説明

液体吐出記録ヘッド及び記録装置

【課題】回復動作を頻繁に行うことなく、液滴の吐出の安定性を向上させる。
【解決手段】記録ヘッドは、基板1と流路形成部材2とを有する。流路形成部材2は基板1に積層されている。流路形成部材2には、各々の吐出エネルギー発生素子10に対応したノズル4が形成されている。流路形成部材2には、第1の開口部6と、第1の開口部6内を流路形成部材2の外側に連通する第2の開口部7と、がさらに形成されている。連通路5は、液滴供給口9とは連結されていない。第1の開口部6は、フェイス面13において、すべての吐出口3を環状に取り囲むように形成されている。第1の開口部7から第2の開口部6への連通路5内は親水性を有する。第2の開口部7は流路形成部材2の側面に設けられている。第2の開口部7は、連通路5に保持された小液滴を排出する際に、連通路5の内部が減圧されることを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出記録ヘッド及び記録装置に関し、特に液滴の安定的な吐出が可能な液体吐出記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出記録ヘッド(以下、記録ヘッドと呼ぶことがある。)によって記録動作を行う際、主たる液滴(以下、主滴と呼ぶ。)に付随して、微小な液滴(ミスト)が吐出される場合がある。以下、このような微小な液滴を小液滴と呼ぶ。
【0003】
小液滴は、記録ヘッドからの液体の吐出時、及び記録ヘッドの往復走査時等に発生する気流によって、液滴を吐出する吐出口が形成された面(フェイス面)に付着する。このようにフェイス面に小液滴が付着し、これが蓄積することにより、主滴の吐出は不安定になり、記録された画質が低下する場合がある。したがって、フェイス面を拭うブレードによるフェイス面のクリーニングや、記録ヘッドから液滴を吸引することによる回復動作を記録動作中に頻繁に行う必要がある。このような回復動作は、記録動作の速度を低減する要因となる。
【0004】
特許文献1には、不安定な吐出の防止を図るための記録ヘッドが記載されている。特許文献1に記載の記録ヘッドは、複数の吐出口を有する流路形成部材を備えており、吐出口の近くには蒸発抑制溝が形成されている。
【0005】
蒸発抑制溝は親水性であり、フェイス面に付着した小液滴を保持することができる。これにより、吐出口付近の湿度を上げ、吐出口からの液滴の蒸発を抑制することで、吐出の安定性を向上している。
【0006】
ところで、記録動作のスピードを上げるには、液滴の吐出を行うための駆動周波数を高くすることが有効である。しかし、駆動周波数を高くした場合、記録ヘッドの往復走査時における慣性力などによって、流路形成部材のフェイス面に付着した小液滴が移動し易くなる。
【0007】
この小液滴の移動により、小液滴は互いに結合し、より粒径の大きな液滴となる。このようにフェイス面が過度に濡れると、液滴が吐出口に進入するなどして、液滴の不吐出の原因となる。特に、ノズルの数を増した長尺化記録ヘッドでは、この現象が顕著に表れる。
【0008】
特許文献2では、この問題に対応するため、フェイス面にさらに別の親水性の溝が形成された記録ヘッドが記載されている。
【0009】
具体的には特許文献2に記載の記録ヘッドは、多数のノズルが配列された流路形成部材を有している。それぞれのノズルの吐出口はフェイス面に開口されている。フェイス面には、すべての吐出口を環状に取り囲むように親水性の溝が形成されている。さらに、この親水性の溝の主走査方向(記録動作時に記録ヘッドが往復移動する方向。)の両側には、副走査方向(主走査方向と垂直な方向)に沿った別の親水性の溝が形成されている。
【0010】
これにより、フェイス面に付着された小液滴は、複数の親水性の溝に分散される。したがって、小液滴が親水性の溝に局所的に溜ることが防止され、小液滴が溝から溢れることを抑制する。
【0011】
しかしながら、特許文献1,2に記載された記録ヘッドでは、記録ヘッドを高周波で駆動した場合や液滴を連続で吐出した場合に、小液滴がフェイス面に局所的に付着して、親水性の溝の容積を超えてしまうことがある。
【0012】
容積を超えた小液滴は、記録ヘッドの往復走査時における慣性力によって、親水性の溝から漏れる。したがって、高速印字において高画質を保つためには、一定の記録動作後に、親水性の溝の内部の液滴を排出する必要がある。
【0013】
このような液滴の排出は、記録ヘッドのフェイス面を回復処理手段で覆った状態で、内部を吸引することで実施される。
【0014】
回復処理手段は、キャップと、キャップの内部に設けられた液滴吸収体と、吸引手段と、を有している。キャップの周縁部は、流路形成部材を取り囲むように構成されたチッププレートの上面と密着しており、フェイス面を気密にする。キャップは、この気密な空間内を吸引する吸気管が接続されている。
【0015】
この状態で、吸引手段によって吸引することで、親水性の溝の内部に保持された液滴は排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平11―5307号公報
【特許文献2】特開2006―103320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1,2に記載の記録ヘッドでは、回復処理時における吸引の際に、キャップで覆われたフェイス面全体が減圧される。
【0018】
このような構成では、親水性の溝の内部の小液滴を全て回収することは困難であり、親水性の溝の内部には小液滴が残留することを見出した。
【0019】
小液滴が溝の内部に残留すると、新たに発生した小液滴を保持する効果が低下する。したがって、溝から液体があふれ、濡れが発生しやすく、吐出が不安定になる可能性がある。
【0020】
これを回避するためには、回復処理を頻繁に行う必要があるが、この場合には記録動作の速度が低下する。
【0021】
本発明の目的は上記背景技術の課題に鑑み、回復動作を頻繁に行うことなく、液滴吐出の安定性が向上した液体吐出記録ヘッドを提供することである。
【0022】
また本発明の別の目的は、上記の液体吐出記録ヘッドを備えた記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため本発明は、液滴を吐出する吐出口と該吐出口に連通する流路とが形成された流路形成部材を備えた液体吐出記録ヘッドにおいて、前記流路形成部材には、前記吐出口が形成された面に設けられた第1の開口部と、連通路を介して前記第1の開口部の内部を前記流路形成部材の外側に連通する第2の開口部と、がさらに形成されていることを特徴とする。
【0024】
また本発明の記録装置は、液滴を吐出する吐出口と該吐出口に連通する流路とが形成された流路形成部材を備え、前記流路形成部材には、前記吐出口が形成された面に設けられた第1の開口部と、連通路を介して前記第1の開口部の内部を前記流路形成部材の外側に連通する第2の開口部と、がさらに形成されている、液体吐出記録ヘッドと、前記吐出口が形成された面の少なくとも一部を覆う状態で前記液体吐出記録ヘッドの回復処理を行う回復処理手段と、を有し、前記回復処理手段が、前記吐出口が形成された面を覆った状態において、前記第1の開口部は前記回復処理手段に覆われる位置に設けられており、前記第2の開口部は前記回復処理手段の外側に設けられている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、記録速度を過度に落とすことなく液滴の吐出の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明の第1の実施例に係る記録ヘッドの模式的平面図、(b)は図1(a)の1B−1B線に沿った模式的断面図、(c)は図1(a)の1C−1C線に沿った模式的断面図。
【図2】本発明の第1の実施例の一変形例に係る記録ヘッドの模式的断面図。
【図3】本発明の第1の実施例の別の変形例に係る記録ヘッドの模式的断面図。
【図4】回復処理手段が、第1の実施例の記録ヘッドにおけるフェイス面を覆った状態を示す模式図。
【図5】第1の実施例の記録ヘッドの製造に係る工程を示す模式図。
【図6】第1の実施例の記録ヘッドの製造に係る工程を示す模式図。
【図7】(a)は本発明の第2の実施例に係る記録ヘッドの模式的平面図、(b)は図7(a)の9B−9B線に沿った模式的断面図、(c)は図7(a)の9C−9C線に沿った模式的断面図。
【図8】(a)〜(f)は、第2の実施例の記録ヘッドの製造工程を示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0028】
[第1の実施例]
図1(a)は本発明の第1の実施例に係る液体吐出記録ヘッドのフェイス面側から見た平面図である。また図1(b)は、図1(a)の1B−1B線に沿って切断した断面図であり、図1(c)は、図1(a)の1C−1C線に沿って切断した断面図である。
【0029】
記録ヘッドは、基板1と流路形成部材2とを有する。
【0030】
基板1には、均等なピッチで配置された吐出エネルギー発生素子10の列が、2列形成されている。また基板1には、2列の吐出エネルギー発生素子10の間に、液滴供給口9が形成されている。基板1は、シリコン(Si)基板を用いることができる。
【0031】
流路形成部材2は基板1に積層されている。流路形成部材2には、液体を吐出する吐出口3と吐出口3に連通する流路とを含むノズル4が形成されている。流路形成部材2としては、被覆感光性樹脂を用いることができる。
【0032】
吐出口3に対応して形成される、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子10としては、発熱抵抗体(ヒーター)を用いることができる。ヒーターは、基板1に設けられた電極11と配線されている。ヒーターは、所望の電気信号によって発熱し、ノズル4内部の圧力を増加させる。この圧力により、ノズル4内の液滴が吐出口3から吐出する。これにより、非記録媒体に記録を行うことができる。
【0033】
基板1と流路形成部材2との間には、後述する記録ヘッドの製造工程で用いられる、保護膜30及び第1の密着層32が形成されている。
【0034】
ノズル4に備わっている吐出口3は、フェイス面13(吐出口が形成された面。)側に開口されている。ノズル4は、基板1に形成された液滴供給口9と連結されている。また、流路形成部材2のフェイス面13側の表面には、撥水材8が形成されている。
【0035】
本実施例では、流路形成部材2には、第1の開口部6と、第1の開口部6内を流路形成部材2の外側に連通する第2の開口部7と、がさらに形成されている。連通路5は、液滴供給口9とは連結されていない。
【0036】
第1の開口部6は、フェイス面13において、すべての吐出口3を環状に取り囲むように形成されている。第1の開口部7から第2の開口部6への連通路5の内部はフェイス面13に比べて高い親水性を有する。この親水性は、撥水材8よりも親水性が高いことが好ましい。
【0037】
本実施例では、第2の開口部7は、流路形成部材2の、吐出口が形成された面に隣接する面(以下、単に「流路形成部材の側面」と呼ぶ。)に設けられている。
【0038】
フェイス面13に付着した小液滴は、第1の開口部6を通って、連通路5内に保持される。これによりフェイス面13の濡れに起因する不吐出はもとより、フェイス面13が小液滴により過度に濡れることを抑制する。
【0039】
小液滴を保持することができれば、連通路5の形状は、どのような形状でも良い。例えば、第1の開口部6から遠ざかるに従って、フェイス面13側に傾斜する形状であっても良い。通常、記録ヘッドはフェイス面13を下にして記録装置に配置される。そのため、連通路5内に液滴を溜めることができ、第1の開口部6からの液滴の漏れを防ぐことができる。
【0040】
第2の開口部7は、連通路5と外部(大気)とを連通する。これにより連通路5に保持された小液滴を上述した回復処理時の吸引により排出する際に、連通路5の内部が過度に減圧されることを防ぐ。これにより、連通路5内部の液体を効率的に吐出口から排出することができる。
【0041】
本実施例では、第2の開口部7が流路形成部材2の側面に設けられているため、第2の開口部7からの液滴の流出を防ぐことができる。また仮に第2の開口部7からインクが漏れたとしてもフェイス面へのインクの付着を防ぐことが出来る点で好適である。
【0042】
また、図2に示すように、第2の開口部7は、連通路5から流路形成部材2の側面に向かうに従って、上方(基板1が形成されている方。)へ傾斜する形状の開口部であっても良い。これにより、第2の開口部7からの液滴の流出を防止できる。またこのような構成にし、第2の開口部7で液体がメニスカスをはるように第2の開口部7を小さくすることで、外部への液体の漏れを防止することができる。尚、このメニスカスは吐出口からの吸引動作により容易に破られるので回復動作には特に支障はない。
【0043】
また、第1及び第2の開口部6,7から、液滴が流出することを防ぐために、連通路5内に、仕切り部等により液溜り部を形成しても良い。
【0044】
本発明に係る記録ヘッドでは、流路形成部材2の内部に、大きな連通路5を形成することができる。したがって、保持可能な液滴の容量は増大する。これに対し、第1の開口部6は、最低限の領域に抑えることができる。これにより、フェイス面13のクリーニングで使用されるブレードが、第1の開口部6の内部に押入されるという懸念が抑制される。
【0045】
連通路5の領域が大きい場合、流路形成部材2の耐久性が低減される可能性がある。この場合、図3に示すように、連通路5の内部に、流路形成部材2を支える柱状の材料14を設けることが好ましい。このような柱状の材料14は連通路5の大きさ、形状に対応して複数本設けても良い。なお、柱状の材料14は、連通路5を塞がないように設けられる。
【0046】
また図3に示すように、第1の開口部6は、フェイス面13から連通路5へ向かうに従って、開口径が小さくなるようなテーパ形状であることが望ましい。これは、毛管力によって、第1の開口部6から連通路5へ、小液滴を効率的に流入させることができるためである。
【0047】
次に、連通路5に保持された小液滴を排出するための回復処理について説明する。この目的のために、本発明の液体吐出記録ヘッドを備えた記録装置は、回復処理手段を有する。
【0048】
回復処理手段は、回復処理時に、記録ヘッドのフェイス面13を覆った状態になる。図4は、回復処理手段が記録ヘッドを覆った状態の様子を示す模式図である。
【0049】
回復処理手段20は、キャップ21と、キャップ21の内部に設けられた液滴吸収体22と、ポンプ等の吸引手段(不図示)とを有している。
【0050】
キャップ21は略平板形状であり、その周縁部には凸条部が形成されている。この凸条部は、記録ヘッドのフェイス面13の周辺部と密着する。
【0051】
第1の開口部6及び吐出口3は、キャップ21によって覆われる位置(キャップの内側)に設けられており、第2の開口部7はキャップ21の外側にある。したがって、第1の開口部6及び吐出口3はキャップ21に覆われ、第2の開口部7はキャップ21の外側に露出した状態となる。
【0052】
この状態で、吸引手段を駆動し、キャップ21とフェイス面13との内部を吸引する。このとき、第2の開口部7が外部との通気口として機能するため、キャップ内部が過度に減圧されることなく、連通路5内に保持された小液滴を効率的に排出することができる。また、排出された小液滴は、液滴吸収体22に吸収される。
【0053】
これにより、回復処理後に、連通路5に残留する液滴の量は大幅に低減される。したがって、フェイス面13の濡れに起因する不吐出が抑制され、安定した吐出状態を維持することができる。
【0054】
上記のように、本実施形態の記録ヘッドは、小液滴を連通路5へ効率的に流入させることができ、さらに連通路5内に保持された小液滴を効率的に排出することができるため、記録ヘッドの回復動作を頻繁に行う必要がなく、記録速度の低下が抑制される。
【0055】
この回復処理は、同時に、吐出口3からノズル4内の液滴を強制的に排出させる。これにより、ノズル内部に溜まった気泡、増粘液滴(揮発成分が蒸発した液滴)、及びゴミなどを、液滴とともに排出することができる。
【0056】
また記録装置は、主走査機構と、副走査機構と、統合制御回路とを備えている。主走査機構は液体吐出記録ヘッドを主走査方向に移動させるための機構であり、副走査機構は被記録媒体を主走査方向と交差する副走査方向へ移動させる機構である。
【0057】
また統合制御回路は、マイクロコンピュータやドライバ回路などからなり、液体吐出記録ヘッド、主走査機構、及び副走査機構の動作を統合的に制御する。
【0058】
次に、第1の実施例の記録ヘッドの製造工程について、図5、図6を参照して説明する。
【0059】
図5(a1),(a2),・・・,(a4)及び図6(a1)、(a2)は、図1(a)の1B−1B線に相当する線に沿った模式的断面図である。また、図5(b1),4(b2),・・・,(b4)及び図6(b1)、(b2)は、図1(a)の1C−1C線に相当する線に沿った模式的断面図である。
【0060】
まず第1の工程として、吐出エネルギー発生素子10である発熱抵抗体(ヒーター)が複数個配置されている基板1を用意する(図5(a1)、(b1)参照)。この基板1の液滴供給口9に相当する箇所には、表面の寸法を精度良く加工する為の犠牲層31が設けられている。
【0061】
犠牲層31はポリシリコンやアルミからなり、アルカリ溶液でエッチング可能な材料である。犠牲層31は、アルカリ溶液に対してエッチング速度の速い、アルミ、アルミシリコン、アルミ銅、またはアルミシリコン銅が好ましい。
【0062】
また、基板1及び犠牲層31の表面(流路形成部材2が積層される方の面。)には、保護膜30が形成されている。ヒーターの配線や、ヒーターを駆動する為の半導体素子などは図示していない。
【0063】
次に第2の工程として、保護膜30の表面に第1の密着層32を、基板1の裏面に第2の密着層33を形成する(図5(a2)、(b2)参照。)。具体的には、保護膜30の表面に、スピンコートによって、第1の密着層32を塗布する。同様に、基板1の裏面に第2の密着層33を塗布する。第1及び第2の密着層32,33としては、熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0064】
その後、第1及び第2の密着層32,33をベークによって硬化させる。そして第1の密着層32に、スピンコートによってポジ型レジストを塗布する。その後、露光、現像して、ドライエッチングによりパターニングして、ポジ型レジストを剥離させる。
【0065】
さらに、第2の密着層33に、スピンコートによってポジ型レジストを塗布し、液滴供給口9を形成するマスクで露光、現像して、ドライエッチングによりパターニングする。その後、ポジ型レジストを剥離する。
【0066】
次に第3の工程として、保護膜30及び第1の密着層32に、型材料34を積層させる(図5(a3)、(b3)参照。)。具体的には、ノズル4、連通路5、及び第2の開口部7となるべき部分に、型材料34であるポジ型レジストをパターニングする。このポジ型レジストとしては、例えばODUR(東京応化工業(株)製)を用いることができる。
【0067】
次に第4の工程として、流路形成部材2を形成する(図5(a4)、(b4)参照。)。具体的には、第1の密着層32及び型材料34に、スピンコートによって流路形成部材2である被覆感光性樹脂を塗布する。
【0068】
流路形成部材2の表面(フェイス面13となるべき面。)には、ドライフィルムのラミネートによって、撥水材8を形成する。
【0069】
また、吐出口3と第1の開口部6は、紫外線やDeepUVによって、流路形成部材2を露光、現像することで形成される。
【0070】
次に第5の工程として、基板1及び流路形成部材2を保護材35で覆う(図6(a1)、(b1)参照)。具体的には、流路形成部材2のフェイス面13側とその側面、及び基板1の側面を保護材35で覆う。
【0071】
保護材35はスピンコートによって形成される。保護材35は、後の工程で使用される強アルカリ溶液に十分耐えうる材料を用いる。これにより、撥水材8の劣化を防止することができる。
【0072】
次に第6の工程として、液滴供給口9、連通路5、及び第1の開口部6を形成する(図6(a2)、(b2)参照。)。具体的には、液滴供給口9は、強アルカリ性の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)溶液によって、基板1を化学的に異方性エッチングすることで形成される。
【0073】
このとき、基板1の結晶方位が<100>であるため、基板1表面の犠牲層31までエッチングされる。さらに、犠牲層31を覆っていた保護膜30をエッチングにより除去することで、液滴供給口9が形成される。この後、第2の密着層33及び保護材35を除去する。
【0074】
さらに、型材料34を溶出させる事により、ノズル4と、連通路5と、第2の開口部7と、を形成する。型材料34がポジ型レジストの場合、型材料34は、遠紫外線(Deep UV光)によって全面照射して、溶解除去することができる。
【0075】
その後、基板1や流路形成部材2などを乾燥させれば良い。また溶解除去の際に、必要に応じて超音波浸漬しても良い。
【0076】
以上の工程の後、基板1をダイシングソーにより切断分離し、チップ化する。そして、吐出エネルギー発生素子10と、基板1に設けられている電極(不図示)とを電気的に接合する。さらに、液滴を供給するためのチップタンク部材(不図示)を接続することで、液体吐出記録ヘッドが完成する。
【0077】
[第2の実施例]
以下、本発明の第2の実施例ついて図面を参照して説明する。図7(a)は本発明の第2の実施例に係る記録ヘッドのフェイス面から見た平面図である。また図7(b)は、図7(a)の9B−9B線に沿って切断した断面図であり、図7(c)は、図1(a)の9C−9C線に沿って切断した断面図である。
【0078】
第2の実施例に係る液体吐出記録ヘッドは、第1の実施例と同様に、基板1と、流路形成部材2とを有する。基板1の構造は、第1の実施例と同じである。
【0079】
流路形成部材2には、第1の開口部6と、第1の開口部6内を流路形成部材2の外側に連通する第2の開口部7と、が形成されている。第1の開口部7から第2の開口部6への連通路5内は親水性を有する。
【0080】
本実施例では、連通路5は流路形成部材2の内部に形成されている。つまり、連通路5と基板1との間には、流路形成部材2の一部が存在する。その他の構成は、第1の実施例と同じである。
【0081】
これにより、仮に、フェイス面13のクリーニングで用いられるブレードが、連通路5の内部に押入された場合にも、基板1を傷つけることを防止することができる。
【0082】
また同様に、記録ヘッドを組立てる際のチップ搬送時においても、基板1を傷つけることを防止することができる。また本実施例の構成によれば、連通路5を規定する壁面が全て流路形成部材2により構成されるので、液体に対する濡れ性が連通路内の任意の場所で等しくなり、連通路5内での液体保持の点で好ましい。
【0083】
次に、第2の実施例に係る記録ヘッドの製造方法について説明する。図8(a)〜図8(f)は、概略的な製造工程を示すステップ図である。これらの図は、図7(a)の9B−9B線に相当する線に沿った断面図である。
【0084】
まず、第1の実施例における製造方法と同様に、第1の工程を実施する(図8(a)参照。)。
【0085】
次に第2の工程として、保護膜30の表面に第1の密着層32を、基板1の裏面に第2の密着層33を形成し、第1の密着層32に流路形成部材2の一部を積層する(図8(b)参照。)。
【0086】
具体的には、基板1の表面に第1の密着層32を、基板1の裏面に第2の密着層33を、スピンコートによって塗布した後、ベークにより硬化させる。
【0087】
そして第1の密着層32をパターニングする為に、流路形成部材2の一部となるべき被覆感光性樹脂を、スピンコートにより塗布する。その後、被覆感光性樹脂を露光、現像して、ドライエッチングによりパターニングする。
【0088】
次に、第1の実施例における製造方法と同様に、第3の工程(図8(c)参照。)、第4の工程(図8(d)参照。)、第5の工程(図8(e)参照。)、及び第6の工程(図8(f)参照。)を実施する。
【0089】
以上の工程の後、基板1をダイシングソーにより切断分離し、チップ化する。そして、吐出エネルギー発生素子10と、基板1に設けられている電極(不図示)とを電気的に接合する。さらに、液滴を供給するためのチップタンク部材(不図示)を接続することで、液体吐出記録ヘッドが完成する。
【0090】
以上、本発明の望ましい実施例について提示し、詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限り、さまざまな変更及び修正が可能であることを理解されたい。
【0091】
例えば、第2の開口部7は1つでも良いし、複数設けられていても良い。また流路形成部材2には、連通路5が複数形成されていて良い。
【0092】
第1の開口部6は、フェイス面13に付着した小液滴を効率的に保持し、回復処理手段20のキャップ21で覆われれば、どこに形成されていても良い。
【0093】
また、第2の開口部7は、キャップ21で覆われなければ、どこに形成されていても良い。
【0094】
ノズル4の配置は、被記録媒体に液滴を吐出することができれば、どのような配置であってもよい。
【0095】
本発明の液体吐出記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを備えたファクシミリ、プリンタ部を備えたワードプロセッサ装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わされた産業記録装置などに搭載することができる。
【0096】
本発明の液体吐出記録ヘッドを用いる事で、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、及びセラミックなどの被記録媒体に記録を行う事ができる。尚、本発明において「記録」とは、文字や図形のような意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与する事だけではなく、単なるパターンのような意味を持たない画像を付与する事をも意味する。
【符号の説明】
【0097】
1 基板
2 流路形成部材
3 吐出口
4 ノズル
5 連通路
6 第1の開口部
7 第2の開口部
8 撥水材
13 フェイス面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する吐出口と該吐出口に連通する流路とが形成された流路形成部材を備えた液体吐出記録ヘッドにおいて、
前記流路形成部材には、前記吐出口が形成された面に設けられた第1の開口部と、連通路を介して前記第1の開口部の内部を前記流路形成部材の外側に連通する第2の開口部と、がさらに形成されていることを特徴とする、液体吐出記録ヘッド。
【請求項2】
前記第2の開口部から前記第1の開口部への前記連通路の内部は前記吐出口が形成された面に比べて高い親水性を有することを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出記録ヘッド。
【請求項3】
前記第1の開口部は、前記吐出口が形成された面において、すべての吐出口を環状に取り囲むように形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の液体吐出記録ヘッド。
【請求項4】
前記第2の開口部は、前記流路形成部材の前記吐出口が形成された面に隣接する面に設けられていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出記録ヘッド。
【請求項5】
前記連通路を規定する壁面は前記流路形成部材で構成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出記録ヘッド。
【請求項6】
前記第1の開口部は、前記吐出口が形成された面から前記連通路へ向かうに従って細くなるテーパ形状であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかの1項に記載の液体吐出記録ヘッド。
【請求項7】
前記連通路は、前記第2の開口部に向かうに従って細くなるテーパ形状であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかの1項に記載の液体吐出記録ヘッド。
【請求項8】
前記第2の開口部が複数設けられていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出記録ヘッド。
【請求項9】
前記連通路の内部に、前記流路形成部材を支える柱状の材料を、少なくとも1つ有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出記録ヘッド。
【請求項10】
液滴を吐出する吐出口と該吐出口に連通する流路とが形成された流路形成部材を備え、前記流路形成部材には、前記吐出口が形成された面に設けられた第1の開口部と、連通路を介して前記第1の開口部の内部を前記流路形成部材の外側に連通する第2の開口部と、がさらに形成されている、液体吐出記録ヘッドと、
前記吐出口が形成された面の少なくとも一部を覆う状態で前記液体吐出記録ヘッドの回復処理を行う回復処理手段と、を有し、
前記回復処理手段が、前記吐出口が形成された面を覆った状態において、前記第1の開口部は前記回復処理手段に覆われる位置に設けられており、前記第2の開口部は前記回復処理手段の外側に設けられている、記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−12776(P2010−12776A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127868(P2009−127868)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】