説明

液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 液体吐出ヘッドの端子部と外部接続するワイヤとは、封止剤で被覆されている。この封止剤の封止が十分でないと、インクが侵入して端子部が腐食するが、特にアルミニウムからなる電極層と、他の金属とが同時にインクに接すると電池効果により急速に腐食が進行する。
【解決手段】 本発明の液体吐出ヘッドは、基体を端子部が設けられた面側からみたときに、電極層を投影した部分の大きさを、拡散防止層を投影する部分の大きさより小さくし、拡散防止層の周囲に電極層に接するように樹脂層を設ける。このように設けることで、封止剤の封止が十分でなかったとしても、腐食が進行しにくい液体吐出ヘッドとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーマル型の液体吐出装置は、エネルギー発生素子に通電することで発生する熱エネルギーを用いてインク等の液体を膜沸騰させ、これにより生じる圧力を用いて吐出口から液体を吐出して記録動作を行う。
【0003】
このような液体吐出装置に用いられる液体吐出ヘッドは、エネルギー発生素子を備えた液体吐出ヘッド用基板と、吐出口や流路を形成するための流路部材とから構成されている。エネルギー発生素子は、記録ヘッド用基板に設けられた端子部を介して記録装置から電気的信号や電圧を供給されて駆動される。
【0004】
このような液体吐出ヘッドの端子部は、ボンディング法で設けられたワイヤを介して電気的に接続され、樹脂からなる封止剤で封止されている。しかし封止剤の封止が十分でないと、インクが侵入して端子部が腐食してしまうため、液体吐出ヘッドは腐食を防止するために様々な対応を行っている。
【0005】
特許文献1には、端子部の側面を樹脂材料で被覆することで、側面がインクに腐食されないように構成した記録ヘッドが開示されている。具体的には、図6に示すように基板31上に設けられたアルミニウムからなる配線32の上に、窒化シリコンからなる絶縁層33が設けられている。さらに、絶縁層33には開口部が設けられており、配線32と金からなるバンプ部37とが電気的に接続されている。配線32とバンプ部37との間には、基板へバンプ部37に用いられる金が拡散することを防止するために例えばチタンタングステン等からなる拡散防止層34が設けられている。さらにバンプ部37は、めっき法を用いて形成されているため、拡散防止層34の上にはめっき工程におけるシード電極として用いられるシード層36が設けられている。また、バンプ部37とシード層と拡散防止層34との側面は樹脂部材35で被覆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−207543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に開示されるような液体吐出ヘッドでは、金の表面は酸化しにくいため、樹脂部材35とバンプ部37との間にOH結合を構成できず、樹脂部材35とバンプ部37とは金表面に強固に密着しにくい構成である。そのため、封止剤と絶縁層33との間が剥がれたりなどしてインクが侵入すると、端子部の側面を樹脂部材35で被覆したとして樹脂部材35とバンプ部37との間からインクが侵入してしまう可能性がある。
【0008】
図6の液体吐出ヘッドに開示される拡散防止層34は、配線32の上から絶縁層33との段差部の上に延長するように設けられている。このような拡散防止層34はスパッタ法等を用いて成膜されるため、段差部においては被覆が十分ではなく亀裂等がある可能性が高く、インクがアルミニウムの配線32に到達してしまう懸念がある。このときアルミニウムと金又はチタンタングステン等の他の金属と、が同時にインクに接すると電池効果が生じて、アルミニウムからなる配線32の腐食が急激に進行してしまう。このように配線32への腐食が急激に進行すると、電気的信号や電圧を印加できなくなり、記録動作を継続することができなくなってしまう。
【0009】
そこで本発明は、上記課題を鑑み、封止剤の封止が十分でなかったとしても、腐食しにくい信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するための熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子と、外部から前記エネルギー発生素子を駆動するための信号または電圧を印加するために用いられ、アルミニウムを主成分とする電極層と、チタンタングステンからなる拡散防止層と、金からなるバンプ部とを基体の上にこの順に積層してなる端子部と、を備え、前記基体を端子部が設けられた面側からみたときに、前記電極層を投影した部分の大きさは、前記拡散防止層を投影する部分の大きさより小さく、前記拡散防止層の周囲には、前記電極層に接するように樹脂層が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、封止剤による端子部の被覆が十分でなかったとしても、配線と他の金属とが同時にインクに接することを防止することができ、腐食しにくい液体吐出ヘッドとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る液体吐出装置およびヘッドユニットの外観斜視図である。
【図2】本発明に係る液体吐出ヘッドを模式的に示した外観斜視図及び切断面図である。
【図3】本発明に係る液体吐出ヘッドを模式的に示した外観斜視図及び切断面図である。
【図4】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造工程を説明する切断面図である。
【図5】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造工程を説明する切断面図である。
【図6】従来の液体吐出ヘッドに設けられた端子部の切断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0014】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0015】
さらに「インク」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0017】
(液体吐出装置)
図1(a)は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載可能な液体吐出装置を示す外観斜視図である。
図1(a)に示すように、リードスクリュー5004は、駆動モータ5013の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア5011,5009を介して回転する。キャリッジHCはヘッドユニットを載置可能であり、リードスクリュー5004の螺旋溝5005に係合するピン(不図示)を有しており、リードスクリュー5004が回転することによって矢印a,b方向に往復移動される。このキャリッジHCには、ヘッドユニット40が搭載されている。
【0018】
(ヘッドユニット)
図1(b)は、図1(a)のような液体吐出装置に搭載可能なヘッドユニット40の外観斜視図である。液体吐出ヘッド41(以下、ヘッドとも称する)はフレキシブルフィルム配線基板43により、液体吐出装置と接続するコンタクトパッド44に導通している。また、ヘッド41は、インクタンク42と接合されることで一体化されヘッドユニット40を構成している。ここで例として示しているヘッドユニット40は、インクタンク42とヘッド41とが一体化したものであるが、インクタンクを分離できる分離型とすることも出来る。
【0019】
(液体吐出ヘッド)
図2(a)に本発明に係る液体吐出ヘッド41の模式的な外観斜視図を示す。また、図2(b)は、図2(a)のA−A’に沿って基板5に垂直に液体吐出ヘッド41を切断した場合の切断面の状態を模式的に示す断面図である。
【0020】
液体吐出ヘッド41は、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子12を備えた液体吐出ヘッド用基板5と、液体吐出ヘッド用基板5の上に設けられた流路部材14と、を有している。流路部材14は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物で設けることができ、液体を吐出するための吐出口13と、吐出口13に連通する流路46の壁14aとを有している。この壁14aを内側にして、流路部材14が液体吐出ヘッド用基板5に接することで流路46が設けられている。流路部材14に設けられた吐出口13は、供給口45に沿って所定のピッチで列をなすように設けられている。供給口45から供給された液体は流路46に運ばれ、さらにエネルギー発生素子12の発生する熱エネルギーによって液体が膜沸騰することで気泡が生じる。このときに生じる圧力により液体が、吐出口13から吐出されることで、記録動作が行われる。
【0021】
次に液体吐出ヘッドのエネルギー発生素子が設けられた領域について図2(b)の断面図を用いて説明する。液体吐出ヘッド用基板5は、トランジスタ等の駆動素子が設けられたシリコンからなる基体1の上に、基体1の一部を熱酸化して設けた熱酸化層2と、シリコン化合物からなる蓄熱層4とが設けられている。蓄熱層4の上に、通電することで発熱する材料(例えばTaSiNやWSiNなど)からなる発熱抵抗層6が設けられ、発熱抵抗層6に接するように、アルミニウムを主成分とする材料からなる一対の電極層7が設けられている。一対の電極層7の間に電圧を印加し通電して、発熱抵抗層6の一対の電極層7の間に位置する部分を発熱させることで、発熱抵抗層6の部分をエネルギー発生素子12として用いる。これらの発熱抵抗層6と一対の電極層7は、インクなどの吐出に用いられる液体との絶縁を図るために、SiN等のシリコン化合物などの絶縁性材料からなる絶縁層8で被覆されている。さらに吐出のための液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃などからエネルギー発生素子12を保護するために、エネルギー発生素子12の部分に対応する絶縁層8の上に耐キャビテーション層として用いられる保護層10が設けられている。具体的には、保護層10としてタンタルやイリジウムやルテニウムなどの金属材料を用いることができる。さらに絶縁層8の上に流路部材14が設けられている。なお、絶縁層8と流路部材14との間には、密着性を向上させるためにポリエーテルアミド樹脂などからなる密着層9aを設けられている。
【0022】
(端子部)
次に液体吐出ヘッドの端子部17が設けられた領域について図3の断面図を用いて説明する。
図3(a)は、図2(a)のB−B‘に沿って基板5に垂直に液体吐出ヘッド41の端子部17を切断した場合の切断面の状態を模式的に示す断面図である。図3(b)は、図3(a)の端子部17にワイヤーボンディング法を用いてワイヤが接続された状態を示す断面図である。なお、図2(b)と図3で用いる符号について同じものは、同時に設けられた層であることを示している。
【0023】
基体1の上には、シリコン化合物からなる蓄熱層4と、アルミニウムなどを主成分としエネルギー発生素子12に駆動信号や電圧を供給する電極層7が設けられている。さらに、蓄熱層4の上はSiN等のシリコン化合物などの絶縁材料からなる絶縁層8で被覆さている。絶縁層8の電極層7の部分には開口部8aが設けられており、開口部8aを介して電極層7と金(Au)からなるバンプ部20とが電気的に接続されている。また、金がアルミニウムに拡散するのを防止するために、チタンタングステンからなる拡散防止層23を介して電極層7とバンプ部20とが電気的に接続されている。すなわち、基体1の上側に電極層7と拡散防止層23とバンプ部20とがこの順に積層されることで、端子部17は構成されている。
【0024】
さらに液体吐出ヘッド41は、図3(b)に示すように端子部17がフレキシブルフィルム配線基板43とワイヤーボンディング法などを用いてワイヤ18で接続されることで液体吐出装置(外部)と電気的に接続される。そして、端子部17を介してエネルギー発生素子12を駆動するタイミングを決定する電気信号(駆動信号)やエネルギー発生素子12を駆動するための電圧が液体吐出装置から供給される。そしてワイヤ18と端子部17とは、エポキシ樹脂等からなる封止剤19で封止されることで、インクや湿気等から保護されている。
【0025】
液体吐出ヘッド用基板5を端子部17が設けられた面側からみたときに、拡散防止層23を投影した部分の大きさは、金からなるバンプ部を投影した部分の大きさよりも小さくなるように設けられている。さらに、拡散防止層23を投影した部分の大きさは、アルミニウムの電極層7の上に設けられた絶縁層8の開口部8a(即ち電極層7の露出部)の大きさよりも、小さくなるように設けられている。そして、拡散防止層23の周囲は、ポリエーテルアミド樹脂などからなる熱可塑性の樹脂層9で囲まれるように設けられている。そして、樹脂層9と接するアルミニウムからなる電極層7の表面は酸化しており酸化層7aとなっている。具体的には酸化アルミニウムとなっている。このように樹脂層9と接する面が酸化していることにより、樹脂層9と電極層7との間のOH結合が強固となっている。従って仮に絶縁層8と封止剤19との密着が悪く、界面からインクが侵入したとしても樹脂層9と電極層7との間の密着性が確保されているためその先に、インクが侵入することは防止される。
【0026】
そのため、電極層7のアルミニウムと、バンプ部20の金または拡散防止層23タングステンシリコン等の他の金属と、が同時にインク等に接することはなく電池効果が生じることを防止でき、腐食が急激に進行することを防止できる。つまり、封止剤19の封止が十分でなかったとしても、腐食しにくい液体吐出ヘッドとすることができる。
【0027】
なお、樹脂層9と電極層7とは、拡散防止層23の周囲を2μm以上幅にわたって密着するように設けることで、インクの侵入を十分に防止することができる。
【0028】
(製造方法)
次に、このような液体吐出ヘッドの図3(a)の端子部17の製造方法を図4、図5の液体吐出ヘッドの断面図を用いて説明する。
【0029】
最初に、シリコンからなる基体1上に、プラズマCVD法等を用いてシリコン化合物からなる蓄熱層4と、フォトリソグラフィー法を用いてアルミニウムを主成分とする電極層7とを設ける。さらに、電極層7と蓄熱層4との上側真空成膜法等を用いてSiN等のシリコン化合物等の絶縁材料からなる絶縁層8を積層する。そして、フォトリソグラフィー法を用いて、パターニングを行い、バンプ部20と電極層7との間の電気的導通を得るための開口部8aを形成する(図4(a))。
【0030】
次に、金が電極層7に拡散することを防止する拡散防止層23となる、高融点金属材料のチタンタングステンの材料層23aを真空成膜装置等により所定の厚みで成膜する(図4(b))。具体的には後に不要部をウェットエッチングで除去しやすいように、Ti10w% W90w%のターゲットを用いる。
【0031】
次に、バンプ部20を電界めっき法で形成する際のカソード電極の役割をし、金めっき成長の核となるシード層25を、真空成膜法等を用いて基体1の全面に成膜して所定の厚み設ける(図4(c))。
【0032】
次に、フォトリソグラフィー法を用いて感光性レジストの塗布、露光、現像を行い、金めっき法でバンプ部20を形成する部分のシード層25の領域が露出するようにレジストを除去し、レジストマスク16の形成を行う(図4(d))。
【0033】
次に、湿式めっき法である電解めっき法を用いて金を主成分とするバンプ部20を形成する。具体的には、基板全体を亜硫酸金塩の電解浴に浸漬させ、シード層25に所定の電流を流すことにより、レジストマスク16で被覆されていない領域に金を析出させることにより、バンプ部20を形成する(図4(e))。
【0034】
次に、所定時間レジストマスク16の剥離液に浸漬させて、レジストマスク16を除去する(図5(a))。
次に、バンプ部20をマスクとして用い、バンプ部20が設けられていない領域のシード層25を窒素系有機化合物とヨウ素ヨウ化カリウムを含む金エッチング液に所定の時間浸漬させ除去し、拡散防止層となる材料層23aを露出させる(図5(b))。なお電極層7と絶縁層8との上にオーバーラップするように成膜されている拡散防止層23となる材料層23aが、電極層7に金エッチング液が浸透することを防止している。また、バンプ部20の表面部もこの時の金エッチング液によりエッチングされるが、表面の数ナノメートル程度が除去される程度であるため、ほとんど影響はない。
【0035】
次に、35%濃度のH2O2系のエッチング液に所定時間浸漬させ、絶縁層8と電極層7の境界部から2μm以上サイドエッチングが進むまで拡散防止層23となる材料層23aをエッチングして、拡散防止層23を形成する(図5(c))。これにより液体吐出ヘッドを端子部17が設けられた面側からみたときに、拡散防止層23が設けられた部分は、電極層7の露出している部分よりも一回り小さくなるように形成される。なおH2O2系のエッチング液のphを5.0以内に抑える範囲でアンモニウムを含む電解質を0.5%添加することにより、エッチングレートの早い液とすることができ、短時間で拡散防止層となる材料層23aのエッチングを進行させることができる。具体的には、サイドエッチングを10μm形成する際には75分必要となるが、電解質を添加すると約3分の1の23分でエッチングすることが可能となる。またチタンタングステンからなる拡散防止層23をエッチングする際には、TiがTi4+となり、WがW2+となることでエッチングが進む。さらにこれと同時に、エッチング液に接触した電極層7の表面には酸化アルミニウムからなる酸化層7aが形成される(図5(c))。さらにバンプ部20がボンディング法に適する金硬度70Hv以下の軟質金になるように、250℃程度でアニール処理を30分から120分行う。
【0036】
次に、バンプ部20と拡散防止層23と電極層7とを被覆するように、図2(b)に示す液体吐出ヘッド用基板5と流路部材14との密着層9aを設けるのと一括して、ポリエーテルアミド樹脂からなる樹脂材料29を塗布する。この時、バンプ部20と電極層7の酸化層7aとの間の空間に十分に樹脂材料を充填するために、減圧状態のチャンバー内でレジスト塗布を行う。なお、大気圧との差圧で‐60Kpsから‐40Kpsの範囲の減圧環境下で樹脂材料29を塗布することで、酸化層7aとバンプ部20との間に安定して樹脂材料29を充填することができた。さらに、樹脂材料29を塗布した基板を200℃程度の温度条件で硬化させることで、電極層7の表面の酸化層7a由来のOH基と、樹脂材料29に含まれるシランカップリング剤とが反応を起こし、化学的な密着力が向上する(図5(d))。
【0037】
次に、フォトリソグラフィー法でレジストをパターニングして図2(b)の密着層9aとなる部分が形成されるようにマスクを設ける(不図示)。その後ドライエッチング法で樹脂材料29をエッチングして、密着層9aを設けると同時にバンプ部20と絶縁層8とを露出させる。ドライエッチング用のガスは、金に対してほとんどエッチングが進まないガスとることが好ましく、具体的にはCF4等を用いることができる。なお、端子部17に関しては、金からなるバンプ部20がエッチング時のマスクとして用いられるため、レジストマスクを設けなくても電極層7とバンプ部20との間の樹脂材料29はエッチングされない。これにより電極層7とバンプ部20との間であって、拡散防止層23の外周を囲うように、ポリエーテルアミド樹脂からなる樹脂層9が形成される(図5(e))
最後に、ボンディング法を用いて液体吐出装置から電気的信号や電圧を供給するためのワイヤ18とバンプ部20とを接続し、エポキシ樹脂等からなる封止剤19で封止する(図3(b))。
【0038】
このように製造することにより、電極層7の酸化層7aと樹脂層9とが強固に密着している液体吐出ヘッドとすることができる。そのため、封止剤19と絶縁層8との間に隙間が生じてインク等の液体が侵入したとしても、電極層7のアルミニウムと他の金属とが同時にインク等に接することはない。従って電池効果が生じることを防止でき、腐食が急激に進行することを防止できる。すなわち封止剤19の封止が十分でなかったとしても、腐食しにくい液体吐出ヘッドの端子部17を設けることができる。
【符号の説明】
【0039】
7 配線
9 樹脂層
18 ワイヤ
19 封止剤
20 バンプ部
23 拡散防止層
41 液体吐出ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子と、
外部から前記エネルギー発生素子を駆動するための信号または電圧を印加するために用いられ、アルミニウムを主成分とする電極層と、チタンタングステンからなる拡散防止層と、金からなるバンプ部とを基体の上にこの順に積層してなる端子部と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記基体を端子部が設けられた面側からみたときに、前記電極層を投影した部分の大きさは、前記拡散防止層を投影する部分の大きさより小さく、
前記拡散防止層の周囲には、前記電極層に接するように樹脂層が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記樹脂層と接する前記電極層の面は酸化していることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記電極層は、絶縁層に設けられた開口部を介して前記拡散防止層と接しており、前記電極層を投影した部分とは、前記開口部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
液体を吐出するための熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子と、外部から前記エネルギー発生素子を駆動するための信号または電圧を印加するための端子部とを備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
アルミニウムを主成分とする電極層と、チタンタングステンからなる拡散防止層となる材料層と、金のシード層とをこの順に積層した基体を設ける工程と、
前記シード層の上に、めっき法を用いて金からなるバンプ部を形成する工程と、
前記材料層をエッチングして、前記基体をバンプ部が設けられた面側からみたときに、前記電極層を投影した部分の大きさより、前記拡散防止層を投影した部分の大きさが小さくなるように、前記拡散防止層を形成する工程と、
前記拡散防止層の周囲に、前記電極層に接するように樹脂材料を塗布して樹脂層を形成する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記拡散防止層を形成する工程において、前記電極層の表面は酸化することを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂層を形成する工程において、前記樹脂材料は減圧状態で塗布されることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−91264(P2013−91264A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235140(P2011−235140)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】