説明

液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 吐出口面の平坦性の向上と、基板上の電気回路部の保護を両立した液体吐出ヘッドを製造すること。
【解決手段】 第1の層を有する基板を用意する工程と、前記第1の層から、流路を形成するための流路の型と、前記型の外側に間隙を介して位置する部材とを形成する工程と、前記間隙を充填し、かつ前記型と前記型の外側に間隙を介して位置する部材と被覆するように、第2の層を設ける工程と、前記第2の層から、吐出口を形成するための吐出口形成部材を形成する工程と、前記型の外側に間隙を介して位置する部材を除去する工程と、前記吐出口形成部材の外側に少なくとも一部は間隙を介して位置する壁部材を形成する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出ヘッドの代表例として、インクを記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録方式に適用されるインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。インクジェット記録ヘッドは、一般に、インクの流路と、該流路の一部に設けられたエネルギー発生素子と、エネルギー発生素子で発生するエネルギーによってインクを吐出するための吐出口とを備えている。
【0003】
液体吐出ヘッドを製造するための方法が、特許文献1に開示されている。かかる方法においては、エネルギー発生素子を有する基板上に感光性材料を用いて流路の型を形成するとともに、流路の型の周辺に周辺部型材を形成する。次に、これらの上に被覆層を塗布し、被覆層のエネルギー発生素子と対向する位置に吐出口となる開口を形成する。そして、流路の型を除去することにより流路となる空間を形成し、液体吐出ヘッドを製造する。特許文献1の方法によれば、周辺部型材を設けることにより、流路の型の角部での被覆層の被覆性を向上させることができる。
【0004】
周辺部型材は、流路の型と同様に、ヘッド製造工程での加熱耐性、ヘッド使用時のインク耐性を考慮し、吐出口と同様にして形成した開口から除去されることが一般的である。開口から周辺部型材を除去した空間(除去部)内には、エネルギー発生素子を駆動するための電気回路部が配置されている場合がある。よって、インクによる配線等の腐食を抑制する為、電気回路部を保護部材にて保護することが求められる。
【0005】
一方で、ヘッド使用時には、インクミスト等が発生し、吐出口が開口する吐出口面(ヘッドフェイス面)にインクが付着することがある。付着したインクは、一般的に記録装置に設置されたワイピングブレード等による拭き取り機構により拭き取られる。このとき、吐出口面に撥液性能の異なる部分、あるいは凹形状等がないと、拭き取られたインクの逃げ場がなく、付着したインクを吐出口周辺から除去できない場合がある。上述の周辺部型材の除去された除去部は、この拭き取られたインクを吐出口面から一旦逃がす機能を有している。除去部内に集められたインクは、記録装置による吸引回復動作によって回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−1809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、記録装置に対して、より高いレベルでの高画質化、記録の高速化が要求されるため、吐出口とそれに連通する流路とを高密度に配置するとともに、吐出される液滴の体積をさらに均一化することが要求されてきている。そのため、エネルギー発生素子と吐出口との距離をより均一な状態となるように、吐出口が開口する吐出口面の平坦化が求められる。
【0008】
特許文献1の方法を利用して、吐出口面を平坦化する場合、周辺部型材を大きくし、周辺部型材の基板表面と平行した面の面積を大きくすることが考えられる。
【0009】
しかしながら、周辺部型材を大きくし、周辺部型材の基板表面と平行した面の面積を大きくした場合には、上述の電気回路部の露出面積が大きくなり、例えば被覆層等で電気回路部を被覆したとしても、インクに対する保護が十分にできない場合がある。また、ワイピングブレードや紙詰まり時の紙等が、電気回路部に直接接触し、液体吐出ヘッドとしての信頼性が低下する場合がある。一方で、必要以上に被覆層で覆うと、拭き取られたインクの逃げ場がなくなってしまう。
【0010】
そこで、本発明は、吐出口面の平坦性の向上と、基板上の電気回路部の保護を両立した液体吐出ヘッドを製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、液体を吐出する吐出口に連通する流路を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、第1の層を有する基板を用意する工程と、前記第1の層から、前記流路を形成するための流路の型と、前記型の外側に間隙を介して位置する部材とを形成する工程と、前記間隙を充填し、かつ前記型と前記型の外側に間隙を介して位置する部材と被覆するように、第2の層を設ける工程と、前記第2の層から、吐出口を形成するための吐出口形成部材を形成する工程と、前記型の外側に間隙を介して位置する部材を除去する工程と、前記吐出口形成部材の外側に少なくとも一部は間隙を介して位置する壁部材を形成する工程と、をこの順に有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吐出口面の平坦性の向上と、基板上の電気回路部の保護を両立した液体吐出ヘッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明により製造される液体吐出ヘッドの一例を示す図である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の一例を示す図である。
【図4】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の一例を説明するための図である。
【図5】液体吐出ヘッドの製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0015】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。例えば、バイオッチップ作成や電子回路印刷、薬物を噴霧状に吐出すること等の用途にも用いることができる。
【0016】
図1は、本発明により製造される液体吐出ヘッドの一例を示す図である。図1に示す液体吐出ヘッドは、インク等の液体を吐出するために用いられるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2が所定のピッチで形成された基板1を有する。基板1のエネルギー発生素子2の2つの列の間には、液体を供給する供給口3が設けられている。基板1上には、エネルギー発生素子2の上方に開口する吐出口5と、供給口3から各吐出口5に連通する個別の液体の流路6が形成されている。流路6は、吐出口形成部材で覆われており、吐出口形成部材と間隙を介して位置する壁部材4が形成されている。
【0017】
(第1の実施形態)
図2を用いて、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の第1の実施形態について説明する。図2は、図1のA−A’を通り、基板1に垂直な位置で切断した場合の各工程での切断面を表わす図である。以降の説明では、1つの液体吐出ヘッド(1つのチップ)単位を図示して説明を行うが、基板1として6〜12インチのウェハを使用して、複数の液体吐出ヘッドを1枚のウェハ上で製造して、最後に切り分けることで1つの液体吐出ヘッドを得ることもできる。
【0018】
まず、図2(a)に示されるように、第1の層7を有する基板1を用意する。第1の層7は、表面にエネルギー発生素子2を備える。第1の層7は、基板上に、ポジ型感光性樹脂等の樹脂材料を塗布したり、或いは樹脂材料をフィルム化したものをラミネートしたりすることで設ける。第1の層は、後の工程で基板1上から除去する為、溶剤等の溶解液に対して溶解可能なものが好ましい。その為、ポジ型感光性樹脂を含有することが好ましい。例えば、ポリメチルイソプロペニルケトン、メタクリル酸とメタクリレートとの共重合体等が好ましい。これら化合物は、溶剤で簡単に除去することが可能であり、また単純な組成であるので、構成成分が後述する第2の層10に対して与える影響が小さい為である。
【0019】
次いで、図2(b)に示されるように、第1の層7から、その一部を除去することで、液体の流路を形成するための流路の型8と、型8の外側に間隙30を介して位置する部材(A)9とを形成する。このように、型8と部材(A)9との間には、間隙(幅の長さ;L)が存在する。第1の層7が平坦であれば、型8と部材(A)9とは同じ高さとなる。第1の層7に感光性樹脂を使用した場合には、第1の層7を露光、現像してその一部を除去することで形成する。他には、第1の層7にドライエッチングを行う方法でもよい。尚、型8の外側とは、型8の中心に対して外側を意味する。
【0020】
図4は、図2(b)に示される状態において、型8、部材(A)9を上面から見た図である。図4(a)に示されるように、部材(A)9は、型8を囲むようにして型8の外側に設けられる。図4(a)において、部材(A)9の外郭9aは1つの液体吐出ヘッドの単位の領域に相当する。後の工程で、第2の層10を、型8と部材(A)9との上に平坦に塗布できるように、型8と部材(A)9との間隙30の幅は、10μm以上50μm以下であることが好ましい。基板表面に平行な方向の長さLを50μm以下とすることが好ましい。また、吐出口形成部材の強度の点から、10μm以上とすることが好ましい。同様の観点から、1つの液体吐出ヘッド単位において、基板の表面と平行な断面において、部材(A)の面積は型8の面積よりも大きいことが好ましい。さらに、基板の表面と平行な断面において、部材(A)の面積を型8の面積の3倍以上とすることが好ましい。また、通常の液体吐出ヘッドの設計上の点から、100倍以下とすることが好ましい。
【0021】
複数の液体吐出ヘッド単位を一括して設ける場合には、図4(b)に示されるように、1つの液体吐出ヘッド単位に対応した型8aと型8bとの間に部材(A)9を設けることになる。部材(A)9は、液体吐出ヘッド単位の境目100(点線)をまたいで設けられる。境目100は、実際に基板に凹凸をつけることでできる線である場合もあれば、仮想線である場合もある。境目100に沿って基板を切断して1つの液体吐出ヘッド単位を取り出すことができる。
【0022】
次いで、図2(c)に示されるように、間隙30を充填し、かつ型8と部材(A)9とを被覆するように、第2の層10を設ける。第2の層10を設ける方法としては、例えばスピンコート法、カーテンコート法、ラミネート法等が挙げられる。第2の層10は、ネガ型感光性樹脂を含有することが好ましい。ネガ型感光性樹脂を含有する組成物として、好ましくは、エポキシ基、オキセタン基、ビニル基等の重合基を有する樹脂と、かかる樹脂に対応する重合開始剤と、を含むネガ型感光性樹脂組成物を用いる。この理由は、上記の官能基を含む樹脂は重合反応性が高く、吐出口形成部材から機械的強度が高い吐出口形成部材を形成することができる為である。
【0023】
第1の層7の厚さと第2の層10の厚さとはそれぞれ適宜設定することができる。10pl以下の微小液滴を吐出する吐出口と、それに対応した液体の流路とを形成する場合には、第1の層7は3μm以上15μm以下、第2の層10は型8の上面から3μm以上10μm以下の厚さとすることが好ましい。
【0024】
上述のように間隙30を非常に小さく形成すると、第2の層10は型8と部材(A)9の上にほぼ平坦に設けることができる。第2の層10は間隙30に入り込んで間隙30を充填し、その部分は吐出口形成部材の一部となる。
【0025】
次いで、第2の層10から吐出口を形成するための吐出口形成部材11を形成する。吐出口形成部材11には、吐出口となる開口が設けられるが、この開口は以下のようにフォトリソグラフィーによって微小にかつ高い位置精度で設けられることが好ましい。
【0026】
まず、図2(d)に示されるように、第2の層10に対してパターン露光を行う。第2の層10に対してマスク201を介して露光し、第2の層10がネガ型感光性樹脂組成物である場合には露光が行われた部分21を硬化させる。ここで、必要に応じて加熱を行って硬化を促進してもよい。
【0027】
次いで、図2(e)に示されるように、第2の層10に対して現像を行い、第2の層10の未露光部分を除去して吐出口形成部材11を形成する。このとき、その一部が吐出口となる開口22も同時に形成することが好ましい。開口22は、エネルギー発生素子2のエネルギー発生面に対向する位置に形成されるのが好ましい。
【0028】
以上のようにして、型8及び部材(A)9上に第2の層10を平坦に形成することができ、第2の層10から厚さのばらつきを抑制した吐出口形成部材11が得られる。
【0029】
次いで、図2(f)に示されるように、型8の外側に間隙を介して位置する部材(A)9を除去する(E工程)。部材(A)9の除去は、溶解液で部材(A)9を溶解させる等の方法で行う。吐出口形成部材11が硬化している為、部材(A)9とともに型8を除去してもかまわないが、後述する第3の層が流路となる空間内に入るのを抑制する為に、このタイミングでは型8は除去しないことが好ましい。部材(A)9が樹脂から形成されている場合には、部材(A)9に選択的に紫外線等の光を照射して、光が照射されなかった型8との溶解液に対する溶解選択比を大きくした後、部材(A)9を溶解液で溶解し、部材(A)9を選択的に除去することができる。
【0030】
次いで、前記吐出口形成部材の外側に少なくとも一部は間隙を介して位置する壁部材を形成する。壁部材は、パターニングされた部材を設置してもよいし、フォトリソグラフィーによって形成してもよい。ここでは、好ましい形態を用いて説明する。まず、図2(g)に示されるように、部材(A)9が除去された後の基板1に、吐出口形成部材11を被覆するように第3の層12を設ける。第3の層12は、ネガ型感光性樹脂を含有することが好ましい。また、第2の層10と同一の組成のネガ型感光性樹脂を含有することがより好ましい。さらに、第3の層12と第2の層10とが含有している化合物が同じであり、組成が同じであることが好ましい。第3の層12の厚みは、その上面(表面)位置が吐出口形成部材11の上面の位置よりも高くとも(厚くとも)、同じであっても、低くとも(薄くとも)よい。図2(g)では高い状態を示している。ここで、基板1の第3の層12が設けられる部分300は、エネルギー発生素子2を駆動させるための駆動回路に使用されるトランジスタ等が設けられている回路部である。この回路部300を第3の層12により被覆する。
【0031】
次いで、図2(h)に示されるように、第3の層12に対してマスク202を介して露光を行い、露光部分23を硬化させる。第3の層12のうち、吐出口となる開口22内とその上部は除去する必要があるため、マスク202により遮光する。露光が行われなかった部分24は硬化しない。ここで回路部300は、露光部分23によりほぼ被覆されることにより、保護されることになる。この際、吐出口形成部材11と第3の層12の間には、間隙31を形成するようにする。間隙31の幅(W)は、回路部保護の観点からはより小さく形成することが好ましい。一方で、吐出口面ワイピングによるクリーニング時のインクの逃げ場としての観点からは、間隔(W)はある程度大きさを確保しておくことが好ましい。従って、間隙の幅(W)は、その液体吐出ヘッドのインク吐出体積、吐出口の総数、インクの物性等といった観点から適宜設定される。好ましくは、間隔(W)を、吐出口の直径以上、吐出口の直径の5倍以下とする。そして、図2(i)に示されるように、例えば液体現像法により露光が行われなかった部分24を除去することで、第3の層から、吐出口形成部材11の外側に少なくとも一部は間隙を介して位置する壁部材4を形成することができる。間隙は、吐出口形成部材11と壁部材4との間の少なくとも一部に形成されていればよい。即ち、一部では吐出口形成部材11と壁部材4とはつながっていてもよい。しかし、壁部材は、全ての領域で吐出口形成部材と間隙を介して設けられていることが好ましい。尚、吐出口形成部材11の外側とは、吐出口形成部材11の中心に対して外側である。図2では、吐出口形成部材11の左右側となる。ネガ型感光性樹脂を溶解液により除去する場合は、ネガ型感光性樹脂の組成に応じて溶解液としてキシレン等の適切な溶媒を用いればよい。また、型8は開口22を通じて露出する。
【0032】
次いで、図2(j)に示されるように、基板1にドライエッチング、ウェットエッチング等で供給口3を形成し、型8を基板裏面から外部と連通させ、型8を適切な溶解液で溶解させる等して除去し、吐出口5と連通する液体流路6を形成する。
【0033】
吐出口形成部材11の形成以降、その後の工程によって吐出口形成部材11の平坦性は損なわれないので、基板内において、基板1のエネルギー発生面と吐出口5(吐出口面14)との距離Dは均一となる。よって、複数の吐出口から吐出される液体の量を一定にすることができる。また、基板と壁部材との間には、電気回路部が形成されており、電気回路部を良好に保護することができる。
【0034】
(第2の実施形態)
図3を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。図3は、各工程での切断面を示す切断面図である。なお、図3は図2と同様の位置での断面図である。
【0035】
本実施形態では、図2(c)に示される工程(C工程)までは第1の実施形態と同様に行うが、第2の層を設ける工程の後に、第2の層の表面に撥液用材料を付与する。具体的には、図3(a)に示されるように、第2の層10の表面に撥液性を付与するための撥液用材料15を付与する。撥液用材料15は、少なくとも一部を第2の層10に浸透させてもよい。吐出に用いる液体が水性または油性のインクである場合は、撥液性が付与される部分の基板1に垂直な方向の厚さは2μmあればよい。第2の層上に撥液用材料を積層させる場合、第1の層7や第2の層10と同様、撥液用材料15は基板に平坦に形成される。撥液用材料15としては、フッ素を含有する化合物を用いる。例えば感光性のフッ素含有エポキシ樹脂フィルムや、フッ素含有シランと重合基を含有するシランとの縮合物を含む組成物等を用いる。
【0036】
次いで、図3(b)に示されるように、第2の層10と撥液用材料15に対して、マスク201を介して吐出口形成部材11を形成するための露光を行う。撥液用材料15と第2の層10とは、フォトリソグラフィーにより一括してパターニングすることができる。さらに、露光が行われた部分を硬化させた後に現像を行い、第2の層10と撥液用材料15の未露光部分を除去する。以上により、図3(c)に示されるように、吐出口形成部材11の吐出口となる開口22の周辺に撥液処理がされた撥液部分17を設けることができる。また、開口22の周辺以外の部分(例えば第2の層10の未露光部分上)の撥液用材料は除去されるので、その部分には撥液性は付与されない。
【0037】
この後は、第1の実施形態の図2(f)〜(i)と同様にする。例えば、まず部材(A)9を除去した後、吐出口形成部材11を被覆するように、第3の層12を設ける。吐出口形成部材11の撥液部分17では、第3の層12がはじかれる可能性があるが、吐出口形成部材11と第3の層12とは間隔(W)の間隙31が存在する。これにより、第3の層12が壁部材4上に付与されることを抑制できる。その後、第3の層12の必要個所を硬化させ、硬化が行われなかった部分を除去する。そして、基板1に供給口3を形成し、型8を除去して流路6を形成する。このようにして、図3(d)に示される液体吐出ヘッドが得られる。好ましい寸法等は、第1の実施形態と同様である。
【0038】
図3(d)に示されるように、第2の実施形態により製造された液体吐出ヘッドでは、吐出口形成部材11の吐出口5が開口する開口面に撥液部分17が存在する。即ち、吐出口形成部材上には撥液処理がされている。そのため、流路内に充填された吐出用の液体は、開口面上には滞留せず、吐出口5とほぼ等しい位置にメニスカスを形成することができる。吐出された液体の一部がミスト状に浮遊して吐出口面に付着した場合でも、ミストが吐出口面に固定されることが抑制され、液体吐出装置に備えられているワイピングブレード等によるクリーニングにより間隙31内に移動させることができる。一方、壁部材4上には撥液部分が存在していない。即ち、壁部材上は撥液処理がされていない為、クリーニング後、吐出された液体のミストが間隙31の中とともに壁部材4上にも移動しやすくなる。よって、その後、記録装置に備えられている吸引機構による吸引回復動作によって、移動した液体を容易に除去することができる。このように、本発明では吐出口形成部材と壁部材とを別工程によって製造するので、
吐出口形成部材上には撥液処理がされており、壁部材上には撥液処理がされていない液体吐出ヘッドを製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。尚、以下「部」とあるのはいずれも質量基準である。
【0040】
<実施例1>
図2を用いて、実施例1を説明する。まず、第1の層7が設けられた基板1(6インチウェハ)を用意した(図2(a))。第1の層7は、ポジ型感光性樹脂であるODUR−1010(東京応化工業製)をスピンコート法により塗布した後、120℃で乾燥して形成した。形成後の第1の層7の厚さの平均値は7μmで、基板1(6インチウェハ)内での第1の層7の厚さの標準偏差は0.1μm以下であった(いずれも6インチウェハ内の350箇所で測定)。
【0041】
次いで、マスクを用いて第1の層7を露光し、露光された部分を除去して、型8と、型8の外側に間隙30を介して位置する部材(A)9とを形成した(図2(b))。このとき、間隙30の幅の長さLは30μmとした。
【0042】
次いで、以下の表1に示す成分からなる組成物を、スピンコート法にて、間隙30を充填し、かつ部材(A)9と型8を被覆するように塗布し、90℃で3分間乾燥させて第2の層10を形成した(図2(c))。第2の層10の型8の上面から厚さの平均値は5μmで、厚さの標準偏差(いずれも6インチウェハ内の350箇所で測定)は0.2μmであった。
【0043】
【表1】

【0044】
次いで、MPA−600Super(製品名:キヤノン(株)製)を使用して、第2の層10に露光を行った(図2(d))。さらに、第2の層10に対してポストベークと現像とを行い、第2の層10から、開口22が設けられた吐出口形成部材11を形成した(図2(e))。尚、露光量は1J/cmであり、現像液としてはメチルイソブチルケトン/キシレン=2/3の混合液を使用し、現像後のリンス液にはキシレンを使用した。開口22の直径は12μmである。
【0045】
次いで、マスクアライナーUX−3000SC(製品名:ウシオ電機(株)製)を使用して、Deep−UV光(波長220nm〜400nm)を10J/cmの条件で部材(A)9に照射した後、メチルイソブチルケトンで部材(A)9を溶解させて除去した。(図2(f))。
【0046】
次いで、表1に示される組成物を、吐出口形成部材11を被覆するように塗布して、基板1の表面から第3の層12の吐出口形成部材11上の上面までの厚さが18μmとなるように、第3の層12を形成した(図2(g))。
【0047】
次いで、MPA−600Super(製品名:キヤノン(株)製)により、第3の層12に対して露光(露光量=1J/cm)を行い(図2(h))、ポストベーク、現像、リンスを行い、第3の層12の露光部分23と吐出口形成部材11との間に間隙31を形成した。間隙31の幅Wは30μmとした。露光部分23は壁部材4となる。これにより、第3の層から、吐出口形成部材の外側に間隙を介して位置する壁部材4を形成した(図2(i))。間隙は、吐出口形成部材と壁部材との間の全ての領域で形成した。尚、現像液としてはメチルイソブチルケトン/キシレン=2/3の混合液を使用し、現像後のリンス液にはキシレンを使用した。
【0048】
次いで、80℃の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液をエッチング液として使用して、シリコンの基板1に異方性エッチングを行い、供給口3を形成した。その後、型8を乳酸メチルで溶解して除去し、直径12μmの吐出口5を形成した。(図2(j))。
【0049】
基板(6インチウェハ)内で、距離Dの平均値は12μm、距離Dの標準偏差は0.25μmであった(いずれも6インチウェハ内の350箇所で測定)。
【0050】
最後に、6インチウェハをダイシングソーにより切断し、液体吐出ヘッドを製造した。
【0051】
<実施例2>
実施例1の第2の層を設ける工程の後、具体的には図2(c)の工程の次に、第2の層10の表面に撥液用材料を付与した。撥液用材料としては、グリシジルプロピルトリエトキシシラン28グラム(0.1モル)、メチルトリエトキシシラン18グラム(0.1モル)、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン6.6グラム(0.013モル)、水17.3グラムおよびエタノール37gを室温で撹拌し、続いて24時間還流することによって得た材料を用いた。これ以外は、実施例1と同様にして、液体吐出ヘッドを製造した。
【0052】
基板(6インチウェハ)内で、距離Dの平均値は12μm、距離Dの標準偏差は0.25μmであった(いずれも6インチウェハ内の350箇所で測定)。
【0053】
<比較例1>
図5を用いて、比較例の液体吐出ヘッドの作成方法について説明する。図5は、比較例の液体吐出ヘッドを作成する各工程での断面を表している。
【0054】
エネルギー発生素子102を備えたシリコン基板101(6インチウェハ)上に、ODUR−1010(商品名 東京応化工業製)を塗布し、乾燥を行って、厚さが7μmのポジ型感光性樹脂の層103を形成した(図5(a))。
【0055】
次いで、ポジ型感光性樹脂の層103に対して、露光及び現像を行って、流路の型104を形成した(図5(b))。
【0056】
次いで、表1に記載の組成物を型104上にスピンコート法を使用して塗布し、90℃で3分間乾燥して、被覆層105の型104の上面に設けられた部分の膜厚が7μmとなるように、被覆層105を形成した(図5(c))。
【0057】
次いで、マスク110を使用して被覆層105に露光を行い、露光が行われた部分106を硬化させた(図5(d))。現像を行って被覆層105の未露光部分を除去して、流路の壁を形成する部材111と、直径12μmの吐出口107とを形成した(図5(e))。
【0058】
次いで、基板101に供給口109を形成した後、型104を除去して流路108を形成した(図5(f))。
【0059】
基板(6インチウェハ)内で、エネルギー発生素子102のエネルギー発生面から吐出口107までの距離hの平均値は12μm、距離hの標準偏差は0.60μmであった(いずれも6インチウェハ内の350箇所で測定)。
【0060】
最後に、6インチウェハをダイシングソーにより切断して、液体吐出ヘッドを製造した。
【0061】
<評価>
上述の通り、実施例1、2の液体吐出ヘッドの距離Dの標準偏差と、比較例1に係る液体吐出ヘッドの距離hの標準偏差とでは、大きく差があることが分かる。
【0062】
実施例1、2において距離Dの標準偏差が0.25μmと小さい原因は、平坦に形成された第2の層10から、厚さのばらつきが極めて小さい吐出口形成部材11を得ることができたためであると考えられる。
【0063】
一方、距離hの標準偏差が0.60μmと大きい原因の一つとしては、被覆層105の下に型104がある部分とない部分とでは、被覆層105の上面の高さに差がでてしまった為であると考えられる。また、比較例1においては、6インチウェハの最外周部分に設けられた型104のさらに外側には型104が存在ないため、ウェハの外周部での被覆層105の上面の高さは、中央部分と比較して低く形成されてしまったことも原因として考えられる。
【0064】
次に、実施例1、2、比較例1の液体吐出ヘッドについて保存耐久試験を実施した。液体吐出ヘッドをキヤノン製インクBCI‐6C中に浸漬し、121℃、2気圧、の下、100時間放置した。その後、液体吐出ヘッドをインク中から取り出した。各液体吐出ヘッドについて、基板1と壁部材との界面を観察したところ、実施例1、2、比較例1の液体吐出ヘッドのいずれも、基板1と壁部材4との剥れ、変形は確認されなかった。
【0065】
また、実施例1、2、比較例1の液体吐出ヘッドを使用して印字耐久試験を行った。1つの6インチウェハ内から切り出された複数の液体吐出ヘッドについて印字記録を行った。尚、液体としてはキヤノン製インクBCI‐6Cを使用し、吐出体積Vd=1pl、吐出周波数f=15kHz、吐出回数3×10回の記録を、実使用時と同様のヘッドクリーニングを含めて行った。記録により得られた画像を目視にて観察したところ、実施例1、2の液体吐出ヘッドを使用して記録を行った場合には、非常に高品位な記録画像が得られていた。また、1つの6インチウェハ内から得られた複数の液体吐出ヘッドいずれについても同等に高品位であった。一方、比較例1の液体吐出ヘッドを使用して記録を行った場合には、実施例1、2の記録画像と比較して、記録画像にムラが観られた。また、同じ6インチウェハ内から得られた複数の液体吐出ヘッドを使用して得られた記録画像それぞれについて、ムラの状態がわずかながら異なっていた。
【0066】
これらは、距離Dの標準偏差が距離hの標準偏差より小さいため、実施例1、2に係る液体吐出ヘッドから吐出されるインクの体積のばらつきは、比較例1に係る液体吐出ヘッドより吐出されるインクの体積のばらつきより小さい為と考えられる。また、実施例1、2、比較例1の液体吐出ヘッドともに、回路部の配線等の断線に伴う印字記録の乱れは発生せず、信頼性の十分高い、液体吐出ヘッドとなっていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口に連通する流路を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
第1の層を有する基板を用意する工程と、
前記第1の層から、前記流路を形成するための流路の型と、前記型の外側に間隙を介して位置する部材とを形成する工程と、
前記間隙を充填し、かつ前記型と前記型の外側に間隙を介して位置する部材と被覆するように、第2の層を設ける工程と、
前記第2の層から、吐出口を形成するための吐出口形成部材を形成する工程と、
前記型の外側に間隙を介して位置する部材を除去する工程と、
前記吐出口形成部材の外側に少なくとも一部は間隙を介して位置する壁部材を形成する工程と、
をこの順に有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記壁部材を形成する工程が、
前記吐出口形成部材を被覆するように第3の層を設ける工程と、
前記第3の層から前記壁部材を形成する工程と、
を有する請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記第1の層がポジ型感光性樹脂を含有する請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記第2の層がネガ型感光性樹脂を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記第3の層がネガ型感光性樹脂を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記基板の表面と平行な断面において、前記部材の面積は前記型の面積よりも大きい請求項1〜5のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記基板の表面と平行な断面において、前記部材の面積は前記型の面積の3倍以上、100倍以下である請求項1〜6のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記型と前記部材との間の間隙の幅が、10μm以上50μm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記吐出口形成部材と前記壁部材との間の間隙の幅が、吐出口の直径以上、吐出口の直径の5倍以下である請求項1〜8のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記第2の層を設ける工程の後に、
前記第2の層の表面に撥液用材料を付与する請求項1〜9のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記基板と前記壁部材との間には、電気回路部が形成されている請求項1〜10のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記壁部材は、全ての領域で前記吐出口形成部材と間隙を介して設けられている請求項1〜11のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
基板と、該基板上に、吐出口形成部材と、該吐出口形成部材の外側に少なくとも一部は間隙を介して位置する壁部材と、を有する液体吐出ヘッドであって、
前記吐出口形成部材上には撥液処理がされており、前記壁部材上には撥液処理がされていないことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記吐出口形成部材と前記壁部材との間の間隙の幅が、吐出口の直径以上、吐出口の直径の5倍以下である請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記基板と前記壁部材との間には、電気回路部が形成されている請求項13または14に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記壁部材は、全ての領域で前記吐出口形成部材と間隙を介して設けられている請求項13〜15のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−82201(P2013−82201A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165879(P2012−165879)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】