説明

液体吐出装置および液体吐出装置の制御方法

【課題】液体吐出装置における液体吐出安定性の低下を抑制すると共に、消費電力の増加を抑制する。
【解決手段】液体吐出装置は、液体を吐出する複数のノズルと駆動信号に従い駆動される複数のアクチュエーターとを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに駆動信号を供給する駆動回路と、を備える。駆動回路は、基準クロック信号を可変の分周数で分周する可変分周器と、分周された基準クロック信号を減衰する減衰器と、減衰された基準クロック信号を微分して周波数制限用クロック信号とする微分器と、駆動信号の基準となる駆動波形信号に対し、周波数制限用クロック信号を加算または減算し、自励式の変調方式でパルス変調して変調信号とする変調回路と、変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、電力増幅変調信号を平滑化して駆動信号とする平滑フィルターと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置および液体吐出装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドに設けられた複数のノズルから印刷媒体上にインクを吐出して画像や文書を記録するインクジェットプリンターが広く普及している。このようなインクジェットプリンターでは、印刷ヘッドの各ノズルに対応して設けられたアクチュエーターが駆動信号に従い駆動されることにより、所定のタイミングで所定量のインクがノズルから吐出される。
【0003】
印刷ヘッドのアクチュエーターを駆動するための駆動信号は、例えば、駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス密度変調(Pulse Density Modulation、PDM)方式によりパルス変調して変調信号とし、変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とし、電力増幅変調信号を平滑化することにより生成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−114711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自励式のパルス密度変調方式では、発振周波数が信号レベル(パルスデューティー比)に応じて変動する。具体的には、入力信号レベルが比較的小さい、または、大きいときには発振周波数は比較的低く、入力信号レベルが中間値に近付くほど発振周波数は高くなる。パルス変調における発振周波数が過度に高くなると、最終出力段トランジスタにおける電力損失増大して効率が低下する(消費電力が増加する)という問題があった。また、回路の遅延性能によってはその周波数に追従できないために駆動信号が途中で消失することがあり、その場合に波形再現性が低下してインクの吐出安定性が低下するという問題があった。
【0006】
なお、このような課題は、インクジェットプリンターにおける印刷ヘッドに限らず、液体を吐出する複数のノズルと複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターとを有する液体吐出ヘッドを、自励式のパルス変調方式を利用して駆動する液体吐出装置に共通の課題であった。
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、液体吐出装置における液体吐出安定性の低下を抑制すると共に、消費電力の増加を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明は、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]液体吐出装置であって、
液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルに対応して設けられ、駆動信号に従い駆動される複数のアクチュエーターと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに前記駆動信号を供給して前記液体吐出ヘッドを駆動する駆動回路と、を備え、
前記駆動回路は、
所定の基準クロック信号を入力する入力端子と、
前記基準クロック信号を、可変の分周数で分周する可変分周器と、
分周された前記基準クロック信号を減衰する減衰器と、
減衰された前記基準クロック信号を微分して周波数制限用クロック信号とする微分器と、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号に対し、前記周波数制限用クロック信号を加算または減算し、自励式の変調方式でパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、を含む、液体吐出装置。
【0010】
この液体吐出装置では、変調回路によって自励式の変調方式で駆動波形信号の変調信号への変調が行われ、デジタル電力増幅回路によって変調信号が電力増幅され、平滑フィルターによって駆動信号が生成される。この駆動信号により、液体吐出ヘッドにおいて複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターが駆動される。ここで、この液体吐出装置では、所定の基準クロック信号が入力され、入力された基準クロック信号が可変分周器により可変の分周数で分周され、減衰器により減衰され、微分器による微分によって周波数制限用クロック信号とされ、変調回路において駆動波形信号に対して周波数制限用クロック信号が加算または減算される。そのため、変調回路の最高発振周波数が、周波数制限用クロック信号の周波数に制限され、変調回路の発振周波数が過度に高くなることを防止することができる。従って、この液体吐出装置では、インク吐出安定性の低下を抑制することができると共に、消費電力の増加を抑制することができる。また、この液体吐出装置では、変調回路内部の遅延時間や外部の部品のばらつきの影響を受けずに最高発振周波数が決まるため、必要最低限の消費電力で所定の応答性能を確保することができる。さらに、この液体吐出装置では、可変分周器の分周数を変更することにより、基準クロック信号から生成される周波数制限用クロック信号の周波数を変更することができ、変調回路の最高発振周波数を適切な値に設定することができる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の液体吐出装置であって、
前記基準クロック信号は、前記液体吐出ヘッドの前記ノズルから液体を吐出するタイミングの決定に使用される信号である、液体吐出装置。
【0012】
この液体吐出装置では、液体吐出ヘッドのノズルから液体を吐出するタイミングの決定に使用される信号である基準クロック信号を用いて周波数制限用クロック信号が生成されるため、変調回路の最高発振周波数制限のために専用のクロック信号を用意する必要がなく、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。
【0013】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の液体吐出装置であって、
前記減衰器は、前記可変分周器における分周数に応じて選択された減衰率で減衰を行い、
前記微分器は、前記可変分周器における分周数に応じて選択された微分定数で微分を行う、液体吐出装置。
【0014】
この液体吐出装置では、分周後の基準クロック信号の周波数に応じて、適切な減衰率で減衰器による減衰を行うことができると共に、適切な微分定数で微分器による微分を行うことができ、変調回路の最高発振周波数の設定を高精度で行うことができる。
【0015】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の液体吐出装置であって、さらに、
使用する前記駆動信号が互いに異なる複数の液体吐出態様の選択肢の中から1つの液体吐出態様を選択する吐出態様選択部を備え、
前記可変分周器は、前記選択された液体吐出態様に応じて選択された分周数で分周を行う、液体吐出装置。
【0016】
この液体吐出装置では、採用される液体吐出態様で使用される駆動信号に応じて、変調回路の最高発振周波数を適切に設定することができ、消費電力と応答速度の最適化を図ることができる。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、液体吐出ヘッドを駆動するための駆動回路および駆動方法、そのような液体吐出ヘッドおよび駆動回路を有する液体吐出装置およびその制御方法、そのような液体吐出ヘッドおよび駆動回路を有し液体としてのインクを吐出して印刷を行う印刷装置および印刷方法、これらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータープログラム、そのコンピュータープログラムを記録した記録媒体、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例における印刷システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】プリンター100の制御ユニット40を中心とした概略構成を示す説明図である。
【図3】印刷ヘッド60に供給される各種信号の一例を示す説明図である。
【図4】印刷ヘッド60のスイッチングコントローラー61の構成を示す説明図である。
【図5】印刷ヘッド60を駆動するための駆動回路80の概略構成を示す説明図である。
【図6】変調回路82の機能ブロックを示す説明図である。
【図7】駆動回路80の具体的な機能構成の一例を示す説明図である。
【図8】変調回路82における発振周波数を示す説明図である。
【図9】変調回路82の発振周波数の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0020】
A.実施例:
図1は、本発明の実施例における印刷システムの概略構成を示す説明図である。本実施例の印刷システムは、プリンター100と、プリンター100に印刷データPDを供給するホストコンピューター90と、を備えている。プリンター100は、コネクター12を介してホストコンピューター90と接続されている。
【0021】
本実施例のプリンター100は、液体を吐出する液体吐出装置の1つであるインクジェットプリンターである。プリンター100は、液体としてのインクを吐出することによって印刷媒体上にインクドットを形成し、これにより、印刷データPDに応じた文字、図形、画像等を記録する。
【0022】
図1に示すように、プリンター100は、印刷ヘッド60を搭載するキャリッジ30と、キャリッジ30をプラテン26の軸に平行な方向に沿って往復移動させる主走査を行う移動機構と、印刷媒体としての用紙Pを主走査方向と交差する方向(副走査方向)に搬送する副走査を行う搬送機構と、印刷に関する種々の指示・設定操作を行うための操作パネル14と、プリンター100の各部を制御する制御ユニット40と、を備えている。なお、キャリッジ30は、図示しないフレキシブルケーブル(FFC)を介して制御ユニット40と接続されている。
【0023】
用紙Pを搬送する搬送機構は、紙送りモーター22を有している。紙送りモーター22の回転は、ギヤトレイン(不図示)を介して用紙搬送ローラー(同)に伝達され、用紙搬送ローラーの回転により用紙Pは副走査方向に沿って搬送される。
【0024】
キャリッジ30を往復移動させる移動機構は、キャリッジモーター32と、プラテン26の軸と平行に架設されキャリッジ30を摺動可能に保持する摺動軸34と、キャリッジモーター32との間に無端の駆動ベルト36を張設するプーリー38と、を有している。キャリッジモーター32の回転は、駆動ベルト36を介してキャリッジ30に伝達され、これによりキャリッジ30が摺動軸34に沿って往復移動する。なお、プリンター100は、キャリッジ30(印刷ヘッド60)の主走査方向に沿った位置を検出するため、キャリッジモーター32の回転に伴ってパルス状の信号を制御ユニット40に出力するエンコーダー(不図示)を備えている。制御ユニット40は、エンコーダーから出力されたパルス状の信号に基づき、後述するシフトレジスター63への駆動信号選択信号SI&SPの入力タイミングを規定するタイミング信号PTSを生成する。
【0025】
キャリッジ30には、それぞれ所定の色(例えば、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、ブラック(K))のインクが収容された複数のインクカートリッジ70が搭載されている。キャリッジ30に搭載されたインクカートリッジ70に収容されたインクは、印刷ヘッド60に供給される。また、印刷ヘッド60は、インクを吐出する複数のノズルと、各ノズルに対応して設けられたアクチュエーター(ノズルアクチュエーター)を有している。本実施例では、ノズルアクチュエーターとして、容量性負荷であるピエゾ素子(圧電素子)を用いている。ノズルアクチュエーターが後述する駆動信号により駆動されると、ノズルに連通するキャビティー(圧力室)内の振動板が変位してキャビティー内に圧力変化を生じさせ、その圧力変化によって対応するノズルからインクが吐出される。ノズルアクチュエーターの駆動に用いる駆動信号の波高値や電圧増減傾きを調整することで、インクの吐出量(すなわち形成するドットの大きさ)を調整することができる。
【0026】
図2は、プリンター100の制御ユニット40を中心とした概略構成を示す説明図である。制御ユニット40は、ホストコンピューター90から入力された印刷データPD等を入力するためのインターフェイス41と、インターフェイス41を介して入力された印刷データPDに基づいて所定の演算処理を実行する制御部42と、紙送りモーター22を駆動制御する紙送りモータードライバー43と、印刷ヘッド60を駆動制御するヘッドドライバー45と、キャリッジモーター32を駆動制御するキャリッジモータードライバー46と、各ドライバー43、45、46と紙送りモーター22、印刷ヘッド60、キャリッジモーター32とをそれぞれ接続するインターフェイス47と、を有している。ヘッドドライバー45は、基準クロック信号SCKを出力する発振回路48を含んでいる。
【0027】
制御部42は、各種演算処理を実行するCPU51と、プログラムやデータを一時的に格納・展開するRAM52と、CPU51が実行するプログラム等を格納するROM53と、を含んでいる。制御部42による各種の機能は、CPU51がROM53に格納されたプログラムに基づいて動作することによって実現される。なお、制御部42による機能の少なくとも一部は、制御部42が備える電気回路がその回路構成に基づいて動作することによって実現されても良い。
【0028】
例えば、制御部42のCPU51は、印刷態様選択部54および定数選択部55として機能する。本実施例のプリンター100は、複数の印刷態様(印刷モード)の選択肢から、印刷に用いる印刷媒体の種類や要求される印刷画質および印刷速度等に応じて選択された1つの印刷態様で印刷を行う。複数の印刷態様の選択肢は、使用する駆動信号COM(後述)が互いに異なる(例えば、駆動信号COMの周波数や形状が互いに異なる)複数の選択肢を含んでいる。印刷態様選択部54は、ホストコンピューター90からの指示に基づいて、あるいは、ホストコンピューター90から供給される印刷データPDに基づいて、複数の印刷態様の選択肢の中から採用する印刷態様を選択する。印刷態様選択部54は、プリンター100の各部(例えば後述する駆動波形信号発生回路81)に対して、選択した印刷態様を示す印刷態様選択信号PSを出力する。
【0029】
定数選択部55は、可変分周器86の分周数と減衰器88の減衰率と微分器89の微分定数(いずれも後述する)を選択する。本実施例では、定数選択部55は、印刷態様選択部54により選択された印刷態様に応じて、適切な可変分周器86の分周数を選択する。また、定数選択部55は、選択された可変分周器86の分周数に応じて、適切な減衰器88の減衰率および微分器89の微分定数を選択する。定数選択部55は、可変分周器86と減衰器88と微分器89とに対して、選択した各定数を示す定数選択信号SELを出力する。
【0030】
制御部42は、ホストコンピューター90からインターフェイス41を介して印刷データPDを取得すると、印刷データPDに所定の処理を実行して、印刷ヘッド60の何れのノズルからインクを吐出するか、あるいは、どの程度の量のインクを吐出するかを規定するノズル選択データ(駆動信号選択データ)を生成し、印刷データPDや駆動信号選択データ等に基づいて、各ドライバー43、45、46に制御信号を出力する。各ドライバー43、45、46は、それぞれ紙送りモーター22、印刷ヘッド60、キャリッジモーター32を駆動するための駆動信号を出力する。例えば、ヘッドドライバー45は、印刷ヘッド60に対して、基準クロック信号SCKとラッチ信号LATと駆動信号選択信号SI&SPとチャンネル信号CHと駆動信号COMとを供給する。紙送りモーター22、印刷ヘッド60、キャリッジモーター32が駆動信号に応じて動作することにより、用紙Pへの印刷処理が実行される。
【0031】
図3は、印刷ヘッド60に供給される各種信号の一例を示す説明図である。駆動信号COMは、印刷ヘッド60に設けられたノズルアクチュエーターを駆動するための信号である。駆動信号COMは、ノズルアクチュエーターを駆動する駆動信号の最小単位(単位駆動信号)としての駆動パルスPCOM(駆動パルスPCOM1ないしPCOM4)が時系列的に連続した信号である。駆動パルスPCOM1ないしPCOM4の4つの駆動パルスPCOMの組は、1つの画素(印刷画素)に対応している。
【0032】
各駆動パルスPCOMは、電圧台形波から構成されている。各駆動パルスPCOMの立ち上がり部分は、ノズルに連通するキャビティーの容積を拡大してインクを引き込む(インクの吐出面で考えればメニスカスを引き込むとも言える)ための部分であり、駆動パルスPCOMの立ち下がり部分は、キャビティーの容積を縮小してインクを押し出す(インクの吐出面で考えればメニスカスを押し出すとも言える)ための部分である。そのため、ノズルアクチュエーターを駆動パルスPCOMに従って駆動することにより、ノズルからインクが吐出される。
【0033】
駆動信号COMにおいて、駆動パルスPCOM2ないしPCOM4の波形(電圧増減傾きや波高値)は、互いに異なっている。ノズルアクチュエーターに供給される駆動パルスPCOMの波形が異なると、インクの引き込み量や引き込み速度、インクの押し出し量や押し出し速度が異なり、これによりインクの吐出量(すなわちインクドットの大きさ)が異なることとなる。駆動パルスPCOM2ないしPCOM4の中から1つまたは複数の駆動パルスPCOMを選択してノズルアクチュエーターに供給することにより、種々の大きさのインクドットを形成することができる。なお、本実施例では、駆動信号COMに、微振動と呼ばれる駆動パルスPCOM1が含まれる。駆動パルスPCOM1は、インクを引き込むのみで押し出しを行わない場合、例えばノズルの増粘を抑制する場合に用いられる。
【0034】
このように、本実施例の駆動信号COMは、微振動用の駆動パルスPCOM1の部分を除いて、所定の中間レベルを一定期間維持した後、当該中間レベルから所定の高レベルに向けて漸増し、当該高レベルを一定期間維持し、当該高レベルから所定の低レベルに向けて漸減し、当該低レベルを一定期間維持し、当該低レベルから上記中間レベルに向けて漸増する一連の信号が、繰り返される信号である。なお、本明細書において、信号があるレベルを維持するとは、ノイズや誤差による微変動は許容するものの、信号があるレベルから実質的に(有意に)変動しないことを意味する。
【0035】
駆動信号選択信号SI&SPは、印刷データPDに基づいて、インクを吐出するノズルを選択すると共に、ノズルアクチュエーターの駆動信号COMへの接続タイミングを決定する信号である。ラッチ信号LATおよびチャンネル信号CHは、全ノズル分のノズル選択データが入力された後、駆動信号選択信号SI&SPに基づいて駆動信号COMと印刷ヘッド60のノズルアクチュエーターとを接続させる信号である。図3に示すように、ラッチ信号LATおよびチャンネル信号CHは、駆動信号COMに同期した信号である。すなわち、ラッチ信号LATは、駆動信号COMの開始タイミングに対応してハイレベルとなる信号であり、チャンネル信号CHは、駆動信号COMを構成する各駆動パルスPCOMの開始タイミングに対応してハイレベルとなる信号である。ラッチ信号LATに応じて一連の駆動信号COMの出力が開始され、チャンネル信号CHに応じて各駆動パルスPCOMが出力される。また、基準クロック信号SCKは、駆動信号選択信号SI&SPをシリアル信号として印刷ヘッド60に送信するための信号である。すなわち、基準クロック信号SCKは、印刷ヘッド60のノズルからインクを吐出するタイミングの決定に使用される信号である。
【0036】
図4は、印刷ヘッド60のスイッチングコントローラー61の構成を示す説明図である。スイッチングコントローラー61は、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をノズルアクチュエーター67に供給するために、印刷ヘッド60内に構築されている。スイッチングコントローラー61は、駆動信号選択信号SI&SPを保存するシフトレジスター63と、シフトレジスター63のデータを一時的に保存するラッチ回路64と、ラッチ回路64の出力をレベル変換して選択スイッチ66に供給するレベルシフター65と、駆動信号COMをノズルアクチュエーター67に接続する選択スイッチ66とを有している。
【0037】
シフトレジスター63には、駆動信号選択信号SI&SPが順次入力され、基準クロック信号SCKの入力パルスに応じて記憶される領域が順次後段にシフトする。なお、シフトレジスター63への駆動信号選択信号SI&SPの入力は、上述したタイミング信号PTSに従い実行される。ラッチ回路64は、ノズル数分の駆動信号選択信号SI&SPがシフトレジスター63に格納された後、入力されるラッチ信号LATに従いシフトレジスター63の各出力信号をラッチする。ラッチ回路64に保存された信号は、レベルシフター65によって次段の選択スイッチ66を切り替え(オン/オフ)できる電圧レベルに変換される。レベルシフター65の出力信号により閉じられる(接続状態となる)選択スイッチ66に対応するノズルアクチュエーター67は、駆動信号選択信号SI&SPの接続タイミングで駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に接続される。また、シフトレジスター63に入力された駆動信号選択信号SI&SPがラッチ回路64にラッチされた後、次の駆動信号選択信号SI&SPがシフトレジスター63に入力され、インクの吐出タイミングに合わせてラッチ回路64の保存データを順次更新する。この選択スイッチ66によれば、ノズルアクチュエーター67を駆動信号COM(駆動パルスPCOM)から切り離した後も、当該ノズルアクチュエーター67の入力電圧は切り離す直前の電圧に維持される。なお、図4中の符号HGNDは、ノズルアクチュエーター67のグランド端である。
【0038】
図5は、印刷ヘッド60を駆動するための駆動回路80の概略構成を示す説明図である。駆動回路80は、上述の駆動信号COMを生成して、印刷ヘッド60のノズルアクチュエーター67に供給する回路であり、制御ユニット40内の制御部42およびヘッドドライバー45(図2参照)内に構築されている。駆動回路80は、駆動波形信号発生回路81と、変調回路82と、デジタル電力増幅回路(いわゆるD級アンプ)83と、平滑フィルター87と、可変分周器86と、減衰器88と、微分器89と、入力端子78とを有している。
【0039】
駆動波形信号発生回路81は、予め記憶されている駆動波形データDWCOMに基づいて、ノズルアクチュエーター67を駆動する駆動信号COMの基準となる駆動波形信号WCOMを生成する。上述したように、駆動波形信号発生回路81には、印刷態様選択部54から出力された印刷態様選択信号PSが入力される。駆動波形信号発生回路81は、印刷態様選択信号PSにより特定される印刷態様に応じた駆動波形信号WCOMを出力する。
【0040】
変調回路82は、駆動波形信号発生回路81で生成された駆動波形信号WCOMをパルス変調して、変調信号MSを出力する。図6は、変調回路82の機能ブロックを示す説明図である。本実施例の変調回路82は、パルス密度変調(Pulse Density Modulation、PDM)方式によりパルス変調を行う、いわゆるΔΣ変調回路である。変調回路82は、入力信号と所定値とを比較して入力信号が所定値以上であるときにハイレベルとなる変調信号MSを出力する比較器822と、比較器822の入力信号と出力信号との誤差ERを算出する減算器824と、誤差ERを遅延する遅延器826と、遅延された誤差ERを原信号である駆動波形信号WCOMに加算または減算する加減算器828と、を備えている。変調回路82から出力される変調信号MSは、パルスの密度により波形を表す信号である。なお、後述する実施例における変調器の様に、外部遅延器出力を用いることによって遅延器826を省略することもできる。
【0041】
本実施例の変調方式は自励発振型パルス密度変調方式であり、発振周波数が入力信号レベルに応じて変動する。具体的には、本パルス密度変調方式における発振周波数は、入力信号レベルが中間値である場合に最も高くなり、入力信号レベルが中間値から大きくあるいは小さくなるにつれて低くなる。中間値付近でのパルスデューティー比はほぼ50%であるが、発振周波数の低下と共にパルスデューティー比が変化する。本方式の利点は、変調周波数固定のパルス幅変調方式と比較して、パルスデューティー変化幅を大きく取れる点である。変調回路全体で扱う事ができる最小の正パルス幅と負パルス幅はその回路特性で制約されるので、それ未満のパルス信号は途中で消失してしまう。そのため、周波数固定のパルス幅変調方式では、例えば10%から90%のパルスデューティー変化幅しか確保できないのに対し、本実施例の自励発振型パルス密度変調方式では、例えば5%から95%のパルスデューティー変化幅を確保することが可能である。以下、具体例を示す。例えば、回路全体で扱える正負最小パルス幅が共に25nsであるとすると、変調周波数が4MHz固定場合には、パルスデューティー変化幅はその周期に対する比率で決まるので、10%から90%のパルスデューティー変化幅しか確保できない。一方、本実施例の自励発振型パルス密度変調方式では、発振周波数が入力信号レベルに応じて変化し、例えば入力信号低レベル時と高レベル時において共に2MHzになるとすると、5%から95%のパルスデューティー変化幅を確保することができる。これにより、広い出力ダイナミックレンジを確保することができる。また、本実施例の自励発振型パルス密度変調方式は、周波数固定の他励変調方式のように外部に高周波数信号を発生する回路を設ける必要がないため、例えば1チップ化が比較的容易であるといったシステム構成上の利点がある。
【0042】
デジタル電力増幅回路83(図5)は、変調回路82から出力された変調信号MSを電力増幅して、電力増幅変調信号を出力する。デジタル電力増幅回路83は、実質的に電力を増幅するための2つのスイッチング素子(ハイサイド側スイッチング素子Q1およびローサイド側スイッチング素子Q2)からなるハーフブリッジ出力段85と、変調回路82からの変調信号MSに基づいて、スイッチング素子Q1およびQ2のゲート−ソース間信号GHおよびGLを調整するゲート駆動回路84とを備えている。デジタル電力増幅回路83では、変調信号MSがハイレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1はゲート−ソース間信号GHがハイレベルとなってオン状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はゲート−ソース間信号GLがローレベルとなってオフ状態となる。その結果、ハーフブリッジ出力段85の出力は、供給電圧VDDとなる。一方、変調信号MSがローレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1はゲート−ソース間信号GHがローレベルとなってオフ状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はゲート−ソース間信号GLがハイレベルとなってオン状態となる。その結果、ハーフブリッジ出力段85の出力は0となる。このように、デジタル電力増幅回路83では、変調信号MSに基づくハイサイド側スイッチング素子Q1およびローサイド側スイッチング素子Q2のスイッチング動作により、電力増幅が行われる。
【0043】
平滑フィルター87は、デジタル電力増幅回路83から出力された電力増幅変調信号を平滑化して、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を生成し、印刷ヘッド60の選択スイッチ66を介してノズルアクチュエーター67に供給する(図4参照)。本実施例では、平滑フィルター87として、コンデンサCとコイルLとの組み合わせを用いたローパスフィルター(低域通過フィルター)を用いた。平滑フィルター87は、変調回路82で生じた変調周波数成分を減衰して除去し、上述したような波形特性の駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を出力する。上述したように、駆動波形信号発生回路81は、印刷態様選択信号PSにより特定される印刷態様に応じた駆動波形信号WCOMを出力するため、駆動波形信号WCOMに基づき生成される駆動信号COMも、印刷態様に応じた信号となる。
【0044】
図7は、駆動回路80の具体的な機能構成の一例を示す説明図である。上述したように、本実施例の変調回路82は、パルス密度変調方式の変調回路である。なお、本実施例の駆動回路80は、図6のΔΣ変調回路とは異なり、遅延器を持たない変調器を用いている。ローパスフィルターは表現を変えれば遅延器でもあるので、遅延器の代わりにLCローパスフィルター出力(COM)を遅延信号として用いている。また、本実施例では、高域成分を強調する回路(ハイパスフィルタ(HP−F)および高域ブースト(G))と、高域成分を帰還する回路(「IFB」として示す)とが追加されている。
【0045】
駆動回路80の入力端子78(図5)には、発振回路48(図2)から出力された基準クロック信号SCKが入力される。可変分周器86は、入力端子78を介して入力された基準クロック信号SCKを、可変の分周数で分周する。上述したように、可変分周器86には、定数選択部55から出力された定数選択信号SELが入力される。可変分周器86は、定数選択信号SELにより特定される分周数で、基準クロック信号SCKを分周する。従って、分周後の基準クロック信号SCKの周波数は、可変分周器86における分周数に応じて変動する。
【0046】
減衰器88は、可変分周器86から出力された分周後の基準クロック信号SCKを、可変の減衰率で減衰する。上述したように、減衰器88には、定数選択部55から出力された定数選択信号SELが入力される。減衰器88は、定数選択信号SELにより特定される減衰率で、分周後の基準クロック信号SCKを減衰する。
【0047】
微分器(ハイパスフィルター)89は、減衰器88から出力された減衰後の基準クロック信号SCKを、可変の微分定数で微分して周波数制限用クロック信号LCKを生成する。上述したように、微分器89には、定数選択部55から出力された定数選択信号SELが入力される。微分器89は、定数選択信号SELにより特定される微分定数で、減衰後の基準クロック信号SCKを微分し、周波数制限用クロック信号LCKを生成する。微分器89は、生成された周波数制限用クロック信号LCKを、変調回路82に向けて出力する。
【0048】
このように、周波数制限用クロック信号LCKは、可変分周器86における分周後の基準クロック信号SCKに基づき生成されるため、生成された周波数制限用クロック信号LCKの周波数は、可変分周器86における分周数に応じて変動する。
【0049】
変調回路82において、周波数制限用クロック信号LCKは、加減算器828(AS)に入力される(図6,7)。入力された周波数制限用クロック信号LCKは、加減算器828(AS)により、駆動波形信号WCOMに対して加算または減算される。
【0050】
このように、本実施例では、変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力され、加減算器828(AS)により、駆動波形信号WCOMに対して周波数制限用クロック信号LCKが加算または減算されるため、変調回路82における発振周波数が周波数制限用クロック信号LCKの周波数に制限される。図8は、変調回路82における発振周波数を示す説明図である。周波数制限用クロック信号LCKの入力が無い場合には、変調回路82の発振周波数は、上述したように、入力信号レベル(パルスデューティー比)が中間値である場合に最も高くなり、入力信号レベルが中間値から大きくあるいは小さくなるにつれて低くなる(図8の一点鎖線参照)。しかし、加減算器828(AS)により駆動波形信号WCOMに対して周波数制限用クロック信号LCKが加算または減算される本実施例の変調回路82では、発振周波数が周波数制限用クロック信号LCKに近づくと、発振周波数が周波数制限用クロック信号LCKに引き込まれて周波数制限用クロック信号LCKの周波数f(L)に固定される(図8の実線参照)。入力信号レベルが変化して、本来の発振周波数が周波数制限用クロック信号LCKの周波数f(L)から大きく外れると、周波数制限用クロック信号LCKへの固定が解除され、変調回路82の発振周波数は入力信号レベルに応じた通常の発振周波数へと復帰する。なお、このようなクロック信号の加減算による自励発振周波数の制限については、例えば、「IRAUDAMP4 仕様書」(International Rectifier)に記載されている。
【0051】
上述したように、周波数制限用クロック信号LCKの周波数f(L)は、可変分周器86における分周数に応じて変動するため、可変分周器86における分周数を変更することにより、変調回路82における最高発振周波数を変更することができる。
【0052】
図9は、変調回路82の発振周波数の一例を示す説明図である。図9(b)には、変調回路82に入力される周波数制限用クロック信号LCKの一例を示している。また、図9(d)には、比較器822(CMP)への入力信号の一例を示している。図9(d)において破線で示した信号は、変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力されない比較例の信号である。この比較例の信号の周波数は、図9(b)に示した周波数制限用クロック信号LCKの周波数より高い。一方、図9(d)において実線で示した信号は、本実施例のように変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力された場合の信号である。この信号の周波数は、比較例の信号の周波数より低くなっており、具体的には、図9(b)に示した周波数制限用クロック信号LCKの周波数と同じ周波数になっている。
【0053】
同様に、図9(c)には、比較器822(CMP)からの出力信号である変調信号MSの一例を示している。図9(c)において破線で示した信号は、変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力されない比較例の信号であり、図9(b)に示した周波数制限用クロック信号LCKの周波数より高い周波数の信号である。一方、図9(b)において実線で示した信号は、本実施例のように変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力された場合の信号であり、比較例の信号より周波数の低い信号となっており、具体的には、図9(b)に示した周波数制限用クロック信号LCKの周波数と同じ周波数の信号となっている。
【0054】
また、図9(a)には、変調信号MSに基づき生成された駆動信号COMの一例を示している。図9(a)において破線で示した信号は、変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力されない比較例の信号であり、図9(b)に示した周波数制限用クロック信号LCKの周波数より高い周波数の信号である。一方、図9(a)において実線で示した信号は、本実施例のように変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力された場合の信号であり、比較例の信号より周波数の低い信号となっており、具体的には、図9(b)に示した周波数制限用クロック信号LCKの周波数と同じ周波数の信号となっている。なお、図9(a)には、参考のために、駆動波形信号WCOMを一点鎖線で示している。
【0055】
なお、図9(a)および(d)において、変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力された実施例の信号の振幅が、周波数制限用クロック信号LCKが入力されない比較例の信号の振幅より大きくなっているのは、周波数が低くなると帰還される誤差が大きくなるためである。
【0056】
以上説明したように、本実施例のプリンター100では、変調回路82によって自励式の変調方式であるPDM方式で駆動波形信号WCOMの変調信号MSへの変調が行われ、デジタル電力増幅回路83によって変調信号MSが電力増幅され、平滑フィルター87によって駆動信号COMが生成される。このとき、基準クロック信号SCKが可変分周器86に入力されて可変の分周数で分周され、分周された基準クロック信号SCKが減衰器88により減衰され、減衰された基準クロック信号SCKが微分器89により微分されて周波数制限用クロック信号LCKとされ、変調回路82の加減算器828(AS)により駆動波形信号WCOMに対する周波数制限用クロック信号LCKの加算または減算が行われる。そのため、変調回路82の最高発振周波数は、周波数制限用クロック信号LCKの周波数に制限される。従って、本実施例のプリンター100では、変調回路82の発振周波数が過度に高くなることを防止することができ、インク吐出安定性の低下を抑制することができると共に、消費電力の増加を抑制することができる。また、本実施例のプリンター100では、変調回路82内部の遅延時間や外部の部品のばらつきの影響を受けずに最高発振周波数が決まるため、必要最低限の消費電力で所定の応答性能を確保することができる。さらに、本実施例のプリンター100では、可変分周器86の分周数を変更することにより、基準クロック信号SCKから生成される周波数制限用クロック信号LCKの周波数を変更することができ、変調回路82の最高発振周波数を適切に設定することができる。
【0057】
また、本実施例のプリンター100では、ノズルからインクを吐出するタイミングの決定に使用される信号である基準クロック信号SCKを用いて周波数制限用クロック信号LCKを生成しているため、変調回路82の最高発振周波数制限のために専用のクロック信号を用意する必要がなく、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。
【0058】
また、本実施例のプリンター100では、定数選択部55が、選択された可変分周器86の分周数に応じて、減衰器88の減衰率および微分器89の微分定数を選択する。例えば、定数選択部55は、選択した分周数が比較的小さい(すなわち、分周後の基準クロック信号SCKの周波数が比較的大きい)場合には、比較的小さい減衰率を選択すると共に、比較的小さい微分定数を選択する。そのため、本実施例のプリンター100では、分周後の基準クロック信号SCKの周波数に応じて、適切な減衰率で減衰器88による減衰を行うことができると共に、適切な微分定数で微分器89による微分を行うことができ、変調回路82の最高発振周波数の設定を高精度で行うことができる。
【0059】
また、本実施例のプリンター100では、印刷態様選択部54が、使用する駆動信号COMが互いに異なる複数の選択肢を含む複数の印刷態様の選択肢から1つの印刷態様を選択し、定数選択部55が、選択された印刷態様に応じて可変分周器86の分周数を選択する。そのため、本実施例のプリンター100では、採用される印刷態様で使用される駆動信号COMに応じて、変調回路82の最高発振周波数を適切に設定することができ、消費電力と応答速度の最適化を図ることができる。
【0060】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0061】
B1.変形例1:
上記実施例におけるプリンター100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施例では、ノズルアクチュエーター67としてピエゾ素子(圧電素子)を用いているが、他のノズルアクチュエーターを用いるとしてもよい。また、上記実施例では、変調回路82としてパルス密度変調方式の変調回路を用いているが、自励式の変調方式でパルス変調を行う変調回路であればパルス密度変調方式以外の変調方式の変調回路(例えば自励式のパルス幅変調方式の変調回路)を用いることもできる。
【0062】
また、上記実施例では、プリンター100は、ホストコンピューター90から印刷データPDを受信して印刷処理を行うとしているが、これに代えて、プリンター100は、例えば、メモリーカードから取得した画像データや所定のインターフェイスを介してデジタルカメラから取得した画像データ、スキャナーによって取得した画像データ等に基づき印刷データPDを生成して印刷処理を行うものとしてもよい。
【0063】
また、上記実施例では、プリンター100は、印刷領域に位置する連続した用紙Pに対して印刷ヘッド60を所定の方向(主走査方向)に往復移動する動作(主走査)と、用紙Pを主走査方向と交差する搬送方向に搬送する動作(副走査)と、を繰り返しつつ印刷を行うプリンターであるとしているが、本発明は、単票紙に印刷を行ういわゆるインパクトプリンターや、印刷ヘッドの下面に紙幅長さに亘って並んで配設されたノズル列の下を、紙幅方向と交差する方向に用紙を搬送させつつ印刷を行ういわゆるラインプリンターにも適用することが可能である。
【0064】
また、本発明は、液体(機能材料の粒子が分散された液状体やジェルなどの流状体を含む)を吐出する装置であれば、インクジェットプリンター以外の装置にも適用可能である。このような液体吐出装置としては、例えば、布地に模様をつけるための捺染装置、液晶ディスプレイやEL(エレクトロルミネッサンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルター等の製造に用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解の形態で含む液状体を吐出する装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を吐出する装置、精密ピペットとして用いられて試料となる液体を吐出する装置、時計やカメラなどの精密機械にピンポイントで潤滑油を吐出する装置、光通信素子などに用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するための紫外線硬化樹脂などの透明樹脂液を基板上に吐出する装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリなどのエッチング液を吐出する装置等が挙げられる。
【0065】
また、上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0066】
また、本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータープログラム)は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。この発明において、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピューター内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピューターに固定されている外部記憶装置も含んでいる。
【0067】
B2.変形例2:
上記実施例では、周波数制限用クロック信号LCKの生成のために、基準クロック信号SCKを用いているが、基準クロック信号SCKの代わりに他のクロック信号を用いて周波数制限用クロック信号LCKを生成するとしてもよい。例えば、周波数制限用クロック信号LCKの生成のために、専用のクロック信号を用意して使用してもよい。このようにすれば、基準クロック信号SCK等の他の信号の周波数とは独立して、変調回路82の最高発振周波数を任意の値に設定することができる。
【0068】
B3.変形例3:
上記実施例では、定数選択部55は、印刷態様選択部54により選択された印刷態様に応じた適切な可変分周器86の分周数を選択するものとしているが、定数選択部55による可変分周器86の分周数の選択は、このような態様に限られない。例えば、定数選択部55は、印刷に使用する印刷ヘッド60に応じた適切な可変分周器86の分周数を選択するものとしてもよいし、プリンター100の機種に応じた適切な可変分周器86の分周数を選択するものとしてもよい。このようにすれば、使用する印刷ヘッド60やプリンター100の機種に応じて、消費電力と応答速度の最適化を図ることができる。
【0069】
B4.変形例4:
上記実施例では、定数選択部55は、選択された可変分周器86の分周数に応じて、適切な減衰器88の減衰率および微分器89の微分定数を選択するものとしているが、減衰器88の減衰率や微分器89の微分定数は固定であるとしてもよい。ただし、上記実施例のように、定数選択部55が減衰器88の減衰率および微分器89の微分定数を選択するものとすれば、分周後の基準クロック信号SCKの周波数に応じて、適切な減衰率で減衰器88による減衰を行うことができると共に、適切な微分定数で微分器89による微分を行うことができるため、好ましい。
【0070】
B5.変形例5:
上述した実施形態、実施例および変形例における構成要素のうち、独立請求項に記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0071】
12…コネクター
14…操作パネル
22…紙送りモーター
26…プラテン
30…キャリッジ
32…キャリッジモーター
34…摺動軸
36…駆動ベルト
38…プーリー
40…制御ユニット
41…インターフェイス
42…制御部
43…紙送りモータードライバー
45…ヘッドドライバー
46…キャリッジモータードライバー
47…インターフェイス
48…発振回路
51…CPU
52…RAM
53…ROM
54…印刷態様選択部
55…定数選択部
60…印刷ヘッド
61…スイッチングコントローラー
63…シフトレジスター
64…ラッチ回路
65…レベルシフター
66…選択スイッチ
67…ノズルアクチュエーター
70…インクカートリッジ
78…入力端子
80…駆動回路
81…駆動波形信号発生回路
82…変調回路
83…デジタル電力増幅回路
84…ゲート駆動回路
85…ハーフブリッジ出力段
86…可変分周器
87…平滑フィルター
88…減衰器
89…微分器
90…ホストコンピューター
100…プリンター
822…比較器
824…減算器
826…遅延器
828…加減算器
Q1…ハイサイド側スイッチング素子
Q2…ローサイド側スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出装置であって、
液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルに対応して設けられ、駆動信号に従い駆動される複数のアクチュエーターと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに前記駆動信号を供給して前記液体吐出ヘッドを駆動する駆動回路と、を備え、
前記駆動回路は、
所定の基準クロック信号を入力する入力端子と、
前記基準クロック信号を、可変の分周数で分周する可変分周器と、
分周された前記基準クロック信号を減衰する減衰器と、
減衰された前記基準クロック信号を微分して周波数制限用クロック信号とする微分器と、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号に対し、前記周波数制限用クロック信号を加算または減算し、自励式の変調方式でパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、を含む、液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記基準クロック信号は、前記液体吐出ヘッドの前記ノズルから液体を吐出するタイミングの決定に使用される信号である、液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体吐出装置であって、
前記減衰器は、前記可変分周器における分周数に応じて選択された減衰率で減衰を行い、
前記微分器は、前記可変分周器における分周数に応じて選択された微分定数で微分を行う、液体吐出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の液体吐出装置であって、さらに、
使用する前記駆動信号が互いに異なる複数の液体吐出態様の選択肢の中から1つの液体吐出態様を選択する吐出態様選択部を備え、
前記可変分周器は、前記選択された液体吐出態様に応じて選択された分周数で分周を行う、液体吐出装置。
【請求項5】
液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルに対応して設けられ、駆動信号に従い駆動される複数のアクチュエーターと、を有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに前記駆動信号を供給して前記液体吐出ヘッドを駆動する駆動回路と、を備える液体吐出装置の制御方法であって、
所定の基準クロック信号を入力する工程と、
前記基準クロック信号を、可変の分周数で分周する工程と、
分周された前記基準クロック信号を減衰する工程と、
減衰された前記基準クロック信号を微分して周波数制限用クロック信号とする工程と、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号に対し、前記周波数制限用クロック信号を加算または減算し、自励式の変調方式でパルス変調して変調信号とする工程と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とする工程と、
前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする工程と、を備える、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−63516(P2013−63516A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201898(P2011−201898)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】