説明

液体吐出ヘッドおよび記録装置

【課題】紙ジャム等によって記録ヘッドの吐出口面が損傷するのを防ぐ。
【解決手段】記録ヘッド1001の記録素子基板1100の側面は、第1の封止樹脂1307によって封止され、支持板に固定された配線基板1300との電気接続部は第2の封止樹脂1308によって封止される。記録素子基板1100の吐出口面に、紙ジャム等によって折れ曲がった被記録媒体が接触するのを防ぐために、記録素子基板1100の側縁に沿って、配線基板1300の表面に所定の高さで突出する第3の封止樹脂1309を被着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体にインク等液体を吐出させて記録を行う記録装置に搭載される液体吐出ヘッドおよび記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱等のエネルギーをインクに与えることで、インクに急峻な体積変化(気泡の発生)を伴う状態変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出し、これを被記録媒体上に付着させて画像形成を行う記録方法が従来知られている。この記録方法は、情報処理装置の出力手段、例えば複写機、ファクシミリ、電子タイプライタ、ワードプロセッサ、ワークステーション等の出力端末としてのプリンタに用いられている。あるいはパーソナルコンピュータ、ホストコンピュータ、光ディスク装置、ビデオ装置等に具備されるハンディまたはポータブルプリンタの記録方法として利用されている。また、この記録方法は、インクを微小な液滴として吐出することによって、被記録媒体上に文字や図形等の記録を行うもので、高精細な画像の出力、高速記録の手段としてすぐれた利点を有する。
【0003】
この記録方法を適用した液体吐出ヘッドは、例えば、特許文献1、特許文献2に開示されているように、液体の吐出口と、この吐出口に連通する液流路と、液流路内に配された液体を吐出するためのエネルギーを発生する発熱体(電気熱変換体)とを備えている。
【0004】
インクジェット記録方法を採用する記録装置(インクジェット記録装置)は、液体を吐出するための手段として上記液体吐出ヘッドを着脱自在に、あるいは固定して搭載することによって、以下のような特徴を有する。すなわち、いわゆるノンインパクト型の記録装置なので他の方法を適用したものと比較して騒音が少ないこと、多色のインクを使うことによってカラー画像記録も容易に行うことができること、装置本体の小型化や画像の高密度化も容易である等の特徴を有する。従って、インクジェット記録方法は、近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の多くのオフィス機器に利用されており、さらに捺染装置等の産業用システムにまで急速に普及しつつある。
【0005】
図6は、一般的な記録装置の記録ヘッドカートリッジを示すものである。この記録ヘッドカートリッジは、記録ヘッド(液体吐出ヘッド)1001とタンクホルダ2000よびこれに着脱自在に設けられたインクタンク1900で構成されている。この記録ヘッドカートリッジは、インクジェット記録装置本体のキャリッジに対して着脱可能となっており、記録装置本体の位置決め手段によって位置決めされ、電気的接点に接触し固定される。記録ヘッド1001の電気接点部は、コンタクトパッド1301である。記録ヘッドカートリッジは、このコンタクトパッド1301を通じて記録装置本体から電気信号を受け、配線基板1300を通じて、記録素子基板(吐出素子基板)1100に信号を送り、インクを吐出させプリントを行う。
【0006】
図7は記録ヘッド1001の主要部を示すもので、記録素子基板1100は、吐出口1110の下に設けられたヒーター(不図示)と配線のあるヒーターボード1112と、インク流路を形成するための流路プレート1111から成り立っている。
【0007】
記録素子基板1100の配線と支持板1400上の配線基板1300は封止樹脂(電気接続部封止樹脂)1308の下で電気的に接続されており、前記の電気信号はこの部分を通じて伝達される。封止樹脂1308は配線をインクによる腐食、ショートから防ぐために設けられている。また、前記電気接続部の裏面と記録素子基板1100の側面を守るために封止樹脂(側面封止樹脂)1307が充填される。
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【特許文献2】特開2001−130001号公報
【特許文献3】特開2000−190513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図7に示したような従来のヘッド構成は、記録素子基板1100の両側縁が露出している。このため、例えば、記録装置で紙ジャムを起こした場合など、図8に示すように、紙ジャムによって折れ曲がった紙Pがインクの吐出部に接触して傷つけてしまい、正常な吐出ができなくなる場合があった。
【0009】
紙ジャムそのものをなくす様々な工夫により、紙ジャムの発生確率は少なくなってきてはいるものの、例えばユーザーが規格外の被記録媒体を挿入するなど、不測の事態が起こった場合には、依然としてジャムが発生する危険性は高い。従って、ヘッドの損傷を未然に防ぐ手段が必要である。
【0010】
このためのヘッド保護手段として、例えば、特許文献3に示されるようなヘッドカバーを取り付け、凸部を設けることも考えられる。しかし、このヘッドカバーは導電性を有する金属板という比較的高価な材料でできており、低価格化のためにコストダウンが要求される記録ヘッドにおいては、このような高価な部材を用いることは好ましいことではない。
【0011】
記録ヘッドの吐出口(ノズル)と被記録媒体の記録面の間隔(紙間)を遠ざけることによって、紙ジャム発生時の記録ヘッドの吐出口面の損傷確率を抑えることも考えられる。しかし、一般に紙間が広いほど、吐出したインク滴の被記録媒体への着弾精度が悪化することが知られており、さらなる高画質へのニーズが高まる記録装置にふさわしいものではない。
【0012】
また、図9に示すように、記録素子基板1100の全周を電気接続部封止樹脂1308で封止する提案もなされている。ところが、記録素子基板全面をワイピングしたい場合など、ワイプ幅(ワイパーブレードBの長さ)Aが記録素子基板1100の幅Lと同じになる。このため、少しでもヘッドに対するワイパーブレードBの位置がずれてしまうと、ワイパーブレードBが電気接続部封止樹脂1308に乗り上げてしまい、周辺領域の残留インクを充分に払拭することができないという問題があった。
【0013】
本発明は、上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであり、紙ジャム等によって折れ曲がった被記録媒体等による損傷を簡単な構成で回避できる液体吐出ヘッドおよび記録装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するためのエネルギー発生手段および複数の吐出口を備えた吐出素子基板と、前記吐出素子基板に電気信号を印加するための配線基板と、前記吐出素子基板を前記配線基板の開口内に支持するための支持手段と、前記吐出素子基板と前記配線基板を電気接続する電気接続部と、前記電気接続部を封止する電気接続部封止樹脂と、前記吐出素子基板の前記電気接続部を除く側縁に沿って、前記側縁から所定の離間距離に延在するように前記配線基板上に配設された表面封止樹脂と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
吐出素子基板の電気接続部封止樹脂が設けられていない側の側縁に沿って表面封止樹脂を設けることにより、紙ジャム等によって折れ曲がった被記録媒体が吐出素子基板に接触して吐出口面を傷つけてしまうのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、実施例1による液体吐出ヘッドである記録ヘッド1001の主要部を構成する吐出素子基板である記録素子基板1100とその周辺部を示す平面図であり、図2は、図1のA−A線に沿ってとった断面図である。記録素子基板1100は、吐出口1110の下に設けられたヒーター(不図示)と配線のあるヒーターボード1112と、インク流路を形成するための流路プレート1111を有する。記録素子基板1100の側面には側面封止樹脂である第1の封止樹脂1307が充填され、記録素子基板1100の配線と配線基板1300の電極部は、電気接続部封止樹脂である第2の封止樹脂1308の下で電気接続されている。
【0018】
第2の封止樹脂1308は、前記電気接続部の配線等をインクによる腐食、ショートから防ぐために設けられている。また、第1の封止樹脂1307は、前記電気接続部とその下の記録素子基板1100の側面を守るために充填される。そして、記録素子基板1100の電気接続部が設けられていない側の、対向する2辺(側縁)に沿って、それぞれ表面封止樹脂である第3の封止樹脂1309が設けられている。第3の封止樹脂1309は、後述するように、記録素子基板1100の側縁から所定の離間距離だけ離間して、配線基板1300上に配設されている。
【0019】
従来例では、図7および図8に示したように、封止樹脂1307が記録素子基板1100に対して凸部をなしていないため、被記録媒体が正常に搬送されずに搬送経路に詰まってしまう、いわゆる紙ジャムが発生する。この場合、紙ジャムによって折れ曲がった紙Pがインクの吐出部に接触し、その結果吐出口面を傷つけてしまうことがあった。
【0020】
これに対して、本実施例では、第3の封止樹脂1309が設けられている。このため、図3に示すように、紙ジャム等のために折れ曲がった紙Pが記録素子基板1100に接近しても、配線基板1300の表面に設けられた封止樹脂1309に干渉して止められたり、進行方向が変えられたりすることになる。
【0021】
このようにして、記録素子基板1100の全方向から折れた紙などの異物が記録素子基板1100に当たることを防ぎ、記録素子基板1100の損傷の可能性を大幅に減らすことができる。
【0022】
第3の封止樹脂1309と第2の封止樹脂1308とが同じ樹脂材料であれば、封止樹脂が記録素子基板1100の全周を切れ目なく囲むように配設されるため、上記の効果はさらに上がることとなる。
【0023】
次に第3の封止樹脂1309の配設位置に関して詳細に説明する。記録動作中は、記録素子基板1100が記録装置本体のワイパーにより拭き取られる。このワイピング動作では、記録ヘッドをプリンタ中のワイピング位置にて固定し、プリンタのモーター動力を用いてワイパーを移動させ、記録素子基板1100上にインクが残り増粘し吐出に影響を与えないように記録素子基板全面を拭く。このときのワイパーの位置にはある程度公差(位置ずれ)がある。例えば図4の(a)に示すように、規定どおりにワイピングが行われる場合のワイパーブレードBの位置に対して、同図の(b)、(c)に示すように、左右にずれるのが一般的である。そこで、ヘッドの固定位置とワイパーの位置との公差をMとした場合、記録素子基板全面を拭くためには、記録素子基板1100の幅をLとすると、必要なワイパーブレードBの長さAはL+2Mとなる。従って、第3の封止樹脂1309は、図5に示すように、記録素子基板1100の側縁よりA−L=2Mだけ離れていればよい。
【実施例2】
【0024】
本実施例は、本実施例1と同様の構成において、電気接続部封止樹脂である第2の封止樹脂1308の高さと、表面封止樹脂である第3の封止樹脂1309の高さを略等しくするとともに、両者の材料に同じ樹脂材料を用いたものである。
【0025】
電気接続部を封止する第2の封止樹脂1308と新たに設けられた第3の封止樹脂1309の高さが異なる場合、第2、第3の封止樹脂1308、1309間に段差が生じ、紙が挟まってしまう可能性がある。そこで、両者の高さを同じにして紙のひっかかりを防止する。このような構成にすることによって、第2、第3の封止樹脂1308、1309を同じ封止装置を用いて形成することが可能となり、製造コストの上昇を防ぐことができる。
【0026】
なお、封止樹脂1308および樹脂部材1309は、硬くて、封止性のよい、エポキシ系の封止用樹脂を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1の主要部を示す平面図である。
【図2】図1の装置をA−A線に沿ってとった断面で示す断面図である。
【図3】図1の装置を動作中の状態で説明する図である。
【図4】ワイパーブレードの動作を説明する図である。
【図5】ワイパーブレードと第3の封止樹脂の配置を説明する図である。
【図6】記録ヘッドカートリッジを示す斜視図である。
【図7】従来例による液体吐出ヘッドの主要部を示す平面図である。
【図8】紙ジャムによるトラブルを説明する図である。
【図9】ワイピング動作中のトラブルを説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
1001 記録ヘッド
1100 記録素子基板
1110 吐出口
1111 流路プレート
1112 ヒーターボード
1300 配線基板
1301 コンタクトパッド
1307 第1の封止樹脂
1308 第2の封止樹脂
1309 第3の封止樹脂
1400 支持板
1900 インクタンク
2000 タンクホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するためのエネルギー発生手段および複数の吐出口を備えた吐出素子基板と、前記吐出素子基板に電気信号を印加するための配線基板と、前記吐出素子基板を前記配線基板の開口内に支持するための支持手段と、前記吐出素子基板と前記配線基板を電気接続する電気接続部と、前記電気接続部を封止する電気接続部封止樹脂と、前記吐出素子基板の前記電気接続部を除く側縁に沿って、前記側縁から所定の離間距離に延在するように前記配線基板上に配設された表面封止樹脂と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記電気接続部封止樹脂と、前記表面封止樹脂の高さが略等しいことを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記電気接続部封止樹脂と前記表面封止樹脂の材料が、エポキシ系の樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記電気接続部封止樹脂と前記表面封止樹脂の材料が、同じ樹脂材料であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
クリーニング時に吐出口面をワイパーブレードで拭かれる液体吐出ヘッドであって、ワイピングが前記複数の吐出口の列方向に行われることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記吐出素子基板の幅をL、前記ワイパーブレードの長さをAとしたとき、前記表面封止樹脂が、前記吐出素子基板の側縁から(A−L)以上離れていることを特徴とする請求項5記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか1項記載の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに被記録媒体を搬送する搬送手段と、を有することを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−55153(P2007−55153A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245160(P2005−245160)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】