説明

液体吐出装置及び液体吐出方法

【課題】双方向印刷を行う液体吐出装置において、ヘッドのサイズ及び構成部品点数を増やさずに、印刷媒体上の液体重なり順に起因する濃淡ムラを抑制する。
【解決手段】インクの階調率分布が異なる2種類の間引き用マスクパターンを準備し、双方向印刷中、ヘッドユニットの往路及び復路において、インクごとに設けられた記録ヘッド122のノズル列からのインクの吐出回数を、インクの濃淡に応じて異なるマスクパターンを用いて制御する。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主走査方向に往復移動するヘッドから複数種類の液体を印刷媒体に選択的に噴射する液体吐出装置に係り、特に、ヘッドの往路と復路とにおいて、印刷媒体上の液体の重なり順が変わることに起因する濃淡ムラの発生を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
双方向記録中、記録ヘッドの往路と復路とにおいて記録紙上のインク重なり順序が反転することに伴う濃淡ムラの発生を防止するカラーインクジェットプリンターとして、例えば、特許文献1記載のインクジェットプリンターが知られている。
【0003】
このインクジェットプリンターにおいては、走査幅Wの各色マルチノズルインクジェットプリントヘッドが副走査方向に所定のピッチP(W<P<2W)ずつずれて配置されるように、各色マルチノズルインクジェットプリントヘッドがキャリッジ上の階段状の支持台によって支持されている。このような構成により、各色マルチノズルインクジェットプリントヘッドが走査するバンド領域の境界が重なり合わず、かつ、キャリッジの往路と復路のいずれにおいても、記録紙上を各色マルチノズルインクジェットプリントヘッドが常に同じ順番で走査することになるため、記録紙の送り誤差等に起因するバンディングを目立たなくするとともに、キャリッジの往路と復路とにおいて記録紙上のインク重なり順が反転することに伴うバンディングの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−156286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来のインクジェットプリンターにおいては、走査幅Wの各色マルチノズルインクジェットプリントヘッドを副走査方向に所定のピッチP(W<P<2W)ずつずらして配置する必要がある。このため、例えば、各色マルチノズルインクジェットプリントヘッドを主走査方向に一列に並べた場合と比較して、記録ヘッドのサイズが大きくなる。
【0006】
また、各色マルチノズルインクジェットプリントヘッドを上述の位置関係で配置するための支持台が別途必要となるため、その分、コストが増加する。
【0007】
そこで、本発明は、主走査方向に往復移動するヘッドから印刷媒体に複数種類の液体を選択的に噴射する液体吐出装置において、ヘッドのサイズ及び構成部品点数を増やすことなく、印刷媒体上の液体の重なり順に起因する濃淡ムラを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様に係る液体吐出装置は、印刷媒体を副走査方向に送るごとに、前記副走査方向に沿って並んだ複数のノズルを含むノズル列が主走査方向に複数列配置されているヘッドユニットを前記主走査方向に移動させながら、前記複数列のノズル列から、互いに異なる種類の液体を前記印刷媒体に向けて吐出させる液体吐出装置であって、ノズル列に含まれるノズルからの液体の吐出回数を基準ノズルからの距離に従って段階的に変化させる第一のマスクパターンと、ノズル列に含まれるノズルからの液体の吐出回数を、前記第一のマスクパターンとは異なる変化で段階的に変化させる第二のマスクパターンとが格納された記憶手段と、前記ヘッドユニットによる双方向印刷中、前記ノズル列の長さよりも短い送り量ずつ前記印刷媒体を前記副走査方向に送りながら、前記ヘッドユニットの往路及び復路における前記各ノズル列のノズルからの液体の吐出回数を、前記第一及び第二のマスクパターンのうち、前記液体の種類に応じて定まるマスクパターンに従って制御する制御手段と、を有する。
【0009】
このような液体吐出装置によれば、上述したように、ヘッドの構成を変更しなくても(すなわち、ヘッドユニットのサイズ及び構成部品点数を増やすことなく)、印刷媒体上の液体重なり順に起因する濃淡ムラを抑制することができる。
【0010】
例えば、前記複数の液体として、互いに色材濃度の異なるインク、または、互いに明度の異なる色のインクが用いられる場合、前記制御手段は、前記インクの色材濃度または明度の高低に応じて前記第一及び第二のマスクパターンを使い分けるようにしてもよい。これにより、濃淡ムラの少ない高品位な画像を高速に形成することができる。
【0011】
好適な実施形態では、前記複数の液体として、互いに色材濃度の異なるインク、または、互いに明度の異なる色のインクが用いられる場合、前記制御手段は、前記インクの色材濃度または明度の高低に応じて前記第一及び第二のマスクパターンを使い分けるようにしてもよい。
【0012】
これにより、明度の異なるインクの印刷媒体上での重なり順に起因する濃淡ムラを抑制することができる。
【0013】
好適な実施形態では、前記第一のマスクパターンは、ノズル列を構成する各ノズルからのインク吐出回数が、基準ノズルから両端ノズルに近づくに従って増加するように設定され、前記第二のマスクパターンは、ノズル列を構成する各ノズルからのインク吐出回数が、基準ノズルから両端ノズルに近づくに従って減少するように設定してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ノズル列内のノズルからの液体の吐出回数を定める複数種類のマスクパターンのなかから、液体の種類ごとに異なるマスクパターンを選択的に用いることにより、バンド間における、液体重なり順の異なるドットの占有率の差を抑制するとともに、ラスタを構成するドット液体重なり順をばらつかせることができる。このため、ヘッドのサイズ及び構成部品点数を増やすことなく、印刷媒体上の液体の重なり順に起因する濃淡ムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンターの概略構成図、(B)は、記録ヘッドの配置および各記録ヘッドのノズル配列を例示した図。
【図2】(A)は、本発明の一実施形態に係る第一のマスクパターンの概念図、(B)は、本発明の一実施形態に係る第二のマスクパターンの概念図。
【図3】本発明の一実施形態に係る第一及び第二のマスクパターンを用いて形成されるインクパターンの遷移を説明するための図。
【図4】(A)は、記録ヘッドのすべてのノズルのインクデューティーを100パーセントとして形成した通常の混色画像のドットパターン図、(B)は、本発明の一実施形態に係る2種類のマスクパターンを用いて形成される混色画像のドットパターン図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る一実施形態について説明する。
【0017】
まず、本実施の形態に係る液体吐出装置の構成について説明する。ここでは、液体吐出装置の一例としてインクジェットプリンターを挙げる。
【0018】
図1(A)は、本実施の形態に係るインクジェットプリンターの概略構成図、図1(B)は、記録ヘッドユニットにおける記録ヘッドの配置及び各記録ヘッドのノズル配列を示した図である。
【0019】
図示するように、本本実施の形態に係るインクジェットプリンター100は、ホストコンピューター200との間でデータを送受信する通信インターフェース(IF)110、印刷モード設定(双方向印刷等)等の操作をユーザから受け付ける操作部140、ホストコンピューター200からの印刷データが表す画像を印刷媒体に記録するプリントエンジン部120、インクジェットプリンター100全体を制御する制御部130、これら各部を相互に接続するバス、等を有している。なお、ここで用いられる印刷媒体は、インクパターンを形成可能な材料(記録紙、生地、樹脂、金属、ガラス、セラミックス、木材、皮革等)で形成されたものであればよい。
【0020】
ここで、プリントエンジン部120は、記録ヘッドと印刷媒体とを相対的に移動させながら、記録ヘッドから印刷媒体に向けてインクを噴射するインクジェット方式の印刷機構を有している。具体的には、記録ヘッドユニット121、記録ヘッドユニット121を主走査方向Xに往復移動させるヘッド移動機構、主走査方向Xと交差する方向(副走査方向)Yに印刷媒体を所定の送り量Lずつ搬送する印刷媒体搬送機構、等を有している。
【0021】
記録ヘッドユニット121は、主走査方向Xに一列に配置された走査幅Sの記録ヘッド122を複数有している。各記録ヘッド122には、それぞれ、印刷媒体の搬送路側に向いた複数のノズル123が副走査方向Yに沿って所定ピッチpで形成されたノズルプレートを有しており、各記録ヘッド122のノズル123から、記録ヘッド122に対応して装着されたインクカートリッジのインクが印刷媒体に向けて吐出されるようになっている。なお、本実施の形態では、記録ヘッド122に対応して装着されるインクカートリッジとして、イエロー、シアン、マゼンダ等のカラーインク及びブラックインクのインクカートリッジのほか、これらのインクよりも色材濃度が小さいインク(例えば、ライトシアン、ライトマゼンダ、ライトブラック等)のインクカートリッジが用いられる。
【0022】
制御部130には、印刷制御プログラム等の各種プログラム及び2種類の間引き用マスクパターン等の各種データが格納されたROM131、RAM132、ROM131からRAM132にロードした印刷制御プログラム等の実行によりインクジェットプリンター100の動作を制御するCPU133、ホストコンピューター200からの印刷データに画像処理(インクの色空間への変換処理、二値化処理、間引き用マスクパターンによるマスク処理等)を施すとともに画像処理後の印刷データに従ってプリントエンジン部120を制御するASIC134、等が含まれている。このような構成により、制御部130は、ホストコンピューター200からの印刷データをイメージバッファに展開し、これにより得られる色成分ごとの二値化データと対応マスクパターンとの論理積で定まるドット配列パターンに従って、各記録ヘッド122のノズル123からのインクの吐出を制御する。
【0023】
つぎに、色ごとのドット配列パターンを得るために用いられる2種類の間引き用マスクパターン及びこれらの間引き用マスクパターンを用いたオーバーラップ印刷について説明する。ここでは、説明の便宜上、印刷媒体の送り量に相当する幅の領域(バンド)の印刷を、16ノズルを有する記録ヘッドを用いて8パスの走査で完成させる場合への適用例を挙げる。
【0024】
図2(A)及び図2(B)に、本実施の形態に係る2種類のマスクパターン300,310の概念図を示す。なお、図中、黒丸または白丸を含むブロックは、1パスの走査でドットが形成される領域を示し、×印を含むブロックは、1パスの走査でドットが間引かれる領域を示す。
【0025】
一方の間引き用マスクパターン(第一のマスクパターン)300は、図2(A)に示すように、ノズル列を構成する各ノズル123のインクデューティー(形成可能な最大ドット数に対する、間引き後のドット数の割合)が、一端側のノズル123Nから中央のノズル123Nに近づくに従って徐々に減少し、中央ノズル123Nから他端側のノズル123N16に近づくに従って徐々に増加するように設定されている。本実施の形態においては、中央ノズル123Nのインクデューティーを0パーセント(インク吐出回数は0回)と設定し、他端側のノズル123N16のインクデューティーが100パーセント(インク吐出回数は、ノズル最大能力に相当する回数)となるように、中央ノズル123Nから両端側のノズル123N,123N16にかけてノズルのインクデューティーを所定の割合で増加させる。このため、この第一のマスクパターン300を用いることにより、1パスにより形成される走査幅Sの帯状画像パターンの色調が中央ラスタから両端ラスタにかけて徐々に濃くなるように、走査幅Sの帯状画像パターンにおけるインクの階調率(ドット間引きなし場合の色の階調に対する、ドット間引き後の色の階調の割合)が走査幅S方向に変化する。
【0026】
他方の間引き用マスクパターン(第二のマスクパターン)310は、図2(B)に示すように、ノズル列を構成する各ノズル123のインクデューティーが、一端側のノズル123Nから中央のノズル123Nに近づくに従って徐々に増加し、中央ノズル123Nから他端側のノズル123N16にかけて徐々に減少するように設定されている。本実施の形態においては、中央ノズル123Nのインクデューティーを100パーセントと設定し、他端側のノズル123N16のインクデューティーが0パーセントとなるように、中央ノズル123Nから両端側のノズル123N,123N16にかけてノズルのインクデューティーを所定の割合で減少させる。このため、この第二のマスクパターン310を用いることにより、1パスにより形成される走査幅Sの帯状画像パターンの色調が中央ラスタから両端ラスタにかけて徐々に淡くなるように、走査幅Sの帯状画像パターンにおけるインクの階調率が走査幅S方向に変化する。
【0027】
なお、第一及び第二のマスクパターン300,310は、ノズル列を構成する各ノズル123のインクデューティーが上述のように増減するように各ノズル123のインク吐出数を制御できるものであればよく、第一及び第二のマスクパターン300,310の適用により形成されるドット配列パターンは、図2(A)及び図2(B)に示した通りである必要はない。実際には、各ノズル123N〜123N16の走査ライン上においてドットが分散するように、例えば、各ノズル123N〜123N16の走査ライン上のドット繰り返しパターン(図中、マスクパターン内の主走査方向Xの各行)内において、ドットが形成される各領域の位置を主走査方向Xにずらしてもよい。
【0028】
本実施の形態においては、色材濃度の異なるインク(濃淡の異なるインク)の色成分を含む混色画像を双方向印刷により印刷する場合、このような2種類の間引き用マスクパターン300,310を用いて、色材濃度の少ないインク(以下、淡インク)及び色材濃度の多いインク(以下、濃インク)の吐出回数を制御しながら、記録ヘッド122の走査幅Sの1/8に相当する所定の送り量Lずつ印刷媒体を送る。これにより、新たなインクパターンを、すでに形成されたインクパターンに部分的に重複させながら形成してゆく、いわゆるオーバーラップ印刷を実行する。
【0029】
図3に、濃インクと淡インクとの混色画像を双方向印刷により印刷する場合に各パスの走査ごとに形成されるインクパターンが遷移する様子を示す。ここでは、淡インク用記録ヘッド122の各ノズル123からのインクの吐出回数制御に第一のマスクパターン300を適用し、濃インク用記録ヘッド122の各ノズル123からのインクの吐出回数制御に第二のマスクパターン310を適用した場合を例に示している。
【0030】
記録ヘッドユニット121のホームポジションにおいて、濃インク用記録ヘッド122が淡インク用記録ヘッド122よりも印刷媒体の搬送路に近い位置に配置されている場合、各往路(奇数番目のパス:1,3,5,...)では、濃インク用記録ヘッド122が濃インクパターン301を主走査方向Xに沿って繰り返し形成するのに続いて、後続の淡インク用記録ヘッド122が、濃インクパターン301とはドット配列パターンが異なる淡インクパターン311を主走査方向Xに沿って繰り返し形成する。一方、各復路(偶数番目のパス:2,4,6,...)では、往路とは逆に、淡インク用記録ヘッド122が、淡インクパターン311を主走査方向Xに沿って繰り返し形成するのに続いて、後続の濃インク用記録ヘッド122が濃インクパターン301を主走査方向Xに沿って繰り返し形成する。
【0031】
このため、一往路の走査域には、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドット群323の他に、淡インクのみ打ち込まれたドット群322と濃インクのみ打ち込まれたドット群321とが含まれ、一復路の走査域には、淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドット群324の他に、淡インクのみ打ち込まれたドット群322と濃インクのみ打ち込まれたドット群321とが含まれる。そして、印刷媒体の送り量Lに相当する幅のバンドを構成する複数のブロック領域330(図3では、連続する8パス分のブロック領域330)における、淡インクのみ打ち込まれたドット群322の分布及び濃インクのみ打ち込まれたドット群321の分布は、往路から印刷が開始するバンドOであっても、復路から印刷が開始するバンドRであっても同様に遷移する。このため、隣接するバンド間における、インク重なり順が異なるドットの面積占有率の差が抑制されて、印刷媒体上のインクの重なり順に起因するバンド間の濃淡ムラが低減されると考えられる。
【0032】
また、各往路においては、各ノズル123の走査ライン上に、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドットと、濃インクのみ打ち込まれたドットと、淡インクのみ打ち込まれたドットとが混在し、各復路においては、各ノズル123の走査ライン上に、淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドットと、淡インクのみ打ち込まれたドットと、濃インクのみ打ち込まれたドットとが混在する。このため、双方向印刷により形成される混色画像の各ラスタを構成するドットのインク重なり順序にバラツキが生じる。これによっても、印刷媒体上のインクの重なり順に起因する濃淡ムラがより低減されると考えられる。
【0033】
以上の効果を確認するため、濃インク及び淡インク双方の記録ヘッド122のすべてのノズルのインクデューティーを100パーセントとして形成した混色画像(第一及び第二のマスクパターン300,310を用いずに形成した形成した混色画像)と、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いて形成した混色画像とから、それぞれ、3バンド分の帯領域を切り出し、それらを比較する。
【0034】
図4(A)に、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いずに形成した混色画像からの切出し領域内のドットパターン、図4(B)に、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いて形成された混色画像からの切出し領域内のドットパターンを示す。
【0035】
濃インク及び淡インク双方の記録ヘッド122のすべてのノズルのインクデューティーを100パーセントとして形成した混色画像(第一及び第二のマスクパターン300,310を用いずに形成した形成した混色画像)と、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いて形成した混色画像とから、それぞれ、3バンド分の帯領域を切り出し、それらのドットパターンを、図4(A)及び図4(B)に示す。
【0036】
第一及び第二のマスクパターン300,310を用いずに形成した混色画像(図4(A))には、淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドット(黒丸)の占有面積率が60%、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドット(白丸)の占有面積率が40%のバンドAと、淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドットの占有面積率が40%、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドットの占有面積率が60%のバンドBとが交互が現れている。
【0037】
これに対して、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いて形成した混色画像(図4(B))には、淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドット(黒丸)の占有面積率が50%、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドット(白丸)の占有面積率が50%のバンドCと、淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドットの占有面積率が40%、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドットの占有面積率が60%のバンドDとが交互に現れている。
【0038】
両者を比較した場合、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いて形成した混色画像において、隣接するバンド間における、インクの重なり順が異なるドットの面積占有率の差が抑制されていることがわかる。従って、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いることによって濃淡ムラの発生が抑制されることがわかる。
【0039】
また、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いずに形成した混色画像(図4(A))においては、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドットの列(主走査方向Xに沿った複数の白丸の列)と淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドットの列(主走査方向Xに沿った複数の黒丸の列)とが副走査方向Yに交互に配置されている。これらのドットの列は、異なる色調のスジとして認識される可能性がある。
【0040】
これに対して、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いて形成した混色画像(図4(B))においては、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドット(白丸)と、淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドット(黒丸)とが主走査方向Xおよび副走査方向Yの双方に分散している。このため、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドットと淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドットとの色調の差異が識別されにくく、全体としてひとつの色調の色として認識される。
【0041】
このように、階調率分布が異なる2種類のマスクパターンをインクの濃淡に応じて使い分けることにより、ドットのインク重なり順をラスタ間でばらつかせることができる。従って、記録ヘッドユニットのサイズ及び構成部品点数を増やすことなく、印刷媒体上のインク重なり順に起因する濃淡ムラを抑制することができる。
【0042】
また、図4(A)に示すように、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いずに形成した混色画像においては、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドットの列(主走査方向Xに沿った複数の白丸の列)と淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドットの列(主走査方向Xに沿った複数の黒丸の列)とが副走査方向Yに交互に配置される。このため、異なる色調のスジとして認識される。
【0043】
これに対して、第一及び第二のマスクパターン300,310を用いて形成した混色画像においては、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドットと、淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドットとが主走査方向Xおよび副走査方向Yの双方に分散している。このため、濃インク上に淡インクが重ね打ちされたドットと淡インク上に濃インクが重ね打ちされたドットとの色調の差異が識別されにくく、全体としてひとつの色調の色として認識される。
【0044】
このように、階調率分布が異なる2種類のマスクパターンをインクの濃淡に応じて使い分けることにより、バンド間における、インク重なり順の異なるドットの占有率の差を抑制するとともに、ドットのインク重なり順をラスタ間でばらつかせることができる。このため、背景技術の欄で説明した従来のインクジェットプリンターで用いられている階段状の支持台を用いなくても(すなわち、記録ヘッドユニットのサイズ及び構成部品点数を増やすことなく)、印刷媒体上のインク重なり順に起因する濃淡ムラを抑制し、一方向印刷の場合よりも高速に高品位な画像を印刷することができる。
【0045】
なお、本実施の形態においては、インクの階調率分布の異なる2種類の間引き用マスクパターン300,310を、濃淡の異なるインクに適用しているが、これらの間引き用マスクパターン300,310を、他の組み合わせのインクに適用してもよい。例えば、明度の異なるインクの色成分を含む混色画像を形成する場合には、2種類の間引き用マスクパターン300,310の一方を、明度の高いインクに適用し、他方を、明度の低いインクに適用するようにしてもよい。また、色相が同じインクの色成分を含む混色画像を形成する場合には、2種類の間引き用マスクパターン300,310を、インクの濃淡に応じて使いわけ、色相が異なるインクを含む混色画像を形成する場合には、インクの明度の高低に応じて使いわけるようにしてもよい。
【0046】
以上においては、主走査方向に往復移動するヘッドから印刷媒体に複数種類の液体を選択的に噴射する液体吐出装置の一例としてインクジェットプリンターを挙げたが、本発明に係る液体吐出装置の構成は、ノズルから目標位置に複数種類の液状材料を噴射するインクジェット技術が利用される他の装置にも適用可能である。例えば、ファクシミリ装置、コピー機等の画像記録装置だけでなく、液晶ディスプレイのカラーフィルタの色材を塗り分けるカラージェット装置、液晶パネル製造工程に用いられる配向膜成膜装置、有機ELディスプレイ製造工程に用いられる有機材料塗布装置、銀等の金属粒子を分散させたインクと絶縁体インクとを交互にパターニング・積層する装置(フレキシブル多層配線基板)、シリコン薄膜トランジスタ製造工程においてシリコン膜パターンを形成する装置、有機薄膜トランジスタの有機薄膜を成膜する成膜装置、UV硬化樹脂を吐出してインクジェットマイクロレンズを成形する装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を含む液体を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとしての試料噴射装置、等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
100:インクジェットプリンター、110:通信インターフェース(IF)、120:プリントエンジン部、130:制御部、140:操作部、121:記録ヘッドユニット、122:記録ヘッド、123:ノズル、200:ホストコンピューター、300,310:間引き用マスクパターン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を副走査方向に送るごとに、前記副走査方向に沿って並んだ複数のノズルを含むノズル列が主走査方向に複数列配置されているヘッドユニットを前記主走査方向に移動させながら、前記複数のノズル列から、前記ノズル列ごとに異なる種類の液体を前記ノズルから前記印刷媒体に向けて吐出させる液体吐出装置であって、
ノズル列に含まれるノズルからの液体の吐出回数を基準ノズルからの距離に従って段階的に変化させる第一のマスクパターンと、ノズル列に含まれるノズルからの液体の吐出回数を、前記第一のマスクパターンとは異なる変化で段階的に変化させる第二のマスクパターンとが格納された記憶手段と、
前記ヘッドユニットによる双方向印刷中、前記ノズル列の長さよりも短い送り量ずつ前記印刷媒体を前記副走査方向に送りながら、前記ヘッドユニットの往路及び復路における前記各ノズル列のノズルからの液体の吐出回数を、前記第一及び第二のマスクパターンのうち、前記液体の種類に応じて定まるマスクパターンに従って制御する制御手段と、を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体吐出装置であって、
前記複数の液体として、互いに色材濃度の異なるインク、または、互いに明度の異なる色のインクが用いられる場合、前記制御手段は、前記インクの色材濃度または明度の高低に応じて前記第一及び第二のマスクパターンを使い分けることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の液体吐出装置であって、
前記第一のマスクパターンは、ノズル列を構成する各ノズルからのインク吐出回数が、基準ノズルから両端ノズルに近づくに従って増加するように設定され、前記第二のマスクパターンは、ノズル列を構成する各ノズルからのインク吐出回数が、基準ノズルから両端ノズルに近づくに従って減少するように設定されることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
印刷媒体を副走査方向に送るごとに、前記副走査方向に沿って並んだ複数のノズルを含むノズル列が主走査方向に複数列配置されているヘッドユニットを前記主走査方向に移動させながら、前記複数のノズル列から、前記ノズル列ごとに異なる種類の液体を前記印刷媒体に向けて吐出させる液体吐出方法であって、
ノズル列に含まれるノズルからの液体の吐出回数を基準ノズルからの距離に従って段階的に変化させる第一のマスクパターン、および、ノズル列に含まれるノズルからの液体の吐出回数を、前記第一のマスクパターンとは異なる変化で段階的に変化させる第二のマスクパターンが予め準備されており、
前記ヘッドユニットによる双方向印刷中、前記ノズル列の長さよりも短い送り量ずつ前記印刷媒体を前記副走査方向に送りながら、前記ヘッドユニットの往路及び復路における前記各ノズル列のノズルからの液体の吐出回数を、前記第一及び第二のマスクパターンのうち、前記液体の種類に対応付けられたマスクパターンに従って制御することを特徴とする液体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−189592(P2011−189592A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57128(P2010−57128)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】