説明

液体吐出装置

【課題】画像形成同士の時間間隔に応じて適切に吐出性能を回復する処理を実行する。
【解決手段】モード記憶部110には、ページ単位の画像形成同士の時間間隔に対応付けられた記録モードが格納される。記録制御部120は、記録モードに対応付けられた時間間隔で用紙を搬送すると共に用紙に画像を形成するように指示する制御指令をヘッド制御部105及び搬送制御部106へと送信する。フラッシング制御部130は、用紙の搬送を停止して所定量のインクを吐出するフラッシング動作を実行するように指示する制御指令をヘッド制御部105及び搬送制御部106へと送信する。フラッシング制御部130は、記録モードに対応付けられた時間間隔が小さいほど、ページ単位の画像形成が多く行われるように、次にフラッシング動作を実行するタイミングを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体への記録処理を連続して実行すると、液体吐出ヘッドにおいて液体の粘度が増加していき、記録品質が低下する場合がある。特許文献1は、印字枚数や印字時間等の判定条件に基づき、通常の予備吐出より吐出量の大きい予備吐出を選択し、吐出性能をより効果的に回復するものである。このように、印字枚数や印字時間等の一定の条件を満たせば、ヘッドの吐出性能を回復する処理を実行することも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−52740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ページ単位の画像形成同士の時間間隔が比較的小さい場合、短い時間に多くの記録媒体に記録処理を施すこととなる。この場合、ヘッドから頻繁に液体を吐出させるため、液体の粘度が増加しにくくなり、記録品質が低下しにくい。このような事情にも関わらず、印字枚数や印字時間等の条件に応じて一律に吐出性能を回復する場合、例えば、まだ記録品質がそれほど低下していないのに、あらかじめ設定された印字枚数や時間に到達したため、吐出性能を回復する処理を実行してしまい、液体や電力を無駄に消費するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、画像形成同士の時間間隔に応じて適切に吐出性能を回復する処理を実行する液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の観点によると、液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、搬送経路に沿って記録媒体を搬送する搬送手段と、前記搬送手段に記録媒体を搬送させると共に、画像データに基づいて前記液体吐出ヘッドから液体を吐出させることで前記記録媒体に画像を形成する記録制御手段と、前記搬送手段に記録媒体の搬送を一旦停止させると共に、画像形成に関与しない駆動データに基づいて前記液体吐出ヘッドから液体を吐出させるフラッシング動作を実行するフラッシング制御手段とを備えており、前記フラッシング制御手段は、前記フラッシング動作を前回実行してから次に実行するまでの期間である印字可能期間において、前記画像データに基づくページ単位の画像形成が、当該ページ単位の画像形成同士の時間間隔が小さいほど多く行われるように、次に前記フラッシング動作を実行するタイミングを決定する。
【0007】
本発明の液体吐出装置によると、ページ単位の画像形成同士の時間間隔が小さいほど、フラッシング動作間の期間である印字可能期間においてページ単位の画像形成が多く行われるようにフラッシング動作が実行される。したがって、画像形成同士の時間間隔が小さく、記録品質が低下しにくい場合には、多くの画像形成を行ってから次のフラッシング動作が実行されるため、フラッシング動作を無駄に実行して液体や電力を浪費するのが回避される。
【0008】
また、本発明においては、前記フラッシング制御手段が、前記印字可能期間を、前記ページ単位の画像形成同士の時間間隔が小さいほど長く設定してもよい。これによると、画像形成同士の時間間隔の変動によりインクの吐出状況が変化するのに応じて、無駄なフラッシング動作をより確実に回避できる。
【0009】
また、本発明においては、前記フラッシング制御手段が、前記画像形成同士の時間間隔に係る数値を記憶する数値記憶手段と、前記数値を初期化する初期化手段と、前記ページ単位の画像形成が1回完了するごとに、当該画像形成とその1つ前の画像形成との間の前記時間間隔が小さいほど小さい数値を前記数値記憶手段が記憶する数値に対し加算又は乗算する導出手段とを有し、前記数値記憶手段が記憶する数値が閾値を超えた場合に、前記フラッシング動作を実行すると共に、前記初期化手段が前記数値を初期化することが好ましい。これによると、画像形成同士の時間間隔に応じた数値を加算してその加算値が閾値を超えた場合にフラッシング動作を実行する。したがって、例えば、画像形成同士の時間間隔が画像形成を行うごとに変化する場合でも、適切なタイミングでフラッシング動作を実行することができる。
【0010】
また、本発明においては、前記フラッシング制御手段は、前記導出手段が加算又は乗算する数値を与える前記時間間隔に関する関数を示す情報を記憶する関数情報記憶手段を有し、前記導出手段が、前記関数に基づいて加算値又は乗算値を導出することが好ましい。これによると、画像形成同士の時間間隔と加算値との関係を示す関数に基づいて加算値を導出するので、適切な加算値を導出できる。このため、加算値に基づいて適切なタイミングでフラッシング動作を実行することができる。
【0011】
また、本発明においては、前記液体吐出ヘッドにおいて液体を吐出する吐出面を封止した封止位置と、前記吐出面から離隔した離隔位置とを選択的に取るキャップ手段と、前記記録制御手段による全ての前記画像形成が行われた後に、前記キャップ手段を前記離隔位置から前記封止位置へと移動させるキャップ移動手段とをさらに備えており、前記フラッシング制御手段は、前記キャップ移動手段が前記キャップ手段を前記離隔位置から前記封止位置へと移動させる前に、前記記録制御手段による全ての前記画像形成が行われた後の時点で前記フラッシング動作を実行すると共に、当該フラッシング動作では、前記時点で前記数値記憶手段が記憶する前記数値が大きいほど多くの液体を吐出することが好ましい。これによると、キャップ前にフラッシング動作を実行する際、数値記憶手段がその時点で記憶する加算値に応じた量の液体を吐出するようにフラッシング動作を実行する。このため、フラッシングに伴う液体や電力の浪費が回避される。
【0012】
また、本発明においては、前記液体吐出ヘッドが、液体を吐出する複数の吐出口を有し、前記画像データに基づく液体の吐出状況を前記吐出口ごとに取得する吐出状況取得手段をさらに備えており、前記導出手段が、前記吐出状況取得手段が取得した前記吐出状況に基づいて、前記数値記憶手段が記憶する数値への加算又は乗算を実行するか否かを決定することが好ましい。これによると、液体の吐出状況に応じて加算又は乗算を実行するか否かを決定するので、例えば、記録処理により液体を多く吐出している場合には加算又は乗算を実行しないといった適切な制御を実行できる。
【0013】
また、本発明においては、前記導出手段は、前記吐出口がそれぞれ記録媒体上に形成するドットの数が、全ての前記吐出口に関して、第1の閾値以上であって、前記第1の閾値より大きな値である第2の閾値未満のとき、前記数値への加算又は乗算を行わないと共に、前記初期化手段は、全ての前記吐出口がそれぞれ記録媒体上に形成するドットの数が、前記第2の閾値以上のとき、前記数値を初期化することが好ましい。これによると、各吐出口が形成したドットの数が第1の閾値から第2の閾値までの範囲である場合には加算又は乗算が行われないので、吐出状況に応じてフラッシング動作の回数を減らすことができる。また、各吐出口が形成したドットの数が第2の閾値を超えると数値の初期化が行われる。これにより、画像形成において液体を多く吐出したので吐出性能が十分に回復したと考えられる場合には加算値を初期化するといった適切な制御を実行できる。
【0014】
また本発明においては、前記時間間隔と対応付けられた記録モードを記憶するモード記憶手段をさらに備えており、前記記録制御手段が、前記モード記憶手段が記憶する前記記録モードに対応付けられた前記時間間隔に応じた速度で記録媒体を搬送させると共に、前記液体吐出ヘッドから液体を吐出させて、搬送される記録媒体に対して前記時間間隔で画像形成を行うことが好ましい。これによると、記録モードに応じて画像形成同士の時間間隔が設定されている場合に適切に対応可能である。
【0015】
また、本発明においては、前記フラッシング制御手段が、前記印字可能期間を、前記モード記憶手段が記憶する前記記録モードに対応付けられた前記時間間隔が小さいほど、長く設定することが好ましい。これによると、記録モードに応じた画像形成同士の時間間隔に基づいて適切に印字可能期間が設定される。
【0016】
また、本発明においては、前記モード記憶手段が複数の前記記録モードを記憶する場合に、当該複数の記録モードの序列を記憶する序列記憶手段と、前記序列記憶手段が記憶する前記序列を変更する序列変更手段とをさらに備えており、前記記録制御手段が、前記序列記憶手段が記憶する前記序列に応じた順序で、前記モード記憶手段が記憶する前記記録モードごとに、当該記録モードに対応付けられた前記時間間隔に応じた速度で記録媒体を搬送させ、前記序列変更手段は、一の前記記録モードの序列を、当該記録モードに対応付けられた前記時間間隔より大きい前記時間間隔に対応付けられた前記記録モードよりも前に変更することが好ましい。これによると、序列の変更により、時間間隔が短い記録モードに係る画像形成が、時間間隔が長い記録モードに係る画像形成の前に行われることになる。時間間隔が短い場合には液体を吐出する頻度が高くなるため、吐出性能が回復する蓋然性が高い。したがって、吐出性能が回復されてから時間間隔が長い次の画像形成がなされやすくなるので、序列の変更前と比べてフラッシング動作が実行される可能性が低くなる。よって、フラッシングに伴う液体や電力の浪費が抑制される。
【0017】
また、本発明においては、前記序列変更手段は、小さい前記時間間隔に対応付けられた前記記録モードと大きい前記時間間隔に対応付けられた前記記録モードとが交互に並ぶように、一の前記記録モードの序列を、前記大きい前記時間間隔に対応付けられた前記記録モードよりも前に変更することが好ましい。これによると、序列の変更により、吐出性能が回復されやすい時間間隔の短い画像形成と、時間間隔が長い画像形成とが交互に実行されるので、序列の変更前と比べて全体としてフラッシング動作の回数が少なくなりやすい。
【0018】
また、本発明においては、前記液体吐出ヘッドが、液体を吐出する複数の吐出口を有し、前記記録制御手段が、所望の画像を構成する画像ドットを記録媒体上に形成するように前記液体吐出ヘッドを制御する画像ドット形成制御手段と、前記所望の画像を構成する画像ドットではない非画像ドットを記録媒体上に形成するように前記液体吐出ヘッドを制御する非画像ドット形成制御手段とを有し、前記非画像ドット形成制御手段が、前記画像ドット用の液体を吐出しない不吐出期間が所定の長さを超える前記吐出口に関して、当該不吐出期間内に、前記非画像ドット用の液体を前記液体吐出ヘッドから吐出させてもよい。このように、画像形成の合間の不吐出期間にフラッシング用に液体を吐出する構成を有している場合であっても、かかる吐出によって形成される非画像ドットが記録媒体上で目立たないようにしなければならないといった制約から、フラッシングの効果が十分に確保できない場合がある。このような場合にも本発明を適用できる。
【0019】
また、本発明においては、前記液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数の吐出口を有し、少なくとも前記吐出口の径を含み、流路の寸法に対応したランク情報を記憶するランク情報記憶手段をさらに備え、前記フラッシング制御手段は、前記印字可能期間を、前記ランク情報記憶手段が記憶する前記ランク情報に関連づけられた前記吐出口の径が小さいほど、長く設定することが好ましい。これによると、ヘッドごとにランク情報に応じて適切にフラッシング動作を実行できる。吐出口の径に大小が生じても、フラッシング動作を、径と対応するインク増粘の進み具合に合わせて適切に実行できる。
【0020】
また、本発明においては、前記フラッシング制御手段が、所定の位置を記録媒体が通過したタイミングを取得するタイミング取得手段を有し、前記タイミング取得手段が取得したタイミングに基づいて前記時間間隔を導出してもよい。これによると、記録媒体の搬送間隔に応じて画像形成同士の時間間隔を導出できる。
【0021】
また、本発明においては、前記搬送経路に沿った搬送方向に関して互いに長さの異なる複数種類の記録媒体を前記搬送手段へと供給する媒体供給手段をさらに備えており、前記搬送手段は、前記時間間隔が一定になるタイミングで各記録媒体が前記所定の位置を通過するように前記複数種類の記録媒体を搬送し、前記フラッシング制御手段は、前記印字可能期間を、前記搬送方向に関する記録媒体の長さが大きいほど、長く設定することが好ましい。同じ時間間隔の場合、搬送方向に記録媒体が長いほど、液体の吐出機会が多くなりやすい。したがって、記録媒体の長さに応じて適切にフラッシング動作を実行するように、印字可能期間の長さを設定できる。
【0022】
また、本発明の液体吐出装置は、インク滴を吐出する吐出ヘッドと、画像が形成される用紙の先端を検出する用紙センサと、前記用紙センサが配置された所定の位置から前記吐出ヘッドと対向する画像形成領域に用紙を搬送する搬送機構と、前記搬送機構による用紙の搬送と前記吐出ヘッドによるインクの吐出とを前記用紙センサからの信号に基づいて同期させる記録制御部と、前記搬送機構による用紙の搬送を一旦停止させた後、インクの着弾位置に用紙が存在しない状態で前記吐出ヘッドからインクを吐出させるフラッシング動作を行うフラッシング制御部とを含む制御装置と、を備え、前記記録制御部は、前記搬送機構に複数の用紙を順に搬送させ、画像データに基づいて前記吐出ヘッドからインクを吐出させて用紙ごとに画像形成を行うと共に、前記フラッシング制御部は、前記所定の位置を通過する用紙の時間間隔と当該時間間隔に対応した係数との積を導出し、前記用紙センサが用紙の先端を検出するごとに、導出した積を加算していくと共に、前記積の導出に際して、前記時間間隔が小さいほど前記係数を小さく設定し、前記積の加算値が閾値を超えた場合には、前記フラッシング動作を行ってもよい。
【0023】
また、本発明においては、前記フラッシング制御部は、前記積の加算値が閾値を超えた場合には、前記積の加算値の初期化を行ってもよい。また、前記フラッシング制御部は、前記フラッシング動作を前回実行してから次に実行するまでの印字可能時間を、前記時間間隔が短いほど長く設定してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、ページ単位の画像形成同士の時間間隔が小さいほど、フラッシング動作間の期間である印字可能期間においてページ単位の画像形成が多く行われるようにフラッシング動作が実行される。したがって、画像形成同士の時間間隔が小さく、記録品質が低下しにくい場合には、多くの画像形成を行ってから次のフラッシング動作が実行されるため、フラッシング動作を無駄に実行して液体や電力を浪費するのが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態である第1実施形態に係るインクジェットヘッドが適用されるインクジェットプリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】図1のインクジェットヘッド及びその吐出面を被覆するキャップ部の側面図である。
【図3】インクジェットヘッドの下部構造を構成する流路ユニットの平面図である。
【図4】制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】図4の記録制御部及びフラッシング制御部のより詳細な構成を示すブロック図である。
【図6】画像ドットを形成するように指示するデータと画像ドットを形成しないように指示するデータとが並んだデータ列において、後者のデータが、非画像ドットを形成するように指示するデータに変更される状況を示す模式図である。
【図7】加算値を算出するために用いる係数を与える関数を示すグラフである。
【図8】変更前後における記録モードの序列を示す模式図である。
【図9】記録処理及びフラッシング制御処理の一連の工程を示すフローチャートである。
【図10】第2実施形態に係る制御系のブロック図である。
【図11】第3実施形態に係るヘッド周辺の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
(第1実施形態)
先ず、図1及び図2を参照し、本発明の第1実施形態に係るインクジェット式プリンタ1の全体構成について説明する。
【0028】
プリンタ1は、直方体形状の筐体1aを有する。筐体1aの天板上部には、排紙部31が設けられている。以下の説明上、筐体1aの内部空間を上から順に空間A,B,Cと区分する。空間A及びBは、排紙部31に連なる用紙搬送経路が形成された空間である。空間Aでは、用紙P又はP’の搬送と用紙P又はP’への画像の記録が行われる。空間Bでは、給紙に係る動作が行われる。空間Cには、インク供給源としてのインクカートリッジ40が収容されている。
【0029】
空間Aには、4つのインクジェットヘッド2(以下、ヘッド2とする)、ヘッド2の吐出面2aを被覆するキャップ部50(キャップ手段;図2参照)、用紙P又はP’を搬送する搬送ユニット21(搬送機構)、用紙P又はP’をガイドするガイドユニット等が配置されている。空間A内には、これらの機構を含めたプリンタ1各部の動作を制御して、プリンタ1全体の動作を司る制御部100が配置されている。また、プリンタ1内の環境条件を検出する環境センサ141が設置されている。環境センサ141は、温度センサ及び湿度センサを有している。環境センサ141の検出結果は制御部100に入力される。
【0030】
制御部100は、外部から供給された印刷ジョブデータ(画像データ)に基づいて、用紙P又はP’に画像が記録されるよう、記録に係わる準備動作、用紙P又はP’の供給・搬送・排出動作、用紙P又はP’の搬送に同期したインク吐出動作等を制御する。
【0031】
制御部100は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)に加えて、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory:不揮発性RAMを含む)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit )、I/F(Interface)、I/O(Input/Output Port)等を有する。ROMには、CPUが実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。RAMには、プログラム実行時に必要なデータ(例えば画像データ)が一時的に記憶される。ASICでは、画像データの書き換え、並び替え等(信号処理や画像処理)が行われる。I/Fは、上位装置とのデータ送受信を行う。I/Oは、各種センサの検出信号の入力/出力を行う。後述の図5及び図6に示す制御系の構成は、これらのハードウェアやROM等に格納されたソフトウェアが互いに協働することにより構築されている。あるいは、図5及び図6に示す機能部の機能に特化した専用回路等が適宜設けられていてもよい。
【0032】
搬送ユニット21は、図1に示すように、ベルトローラ6,7及び両ローラ6,7間に巻回されたエンドレスの搬送ベルト8に加え、搬送ベルト8の外側に配置されたニップローラ4及び剥離プレート5、搬送ベルト8の内側に配置されたプラテン9、テンションローラ10等を有する。
【0033】
ベルトローラ7は、駆動ローラであって、搬送モータ19の駆動により回転し、図1中時計回りに回転する。ベルトローラ7の回転に伴い、搬送ベルト8が図1中の太矢印方向に走行する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、搬送ベルト8が走行するのに伴って、図1中時計回りに回転する。ニップローラ4は、ベルトローラ6に対向配置され、上流側ガイド部(後述)から供給された用紙P又はP’を搬送ベルト8の外周面8aに押さえつける。剥離プレート5は、ベルトローラ7に対向配置され、用紙P又はP’を外周面8aから剥離して下流側ガイド部(後述)へと導く。プラテン9は、4つのヘッド2に対向配置され、搬送ベルト8のループ上部を内側から支える。テンションローラ10は、搬送ベルト8のループ下部を外側に向かって付勢する。
【0034】
ガイドユニットは、搬送ユニット21を挟んで配置された、上流側ガイド部及び下流側ガイド部を含む。上流側ガイド部は、2つのガイド27a,27b及び一対の送りローラ26を有し、給紙ユニット1b(後述)と搬送ユニット21とを繋ぐ。下流側ガイド部は、2つのガイド29a,29b及び二対の送りローラ28を有し、搬送ユニット21と排紙部31とを繋ぐ。
【0035】
各ヘッド2は、主走査方向に長尺な略直方体形状のラインヘッドである。ヘッド2は、流路ユニット12及び8つのアクチュエータユニット17(図3参照)を含む。画像記録に際して、4つのヘッド2の下面(吐出面2a)からはそれぞれマゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクが吐出される。ヘッド2のより具体的な構成については後に詳述する。4つのヘッド2は、副走査方向に所定ピッチで並び、ヘッドフレーム3に固定されている。
【0036】
ヘッドフレーム3は、上下方向に移動可能にヘッド移動ユニット32に支持されている。ヘッド移動ユニット32は、駆動モータ、駆動モータの回転駆動力をヘッドフレーム3に伝達するラックアンドピニオン等(不図示)を有しており、ヘッドフレーム3を介してヘッド2を上下方向に移動させる。これにより、ヘッド2は、搬送ベルト8の外周面8aとの間に、画像記録に適した所定の間隙が形成される記録位置と、記録位置より上方に退避した退避位置とを選択的に取る。
【0037】
用紙センサ142が、用紙搬送経路(後述)に関して、ヘッドフレーム3の上流側に配置されている。用紙センサ142は、搬送ベルト8上を用紙の先端が通過したか否かを検出し、その検出結果を制御部100へと送信する。この検出結果は、後述のとおり、制御部100において、ヘッド2からのインク吐出と用紙搬送とを確実に同期させるために用いられる。
【0038】
ヘッドフレーム3には、図2に示すように、ヘッド2の下端外周を囲むキャップ部50が設けられている。キャップ部50は、ゴム等の弾性材料からなり、平面視で吐出面2aの外周を囲む環形状を有する。キャップ部50の下端には、断面視逆三角形状の突出部50aが形成されている。
【0039】
キャップ部50は、キャップ移動ユニット51(キャップ移動手段)により上下に昇降可能である。キャップ移動ユニット51は、複数のギア51Gと、これらギア51Gを駆動する駆動モータ(不図示)とを有しており、これらのギア51Gの駆動によりキャップ部50が鉛直方向に昇降する。この昇降によって、キャップ部50は、突出部50aが吐出面2aよりも上方に位置する上昇位置(破線の位置)と、突出部50aが吐出面2aよりも下方に位置する下降位置(実線の位置)とを取り得る。ヘッド2が記録位置にあるときに、キャップ部50が下降位置に配置されると、図2に示すように、突出部50aが搬送ベルト8の外周面8aと当接する。
【0040】
制御部100(後述のヘッド保護制御部104)は、キャッピング中にはキャップ部50が下降位置を取り、キャッピングを行わないときはキャップ部50が上昇位置を取るように、キャップ移動ユニット51を制御する。キャッピング中、図2に示すように、外周面8aに突出部50aの先端が当接することによって吐出面2aを封止する。すなわち、吐出面2aと表面8aとの間に形成される封止空間V1が、外部空間V2から隔離される。これにより、吐出面2aの吐出口11近傍におけるインクの乾燥が抑制される。このときのキャップ部50の位置が、本発明における封止位置に対応する。一方、制御部100が、キャップ部50が上昇位置を取るように、キャップ移動ユニット51を制御することで、封止空間V1が、外部空間V2に開放される。このときのキャップ部50の位置が、本発明における離隔位置である。
【0041】
空間Bには、給紙ユニット1bが配置されている。給紙ユニット1bは、給紙トレイ23a及び23b、並びに、給紙ローラ25a及び25bを有している。給紙トレイ23aは縦方向(長尺方向)に所定の長さを有する用紙Pを収容し、給紙トレイ23bは縦方向に用紙Pより長い用紙P’を収容する。給紙トレイ23a及び23bは、それぞれ筐体1aに対して着脱可能である。給紙トレイ23a及び23bは、上方に開口する箱である。給紙ローラ25aは、給紙トレイ23a内で最も上方にある用紙Pを送り出し、上流側ガイド部に供給する。給紙ローラ25bは、給紙トレイ23b内で最も上方にある用紙P’を送り出し、上流側ガイド部に供給する。
【0042】
空間A及びBには、上述のように、給紙ユニット1bから搬送ユニット21を介して排紙部31に至る用紙搬送経路が形成されている。制御部100が記録指令に基づいて給紙ローラ25a又は25b、送りローラ26、28、搬送モータ19等を駆動すると、給紙トレイ23a又は23bから用紙Pが送り出される。用紙Pは、送りローラ26によって、搬送ユニット21に供給される。用紙Pが各ヘッド2の真下を副走査方向に通過する際、各吐出面2aからインクが吐出されて、用紙P上にカラー画像が記録される。用紙Pは、その後剥離プレート5により剥離され、2つの送りローラ28によって上方に搬送される。さらに用紙Pは、上方の開口30から排紙部31に排出される。このように、送りローラ26、28及び搬送ユニット21が本発明における搬送手段に対応する。なお、副走査方向とは、搬送ユニット21による用紙Pの搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは、水平面に平行且つ副走査方向に直交する方向である。
【0043】
本実施形態では、複数種類の記録モードを選択可能である。表1は、このような3つの記録モードを採用した一例である。搬送速度が、互いに異なる。モードAでは、用紙P又はP’が、印字間隔t1となる速度で搬送される。同様に、用紙P又はP’は、モードBでは印字間隔t2、モードCでは印字間隔t3となる速度で搬送される。各印字間隔には、t1<t2<t3の大小関係がある。ここで、印字間隔tとは、例えば、用紙Pへの印字開始時点から、これに続く用紙Pへの印字開始時点までの時間間隔であって、ちょうど、用紙センサ142が出力する用紙先端の検出信号同士の時間間隔に相当する。
【表1】

【0044】
空間Cには、インクユニット1cが筐体1aに対して着脱可能に配置されている。インクユニット1cは、カートリッジトレイ35、及び、トレイ35内に並ぶ4つのカートリッジ40を有する。各カートリッジ40は、インクチューブを介して、対応するヘッド2にインクを供給する。
【0045】
次に、図2及び図3を参照し、ヘッド2及びその付帯機構の構成についてより詳細に説明する。本実施の形態では、加湿機構が付帯機構である。加湿機構は、図2に示すように、キャップ部50に加え、加湿器55、エアチューブ56、2つの空気流路2bが含まれる。加湿器55は、加湿空気を生成し、一方向に送り出す。エアチューブ56は、加湿器55とキャップ部50が作る封止空間V1とを、加湿空気が循環可能に接続する。空気流路2bは、ヘッド2の下部構造体(後述)の側壁に沿って配置され、封止空間V1に連通している。空気流路2bの外側端部に、エアチューブ56のヘッド側端部が接続している。加湿時は、図中矢印に沿って加湿空気が流れる。
【0046】
ヘッド2は、インクのリザーバとして機能する上部構造体と、上部構造体からのインクが供給される下部構造体とを有している。上部構造体には、カートリッジ40から供給されたインクが収容される。下部構造体は、図3に示すように、流路ユニット12、及び、アクチュエータユニット17を有している。流路ユニット12の上面12xには、開口12yが形成されている。上部構造体からのインクは、開口12yを通じて流路ユニット12内へと流れ込む。流路ユニット12の下面は、吐出面2aである。吐出面2aには、インクを吐出する複数の吐出口11(図2参照)が形成されている。流路ユニット12の内部には、開口12yから吐出口11に繋がるインク流路が形成されている。当該インク流路は、図3に示すように、開口12yを一端とするマニホールド流路13、マニホールド流路13から分岐した副マニホールド流路13a、及び、副マニホールド流路13aの出口から吐出口11に至る個別インク流路を含む。
【0047】
流路ユニット12の上面12xには、8つのアクチュエータユニット17が貼り付けられている。アクチュエータユニット17は、図3に示すように、それぞれ台形の平面形状を有し、上面12xにおいて2列の千鳥状に配置されている。制御部100、ドライバIC42及びアクチュエータユニット17は、FPC41によって互いに接続されている。アクチュエータユニット17には、制御部100からの制御指令に基づいてドライバIC42から駆動信号が供給される。
【0048】
FPC41は、アクチュエータユニット17ごとに設けられた平型柔軟基板であり、ドライバIC42が実装されている。ドライバIC42から駆動信号が供給されると、アクチュエータユニット17は、個別インク流路内のインクに個別に圧力を印加する。これにより、個別インク流路内のインクは、吐出口11から吐出される。
【0049】
以下、制御部100の構成について、図4〜図8を参照しつつ、より詳細に説明する。まず、画像データに基づいて用紙P又はP’上に画像を形成する制御を行う構成について説明する。
【0050】
制御部100は、画像形成を制御する構成として、図4に示すように、画像データ記憶部102、記録モード管理部110、記録制御部120(記録制御手段)、ヘッド制御部105及び搬送制御部106を有している。印刷ジョブデータが外部から供給されると、その中に含まれる画像データが画像データ記憶部102に格納される。印刷ジョブデータは、画像データの他、その印刷ジョブにおいてユーザが指定した印刷条件を示すデータ(条件データ)を含んでいる。条件データには、記録モードデータ、用紙種類データ及び用紙枚数データ等が含まれる。記録モードデータは、モードA〜C(表1参照)のいずれかを指示する。用紙種類データは、用紙P及びP’のいずれを使用するかを指示する。用紙枚数データは、画像を形成する用紙の枚数を指示する。
【0051】
記録モード管理部110はモード記憶部111(モード記憶手段)を有している。上記の条件データは、画像データに関連付けてモード記憶部111に記憶される。制御部100は、印刷ジョブデータが複数供給されると、その供給順に、画像データ記憶部102及びモード記憶部111へとデータを格納する。記録モード管理部110は、モード序列記憶部112(序列記憶手段)を有しており、記録モード等が格納された順番に対応する序列を記憶する(図8参照)。
【0052】
記録制御部120は、条件データと画像データとに基づいて画像形成を制御する。記録制御部120は、モード記憶部111及び画像データ記憶部102から、条件データ及び画像データを、モード序列記憶部112が記憶した序列に応じた順序で読み出す。そして、読み出した条件データ及び画像データに基づいて、ヘッド制御部105及び搬送制御部106へと制御指令を送信する。
【0053】
搬送制御部106への制御指令は、用紙種類データに対応する用紙P又はP’を、用紙枚数データに対応する枚数分、記録モードに応じた速さ(時間間隔)で、給紙、搬送及び排紙するように指示するデータである。搬送制御部106は、この制御指令に従って、給紙ユニット1b、送りローラ26、搬送ユニット21及び送りローラ28を制御する。
【0054】
ヘッド制御部105への制御指令は、吐出口11からインク滴を吐出して、各用紙に画像を所定の順で形成するように指示するデータである。画像は、画像データに基づく画像ドットに加え、紙上フラッシングデータに基づく非画像ドットから構成される。ヘッド制御部105は、この制御指令に従って、各ヘッド2の印字データ(画像データ及び紙上フラッシングデータ)に基づく吐出制御を行う。なお、非画像ドットは、画像ドットの合間に形成されるドットであって、吐出特性を維持するために形成される。また、搬送制御部106及びヘッド制御部105による各制御は、用紙センサ142からの信号に同期している。
【0055】
制御部100は、画像形成終了後の保護動作を制御する構成として、ヘッド保護制御部104を有している。保護動作は、吐出口11のメニスカスの乾燥を防ぐ動作で、加湿動作とキャッピングからなる。ヘッド保護制御部104は、キャップ移動ユニット51を制御して、吐出面2aを封止(キャッピング)する。さらにヘッド保護制御部104は、加湿器55を制御して、このとき作られた封止空間V1内を加湿する。
【0056】
記録制御部120の構成について、より詳細に説明する。記録制御部120は、図5(a)に示すように、画像ドットの形成に関わる画像ドット形成部121(画像ドット形成制御手段)と、非画像ドットの形成に関わる非画像ドット形成部122(非画像ドット形成制御手段)とを有している。画像ドット形成部121は、画像ドットを用紙上に形成する指示を生成する。これは、画像データに基づいて行われる。非画像ドット形成部122は、非画像ドットを用紙上に形成する指示を生成する。これは、紙上フラッシングデータに基づいて行われる。非画像ドットは、画像ドットよりも十分に小さく、用紙上に形成されても肉眼では視認されにくい。
【0057】
具体的には、非画像ドット形成部122は、画像データを吐出口11ごとに照会し、各吐出口11において画像ドットを形成しない期間(不吐出期間)が所定の長さを超えた場合に、その期間内に少なくとも1回、非画像ドットを形成するようにヘッド制御部105へと制御指令を送信する。この期間内に非画像ドットが形成される回数は、用紙上に形成される画像の品質が低下しない範囲に調整される。例えば、ある1つの吐出口11に関して、図6に示すようなデータ列が画像データに含まれていたとする。図6において、データD1及びD2は、画像ドットの形成に対応するデータであり、データCは、画像ドットの不形成(つまり、空白とすること)に対応するデータである。このとき、非画像ドット形成部122は、データD1からデータD2までデータCの数をカウントする。そして、その数が所定の長さに対応する数を超えた場合、データCのいずれか1つを、非画像ドットを形成するデータE(紙上フラッシングデータ)に変更する。そして、変更したデータに応じた制御指令をヘッド制御部105へと送信する。
【0058】
このように非画像ドットを形成するのは、吐出口11付近のインクの乾燥による吐出性能の低下を抑制するためである。しかしながら、非画像ドットは、画像形成には不要なドットであり、これが目立つと画像の品質が低下する。このため、非画像ドットの大きさや数には、上記のとおり、制限が課される。したがって、非画像ドットの形成のみでは、インクの乾燥による吐出性能の低下を十分に抑制できないおそれがある。
【0059】
そこで、本実施形態には、非画像ドットの形成とは別途、フラッシング動作を実行する構成が設けられている。制御部100は、フラッシング動作を制御する構成として、図4に示すように、フラッシング制御部130(フラッシング制御手段)、ランク情報記憶部101(ランク情報記憶手段)及び吐出状況取得部103(吐出状況取得手段)を有している。
【0060】
ランク情報記憶部101は、ヘッド2ごとにフラッシング動作の条件を調整するためのランク情報を有している。本実施の形態では、製造誤差に対応して制御を行うため、誤差の程度を規定する様々なランク情報を持つ。このうち、吐出特性のバラツキに関与する情報であって、吐出口11の径の寸法情報(設計値に対する実測値の乖離度を示す情報)が、フラッシング条件調整用のランク情報として用いられる。吐出口径(インクの外気と接触する面積)は、吐出特性に関与するが、インクの乾燥のしやすさにも関与する。このランク情報は、各吐出口径の平均値で規定される。なお、各吐出口径は、ストロボ光を吐出口形成板の裏面側より照射し、通過光を表面側で撮影した吐出口像から、所定の画像処理を経て得られる。
【0061】
また、吐出状況取得部103は、フラッシング動作の条件をヘッド2ごとに調整するため、インク吐出の状況を吐出口11ごとに取得する。インク吐出の機会が多いほどインクの乾燥が進みにくく、フラッシング動作の必要性が相対的に下がるからである。具体的には、吐出状況取得部103は、記録制御部120がインク吐出のための制御指令を生成するのを吐出口11ごとに監視する。そして、ドットが形成される回数を吐出口11ごとにカウントする。このカウントは、画像ドット形成時も非画像ドット形成時も行われる。その結果は、フラッシング制御部130へと送信され、後述のとおり、フラッシング動作のタイミングを決定するための演算を制御する際に用いられる。
【0062】
ところで、従来技術によると、フラッシング動作のタイミングを決定するため、印字枚数や印字時間等が所定の条件を満たしたか否かを判定していた。例えば、印字枚数が所定枚数を超えたと判定した場合に、フラッシング動作を実行する。一方で、インクの乾燥のしやすさは、印字間隔tに依存する。印字間隔tが短いと、画像形成の頻度も上がり、インク吐出の機会が多い。そのため、吐出口11付近のインクは、乾燥しにくい。これとは逆に、印字間隔tが長い場合には、画像形成の頻度が下がるため、インクは乾燥しやすい。
【0063】
このような事情にも関わらず、従来技術を適用した場合、印字枚数等の条件が一律に満たされればフラッシング動作を実行する。これでは、印字間隔tが短い場合に、吐出性能が低下していないのにフラッシング動作を実行することになる。このとき、インクや電力を無駄に消費してしまう。また、印字間隔tが長い場合に、吐出性能がしているにも関わらず、一律の条件を満たすまでフラッシング動作を実行しない。そのため、吐出性能の低下に適切に対応できない。このように、印字間隔tが変動しやすい場合、例えば、用紙ごとに変動する場合、従来技術では、吐出性能の低下に適切に対応できないおそれがある。
【0064】
そこで、本実施形態は、印字間隔tが用紙単位で変動しても適切に対応できるように、印字間隔tに応じた係数(評価値)を導入する。この係数は、値が大きいほど、吐出性能が低下しやすいことを示す。例えば、印字間隔tが大きいほど、係数は大きい。ここでは、印字間隔tに関する関数を用いて、係数を導出する。この関数は、環境温度及び環境湿度ごとに導出する。
【0065】
以下、関数の導出方法について説明する。まず、プリンタ1に関して、連続印刷試験を行う。印字間隔tは、ある値に固定され、環境の温度及び湿度が様々に変更される。印刷枚数が増えると吐出特性が変化し、ある枚数では画品質の変化が認識可能となる。このときの枚数を、画品質が維持される限界枚数とする。表2には、温度及び湿度の組み合わせと、限界間数m11〜m33との関係が示されている。
【表2】

【0066】
次に、別の印字間隔tで、同様の試験を実施する。その結果が表3に示されている。
【表3】

【0067】
このように、印字間隔tをパラメータとして、上記の試験を繰り返し実行する。そして、所定の基準値Nを各限界枚数で除算した商を算出する。この商が、本実施形態で用いる係数である。具体例として、ある条件での限界枚数が1000枚であり、別の条件での限界枚数が500枚であったとする。そして、N=1000としたとき、前者の係数は、N/1000=1となり、後者の係数はN/500=2となる。このように、吐出特性の劣化のしやすさが、後者は前者の2倍であることを示すものとなっている。なお、所定の基準値Nは、後述のとおり、フラッシング動作を実行するタイミングを決定するための閾値として使用されるものである。所定の基準値Nは、設計値どおりに構成された標準的なヘッド2(以下、標準設計ヘッドとする)に応じた値として設定される。環境温度及び環境湿度に関する各条件において、印字間隔tを変更した場合の係数が、表4に示されている。
【表4】

【0068】
次に、環境温度及び環境湿度の組み合わせごとに、横軸を印字間隔、縦軸を係数として、表4をグラフ化する。プロットされた点を通る近似曲線を求めることにより、各組み合わせにおける関数を取得する。近似曲線は、1次の曲線(つまり、直線)として求めてもよいし、2次以上の曲線として求めてもよい。
【0069】
図7(a)は、一例として、T1〜T2の温度範囲内において、湿度がH1〜H2、H2〜H3及びH3〜H4のそれぞれの範囲にあるものとして取得された関数のグラフを示している。また、図7(b)は、T2〜T3の温度範囲における同様のグラフを示している。なお、T1>T2>T3>T4、H1<H2<H3<H4の関係がある。また、図7(a)及び図7(b)の関数は、2次以上の曲線として求められている。
【0070】
このように取得された関数は、以下の(1)〜(4)の特性を備えている。図7(a)及び図7(b)に示すように、(1)印字間隔tに対して、関数の値(係数)が単調増加する。これは、印字間隔tが大きくなると、インク吐出の機会が実効的に減り、特性劣化が進みやすくなることに対応する。(2)印字間隔tに対して、環境湿度が低くなると、関数の値(係数)が大きくなる。これは、低湿ほどインクが乾燥しやすく、吐出性能が低下しやすいことに対応する。(3)印字間隔tに対して、環境温度が高くなると、関数の値(係数)が大きくなる。これは、高温ほどインクが乾燥しやすく、吐出性能が低下しやすいことに対応する。(4)条件により、係数が負となる。正の係数は吐出性能の低下に対応し、負の係数は性能の回復に対応する。絶対値は、変化の度合いに相当する。印字間隔tが十分に小さいと、性能が劣化しないばかりか、これが回復する場合もある。
【0071】
以上より、これらの関数を用いてフラッシング動作の実行タイミングを決定する際、印字間隔tが大きく、湿度が低く、温度が高いほど、次の実行タイミングまでの期間(印字可能期間)を短くする。
【0072】
以上のように取得された関数を使用してフラッシング動作を実行するため、フラッシング制御部130は、図5(b)に示すように、関数記憶部131(関数情報記憶手段)、数値記憶部132(数値記憶手段)、数値初期化部133(初期化手段)、加算部134(導出手段)、演算制御部135、フラッシング指示部136及び間隔条件補正部137を有している。
【0073】
関数記憶部131は、図7(a)及び図7(b)に対応する関数を示す情報を、環境温度及び環境湿度に関連付けて記憶している。数値記憶部132は、フラッシング動作を実行するタイミングを判定するための数値を記憶している。数値初期化部133は、数値記憶部132に記憶されている数値を初期化、すなわち、0(ゼロ)とする。加算部134は、1枚の用紙に画像形成がなされるたびに、関数記憶部131が記憶している関数情報に基づいて、数値記憶部132に記憶されている数値に加算するべき加算値を導出する。
【0074】
次に、加算部134による数値の加算について、一例を説明する。加算に際して、環境の温度及び湿度が、環境センサ141により検出される。加算部134は、この温度及び湿度に基づいて、対応する関数を関数記憶部131から取得し、モード記憶部111が記憶する記録モードデータから、印字間隔tを取得する。加算部134は、これら2つの情報から係数を導出し、これを数値記憶部132の数値に加える。例えば、温度がT1〜T2の範囲内であり、湿度がH1〜H2の範囲内であり、記録モードがBであったとする。このとき、加算部134は、関数記憶部131からパラメータが湿度H1〜H2の関数を、モード記憶部111からは記録モードBにける印字間隔t=t2をそれぞれ取得する。そして、加算部134は、係数値F(図7(a)参照)を導出し、これを数値記憶部132の数値に加える。
【0075】
演算制御部135は、加算部134による加算及び数値初期化部133による初期化を制御する。これらの処理は、各吐出口11からのインクの吐出状況に基づいて行われる。吐出状況とは、各吐出口11が1枚の用紙に形成するドット数に相当する。この情報(吐出情報)は、上述のように、吐出状況取得部103が出力する。演算制御部135は、1枚の用紙への画像形成がなされる毎に、全吐出口11に関する吐出状況(形成ドット数)を照会する。続いて、演算制御部135は、形成ドット数と閾値A及び閾値B(>閾値A)との大小を判定する。
【0076】
形成ドット数が、少なくとも1つの吐出口11に関して閾値A(第1の閾値)未満である場合、演算制御部135は、加算部134に加算を実行させる。形成ドット数が、全ての吐出口11に関して閾値A以上であって、少なくともいずれかの吐出口11に関して閾値B(第2の閾値)未満である場合には、演算制御部135は、加算部134に加算を中止させる。これは、いずれの吐出口11においてもある程度インク吐出の機会が確保されたため、特性劣化がほとんど進まないことに応じている。また、形成ドット数が、全ての吐出口11に関して閾値B以上である場合には、演算制御部135は、加算値に加算を中止させるのみならず、数値記憶部132の数値を数値初期化部133に初期化させる。これは、吐出性能が回復するほどインク吐出の機会が確保されたと考えられ、フラッシング動作を実行する必要性が一旦なくなったことに応じている。
【0077】
例えば、本実施の形態では、A4サイズの用紙に解像度600dpiで縦にして画像形成する場合、縦方向全長が約7000ドット分に相当することから、閾値Aとして2000ドット、閾値Bとして5000ドットが設定されている。
【0078】
フラッシング指示部136は、数値記憶部132が記憶している数値が所定の基準値Nを超えたか否かを判定する。数値記憶部132の数値は、係数を加算した結果に相当する。この係数は、上記のとおり、印字間隔tに応じた限界枚数で基準値Nを除算した値である。したがって、加算値が基準値Nを超すと、限界枚数以上の用紙に画像が形成されたことになる。そこで、フラッシング指示部136は、数値が基準値Nを超したと判定すると、その時点をフラッシング動作の実行タイミングとして設定する。フラッシング指示部136は、用紙が画像の形成途中にあれば、この用紙への画像形成及びその排出を待って、次の用紙の給紙、搬送の一旦停止を指示する。この制御指令は、搬送制御部106に出力される。これにより、ヘッド2に対向する領域(インクが着弾する位置)が、用紙の存在しない状態になる。そして、フラッシング指示部136は、フラッシングを実行する指示を出力する。この制御指令は、ヘッド制御部105へと送信される。このとき、全てのヘッド2の全ての吐出口11から、所定量のインクが搬送ベルト8の外表面8aに吐出される。
【0079】
間隔条件補正部137は、所定の基準値Nを、ランク情報記憶部101に格納されたランク情報に基づいて補正する。所定の基準値Nは、上記のとおり、標準設計ヘッドに対応して設定されている。一方で、インク流路の寸法が標準設計ヘッドと異なる場合、インクの乾燥しやすさも異なる。そこで、間隔条件補正部137は、ランク情報に応じて、所定の基準値Nを補正値N’に補正する。ランク情報が乾燥しやすいことを示せば、補正値N’は補正値Nより小さく設定される。ランク情報が乾燥しにくいことを示せば、補正値N’は補正値Nより大きく設定される。N’とNの差は、ランクによる。フラッシング指示部136は、補正値N’に基づいてフラッシング動作を実行するタイミングを決定する。
【0080】
フラッシング制御部130は、画像データ記憶部102に格納された全ての画像データに関して画像形成が完了すると、キャップ移動ユニット51がキャップ部50を移動させる前に、もう1度フラッシング動作を実行する。フラッシング制御部130は、この時点で数値記憶部132が記憶する数値を照会する。フラッシング制御部130は、数値の大小に応じてフラッシング時のインク吐出回数を設定する。吐出回数は、数値が大きいほど多いが、上述の各実行タイミングでの吐出回数以下である。このフラッシング動作に関する制御指令は、ヘッド制御部105に出力される。そして、インク吐出が完了した後、ヘッド保護制御部104へとインク吐出完了を示す信号を送信する。ヘッド保護制御部104は、この信号を受信してから、キャップ移動ユニット51及び加湿器55の駆動を開始する。
【0081】
以上のように、フラッシング制御部130は、上記(1)〜(4)の特性を備えた関数を用いてフラッシング動作の実行タイミングを決定する。したがって、フラッシング制御部130による制御は、(1)〜(4)に対応した以下の(イ)〜(ニ)の特性を有する。(イ)印字間隔tが大きいほど、次にフラッシング動作を実行するタイミングが早まる。(ロ)印字間隔tが大きいほど、フラッシング動作を実行する時間間隔(印字可能期間)が短くなる。(ハ)印字間隔tがある程度短ければ吐出性能が回復するとみなされ、数値記憶部132の数値が減少する。(ニ)環境温度が高いほど、また、環境湿度が低いほど、次にフラッシング動作を実行するタイミングが早まる。
【0082】
特に、上記(ハ)の特性に基づき、本実施形態は、フラッシング動作をより効率的に実行するように以下のように構成されている。記録モード管理部110は、序列変更部113(序列変更手段)を有している。序列変更部113は、モード序列記憶部112に格納された記録モードの序列を変更する。外部から複数の印刷ジョブデータが供給されている場合、モード序列記憶部112には、その供給順に記録モードの序列が記憶されている。序列変更部113は、その記録モードの序列を、印字間隔tの小さいものを先頭にして、なるべく印字間隔tの小さいものと印字間隔tの大きいものとが交互に並ぶように序列を変更する。
【0083】
例えば、図8(a)に示すように、3つの記録モードの序列がB→B→Aの順であったとする。印字間隔tで示すと、t2→t2→t1の順である。この場合、序列変更部113は、記録モードの序列を、記録モードAが2つの記録モードBの前に配置されるように変更する。また、図8(b)に示すように、3つの記録モードの序列がC→B→Aの順であったとする。印字間隔tで示すと、t3→t2→t1の順である。この場合、序列変更部113は、記録モードの序列を、記録モードAが記録モードC及びBの前に配置されるように変更する。これにより、記録モードが、印字間隔tが小さいもの(t1)→印字間隔tが大きいもの(t3)→印字間隔tが小さいもの(t2)の順に、交互に並ぶこととなる。
【0084】
図7(a)及び図7(b)に示すように、本実施形態で用いる関数には、印字間隔tがある程度小さいと、負の係数を与えるものがある。このとき、その画像形成によって、吐出性能が回復する蓋然性が高い。印字間隔の小さい画像形成の序列を先に変更すれば、後の画像形成がより良好な吐出特性の下で行われるので、序列の変更前と比べて、フラッシング動作が実行されずに済む可能性が高くなる。また、印字間隔が小さい画像形成と印字間隔が大きい画像形成とを交互に実行するように序列を変更する場合、印字間隔が大きい画像形成をそれぞれ実行する前に吐出性能が回復される蓋然性が高くなるので、全体として、フラッシング動作が実行されずに済む可能性が高くなる。
【0085】
以下、印刷ジョブデータの供給から保護動作に至る一連の処理工程について、図9に基づいて説明する。まず、ステップS1において、序列変更部113が、モード序列記憶部112に格納された記録モードの序列を、印字間隔の小さいものが前に配置されるように変更する。そして、間隔条件補正部137が、フラッシング動作のタイミングを決定する基準となる所定の基準値Nを、ランク情報記憶部101に格納されたランク情報に基づいて補正する(ステップS2)。ここで、所定の基準値Nが補正値N’に補正された場合、以下においては補正値N’が所定の基準値Nの代わりに用いられる。
【0086】
次に、数値初期化部133が、数値記憶部132の数値を初期化する(ステップS3)。ステップS4以降では、モード序列記憶部112に格納された記録モードの序列に応じた順序で画像形成が実行される。まず、記録制御部120が、モード記憶部111に格納された条件データに基づき、印字間隔、用紙の種類、用紙の枚数等の印刷条件を取得する(ステップS4)。そして、取得した印字条件に基づいて、画像データ記憶部102に記憶された画像データに応じた画像を1枚の用紙P又は用紙P’に形成するように、ヘッド制御部105及び搬送制御部106へと制御指令を送信する(ステップS5)。
【0087】
次に、吐出状況取得部103が、吐出口11ごとの吐出状況を記録制御部120から取得する(ステップS6)。そして、演算制御部135が、少なくともいずれかの吐出口11に関して吐出回数が閾値A未満であると判定した場合(ステップS7、Yes)、加算部134が加算値を導出する(ステップS8)と共に、数値記憶部132の数値に加算値を加算する(ステップS9)。一方、ステップS7において、全ての吐出口11に関して吐出回数が閾値A以上であると判定した場合(ステップS7、No)、演算制御部135は、少なくともいずれかの吐出口11に関して吐出回数が閾値B未満であるか否かを判定する(ステップS17)。そして、少なくともいずれかの吐出口11に関して吐出回数が閾値B未満であると判定した場合(ステップS17、Yes)、演算制御部135は、加算部134に加算を行わせず、ステップS10の処理に移る。一方、全ての吐出口11に関して吐出回数が閾値B以上であると判定した場合(ステップS17、No)、演算制御部135は、ステップS12の処理(数値初期化部133による数値記憶部132の数値の初期化)に移る。
【0088】
ステップS10において、フラッシング指示部136は、数値記憶部132の数値がNを超えたか否かを判定し(ステップS10)、超えたと判定した場合(ステップS10,Yes)には、フラッシング動作を実行するように指示する制御指令をヘッド制御部105及び搬送制御部106へと送信する(ステップS11)。そして、数値初期化部133が数値記憶部132の数値を初期化する(ステップS12)。一方、数値記憶部132の数値がN以下であると判定した場合には(ステップS10、No)、ステップS13の処理に移る。
【0089】
ステップS13において、記録制御部120は、現在の印刷ジョブにおいて、画像を形成すべきページがまだ残っているか否か判定し、まだ残っていると判定した場合(ステップS13、Yes)には、ステップS5の処理に移る。画像を形成すべきページが残っていないと判定した場合(ステップS13、No)には、ステップS14の処理に移る。次に、記録制御部120は、画像形成をするべき印刷ジョブデータが残っているか否かを判定し(ステップS14)、まだ残っていると判定した場合(ステップS14、Yes)には、ステップS4の処理に移る。画像を形成すべき印刷ジョブデータが残っていないと判定した場合(ステップS14、No)には、ステップS15の処理に移る。そして、フラッシング制御部130が、この時点で数値記憶部132に記憶されている数値に基づき、フラッシングを実行するようにヘッド制御部105へと制御指令を送る(ステップS15)。その後、フラッシング制御部130から送られた信号に基づき、ヘッド保護制御部104がキャップ移動ユニット51及び加湿器55を駆動して、ヘッド2のキャッピング及びこれにより形成される封止空間V1の加湿を実行する(ステップS16)。
【0090】
以上説明した本実施形態によると、印字間隔が小さいほど加算部134が加算する係数が小さいため、数値記憶部132の数値が所定の基準値Nに達するまでに多くの用紙に画像形成が行われる。したがって、印字間隔が小さく、画像の品質が低下しにくい場合には、多くの画像形成を行ってから次のフラッシング動作が実行されるため、フラッシング動作を無駄に実行して液体や電力を浪費するのが回避される。逆に、印字間隔が大きいほど、次にフラッシング動作を実行するまでに行われる画像形成が少なくなる。したがって、吐出性能の低下しやすさに応じて適切にフラッシング動作を確保できる。さらに、本実施形態では、印字間隔が小さいほどフラッシング動作までの時間間隔が長くなり、印字間隔が大きいほどフラッシング動作までの時間間隔が短くなる。したがって、無駄なフラッシング動作をより確実に回避できると共に、吐出性能の低下に応じて必要なフラッシング動作を確保できる。
【0091】
また、本実施形態によると、全ての画像形成が完了した後でフラッシング動作を実行する際、数値記憶部132がその時点で記憶する数値に応じた量のインクを吐出するようにフラッシング動作を実行する。このため、フラッシングに伴う液体や電力の浪費が回避されると共に、フラッシング動作に応じて必要な吐出量を確保できる。
【0092】
また、本実施形態では、吐出口11ごとの実際の吐出状況に応じて、演算制御部135が加算部134による加算を行うか否かを決定する。例えば、インク吐出の機会が多い場合(図9のステップS7、No)には加算が行われない。したがって、次にフラッシング動作が実行されるまでの期間が長くなり、フラッシング動作を無駄に実行することが回避される。また、さらにインク吐出の機会が多い場合(図9のステップS17、No)には、数値記憶部132の数値が初期化される。これにより、フラッシング動作を無駄に実行することがより効果的に回避される。
【0093】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について図10を参照しつつ説明する。第2実施形態において第1実施形態と異なるのは、関数記憶部231及び加算部234の構成のみであるため、以下ではこれらについて説明し、その他の構成については説明を省略する。関数記憶部231は、環境温度及び湿度ごとの関数に加えて、用紙の種類ごとの関数をも記憶している。具体的には、関数記憶部231は、用紙Pと、用紙Pより縦方向(用紙搬送方向)に関して長い用紙P’とに応じて関数を記憶している。いずれの関数も、上記(1)〜(4)の特性と共に、以下の(5)及び(6)の特性を備えている。(5)用紙搬送方向に関して用紙が短いほど、同じ印字間隔tに対して係数が大きい。これは、同じ印字間隔tで搬送される場合、短い用紙の方が、長い用紙に比べて、インク吐出の機会が少ないことに対応している。(6)用紙搬送方向に関して用紙が長いほど、同じ印字間隔tに対してフラッシング動作までの時間間隔が長くなるような係数を与える。これは、同じ印字間隔tで搬送される場合、長い用紙ほどインク吐出の機会が多く、フラッシング動作が必要となるタイミングが後になることに対応している。
【0094】
加算部234は、第1実施形態と異なり、記録モードから印字間隔を取得するのではなく、用紙センサ142からの検出結果に基づいて印字間隔を取得する。加算部234は、用紙センサ142から用紙の先端検出信号が出力される度に、前回の信号出力時点から今回の信号出力時点までの時間間隔を導出する。次に、加算部234は、モード記憶部111に格納された用紙種類データに応じた関数を関数記憶部231から取得する。次に、加算部234は、取得した関数に基づいて、上記時間間隔に応じた係数を導出する。そして、導出した係数と時間間隔との積を算出すると共に、その積を数値記憶部132の数値に加算していく。
【0095】
第2実施形態によると、用紙センサ142の検出結果に基づいて印字間隔を取得し、その印字間隔に基づいてフラッシング動作を実行できる。また、用紙の種類に応じて係数が設定されており、例えば、用紙が長く、インク吐出の機会が多いほどフラッシング動作の時間間隔が長くなる。これにより、用紙の長さに応じて無駄なフラッシング動作を回避できると共に、必要なフラッシング動作を適切に確保できる。
【0096】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態について図11を参照しつつ説明する。以下においては、主に、第1実施形態及び第2実施形態と異なる構成について説明し、その他の構成については説明を省略する。第3実施形態では、所定のサイズにカットされた用紙Pや用紙P’ではなく、用紙搬送方向に関して連続したロール紙Pnを用いることを想定している。第3実施形態において、制御部300に設けられた記録制御部320は、ページごとの画像形成同士の時間間隔が所定の長さとなるようにヘッド2を制御すると共に、当該時間間隔に対応する速度でロール紙Pnを搬送するように搬送ユニット21等を制御する。そして、フラッシング制御部330は、第1実施形態と同様に、当該時間間隔に応じた関数を用いて、フラッシング動作を実行するタイミングを決定する。この場合、第1実施形態において用いた関数をそのまま使用することができる。
【0097】
一方、用紙P等と異なり、ロール紙Pnには切れ目がないため、ヘッド2の下方にロール紙Pnが存在しない状態を実現しにくい。そこで、本実施形態では、フラッシング動作の際にヘッド2から吐出されたインクを受けるプラテン309が用いられる。プラテン309は、主走査方向に関してヘッド2から離隔した位置(図11の位置)とヘッド2の下方の位置との間で主走査方向に沿って移動できる。プラテン309の移動は、フラッシング制御部330によって制御される。
【0098】
フラッシング動作を実行する際、フラッシング制御部330は、まず、搬送ユニット21等を制御して、ロール紙Pnの搬送を一旦停止させる。次に、フラッシング制御部330は、ヘッド移動ユニット32を制御して、ヘッド2を記録位置(図11の破線の位置)から退避位置(図11の実線の位置)へと移動させる。次に、フラッシング制御部330は、主走査方向に関してヘッド2から離隔した位置に待機していたプラテン309を、ヘッド2の下方へと移動させる。そして、フラッシング制御部330は、プラテン309がヘッド2の下方に位置した状態で、所定量のインクを吐出するようにヘッド2を制御する。フラッシング動作が完了すれば、フラッシング制御部330が上記とは逆の流れでヘッド2及びプラテン309を元の位置に戻した後、記録制御部320が画像形成の制御を再開する。
【0099】
なお、プラテン309の代わりに、ヘッド2の吐出面2aをメンテナンスするメンテナンスユニットを用いてもよい。また、用紙搬送方向に関してヘッド2より上流側にロール紙Pnを切断するカッタを設け、フラッシング動作を実行する際にロール紙Pnを切断すると共にロール紙Pnにおいて画像形成が完了した下流側の部分を排出することにより、ヘッド2の下方にロール紙Pnが存在しない状態にしてもよい。
【0100】
この変形例では、メンテナンスユニットが、プラテンとプラテンを挟んで吐出面2aに対向配置されたインク受容部材(例えば、スポンジ)とから構成される。プラテンは、印刷中は、吐出面2aと対向配置され、搬送されるロール紙Pnを下から支える。ロール紙Pnは、プラテンを搬送方向両側から挟む2組の搬送ローラにより搬送される。プラテンは、搬送ローラ近傍にこれと平行な回動軸を有する。フラッシング動作時は、回動軸を中心に回動されて、プラテンが吐出面2aから離れる。このとき、インク受容部材は、空間を挟んで吐出面2aと対向すると共に、吐出面2aに所定間隔まで接近される。この状態で、フラッシング動作が行われる。フラッシング完了後は、インク受容部材が吐出面2aから離れ、プラテンが吐出面2aと平行位置に戻される。この構成は、上述のプラテンがヘッド2の側方に配置された構成に比べ、フラッシング処理を短時間で完了できる。
【0101】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0102】
例えば、上述の実施形態では、印字間隔が短くなるほどフラッシング動作の時間間隔が長くなるように関数が設定されている(上記(ロ)の特性参照)。しかしながら、関数の少なくとも一部の範囲では、印字間隔が短くなった際、与える係数は小さくなるが、結果としてフラッシング動作の時間間隔は変わらないように、関数が設定されていてもよい。これは、例えば、関数が、印字間隔の1次曲線(つまり、直線)として近似されている場合であって、その少なくとも一部の範囲において係数が印字間隔に正比例している場合に相当する。
【0103】
また、上述の実施形態では、関数を用いて導出した係数を加算していく場合を想定している。しかし、導出した係数を乗算していく形態に本発明を適用してもよい。例えば、乗算していった数値が所定の基準値を超えたときに、フラッシング動作を実行する。この場合、係数を与える関数は、印字間隔に対して単調増加である。また、係数が1を超える範囲が吐出性能の低下する範囲に相当し、係数が1を下回る範囲が吐出性能の回復する範囲に相当する。
【0104】
本発明に係る液体吐出装置は、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等に適用可能である。また、液体吐出装置に適用されるヘッドの数は4に限定されず、1以上であればよい。ヘッドは、ライン式に限定されず、シリアル式でもよい。さらに、本発明に係るヘッドは、インク以外の液体を吐出してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 インクジェット式プリンタ(プリンタ)
2 インクジェットヘッド(ヘッド)
2a 吐出面
11 吐出口
50 キャップ部
51 キャップ移動ユニット
100 制御部
101 ランク情報記憶部101
103 吐出状況取得部
105 ヘッド制御部
106 搬送制御部
110 記録モード管理部
111 モード記憶部
112 モード序列記憶部
113 序列変更部
120 記録制御部
121 画像ドット形成部
122 非画像ドット形成部
130 フラッシング制御部
131 関数記憶部
132 数値記憶部
133 数値初期化部
134 加算部
135 演算制御部
136 フラッシング指示部
137 間隔条件補正部
141 環境センサ
142 用紙センサ
231 関数記憶部
234 加算部
300 制御部
320 記録制御部
330 フラッシング制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
搬送経路に沿って記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段に記録媒体を搬送させると共に、画像データに基づいて前記液体吐出ヘッドから液体を吐出させることで前記記録媒体に画像を形成する記録制御手段と、
前記搬送手段に記録媒体の搬送を一旦停止させると共に、前記画像形成に関与しない駆動データに基づいて前記液体吐出ヘッドから液体を吐出させるフラッシング動作を実行するフラッシング制御手段とを備えており、
前記フラッシング制御手段は、
前記フラッシング動作を前回実行してから次に実行するまでの期間である印字可能期間において、前記画像データに基づくページ単位の画像形成が、当該ページ単位の画像形成同士の時間間隔が小さいほど多く行われるように、次に前記フラッシング動作を実行するタイミングを決定することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記フラッシング制御手段は、
前記印字可能期間を、前記ページ単位の画像形成同士の時間間隔が小さいほど長く設定することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記フラッシング制御手段が、
前記画像形成同士の時間間隔に係る数値を記憶する数値記憶手段と、
前記数値を初期化する初期化手段と、
前記ページ単位の画像形成が1回完了するごとに、当該画像形成とその1つ前の画像形成との間の前記時間間隔が小さいほど小さい数値を前記数値記憶手段が記憶する数値に対し加算又は乗算する導出手段とを有し、
前記数値記憶手段が記憶する数値が閾値を超えた場合に、前記フラッシング動作を実行すると共に、前記初期化手段が前記数値を初期化することを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記フラッシング制御手段は、前記導出手段が加算又は乗算する数値を与える前記時間間隔に関する関数を示す情報を記憶する関数情報記憶手段を有し、
前記導出手段が、前記関数に基づいて加算値又は乗算値を導出することを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記液体吐出ヘッドにおいて液体を吐出する吐出面を封止した封止位置と、前記吐出面から離隔した離隔位置とを選択的に取るキャップ手段と、
前記記録制御手段による全ての前記画像形成が行われた後に、前記キャップ手段を前記離隔位置から前記封止位置へと移動させるキャップ移動手段とをさらに備えており、
前記フラッシング制御手段は、
前記キャップ移動手段が前記キャップ手段を前記離隔位置から前記封止位置へと移動させる前に、前記記録制御手段による全ての前記画像形成が行われた後の時点で前記フラッシング動作を実行すると共に、
当該フラッシング動作では、前記時点で前記数値記憶手段が記憶する前記数値が大きいほど多くの液体を吐出することを特徴とする請求項3又は4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記液体吐出ヘッドが、液体を吐出する複数の吐出口を有し、
前記画像データに基づく液体の吐出状況を前記吐出口ごとに取得する吐出状況取得手段をさらに備えており、
前記導出手段が、
前記吐出状況取得手段が取得した前記吐出状況に基づいて、前記数値記憶手段が記憶する数値への加算又は乗算を実行するか否かを決定することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記導出手段は、
前記吐出口がそれぞれ記録媒体上に形成するドットの数が、全ての前記吐出口に関して第1の閾値以上であって、少なくともいずれかの前記吐出口に関して前記第1の閾値より大きな値である第2の閾値未満のとき、前記数値への加算又は乗算を行わないと共に、
前記初期化手段は、
前記吐出口がそれぞれ記録媒体上に形成するドットの数が、全ての前記吐出口に関して前記第2の閾値以上のとき、前記数値を初期化することを特徴とする請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記時間間隔と対応付けられた記録モードを記憶するモード記憶手段をさらに備えており、
前記記録制御手段が、前記モード記憶手段が記憶する前記記録モードに対応付けられた前記時間間隔に応じた速度で記録媒体を搬送させると共に、前記液体吐出ヘッドから液体を吐出させて、搬送される記録媒体に対して前記時間間隔で画像形成を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記フラッシング制御手段が、
前記印字可能期間を、前記モード記憶手段が記憶する前記記録モードに対応付けられた前記時間間隔が小さいほど、長く設定することを特徴とする請求項8に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記モード記憶手段が複数の前記記録モードを記憶する場合に、当該複数の記録モードの序列を記憶する序列記憶手段と、
前記序列記憶手段が記憶する前記序列を変更する序列変更手段とをさらに備えており、
前記記録制御手段が、前記序列記憶手段が記憶する前記序列に応じた順序で、前記モード記憶手段が記憶する前記記録モードごとに、当該記録モードに対応付けられた前記時間間隔に応じた速度で記録媒体を搬送させ、
前記序列変更手段は、一の前記記録モードの序列を、当該記録モードに対応付けられた前記時間間隔より大きい前記時間間隔に対応付けられた前記記録モードよりも前に変更することを特徴とする請求項8又は9に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記序列変更手段は、
小さい前記時間間隔に対応付けられた前記記録モードと大きい前記時間間隔に対応付けられた前記記録モードとが交互に並ぶように、一の前記記録モードの序列を、前記大きい前記時間間隔に対応付けられた前記記録モードよりも前に変更することを特徴とする請求項10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記液体吐出ヘッドが、液体を吐出する複数の吐出口を有し、
前記記録制御手段が、所望の画像を構成する画像ドットを記録媒体上に形成するように前記液体吐出ヘッドを制御する画像ドット形成制御手段と、前記所望の画像を構成する画像ドットではない非画像ドットを記録媒体上に形成するように前記液体吐出ヘッドを制御する非画像ドット形成制御手段とを有し、
前記非画像ドット形成制御手段が、
前記画像ドット用の液体を吐出しない不吐出期間が所定の長さを超える前記吐出口に関して、当該不吐出期間内に、前記非画像ドット用の液体を前記液体吐出ヘッドから吐出させることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
前記液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数の吐出口を有し、
少なくとも前記吐出口の径を含み、流路の寸法に対応したランク情報を記憶するランク情報記憶手段をさらに備え、
前記フラッシング制御手段は、
前記印字可能期間を、前記ランク情報記憶手段が記憶する前記ランク情報に関連づけられた前記吐出口の径が小さいほど、長く設定することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項14】
前記フラッシング制御手段が、
所定の位置を記録媒体が通過したタイミングを取得するタイミング取得手段を有し、前記タイミング取得手段が取得したタイミングに基づいて前記時間間隔を導出することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項15】
前記搬送経路に沿った搬送方向に関して互いに長さの異なる複数種類の記録媒体を前記搬送手段へと供給する媒体供給手段をさらに備えており、
前記搬送手段は、
前記時間間隔が一定になるタイミングで各記録媒体が前記所定の位置を通過するように前記複数種類の記録媒体を搬送し、
前記フラッシング制御手段は、
前記印字可能期間を、前記搬送方向に関する記録媒体の長さが大きいほど、長く設定することを特徴とする請求項14に記載の液体吐出装置。
【請求項16】
インク滴を吐出する吐出ヘッドと、
画像が形成される用紙の先端を検出する用紙センサと、
前記用紙センサが配置された所定の位置から前記吐出ヘッドと対向する画像形成領域に用紙を搬送する搬送機構と、
前記搬送機構による用紙の搬送と前記吐出ヘッドによるインクの吐出とを前記用紙センサからの信号に基づいて同期させる記録制御部と、前記搬送機構による用紙の搬送を一旦停止させた後、インクの着弾位置に用紙が存在しない状態で前記吐出ヘッドからインクを吐出させるフラッシング動作を行うフラッシング制御部とを含む制御装置と、を備え、
前記記録制御部は、前記搬送機構に複数の用紙を順に搬送させ、画像データに基づいて前記吐出ヘッドからインクを吐出させて用紙ごとに画像形成を行うと共に、
前記フラッシング制御部は、
前記所定の位置を通過する用紙の時間間隔と当該時間間隔に対応した係数との積を導出し、前記用紙センサが用紙の先端を検出するごとに、導出した積を加算していくと共に、前記積の導出に際して、前記時間間隔が小さいほど前記係数を小さく設定し、前記積の加算値が閾値を超えた場合には、前記フラッシング動作を行うことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項17】
前記フラッシング制御部は、
前記積の加算値が閾値を超えた場合には、前記積の加算値の初期化を行うことを特徴とする請求項16に記載の液体吐出装置。
【請求項18】
前記フラッシング制御部は、
前記フラッシング動作を前回実行してから次に実行するまでの印字可能時間を、前記時間間隔が短いほど長く設定することを特徴とする請求項16又は17に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−75397(P2013−75397A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215852(P2011−215852)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】