説明

液体吐出装置

【課題】 圧力変動緩和部材の内面同士の貼り付きを抑制することにより、圧力変動緩和部材の機能を維持することが可能な液体吐出装置を提供する。
【解決手段】 液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出部と、液体吐出部に液体を供給する液体供給路と、液体供給路に連通する内部空間を形成する内面を備え、液体供給路内の液体の圧力変動を緩和するために前記内部空間の容積が変化可能な圧力変動緩和部材と、を有する。圧力変動緩和部材の内面は粗面であり、液体吐出装置は圧力変動緩和部材の内面に液体を付着するための液体付着手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体吐出装置として代表的なインクジェット記録装置の記録方式として、インクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドとも称する)が被記録媒体の幅分往復移動して記録するシリアルスキャン記録方式がある。シリアルスキャン記録方式では、記録ヘッドが等速移動する場合、記録ヘッドの移動方向が変わる時にその加速度が最大となる。その際、記録ヘッド内のインクは慣性力を受け、インク供給路内のインクの圧力が変動する。
【0003】
また、記録ヘッドにインクを供給するインクタンクが、記録ヘッドと共に移動しない別体構成の場合、インクタンクから記録ヘッドへチューブ等にてインクを供給することになる。記録ヘッドの移動方向が変わる際、チューブ内のインクにも慣性力が加わるため、インク供給路内のインクの圧力変動は特に大きくなる。図10(a)、(b)は、記録ヘッド101の往復運動時のチューブ106による圧力変動を説明する模式図である。図10(a)は、矢印D方向に往復運動を行う際に記録ヘッド101が矢印B方向から矢印C方向に方向転換をした瞬間の模式図である。この方向転換時に、チューブ106内のインクは、矢印B方向への慣性を受けることにより、記録ヘッド101のインク供給路内のインクには、加圧する力が加わる。次に、図10(b)は、記録ヘッド101が矢印C方向から矢印B方向に方向転換をした瞬間の模式図である。この方向転換時に、チューブ106内のインクは、矢印C方向への慣性を受けることにより、記録ヘッド101のインク供給路内のインクには、減圧する力が加わる。また、記録ヘッド101が等速移動する場合は、記録ヘッド101の移動速度が大きいほど圧力変動幅は大きくなる。また、チューブの長さが長いほど慣性力は大きくなり、圧力変動幅も大きくなる。
【0004】
ところで、インク供給路内の圧力変動幅が大きくなると、記録ヘッド101のインク滴を吐出する吐出口部のインクに加わる圧力も変動し、この圧力変動によって、図11(a)、(b)、(c)で示す様に吐出口に形成されるインクのメニスカス形状が変化する。図11(a)はインク供給圧力が通常(例えば−80mmAq)の状態で吐出口111に形成されるメニスカス形状113aを示す断面模式図である。図11(b)はインク供給圧力が通常よりも減圧された(例えば−400mmAq)状態のメニスカス形状113bを示す断面模式図である。図11(b)では、通常のメニスカス形状113aと比べ、記録ヘッド101の吐出口111が設けられている吐出口面112よりも凹んでいる。図11(c)はインク供給圧力が通常よりも加圧された(例えば+100mmAq)状態のメニスカス形状113cを示す断面模式図であり、通常のメニスカス形状113aと比べ、吐出口面112よりも突出している。ここで、インクのメニスカス形状が通常の形状よりも吐出口面112に対して大きく凹んだ状態や、吐出口面112から突出した状態でインク吐出を行うと、所望したインク吐出が行われない恐れがある。例えば、図11(c)の状態で、インク吐出を行うとインク滴が割れた形状になり、インク滴が着弾した印刷物にて画像品位が低下する恐れがある。また、図11(b)の状態で、インク吐出を行うとインク滴が通常よりも小さくなり、インク滴が着弾した印刷物の濃度が低下する傾向がある。図10(a)で示した場合では、図11(c)に示すメニスカス形状をとりやすい。また、図10(b)で示した場合では、図11(b)に示すメニスカス形状をとりやすい。
【0005】
特許文献1には、インク供給路内のインクの圧力変動を緩和するための構成として、記録ヘッドのインク供給路に連通する内部空間を備え、伸び縮みし易い弾性を有する圧力緩衝部材(圧力変動緩和部材)を設けることが開示されている。これは、インク供給路内の圧力変動に応じて、圧力緩衝部材が変形して圧力変動を吸収するものである。また、圧力緩衝部材はインク供給路に連通する内部空間を備えるため、圧力緩衝部材の材料としては、耐インク性に優れた材料が求められる。弾性と耐インク性を両立させる材料としては、例えば塩素化ブチルゴムなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−307712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、塩素化ブチルゴムなどの材料を含む圧力変動緩和部材は、材料の自己粘着性によって、その内面同士が貼り付いてしまうことがある。このような状態になると、圧力変動緩和部材の圧力変動を吸収する機能が損なわれ、前述したインク供給路内の圧力変動が抑制されず、所望したインク吐出が行われなくなってしまう可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、圧力変動緩和部材の内面同士の貼り付きを抑制することにより、圧力変動緩和部材の機能を維持することが可能な液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出部と、前記液体吐出部に液体を供給する液体供給路と、前記液体供給路に連通する内部空間を形成する内面を備え、前記液体供給路内の液体の圧力変動を緩和するために前記内部空間の容積が変化可能な圧力変動緩和部材と、を有する液体吐出装置において、前記圧力変動緩和部材の内面は粗面であり、前記内面に液体を付着するための液体付着手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、圧力変動緩和部材の内面同士の貼り付きを抑制することにより、圧力変動緩和部材の機能を維持することが可能な液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態によるインクジェット記録装置の概略の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示されるキャリッジに搭載される記録ヘッドの側断面図である。
【図3】図2で示した記録ヘッドの一部を分解して示す斜視図である。
【図4】図2で示した圧力緩衝部材を詳細に示す断面模式図である。
【図5】本実施形態のインク供給ユニット、メインタンクおよび記録ヘッドの断面模式図である。
【図6】(a)から(c)は、第一の実施形態のインクジェット記録装置の部分断面模式図であり、インクを圧力緩衝部材の内面に付着する工程を説明するための図である。
【図7】(a)から(c)は、それぞれ図6(a)から(c)で示す圧力緩衝部材を含む拡大図である。
【図8】(a)および(b)は、第二の実施形態のインクジェット記録装置の部分断面模式図であり、インクを圧力緩衝部材の内面に付着する工程を説明するための図である。
【図9】(a)および(b)は、第三の実施形態のインクジェット記録装置の部分断面模式図であり、液体を圧力緩衝部材の内面に付着する工程を説明するための図である。
【図10】(a)および(b)は、チューブ供給方式のインクジェット記録装置に装着された記録ヘッドが、往復運動をする際の、記録ヘッド内のインクに加わる慣性力を説明するための模式図である。
【図11】(a)から(c)は、吐出口部のメニスカス形状とインク供給路の圧力との関係を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して本発明における実施形態を詳細に説明する。
【0013】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の液体吐出装置の一実施形態によるインクジェット記録装置の概略の構成を示す斜視図である。
【0014】
図1に示すインクジェット記録装置は、記録ヘッド201(液体吐出ヘッド)の往復移動(主走査)と、被記録媒体Sの所定ピッチごとの搬送(副走査)とを繰り返しつつ、これらの動きと同期させながら記録ヘッド201から選択的にインクを吐出させる。吐出したインクを被記録媒体Sに付着させることで、文字や画像等を形成して記録を行うシリアルスキャン方式の記録装置である。
【0015】
図1において、記録ヘッド201は、2本のガイドレールに摺動自在に支持され不図示のモータ等の駆動手段によりガイドレールに沿って一直線上を矢印D方向に往復移動されるキャリッジ202に着脱可能に搭載され、往復移送される。記録ヘッド201のインク吐出部(液体吐出部)から吐出されたインクを受ける被記録媒体Sは、搬送手段である搬送ローラ203により、記録ヘッド201の吐出口が形成された吐出口面に対面し、吐出口面との距離を一定に維持される。そして被記録媒体Sは、キャリッジ202の移動方向と交差する方向(例えば、直交する方向である矢印A方向)に搬送される。
【0016】
記録ヘッド201は、インク吐出部として、それぞれ異なる色のインクを吐出するための複数の吐出口列を有する。記録ヘッド201から吐出されるインクの色に対応して、複数の独立したメインタンク204が、インク供給ユニット205に着脱可能に装着される。インク供給ユニット205と記録ヘッド201とは、それぞれインクの色に対応した複数のインク供給チューブ206によって接続される。メインタンク204をインク供給ユニット205に装着することで、メインタンク204内に収納された各色のインクを、記録ヘッド201の各吐出口列に独立して供給することが可能となる。
【0017】
記録ヘッド201の往復移動の範囲内で、かつ、被記録媒体Sの通過範囲外の領域である非記録領域には、回復ユニット207が、記録ヘッド201の吐出口面と対面するように配置されている。回復ユニット207は、記録ヘッド201の吐出口面をキャッピングするための吸引キャップ207a(図5)を有する。さらに回復ユニット207は、吐出口面をキャッピングした状態で記録ヘッド201から強制的にインクを吸引するための吸引ポンプ207c(図5)、吐出口面の汚れを払拭するためのクリーニングブレード等を有する。前述した吸引動作は、インクジェット記録装置の記録動作に先立って、回復ユニット207によって行われる。
【0018】
図2は、図1に示される記録ヘッド201の側断面図である。図3は、記録ヘッド201をその一部を分解して示した斜視図である。
【0019】
図2において、本実施形態の記録ヘッド201の形状は、上面40、下面41、前面42、後面43、右側面および左側面の概ね6面で構成され、上面40側を除いて一体的に形成されている。また、記録ヘッド201は、6色のインクを吐出可能である。つまり、メインタンク204(図1)から各色のインクが、色毎にニードル(不図示)から、ニードル受容部23を介して隔壁(不図示)で仕切られることによって、インク収納部である6つの各サブタンク36内へと供給される構成となっている。このサブタンク36に供給されたインクは、そのインク中の不純物(異物)を除去してインクを濾過するためのフィルタ5を介してインク溜め21で一旦貯留される。そして、連通部37及び流路6を介してインク供給液室20へと流れ込む。インク供給液室20へと流れ込んだインクは、下面41に設けられたヒータボード26から供給される電気エネルギーを熱エネルギーに変換する不図示の電気熱変換体により生じる発泡エネルギーにより、吐出口201b(図5)から吐出される。ヒータボード26には、吐出口列から構成されたインク吐出部が各色のインクに対応して、すなわち各サブタンク36に対応して複数設けられている。なお、吐出口201bからインクが漏れないように、インク供給系の圧力は負圧側に設定している。
【0020】
複数のサブタンク36の上方には、サブタンクフタ9に開口部として形成された連通口38により、圧力調整室8がサブタンク36内と連通する。圧力調整室8は、弾性変形する塩素化ブチルゴム等の弾性部材である圧力緩衝部材10(圧力変動緩和部材)の内面10aで形成された、圧力緩衝部材10の内部空間である。各圧力緩衝部材10は袋状となっている。メインタンク204からインク吐出部にインクを供給するインク供給路(液体供給路)の途中の部分であるサブタンク36内の圧力に応じて圧力緩衝部材10が変形される。すなわち、圧力調整室8の容積はサブタンク36内の圧力に応じて変化可能となっている。これにより、サブタンク36内の圧力変動を緩和し、ひいては吐出口201bのメニスカス形状を安定化することができる。
【0021】
ここで、圧力緩衝部材10の内面10aは凹凸を有する粗面となっている。図4は、図2における圧力緩衝部材10の断面模式図である。圧力緩衝部材10は、コンプレッション成形によって成形されている。成形に用いる金型の該当する面にガラスビーズを打ち付ける手法により、凹凸を加工して、成形する際に金型の凹凸形状を転写することにより、圧力緩衝部材10の内面10aを、凹凸を有する粗面として加工している。圧力緩衝部材10の内面10aを粗面とすることで、圧力緩衝部材10の内面10a同士が貼り付きにくくなる。なお、本実施形態では、圧力緩衝部材10の内面10aの表面粗さは算術平均粗さで約3μmの凹凸となっている。
【0022】
次に、記録ヘッド201へのインクの供給方法を図5にて説明する。
図5は、メインタンク204、インク供給ユニット205、インク供給チューブ206、記録ヘッド201との関連を示した断面模式図である。
【0023】
メインタンク204は、インク供給ユニット205に対して着脱可能な構成であり、その底部に、ゴム栓204bで密封されたインク供給口と、ゴム栓204cで密封された大気導入口とを有する。メインタンク204は、単体では気密な容器であり、インク209はメインタンク204内に収容される。
【0024】
一方、インク供給ユニット205は、メインタンク204からインク209を取り出すためのインク供給針205aと、メインタンク204内へ大気を導入させるための大気導入針205bとを有する。インク供給針205aおよび大気導入針205bは、メインタンク204のインク供給口および大気導入口の位置に対応させて針先を上方に向けて配置されている。ここで、メインタンク204がインク供給ユニット205に装着されることで、インク供給針205aおよび大気導入針205bがそれぞれゴム栓204b,204cを貫通し、メインタンク204の内部に侵入する構成となっている。
【0025】
インク供給針205aは、液路205c、遮断弁210、および液路205dという経路を経て、インク供給チューブ206と接続される。大気導入針205bは、液路205e、バッファ室205f、大気連通口205gを経て大気と連通する。インク供給針205aからインク供給チューブ206までのインク供給経路のうち最も高さの低い位置にある液路205cと、大気導入針205bから大気連通口205gまでの経路のうち最も高さの低い位置にある液路205eとは、ともに同じ高さである。
【0026】
遮断弁210は、ダイアフラム210aを変位させることにより2つの液路205c,205d間の開閉を行う。ダイアフラム210aの上面に、取り付けられている押圧ばね210cによってダイアフラム210aを押し潰すことにより、液路205c,205d間が遮断される。レバー210dを動作させて、押圧ばね210cのばね力に抗してばねホルダ210bを持ち上げることで、液路205c,205d間が連通する。遮断弁210は、記録ヘッド201がインクを吐出している状態では開かれ、待機中および休止中は閉じられ、後述するインク充填動作時には、回復ユニット207とタイミングを合わせて開閉される。上述したインク供給ユニット205の構成は、レバー210dを除き、メインタンク204ごと、すなわちインクの色ごとに設けられている。レバー210dは全ての色に共通のものであり、全ての色についての遮断弁210を同時に開閉させる。
【0027】
以上の構成により、記録ヘッド201内のインクが消費されると、その負圧により、インクが随時メインタンク204からインク供給ユニット205およびインク供給チューブ206を介して記録ヘッド201へ供給される。
【0028】
次に、記録ヘッド201の回復方法について、図5を用いて説明する。
回復ユニット207は、吐出口201bからのインクや空気の吸引と、遮断弁210の開閉を行うものである。その為に、記録ヘッド201の吐出口面(吐出口201bが開口した面)をキャッピングする吸引キャップ207aと、遮断弁210のレバー210dを動作させるリンク207eとを有する。吸引キャップ207aは、少なくとも吐出口面と接触する部分がゴム等の弾性部材で構成され、吐出口面を密閉する位置と記録ヘッド201から退避した位置との間を移動可能に設けられている。吸引キャップ207aには、中間部位にチューブポンプ式の吸引ポンプ207cを有するチューブが接続されており、ポンプモータ207dによって吸引ポンプ207cを駆動することで、連続吸引が可能である。本実施形態では、0.4atm(40.53kPa)まで減圧可能な吸引ポンプ207cを用いている。
【0029】
カム207bは吸引キャップ207aを動作させるものであり、カム制御モータ207gにより、リンク207eを動作させるカム207fと同期して回転される。カム207bのa〜cの位置がそれぞれ吸引キャップ207aと接触するタイミングは、カム207fのa〜cの位置がそれぞれリンク207eと接触するタイミングと一致している。aの位置では、カム207bは吸引キャップ207aを記録ヘッド201の吐出口面から離間させ、カム207fはリンク207eを押しつけてレバー210dを押し上げ、遮断弁210を開かせる。bの位置では、カム207bは吸引キャップ207aを吐出口面に密着させ、カム207fはリンク207eを引き戻して遮断弁201を閉じさせる。cの位置では、カム207bは吸引キャップ207aを吐出口面に密着させ、カム207fはリンク207eを押しつけて遮断弁210を開かせる。
【0030】
記録動作の際は、カム207b,207fをaの位置とし、吐出口201bからのインクの吐出、およびメインタンク204から記録ヘッド201へのインクの供給を可能とする。待機中および休止中を含む非動作時は、カム207b、207fをbの位置とし、吐出口201bの乾燥を防止するとともに、記録ヘッド201からのインクの流出を防止する。
【0031】
以上、メインタンク204から記録ヘッド201までのインク供給経路を説明したが、図5に示したような構成では、長期放置すると、記録ヘッド201内に空気が蓄積してしまう。
【0032】
サブタンク36においては、インク供給チューブ206など透過して侵入する空気や、インク内に溶存していた空気が蓄積する。一方、インク供給液室20においては、吐出口201bからインクを吐出する際にインクの膜沸騰により生じた気泡が分裂してインク供給液室20に戻ったりして、徐々に空気が蓄積する。
【0033】
サブタンク36内およびインク供給液室20内での空気の蓄積量が多いと、サブタンク36およびインク供給液室20が各々収納しているインク量が減少してしまう。サブタンク36においてインクが不足すると、フィルタ5が空気に露出して、フィルタ5の圧力損失が上昇してしまう。一方、インク供給液室20においては、吐出口201bの上端が空気に露出すると、吐出口201bへのインク供給が不能となる。そこで、所定の期間ごとにサブタンク36およびインク供給液室20の各々に適量のインクを充填することで、インクの吐出機能を長期間にわたって安定して維持することができる。
【0034】
以下に、サブタンク36とインク供給液室20とへのインク充填動作について、図5を用いて説明する。
インク充填動作は、まず、記録ヘッド201が吸引キャップ207aと対向する位置までキャリッジ202(図1参照)を移動させる。次に回復ユニット207のカム制御モータ207gを駆動してカム207b,207eを、それぞれbの位置が吸引キャップ207aおよびリンク207eと接触するまで回転させる。これにより、記録ヘッド201の吐出口面が吸引キャップ207aにより密閉され、遮断弁210はメインタンク204から記録ヘッド201までのインク供給経路を閉じた状態となる。
【0035】
この状態でポンプモータ207dを駆動し、吸引ポンプ207cにより吸引キャップ207aから吸引を行う。この吸引により、記録ヘッド201内に残留しているインクおよび空気が吸引され、記録ヘッド201内が減圧される。吸引量が所定の量に達した時点で、吸引ポンプ207cを停止させ、カム制御モータ207gを駆動してカム207b、207fをそれぞれcの位置が吸引キャップ207aおよびリンク207eと接触するまで回転させる。これにより、吸引キャップ207aによる吐出口面の密閉状態はそのままで、遮断弁210が開かれる。
【0036】
ここで、遮断弁が開かれると、インク供給チューブ206を介して記録ヘッド201内にインクが流れ込み、サブタンク36およびインク供給液室20の各々にインクが充填される。充填されるインクの量は、排気した体積とほぼ同じとなる。
以上のように、サブタンク36およびインク供給液室20の各々の容積と減圧する圧力とを設定することにより、フィルタ5で仕切られたサブタンク36とインク供給液室20とに各々適量のインクを1回の充填動作で充填することができる。
【0037】
ところで、インク充填動作を行った際等に、内面10aが粗面である圧力緩衝部材10であっても、圧力緩衝部材10の材料の自己粘着性によって、その内面10a同士が貼り付いた状態になることがある。本実施形態では、圧力緩衝部材10の内面10a同士が貼り付いた状態となった場合でも、サブタンク36にインクを充填する際に、その内面10aにインクを付着させて、内面10a同士を剥がれやすくすることができる。このインク付着手段(液体付着手段)について、図6、図7を用いて説明する。
【0038】
図6(a)、(b)、(c)は、インク充填時のサブタンク36内のインクの挙動について示した、インクジェット記録装置の断面模式図である。また、図7(a)〜(c)は、それぞれ図6(a)〜(c)の状態における、圧力緩衝部材10を含む部分の拡大図である。
【0039】
まず、図6(a)に示すように、遮断弁210(図5)を閉じた状態にて、吸引ポンプ207cにより吸引キャップ207aから吸引を行うことで、記録ヘッド201内を減圧した状態とする。ここで、サブタンク36及びインク供給液室20内のインクおよび空気は、吸引キャップ207aを通って排出されている。サブタンク36の圧力は、40.5kPa(約0.4atm)まで減圧されており、図7(a)に示すように、圧力緩衝部材10は減圧されることにより内面10a同士が貼り付いた状態となっている。
【0040】
次に、図6(b)に示すように、吸引キャップ207aによって吐出口面の密閉状態を維持したまま、遮断弁210(図5)を開いて大気開放すると、サブタンク36の入り口から入ってきたインクが、サブタンク36内に勢い良く拡散される。図7(b)に示すように、このときも、圧力緩衝部材10はその自己粘着性により、内面10a同士がほぼ貼り付いた状態である。サブタンク36内に拡散されたインクは、連通口38を通って、圧力緩衝部材10の内面10a同士が貼り付いている箇所の口元部10b付近に付着する。
【0041】
その後、図6(c)に示すように、圧力緩衝部材10の貼り付いていた箇所が徐々に剥がれて、貼り付きが解消されていく。
【0042】
図7(c)で、この時の圧力緩衝部材10の状態を詳細に示している。上述したように、圧力緩衝部材10の内面10aは粗面で凹凸が形成されており、口元部10b付近のインクがまず凹部に入り込む。その後、毛管力の働きにより、凹部にインクが侵入していき、圧力緩衝部材10の貼り付き部分にインクが入り込んでいき、内面10a同士が剥がれた状態となる。また、圧力緩衝部材10の内面10aには凹凸が形成されているため、凹部にインクが保持されやすくなる。このように圧力緩衝部材10の内面10aにインクが保持された状態となることで、圧力緩衝部材10の自己融着性が低減されて、その内面10a同士が貼り付き難くなる。よって、圧力緩衝部材10の、インク供給系内の圧力変動を緩和する機能を保持することができ、良好な印字品位を確保することが可能となる。
本実施形態では、圧力緩衝部材10の凹凸の加工方法は、凹凸加工を施した金型に成形にて転写していたが、必ずしもこの方法でなくても良く、微細な凹凸が加工できる方法ならばこの方法に限定されない。
【0043】
また、圧力緩衝部材10の内面10aの表面粗さは、算術平均粗さで約3μmの粗さであったが、必ずしもこの粗さでなくても良い。本実施形態では、粗面は算術平均粗さでおよそ2μm以上の粗さを有する面であり、この粗さを有する面であれば本発明の効果を得ることができる。
【0044】
(第二の実施形態)
第二の実施形態では、第一の実施形態とは異なるインク付着手段にて圧力緩衝部材10の内面10aにインクを付着させる例を説明する。インクジェット記録装置の構成は、上述の実施形態と同様であるため記載を省略する。
【0045】
図8(a)、(b)は、本実施形態のインクジェット記録装置の部分断面模式図である。図8では、圧力緩衝部材10の内面10aが貼り付いた状態となっている。図8(a)に示すように、記録ヘッド201のサブタンク36内には、空気とインクがおよそ4:6の割合にて収容されている。
【0046】
次に、図8(b)に示すように、キャリッジ202(図1)が移動する矢印D方向に記録ヘッド201を往復運動させることにより、記録ヘッド201の内部にてインクが揺動する。このとき、インクを大きく揺動させるために、キャリッジ202(図1)は通常の記録時よりも大きな加速度にて往復運動を行っている。通常のキャリッジ移動速度は25〜50(インチ/秒)であるが、この場合は50〜60(インチ/秒)の速度で移動しており、移動方向が変化する際の加速度も大きくなっている。その往復運動により、サブタンク36内のインクは攪拌されて、連通口38を通って、圧力緩衝部材10内に飛び散り、圧力緩衝部材10の内面10a側の密着した部分の口元部10bに付着する。上述したように、圧力緩衝部材10の内面10aは、凹凸を有する粗面であり、付着したインクは内面10aの凹部に保持される。
【0047】
その後は、上述の実施形態で説明したように、凹部に付着したインクが毛管力にて、圧力緩衝部材10の内面10aに侵入していき、圧力緩衝部材10の貼り付きが解消する。また、圧力緩衝部材10の内面10aにインクが保持された状態となることで、圧力緩衝部材10の自己融着性が低減されて、その内面10a同士が貼り付き難くなる。
【0048】
記録時よりも大きな加速度で記録ヘッド201を往復運動させることで、インクを圧力緩衝部材10の内面10aに付着させることで、よりインクを付着させやすくすることができる。なお、圧力緩衝部材10の内面10aにインクを付着することができればよいので、記録時と同じ程度の加速度で記録ヘッド201を往復運動させてもよい。
【0049】
(第三の実施形態)
第一および第二の実施形態では、記録ヘッド201をインクジェット記録装置に装着した状態で、圧力緩衝部材10の内面10aにインクを付着させた。第三の実施形態では、インクジェット記録装置に装着する前に圧力緩衝部材10の内面10aに液体を付着させる液体付着手段を説明する。
【0050】
記録ヘッドを生産する際に、正常に吐出可能かどうかを確かめてから記録ヘッドを出荷する。具体的には、印字検査と称して、被記録媒体にインクを吐出させて、所望の位置にインクが着弾するかどうかを確認する。印字検査後にそのまま梱包して記録ヘッドを出荷すると、インク中の染料や顔料の固形分が吐出口の近傍に固着し、ユーザーが使用する際にインク吐出に影響して、正しくインクが吐出されない恐れがある。そのため、印字検査後には記録ヘッド内のインクを取り除く工程が行われる。
【0051】
図9(a)、(b)は、本実施形態のインクジェット記録装置の部分断面模式図である。これらの図を用いて、染料や顔料成分が含まれていない透明インクや水等の記録に用いられない液体にて、記録ヘッド201内のインクを置換して、液体を圧力緩衝部材10の内面10aに付着する工程を説明する。
【0052】
まず、図9(a)に示すように、遮断弁310を閉じた状態にて、吸引ポンプ(不図示)により吸引キャップ307aから吸引を行うことで、記録ヘッド201内を減圧した状態とする。ここで、サブタンク36の圧力は、30kPa(約0.3atm)まで減圧されている。圧力緩衝部材10は減圧されて内面20a同士が密着した状態となっている。サブタンク36及びインク供給液室20内の有色のインクは、吸引キャップ307aよりほぼ排出されている。
【0053】
次に、図9(b)に示すように、吸引キャップ307aによって吐出口面の密着状態を維持したまま、遮断弁310を開くと、サブタンク36の入り口から入ってきた透明インクは、サブタンク36内に勢い良く拡散される。さらに、透明インクは連通口38を通って、圧力緩衝部材10内に飛び散り、圧力緩衝部材10の内面10a同士が貼り付いている箇所の口元部10b付近に付着する。上述したように、圧力緩衝部材10の内面10aは、凹凸を有する粗面であり、付着したインクは内面10aの凹部に保持される。
【0054】
その後は、上述の実施形態で説明したように、凹部に付着したインクが毛管力にて、圧力緩衝部材10の内面10aに侵入していき、圧力緩衝部材10の貼り付きが解消する。また、圧力緩衝部材10の内面10aにインクが保持された状態となることで、圧力緩衝部材10の自己融着性が低減されて、その内面10a同士が貼り付き難くなる。
【0055】
なお、透明インクに揮発し難い成分が含まれている方が、圧力緩衝部材10の内面10aに留まりやすくなるため好ましい。また、透明インクは、圧力緩衝部材10の貼り付きを抑制することができればどのような液体であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
8 圧力調整室
10 圧力緩衝部材(圧力変動緩和部材)
10a 圧力緩衝部材の内面
36 サブタンク
38 連通口
201 インクジェット記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
202 キャリッジ
204 メインタンク
207a 吸引キャップ
210 遮断弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出部と、
前記液体吐出部に液体を供給する液体供給路と、
前記液体供給路に連通する内部空間を形成する内面を備え、前記液体供給路内の液体の圧力変動を緩和するために前記内部空間の容積が変化可能な圧力変動緩和部材と、
を有する液体吐出装置において、
前記圧力変動緩和部材の内面は粗面であり、
前記内面に液体を付着するための液体付着手段を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記液体付着手段は、前記液体供給路の途中から前記液体吐出部までの圧力を減圧した状態で、前記液体供給路を大気開放する、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記液体吐出部と、前記液体供給路と、前記圧力変動緩和部材と、を備えた液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを装着して移送するキャリッジと、
を有し、
前記液体付着手段は、記録時よりも大きい加速度で前記キャリッジを往復移動する、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記液体付着手段は、記録に用いられる液体を前記内面に付着する、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記液体付着手段は、記録に用いられない液体を前記内面に付着する、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記内面を形成する凹部で前記液体付着手段によって付着された液体を保持する、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記圧力変動緩和部材の内面の表面粗さは、算術平均粗さで2μm以上である、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−78924(P2013−78924A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221234(P2011−221234)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】