説明

液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッド用基板、及びこれらの製造方法

【課題】 流路内の段差は、インクを充填する際の流抵抗となるため、十分な量のインクをリフィルできず、近年求められているような高速の吐出周波数を達成することができない懸念がある。
【解決手段】 液体を吐出するために用いられるエネルギー発生素子を駆動して保護層を加熱しつつ、保護層に接する液体と保護層との間に電位差をかけることにより、保護層の表面に酸化層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッド用基板、及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置に使用される代表的な液体吐出ヘッドとしては、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子を有する液体吐出ヘッド用基板と、液体の吐出口を備えた吐出口部材と、を有するものを挙げることができる。エネルギー発生素子は、通電することで発熱する発熱抵抗層と該発熱抵抗層に通電するために用いられる一対の電極とで設けられている。一対の電極に電圧を印加して発熱抵抗層が発熱することで液体が発泡し、この気泡の圧力で液体を吐出口から吐出することで記録動作が行われる。
【0003】
このようなエネルギー発生素子は絶縁性材料からなる絶縁層で被覆されている。さらに絶縁層の上に、気泡の消滅に伴うキャビテーション衝撃や液体による化学的作用からエネルギー発生素子を保護するために、タンタル等からなる保護層や酸化層を設けることが知られている。
【0004】
このような液体吐出ヘッドの製造方法が特許文献1に開示されており、特許文献1に開示される液体吐出ヘッドの断面図を図6に示す。特許文献1に開示される製造方法は、最初に基板101の上に設けられたエネルギー発生素子108を構成する発熱抵抗層104と一対の電極105とを保護する絶縁層106の上に、タンタルからなる保護層107を設ける。さらに、保護層107に接続された電極123を用いて保護層107とインク110に接する電極124との間に通電することにより、タンタル等からなる保護層107のインクに接する面に酸化タンタル等からなる酸化層122を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−309009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の製造方法で設けられた液体吐出ヘッドは、保護層107のインクに接する面に均一に酸化層122を形成しているため、一対の電極105に起因する段差がそのままエネルギー発生素子108の表面に現れてしまう。このような段差は流路にインクを充填する際の流抵抗となるため、流路に十分にインクをリフィルすることができず、近年求められているような高速の吐出周波数を達成できない懸念がある。
【0007】
そこで本発明は、エネルギー発生素子のインクに接する側の面の段差を低減できる液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の、通電により発熱する材料からなる発熱抵抗層と、該発熱抵抗層に接するように設けられ、通電に用いられる一対の電極と、前記発熱抵抗層と前記一対の電極とを覆い、絶縁性材料からなる絶縁層と、前記絶縁層の上であって、前記発熱抵抗層の、前記一対の電極の間に対応する領域を少なくとも覆う、金属材料からなる保護層と、該保護層の上に設けられた酸化層と、を備え、前記領域が吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子となる液体吐出ヘッド用基板と、前記吐出口に連通する流路の壁を備える流路部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法は、
前記発熱抵抗層と前記一対の電極と前記絶縁層と前記保護層とを備える基体と、該基体に前記壁を内側にして接するように設けられることで前記流路を形成している前記流路部材と、を用意する工程と、
前記流路に導電性を有する液体を供給する工程と、
前記一対の電極の間に通電することで、液体が膜沸騰しない温度まで、前記保護層の、前記エネルギー発生素子に対応する部分を加熱し、該加熱と並行して、前記流路の液体と前記保護層との間に電位差をかけることで、前記保護層の前記流路の側の一部を酸化して前記酸化層を形成する工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上のように設けることで、選択的に一対の電極の間に厚い酸化層を設けることができ、エネルギー発生素子のインクに接する側の面の段差を低減することができる。これにより、インクの流抵抗を低減することができ、高い吐出周波数での記録動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドを用いることができる液体吐出装置および液体吐出ヘッドユニットの一例である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの斜視図及び断面図を模式的に示したものである。
【図3】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を説明する図である。
【図4】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を説明する図である。
【図5】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部の上面模式図である。
【図6】従来の液体吐出ヘッドの断面図を模式的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0012】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0013】
さらに「インク」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0015】
(液体吐出装置)
図1(a)は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載可能な液体吐出装置を示す概略図である。
図1(a)に示すように、リードスクリュー5004は、駆動モータ5013の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア5011,5009を介して回転する。キャリッジHCはヘッドユニットを載置可能であり、リードスクリュー5004の螺旋溝5005に係合するピン(不図示)を有しており、リードスクリュー5004が回転することによって矢印a,b方向に往復移動される。このキャリッジHCには、ヘッドユニット40が搭載されている。
【0016】
(ヘッドユニット)
図1(b)は、図1(a)のような液体吐出装置に搭載可能なヘッドユニット40の斜視図である。液体吐出ヘッド41(以下、ヘッドとも称する)はフレキシブルフィルム配線基板43により、液体吐出装置と接続するコンタクトパッド44に導通している。また、ヘッド41は、インクタンク42と接合されることで一体化されヘッドユニット40を構成している。ここで例として示しているヘッドユニット40は、インクタンク42とヘッド41とが一体化したものであるが、インクタンクを分離できる分離型とすることも出来る。
【0017】
(液体吐出ヘッド)
図2(a)に本発明に係る液体吐出ヘッド41の斜視図を示す。また、図2(b)は、図2(a)のA−A’に沿って基板5に垂直に液体吐出ヘッド41を切断した場合の切断面の状態を模式的に示す断面図である。
【0018】
液体吐出ヘッド41は、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子12を備えた液体吐出ヘッド用基板5と、液体吐出ヘッド用基板5の上に設けられた流路形成部材14と、を有している。エネルギー発生素子の配列密度は約1200dpiである。流路形成部材14は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物で設けることができ、液体を吐出するための吐出口13と、吐出口13に連通する流路46の壁14aとを有している。この壁14aを内側にして、流路形成部材14が液体吐出ヘッド用基板5に接することで流路46が設けられている。流路形成部材14に設けられた吐出口13は、供給口45に沿って所定のピッチで列をなすように設けられている。供給口45から供給された液体は流路46に運ばれ、さらにエネルギー発生素子12の発生する熱エネルギーによって液体が膜沸騰することで気泡が生じる。このときに生じる圧力により液体が、吐出口13から吐出されることで、記録動作が行われる。さらに、液体吐出ヘッド41は、流路46に液体を送るために液体吐出ヘッド用基板5を貫通して設けられる供給口45と、外部、例えば液体吐出装置、との電気的接続を行う端子17と、を有している。端子17に外部から電圧を印加することで、エネルギー発生素子12に通電を行い、液体を吐出することができる。
【0019】
液体吐出ヘッド41の断面は、図2(b)に示されるように、トランジスタ等の駆動素子(不図示)が設けられたシリコンからなる基体1の上に、シリコン化合物からなる蓄熱層4が設けられている。蓄熱層4の上に、通電することで発熱する材料(例えばTaSiNやWSiNなど)からなる発熱抵抗層6が設けられ、発熱抵抗層6に接するように、発熱抵抗層6より抵抗の低いアルミニウムなどを主成分とする材料からなる一対の電極7が設けられている。一対の電極7の間に電圧を供給し、発熱抵抗層6の一対の電極7の間に位置する部分を発熱させることで、発熱抵抗層6の部分をエネルギー発生素子12として用いる。これらの発熱抵抗層6と一対の電極7は、インクなどの吐出に用いられる液体との絶縁を図るために、SiN等のシリコン化合物などの絶縁性材料からなる絶縁層8で被覆されている。さらに吐出のための液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃などからエネルギー発生素子12を保護するために、エネルギー発生素子12の部分に対応する絶縁層8の上に耐キャビテーション層として用いられる保護層10が設けられている。具体的には、保護層10としてタンタル等の金属材料を用いることができる。さらに、エネルギー発生素子12のインクに接する部分には、保護層に用いられる材料の酸化物等からなる酸化層11が設けられている。タンタルからなる保護層10を設けた場合には、酸化タンタルからなる酸化層11を設けることが密着性を確保する上で好ましい。一対の電極7が設けられている部分は、基板の面に対して凸形状になっているため、一対の電極7が設けられている部分とない部分とでは大きな段差が存在している。そのため酸化層11を、一対の電極7の上よりも一対の電極7の間のエネルギー発生素子12の領域に厚く設けることにより、エネルギー発生素子のインクに接する側の面の段差を低減することができる。このようにエネルギー発生素子12周辺の段差を低減することにより、流路46内のインクの流抵抗を低減して高速でインクの供給を行うことができ、高い吐出周波数で記録動作を行うことができる。
【0020】
以下に、図面を参照してこのような液体吐出ヘッドの製造方法の製造工程について具体的に説明する。
【0021】
(第一の実施形態)
図3は、図2(a)のA−A’に沿って基板5に垂直に液体吐出ヘッド41を切断した場合の各工程での切断面の状態を模式的に示す断面図である。
エネルギー発生素子12を駆動するために用いられるMOSトランジスタ等の駆動素子(不図示)等が設けられたシリコンからなる基体1を用意する。さらに基体1の上に、CVD法等を用いて膜厚約500nm〜1umで形成された酸化シリコン(SiO2)からなる蓄熱層4を設ける。蓄熱層4の上には、膜厚約10nm〜50nmのTaSiNまたはWSiN等の通電により発熱する材料からなる発熱抵抗層6と、一対の電極7となる膜厚約100nm〜1umのアルミニウムを主成分とする導電層をスパッタリング法により形成する。さらにRIE法などのドライエッチング技術を用いて発熱抵抗層6と導電層とをパターン形状に加工し、さらに導電層の一部をウェットエッチング技術を用いて除去して一対の電極7を設ける。導電層を除去した部分に対応する発熱抵抗層6が、エネルギー発生素子12として用いられる(図3(a))。
【0022】
次に発熱抵抗層6や一対の電極7を覆うように、基板全面にCVD法等を用いて窒化シリコン(SiN)等からなる絶縁性を有する膜厚約100nm〜1μmの絶縁層8を設ける(図3(b))。
【0023】
次に、絶縁層8の上に、導電性を有し、液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃などから保護可能な耐久性を有する金属材料を用いて、膜厚50nm〜500nmの導電層をスパッタリング法を用いて形成する。さらにドライエッチング技術を用いて、パターニングを行い、エネルギー発生素子12に対応する位置に保護層10を形成する(図3(c))。ここでは、タンタルを主成分とする金属材料を300nmの厚さに形成した場合を説明する。
【0024】
次に、液体吐出ヘッド用基板5の面に溶解可能な樹脂をスピンコート法を用いて形成し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングして流路46となる部分に型材を形成する(不図示)。さらに、型材の上に、カチオン重合型エポキシ樹脂をスピンコート法を用いて形成し、その後ホットプレートを用いてベークを行い硬化させることで、流路形成部材14を形成する。その後、フォトリソグラフィ技術を用いて吐出口13となる部分の流路形成部材14を除去する。次に、基体1のエネルギー発生素子12が設けられた面の裏面から、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(TMAH溶液)等を用いてシリコンからなる基体1をエッチングして供給口45となる貫通口を形成する。基体1は表面の結晶方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いることにより、アルカリ性の溶液(例えばTMAH溶液)を用いた結晶異方性エッチングで供給口45を設けることができる。このような基体では、(111)面のエッチングレートが他の結晶面のエッチングレートに比べ非常に遅いためシリコン基板平面に対して約54.7度という角度をなす供給口45を設けることができる。その後型材を除去して、エネルギー発生素子12と供給口45とが設けられた液体吐出ヘッド用基板5の上に、吐出口13と流路46の壁14aとを有する流路形成部材を完成させる(図3(d))。なお供給口45を形成する方法としては、ウェットエッチング法のみならず、ドライエッチング法を用いて設けても良い。
【0025】
次に、基体1の供給口45から導電性を有する液体を供給し、流路内に液体22を充填する(図3(e))。流路に充填させる液体は、導電性を有する液体であれば良く、インクを用いることもできる。この際、吐出口13から吸引して液体を充填してもよい。この液体22は、供給口45に露出するシリコンからなる基体1と接するように設けられている。シリコンからなる基体1は、端子17等を介して接地されているため接地電位(GND電位とも称する)となっているため、流路に充填された液体22もGND電位となっている。
【0026】
次に、一対の電極7に通電を行いエネルギー発生素子12のインク(流路)に面する面の温度が200℃以上になるように液体が膜沸騰しないような条件を用いて加熱する。なおエネルギー発生素子12により600℃までの加熱が可能である。
【0027】
さらに、エネルギー発生素子12の液体22に面する部分を加熱している間に、液体22に対して保護層10が陽極となるように約20Vの電圧を端子23に印加する。200℃以上に保護層10を加熱して、かつ、保護層10が陽極となるように電圧を印加することで、室温に比べ保護層の酸化速度を著しく早くすることができる。
【0028】
これにより200℃以上となる領域11a(第一の位置)では酸化が進み厚い酸化層11が形成され、熱が直接かからない領域11b(第二の位置)では酸化が進まず、領域11aに比べて薄い酸化層11が形成される(図3(f)酸化反応)。なお室温での保護層10の材料であるタンタルの酸化速度を1とすると、400℃のときは約20倍となり、膜厚は酸化タンタルとなることで約2.5倍の厚さとなることが分かっている。
【0029】
スパッタ法を用いてタンタルの保護層10を約300nm設けた基板を用いて、約400℃になるようにエネルギー発生素子12の加熱と、端子23と端子24とへの電圧印加と、を一定時間行った。領域11aにおいては、タンタルからなる保護層10が約100nm残り、酸化層11が約500nm形成されたときに、領域11bにおいては、保護層10が約290nm残り、酸化層11が約25nm形成された。
【0030】
エネルギー発生素子12は、一対の電極7の段差の凹部に対応する領域であることから、エネルギー発生素子12で加熱して、選択的に領域11aに厚い酸化層11を設けることで、一対の電極7による段差を低減させることができる。さらに、このように設けることにより流路46におけるインクの流抵抗を小さくすることができ、高速でインクのリフィルを行うことができる。従って高い吐出周波数で記録動作を行うことができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0031】
(第二の実施形態)
第1の実施形態では流路形成部材14を形成した後に、流路46内にインク等の導電性の液体を充填し、保護層10に電圧を印加して酸化反応を起こして酸化層11を設けた。一方本実施形態は、流路形成部材14を設ける前にエネルギー発生素子12の表面に酸化層11を設ける製造方法である。
【0032】
保護層10を設ける工程まで(図3(a)〜図3(c))は、第一の実施形態と同様であるため省略する。
【0033】
図3(c)に示すような保護層10が設けられた基体1の上に、感光性を有するレジスト材料等からなる材料を塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いてエネルギー発生素子12の周囲を取り囲むように部材60を設ける(図4(a))。図4(a)のような部材60を設けた基体1の上面模式図を図5に示す。ここでは、1つのエネルギー発生素子12に対して1つの部材60が設けられている状態を示したが、複数のエネルギー発生素子12を囲むように設けても良い。
【0034】
次に、部材60で囲まれた領域に導電性を有する液体22を、保護層10に接するように充填する(図4(b))。このとき、記録動作に用いるインクを用いても良い。
【0035】
次に、保護層10に接続するように端子23を設け、液体22に接続するように端子24を設ける。次にエネルギー発生素子12の液体に接する面の温度が300℃以上、400℃以下となるようなパルスを用いて一対の電極7に通電を行う。
【0036】
エネルギー発生素子12の液体22に面する部分を加熱している間に、端子23と端子24とに、保護層10が陽極となるように約20Vの電位差をかける。300℃以上に保護層10を加熱して、かつ、保護層10が陽極となるように電圧を印加することで、室温に比べ保護層の酸化速度を著しく早くすることができる。
【0037】
これにより、300℃以上、400℃以下となる領域11aでは、酸化が進み厚い酸化層11が形成され、熱が直接かからない領域11bにおいては、酸化がほとんど進まず薄い酸化層11が形成される(図4(c)酸化反応)。
【0038】
スパッタ法を用いてタンタルの保護層10を約300nm設けた基板を用いて、約400℃になるようにエネルギー発生素子12の加熱と、端子23と端子24とへの電圧印加と、を一定時間行った。領域11aにおいては、タンタルからなる保護層10が約100nm残り、酸化層11が約500nm形成されたときに、領域11bにおいては、保護層10が約290nm残り、酸化層11が約25nm形成された。
【0039】
エネルギー発生素子12は、一対の電極7の段差の凹部に対応する領域であることから、エネルギー発生素子12で加熱して、選択的に領域11aに厚い酸化層11を設けることで、一対の電極7による段差を低減させることができる。
【0040】
次に、液体22と部材60とを除去し、液体吐出ヘッド用基板5の面に溶解可能な樹脂をスピンコート法を用いて形成し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングして流路46となる部分に型材を形成する(不図示)。さらに、型材の上に、カチオン重合型エポキシ樹脂をスピンコート法を用いて形成し、その後ホットプレートを用いてベークを行い硬化させることで、流路形成部材14を形成する。その後、フォトリソグラフィ技術を用いて吐出口13となる部分の流路形成部材14を除去する。次に、基体1のエネルギー発生素子12が設けられた面の裏面から、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(TMAH溶液)等を用いてシリコンからなる基体1をエッチングして供給口45となる貫通口を形成する。その後型材を除去して、液体吐出ヘッドを完成させる(図2(b))。
【0041】
以上のように設けることにより、流路46におけるインクの流抵抗を小さくすることができ、高い吐出周波数で記録動作を行うことができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0042】
なお、流路形成部材14を設ける前に保護層10を酸化させる工程を設けることにより、エネルギー発生素子12のインクに接する表面の段差をあらかじめ低減せることができる。これにより流路や吐出口の形状をばらつきなく形成させることができ、吐出量ばらつきも低減することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【符号の説明】
【0043】
5 液体吐出ヘッド用基板
6 発熱抵抗層
7 一対の電極
8 絶縁層
10 保護層
11 酸化層
12 エネルギー発生素子
13 吐出口
14 流路形成部材
22 液体
41 液体吐出ヘッド
46 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により発熱する材料からなる発熱抵抗層と、該発熱抵抗層に接するように設けられ、通電に用いられる一対の電極と、前記発熱抵抗層と前記一対の電極とを覆い、絶縁性材料からなる絶縁層と、前記絶縁層の上であって、前記発熱抵抗層の、前記一対の電極の間に対応する領域を少なくとも覆う、金属材料からなる保護層と、該保護層の上に設けられた酸化層と、を備え、前記領域が吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子となる液体吐出ヘッド用基板と、
前記吐出口に連通する流路の壁を備える流路部材と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記発熱抵抗層と前記一対の電極と前記絶縁層と前記保護層とを備える基体と、該基体に前記壁を内側にして接するように設けられることで前記流路を形成している前記流路部材と、を用意する工程と、
前記流路に導電性を有する液体を供給する工程と、
前記一対の電極の間に通電することで、前記保護層の、前記エネルギー発生素子に対応する部分を加熱し、該加熱と並行して、前記流路の液体と前記保護層との間に電位差をかけることで、前記保護層の前記流路の側の一部を酸化して前記酸化層を形成する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記酸化層を設ける工程において、前記保護層が陽極となるように電位差をかけることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
用意された前記基体の面は、該面に垂直な方向に関して、前記一対の電極の間に対応する第一の位置より、前記一対の電極に対応する第二の位置のほうが、凸であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記保護層は、タンタルを主成分とする材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
通電により発熱する材料からなる発熱抵抗層と、該発熱抵抗層に接するように設けられ、通電に用いられる一対の電極と、前記発熱抵抗層と前記一対の電極とを覆い、絶縁性材料からなる絶縁層と、前記絶縁層の上であって、前記発熱抵抗層の、前記一対の電極の間に対応する領域を少なくとも覆う、金属材料からなる保護層と、該保護層の上に設けられた酸化層と、を備え、前記領域が液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子となる液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記発熱抵抗層と前記一対の電極と前記絶縁層と前記保護層とを備える基体を用意する工程と、
少なくとも前記エネルギー発生素子に対応する前記保護層の部分の上に、導電性を有する液体を供給する工程と、
前記一対の電極の間に通電することで、前記保護層の、前記エネルギー発生素子に対応する部分を加熱し、該加熱と並行して、設けられた前記液体と前記保護層との間に電位差をかけることで、前記保護層の前記流路の側の一部を酸化させて前記酸化層を形成する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸化層を設ける工程において、前記保護層が陽極となるように電位差をかけることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項7】
用意された前記基体の面は、該面に垂直な方向に関して、前記一対の電極の間に対応する第一の位置より、前記一対の電極に対応する第二の位置のほうが、凸であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項8】
前記保護層は、タンタルを主成分とする材料で形成されていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項9】
通電により発熱する材料からなる発熱抵抗層と、
該発熱抵抗層に接するように設けられ、通電に用いられる一対の電極と、
前記発熱抵抗層と前記一対の電極とを覆い、絶縁性材料からなる絶縁層と、
前記絶縁層の上であって、前記発熱抵抗層の、前記一対の電極の間に対応する領域を少なくとも覆う、金属材料からなる保護層と、
該保護層の上に設けられた酸化層と、
を備え、
前記領域が液体を吐出するために用いられるエネルギーを発生するエネルギー発生素子となり、
前記酸化層の、前記エネルギー発生素子に対応する部分の膜厚は、前記酸化層の、前記一対の電極に対応する部分の膜厚より厚いことを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。
【請求項10】
請求項9に記載の液体吐出ヘッド用基板と、
液体を吐出するための吐出口と連通する流路の壁を備え、該壁を内側にして前記液体吐出ヘッド用基板と接することで前記流路を形成している流路部材と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245675(P2012−245675A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118271(P2011−118271)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】