液体吐出ヘッド及び画像形成装置
【課題】 撥水層の耐ワイピング性が十分でなく、安定した撥水性を長期にわたって維持することができない。
【解決手段】 ノズル板3は、高剛性部材31上にポリイミドフィルムなどの樹脂部材32を接着剤33を介して接合することでノズル4を有するノズル形成部材30を構成し、このノズル形成部材30を構成する樹脂部材32の表面に結合層であるSiO2薄膜層34とフッ素系撥水層35とを交互に順次積層した多層構造の撥水処理層40を設けている。
【解決手段】 ノズル板3は、高剛性部材31上にポリイミドフィルムなどの樹脂部材32を接着剤33を介して接合することでノズル4を有するノズル形成部材30を構成し、このノズル形成部材30を構成する樹脂部材32の表面に結合層であるSiO2薄膜層34とフッ素系撥水層35とを交互に順次積層した多層構造の撥水処理層40を設けている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出ヘッド及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、これらの複合機等の画像形成装置として、例えばインクジェット記録装置が知られている。インクジェット記録装置は、液体吐出ヘッドを記録ヘッドに用いて、記録紙等の被記録媒体(以下「用紙」と称するが、材質を紙に限定するものではなく、記録媒体、転写紙、転写材、被記録材などとも称される。)に記録液としてのインク滴を吐出して記録(画像形成、印写、印字、印刷なども同義語である。)を行なうものである。
【0003】
ところで、液体吐出ヘッドはノズルから液滴を吐出させて記録を行うため、ノズルの形状、精度がインク滴の噴射特性に大きな影響を与える。また、ノズル孔を形成しているノズル形成部材の表面の特性もインク滴の噴射特性に影響を与えることが知られている。例えば、ノズル形成部材表面のノズル孔周辺部にインクが付着して不均一なインクだまりが発生すると、インク滴の吐出方向が曲げられたり、インク滴の大きさにバラツキが生じたり、インク滴の飛翔速度が不安定になる等の不都合が生じることが知られている。
【0004】
そこで、液体吐出ヘッドにおいては、ノズル形成部材の吐出側表面に撥インク膜(撥水層、撥水膜ともいう。)を形成して撥インク性を持たせ、ノズル形成部材の表面の均一性を高め、液滴の飛翔特性の安定化を図るようにすることが行われている。
【0005】
ところで、ノズル形成部材として樹脂性のフィルム部材が好適に用いられるが、樹脂フィルムをノズル形成部材として使用する場合、撥インク膜を樹脂材料の表面に形成することになるが、樹脂材料と撥インク剤(撥水剤)との密着性があまり良くなく、とりわけ、フッ素系の撥水剤を用いた場合には、樹脂フィルムに直接塗布することは非常に困難である。
【0006】
そのため、樹脂材料の表面を粗面化して微細な凹凸を形成し、その上に撥水剤を塗布することで密着力の向上を図ったりしているが、十分な密着力の確保には至っていない。すなわち、塗布後の初期には撥インク性は得られているが、ノズル形成部材表面やノズル開口部に付着した液滴やゴミ等の除去のために行われるワイピングによって表面が擦られるため、密着性が十分でない分、徐々に撥インク層の剥がれが発生し、撥インク性が劣化することになる。
【0007】
そこで、ノズル形成部材と撥インク膜との密着性を高めるため、特許文献1に記載されているように、支持基体の一方の面に、テトラフルオロエチレンを成分とする共重合体を含む有機樹脂層を撥水層として形成することが知られている。
【特許文献1】特開平10−305582号公報
【0008】
また、特許文献2に記載されているように、ノズル形成部材の表面に含フッ素重合体からなる比較的厚いコーティング層を設け、その背面側からエキシマレーザを照射してノズル孔加工を行うことも知られている。
【特許文献2】特開平6−87216号公報
【0009】
さらに、特許文献3に記載されているように、ノズル形成部材と撥水層の間に無機酸化物の島状薄層を形成し、薄層の材料(例えば、SiO2、TiO2等)、薄層の膜厚を指定することにより、撥水性とエキシマレーザによる加工性を両立させたヘッドも知られている。
【特許文献3】特開2003−94665号公報
【特許文献4】特開2003−341070号公報
【0010】
また、特許文献5に記載されているように、有機樹脂部材の表面に有機材料の微粒子を含む微粒子層及び撥水層を順次積層形成し、ワイピング向上とエキシマレーザによる加工精度の両立を図ったヘッドも知られている。
【特許文献5】特開2003−127386号公報
【0011】
さらに、特許文献5に記載されているように、
【0012】
ところで、ノズル形成部材にレーザ光を照射して溝加工や穴加工を施すためのレーザ加工装置としては、前述したエキシマレーザ加工装置が適している。このそのレーザ加工装置は、一般的に、エキシマレーザ光を発するレーザ光源としてのエキシマレーザ発振器と、吐出口の開口パターンを有するマスクと、エキシマレーザ光によってマスクの開口パターンをノズル形成部材に投影する光学系を備えている。
【0013】
ところが、ノズル孔加工をエキシマレーザ加工等で行なう場合、ノズル形成部材をポリイミド等で形成すればエキシマレーザによる加工性を確保できるが、SiO2膜はエキシマレーザによる加工性が悪いため、きれいなノズル孔加工ができなくなり、異形ノズル孔が発生してしまうことになる。
【0014】
そこで、前述した特許文献5に記載のようなヘッドの他、特許文献6に記載されているように、真空蒸着法を用いることによって1Å以上300Å以下というきわめて薄いSiO2膜及びフッ素系撥水剤をコーティングすることで、ワイピングに対する耐久性を向上させると共に、エキシマレーザによる加工性を確保しようとするヘッドが提案されている。
【0015】
一方、エキシマレーザを用いて吐出口である穴の加工形成を行なう場合、レーザ加工時に発生する副生成物が、ノズル形成部材の加工表面に付着する。これにより、副生成物が付着した部位の表面エネルギーが高くなり、記録液に対する濡れ性が高くなり、すなわち、その表面が親水性となるという問題も指摘されている。
【0016】
そこで、レーザ加工時に発生する副生成物による樹脂表面エネルギーの上昇すなわち親水化を防止することが重要であり、副生成物による樹脂表面エネルギーの上昇すなわち親水化を避けるために、特許文献7に記載されているように、エキシマレーザ光の照射によりノズル形成部材にノズル孔の加工形成を施した後に、加熱処理、超音波洗浄、超音波水流による洗浄、または高圧水流による洗浄等を行ない、あるいは粘着テープを貼りそして剥がすことを繰り返す手法などにより、吐出口(オリフィス)の周囲に付着した副生成物を除去する方法が知られている。
【特許文献6】特開平4−279356号公報
【0017】
また、特許文献8に記載されているように、樹脂表面に予めレジスト等をコーティングしておき、エキシマレーザ光の照射により樹脂ブランクに溝または穴の形成を施した後に、現像液により副生成物ごとレジストを洗浄除去することにより、副生成物を除去する方法も知られている。
【特許文献7】特開平4−279355号公報
【0018】
さらに、特許文献9に記載されているように、吐出口側の撥水層形成面側をフッ素原子を含む雰囲気にした状態で、撥水層形成面の裏面側からレーザ光を照射してアブレーション加工をすることにより、吐出口を形成するとともにレーザ光によって励起されたフッ素含有物質を撥水層形成面に付着することによって、撥水性を維持することも提案されている。
【特許文献8】特開平11−138822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献2に記載のヘッドのような含フッ素重合体は、テトラフルオロエチレン等と比較すると撥インク性が低下しており、特に普通紙への印字にじみを抑えた高浸透性インクでは噴射曲がりが避けられないという課題がある。
【0020】
また、特許文献3、4に記載のヘッドのように、ノズル形成部材である樹脂材料等の表面に、SiO2膜を形成してその上にフッ素系撥水剤を塗布することで密着力を向上するようにした場合、SiO2膜厚をある程度厚くしないと十分な密着力向上効果が得られないが、ノズル孔加工をエキシマレーザ加工等で行うと、SiO2膜はエキシマレーザによる加工性が悪いため、きれいなノズル孔加工ができなくなり、異形ノズル孔が発生してしまうことになるという課題がある。
【0021】
一方、エキシマレーザ加工による副生成物を除去するため、特許文献7に記載のように、加熱処理を施す方法では、120℃−1時間という高温でかつ長時間の処理が必要であり、また、超音波や超音波水流による洗浄を行なう場合には、処理の後に樹脂ブランクを乾燥させる工程が必要となり、工程が複雑になるという課題がある。
【0022】
また、特許文献8に記載のように、洗浄粘着テープを用いて樹脂ブランクの表面に付着した副生成物を除去する場合も、副生成物除去専用の工程を設ける必要が生じるばかりか、粘着テープの種類によってはノズル板面に粘着材が残存したり、またはノズル板表面の撥水層の一部を剥離除去してしまうなどの課題が生じる。さらに、レジストを予め塗布しておきレーザ加工の後に現像しレジストごと副生成物を除去する方法にあっても、レジストの現像および洗浄の工程が必要となって工程が複雑になるという課題がある。
【0023】
このように、従来の副生成物を除去する方法では、処理を施すために特別の工程が必要となり、そのため製品の製造コストが高くなるともに、処理に長時間必要となることなど作業能率が上がらないために、製造上のスループットが著しく低下するという課題もある。
【0024】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、長期にわたり撥水性を維持して安定した吐出特性が得られる液体吐出ヘッド、及びその製造方法、その液体吐出ヘッドを搭載することで高い画像品質で安定して画像を形成することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するため、本発明に係る液体吐出ヘッドは、記録液の液滴を吐出するノズルを有するノズル形成部材の吐出側表面には少なくとも2層以上の撥水層を有し、ノズル形成部材と撥水層との間、及び撥水層と撥水層との間には、両者を結合する結合層が介在している構成とした。
【0026】
ここで、ノズル形成部材は樹脂フィルムで形成されていることが好ましい。また、樹脂フィルムがポリイミドフィルムであることが好ましい。さらに、撥水層はフッ素系撥水剤から形成され、この撥水層の膜厚は10Å以上100Å以下であることが好ましい。さらにまた、撥水層がパーフルオロポリオキセタン、変性パーフルオロポリオキセタン又は両者の混合物で形成されていることが好ましい。また、結合層がSiO2膜であり、このSiO2膜の膜厚が、10Å以上100Å以下であることが好ましい。さらに、撥水層と結合層の全体の厚さが0.5μm以下であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、本発明に係る液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、結合層となるSiO2膜を、Siをスパッタ後O2イオン処理をして形成する構成としたものである。
【0028】
また、同じく、撥水層を形成するフッ素系撥水剤を、レーザ結合層となるSiO2膜が形成されたノズル形成部材に真空蒸着法でコーティングして形成する構成としたものである。
【0029】
さらに、同じく、ノズル形成部材に結合層となるSiO2膜を形成し、その後フッ素系撥水剤を真空蒸着して撥水層を形成する工程を少なくとも2回以上繰り返して2以上の撥水層を形成した後、紫外光レーザでノズル孔を加工する構成としたものである。
【0030】
この場合、紫外線レーザでノズル孔を加工するときに、撥水層を有する側に粘着フィルムを貼り付け、この粘着フィルムとは反対側の面から紫外線レーザでノズル形成部材を貫通し、かつ粘着フィルムに1μm以上の深さまでノズル加工した後、粘着フィルムを剥がすことが好ましく、粘着フィルムの粘着材が熱または紫外線硬化型の粘着材であることが好ましく、更に粘着フィルムを剥がす工程に先立って、熱または紫外線照射により粘着フィルムの粘着材を硬化させた後、粘着フィルムを剥がすことが好ましい。
【0031】
本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る液体吐出ヘッドによれば、ノズル形成部材の吐出側表面には少なくとも2層以上の撥水層を有し、ノズル形成部材と撥水層との間、及び撥水層と撥水層との間には、両者を結合する結合層が介在している構成としたので、撥水剤がノズル形成部材と強固に密着するとともに、それらの層が2層以上に重なった多層構造ももつことにより、耐液性及び耐ワイピング性が格段に向上し、高い撥水性を維持することができて、滴吐出方向曲がりを発生することなく安定した滴吐出特性が得られる。
【0033】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法によれば、本発明に係る液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、結合層となるSiO2膜を、Siをスパッタ後O2イオン処理をして形成するので、緻密なSiO2膜を極めて薄く形成できてレーザ加工性が向上する。
【0034】
また、撥水層を形成するフッ素系撥水剤を、結合層となるSiO2膜が形成されたノズル形成部材に真空蒸着法でコーティングして形成するので、SiO2膜とフッ素系撥水層との密着性が向上する。
【0035】
さらに、ノズル形成部材に結合層となるSiO2膜を形成し、その後フッ素系撥水剤を真空蒸着して撥水層を形成する工程を少なくとも2回以上繰り返して2以上の撥水層を形成した後、紫外光レーザでノズル孔を加工するので、多層構造の撥水層を簡単に短時間で形成することができ、また、SiO2膜とフッ素系撥水層との間がゴミ、汚れなどで汚染されるおそれがなくなり、SiO2膜とフッ素系撥水膜との間で高い密着性が得られる。
【0036】
本発明に係る画像形成装置によれば、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、撥水性が維持されて高画質画像を安定して形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本発明に係る液体吐出ヘッドの第1実施形態について図1ないし図4を参照して説明する。なお、図1は同ヘッドの分解斜視説明図、図2は同ヘッドの液室長手方向に沿う断面説明図、図3は図2の要部拡大図、図4及び図5は同ヘッドの液室短手方向に沿う異なる例を示す断面説明図である。
【0038】
この液体吐出ヘッドは、例えば単結晶シリコン基板で形成した流路板1と、この流路板1の下面に接合した振動板2と、流路板1の上面に接合したノズル板3とを有し、これらによってインク滴を吐出するノズル4が連通路5を介して連通する加圧液室6、流体抵抗部7、流体抵抗部7を介して液室6と連通する連通部9を形成し、連通部9に振動板2に形成した供給口10を介して後述するフレーム部材17に形成した共通液室8から記録液(例えばインク)を供給する。
【0039】
そして、液室6の壁面を形成する振動板2の面外側(液室6と反対面側)に、各加圧液室6に対応して、振動板2に形成した連結部11を介して圧力発生手段としての積層型圧電素子12の上端部を接合し、この積層型圧電素子12の下端部は支持基板13に接合して固定している。なお、支持基板13は圧電素子12の各列毎に分割した構成とすることもできる。
【0040】
この圧電素子12は、圧電材料層14と内部電極15a、15bとを交互に積層したものである。この場合、圧電素子12の圧電方向としてd33方向の変位を用いて液室6内インクを加圧する構成とすることも、圧電素子12の圧電方向としてd31方向の変位を用いて加圧液室6内インクを加圧する構成とすることもできる。
【0041】
また、流路板1及び振動板2の周囲は例えばエポキシ系樹脂或いはポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成したフレーム部材17に接着接合し、このフレーム部材17と支持基板13とは図示しない部分を接着剤などで相互に固定している。そして、このフレーム部材17には前述した共通液室8を形成するとともに、この共通液室8に外部から記録液を供給するための図示しない供給路(連通管)を形成し、この供給路は更に図示しない記録液カートリッジなどの記録液供給源に接続される。
【0042】
さらに、圧電素子12には駆動信号を与えるために半田接合又はACF(異方導電性膜)接合若しくはワイヤボンディングでFPCケーブル18を接続し、このFPCケーブル18には各圧電素子12に選択的に駆動波形を印加するための駆動回路(ドライバIC)19を実装している。
【0043】
ここで、流路板1は、例えば結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(KOH)などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることで、連通路5、加圧液室6となる貫通穴、流体抵抗部7、連通部9などを構成する溝部をそれぞれ形成している。
【0044】
振動板2はニッケルの金属プレートから形成したもので、エレクトロフォーミング法で製造している。この振動板2は加圧液室6に対応する部分を変形を容易にするための薄肉部とし、中央部には圧電素子12を連結するために振動板2側の第1層11aと圧電素子12側の第2層11bからなる2層構造の連結部11を設けている。
【0045】
なお、液室短手方向(ノズル4の並び方向)では、図4に示すように、圧電素子12と支柱部22を交互に配置したバイピッチ構造とすることもできるし、あるいは、図5に示すように、支柱部22を設けないノーマルピッチ構造とすることもできる。
【0046】
このように構成した液体吐出ヘッドにおいては、例えば押し打ち方式で駆動する場合には、図示しない制御部から記録する画像に応じて複数の圧電素子12に20〜50Vの駆動パルス電圧を選択的に印加することによって、パルス電圧が印加された圧電素子12が変位して振動板2をノズル板3方向に変形させ、液室6の容積(体積)変化によって液室6内の液体を加圧することで、ノズル板3のノズル4から液滴が吐出される。そして、液滴の吐出に伴って液室6内の圧力が低下し、このときの液流れの慣性によって液室6内には若干の負圧が発生する。この状態の下において、圧電素子12への電圧の印加をオフ状態にすることによって、振動板2が元の位置に戻って液室6が元の形状になるため、さらに負圧が発生する。このとき、図示しない液タンクに通じる液供給パイプから入った液は、液室6内に充填され、次の駆動パルスの印加に応じて液滴がノズル4から吐出される。
【0047】
次に、この液体吐出ヘッドのノズル板3の詳細について図6を参照して説明する。なお、同図は同ノズル板のノズル部分の拡大断面説明図である。
このノズル板3は、高剛性部材31上にポリイミドフィルムなど樹脂フィルムからなる樹脂部材32を接着剤33を介して接合することでノズル形成部材30を構成し、このノズル形成部材30を構成する樹脂部材32の表面(液滴吐出面側表面)に結合層であるSiO2薄膜層34とフッ素系撥水層35とを交互に順次積層して形成している。このとき、結合層であるSiO2薄膜層34は樹脂部材32と最初の撥水層35とを結合し、また、撥水層35と次層の撥水層35とを結合する。なお、結合層(ここではSiO2薄膜層34)と撥水層(ここではフッ素系撥水層35)の多層構造部分全体を「撥水処理層40」と称する。
【0048】
そして、ノズル形成部材30を構成する樹脂部材32には、エキシマレーザ加工によって所要径のノズル孔4を形成し、高剛性部材31にはノズル孔4に連通するノズル連通口44を形成している。
【0049】
ここで、SiO2薄膜層34の形成には、比較的熱のかからない、すなわち、樹脂部材32に熱的影響の発生しない範囲の温度で成膜可能な方法で形成することが好ましい。具体的には、スパッタリング、イオンビーム蒸着、イオンプレーティング、CVD(化学蒸着法)、P−CVD(プラズマ蒸着法)などが適しているといえる。
【0050】
また、SiO2薄膜層34の膜厚は、密着力が確保できる範囲で必要最小限の厚さとすることで、工程時間の短縮、材料コストの削減を図ることができる。SiO2薄膜層34の膜厚があまり厚くなると、エキシマレーザでのノズル孔加工に支障がでてくる場合があるからである。すなわち、樹脂部材32はきれいにノズル孔形状に加工されていても、SiO2薄膜層32の一部が十分に加工されず、加工残りになることがある。
【0051】
したがって、具体的には密着力が確保でき、エキシマレーザ加工時にSiO2薄膜層34が残らない範囲として、SiO2薄膜層34の膜厚は1Å〜300Åの範囲内にすることが好ましく、より好ましくは、10Å〜100Åの範囲内である。実験結果では、SiO2薄膜層34の膜厚が30Åでも密着性は十分であり、エキシマレーザによる加工性についてはまったく問題がなかった。また、300Åでは僅かな加工残りが観察されたが、使用可能範囲であり、5000Åを超えるとかなり大きな加工残りが発生し、使用不可能なほどのノズル異形が発生することが確認された。
【0052】
フッ素系撥水層35に使用される撥水材料については、種々の材料が知られているが、例えば、フッ素原子を有する有機化合物、特にフルオロアルキル基を有する有機物、ジメチルシリキサン骨格を有する有機ケイ素化合物等が使用できる。
【0053】
フッ素原子を有する有機化合物としては、フルオロアルキルシラン、フルオロアルキル基を有するアルカン、カンボン酸、アルコール、アミン等が望ましい。具体的には、フルオロアルキルシランとしては、ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラハイドロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラハイドロトリクロオシラン;フルオロアルキル基を有するアルカンとしては、オクタフルオロシクロブタン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオローnーヘキサン、パーフルオローnーヘプタン、テトラデカフルオロー2ーメチルペンタン、パーフルオロドデカン、パーフルオロオイコサン;フルオロオアルキル基を有するカルボン酸としては、パーフルオロデカン酸、パーフルオロオクタン酸;フルオロアルキル基を有するアルコールとしては、3、3、4、4、5、5、5−ヘプタフルオロー2ーペンタノール;フルオロアルキル基を有するアミンとしては、ヘプタデカフルオロー1、1、2、2−テトラハイドロデシルアミン等が挙げられる。ジメチルシロキサン骨格を有する有機ケイ素化合物としては、α、w−ビス(3ーアミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α、w−ビス(3ーグリシドキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α、w−ビス(ビニル)ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0054】
また、別の撥水性材料として、シリコン原子を有する有機化合物、特にアルキルシロキサン基を有する有機化合物が使用できる。
【0055】
アルキルシロキサン基を有する有機化合物としては、含アルキルシロキサンエポキシ樹脂組成物を構成する分子中にアルキルシロキサン基、及び環状脂肪族エポキシ基を2個以上有する含アルキルシロキサンエポキシ樹脂としては、例えば、下記の一般式(a)及び(b)で表される構造単位を含む高分子化合物(A)が挙げられる。
【0056】
【化1】
【0057】
上記のような構造を有する化合物は他の撥水性化合物と併用する際にバインダーとしての機能も果たす。つまり、撥インク性の組成物の塗布適性を高め、溶剤蒸発後の乾燥性を高める乾燥塗膜としての作業性を向上させる機能も与える。
【0058】
本発明でもっとも好ましい撥水剤としては、パーフルオロポリオキセタン及び変性パーフルオロポリオキセタンの混合物(ダイキン工業製、商品名:オプツールDSX)であり、これを10Å〜300Åの厚さに蒸着することで必要な撥水性を得ている。実験結果では、オプツールDSXの厚さは、10Åでも100Å、300Åでも撥水性、ワイピング耐久性能に差は見られなかった。よって、コストなどを考慮するとより好適には、10Å〜100Åが良い。
【0059】
このように、このノズル板においては、ノズル形成部材と撥水層の間に結合層を介在させることで、撥水層とノズル形成部材とが強固に密着するとともに、更に撥水層を結合層を介在させながら2層以上の多層構造としているので、耐液性及び耐ワイピング性が格段に向上し、高い撥水性(撥インク性)を維持することができ、持続することができることから、滴吐出方向曲がりを発生することなく安定した滴吐出特性(噴射特性)を得ることができる。
【0060】
そして、この場合、ノズル形成部材を樹脂性のフィルムで形成することにより、ノズル孔の加工方法の選択範囲が広くなり、後述するように紫外光レーザ加工での精度の高いノズル孔加工を効率的に、且つ、低コストで行なうことができる。この樹脂フィルムとしてポリイミド樹脂フィルムを使用することにより、ノズル孔の加工方法の選択範囲が広くなるとともに、強靭性、耐薬品性、耐熱性が優れ、接着剤硬化等加工時の熱・機械的ストレスよる変形が減少し、精度の高いノズル孔加工を行なうことができる。
【0061】
また、撥水層をフッ素系撥水剤で形成し、この撥水層の膜厚を、10Å以上100Å以下とすることにより、高い撥水性が得られるとともに、フッ素系撥水膜を非常に薄くすることが可能になって必要材料が低減できてコストダウンを図れる。このフッ素系撥水剤として、パーフルオロポリオキセタンまたは変性パーフルオロポリオキセタンまたは双方の混合物を使用することで、撥水膜を真空蒸着法で形成することが可能となり、100Å以下の非常に薄い膜を簡単に形成することが可能となり、撥水性能も極めて高く、撥水膜のワイピング耐久性の向上と紫外光レーザによる加工性の向上を両立することができる。
【0062】
さらに、ノズル形成部材と撥水層、撥水層同士を結合する結合層としてSiO2膜を用いて、SiO2膜の膜厚を、10Å以上100Å以下とすることにより、撥水層の密着性が極めて向上し、特にSiO2膜とフッ素系撥水剤が化学的結合により密着するため、フッ素系撥水膜を非常に薄くすることが可能になり、必要材料を低減でき、且つ、処理時間も短縮できるので、コストダウンを図れる。
【0063】
次に、上述した液体吐出ヘッドにおけるノズル板の製造方法の一例について図7以降をも参照して説明する。
先ず、図7を参照して、ノズル孔を加工するときに使用するエキシマレーザ加工機の構成について説明する。このレーザ加工機は、レーザ発振器201から射出されたエキシマレーザビーム202はミラー203、205、208によって反射され、加工テーブル210に導かれている。レーザビーム202が加工テーブル210に至るまでの光路には加工物Wに対して最適なビームが届くように、ビームエキスパンダ204、マスク206、フィールドレンズ207、結像光学系209が所定の位置に設けられている。加工物Wは加工テーブル211の上に載置され、レーザビーム202を受けることになる。加工テーブル211は、周知のXYZテーブル等で構成されていて、必要に応じて加工物Wを移動し所望の位置にレーザビームを照射することができるようになっている。ここでは、レーザとして、エキシマレーザを利用して説明しているが、アブレーション加工が可能である短波長な紫外光レーザであれば、種々なレーザが利用可能である。
【0064】
次に、ノズル板の製造工程について図8を参照して説明すると、図8(a)に示すように、ノズル形成部材の基材となる樹脂フィルムとしてポリイミドフィルム32A(例えば、Dupont製カプトン(商品名)の粒子無しのフィルム)を準備する。一般的なポリイミドフィルムはロールフィルム取り扱い装置での取り扱い性(滑り)からフィルム材料の中にSiO2(シリカ)などの粒子が添加されている。ところが、エキシマレーザでノズル孔加工を行う場合には、SiO2(シリカ)の粒子がエキシマレーザによる加工性が悪いためノズル異形が発生する。したがって、SiO2(シリカ)の粒子が添加されていないフィルムを使用しているのである。
【0065】
そして、図7(b)に示すように、ポリイミドフィルム32Aの表面にSiO2薄膜層34を成膜する。このSiO2薄膜層34の形成は真空チャンバ内で行われるスパッタリング工法によって行なっている。SiO2薄膜層34の膜厚は数Å〜200Å程、ここでは10〜50Åの厚さに形成している。
【0066】
ここで、スパッタリングの方法としては、Siをスパッタした後、Si表面にO2イオンを当てることでSiO2膜を形成する方法を用いることが、SiO2膜の樹脂フィルム32(ポリイミドフィルム32A)への密着力が向上すると共に、均質で緻密な膜が得られ、撥水膜のワイピング耐久性向上により効果的である。また、この方法で得られるSiO2膜は、前述したフィルムの取り扱い性(滑り)のために添加されているSiO2(シリカ)粒子と比較すると、粒子径がはるかに小さいく、厚み方向に薄いため、エキシマレーザ加工性を低下させる影響は小さい。
【0067】
その後、図8(c)に示すように、SiO2薄膜層34上にフッ素系撥水剤を塗布して撥水層35Aを形成する。フッ素系撥水剤の塗布方法としては、スピンコータ、ロールコータ、スクリーン印刷、スプレーコータなどの方法が使用可能であるが、真空蒸着で成膜する方法が撥水膜の密着性を向上させることにつながり、より効果的である。また、その真空蒸着は、図8(b)でのSiO2薄膜層34を形成した後、そのまま真空チャンバ内で実施することでさらに良い効果が得られる。すなわち、従来は、SiO2薄膜層を形成後、一旦真空チャンバからワークを取り出すので、不純物などが表面に付着することにより密着性が損なわれるものと考えられる。
【0068】
なお、フッ素系撥水剤については、ここでは、フッ素非晶質化合物としてパーフルオロポリオキセタン、変形パーフルオロポリオキセタン又は双方の混合物を使用することで、特にインクに対する必要な撥水性を得ることができた。前述したダイキン工業製「オプツールDSX」は「アルコキシシラン末端変性パーフルオロポリエーテル」と称されることもある。真空蒸着以外の、スピンコータ、ロールコータ、スクリーン印刷、スプレーコータなどの方法で塗布する場合、その膜厚は300Å以上となるが、オプツールDSX自体の硬度は高くなく、ワイピングなどの操作によりオプツールDSXの表層は容易に除去されてしまい、SiO2と強固に結びついいた単分子層のみが除去されずに残り、撥インク性を保持している。すなわち必要以上の膜厚は不要であり、経済性の面からも薄膜の形成が可能な真空蒸着法が優れている。
【0069】
この工程に引き続いて、図8(d)に示すように、上述したSiO2膜とフッ素系撥水剤による撥水膜の形成を交互に2回以上繰り返して多層構造膜を形成する。ここでは、撥水膜35A上にSiO2膜34、撥水膜35A、SiO2膜34、撥水膜35Aを順次積層形成している。これらの膜形成は、引き続いてそのまま真空チャンバ内で形成することにより、煩雑さがなく多層構造を形成できる。この多層構造の結合層及び撥水層は全体の合計で0.5μm以内の厚さに形成され、これにより耐久性の優れた撥水膜を形成する。多層構造の撥水膜を形成した後は、真空チャンバから取り出すことによって空中放置され、これによりフッ素系撥水剤の撥水膜35AとSiO2膜34Cとが、空気中の水分を仲介として化学的結合をし、フッ素系撥水層35になる。
【0070】
なお、ここでは、ノズル板3の剛性を上げるために用いられる高剛性部材31は図示及び説明を省略しているが、必要に応じて、ノズル連通路44を形成した高剛性部材31をポリイミドフィルム32Aに接着剤33で接着する。
【0071】
そこで、図8(e)に示すように、最表面の撥水層35表面に粘着テープ36を貼り付ける。この粘着テープ36を貼るときには気泡が生じないように貼り付けることが必要である。気泡があると、気泡のある位置に開けたノズル孔は、加工時の付着物などで品質の良くないものになってしまうことがあるからである。
【0072】
その後、図8(f)に示すように、ポリイミドフィルム32A側からエキシマレーザを照射してノズル孔4を形成する。ここで、エキシマレーザを照射して形成するノズル孔の深さは、SiO2薄膜層34及び撥水層35の多層構造膜を完全に貫通することが重要であり、さらに粘着テープ36に深さ1μm以上の深さまで加工すること好ましい。
【0073】
そして、図8(g)に示すように、エキシマレーザ加工後粘着テープ面からUVを照射し、粘着テープ36の粘着剤を硬化させる。このことにより、粘着テープ36の粘着性が低下し、粘着テープ36の剥離後に表面に不要の粘着剤を残存させることがなくなる。そして、ノズル孔4の加工後は、図8(h)に示すように、粘着テープ36を剥がして使用することになる。
【0074】
次に、ノズル孔形成工程(図8(f))におけるエキシマレーザ加工深さについて図9及び図10を参照して説明する。
図9(a)に示すように、エキシマレーザによるノズル孔4が撥水層35を貫通せず一部残存した状態で粘着テープ36を剥がすと、同図(b)に示すように、ノズル孔近傍の撥水層35が一部剥がれ落ちてしまう欠損部分37が生じる。これに対し、図10(a)に示すように、エキシマレーザによるノズル孔4が撥水層35を完全に貫通して粘着テープ36にまで達するように形成することで、同図(b)に示すように、粘着テープ36を剥がした後のノズル孔近傍の撥水層はノズル孔エッジまで完全に形成されている。
【0075】
エキシマレーザによるノズル孔加工は、一定のエリア中の複数のノズルを同時に加工することが多く、その際にはレーザ強度分布のばらつきにより、各ノズル間でノズル孔深さが必ずしも均一とはならないことがある。実験によると、すべてのノズル孔4において撥水層35を貫通して粘着テープ36の一部までノズル孔が達していることが重要であり、そのためには、粘着テープ36の1μm以上の深さを加工する深さまでエキシマレーザ加工する条件で加工すれば、確実にすべてのノズル孔が撥水層を貫通できることが確認された。
【0076】
また、粘着テープ36を剥がすに先立って、まず粘着テープ36に紫外線を照射して粘着剤を硬化する。こうすることによって、不要の粘着剤がノズル板面に残存することを防止できるとともに、フィルムをエキスパンドするなどの簡単な方法で粘着テープを剥がすことが可能となる。
【0077】
このように、結合層としてのSiO2膜は、ノズル形成部材に対してSiをスパッタ後、O2イオン処理をして形成することによって、緻密なしSiO2膜を極めて薄く形成することができ、紫外光レーザによる加工が良好になる。また、撥水剤としてフッ素系撥水剤を真空蒸着によって形成することで、薄く均質で、且つ、結合層としてのSiO2膜との密着性が高い撥水膜が得られる。
【0078】
また、ノズル形成部材に結合層としてSiO2膜を真空中で形成し、その後フッ素系撥水剤を真空蒸着する工程を繰り返して2以上の撥水層を形成することにより、多層構造の撥水処理層を簡単に単時間で形成でき、しかも、SiO2膜とフッ素系撥水膜との間がゴミ,汚れなどで汚染されるおそれがなくなり、SiO2膜とフッ素系撥水膜との間で高い密着性が得られる。
【0079】
さらに、紫外線レーザでノズル孔を加工するに当たり、撥水層を有する側に粘着フィルムを貼り付け、粘着フィルムとは反対側の面から紫外線レーザでノズル形成部材を貫通し、かつ粘着フィルムに1μm以上の深さまでノズル加工することにより、粘着フィルムをはがすときに、ノズル孔近傍の撥水層を破壊することなくかつ親水性の付着物をつけることもない。
【0080】
この場合、粘着フィルムの粘着材が熱またはUV硬化型の粘着材であることにより、レーザ加工時には撥水面に強固に密着し、レーザ加工後粘着フィルムを剥がす際には紫外線照射により粘着性を低下させることができる。また、粘着フィルムを剥がす工程に先立って、熱またはUV照射により粘着フィルムの粘着材を硬化させた後、粘着フィルムを剥がすことにより、撥水面への粘着剤の残存がなく正常な撥水面を有するノズル板を製造することができる。
【0081】
次に、液体吐出ヘッドを製造するときに使用する装置の概要について図11を参照して説明する。この装置300は、USAのOCLI(OPTICAL COATING LABORATORY INC.)が開発した、「メタモードプロセス」と呼ばれる工法を装置化したものであり、ディスプレイなどの反射防止・防汚膜の作製に使用されている。
【0082】
この装置300は、ドラム301の周囲4個所にステーションであるSiスパッタ302、O2イオンガン303、Nbスパッタ304、オプツール蒸着305が配置されて、全体が真空引きできるチャンバの中にある。先ず、Siスパッタ302によりSiをスパッタし、その後、O2イオンガン303によりO2イオンをSiに当ててSiO2とする。その後、Nbスパッタ304、オプツール蒸着305でNb、オプツールDSXを適宜蒸着する。反射防止膜の場合は、NbとSiO2を所定の厚さで必要層数重ねた後蒸着することになるが、液体吐出ヘッドの製造工程で反射防止膜の機能は必要ないので、Nbは不要で使用しない。
【0083】
SiO2、オプツールDSXを1層ずつつけ、更に再度SiO2、オプツールDSXの順で第2層目を重ね、これを繰り返すことによって多層構造の撥水処理膜を形成する。
【0084】
この装置を使用することで、上述したように、前記多層構造をもつ撥水処理膜は、そのまま真空チャンバ内でSiO2とオプツールDSXの真空蒸着を繰り返し実施することが可能になる。
【0085】
次に、具体的な実施例について説明する。
〔実施例及び比較例1〜6〕
表1に示した以下の条件で撥水処理およびノズル加工を行ったノズル板を用い、IPSiO G−707(商品名:リコー製)用のヘッドを作製した。なお、コート方法は、実施例及び比較例1〜5では真空蒸着法を用い、コート条件によって膜厚を制御し、比較例6ではスピンコートを使用した。そして、作製したヘッドを用い、IPSiO G−707用のインクを入れて、噴射方向を調べた。
【0086】
次に、ヘッドのノズル面をインクに浸漬し、50℃にて1週間放置後、ワイピング操作を1000回繰り返した後、同様にインクの噴射方向を調べた(耐久1回目)。以後、この操作をくり返しインクの噴射方向(耐久2回目、3回目・・・)を調べた。この結果を表2に示している。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
表2から分かるように、実施例では、耐久5回目もなお噴射曲がりが発生しないことが確認された。
【0090】
これに対し、比較例1では、レーザ加工深さが撥水層を貫通しておらず粘着テープを剥がすときにノズル孔近傍の撥水層に欠陥が生じたためか、初期より若干の曲がりが発生し、耐久試験5回目ではは明らかに大きな噴射方向曲がりが発生した。
【0091】
比較例2では、SiO2層と撥水層を各100層重ねたことにより撥水処理層全体の厚さが1μmになり、異形のノズル孔が散見されたため、噴射方向は初期より曲がりが発生した。
【0092】
比較例3では、SiO2層と撥水層が各1層のみであるため、噴射方向は耐久2回目までは安定していたが、5回目では噴射曲がりが発生した。
【0093】
比較例4では、フッ素系撥水剤の厚さを厚くしたが、耐久性に関しては比較例3とまったく同等であった。
【0094】
比較例5では、SiO2の厚さを厚くしたところ、レーザ加工後に異形のノズルが散見され、初期より噴射曲がりが発生した。実施例と全SiO2の厚さは同じであるが、実施例ではレーザ加工性の良い撥水剤と多層構造をとっているためレーザ加工性に悪影響を与えなかったのに対し、比較例5ではSiO2層が単層で厚かったため、レーザ加工性が低下した。
【0095】
比較例6では、5000ÅのSiO2膜の上にスピンコート法により撥水剤をコートしたが、レーザ加工後に異形のノズルが散見され、初期より噴射曲がりが発生した。
【0096】
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えた本発明に係る画像形成装置の一例について12及び図13を参照して説明する。なお、図12は同画像形成装置の全体構成を説明する側面説明図、図13は同装置の要部平面説明図である。
【0097】
この画像形成装置は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド101とガイドレール102とでキャリッジ103を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータ104で駆動プーリ106Aと従動プーリ106B間に架け渡したタイミングベルト105を介して図13で矢示方向(主走査方向)に移動走査する。
【0098】
このキャリッジ103には、例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色の記録液の液滴(インク滴)を吐出する独立した4個の本発明に係る液体吐出ヘッド107k、107c、107m、107yで構成した記録ヘッド107を主走査方向に沿う方向に配置し、液滴吐出方向を下方に向けて装着している。なお、ここでは独立した液体吐出ヘッドを用いているが、各色の記録液の液滴を吐出する複数のノズル列を有する1又は複数のヘッドを用いる構成とすることもできる。また、色の数及び配列順序はこれに限るものではない。
【0099】
記録ヘッド107を構成する本発明に係る液体吐出ヘッドとしては、加圧液室内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子などの電気機械変換素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて記録液の膜沸騰を利用するいわゆるサーマル型のもの、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで、インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータなどを使用できる。
【0100】
キャリッジ103には、記録ヘッド107に各色のインクを供給するための各色のサブタンク108を搭載している。このサブタンク108にはインク供給チューブ109を介して図示しないメインタンク(インクカートリッジ)からインクが補充供給される。
【0101】
一方、給紙カセット110などの用紙積載部(圧板)111上に積載した被記録媒体(用紙)112を給紙するための給紙部として、用紙積載部111から用紙112を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙ローラ)113及び給紙ローラ113に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド114を備え、この分離パッド114は給紙ローラ113側に付勢されている。
【0102】
そして、この給紙部から給紙された用紙112を記録ヘッド107の下方側で搬送するための搬送部として、用紙112を静電吸着して搬送するための搬送ベルト121と、給紙部からガイド115を介して送られる用紙112を搬送ベルト121との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ122と、略鉛直上方に送られる用紙112を略90°方向転換させて搬送ベルト121上に倣わせるための搬送ガイド123と、押さえ部材124で搬送ベルト121側に付勢された先端加圧コロ125とを備えている。また、搬送ベルト121表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ126を備えている。
【0103】
ここで、搬送ベルト121は、無端状ベルトであり、搬送ローラ127とテンションローラ128との間に掛け渡されて、副走査モータ131からタイミングベルト132及びタイミングローラ133を介して搬送ローラ127が回転されることで、図13のベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。なお、搬送ベルト121の裏面側には記録ヘッド107による画像形成領域に対応してガイド部材129を配置している。
【0104】
また、図12に示すように、搬送ローラ127の軸には、スリット円板134を取り付け、このスリット円板134のスリットを検知するセンサ135を設けて、これらのスリット円板134及びセンサ135によってエンコーダ136を構成している。
【0105】
帯電ローラ126は、搬送ベルト121の表層に接触し、搬送ベルト121の回動に従動して回転するように配置され、加圧力として軸の両端に各2.5Nをかけている。
【0106】
また、キャリッジ103の前方側には、図12に示すように、スリットを形成したエンコーダスケール142を設け、キャリッジ103の前面側にはエンコーダスケール142のスリットを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ143を設け、これらによって、キャリッジ103の主走査方向位置を検知するためのエンコーダ144を構成している。
【0107】
さらに、記録ヘッド107で記録された用紙112を排紙するための排紙部として、搬送ベルト121から用紙112を分離するための分離部と、排紙ローラ152及び排紙コロ153と、排紙される用紙112をストックする排紙トレイ154とを備えている。
【0108】
また、背部には両面給紙ユニット155が着脱自在に装着されている。この両面給紙ユニット155は搬送ベルト121の逆方向回転で戻される用紙112を取り込んで反転させて再度カウンタローラ122と搬送ベルト121との間に給紙する。
【0109】
さらに、図13に示すように、キャリッジ103の走査方向の一方側の非印字領域には、記録ヘッド107のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構156を配置している。
【0110】
この維持回復機156は、記録ヘッド107の各ノズル面をキャピングするための各キャップ157と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード158と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行なうときの液滴を受ける空吐出受け159などを備えている。
【0111】
このように構成した画像形成装置においては、給紙部から用紙112が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙112はガイド115で案内され、搬送ベルト121とカウンタローラ122との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド123で案内されて先端加圧コロ125で搬送ベルト121に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0112】
このとき、図示しない制御回路によって高圧電源から帯電ローラ126に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト121が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト121上に用紙112が給送されると、用紙112が搬送ベルト121に静電力で吸着され、搬送ベルト121の周回移動によって用紙112が副走査方向に搬送される。
【0113】
そこで、キャリッジ103を往路及び復路方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド107を駆動することにより、停止している用紙112にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙112を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙112の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙112を排紙トレイ154に排紙する。
【0114】
また、両面印刷の場合には、表面(最初に印刷する面)の記録が終了したときに、搬送ベルト121を逆回転させることで、記録済みの用紙112を両面給紙ユニット155内に送り込み、用紙112を反転させて(裏面が印刷面となる状態にして)再度カウンタローラ122と搬送ベルト121との間に給紙し、タイミング制御を行って、前述したと同様に搬送ベル121上に搬送して裏面に記録を行った後、排紙トレイ154に排紙する
【0115】
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ103は維持回復機構155側に移動されて、キャップ157で記録ヘッド107のノズル面がキャッピングされて、ノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ157で記録ヘッド107をキャッピングした状態でノズルから記録液を吸引し(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)し、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作を行い、この回復動作によって記録ヘッド107のノズル面に付着したインクを清掃除去するためにワイパーブレード158でワイピングを行なう。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作を行う。これによって、記録ヘッド107の安定した吐出性能を維持する。
【0116】
このように、この画像形成装置は本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、長期にわたり撥水性を維持して安定した吐出特性が得られ、高画質画像を安定してい形成することができる。
【0117】
なお、上記各実施形態では本発明に係る画像形成装置としてプリンタ構成で説明したが、これに限るものではなく、例えば、プリンタ/ファックス/コピア複合機などの画像形成装置に適用することができる。また、インク以外の液体である記録液や定着処理液などを用いる画像形成装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す分解斜視図である。
【図2】同ヘッドの液室長手方向に沿う断面説明図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】同ヘッドの液室短手方向に沿うバイピッチ構造の断面説明図である。
【図5】同ヘッドの液室短手方向に沿うノーマルピッチ構造の断面説明図である。
【図6】同液体吐出ヘッドのノズル板の拡大断面説明図である。
【図7】エキシマレーザ加工機の説明に供する模式的説明図である。
【図8】同液体吐出ヘッドのノズル板の製造工程の説明に供する断面説明図である。
【図9】エキシマレーザ加工による加工深さが足りない場合の説明に供する説明図である。
【図10】同じくエキシマレーザ加工による加工深さの説明に供する説明図である。
【図11】同液体吐出ヘッドのノズル板の製造装置の説明に供する模式的説明図である。
【図12】本発明に係る画像形成装置の一例を示す全体構成図である。
【図13】同じく要部平面説明図である。
【符号の説明】
【0119】
1…流路板
2…振動板
3…ノズル板
4…ノズル
6…液室
12…圧電素子
31…高剛性部材
32…樹脂部材
33…接着剤
34…結合層(SiO2膜)
35…撥水層
103…キャリッジ
107…記録ヘッド
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出ヘッド及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、これらの複合機等の画像形成装置として、例えばインクジェット記録装置が知られている。インクジェット記録装置は、液体吐出ヘッドを記録ヘッドに用いて、記録紙等の被記録媒体(以下「用紙」と称するが、材質を紙に限定するものではなく、記録媒体、転写紙、転写材、被記録材などとも称される。)に記録液としてのインク滴を吐出して記録(画像形成、印写、印字、印刷なども同義語である。)を行なうものである。
【0003】
ところで、液体吐出ヘッドはノズルから液滴を吐出させて記録を行うため、ノズルの形状、精度がインク滴の噴射特性に大きな影響を与える。また、ノズル孔を形成しているノズル形成部材の表面の特性もインク滴の噴射特性に影響を与えることが知られている。例えば、ノズル形成部材表面のノズル孔周辺部にインクが付着して不均一なインクだまりが発生すると、インク滴の吐出方向が曲げられたり、インク滴の大きさにバラツキが生じたり、インク滴の飛翔速度が不安定になる等の不都合が生じることが知られている。
【0004】
そこで、液体吐出ヘッドにおいては、ノズル形成部材の吐出側表面に撥インク膜(撥水層、撥水膜ともいう。)を形成して撥インク性を持たせ、ノズル形成部材の表面の均一性を高め、液滴の飛翔特性の安定化を図るようにすることが行われている。
【0005】
ところで、ノズル形成部材として樹脂性のフィルム部材が好適に用いられるが、樹脂フィルムをノズル形成部材として使用する場合、撥インク膜を樹脂材料の表面に形成することになるが、樹脂材料と撥インク剤(撥水剤)との密着性があまり良くなく、とりわけ、フッ素系の撥水剤を用いた場合には、樹脂フィルムに直接塗布することは非常に困難である。
【0006】
そのため、樹脂材料の表面を粗面化して微細な凹凸を形成し、その上に撥水剤を塗布することで密着力の向上を図ったりしているが、十分な密着力の確保には至っていない。すなわち、塗布後の初期には撥インク性は得られているが、ノズル形成部材表面やノズル開口部に付着した液滴やゴミ等の除去のために行われるワイピングによって表面が擦られるため、密着性が十分でない分、徐々に撥インク層の剥がれが発生し、撥インク性が劣化することになる。
【0007】
そこで、ノズル形成部材と撥インク膜との密着性を高めるため、特許文献1に記載されているように、支持基体の一方の面に、テトラフルオロエチレンを成分とする共重合体を含む有機樹脂層を撥水層として形成することが知られている。
【特許文献1】特開平10−305582号公報
【0008】
また、特許文献2に記載されているように、ノズル形成部材の表面に含フッ素重合体からなる比較的厚いコーティング層を設け、その背面側からエキシマレーザを照射してノズル孔加工を行うことも知られている。
【特許文献2】特開平6−87216号公報
【0009】
さらに、特許文献3に記載されているように、ノズル形成部材と撥水層の間に無機酸化物の島状薄層を形成し、薄層の材料(例えば、SiO2、TiO2等)、薄層の膜厚を指定することにより、撥水性とエキシマレーザによる加工性を両立させたヘッドも知られている。
【特許文献3】特開2003−94665号公報
【特許文献4】特開2003−341070号公報
【0010】
また、特許文献5に記載されているように、有機樹脂部材の表面に有機材料の微粒子を含む微粒子層及び撥水層を順次積層形成し、ワイピング向上とエキシマレーザによる加工精度の両立を図ったヘッドも知られている。
【特許文献5】特開2003−127386号公報
【0011】
さらに、特許文献5に記載されているように、
【0012】
ところで、ノズル形成部材にレーザ光を照射して溝加工や穴加工を施すためのレーザ加工装置としては、前述したエキシマレーザ加工装置が適している。このそのレーザ加工装置は、一般的に、エキシマレーザ光を発するレーザ光源としてのエキシマレーザ発振器と、吐出口の開口パターンを有するマスクと、エキシマレーザ光によってマスクの開口パターンをノズル形成部材に投影する光学系を備えている。
【0013】
ところが、ノズル孔加工をエキシマレーザ加工等で行なう場合、ノズル形成部材をポリイミド等で形成すればエキシマレーザによる加工性を確保できるが、SiO2膜はエキシマレーザによる加工性が悪いため、きれいなノズル孔加工ができなくなり、異形ノズル孔が発生してしまうことになる。
【0014】
そこで、前述した特許文献5に記載のようなヘッドの他、特許文献6に記載されているように、真空蒸着法を用いることによって1Å以上300Å以下というきわめて薄いSiO2膜及びフッ素系撥水剤をコーティングすることで、ワイピングに対する耐久性を向上させると共に、エキシマレーザによる加工性を確保しようとするヘッドが提案されている。
【0015】
一方、エキシマレーザを用いて吐出口である穴の加工形成を行なう場合、レーザ加工時に発生する副生成物が、ノズル形成部材の加工表面に付着する。これにより、副生成物が付着した部位の表面エネルギーが高くなり、記録液に対する濡れ性が高くなり、すなわち、その表面が親水性となるという問題も指摘されている。
【0016】
そこで、レーザ加工時に発生する副生成物による樹脂表面エネルギーの上昇すなわち親水化を防止することが重要であり、副生成物による樹脂表面エネルギーの上昇すなわち親水化を避けるために、特許文献7に記載されているように、エキシマレーザ光の照射によりノズル形成部材にノズル孔の加工形成を施した後に、加熱処理、超音波洗浄、超音波水流による洗浄、または高圧水流による洗浄等を行ない、あるいは粘着テープを貼りそして剥がすことを繰り返す手法などにより、吐出口(オリフィス)の周囲に付着した副生成物を除去する方法が知られている。
【特許文献6】特開平4−279356号公報
【0017】
また、特許文献8に記載されているように、樹脂表面に予めレジスト等をコーティングしておき、エキシマレーザ光の照射により樹脂ブランクに溝または穴の形成を施した後に、現像液により副生成物ごとレジストを洗浄除去することにより、副生成物を除去する方法も知られている。
【特許文献7】特開平4−279355号公報
【0018】
さらに、特許文献9に記載されているように、吐出口側の撥水層形成面側をフッ素原子を含む雰囲気にした状態で、撥水層形成面の裏面側からレーザ光を照射してアブレーション加工をすることにより、吐出口を形成するとともにレーザ光によって励起されたフッ素含有物質を撥水層形成面に付着することによって、撥水性を維持することも提案されている。
【特許文献8】特開平11−138822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献2に記載のヘッドのような含フッ素重合体は、テトラフルオロエチレン等と比較すると撥インク性が低下しており、特に普通紙への印字にじみを抑えた高浸透性インクでは噴射曲がりが避けられないという課題がある。
【0020】
また、特許文献3、4に記載のヘッドのように、ノズル形成部材である樹脂材料等の表面に、SiO2膜を形成してその上にフッ素系撥水剤を塗布することで密着力を向上するようにした場合、SiO2膜厚をある程度厚くしないと十分な密着力向上効果が得られないが、ノズル孔加工をエキシマレーザ加工等で行うと、SiO2膜はエキシマレーザによる加工性が悪いため、きれいなノズル孔加工ができなくなり、異形ノズル孔が発生してしまうことになるという課題がある。
【0021】
一方、エキシマレーザ加工による副生成物を除去するため、特許文献7に記載のように、加熱処理を施す方法では、120℃−1時間という高温でかつ長時間の処理が必要であり、また、超音波や超音波水流による洗浄を行なう場合には、処理の後に樹脂ブランクを乾燥させる工程が必要となり、工程が複雑になるという課題がある。
【0022】
また、特許文献8に記載のように、洗浄粘着テープを用いて樹脂ブランクの表面に付着した副生成物を除去する場合も、副生成物除去専用の工程を設ける必要が生じるばかりか、粘着テープの種類によってはノズル板面に粘着材が残存したり、またはノズル板表面の撥水層の一部を剥離除去してしまうなどの課題が生じる。さらに、レジストを予め塗布しておきレーザ加工の後に現像しレジストごと副生成物を除去する方法にあっても、レジストの現像および洗浄の工程が必要となって工程が複雑になるという課題がある。
【0023】
このように、従来の副生成物を除去する方法では、処理を施すために特別の工程が必要となり、そのため製品の製造コストが高くなるともに、処理に長時間必要となることなど作業能率が上がらないために、製造上のスループットが著しく低下するという課題もある。
【0024】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、長期にわたり撥水性を維持して安定した吐出特性が得られる液体吐出ヘッド、及びその製造方法、その液体吐出ヘッドを搭載することで高い画像品質で安定して画像を形成することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するため、本発明に係る液体吐出ヘッドは、記録液の液滴を吐出するノズルを有するノズル形成部材の吐出側表面には少なくとも2層以上の撥水層を有し、ノズル形成部材と撥水層との間、及び撥水層と撥水層との間には、両者を結合する結合層が介在している構成とした。
【0026】
ここで、ノズル形成部材は樹脂フィルムで形成されていることが好ましい。また、樹脂フィルムがポリイミドフィルムであることが好ましい。さらに、撥水層はフッ素系撥水剤から形成され、この撥水層の膜厚は10Å以上100Å以下であることが好ましい。さらにまた、撥水層がパーフルオロポリオキセタン、変性パーフルオロポリオキセタン又は両者の混合物で形成されていることが好ましい。また、結合層がSiO2膜であり、このSiO2膜の膜厚が、10Å以上100Å以下であることが好ましい。さらに、撥水層と結合層の全体の厚さが0.5μm以下であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、本発明に係る液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、結合層となるSiO2膜を、Siをスパッタ後O2イオン処理をして形成する構成としたものである。
【0028】
また、同じく、撥水層を形成するフッ素系撥水剤を、レーザ結合層となるSiO2膜が形成されたノズル形成部材に真空蒸着法でコーティングして形成する構成としたものである。
【0029】
さらに、同じく、ノズル形成部材に結合層となるSiO2膜を形成し、その後フッ素系撥水剤を真空蒸着して撥水層を形成する工程を少なくとも2回以上繰り返して2以上の撥水層を形成した後、紫外光レーザでノズル孔を加工する構成としたものである。
【0030】
この場合、紫外線レーザでノズル孔を加工するときに、撥水層を有する側に粘着フィルムを貼り付け、この粘着フィルムとは反対側の面から紫外線レーザでノズル形成部材を貫通し、かつ粘着フィルムに1μm以上の深さまでノズル加工した後、粘着フィルムを剥がすことが好ましく、粘着フィルムの粘着材が熱または紫外線硬化型の粘着材であることが好ましく、更に粘着フィルムを剥がす工程に先立って、熱または紫外線照射により粘着フィルムの粘着材を硬化させた後、粘着フィルムを剥がすことが好ましい。
【0031】
本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る液体吐出ヘッドによれば、ノズル形成部材の吐出側表面には少なくとも2層以上の撥水層を有し、ノズル形成部材と撥水層との間、及び撥水層と撥水層との間には、両者を結合する結合層が介在している構成としたので、撥水剤がノズル形成部材と強固に密着するとともに、それらの層が2層以上に重なった多層構造ももつことにより、耐液性及び耐ワイピング性が格段に向上し、高い撥水性を維持することができて、滴吐出方向曲がりを発生することなく安定した滴吐出特性が得られる。
【0033】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法によれば、本発明に係る液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、結合層となるSiO2膜を、Siをスパッタ後O2イオン処理をして形成するので、緻密なSiO2膜を極めて薄く形成できてレーザ加工性が向上する。
【0034】
また、撥水層を形成するフッ素系撥水剤を、結合層となるSiO2膜が形成されたノズル形成部材に真空蒸着法でコーティングして形成するので、SiO2膜とフッ素系撥水層との密着性が向上する。
【0035】
さらに、ノズル形成部材に結合層となるSiO2膜を形成し、その後フッ素系撥水剤を真空蒸着して撥水層を形成する工程を少なくとも2回以上繰り返して2以上の撥水層を形成した後、紫外光レーザでノズル孔を加工するので、多層構造の撥水層を簡単に短時間で形成することができ、また、SiO2膜とフッ素系撥水層との間がゴミ、汚れなどで汚染されるおそれがなくなり、SiO2膜とフッ素系撥水膜との間で高い密着性が得られる。
【0036】
本発明に係る画像形成装置によれば、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、撥水性が維持されて高画質画像を安定して形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本発明に係る液体吐出ヘッドの第1実施形態について図1ないし図4を参照して説明する。なお、図1は同ヘッドの分解斜視説明図、図2は同ヘッドの液室長手方向に沿う断面説明図、図3は図2の要部拡大図、図4及び図5は同ヘッドの液室短手方向に沿う異なる例を示す断面説明図である。
【0038】
この液体吐出ヘッドは、例えば単結晶シリコン基板で形成した流路板1と、この流路板1の下面に接合した振動板2と、流路板1の上面に接合したノズル板3とを有し、これらによってインク滴を吐出するノズル4が連通路5を介して連通する加圧液室6、流体抵抗部7、流体抵抗部7を介して液室6と連通する連通部9を形成し、連通部9に振動板2に形成した供給口10を介して後述するフレーム部材17に形成した共通液室8から記録液(例えばインク)を供給する。
【0039】
そして、液室6の壁面を形成する振動板2の面外側(液室6と反対面側)に、各加圧液室6に対応して、振動板2に形成した連結部11を介して圧力発生手段としての積層型圧電素子12の上端部を接合し、この積層型圧電素子12の下端部は支持基板13に接合して固定している。なお、支持基板13は圧電素子12の各列毎に分割した構成とすることもできる。
【0040】
この圧電素子12は、圧電材料層14と内部電極15a、15bとを交互に積層したものである。この場合、圧電素子12の圧電方向としてd33方向の変位を用いて液室6内インクを加圧する構成とすることも、圧電素子12の圧電方向としてd31方向の変位を用いて加圧液室6内インクを加圧する構成とすることもできる。
【0041】
また、流路板1及び振動板2の周囲は例えばエポキシ系樹脂或いはポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成したフレーム部材17に接着接合し、このフレーム部材17と支持基板13とは図示しない部分を接着剤などで相互に固定している。そして、このフレーム部材17には前述した共通液室8を形成するとともに、この共通液室8に外部から記録液を供給するための図示しない供給路(連通管)を形成し、この供給路は更に図示しない記録液カートリッジなどの記録液供給源に接続される。
【0042】
さらに、圧電素子12には駆動信号を与えるために半田接合又はACF(異方導電性膜)接合若しくはワイヤボンディングでFPCケーブル18を接続し、このFPCケーブル18には各圧電素子12に選択的に駆動波形を印加するための駆動回路(ドライバIC)19を実装している。
【0043】
ここで、流路板1は、例えば結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(KOH)などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることで、連通路5、加圧液室6となる貫通穴、流体抵抗部7、連通部9などを構成する溝部をそれぞれ形成している。
【0044】
振動板2はニッケルの金属プレートから形成したもので、エレクトロフォーミング法で製造している。この振動板2は加圧液室6に対応する部分を変形を容易にするための薄肉部とし、中央部には圧電素子12を連結するために振動板2側の第1層11aと圧電素子12側の第2層11bからなる2層構造の連結部11を設けている。
【0045】
なお、液室短手方向(ノズル4の並び方向)では、図4に示すように、圧電素子12と支柱部22を交互に配置したバイピッチ構造とすることもできるし、あるいは、図5に示すように、支柱部22を設けないノーマルピッチ構造とすることもできる。
【0046】
このように構成した液体吐出ヘッドにおいては、例えば押し打ち方式で駆動する場合には、図示しない制御部から記録する画像に応じて複数の圧電素子12に20〜50Vの駆動パルス電圧を選択的に印加することによって、パルス電圧が印加された圧電素子12が変位して振動板2をノズル板3方向に変形させ、液室6の容積(体積)変化によって液室6内の液体を加圧することで、ノズル板3のノズル4から液滴が吐出される。そして、液滴の吐出に伴って液室6内の圧力が低下し、このときの液流れの慣性によって液室6内には若干の負圧が発生する。この状態の下において、圧電素子12への電圧の印加をオフ状態にすることによって、振動板2が元の位置に戻って液室6が元の形状になるため、さらに負圧が発生する。このとき、図示しない液タンクに通じる液供給パイプから入った液は、液室6内に充填され、次の駆動パルスの印加に応じて液滴がノズル4から吐出される。
【0047】
次に、この液体吐出ヘッドのノズル板3の詳細について図6を参照して説明する。なお、同図は同ノズル板のノズル部分の拡大断面説明図である。
このノズル板3は、高剛性部材31上にポリイミドフィルムなど樹脂フィルムからなる樹脂部材32を接着剤33を介して接合することでノズル形成部材30を構成し、このノズル形成部材30を構成する樹脂部材32の表面(液滴吐出面側表面)に結合層であるSiO2薄膜層34とフッ素系撥水層35とを交互に順次積層して形成している。このとき、結合層であるSiO2薄膜層34は樹脂部材32と最初の撥水層35とを結合し、また、撥水層35と次層の撥水層35とを結合する。なお、結合層(ここではSiO2薄膜層34)と撥水層(ここではフッ素系撥水層35)の多層構造部分全体を「撥水処理層40」と称する。
【0048】
そして、ノズル形成部材30を構成する樹脂部材32には、エキシマレーザ加工によって所要径のノズル孔4を形成し、高剛性部材31にはノズル孔4に連通するノズル連通口44を形成している。
【0049】
ここで、SiO2薄膜層34の形成には、比較的熱のかからない、すなわち、樹脂部材32に熱的影響の発生しない範囲の温度で成膜可能な方法で形成することが好ましい。具体的には、スパッタリング、イオンビーム蒸着、イオンプレーティング、CVD(化学蒸着法)、P−CVD(プラズマ蒸着法)などが適しているといえる。
【0050】
また、SiO2薄膜層34の膜厚は、密着力が確保できる範囲で必要最小限の厚さとすることで、工程時間の短縮、材料コストの削減を図ることができる。SiO2薄膜層34の膜厚があまり厚くなると、エキシマレーザでのノズル孔加工に支障がでてくる場合があるからである。すなわち、樹脂部材32はきれいにノズル孔形状に加工されていても、SiO2薄膜層32の一部が十分に加工されず、加工残りになることがある。
【0051】
したがって、具体的には密着力が確保でき、エキシマレーザ加工時にSiO2薄膜層34が残らない範囲として、SiO2薄膜層34の膜厚は1Å〜300Åの範囲内にすることが好ましく、より好ましくは、10Å〜100Åの範囲内である。実験結果では、SiO2薄膜層34の膜厚が30Åでも密着性は十分であり、エキシマレーザによる加工性についてはまったく問題がなかった。また、300Åでは僅かな加工残りが観察されたが、使用可能範囲であり、5000Åを超えるとかなり大きな加工残りが発生し、使用不可能なほどのノズル異形が発生することが確認された。
【0052】
フッ素系撥水層35に使用される撥水材料については、種々の材料が知られているが、例えば、フッ素原子を有する有機化合物、特にフルオロアルキル基を有する有機物、ジメチルシリキサン骨格を有する有機ケイ素化合物等が使用できる。
【0053】
フッ素原子を有する有機化合物としては、フルオロアルキルシラン、フルオロアルキル基を有するアルカン、カンボン酸、アルコール、アミン等が望ましい。具体的には、フルオロアルキルシランとしては、ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラハイドロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラハイドロトリクロオシラン;フルオロアルキル基を有するアルカンとしては、オクタフルオロシクロブタン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオローnーヘキサン、パーフルオローnーヘプタン、テトラデカフルオロー2ーメチルペンタン、パーフルオロドデカン、パーフルオロオイコサン;フルオロオアルキル基を有するカルボン酸としては、パーフルオロデカン酸、パーフルオロオクタン酸;フルオロアルキル基を有するアルコールとしては、3、3、4、4、5、5、5−ヘプタフルオロー2ーペンタノール;フルオロアルキル基を有するアミンとしては、ヘプタデカフルオロー1、1、2、2−テトラハイドロデシルアミン等が挙げられる。ジメチルシロキサン骨格を有する有機ケイ素化合物としては、α、w−ビス(3ーアミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α、w−ビス(3ーグリシドキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α、w−ビス(ビニル)ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0054】
また、別の撥水性材料として、シリコン原子を有する有機化合物、特にアルキルシロキサン基を有する有機化合物が使用できる。
【0055】
アルキルシロキサン基を有する有機化合物としては、含アルキルシロキサンエポキシ樹脂組成物を構成する分子中にアルキルシロキサン基、及び環状脂肪族エポキシ基を2個以上有する含アルキルシロキサンエポキシ樹脂としては、例えば、下記の一般式(a)及び(b)で表される構造単位を含む高分子化合物(A)が挙げられる。
【0056】
【化1】
【0057】
上記のような構造を有する化合物は他の撥水性化合物と併用する際にバインダーとしての機能も果たす。つまり、撥インク性の組成物の塗布適性を高め、溶剤蒸発後の乾燥性を高める乾燥塗膜としての作業性を向上させる機能も与える。
【0058】
本発明でもっとも好ましい撥水剤としては、パーフルオロポリオキセタン及び変性パーフルオロポリオキセタンの混合物(ダイキン工業製、商品名:オプツールDSX)であり、これを10Å〜300Åの厚さに蒸着することで必要な撥水性を得ている。実験結果では、オプツールDSXの厚さは、10Åでも100Å、300Åでも撥水性、ワイピング耐久性能に差は見られなかった。よって、コストなどを考慮するとより好適には、10Å〜100Åが良い。
【0059】
このように、このノズル板においては、ノズル形成部材と撥水層の間に結合層を介在させることで、撥水層とノズル形成部材とが強固に密着するとともに、更に撥水層を結合層を介在させながら2層以上の多層構造としているので、耐液性及び耐ワイピング性が格段に向上し、高い撥水性(撥インク性)を維持することができ、持続することができることから、滴吐出方向曲がりを発生することなく安定した滴吐出特性(噴射特性)を得ることができる。
【0060】
そして、この場合、ノズル形成部材を樹脂性のフィルムで形成することにより、ノズル孔の加工方法の選択範囲が広くなり、後述するように紫外光レーザ加工での精度の高いノズル孔加工を効率的に、且つ、低コストで行なうことができる。この樹脂フィルムとしてポリイミド樹脂フィルムを使用することにより、ノズル孔の加工方法の選択範囲が広くなるとともに、強靭性、耐薬品性、耐熱性が優れ、接着剤硬化等加工時の熱・機械的ストレスよる変形が減少し、精度の高いノズル孔加工を行なうことができる。
【0061】
また、撥水層をフッ素系撥水剤で形成し、この撥水層の膜厚を、10Å以上100Å以下とすることにより、高い撥水性が得られるとともに、フッ素系撥水膜を非常に薄くすることが可能になって必要材料が低減できてコストダウンを図れる。このフッ素系撥水剤として、パーフルオロポリオキセタンまたは変性パーフルオロポリオキセタンまたは双方の混合物を使用することで、撥水膜を真空蒸着法で形成することが可能となり、100Å以下の非常に薄い膜を簡単に形成することが可能となり、撥水性能も極めて高く、撥水膜のワイピング耐久性の向上と紫外光レーザによる加工性の向上を両立することができる。
【0062】
さらに、ノズル形成部材と撥水層、撥水層同士を結合する結合層としてSiO2膜を用いて、SiO2膜の膜厚を、10Å以上100Å以下とすることにより、撥水層の密着性が極めて向上し、特にSiO2膜とフッ素系撥水剤が化学的結合により密着するため、フッ素系撥水膜を非常に薄くすることが可能になり、必要材料を低減でき、且つ、処理時間も短縮できるので、コストダウンを図れる。
【0063】
次に、上述した液体吐出ヘッドにおけるノズル板の製造方法の一例について図7以降をも参照して説明する。
先ず、図7を参照して、ノズル孔を加工するときに使用するエキシマレーザ加工機の構成について説明する。このレーザ加工機は、レーザ発振器201から射出されたエキシマレーザビーム202はミラー203、205、208によって反射され、加工テーブル210に導かれている。レーザビーム202が加工テーブル210に至るまでの光路には加工物Wに対して最適なビームが届くように、ビームエキスパンダ204、マスク206、フィールドレンズ207、結像光学系209が所定の位置に設けられている。加工物Wは加工テーブル211の上に載置され、レーザビーム202を受けることになる。加工テーブル211は、周知のXYZテーブル等で構成されていて、必要に応じて加工物Wを移動し所望の位置にレーザビームを照射することができるようになっている。ここでは、レーザとして、エキシマレーザを利用して説明しているが、アブレーション加工が可能である短波長な紫外光レーザであれば、種々なレーザが利用可能である。
【0064】
次に、ノズル板の製造工程について図8を参照して説明すると、図8(a)に示すように、ノズル形成部材の基材となる樹脂フィルムとしてポリイミドフィルム32A(例えば、Dupont製カプトン(商品名)の粒子無しのフィルム)を準備する。一般的なポリイミドフィルムはロールフィルム取り扱い装置での取り扱い性(滑り)からフィルム材料の中にSiO2(シリカ)などの粒子が添加されている。ところが、エキシマレーザでノズル孔加工を行う場合には、SiO2(シリカ)の粒子がエキシマレーザによる加工性が悪いためノズル異形が発生する。したがって、SiO2(シリカ)の粒子が添加されていないフィルムを使用しているのである。
【0065】
そして、図7(b)に示すように、ポリイミドフィルム32Aの表面にSiO2薄膜層34を成膜する。このSiO2薄膜層34の形成は真空チャンバ内で行われるスパッタリング工法によって行なっている。SiO2薄膜層34の膜厚は数Å〜200Å程、ここでは10〜50Åの厚さに形成している。
【0066】
ここで、スパッタリングの方法としては、Siをスパッタした後、Si表面にO2イオンを当てることでSiO2膜を形成する方法を用いることが、SiO2膜の樹脂フィルム32(ポリイミドフィルム32A)への密着力が向上すると共に、均質で緻密な膜が得られ、撥水膜のワイピング耐久性向上により効果的である。また、この方法で得られるSiO2膜は、前述したフィルムの取り扱い性(滑り)のために添加されているSiO2(シリカ)粒子と比較すると、粒子径がはるかに小さいく、厚み方向に薄いため、エキシマレーザ加工性を低下させる影響は小さい。
【0067】
その後、図8(c)に示すように、SiO2薄膜層34上にフッ素系撥水剤を塗布して撥水層35Aを形成する。フッ素系撥水剤の塗布方法としては、スピンコータ、ロールコータ、スクリーン印刷、スプレーコータなどの方法が使用可能であるが、真空蒸着で成膜する方法が撥水膜の密着性を向上させることにつながり、より効果的である。また、その真空蒸着は、図8(b)でのSiO2薄膜層34を形成した後、そのまま真空チャンバ内で実施することでさらに良い効果が得られる。すなわち、従来は、SiO2薄膜層を形成後、一旦真空チャンバからワークを取り出すので、不純物などが表面に付着することにより密着性が損なわれるものと考えられる。
【0068】
なお、フッ素系撥水剤については、ここでは、フッ素非晶質化合物としてパーフルオロポリオキセタン、変形パーフルオロポリオキセタン又は双方の混合物を使用することで、特にインクに対する必要な撥水性を得ることができた。前述したダイキン工業製「オプツールDSX」は「アルコキシシラン末端変性パーフルオロポリエーテル」と称されることもある。真空蒸着以外の、スピンコータ、ロールコータ、スクリーン印刷、スプレーコータなどの方法で塗布する場合、その膜厚は300Å以上となるが、オプツールDSX自体の硬度は高くなく、ワイピングなどの操作によりオプツールDSXの表層は容易に除去されてしまい、SiO2と強固に結びついいた単分子層のみが除去されずに残り、撥インク性を保持している。すなわち必要以上の膜厚は不要であり、経済性の面からも薄膜の形成が可能な真空蒸着法が優れている。
【0069】
この工程に引き続いて、図8(d)に示すように、上述したSiO2膜とフッ素系撥水剤による撥水膜の形成を交互に2回以上繰り返して多層構造膜を形成する。ここでは、撥水膜35A上にSiO2膜34、撥水膜35A、SiO2膜34、撥水膜35Aを順次積層形成している。これらの膜形成は、引き続いてそのまま真空チャンバ内で形成することにより、煩雑さがなく多層構造を形成できる。この多層構造の結合層及び撥水層は全体の合計で0.5μm以内の厚さに形成され、これにより耐久性の優れた撥水膜を形成する。多層構造の撥水膜を形成した後は、真空チャンバから取り出すことによって空中放置され、これによりフッ素系撥水剤の撥水膜35AとSiO2膜34Cとが、空気中の水分を仲介として化学的結合をし、フッ素系撥水層35になる。
【0070】
なお、ここでは、ノズル板3の剛性を上げるために用いられる高剛性部材31は図示及び説明を省略しているが、必要に応じて、ノズル連通路44を形成した高剛性部材31をポリイミドフィルム32Aに接着剤33で接着する。
【0071】
そこで、図8(e)に示すように、最表面の撥水層35表面に粘着テープ36を貼り付ける。この粘着テープ36を貼るときには気泡が生じないように貼り付けることが必要である。気泡があると、気泡のある位置に開けたノズル孔は、加工時の付着物などで品質の良くないものになってしまうことがあるからである。
【0072】
その後、図8(f)に示すように、ポリイミドフィルム32A側からエキシマレーザを照射してノズル孔4を形成する。ここで、エキシマレーザを照射して形成するノズル孔の深さは、SiO2薄膜層34及び撥水層35の多層構造膜を完全に貫通することが重要であり、さらに粘着テープ36に深さ1μm以上の深さまで加工すること好ましい。
【0073】
そして、図8(g)に示すように、エキシマレーザ加工後粘着テープ面からUVを照射し、粘着テープ36の粘着剤を硬化させる。このことにより、粘着テープ36の粘着性が低下し、粘着テープ36の剥離後に表面に不要の粘着剤を残存させることがなくなる。そして、ノズル孔4の加工後は、図8(h)に示すように、粘着テープ36を剥がして使用することになる。
【0074】
次に、ノズル孔形成工程(図8(f))におけるエキシマレーザ加工深さについて図9及び図10を参照して説明する。
図9(a)に示すように、エキシマレーザによるノズル孔4が撥水層35を貫通せず一部残存した状態で粘着テープ36を剥がすと、同図(b)に示すように、ノズル孔近傍の撥水層35が一部剥がれ落ちてしまう欠損部分37が生じる。これに対し、図10(a)に示すように、エキシマレーザによるノズル孔4が撥水層35を完全に貫通して粘着テープ36にまで達するように形成することで、同図(b)に示すように、粘着テープ36を剥がした後のノズル孔近傍の撥水層はノズル孔エッジまで完全に形成されている。
【0075】
エキシマレーザによるノズル孔加工は、一定のエリア中の複数のノズルを同時に加工することが多く、その際にはレーザ強度分布のばらつきにより、各ノズル間でノズル孔深さが必ずしも均一とはならないことがある。実験によると、すべてのノズル孔4において撥水層35を貫通して粘着テープ36の一部までノズル孔が達していることが重要であり、そのためには、粘着テープ36の1μm以上の深さを加工する深さまでエキシマレーザ加工する条件で加工すれば、確実にすべてのノズル孔が撥水層を貫通できることが確認された。
【0076】
また、粘着テープ36を剥がすに先立って、まず粘着テープ36に紫外線を照射して粘着剤を硬化する。こうすることによって、不要の粘着剤がノズル板面に残存することを防止できるとともに、フィルムをエキスパンドするなどの簡単な方法で粘着テープを剥がすことが可能となる。
【0077】
このように、結合層としてのSiO2膜は、ノズル形成部材に対してSiをスパッタ後、O2イオン処理をして形成することによって、緻密なしSiO2膜を極めて薄く形成することができ、紫外光レーザによる加工が良好になる。また、撥水剤としてフッ素系撥水剤を真空蒸着によって形成することで、薄く均質で、且つ、結合層としてのSiO2膜との密着性が高い撥水膜が得られる。
【0078】
また、ノズル形成部材に結合層としてSiO2膜を真空中で形成し、その後フッ素系撥水剤を真空蒸着する工程を繰り返して2以上の撥水層を形成することにより、多層構造の撥水処理層を簡単に単時間で形成でき、しかも、SiO2膜とフッ素系撥水膜との間がゴミ,汚れなどで汚染されるおそれがなくなり、SiO2膜とフッ素系撥水膜との間で高い密着性が得られる。
【0079】
さらに、紫外線レーザでノズル孔を加工するに当たり、撥水層を有する側に粘着フィルムを貼り付け、粘着フィルムとは反対側の面から紫外線レーザでノズル形成部材を貫通し、かつ粘着フィルムに1μm以上の深さまでノズル加工することにより、粘着フィルムをはがすときに、ノズル孔近傍の撥水層を破壊することなくかつ親水性の付着物をつけることもない。
【0080】
この場合、粘着フィルムの粘着材が熱またはUV硬化型の粘着材であることにより、レーザ加工時には撥水面に強固に密着し、レーザ加工後粘着フィルムを剥がす際には紫外線照射により粘着性を低下させることができる。また、粘着フィルムを剥がす工程に先立って、熱またはUV照射により粘着フィルムの粘着材を硬化させた後、粘着フィルムを剥がすことにより、撥水面への粘着剤の残存がなく正常な撥水面を有するノズル板を製造することができる。
【0081】
次に、液体吐出ヘッドを製造するときに使用する装置の概要について図11を参照して説明する。この装置300は、USAのOCLI(OPTICAL COATING LABORATORY INC.)が開発した、「メタモードプロセス」と呼ばれる工法を装置化したものであり、ディスプレイなどの反射防止・防汚膜の作製に使用されている。
【0082】
この装置300は、ドラム301の周囲4個所にステーションであるSiスパッタ302、O2イオンガン303、Nbスパッタ304、オプツール蒸着305が配置されて、全体が真空引きできるチャンバの中にある。先ず、Siスパッタ302によりSiをスパッタし、その後、O2イオンガン303によりO2イオンをSiに当ててSiO2とする。その後、Nbスパッタ304、オプツール蒸着305でNb、オプツールDSXを適宜蒸着する。反射防止膜の場合は、NbとSiO2を所定の厚さで必要層数重ねた後蒸着することになるが、液体吐出ヘッドの製造工程で反射防止膜の機能は必要ないので、Nbは不要で使用しない。
【0083】
SiO2、オプツールDSXを1層ずつつけ、更に再度SiO2、オプツールDSXの順で第2層目を重ね、これを繰り返すことによって多層構造の撥水処理膜を形成する。
【0084】
この装置を使用することで、上述したように、前記多層構造をもつ撥水処理膜は、そのまま真空チャンバ内でSiO2とオプツールDSXの真空蒸着を繰り返し実施することが可能になる。
【0085】
次に、具体的な実施例について説明する。
〔実施例及び比較例1〜6〕
表1に示した以下の条件で撥水処理およびノズル加工を行ったノズル板を用い、IPSiO G−707(商品名:リコー製)用のヘッドを作製した。なお、コート方法は、実施例及び比較例1〜5では真空蒸着法を用い、コート条件によって膜厚を制御し、比較例6ではスピンコートを使用した。そして、作製したヘッドを用い、IPSiO G−707用のインクを入れて、噴射方向を調べた。
【0086】
次に、ヘッドのノズル面をインクに浸漬し、50℃にて1週間放置後、ワイピング操作を1000回繰り返した後、同様にインクの噴射方向を調べた(耐久1回目)。以後、この操作をくり返しインクの噴射方向(耐久2回目、3回目・・・)を調べた。この結果を表2に示している。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
表2から分かるように、実施例では、耐久5回目もなお噴射曲がりが発生しないことが確認された。
【0090】
これに対し、比較例1では、レーザ加工深さが撥水層を貫通しておらず粘着テープを剥がすときにノズル孔近傍の撥水層に欠陥が生じたためか、初期より若干の曲がりが発生し、耐久試験5回目ではは明らかに大きな噴射方向曲がりが発生した。
【0091】
比較例2では、SiO2層と撥水層を各100層重ねたことにより撥水処理層全体の厚さが1μmになり、異形のノズル孔が散見されたため、噴射方向は初期より曲がりが発生した。
【0092】
比較例3では、SiO2層と撥水層が各1層のみであるため、噴射方向は耐久2回目までは安定していたが、5回目では噴射曲がりが発生した。
【0093】
比較例4では、フッ素系撥水剤の厚さを厚くしたが、耐久性に関しては比較例3とまったく同等であった。
【0094】
比較例5では、SiO2の厚さを厚くしたところ、レーザ加工後に異形のノズルが散見され、初期より噴射曲がりが発生した。実施例と全SiO2の厚さは同じであるが、実施例ではレーザ加工性の良い撥水剤と多層構造をとっているためレーザ加工性に悪影響を与えなかったのに対し、比較例5ではSiO2層が単層で厚かったため、レーザ加工性が低下した。
【0095】
比較例6では、5000ÅのSiO2膜の上にスピンコート法により撥水剤をコートしたが、レーザ加工後に異形のノズルが散見され、初期より噴射曲がりが発生した。
【0096】
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えた本発明に係る画像形成装置の一例について12及び図13を参照して説明する。なお、図12は同画像形成装置の全体構成を説明する側面説明図、図13は同装置の要部平面説明図である。
【0097】
この画像形成装置は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド101とガイドレール102とでキャリッジ103を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータ104で駆動プーリ106Aと従動プーリ106B間に架け渡したタイミングベルト105を介して図13で矢示方向(主走査方向)に移動走査する。
【0098】
このキャリッジ103には、例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色の記録液の液滴(インク滴)を吐出する独立した4個の本発明に係る液体吐出ヘッド107k、107c、107m、107yで構成した記録ヘッド107を主走査方向に沿う方向に配置し、液滴吐出方向を下方に向けて装着している。なお、ここでは独立した液体吐出ヘッドを用いているが、各色の記録液の液滴を吐出する複数のノズル列を有する1又は複数のヘッドを用いる構成とすることもできる。また、色の数及び配列順序はこれに限るものではない。
【0099】
記録ヘッド107を構成する本発明に係る液体吐出ヘッドとしては、加圧液室内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子などの電気機械変換素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて記録液の膜沸騰を利用するいわゆるサーマル型のもの、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで、インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータなどを使用できる。
【0100】
キャリッジ103には、記録ヘッド107に各色のインクを供給するための各色のサブタンク108を搭載している。このサブタンク108にはインク供給チューブ109を介して図示しないメインタンク(インクカートリッジ)からインクが補充供給される。
【0101】
一方、給紙カセット110などの用紙積載部(圧板)111上に積載した被記録媒体(用紙)112を給紙するための給紙部として、用紙積載部111から用紙112を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙ローラ)113及び給紙ローラ113に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド114を備え、この分離パッド114は給紙ローラ113側に付勢されている。
【0102】
そして、この給紙部から給紙された用紙112を記録ヘッド107の下方側で搬送するための搬送部として、用紙112を静電吸着して搬送するための搬送ベルト121と、給紙部からガイド115を介して送られる用紙112を搬送ベルト121との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ122と、略鉛直上方に送られる用紙112を略90°方向転換させて搬送ベルト121上に倣わせるための搬送ガイド123と、押さえ部材124で搬送ベルト121側に付勢された先端加圧コロ125とを備えている。また、搬送ベルト121表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ126を備えている。
【0103】
ここで、搬送ベルト121は、無端状ベルトであり、搬送ローラ127とテンションローラ128との間に掛け渡されて、副走査モータ131からタイミングベルト132及びタイミングローラ133を介して搬送ローラ127が回転されることで、図13のベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。なお、搬送ベルト121の裏面側には記録ヘッド107による画像形成領域に対応してガイド部材129を配置している。
【0104】
また、図12に示すように、搬送ローラ127の軸には、スリット円板134を取り付け、このスリット円板134のスリットを検知するセンサ135を設けて、これらのスリット円板134及びセンサ135によってエンコーダ136を構成している。
【0105】
帯電ローラ126は、搬送ベルト121の表層に接触し、搬送ベルト121の回動に従動して回転するように配置され、加圧力として軸の両端に各2.5Nをかけている。
【0106】
また、キャリッジ103の前方側には、図12に示すように、スリットを形成したエンコーダスケール142を設け、キャリッジ103の前面側にはエンコーダスケール142のスリットを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ143を設け、これらによって、キャリッジ103の主走査方向位置を検知するためのエンコーダ144を構成している。
【0107】
さらに、記録ヘッド107で記録された用紙112を排紙するための排紙部として、搬送ベルト121から用紙112を分離するための分離部と、排紙ローラ152及び排紙コロ153と、排紙される用紙112をストックする排紙トレイ154とを備えている。
【0108】
また、背部には両面給紙ユニット155が着脱自在に装着されている。この両面給紙ユニット155は搬送ベルト121の逆方向回転で戻される用紙112を取り込んで反転させて再度カウンタローラ122と搬送ベルト121との間に給紙する。
【0109】
さらに、図13に示すように、キャリッジ103の走査方向の一方側の非印字領域には、記録ヘッド107のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構156を配置している。
【0110】
この維持回復機156は、記録ヘッド107の各ノズル面をキャピングするための各キャップ157と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード158と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行なうときの液滴を受ける空吐出受け159などを備えている。
【0111】
このように構成した画像形成装置においては、給紙部から用紙112が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙112はガイド115で案内され、搬送ベルト121とカウンタローラ122との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド123で案内されて先端加圧コロ125で搬送ベルト121に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0112】
このとき、図示しない制御回路によって高圧電源から帯電ローラ126に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト121が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト121上に用紙112が給送されると、用紙112が搬送ベルト121に静電力で吸着され、搬送ベルト121の周回移動によって用紙112が副走査方向に搬送される。
【0113】
そこで、キャリッジ103を往路及び復路方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド107を駆動することにより、停止している用紙112にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙112を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙112の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙112を排紙トレイ154に排紙する。
【0114】
また、両面印刷の場合には、表面(最初に印刷する面)の記録が終了したときに、搬送ベルト121を逆回転させることで、記録済みの用紙112を両面給紙ユニット155内に送り込み、用紙112を反転させて(裏面が印刷面となる状態にして)再度カウンタローラ122と搬送ベルト121との間に給紙し、タイミング制御を行って、前述したと同様に搬送ベル121上に搬送して裏面に記録を行った後、排紙トレイ154に排紙する
【0115】
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ103は維持回復機構155側に移動されて、キャップ157で記録ヘッド107のノズル面がキャッピングされて、ノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ157で記録ヘッド107をキャッピングした状態でノズルから記録液を吸引し(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)し、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作を行い、この回復動作によって記録ヘッド107のノズル面に付着したインクを清掃除去するためにワイパーブレード158でワイピングを行なう。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作を行う。これによって、記録ヘッド107の安定した吐出性能を維持する。
【0116】
このように、この画像形成装置は本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、長期にわたり撥水性を維持して安定した吐出特性が得られ、高画質画像を安定してい形成することができる。
【0117】
なお、上記各実施形態では本発明に係る画像形成装置としてプリンタ構成で説明したが、これに限るものではなく、例えば、プリンタ/ファックス/コピア複合機などの画像形成装置に適用することができる。また、インク以外の液体である記録液や定着処理液などを用いる画像形成装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す分解斜視図である。
【図2】同ヘッドの液室長手方向に沿う断面説明図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】同ヘッドの液室短手方向に沿うバイピッチ構造の断面説明図である。
【図5】同ヘッドの液室短手方向に沿うノーマルピッチ構造の断面説明図である。
【図6】同液体吐出ヘッドのノズル板の拡大断面説明図である。
【図7】エキシマレーザ加工機の説明に供する模式的説明図である。
【図8】同液体吐出ヘッドのノズル板の製造工程の説明に供する断面説明図である。
【図9】エキシマレーザ加工による加工深さが足りない場合の説明に供する説明図である。
【図10】同じくエキシマレーザ加工による加工深さの説明に供する説明図である。
【図11】同液体吐出ヘッドのノズル板の製造装置の説明に供する模式的説明図である。
【図12】本発明に係る画像形成装置の一例を示す全体構成図である。
【図13】同じく要部平面説明図である。
【符号の説明】
【0119】
1…流路板
2…振動板
3…ノズル板
4…ノズル
6…液室
12…圧電素子
31…高剛性部材
32…樹脂部材
33…接着剤
34…結合層(SiO2膜)
35…撥水層
103…キャリッジ
107…記録ヘッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録液の液滴を吐出するノズルを有するノズル形成部材を備えた液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズル形成部材の吐出側表面には少なくとも2層以上の撥水層を有し、ノズル形成部材と撥水層との間、及び撥水層と撥水層との間には、両者を結合する結合層が介在していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズル形成部材は樹脂フィルムで形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記樹脂フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記撥水層はフッ素系撥水剤から形成され、この撥水層の膜厚は10Å以上100Å以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記撥水層がパーフルオロポリオキセタン、変性パーフルオロポリオキセタン又は両者の混合物で形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記結合層がSiO2膜であり、このSiO2膜の膜厚が、10Å以上100Å以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記撥水層と結合層の全体の厚さが0.5μm以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、前記結合層となるSiO2膜を、Siをスパッタ後O2イオン処理をして形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、前記撥水層を形成するフッ素系撥水剤を、前記結合層となるSiO2膜が形成されたノズル形成部材に真空蒸着法でコーティングして形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、前記ノズル形成部材に前記結合層となるSiO2膜を形成し、その後フッ素系撥水剤を真空蒸着して前記撥水層を形成する工程を少なくとも2回以上繰り返して2以上の撥水層を形成した後、紫外光レーザでノズル孔を加工することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、前記紫外線レーザでノズル孔を加工するときに、前記撥水層を有する側に粘着フィルムを貼り付け、この粘着フィルムとは反対側の面から前記紫外線レーザで前記ノズル形成部材を貫通し、かつ前記粘着フィルムに1μm以上の深さまでノズル加工した後、前記粘着フィルムを剥がすことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、前記粘着フィルムの粘着材が熱または紫外線硬化型の粘着材であることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、前記粘着フィルムを剥がす工程に先立って、熱または紫外線照射により前記粘着フィルムの粘着材を硬化させた後、前記粘着フィルムを剥がすことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
記録液の液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置において、請求項1ないし7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
記録液の液滴を吐出するノズルを有するノズル形成部材を備えた液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズル形成部材の吐出側表面には少なくとも2層以上の撥水層を有し、ノズル形成部材と撥水層との間、及び撥水層と撥水層との間には、両者を結合する結合層が介在していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズル形成部材は樹脂フィルムで形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記樹脂フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記撥水層はフッ素系撥水剤から形成され、この撥水層の膜厚は10Å以上100Å以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記撥水層がパーフルオロポリオキセタン、変性パーフルオロポリオキセタン又は両者の混合物で形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記結合層がSiO2膜であり、このSiO2膜の膜厚が、10Å以上100Å以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記撥水層と結合層の全体の厚さが0.5μm以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、前記結合層となるSiO2膜を、Siをスパッタ後O2イオン処理をして形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、前記撥水層を形成するフッ素系撥水剤を、前記結合層となるSiO2膜が形成されたノズル形成部材に真空蒸着法でコーティングして形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを製造する製造方法であって、前記ノズル形成部材に前記結合層となるSiO2膜を形成し、その後フッ素系撥水剤を真空蒸着して前記撥水層を形成する工程を少なくとも2回以上繰り返して2以上の撥水層を形成した後、紫外光レーザでノズル孔を加工することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、前記紫外線レーザでノズル孔を加工するときに、前記撥水層を有する側に粘着フィルムを貼り付け、この粘着フィルムとは反対側の面から前記紫外線レーザで前記ノズル形成部材を貫通し、かつ前記粘着フィルムに1μm以上の深さまでノズル加工した後、前記粘着フィルムを剥がすことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、前記粘着フィルムの粘着材が熱または紫外線硬化型の粘着材であることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、前記粘着フィルムを剥がす工程に先立って、熱または紫外線照射により前記粘着フィルムの粘着材を硬化させた後、前記粘着フィルムを剥がすことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
記録液の液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置において、請求項1ないし7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備えていることを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−218712(P2006−218712A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33768(P2005−33768)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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