説明

液体吐出ヘッド用基板の製造方法

【課題】開口幅が縮められた供給口を有する液体吐出ヘッド用基板を高い生産効率で安定的に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】相対する2面を持つシリコン基板の第1の面に、液体供給口を形成する部分に対応した開口部を有するエッチングマスク層を形成する工程と、第1の面に相対する第2の面の液体供給口を形成する部分に凹部を形成する工程と、第1の面の開口部上に凹部を形成する工程と、第1の面の開口部よりシリコン基板を結晶異方性エッチングにてエッチングし、液体供給口を形成する工程とを有することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに用いられる液体吐出ヘッド用基板の製造方法に関する。具体的にはインク等の液体を記録媒体に向けて噴射するインクジェット記録ヘッドに用いられる基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体吐出圧発生素子の上方から液体を吐出するタイプの液体吐出ヘッド(以下、サイドシュータ型ヘッド)が知られている。このタイプの液体吐出ヘッドでは、吐出エネルギー発生部が形成された基板に貫通口(液体供給口)を設け、吐出エネルギー発生部が形成された面の裏面より液体を供給する方式が採られている。
【0003】
このタイプの液体吐出ヘッドの製造方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1には、スルーホール(液体供給口)の開口径のばらつきを防ぐため、以下の工程を有する製法が開示されている。
(a)基板表面のスルーホール形成部位に基板材料に対して選択的にエッチングが可能な犠牲層を形成する工程。
(b)基板上に犠牲層を被覆するように耐エッチング性を有するパッシベイション層を形成する工程。
(c)犠牲層に対応した開口部を有するエッチングマスク層を基板裏面に形成する工程。
(d)開口部より犠牲層が露出するまで基板を結晶軸異方性エッチングにてエッチングする工程。
(e)基板エッチング工程により露出した部分より犠牲層をエッチングし除去する工程。
(f)パッシベイション層の一部を除去しスルーホールを形成する工程。
【0004】
一方、特許文献2には、面方位<100>を有するSi材(シリコン基板)にレーザーを用いて穴あけ加工を行って、凹部を形成し、その後異方性エッチングを行う方法が開示されている。このSi異方性エッチング方法は、あらかじめSi材に穴加工を施すことで液体供給口形成までのエッチング時間を短縮させており、凹部の位置によって開口幅の制御を行っている。
【0005】
また、特許文献3には、Si材の表面にレーザーを用いて切削加工を行い、裏面からウエットエッチングまたはレーザー加工により貫通することで液体吐出ヘッドを製造する方法が開示されている。
【0006】
これらの加工断面を形成する製造方法では、液体吐出ヘッドの素子基板をより一層小型化することができるという利点がある。すなわち素子基板の幅を狭くできるという利点がある。特にカラーインク吐出用の記録ヘッドなどの1つの素子基板に複数の液体供給口を設けるヘッドでは、このような素子基板の更なる小型化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6143190号明細書
【特許文献2】特開2007−269016号公報
【特許文献3】特開2003−231262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示された方法は、レーザーによって凹部を形成する際に出力不足によって先曲がりが発生してしまうことや深さのばらつきが発生する。そのため、凹部の深さが制限されてしまい、長時間のエッチング時間が必要となる。また、凹部の深さばらつきの影響を犠牲層で吸収しているため、深さばらつきの制御もしくは所定の犠牲層幅が必要であり、素子基板の更なる小型化に懸念がある。
【0009】
一方、特許文献3に開示された方法では、レーザーを切削加工にて形成することは加工エリアが大きいために、加工時間を膨大に必要としてしまう。このため、生産効率が悪いという問題がある。また、切削加工を行うエリアを必要とするために、更なる素子基板の小型化への対応は困難になる懸念がある。
【0010】
そこで本発明は、液体吐出ヘッド用基板を高い生産効率で安定的に製造することを可能にする液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することを目的とする。具体的には、本発明は、従来よりも開口幅が縮められた供給口を有する液体吐出ヘッド用の基板を精度よく、且つ短時間で製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法はシリコン基板に液体供給口を形成することを含む液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、相対する2面を持つ前記シリコン基板の第1の面に、前記液体供給口を形成する部分に対応した開口部を有するエッチングマスク層を形成する工程と、前記第1の面に相対する第2の面上の前記液体供給口を形成する部分に、凹部を形成する工程と、前記第1の面の開口部上に凹部を形成する工程と、前記第1の面の開口部より前記シリコン基板を結晶異方性エッチングにてエッチングし、前記液体供給口を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、開口幅が縮められた供給口を有する液体吐出ヘッド用基板を高い生産効率で安定的に製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの一部を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の製造方法が適用される液体吐出ヘッド用基板の断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の製造方法を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態においてオーバーエッチを行った場合の液体吐出ヘッド用基板の断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態において先導孔の配置パターンを置換した場合の液体吐出ヘッド用基板の断面図である。
【図6】先導孔が連通しない場合の液体吐出ヘッド用基板の断面図である。
【図7】本発明の液体供給口の形成パターンを示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法の特徴は、例えば、レーザー加工によって凹部(以下、「先導孔」とも記す。)をシリコン基板の両面に形成した後に、異方性エッチングを実施することにある。凹部を形成するシリコン基板の両面とは、液体供給口を形成するための異方性エッチングを開始する面としてエッチングマスク層を形成する面(以下、第1の面とする)と、この面に相対する面(以下、第2の面とする)とで構成される2面をいう。シリコン基板の裏面から液体吐出エネルギー発生素子を配置するシリコン基板の表面に向かってエッチングし、液体供給口を形成する場合、シリコン基板の裏面が第1の面となり、シリコン基板の表面は第2の面となる。
以下の各実施形態においてこれを詳しく説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1に本発明の1実施形態の液体吐出ヘッドの一部を示す。
【0017】
この液体吐出ヘッドは、液体吐出エネルギー発生素子(以下エネルギー発生素子)3が所定のピッチで2列並んで形成されたシリコン基板1を有している。シリコン基板1上には、流路側壁2及びエネルギー発生素子3の上方に開口する液体吐出口4が流路形成部材を成す被覆感光性樹脂により形成されている。この流路形成部材によって、液体供給口5から流路6を通って各液体吐出口4に連通する流路6上部を形成している。また、シリコンの異方性エッチングによって形成された液体供給口5が、液体吐出エネルギー発生素子3の2つの列の間に開口されている。この液体吐出ヘッドは、液体供給口5を介して流路6内に充填された液体に、エネルギー発生素子3が発生するエネルギーを加えることで、液体吐出口4から液滴を吐出させて被記録媒体に付着させることにより記録を行う。
【0018】
この液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録を行う事ができる。なお、本発明において「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0019】
(先導孔を用いた異方性エッチングの特徴)
図2(a)に本実施形態の製造方法が適用される液体吐出ヘッド用基板の製造過程での断面、図2(b)〜(e)に本実施形態の製造方法が適用される液体吐出ヘッド用基板の製造過程での上面図を示す。尚、図2(a)は図1においてA−A’線を通り基板に垂直な面により液体吐出ヘッド基板を切断した断面を示している。シリコン基板1の裏面(第1の面)には液体供給口を形成する部分に対応した開口部を有するエッチングマスク層10が形成されている。
【0020】
本実施形態の製造方法によれば、第2の面上の液体供給口を形成する部分に凹部が形成され、かつ第1の面の開口部上に凹部が形成された状態で、第1の面の開口部より結晶異方性エッチングを行いシリコン基板に液体供給口を形成する。そのような実施形態の1つの態様では、シリコン基板1上に犠牲層7を有した状態で、レーザー加工によりシリコン基板1の裏面に、開口部の長手方向に2列の先導孔11を所望のパターンおよび所望の深さで形成している。また、シリコン基板1の裏面に相対する面に、開口部の長手方向に1列の先導孔9を所望のパターンおよび所望の深さで形成している。ここで開口部の長手方向に2列(1列)の先導孔を形成すると表現した場合の列の方向は、各列が開口部の長手方向に沿って配列されている向きを指し、先導孔を有する開口部短手方向の断面には列の数だけの先導孔が含まれる。これら2列の先導孔11と1列の先導孔9は図2(b)〜(d)に示すように所定のピッチで複数配置される。この後にエッチングストップ層(パッシベイション層)8を形成し、異方性エッチングを実施することによりシリコン基板1の面に対して垂直な面を持つ液体供給口5を容易に、かつ安定的に形成することが出来る。
【0021】
犠牲層7はエッチング後のシリコン基板1表面における液体供給口5の形成を予定している領域に設けられる。犠牲層7は液体供給口の形成領域を精度良く画定したい場合、効果的であるが本発明に必須ではない。犠牲層はシリコンよりもエッチング速度が速い材料により形成され、例えば、アルカリ溶液でエッチングする場合には、アルミ、アルミシリコン、アルミ銅、アルミシリコン銅などを用いることができる。
【0022】
本実施形態では、先導孔9と先導孔11がシリコン基板1の厚み方向に対して重なる場合として、図2(a)に示す態様を取ることができる。この態様では、シリコン基板1の表面の先導孔9は、液体吐出ヘッド用基板の表面側の液体供給口5が形成される領域の中において、液体供給口5の長手方向に少なくとも1列に形成される。先導孔9は、液体吐出ヘッド用基板の液体供給口5が形成される領域に、液体供給口5の長手方向をみて、液体供給口5の中心線(この線は短手方向の中心を通る)上に形成されることが好ましい。なお、開示した実施形態では先導孔9は1列に配列され形成されており、2列以上形成されても良い。2列以上形成する場合は、液体供給口の中心線に対して対称に配置されるように設けることが好ましい。例えば、3列の場合であれば、液体供給口の中心線上に1列配置し、残りの2列が中心線に対して対称に配置することができる。
【0023】
エッチングストップ層8は、異方性エッチングに用いられる材料に対して耐性があるもので形成される。エッチングストップ層として、ドライエッチングなどにより除去可能な酸化珪素や窒化珪素などの無機膜を使用することができる。また、薬液処理などにより除去可能な有機膜を使用することもできる。開口部の形成は異方性エッチングを第1の面の側から開始して第2の面に到達させて行うため、エッチングストップ層8は第2の面に形成した先導孔9上(凹部上)に配置することができる。犠牲層7と、エッチングストップ層8とは、それぞれを単独または併用で用いる場合において、エッチングを行う前の段階で、シリコン基板1に形成されていればよい。エッチング前の段階において、形成する時期や順序は任意であり、方法は公知の方法によればよい。また、耐エッチング性を有するパッシベイション層は犠牲層を被覆するように形成してもよい。
【0024】
次にシリコン基板1の裏面の先導孔11は、先導孔9と先導孔11がシリコン基板1の厚み方向に重なる場合の1態様として、液体吐出ヘッド用基板の裏面側の液体供給口5が形成される領域の中において、液体供給口5の長手方向に少なくとも2列に形成される。先導孔11は、液体吐出ヘッド用基板の液体供給口5が形成される領域に、液体供給口5の長手方向をみて、液体供給口の中心線に対して対称に列をなして形成されることが好ましい。なお、開示した実施形態では先導孔11は2列に配列され形成されており、3列以上形成されても良い。
【0025】
また、先導孔9と先導孔11がシリコン基板1の厚み方向に対して重なる場合の他の態様としてシリコン基板1の裏面(第1の面)の先導孔11は1列で形成されても良い。この場合は、シリコン基板1の表面(第2の面)の先導孔9は、液体吐出ヘッド用基板の表面の液体供給口5を形成する領域に、液体供給口5の長手方向に少なくとも1列に形成される。この態様ではシリコン基板1の厚みをT、先導孔9の深さをX,先導孔11の深さをYとしたときに、X+Y≧Tの関係を満たすように先導孔9および先導孔11を形成することが好ましい。また、先導孔9と先導孔11は、シリコン基板の短手断面における同一断面上に形成されることが好ましい。
【0026】
図2に示すシリコン基板1の表面側の先導孔9、シリコン基板1の裏面側の先導孔11を形成したシリコン基板1に対して結晶異方性エッチングを行ったときのエッチングの過程を図3に模式的に示す。以下の例では犠牲層7とエッチングストップ層8とを用いた例を示す。
【0027】
図3(a)に示すようにシリコン基板1上にエネルギー発生素子3と犠牲層7を形成し、シリコン基板1の表面の相対する面上にエッチングマスク10を形成する。その後、図3(b)に示すように1列の先導孔9および2列の先導孔11を形成し、有機膜のエッチングストップ層8を形成している。この時、図3(c)に示すように無機膜のエッチングストップ層を形成してもよい。また図3(d)に示すように犠牲層7とエネルギー発生素子3上に無機膜のエッチングストップを形成した状態で1列の先導孔9および2列の先導孔11を形成し、有機膜のエッチングストップ層8を形成してもよい。そして、異方性エッチングによりシリコン基板1の裏面側におけるそれぞれの先導孔11の先端からシリコン基板1の表面へ向かう方向に幅が狭まるように<111>面20a,20bが形成される。同時に、先導孔11の内部からシリコン基板1の厚さ方向に対して垂直な方向(図面の左右方向)にエッチングが進む。また、シリコン基板1のエッチングマスク10を形成している面側の開口部においては、シリコン基板1の表面へ向かう方向に幅が広がるように<111>面21が形成される(図3(e))。
【0028】
更にエッチングが進行すると、2本の先導孔11の間において各々の先導孔11から形成された<111>面20bが接する。そしてこれらの<111>面20bによって形成された頂部からさらにシリコン基板1の表面に向かう方向にエッチングが進行する(図3(f))。
【0029】
図3(f)より更にエッチングが進行すると、<111>面20bによって形成された頂部がエネルギー発生素子3のある面の先導孔9と連通し、犠牲層7がエッチング液に接液しエッチングされる(図3(g))。そしてこの犠牲層7が完全にエッチングされ図3(h)のようになる。尚、犠牲層7が無い状態でエッチングを行うことも可能である。
【0030】
また図4のように、最終的に液体供給口5形成予定領域や犠牲層7が設けられていた領域よりも、液体供給口5の犠牲層7側の開口面が大きくなる場合がある。これはオーバーエッチング等に起因すると考えてよい。しかし供給特性には大きな影響を及ぼさない。
【0031】
上記のような液体供給口5の形成方法においては、シリコン基板1の表面に向かう方向に加工幅が狭まるように形成される<111>面20aの形成位置は、シリコン基板1の表面の先導孔9とシリコン基板1の裏面の先導孔11の位置によって決まる。また、シリコン基板1の裏面側の開口部から形成される<111>面21の形成位置は、シリコン基板1の裏面側に配置されるエッチングマスク10の開口位置によって決まる。
【0032】
また、図5(b)のように図5(a)に示すシリコン基板1の表面にある先導孔9とシリコン基板1の裏面にある先導孔11を逆に配置しても良い。図5(b)の場合は、シリコン基板1の表面の先導孔9は、液体吐出ヘッド用基板の表面の液体供給口5を形成する領域に、液体供給口5の長手方向に少なくとも2列に形成される。先導孔9は、液体吐出ヘッド用基板の液体供給口5を形成する領域に、液体供給口5の長手方向をみて、液体供給口の中心線に対して対称に列をなして形成されることが好ましい。なお、先導孔9は3列以上形成されても良い。一方、シリコン基板1の裏面の先導孔11は、液体吐出ヘッド用基板の裏面の液体供給口5を形成する領域(開口部)に、液体供給口5の長手方向に少なくとも1列に形成される。先導孔11は、液体吐出ヘッド用基板の液体供給口5を形成する領域に、液体供給口5の長手方向をみて、液体供給口5の中心線(この線は短手方向の中心を通る)上に形成されることが好ましい。なお、先導孔11は2列以上形成されても良い。2列以上形成する場合は、液体供給口の中心線に対して対称に配置されるように設けることが好ましい。また、シリコン基板1の厚みをT、先導孔9の深さをX,先導孔11の深さをYとしたときに、X+Y≧Tの関係を満たすように先導孔9および先導孔11を形成することが好ましい。また、先導孔9と先導孔11は、シリコン基板の短手断面における同一断面上に存在するようになるように形成されることが好ましい。
【0033】
上記のようなエッチングの進行過程において、先導孔9を少なくとも1列有し、先導孔11を少なくとも2列有する態様では、先導孔9と先導孔11がシリコン基板1の厚み方向に対して重ならない後述の第2の実施形態も取ることができる。この態様では先導孔11と先導孔9の深さは以下のような関係を有することができる。シリコン基板1の厚みをT、2列で形成される先導孔11の深さをX、1列で形成される先導孔9の深さをY、2列で形成される先導孔11の列間の距離をZとする。そうすると、シリコン基板1の裏面側から異方性エッチングを進めて被エッチング領域を犠牲層7に到達させるには、2列で形成される先導孔11の深さXと1列で形成される先導孔9の深さYが以下の範囲内に入ることが好ましい。
【0034】
【数1】

【0035】
ここで、液体供給口5の長手方向に先導孔11形成する際に上記式を満たさない場合の断面図を図6に示す。この場合は、先導孔11の先端に形成された2つの<111>面23a,23bの頂部において異方性エッチングが見かけ上進行しなくなり、犠牲層7を露出させることが難しい場合がある。
【0036】
また、上述した液体吐出ヘッド用基板の製造方法では、液体供給口5はシリコン基板1の長手方向に連通した状態で形成される(図7(a))。なお、開示した実施形態ではエネルギー発生素子3、犠牲層7、エッチングストップ層8は省略している。本実施形態ではYAGレーザーの第3高調波(THG:波長355nm)のレーザー光を用いて加工を行ったがシリコン基板1の材料であるシリコンに対して穴加工が出来る波長であれば、加工に用いることが出来るレーザー光はこれに限られない。例えば、YAGレーザーの第2高調波(SHG:波長532nm)も、THGと同様にシリコンに対する高い吸収率を有しており、これで穴加工を行ってもよい。
【0037】
また、本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法は従来よりも開口幅が狭く形成出来るために、図7(a)に対して液体供給口を容易に、独立して加工出来る(図7(b))。この加工を用いて製造された液体吐出ヘッド用基板は剛性が高くなり、ウェハの平面度が保たれるメリットがある。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、シリコン基板1の表面の先導孔9とシリコン基板1の裏面の先導孔11がシリコン基板1の厚み方向に対して重ならない場合のエッチングの過程を図8に示す。なお、以下の説明では、基板上に流路、吐出口を形成する工程をあわせて例示する。
【0039】
図8(a)に示すようにシリコン基板1上にエネルギー発生素子3と犠牲層7を形成し、シリコン基板1の表面の相対する面上にエッチングマスク10を形成する。その後、図8(b)に示すように1列の先導孔9を表面の開口部の長手方向に100μmのピッチで形成し、有機膜のエッチングストップ層12をパターニングしている。具体的な材料としては、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業(株)製ODUR−1010)が挙げられる。そして図8(c)に示すように、流路側壁を形成するノズル材13を有機膜のエッチングストップ層12上に形成し、パターニングする。具体的な材料としては以下で構成された組成物Aが挙げられる。
組成物A
・エポキシ樹脂 EHPE3150(ダイセル化学(株)製) 94重量部。
・シランカップリング剤 A−187(日本ユニカー(株)製) 4重量部。
・光酸発生剤 SP−172(アデカ(株)製) 2重量部。
【0040】
その後、シリコン基板1の裏面に2列の先導孔11を2列間のピッチを100μm、裏面の開口部の長手方向に100μmのピッチで形成する。この時、1列の先導孔9およびに2列の先導孔11は390μmの深さでレーザー加工を行っている。
【0041】
次に異方性エッチングを行う。エッチング条件は水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度22%、液温度80℃でエッチングを行っている。なお、エッチング液や濃度、液温度は上記に示した以外の条件でも可能である。そして、シリコン基板1の裏面側におけるそれぞれの先導孔11の先端からシリコン基板1の表面へ向かう方向に幅が狭まるように<111>面20a,20bが形成される。同時に、先導孔11の内部からシリコン基板1の厚さ方向に対して垂直な方向(図面の左右方向)にエッチングが進む。また、シリコン基板1の裏面側の開口部においては、シリコン基板1の表面へ向かう方向に幅が広がるように<111>面21が形成される(図8(d))。
【0042】
更にエッチングが進行すると、2本の先導孔10の間において各々の先導孔10から形成された<111>面20bが接する。そしてこれらの<111>面20bによって形成された頂部からさらにシリコン基板1の表面に向かう方向にエッチングが進行する(図8(e))。
【0043】
図8(e)より更にエッチングが進行すると、2本の先導孔11の間に<100>面22が形成される(図8(f))。この<100>面22が、エッチングの進行と共にシリコン基板1の表面に向かい、シリコン基板1の表面の先導孔9と連通する。そして、犠牲層7がエッチング液に接液しエッチングされ、そしてこの犠牲層7が完全にエッチングされることで図8(g)のようになる。異方性エッチングの時間は約5時間である。また図8(h)に示す液体供給口5の最大開口幅は300μmで形成できる。また、エッチング犠牲層7が無い状態でエッチングを行うことも可能である。その後、有機膜のエッチングストップ層12およびエッチングマスク10を除去して液体吐出用ヘッド基板が完成する。
【0044】
以上より、本実施形態における液体吐出ヘッド用基板の製造方法によれば、先導孔の深さばらつきの影響によるシリコン基板1の表面開口幅大の不良の発生を低減させ、且つ液体供給口幅の狭い液体吐出ヘッド用基板を供給することが出来る。
【0045】
また先導孔の内部まで、エッチング液が進入していくため、先導孔がない場合、若しくは片側に先導孔を有する場合に比べて、短いエッチング時間で供給口を形成することが可能となる。
【0046】
更に、本実施形態における液体吐出ヘッド用基板の製造方法では、図3に示す液体供給口5の形状を得るための先導孔10をレーザーによる穴加工によって形成している。レーザー加工は任意の位置へ正確かつ高速に加工することが可能であり、パターン形成の為の前工程(マスクの形成等)を要しない。その為、少ない工程で液体供給口5を得ることが可能である。
【0047】
(比較形態)
第2の実施形態において、表面側の先導孔9を設けず、その他は実施形態2と同様に行うものを比較形態とする。比較形態による液体吐出ヘッド用基板では、異方性エッチングの工程が16時間、開口幅は1000μmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板に液体供給口を形成することを含む液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
相対する2面を持つ前記シリコン基板の第1の面に、前記液体供給口を形成する部分に対応した開口部を有するエッチングマスク層を形成する工程と、
前記第1の面に相対する第2の面上の前記液体供給口を形成する部分に、凹部を形成する工程と、
前記第1の面の開口部上に凹部を形成する工程と、
前記第1の面の開口部より前記シリコン基板を結晶異方性エッチングにてエッチングし、前記液体供給口を形成する工程と、
を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2の面に形成する凹部は開口部の長手方向に、少なくとも1列に配列して形成し、前記第1の面に形成する凹部は開口部の長手方向に、少なくとも2列に配列して形成する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1の面に形成する凹部は前記開口部の長手方向に伸びる中心線に対して対称に配置されている、請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
前記第2の面に形成する凹部が前記開口部の短手断面において、前記第1の面に形成する凹部の間に形成されることを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン基板の厚みをT、前記第1の面に形成される凹部の深さをX、前記第2の面に形成される凹部の深さをY、前記第1の面に形成される凹部の列間の距離をZとしたときに、
【数1】

の関係を満たすように前記第1の面と前記第2の面の凹部を形成することを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項6】
前記第2の面に形成する凹部は開口部の長手方向に、少なくとも2列に配列して形成し、前記第1の面に形成する凹部は開口部の長手方向に、少なくとも1列に配列して形成する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項7】
前記第2の面に形成する凹部は前記開口部の長手方向に伸びる中心線に対して対称に配置されている、請求項6に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項8】
前記第1の面に形成する凹部が前記開口部の短手断面において、前記第2の面に形成する凹部の間に形成されることを特徴とする、請求項6に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項9】
前記シリコン基板の厚みをT、前記第1の面に形成される凹部の深さをX、前記第2の面に形成される凹部の深さをY、前記第2の面に形成される凹部の列間の距離をZとしたときに、
【数2】

の関係を満たすように前記第1の面と前記第2の面の凹部を形成することを特徴とする、請求項6に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項10】
前記第2の面に形成する凹部は開口部の長手方向に、少なくとも1列に配列して形成し、前記第1の面に形成する凹部は開口部の長手方向に、少なくとも1列に配列して形成する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項11】
前記シリコン基板の厚みをT、前記第1の面に形成される凹部の深さをX、前記第2の面に形成される凹部の深さをYとしたときに、
【数3】

の関係を満たすように前記第1の面と前記第2の面の凹部を形成することを特徴とする、請求項10に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項12】
前記第2の面に形成した凹部上にエッチングストップ層を配置する、請求項1乃至11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項13】
前記エッチングストップ層が除去可能な有機膜である、請求項12に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項14】
前記エッチングストップ層が除去可能な無機膜である、請求項12に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項15】
前記エッチングを行う前に、前記シリコン基板の一方の面において、前記液体供給口を形成する予定の領域にシリコンよりもエッチング速度が速い材料からなる犠牲層を形成する工程を有する、請求項1乃至11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項16】
耐エッチング性を有するパッシベイション層を前記犠牲層を被覆するように形成する工程を有する、請求項15に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−51253(P2011−51253A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202735(P2009−202735)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】