説明

液体原料の気化方法

【課題】反応室内に原料ガスと還元ガスとを夫々導入し、反応室に設置した基板表面に気相からの析出により成膜する際に液体原料を気化して反応室内に導入する原料ガスとする液体原料の気化方法において、気化室の所定温度下での気化効率を効果的に向上させることができ、その上、反応室内での原料ガスの分圧を高くできるようにする。
【解決手段】気化室22に通じる原料供給路32、42を介して、液体原料を供給すると共に、気化室を臨む原料供給路の導入口周辺からキャリアガスを噴射することで、液体原料を気化室内に噴霧し、この噴霧された液体原料を、所定温度に加熱された気化室内での熱交換により気化し、この気化された原料ガスを当該気化室に開設した排出口から排出する。原料供給路内で液体原料に所定流量で還元ガスを混合して気液混合状態とし、この状態で前記導入口から気化室に噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応室内に原料ガスと還元ガスとを夫々導入し、当該反応室に設置した基板表面に気相からの析出により所定の薄膜を成膜する際に液体原料を気化するための液体原料の気化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの製作工程には成膜工程があり、この成膜工程に利用される成膜方法の一つとしてCVD法がある。CVD法を実施するCVD装置は、反応室を画成する真空チャンバを備え、この真空チャンバには、真空ポンプに通じる、圧力制御弁等が介設された排気管が接続されている。また、真空チャンバの天板内側にはシャワープレートを有するプロセスガス導入部が設けられ、このシャワープレートに対向させて真空チャンバの底部には、処理すべき基板を位置決め保持するヒーターが設けられている(例えば特許文献1参照)。そして、プロセスガス導入部に対し、成膜用の原料ガスを供給する方法として、液体原料や固体原料を溶媒液に溶解したものを気化器により気化し、キャリアガスと共に直接供給することが一般に知られている。
【0003】
液体原料等を気化する気化器は例えば特許文献2で知られている。このものは、気化室を有する気化部と、気化部の上面に配置された導入部と、液体原料を供給する原料供給部とを備える。導入部は、ノズル端(供給口)が気化室を臨むように配置されたノズル部を備え、ノズル部は、原料供給部に形成された原料供給路に連通している。原料供給路には流量制御弁が介設され、原料を収納したキャニスターに連通している。また、導入部には、ノズル端の周辺からアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスたるキャリアガス(アトマイジングガス)を噴射するためのキャリアガス供給口が形成されている。そして、流量制御弁にて流量制御された液体原料等(L)をノズル端から気化室に向けて噴射すると共に、その周囲を包むようにキャリアガス(CG)を噴射する。これにより、液体原料が気化室内に噴霧され、この噴霧された液体原料が、所定温度に加熱された気化室内での熱交換により気化される。この気化された原料ガス(VG)が、キャリアガス(CG)と共にプロセスガス(VG+CG)となってCVD装置のプロセスガス導入部へと導入される。
【0004】
ところで、気化器からCVD装置のプロセスガス導入部にプロセスガスを供給する場合、一般に、真空チャンバを真空引きする真空ポンプに通じる排気管に介設した圧力制御弁により圧力制御してプロセスガスを導入している。この場合、プロセスガス中の原料ガスの分圧が低いと、原料ガスの供給量が少なくなって成膜速度の低下を招く。このため、生産性よくCVD法により成膜を行うには、気化効率を向上させるだけでなく、CVD装置に供給されるプロセスガス中の原料ガスの分圧を如何に高めるかが重要となる。
【0005】
ここで、気化器における気化効率は、主として、気化室内の加熱温度と、キャリアガスの流量とで決まる。然し、CVD装置のプロセスガス導入部まで分解されない状態で原料を供給する必要があるため、液体原料の分解温度以上に気化室の温度を加熱上昇させることはできない。このため、気化室の加熱温度制御による気化効率の向上には限界がある。一方、キャリアガスの流量を増加させると、上記の如く、気化効率が向上するものの、当該キャリアガスの増加に従い、CVD装置に供給されるプロセスガス中の原料ガスの分圧が低下し、結果として、成膜速度の更なる低下を招来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−166965号公報
【特許文献2】特開2005−113221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、気化室の所定温度下での気化効率を効果的に向上させることができ、その上、反応室内に原料ガスと還元ガスとを夫々導入し、当該反応室に設置した基板表面に気相からの析出により所定の薄膜を成膜する際に原料ガスの分圧を効果的に高くできる液体原料の気化方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の液体原料の気化方法は、反応室内に原料ガスと還元ガスとを夫々導入し、当該反応室に設置した基板表面に気相からの析出により所定の薄膜を成膜する際に液体原料を気化して反応室内に導入する原料ガスとする液体原料の気化方法であって、気化室に通じる原料供給路を介して、液体原料を供給すると共に、気化室を臨む原料供給路の導入口周辺からキャリアガスを噴射することで、液体原料を気化室内に噴霧し、この噴霧された液体原料を、所定温度に加熱された気化室内での熱交換により気化し、この気化された原料ガスを当該気化室に開設した排出口から排出し、前記原料供給路内で液体原料に所定流量で還元ガスを混合して気液混合状態とし、この状態で前記導入口から気化室に噴射することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、液体原料を前駆体とし、この前駆体を気化して原料ガスとし、この原料ガスと還元ガスとを反応室内に夫々導入し、所謂CVD法により成膜するような場合において、原料供給路内で液体原料に、成膜時に反応室内に導入する還元ガスを所定流量で予め混合して気液混合状態し、この状態で液体原料を導入口から気化室に向けて噴射すると共に、例えばその周囲を包むようにしてキャリアガスが噴射するため、気化室の所定温度下における液体原料の気化効率を効果的に向上させることができる。つまり、上記従来例の如く、液相状態の液体原料を導入口から気化室に向けて噴射する際にその周囲から噴射するキャリアガスの流量を総流量とし、この総流量の範囲内の所定流量で液体原料に還元ガスを予め混合して気液混合状態し、残余の所定流量でキャリアガスを噴射すれば、従来例のものと比較して気化効率を数倍向上させることができる。
【0010】
従って、従来例のものと比較して少ないキャリアガスの流量で同等の気化効率が得られ、結果として、成膜時の反応室内の原料ガスの分圧を高めることができる。これは、液体原料を予め気液混合状態とすることで、上記従来例のものと比較して一層微細な霧状となって液体原料が気化室内に噴霧されることに起因しているものと考えられる。しかも、反応室に直接導入する還元ガスの流量も少なくすることができ、反応室内における原料ガスの分圧を一層高めて、成膜速度を更に向上できて有利である。なお、本発明において、還元ガスとは、前駆体に含まれるもののうち、成膜に寄与しない有機物等を分解して反応室外に排出するために導入するものをいい、原料ガスとの関連において、気化器にて液体原料を気化する際に当該気化器内で反応しないものが選択される。
【0011】
なお、基板表面にニッケル膜を成膜するものにおいては、液体原料をビス(N,N´−ジターシャルブチルアセトアミジネイト)ニッケルまたはメチルシクロペンタジエ二ルニッケルとし、前記還元ガスを水素ガスとするとすれば、効果的に気化効率を向上できることが確認された。この場合、前記キャリアガスも前記還元ガスたる水素ガスとすれば、反応室に直接導入する還元ガスの流量も更に少なくすることができ、不活性ガスを用いないことと相俟って、反応室内における原料ガスの分圧をより一層高めて、成膜速度を更に向上できて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の気化器を備えたCVD装置を模式的に示す図。
【図2】図1の気化器を拡大して説明する断面図。
【図3】(a)は、変形例に係る気化器の気化室を拡大して説明する断面図。(b)は、図3(a)中のB―B線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、液体原料を前駆体とし、この前駆体を気化して原料ガスとし、この原料ガスと還元ガスとを反応室内に夫々導入し、所謂CVD法により成膜する際に液体原料を気化して原料ガスを得る場合を例として、本発明の実施形態の液体原料の気化方法を説明する。
【0014】
図1中、Mは、本発明の実施形態の気化方法を実施し得る気化器Vを備えたCVD装置である。CVD装置Mは、反応室を画成する真空チャンバM1を備える。この真空チャンバM1には、真空ポンプM2に通じる、圧力制御弁M3が介設された排気管M4が接続されている。また、真空チャンバM1の天板内側には、当該天板と、天板内側に真空チャンバ内側に向けて立設した環状壁と、環状壁の下面に装着したシャワープレートM5とからなるプロセスガス導入部M6が設けられている。このシャワープレートM5に対向させて真空チャンバM1の底部には、処理すべき基板Wを位置決め保持する、加熱手段を内蔵したヒーターM7が設けられている。また、真空チャンバM1の側壁には、マスフローコントローラM8を備えた還元ガス導入管M9が接続され、還元ガスを一定の流量で反応室内に導入できるようになっている。そして、プロセスガス導入部M6に対し、原料ガスを供給するために、当該原料ガス導入部M6には、ガス導入管11を介して気化器Vが接続されている。
【0015】
ガス導入管11には、隔膜真空計等の真空計12と第1の開閉弁13とが介設されている。また、ガス導入管11は、真空計12と第1の開閉弁13との間に位置する箇所にて分岐され、この分岐されたガス分岐管14が、第2の開閉弁15を介して排気管M4に接続されている。そして、CVD装置Mにプロセスガスを供給せずに成膜を行わない場合、第1の開閉弁13を閉弁すると共に第2の開閉弁15を開弁して排気管M4に通じるガス分岐管14に原料ガスを流して廃棄する(ベント操作)。他方、成膜時には、第1の開閉弁13を開弁すると同時に、第2の開閉弁15を閉弁して、ガス供給管11から原料ガス導入部M6に原料ガスを流すと共に、還元ガス導入管M9を介して還元ガスが一定の流量で反応室内に導入される(ラン操作)。このとき、圧力制御弁M3により圧力制御されて原料ガスがガス導入部M6に所定の流量で供給される。なお、本実施形態では、単一のガス導入管11を介して液体原料を導入する場合を例に説明するが、これに限定されるものではない。
【0016】
図2に示すように、気化器Vは、気化部20と、導入部30と、原料供給部40とから構成されている。気化部20は、例えばSUS316製の第1のブロック体21からなり、その内部には、上面を開口した気化室22が穿設されている。気化室22の輪郭は、特に制限はなく、断面視略半長円形状や円錐台形状等、用途に応じて適宜選択することができる。また、第1のブロック体21には、例えば抵抗加熱式のヒーター23が内蔵され、また、その一側面には気化室22に通じるプロセスガス用の排出口24が開設されている。そして、排出口24に上記ガス導入管11が接続される。
【0017】
第1のブロック体21の上面に配置された導入部30は、当該第1のブロック体21と同一材料製の第2のブロック体31からなり、その内部中央には、第1のブロック体21の上面に直交する方向(図1中、上下方向)にのびるノズル部32が穿設されている。ノズル部32は、原料供給路の一部を構成し、ノズル部32のノズル端32aが気化室22に通じる原料供給路の導入口を構成する。また、第2のブロック体31には、ノズル部32の周囲を囲むようにキャリアガス用の導入部33が穿設され、その下端が、気化室22に向けて先細りのテーパ状の輪郭を有してキャリアガス用の導入口33aを構成し、ノズル端を包むようにして気化室22に向けてキャリガスが噴射される。第2のブロック体31の一側面にはキャリアガス用の導入部33に通じる透孔34が開設され、透孔34には、キャリアガス用のガス導入管4が接続される。ガス導入管4は、図外のマスフローコントローラを介してガス源に連通し、一定の流量でキャリアガスを導入できるようになっている。キャリアガスとしては、CVD装置でのプロセスに応じて適宜選択され、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスの他、原料ガス種によっては、水素ガスやアンモニアガス等の還元ガスも用いることができる。
【0018】
導入部30の上面に配置された原料供給部40は、第1のブロック体21と同一材料製の第3のブロック体41からなり、その内部には、ノズル部32に連通する原料供給路42が穿設されている。この場合、原料供給路42の一端は、複数回屈曲されて第3のブロック体41の上面までのび、当該第3のブロック体41の上面に開口する原料供給路42の端部には、液体原料供給用の導入管5が接続されている。液体原料供給用の導入管5は、図外の液体マスフローコントーラ等の流体制御手段を介して液体原料を収納するキャニスターに通じ、一定の流量で液体原料を原料供給路42に導入できるようになっている。
【0019】
原料供給路42には、第1のブロック体21の上面に沿う方向で所定間隔を存して、上面を開口した第1及び第2の各弁室43a、43bが形成されている。原料供給路42のノズル部32の上流側に位置する第1の弁室43aには、この第1の弁室43aに上下方向で面する弁座44aに着座する弁体6aと、この弁体6aを上下動するアクチュエータ6bとからなる元弁6が設けられている。また、原料供給路42の上流側に位置する第2の弁室43bには、この第2の弁室43bに上下方向で面する弁座44bに着座する弁体7aと、この弁体7aを上下動するアクチュエータ7bとからなる流量制御弁7が設けられ、弁座44bの開度が調整して流量制御し得るようになっている。なお、元弁6及び流量制御弁7の形態は、閉止機能や流量制御機構を備えたものであれば、上記に限定されるものではなく、他の公知のものを利用できる。
【0020】
また、第3のブロック体41には、還元ガスにセカンドキャリアガスとして役割を持たせ、この還元ガスたるセカンドキャリアガスを液体原料に混合するために、第1及び第2の両弁室43a、43bの間に位置する原料供給路42に接続されたセカンドキャリアガス供給路45が更に穿設されている。セカンドキャリアガス供給路45の一端は、複数回屈曲されて第3のブロック体41の側面までのび、当該第3のブロック体41の一側面に開口するセカンドキャリアガス供給路45の端部には、セカンドキャリアガス供給用の導入管8が接続されている。そして、セカンドキャリアガス供給用の導入管8は、図外のマスフローコントーラを介してガス源に通じ、これにより、一定の流量でセカンドキャリアガスを原料供給路42に供給すれば、当該原料供給路42内を流れる液体原料に還元ガスたるセカンドキャリアガスが混合される。セカンドキャリアガス供給路45には、上面を開口した第3の各弁室43cが形成されている。第3の弁室43cには、この第3の弁室43cに上下方向で面する弁座44cに着座する弁体9aと、この弁体9aを上下動する駆動源9bとからなる他の開閉弁9が設けられ、図外のマスフローコントローラで所定流量に制御したセカンドキャリアガスを原料供給路42に流す。
【0021】
ここで、液体原料としては、例えば、アミジネイト配位子またはシクロベンタジエニル配位子を持つコバルトまたはニッケル錯体の前駆体を用いることができ、このような前駆体に含まれるもののうち、成膜に寄与しない有機物等を分解して反応室外に排出するために導入する還元ガスとしては、原料ガスとの関連において、気化器Vにて液体原料を気化する際に当該気化器V内で反応しないものが選択され、例えば水素ガスやアンモニアガスが用いられる。具体的には、基板W表面にニッケル膜を成膜する場合には、液体原料をビス(N,N´−ジターシャルブチルアセトアミジネイト)ニッケルまたはメチルシクロペンタジエ二ルニッケルとし、還元ガスを水素ガスとすればよい。この場合、キャリアガス用の導入部33から噴射するキャリアガスも水素ガスとすることができる。他方で、基板W表面にコバルト膜を成膜する場合には、液体原料をビス(N−ターシャルブチルーN´−エチルブロビンアミジネイト)コバルトまたはビス(シクロベンタジエニル)コバルトとし、還元ガスをアンモニアガスとすればよい。
【0022】
以下に、液体原料をビス(N,N´−ジターシャルブチルアセトアミジネイト)ニッケルとし、還元ガスを水素ガスとし、基板W表面にニッケル膜を形成する場合を例として本発明の実施形態の液体原料の気化方法を実施してCVD装置にプロセスガスを供給する場合を説明する。
【0023】
先ず、真空ポンプM2を作動させて真空チャンバM1を真空引きする。真空チャンバM1が所定圧力に到達すると、気化器Vを介してベント操作を行う。即ち、第1の開閉弁13を閉弁すると共に、第2の開閉弁15を開弁する。他方、気化器Vにおいては、キャニスター内にヘリウム等の不活性ガス(プッシングガス)を所定圧力(例えば0.2MPa)で導入し、液体原料供給用の導入管5を介して気化器Vの原料供給路42に所定流量で液体原料を供給する。その際、アクチュエータ7bを制御して弁座44bの開度を調整し、ノズル部32を介して気化室22に導入される液体原料の導入量を調節する。
【0024】
これと同時に、他の開閉弁9を開弁すると共に、図外のマスフローコントローラを制御してセカンドキャリアガス供給路45に一定の流量で水素ガス(還元ガス)を流す。これにより、液体原料に還元ガスが混合されて気液混合状態となって原料供給路42からノズル部32へと導入される。この場合、そして、ノズル部32の周囲を囲むキャリアガス用の導入部33を介して、ノズル端を包むようにして気化室22に向けてキャリガスたる水素ガス(還元ガス)を噴射する。これにより、液体原料が気化室22内に噴霧され、この噴霧された液体原料が、所定温度に加熱された気化室内での熱交換により気化され、この気化された原料ガスがキャリアガス及び還元ガスと共にプロセスガスとなって、排出口24へと流れる。最後に、ガス供給管11からガス分岐管14を通して真空ポンプM2へと導かれて排気される。
【0025】
次に、成膜を行う場合、ラン操作に切換える。即ち、第1の開閉弁13を開弁すると同時に、第2の開閉弁15を閉弁してガス供給管にプロセスガスを流すと共に、還元ガス導入管M9により還元ガスを一定の流量で反応室内に導入する。これにより、プロセスガスがシャワープレートM5を介してヒーターM7の基板Wに供給されると共に成膜に寄与しない有機物等を分解され、ニッケル膜が成膜される。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の液体原料の気化方法によれば、原料供給路42、32内で液体原料に所定流量で還元ガスたる水素ガスを予め混合して気液混合状態とし、この状態で液体原料を供給口たるノズル端32aから気化室22に向けて噴射すると共に、その周囲を包むようにして還元ガスたる水素ガスを噴射することで、気化室22の所定温度下における液体原料の気化効率を一層向上させることができる。これは、液体原料を予め気液混合状態とすることで、上記従来例のものと比較して一層微細な霧状となって液体原料が気化室22内に噴霧されることに起因しているものと考えられる。
【0027】
また、キャリアガスも還元ガスたる水素ガスとしたため、反応室に直接導入する還元ガスの流量も更に少なくすることができ、不活性ガスを用いないことと相俟って、反応室内における原料ガスの分圧をより一層高めて、成膜速度を更に向上できる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態では、気化器として3個のブロック体に原料供給路や気化室を形成したものを例に説明したが、気液混合状態で気化室に原料が供給できるものであれば、その形態は問わず、本発明の液体原料の気化方法は広く適用可能である。
【0029】
また、気化効率を更に向上させるために、気化室22や排出口24の内部に、気化室22においては液体原料の通過を許容し、また、排出口24においては原料ガスの通過を許容する気化補助手段を設けることができる。気化補助手段としては、金属製のメッシュ部材10a、10bを用いることができる。即ち、図4(a)及び図4(b)を参照して説明すれば、金属製のメッシュ部材10a、10bは、例えば、チタン、ニッケル、タングステン、白金、カーボンアロイ製のパンチングメタルやエキスパンドメタルから構成することができ、また、上記材料製で所定径を有する線材を格子状に組み付け構成することもできる。そして、一のメッシュ部材10aは、気化室21の上部に、ノズル部32のノズル端32aに対向させて水平に配置される。即ち、メッシュ部材10aは、その外周面を、気化室21を画成する第1のブロック体31の内壁面にその全面に亘って接触させた状態で当該内壁面に取り付けられる。これにより、ヒーター23により気化室21を画成する第1のブロック体31の内壁面たる気化面を加熱すると、メッシュ部材M1自体も伝熱または輻射熱にて所定温度に加熱される。このため、ノズル単32aから気液混合状態の原料を気化室22に向けて噴射したとき、その一部がメッシュ部材M1に衝突したときの熱交換でも気化されるようになり、気化効率を更に向上する。
【0030】
また、他のメッシュ部材10bは、排出口24に、気化室を臨むように当該排出口24の長手方向に直交する方向(上下方向)に設けられる。即ち、メッシュ部材10bは、その外周面を、排出口24を画成する第1のブロック体31の内壁面にその全面に亘って接触させた状態で当該内壁面に取り付けられる。これにより、上記同様、ヒーター23により、気化室21を加熱すると、メッシュ部材M2自体も伝熱または輻射熱にて所定温度に加熱される。このため、気化室21で気化されずに排出口24への導かれた原料をメッシュ部材M2にて気化することができ、気化室211内にメッシュ部材M1を設けたことと相まって、更に一層の気化効率の向上を図ることが可能になる。結果として、更に少ないキャリアガスの流量で同等の気化効率が得られ、後工程で例えばCVD装置にプロセスガスを供給する場合に、当該プロセスガス中の原料ガスの分圧を更に高めることができる。なお、メッシュ部材10bの平面視の形状は、図4(b)に示すメッシュ部材10aのものと同一に表わされることから、省略する。また、メッシュ部材10a、10bの開口の輪郭や開口面積は、得ようとする気化効率に応じて適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0031】
V…気化器、22…気化室、24…排出口、32…ノズル部(原料供給路)、32a…ノズル端(導入口)、42…原料供給路、45…セカンドキャリアガス供給路、M…CVD装置、M9…還元ガス導入管、10a、10b…金属製のメッシュ部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室内に原料ガスと還元ガスとを夫々導入し、当該反応室に設置した基板表面に気相からの析出により所定の薄膜を成膜する際に液体原料を気化して反応室内に導入する原料ガスとする液体原料の気化方法であって、
気化室に通じる原料供給路を介して、液体原料を供給すると共に、気化室を臨む原料供給路の導入口周辺からキャリアガスを噴射することで、液体原料を気化室内に噴霧し、この噴霧された液体原料を、所定温度に加熱された気化室内での熱交換により気化し、この気化された原料ガスを当該気化室に開設した排出口から排出し、
前記原料供給路内で液体原料に所定流量で還元ガスを混合して気液混合状態とし、この状態で前記導入口から気化室に噴射することを特徴とする液体原料の気化方法。
【請求項2】
請求項1記載の液体原料の気化方法であって、基板表面にニッケル膜を成膜するものにおいて、
液体原料をビス(N,N´−ジターシャルブチルアセトアミジネイト)ニッケルまたはメチルシクロペンタジエ二ルニッケルとし、前記還元ガスを水素ガスとすることを特徴とする液体原料の気化方法。
【請求項3】
前記キャリアガスを前記還元ガスたる水素ガスとすることを特徴とする請求項2記載の液体原料の気化方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100576(P2013−100576A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244519(P2011−244519)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】