上げる。これにより、大気吸込み弁25が開き、大気室27から真空室31を経てSET側に大気圧が流入してSET側の圧力が上昇する。一方、SET側の圧力が上がりすぎた場合は、ダイヤフラム26での真空室31と大気室27との圧力差が小さくなり、押し上げる力が弱くなる。これにより相対的にバネ24の力がバネ30に勝り、メインバルブ29を押し下げるので、SET側とVAC側がつながり、SET側の圧力は低下する。
【0019】
従来の分注装置では、液体タンク2と真空レギュレータ3との間に大気を吸引する機構がなく、液体タンク2内の圧力は真空レギュレータ3によりメインバルブ29と大気吸込み弁25の開閉だけで調節を行なっていたので、真空レギュレータ3の加工精度の限界とバルブ開閉に発生する摩擦抵抗のために調節できる圧力の安定性には限度があった。
【0020】
実施例でも、液体タンク2内の圧力は真空レギュレータ3によりメインバルブ29と大気吸込み弁25の開閉により調節を行なうが、その際、液体タンク2と真空レギュレータ3の間に大気を吸入する継ぎ手5及び分岐管15をとりつけて、液体タンク2が減圧状態になったときには常に大気が流入する構造にした。このことで、真空レギュレータ3では常にSET側の圧力が上がりすぎる状態となり、メインバルブ29が開いていることになる。メインバルブ29でSET側からVAC側に流れる流量と、分岐管15を通って大気がSET側に流れ込む流量がつりあうところで、SET側の圧力が一定の値となる。
【0021】
このように、メインバルブ29と大気吸込み弁25の開閉を繰り返して整圧するよりも、常にメインバルブ29が開いている状態にして、その開き具合で整圧をした方が真空レギュレータ3の加工精度やバルブ25,29の開閉時に発生する摩擦抵抗の影響を少なくすることができる。つまり、真空レギュレータ3のみでは整圧できないような微小な圧力変化であっても、本発明により大気を吸入する機構を設けることで、その微小な圧力変化も整圧することができるようになり、より安定した液滴14の滴下を行なうことができるようになる。
【0022】
ここで、具体的な比較を図4に示す。図1の実施例において、真空レギュレータ3の圧力が大気圧に設定されている状態から、圧力センサ表示部9の読みが−0.5〜−0.7kPaを示す状態になるまで、真空レギュレータ3の摘み21を回して止める。
【0023】
図4の横軸は摘み21を止めてからの経過時間(秒)、縦軸は圧力(kPa)を表している。「大気吸入なし」はニードルバルブ6を閉じて大気を流入させなかった場合であり、従来の構成に該当する。その場合は、真空レギュレータ3のつまみを止めたときの圧力値は−0.7kPaであったにもかかわらず、3分後には−1.1kPa、30分後には−1.5kPaにまで低下している。
【0024】
一方、「大気吸入あり」はニードルバルブ6を開けて大気を流入させた実施例の場合であり、真空レギュレータ3のつまみを止めたときの圧力値が−0.5kPaであり、30分後でも−0.6kPaとなっていて、ほとんど変化していないことがわかる。このように、大気を吸入する機構があることで、真空レギュレータ3の整圧の効果を高めることができる。
【0025】
次に、分注素子1からの液体の滴下を制御する動作について説明する。
図1の実施例において、分注制御ユニット10は、分注素子1のピエゾ素子に駆動信号を印加することにより吐出動作を行なわせる。分注制御ユニット10が分注素子1の駆動を制御するパラメータは、分注素子1への駆動信号の印加電圧の大きさ、印加電圧立ち上がり時間、印加時間、印加電圧立下がり時間の全て、又はそのうちの少なくとも1つである。
【0026】
ストロボ光源13の発光するタイミングは、分注制御ユニット10から分注素子1へ印加される駆動信号のタイミングを基にして、その駆動信号印加のタイミングに同期させて分注素子1からの液滴吐出の一定時間後に発光するように制御される。
【0027】
制御コンピュータ11は、分注制御ユニット10を制御して分注動作を制御し、またCCDカメラ12が撮像した画像を基にして所定の大きさの液滴14が吐出されるように制御する。
【0028】
CCDカメラ12は分注素子1の先端の吐出口部分を撮像する。カメラ12と他の部材との干渉を少なくしてカメラ設置に要する必要な空間を少なくするために、カメラ12は水平から傾斜をもった斜め上方の位置に設置し、斜め上向から撮像するようにしてもよい。また、吐出口部分の状態をより正確にモニタするためには、水平方向から撮像するようにカメラ12を設置すればよい。
【0029】
ストロボ光源13はCCDカメラ12の光軸上に、分注素子1の吐出口部分の画像をより正確に取り込むために、分注素子1の吐出口部分を挟んでCCDカメラ12と反対側に配置されている。ストロボ光源13に替えて、時間的に連続した光を発光する光源を使用してもよい。ストロボ光源の場合、実施例のように、液滴14が分注素子1から吐出されるタイミングと同期して発光するように設定することができ、その場合にはカメラ12を連続して作動させている場合でも、ストロボ光源13が発光した場合にのみ鮮明な画像が取り込まれる。その鮮明な画像は、順次吐出される液滴14の画像が同じタイミングで取り込まれたものであるため、あたかも静止画像のような情報が得られる。そのため液滴14の状態をモニタし、液滴14の大きさを調節するのに好都合である。
【0030】
コンピュータ11から分注制御ユニット10に所定の制御信号を与えると、分注制御ユニット10は分注素子1に対して所定の電圧の駆動信号を供給する。分注素子1は分注制御ユニット10からの駆動信号に基づいて液体を吐出する。
【0031】
分注素子1が分注する液体は液体タンク2に貯えられており、分注素子1に供給される液体の量を調節するために液体タンク2内の圧力を真空レギュレータ3で調節する。真空レギュレータ3によって液体タンク2内が減圧状態になると、分岐管15を通って大気が流入し、ある圧力で安定する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、化学、工業、臨床、バイオ技術などの分野における分析や検査において、サンプルや試薬を分注するのに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一実施例を示す概略構成図である。
【図2】ピエゾ素子の構造の一例を示す縦断面図である。
【図3】真空レギュレータの一例を示す縦断面図である。
【図4】一実施例における圧力変化の経時変化を示すグラフある。
【図5】従来の液体分注装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1 分注素子
2 液体タンク
3 真空レギュレータ
4 真空圧力源
5 継ぎ手
6 ニードルバルブ
10 分注制御ユニット
11 制御コンピュータ
12 CCDカメラ
13 ストロボ光源
14 液滴
15 分岐管
29 メインバルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端から液体が供給され下端からその液体を吐出する分注素子と、
前記分注素子の上端部に接続され、前記分注素子に供給する液体を内部に貯える液体タンクと、
前記液体タンク内の圧力を減圧状態にするために前記液体タンクに接続された真空圧力源と、
前記液体タンクと前記真空圧力源との間に配置されたメインバルブを含み、前記液体タンク内の圧力を調節するための真空レギュレータと、
前記液体タンクと前記真空レギュレータとの間に設けられた大気吸入機構と、を備えたことを特徴とする液体分注装置。
【請求項2】
前記大気吸入機構は吸入量が調節可能なニードルバルブを備えている請求項1に記載の液体分注装置。
【請求項3】
前記大気吸入機構は吸入量を配管抵抗によって制限する機構を備えている請求項1に記載の液体分注装置。
【請求項4】
前記分注素子から吐出された液体を撮像する撮像装置をさらに備えた請求項1から3のいずれかに記載の液体分注装置。
【請求項5】
前記撮像装置はストロボ光源を備え、そのストロボ光源からの発光を前記分注素子に供給する駆動信号に同期させるものである請求項4に記載の液体分注装置。
【請求項6】
前記分注素子は液体の吐出を駆動する素子としてピエゾ素子を備えたものである請求項1から5のいずれかに記載の液体分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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