説明

液体分注装置

【課題】 圧縮空気を用いずに正確に微少量の液体を秤取ることができる液体分注装置を提供する。
【解決手段】 液体分注装置において、第1の貫通孔11と、外部から液体L1が注入される第2の貫通孔12とを有する上板10と、第1の貫通孔11と対応する位置に設けられた第3の貫通孔21と第2の貫通孔12と対応する位置に設けられた空気抜き用の第4の貫通孔22とを有する下板20と、上板10と下板20の間に滑動可能に挿入され、第2の貫通孔12から注入された液体が、第1の貫通孔11を介して加えられる圧力により、第3の貫通孔21を介して対象デバイスに注入される所定容積の第5の貫通孔31を有するスライド板30とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクタ、バイオチップや液体金属リレーなどを使用もしくは作製するときに、液体(液体金属を含む)を微少量、正確に秤取る場合に有用な液体分注装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロリアクタやバイオチップに注入される試薬や、液体金属リレーに注入される液体金属の量には正確さが非常に要求されている。
図7は従来の液体分注装置の概要を示す図である。
予め液体L1をシリンジ3に入れ、配管2を介して圧空ディスペンサ1から圧縮空気で圧力を印加し、シリンジ3先端のニードルキャピラリー4から液体L1が吐出される。
【0003】
液体分注装置に関連する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0004】
【特許文献1】特開2006−208167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7のような構成の液体分注装置では、液体L1が移動し始めると液体L1を押し出すための抵抗(摩擦など)が急激に減少して液体が出過ぎてしまうなどの理由で、吐出したい液体L1の量が少なくなるほど、圧縮空気での定量分注が難しくなる。したがって、1回の動作で、異なる量の液体を正確に秤取ることは困難である。
また、一度に複数のデバイスに液体を注入することや、種類の異なる液体を正確な比率で混合することも難しい。
【0006】
本発明はこのような課題を解決しようとするもので、圧縮空気を用いずに正確に微少量の液体を秤取ることができ、1回の動作で異なる量の液体を正確に秤取ることができ、一度に複数のデバイスに液体を注入でき、種類の異なる液体を正確な比率で混合することのできる液体分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
所定量の液体を秤取って対象デバイスに注入する液体分注装置において、
外部から圧力が加えられる第1の貫通孔と、外部から液体が注入される第2の貫通孔とを有する上板と、
前記第1の貫通孔と対応する位置に設けられた第3の貫通孔と、前記第2の貫通孔と対応する位置に設けられた空気抜き用の第4の貫通孔とを有する下板と、
前記第2の貫通孔を介して充填された前記所定量の液体が、前記第1の貫通孔を介して加えられる圧力により、前記第3の貫通孔を介して前記対象デバイスに注入される第5の貫通孔を有し、前記上板と前記下板の間に滑動可能に挿入されるスライド板と
を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、
請求項1記載の液体分注装置において、
前記貫通孔のうち少なくとも第4の貫通孔は疎液性の表面を持つことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、
請求項1乃至2記載の液体分注装置において、
複数の前記第3の貫通孔の間隔が前記対象デバイスの複数の注入孔の間隔と等しいことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、
請求項1乃至2記載の液体分注装置において、
前記スライド板に異なる容積の前記第5の貫通孔を複数個設け、同時に異なる容積の液体を秤取ることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、
請求項1乃至2記載の液体分注装置において、
前記スライド板に異なる容積の前記第5の貫通孔を複数個設け、異なる液体を所定の比率で混合することを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、
請求項3記載の液体分注装置において、
前記対象デバイスをバイオチップとしたことを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、
請求項1乃至3記載の液体分注装置において、
前記対象デバイスは、絶縁膜を介して積層する電極膜同士を液体金属でオンオフする液体金属リレーとし、前記第5の貫通孔の直径を前記液体金属リレーの液体金属用穴径と等しくし、前記スライド板の厚さを前記電極膜2枚分の厚さと前記絶縁膜厚さとの和と等しくすることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、
請求項7記載の液体分注装置において、
前記液体金属を水銀としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば、所定量の液体を秤取って対象デバイスに注入する液体分注装置において、外部から圧力が加えられる第1の貫通孔と、外部から液体が注入される第2の貫通孔とを有する上板と、前記第1の貫通孔と対応する位置に設けられた第3の貫通孔と、前記第2の貫通孔と対応する位置に設けられた空気抜き用の第4の貫通孔とを有する下板と、前記第2の貫通孔を介して充填された前記所定量の液体が、前記第1の貫通孔を介して加えられる圧力により、前記第3の貫通孔を介して前記対象デバイスに注入される第5の貫通孔を有し、前記上板と前記下板の間に滑動可能に挿入されるスライド板とを備えたことにより、圧縮空気を用いずに正確に微少量の液体を秤取ることができ、1回の動作で異なる量の液体を正確に秤取ることができ、一度に複数のデバイスに液体を注入でき、種類の異なる液体を正確な比率で混合することのできる液体分注装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明について図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明に係る液体分注装置の第1の実施例の構成と動作を示す側面断面図である。図において、液体分注装置は、上板10、下板20及びこれらの中間で滑動(スライド)可能なスライド板30の3枚の板から構成される。上板10は、外部から圧力を加えるための第1の貫通孔11と、外部から液体L1が注入される第2の貫通孔12とを有する。下板20は、第1の貫通孔11と対応する位置に設けられマイクロリアクタ、バイオチップや液体金属リレーなどの対象デバイスに液体L1を注入(吐出)するための第3の貫通孔21と、第2の貫通孔12と対応する位置に設けられた空気抜き用の第4の貫通孔22とを有する。ここで、第4の貫通孔22の直径は、第2の貫通孔12より小さい。
【0017】
スライド板30は、上板10と下板20の間に滑動可能に挿入され、液体L1が第2の貫通孔12を介して充填され所定容積の秤取りを行うための第5の貫通孔31を有する。上記で、貫通孔11,12,21、22,31のうち少なくとも第4の貫通孔22は液体L1に対して疎液性の表面を持つが、第5の貫通孔31も疎液性の表面を持つことが好ましい。ここでは両者とも疎液性の表面を持つことにする。
【0018】
上記のような構成の液体分注装置の動作を次に説明する。
図1(a)に示すように、最初に第5の貫通孔31の位置が第2の貫通孔12と一致するようにスライド板30がスライドされる。次に液体L1が圧空ディスペンサ(図示せず)などから第2の貫通孔12を介して第5の貫通孔31に充填される。このとき、液体L1に押し出された空気は空気抜き用の第4の貫通孔22を介して外部に抜けるが、第4の貫通孔22及び第5の貫通孔31の内部表面が液体L1に対して疎液性を持つので、(液体に対して親液性の場合のように)液体がキャピラリー効果により空気抜き用の貫通孔22まで浸み込んで行くことはない。
【0019】
次に、図1(b)に示すように、スライド板30が図の左方向へ移動されて、分注したい量の液体が第5の貫通孔31内に秤取られる。このとき、秤取られる液体の量はスライド板30の厚さ×貫通孔31の穴面積で決まる。
【0020】
図1(c)に示すように、スライド板30が第5の貫通孔31が第1の貫通孔11及び第3の貫通孔21と一致する位置まで移動されると、第1の貫通孔11から圧縮空気などによる圧力が印加され、第5の貫通孔31に秤取られた液体L1は第3の貫通孔21を介して吐出されてマイクロリアクタ、バイオチップや液体金属リレーなどの対象デバイスに注入される。
【0021】
このような構成の液体分注装置によれば、圧縮空気は対象デバイスへの注入の際に用いられるのみで、秤取りには用いられていないので、マイクロリアクタやバイオチップに注入される試薬や、液体金属リレーに注入される液体金属の量を貫通孔31の容積に従って正確に秤取ることができる。
【0022】
なお、上記の各実施例において、貫通孔12,31,21の疎液性などにより、液体が自重で対象デバイスに容易に落下する場合は外部から貫通孔11に加圧しなくてもよい。
また、スライド板30と下板20の間の隙間などから空気抜きができる場合は、第4の貫通孔22を省略することができる。
【0023】
図2は図1の実施例に係る液体分注装置の第1の応用例で、一度に複数のデバイスに液体を注入することができるものを示す側面断面図(図2(a1)(b1))及び上面図(図2(a2)(b2))である。図1と同一の箇所は同じ記号を付して重複した説明は省略する。上板10、下板20及びスライド板30上には複数組の貫通孔11,12,21、22,31が設けられ、対象デバイスへの注入穴となる貫通孔11,21の間隔は、液体を注入する対象デバイスの穴の間隔と等しくなっている。
【0024】
図2の構成の液体分注装置の動作を以下に示す。スライド板30が図2(a)の位置にあるとき、液体がそれぞれの第5の貫通孔31に充填され、続くスライド板30の左方向への移動により定量秤取りが行われる。次にスライド板30が図2(b)の位置に移動した後、それぞれの貫通孔21から液体が各対象デバイスへ同時に注入される。
【0025】
このような構成の液体分注装置によれば、一度にすべての対象デバイスに液体を注入することができる。
【0026】
なお、上記の応用例ではスライド板30を左方向へスライドさせて秤取りを行ったが、右方向にスライドさせてもよい。
【0027】
図3は上記の応用例で対象デバイスをアンプル41とした場合を示す側面断面図である。図1及び図2と同一の箇所は同じ記号を付して重複した説明は省略する。
【0028】
図4は上記の応用例で対象デバイスをバイオチップ上の複数の穴42とした場合を示す側面断面図である。図1及び図2と同一の箇所は同じ記号を付して重複した説明は省略する。
【0029】
図5は、本発明に係る液体分注装置の第2の実施例で、異なる液体を正確な比率で混合することができるものの構成と動作を示す側面断面図である。図1と同一の箇所は同じ記号を付して重複した説明は省略する。
【0030】
上板10において、第2の貫通孔121,122は第1の貫通孔11の両側に設けられ、それぞれ異なる液体L1、L2が充填される。下板20には、第3の貫通孔21の両側に2つの空気抜き用の第4の貫通孔221,222が設けられている。スライド板30には、異なる容積(直径)の第5の貫通孔311,312が設けられている。ここで、第2の貫通孔121,122の直径はそれぞれ第5の貫通孔311,312と一致するように対応付けられている。
【0031】
図5の構成の液体分注装置の動作を次に説明する。
図5(a)はスライド板30の初期位置を示す。スライド板30が左に移動して第5の貫通孔311の位置が第2の貫通孔121と一致すると、液体L1が第5の貫通孔311に充填される。次にスライド板30が右に移動して、図5(c)に示すように第5の貫通孔311の位置が第1の貫通孔11及び第3の貫通孔21と一致すると、液体L1が第3の貫通孔21に移動するとともに、第2の貫通孔122内の液体L2が第5の貫通孔312に充填される。次にスライド板30が左に移動して、図5(d)に示すように第5の貫通孔312の位置が第1の貫通孔11及び第3の貫通孔21と一致すると、図5(e)に示すように第1の貫通孔11から加えられる空気圧により液体L1及びL2は対象デバイスであるアンプル43に注入される。
【0032】
このような構成の液体分注装置によれば、スライド板に異なる体積(直径)の穴を複数個設けることにより、1回の動作で異なる体積の液体を正確に秤取ることができる。
【0033】
また、種類の異なる液体を正確な比率で混合することができる。
【0034】
なお、第2の貫通孔121,122の直径は第5の貫通孔311,312と必ずしも対応付けなくてもよいが、この場合は第5の貫通孔311,312への充填時間が異なってくる。
【0035】
また、上記の構成を複数組設けて同時に複数の混合を行ってもよい。
【0036】
また、図2の装置において、各組ごとに貫通孔の径を変えることにより、異なる体積の液体を各対象デバイスに正確に注入することができる。
【0037】
図6は図1の実施例に係る液体分注装置の第2の応用例で、液体金属リレーが必要とする量の液体金属を秤取ることができるものの動作を示す側面断面図である。液体金属リレーに注入するための貫通孔11,21,31の直径を対象デバイスである液体金属リレーの穴442の穴径と等しくし、スライド板30の厚さを液体金属リレーの電極2枚分+絶縁膜厚さと等しくすることにより、図6(a)に示すように液体金属リレーが必要とする量の液体金属L3を秤取ることができる。さらに、図6(b)に示すように、貫通孔11から空気などで加圧することにより、貫通孔31内の液体金属L3は絶縁膜を介して液体金属リレーの穴442に注入されて接点を形成する。液体金属リレーの電極部441において、絶縁膜を介した2つの電極膜同士は液体金属L3の接点によりオンオフされる。
【0038】
上記の応用例に示すように、液体分注装置を液体金属リレーの製造工程に利用することができる。
【0039】
なお、スライド板30以外の貫通孔11,21は液体金属リレーの穴442の穴径と等しくなくてもよい。
【0040】
上記の各実施例に示したように、本発明に係る液体分注装置によれば、圧縮空気の圧力や圧力印加時間で液体を秤取るのではなく、スライド板の穴容積で液体を秤取るので、正確な秤取り、分注、混合が可能となる。
【0041】
また、液体分注装置の吐出用の穴間隔を対象デバイスの注入用の穴間隔と揃えることにより、一度に複数のデバイスに液体を注入することができる。
【0042】
また、複数の穴の容積(直径)を変えることにより、異なる体積の液体を正確に秤取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る液体分注装置の第1の実施例の構成と動作を示す側面断面図である。
【図2】図1の実施例に係る液体分注装置の応用例を示す側面断面図及び上面図である。
【図3】図2の応用例で対象デバイスをアンプル41とした場合を示す側面断面図である。
【図4】上記の応用例で対象デバイスをバイオチップ上の複数の穴42とした場合を示す側面断面図である。
【図5】本発明に係る液体分注装置の第2の実施例の構成と動作を示す側面断面図である。
【図6】図1の実施例に係る液体分注装置の第2の応用例の動作を示す側面断面図である。
【図7】従来の液体分注装置の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 上板
11 第1の貫通孔
12,121,122 第2の貫通孔
20 下板
21 第3の貫通孔
22,221,222 第4の貫通孔
30 スライド板
31,311,312 第5の貫通孔
41,42,43,442 対象デバイス
L1,L2,L3 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の液体を秤取って対象デバイスに注入する液体分注装置において、
外部から圧力が加えられる第1の貫通孔と、外部から液体が注入される第2の貫通孔とを有する上板と、
前記第1の貫通孔と対応する位置に設けられた第3の貫通孔と、前記第2の貫通孔と対応する位置に設けられた空気抜き用の第4の貫通孔とを有する下板と、
前記第2の貫通孔を介して充填された前記所定量の液体が、前記第1の貫通孔を介して加えられる圧力により、前記第3の貫通孔を介して前記対象デバイスに注入される第5の貫通孔を有し、前記上板と前記下板の間に滑動可能に挿入されるスライド板と
を備えたことを特徴とする液体分注装置。
【請求項2】
前記貫通孔のうち少なくとも第4の貫通孔は疎液性の表面を持つことを特徴とする請求項1記載の液体分注装置。
【請求項3】
複数の前記第3の貫通孔の間隔が前記対象デバイスの複数の注入孔の間隔と等しいことを特徴とする請求項1乃至2記載の液体分注装置。
【請求項4】
前記スライド板に異なる容積の前記第5の貫通孔を複数個設け、同時に異なる容積の液体を秤取ることを特徴とする請求項1乃至2記載の液体分注装置。
【請求項5】
前記スライド板に異なる容積の前記第5の貫通孔を複数個設け、異なる液体を所定の比率で混合することを特徴とする請求項1乃至2記載の液体分注装置。
【請求項6】
前記対象デバイスをバイオチップとしたことを特徴とする請求項3記載の液体分注装置。
【請求項7】
前記対象デバイスは、絶縁膜を介して積層する電極膜同士を液体金属でオンオフする液体金属リレーとし、前記第5の貫通孔の直径を前記液体金属リレーの液体金属用穴径と等しくし、前記スライド板の厚さを前記電極膜2枚分の厚さと前記絶縁膜厚さとの和と等しくすることを特徴とする請求項1乃至3記載の液体分注装置。
【請求項8】
前記液体金属を水銀としたことを特徴とする請求項7記載の液体分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−53030(P2009−53030A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219917(P2007−219917)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】