説明

液体噴射システム、液体噴射装置及び液体収容体

【課題】印刷品質の低下を抑制しつつ、液体の撹拌を行うことができる液体噴射システム、液体噴射装置及び液体収容体を提供する。
【解決手段】液体噴射システムは、主走査方向Xに沿って移動するキャリッジと、キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドと、キャリッジに配置される液体収容体16と、主走査方向Xと交差する副走査方向において、液体収容体16の一方側の端部と隣接する位置に配置される磁石25とを備える。液体収容体16の内底面は、上下方向Zにおいて磁石25よりも低い高さ位置で副走査方向における一方側から他方側に向かって下方に傾斜しつつ延びる往路斜面28と、副走査方向における他方側から一方側に向かって下方に傾斜しつつ延びる復路斜面29とを有し、液体収容体16内には、自重により往路斜面28及び復路斜面29を移動可能であるとともに、磁石25の磁力で上昇する磁性体26が収容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射システム、液体噴射装置及び液体収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット式プリンターなどの液体噴射装置には、主走査方向に往復移動可能なキャリッジに液体噴射ヘッド(記録ヘッド)及びインクタンク(液体収容体)を搭載して、液体噴射ヘッドの往動時に実行される往路印刷と復動時に実行される復路印刷との間に所定量の紙送り動作を実行することにより、双方向印刷を行うものがあった。(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1のインクジェット式プリンターにおいては、液体噴射ヘッドから噴射する液体として、顔料粒子を含む顔料インクを使用していた。そのため、顔料粒子の沈降に伴う印刷品質の低下を防止するため、インクタンク内に球状の磁性体を収容するとともに、キャリッジの移動範囲(移動領域)においてインクタンクの下方となる位置に永久磁石を設置していた。そして、キャリッジの移動に伴ってインクタンク内の磁性体を永久磁石の磁力によって移動させることで、顔料インクを撹拌するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−187943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1においては、永久磁石を印刷媒体への印刷を行う印刷領域を含むキャリッジの移動範囲内における広い範囲に亘って配置していたため、キャリッジに搭載されたインクタンク内の磁性体が永久磁石の吸引力を受けることでキャリッジの移動が不安定となり、印刷品質が悪化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、印刷品質の低下を抑制しつつ、液体の撹拌を行うことができる液体噴射システム、液体噴射装置及び液体収容体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射システムは、主走査方向に沿って移動するキャリッジと、該キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドと、前記キャリッジに配置される液体収容体と、前記主走査方向と交差する副走査方向において、前記液体収容体の一方側の端部と隣接する位置に配置される磁石とを備え、前記液体収容体の内底面は、重力方向において前記磁石よりも低い高さ位置で前記副走査方向における前記一方側から他方側に向かって下方に傾斜しつつ延びる往路斜面と、前記副走査方向における前記他方側から前記一方側に向かって下方に傾斜しつつ延びるとともに、前記一方側の端部が前記往路斜面と前記主走査方向に沿って並ぶ復路斜面とを有し、前記液体収容体内には、自重により前記往路斜面及び前記復路斜面を移動可能であるとともに、前記磁石の磁力が及ぶと該磁力で上昇する磁性体が収容されている。
【0008】
この構成によれば、磁性体はキャリッジの主走査方向に沿う移動に伴って磁石の磁力が及ぶ位置に至ると上昇し、磁石から離間すると磁力が及ばなくなって落下する。したがって、キャリッジが往路斜面側から復路斜面側に向かう方向に移動するのに伴って復路斜面側にある磁性体に磁石の磁力が及ぶと、磁性体は磁力によって上昇した後に液体収容体の移動に伴って往路斜面側に落下する。これにより、キャリッジの移動に伴って磁性体を復路斜面側の一方側である下端側から往路斜面の一方側である上端側へ移動させることができる。そして、磁性体は自重により往路斜面及び復路斜面を移動可能であるので、往路斜面側に落下すると自重により往路斜面の一方側から他方側に向かって往路移動し、更に復路斜面の他方側から一方側に向かって復路移動する。すなわち、磁性体は自重による往復移動によって液体収容体内に収容された液体を撹拌するが、磁性体の往復移動時には磁性体に磁石の磁力は及んでいないため、印刷品質の低下を抑制しつつ、液体の撹拌を行うことができることができる。
【0009】
本発明の液体噴射システムにおいて、前記往路斜面及び前記復路斜面は各々が前記副走査方向に沿って延びるように前記主走査方向に並設され、前記液体収容体の前記内底面は、前記往路斜面の前記他方側の端部を該往路斜面よりも更に下方に傾斜する前記復路斜面の前記他方側の端部に接続する接続斜面を有する。
【0010】
この構成によれば、往路斜面及び復路斜面は副走査方向に沿って延びるとともに主走査方向に沿って並設されているので、磁性体の往復移動に伴って液体収容体内を満遍なく撹拌することができる。また、液体収容体の内底面は往路斜面の下端となる他方側の端部を復路斜面の上端となる他方側の端部に接続する接続斜面を有するので、接続斜面によって磁性体を往路斜面から復路斜面に向かってスムーズに移動させることができる。また、復路斜面は往路斜面よりも更に下方に傾斜するので、磁性体は自重によって往路斜面、接続斜面及び復路斜面を連続的に移動することができる。
【0011】
本発明の液体噴射システムにおいて、前記往路斜面には、前記磁性体を前記副走査方向に沿って移動するように案内するための案内部が形成されている。
この構成によれば、往路斜面に形成された案内部によって、磁性体が往路斜面の途中位置で復路斜面に落下することを抑制し、磁性体を副走査方向に沿って往路斜面の下端側まで移動させることができる。
【0012】
本発明の液体噴射システムにおいて、前記液体収容体の前記内底面は前記復路斜面の前記一方側の端部に接続する平面部を有し、該平面部には、前記液体収容体内に収容された液体を前記液体噴射ヘッド側に供給するための液体供給孔が設けられている。
【0013】
この構成によれば、液体収容体の内底面において低部となる平面部に液体供給孔が設けられているので、液体収容体内に収容された液体を無駄なく液体噴射ヘッド側に供給することができる。また、平面部は復路斜面の下端となる一方側の端部に接続するので、磁性体は自重により復路斜面上を復路移動した後に平面部で停止し、磁石の磁力が及ぶと該磁力によって上昇する。すなわち、磁性体の上方への移動に伴って平面部上で液体が撹拌されるので、低部となる平面部に堆積した沈殿成分を撹拌することができる。
【0014】
本発明の液体噴射システムにおいて、前記キャリッジは前記主走査方向に沿って、前記液体噴射ヘッドが印刷媒体に対して液体を噴射する印刷領域と、該印刷領域外となる非印刷領域との間を往復移動し、前記磁石は前記主走査方向において、前記非印刷領域に設けられている。
【0015】
この構成によれば、磁性体は非印刷領域において磁石の磁力を受けて上昇し、キャリッジが非印刷領域から印刷領域に移動すると磁性体に磁石の磁力が及ばなくなるので、印刷品質の低下を更に抑制することができる。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置は、主走査方向に沿って移動するキャリッジと、該キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドとを備え、上記液体噴射システムにおける前記液体収容体が前記キャリッジに設けられた。
【0017】
この構成によれば、上記液体噴射システムと同様の作用効果を得ることができる。
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置は、主走査方向に沿って移動するキャリッジと、該キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドとを備え、前記キャリッジには、上記液体噴射システムにおける前記液体収容体が着脱可能に装着される。
【0018】
この構成によれば、キャリッジに液体収容体が着脱可能に装着される液体噴射装置において、上記液体噴射システムと同様の作用効果を得ることができる。
上記目的を達成するために、本発明の液体収容体は、上記液体噴射システムにおける前記液体収容体であって、主走査方向に沿って移動するキャリッジと、該キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドとを備える液体噴射装置の前記キャリッジに着脱可能である。
【0019】
この構成によれば、液体噴射装置に着脱可能な液体収容体において、上記液体噴射システムと同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態のプリンターの概略構成を示す平面図。
【図2】第1実施形態の液体収容体の断面図。
【図3】図2におけるA−A線矢視断面斜視図。
【図4】(a)〜(d)は第1実施形態における磁石の作用を説明するための断面図。
【図5】図2におけるB−B線矢視断面図。
【図6】第2実施形態の液体供給孔を説明するための断面図。
【図7】第3実施形態の液体供給孔を説明するための断面斜視図。
【図8】第3実施形態の液体供給孔を説明するための断面図。
【図9】第4実施形態のプリンターの概略構成を示す平面図。
【図10】第4実施形態の液体収容体の断面図。
【図11】図10におけるC−C線矢視断面斜視図。
【図12】(a)〜(d)は第4実施形態におけるキャリッジの往路移動に伴う磁石の作用を説明するための断面図。
【図13】(a)〜(d)は第4実施形態におけるキャリッジの復路移動に伴う磁石の作用を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
始めに、本発明を液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンターに具体化した第1実施形態を図1〜図5を用いて説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は、各図中に矢印で示した方向を基準として示すものとする。
【0022】
図1に示すプリンター11は液体噴射システムを構成し、本体ケース12を備えている。本体ケース12の背面側には印刷用紙などの印刷媒体Pをセット可能なセット部13が設けられている。本体ケース12の内側には、左右方向に延びるガイド軸14が架設されている。そして、ガイド軸14にはキャリッジ15が支持されている。
【0023】
キャリッジ15上には複数(本実施形態では4つ)の液体収容体16が配置されるとともに、キャリッジ15の下面側には印刷媒体Pに対して印刷処理を実行する液体噴射ヘッド18が搭載されている。そして、液体噴射ヘッド18の下面には、液体収容体16内に収容された液体としての顔料インクを下方へ向けて噴射可能なノズル開口(図示略)が複数設けられている。
【0024】
キャリッジ15は、一対のプーリ19,20間に張設された無端状のタイミングベルト21を介して、プーリ19の背面側に設けられたCRモーター22に連結されている。そして、キャリッジ15はCRモーター22の駆動に伴って、左右方向となる主走査方向Xに沿って往復移動するようになっている。
【0025】
本体ケース12内において右側寄りの底部には、メンテナンスユニット23が配置されている。メンテナンスユニット23が配置された位置は、キャリッジ15の主走査方向Xにおける移動経路上であって、印刷媒体Pに対する印刷処理が行われないホームポジションとなっている。そして、電源オフ時や印刷待機時にはキャリッジ15がホームポジションに移動されて、メンテナンスユニット23によって液体噴射ヘッド18に対するクリーニングなどのメンテナンス処理が行われるようになっている。
【0026】
メンテナンスユニット23の左方には、印刷処理が施される印刷媒体Pを支持するプラテン24が固定されている。そして、印刷媒体Pを副走査方向Yに所定距離搬送する搬送処理と、液体噴射ヘッド18が主走査方向Xに移動しつつノズル開口から印刷媒体Pに対して顔料インクを噴射する印刷処理とを交互に行うことにより、印刷媒体Pに対する記録処理が実行されるようになっている。
【0027】
ここで、主走査方向Xにおいて、印刷媒体Pに対する印刷処理が実行される領域は印刷領域となっている。一方、本体ケース12内において印刷領域の左右両側であって、キャリッジ15の移動範囲内となる領域は、非印刷領域となっている。プリンター11においては、キャリッジ15が印刷領域において直線移動しながら印刷処理が行われるため、印刷品質を保持するため、キャリッジ15は印刷領域内においては均等な速度で移動し、非印刷領域において減速、方向転換及び加速を行うようになっている。
【0028】
キャリッジ15の移動領域のうち、印刷領域外となる非印刷領域において、液体収容体16の副走査方向Y(前後方向)の一方側の端部(前端部)と隣接する位置には、磁石25が配置されている。本実施形態においては、磁石25はホームポジションが設けられた右側の非印刷領域に配置されている。
【0029】
図2及び図3に示すように、各液体収容体16はケース17を備え、ケース17の内部空間により顔料インクを収容する液体収容室17aが形成されている。また、液体収容体16内には球状の磁性体26が収容されている。そして、液体収容体16の内底面27は、往路斜面28と、復路斜面29と、接続斜面30と、平面部31とを有している。
【0030】
往路斜面28は、重力方向となる上下方向Zにおいて磁石25よりも低い高さ位置で副走査方向Yに沿って一方側(前側)から他方側(後側)に向かって下方に傾斜しつつ延びる。往路斜面28は副走査方向Yに沿って断面V字状の案内部としての案内溝28aが形成されている。また、接続斜面30は、主走査方向Xにおける右側から左側に向かって下方に傾斜しつつ延びるとともに、往路斜面28の他方側の端部(下端部)を、往路斜面28よりも更に下方に傾斜する復路斜面29の他方側の端部(上端部)に接続する。
【0031】
復路斜面29は、副走査方向Yにおける他方側(後側)から一方側(前側)に向かって下方に傾斜しつつ延びるとともに、一方側の端部(前端部)が往路斜面28と主走査方向Xに沿って並ぶ。そして、平面部31は、復路斜面29の一方側の端部(下端部)に接続するとともに、主走査方向Xに沿って往路斜面28の一方側の端部(上端部)と並ぶように設けられている。
【0032】
すなわち、往路斜面28及び復路斜面29は各々が副走査方向Yに沿って延びるように主走査方向Xに並設される。また、往路斜面28及び接続斜面30は副走査方向Yに沿って並設され、復路斜面29及び平面部31とは副走査方向Yに沿って並設される。なお、以下の説明において、内底面27の往路斜面28及び接続斜面30が配置された部分を主走査方向Xにおける往路斜面28側といい、内底面27の復路斜面29及び平面部31が配置された部分を主走査方向Xにおける往路斜面28側ということがある。
【0033】
ケース17の下端面において前側寄りの部分からは、液体収容体16内に収容された顔料インクを液体噴射ヘッド18側に供給するための液体供給孔32aが内部に設けられた供給管32が下方に向けて突設されている。そして、液体供給孔32aの上流端は平面部31に開口しているので、平面部31には液体供給孔32aが設けられる態様となっている。
【0034】
磁性体26は自重により往路斜面28、接続斜面30及び復路斜面29を移動(転動)可能となっているとともに、復路斜面29の下端から平面部31に至ると液体収容体16の内側壁に移動を規制されることで、平面部31上において停止するようになっている。また、図4に示すように、磁石25は往路斜面28よりも高い位置に配置されているので、磁性体26が平面部31に停止しているときに磁石25の磁力が及ぶと、磁性体26は磁石25の磁力に引き寄せられることで、磁石25が配置された位置まで上昇するようになっている。
【0035】
次に、以上のように構成された液体噴射システムの作用について図4及び図5に基づいて説明する。
記録処理を実行するためにキャリッジ15が右側の非印刷領域(ホームポジション側)から図4(a)に示すように左方に向かって移動すると、液体収容体16が副走査方向Yに沿って磁石25と隣接する位置に至り、磁性体26に磁石25の磁力が及ぶ。すると、図4(b)に示すように、磁性体26が磁石25に引き寄せられて上昇するとともに、主走査方向Xへの移動が規制される。
【0036】
この状態でキャリッジ15が左方への移動を継続すると、図4(c)に示すようにケース17が磁性体26を残して左方に移動するので、磁性体26は主走査方向Xにおいて、液体収容体16に対して復路斜面29側から往路斜面28側へと相対移動する態様となる。そして、キャリッジ15が更に左方に移動して印刷領域に至ると、ケース17の移動に伴って磁性体26に磁石25の磁力が及ばなくなり、図4(d)に示すように磁性体26が往路斜面28の一方側の端部(上端部)上に落下する。すると、磁性体26はキャリッジ15が印刷領域から左側の非印刷領域に移動し、非印刷領域の左端で方向転換して印刷領域を右方に進む間に、図5に示すように、自重によって往路斜面28、接続斜面30及び復路斜面29の上を転動し、平面部31上で停止する。
【0037】
このように、キャリッジ15の主走査方向Xに沿う往復移動に伴って、磁性体26が磁石25の磁力によって内底面27の下端側となる平面部31から上端側となる復路斜面29上に引き上げられるとともに、自重による往復移動によって液体収容体16内の顔料インクを撹拌する。
【0038】
また、キャリッジ15が印刷領域を右方向に向かって移動し、右側の非印刷領域において液体収容体16の一方側の端部(前端部)が磁石25と隣接する位置に至ると、磁性体26に磁石25の磁力が及ぶ。すると、平面部31に停止した磁性体26が磁石25に引き寄せられて上昇する。そして、キャリッジ15が更に右方に進むと、ケース17の移動に伴って磁性体26に磁石25の磁力が及ばなくなり、磁性体26が復路斜面29側の平面部31上に落下する。
【0039】
この磁性体26の上下移動により、平面部31付近の顔料インクが撹拌される。すなわち、磁性体26が顔料インクに含まれる顔料粒子が堆積しがちな平面部31において上下方向に移動することで、効果的に撹拌が行われる。したがって、平面部31に設けられた液体供給孔32aに堆積した顔料粒子が流入することが抑制される。
【0040】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)磁性体26はキャリッジ15の主走査方向Xに沿う移動に伴って磁石25の磁力が及ぶ位置に至ると磁石25に引き寄せられて上昇し、磁石25から離間すると磁力が及ばなくなって落下する。したがって、キャリッジ15が往路斜面28側から復路斜面29側に向かう方向に移動するのに伴って復路斜面29側の平面部31にある磁性体26に磁石25の磁力が及ぶと、磁性体26は磁力によって上昇した後に液体収容体16の移動に伴って往路斜面28側に落下する。これにより、キャリッジ15の移動に伴って磁性体26を復路斜面29側の一方側である下端側から往路斜面28の一方側である上端側へ移動させることができる。
【0041】
そして、磁性体26は自重により往路斜面28及び復路斜面29を移動可能であるので、磁性体26が往路斜面28側に落下すると自重により往路斜面28の一方側から他方側に向かって往路移動し、復路斜面29の他方側(後方側)から一方側(前方側)に向かって復路移動する。すなわち、磁性体26は自重による往復移動によって液体収容体16内に収容された顔料インクを撹拌するが、磁性体26の往復移動時には磁性体26に磁石25の磁力は及んでいないため、印刷品質の低下を抑制しつつ、顔料インクの撹拌を行うことができることができる。
【0042】
(2)往路斜面28及び復路斜面29は副走査方向Yに沿って延びるとともに主走査方向Xに沿って並設されているので、磁性体26の往復移動に伴って液体収容体16内を満遍なく撹拌することができる。また、液体収容体16の内底面27は往路斜面28の下端となる他方側の端部を復路斜面29の上端となる他方側の端部に接続する接続斜面30を有するので、接続斜面30によって磁性体26を往路斜面28から復路斜面29に向かってスムーズに移動させることができる。また、復路斜面29は往路斜面28よりも更に下方に傾斜するので、磁性体26は自重によって往路斜面28、接続斜面30及び復路斜面29を連続的に移動することができる。
【0043】
(3)往路斜面28に形成された案内溝28aによって、磁性体26が往路斜面28の途中位置で復路斜面29側に落下することを抑制し、磁性体26を副走査方向Yに沿って往路斜面28の下端側まで移動させることができる。
【0044】
(4)液体収容体16の内底面27において低部となる平面部31に液体供給孔32aが設けられているので、液体収容体16内に収容された顔料インクを無駄なく液体噴射ヘッド18側に供給することができる。また、平面部31は復路斜面29の下端となる一方側の端部に接続するので、磁性体26は自重により復路斜面29上を復路移動した後に平面部31で停止し、磁石25の磁力が及ぶと磁力によって上昇する。すなわち、磁性体26の上方への移動に伴って平面部31上で顔料インクが撹拌されるので、低部となる平面部31に堆積した沈殿成分を撹拌することができる。
【0045】
(5)磁性体26は非印刷領域において磁石25の磁力を受けて上昇し、キャリッジ15が非印刷領域から印刷領域に移動すると磁性体26に磁石25の磁力が及ばなくなるので、印刷品質の低下を更に抑制することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明を同じくインクジェット式プリンターに具体化した第2実施形態について、図6に基づいて説明する。なお、第2実施形態のプリンター11は、第1実施形態の液体供給孔32aの配置を変更したものであるので、主にその変更部分について説明する。
【0047】
図6に示すように、本実施形態の液体収容体16の内底面27において、液体供給孔32aは平面部31において磁性体26が停止する位置を避けるように、主走査方向Xにおいて往路斜面28と平面部31にまたがる位置に配置されている。
【0048】
上記実施形態によれば、上記(1)〜(5)と同様の効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(6)磁性体26が平面部31に停止したときにも液体供給孔32aを塞ぐことがないので、液体噴射ヘッド18への顔料インクの供給を妨げることがない。
【0049】
(7)液体供給孔32aは上下方向Zに沿って貫通するように形成することができるので、加工が容易である。
(第3実施形態)
次に、本発明を同じくインクジェット式プリンターに具体化した第3実施形態について、図7及び図8に基づいて説明する。なお、第3実施形態のプリンター11は、第1実施形態の液体供給孔32aの配置を変更したものであるので、主にその変更部分について説明する。
【0050】
図7及び図8に示すように、本実施形態のケース17内において、往路斜面28の前側寄りとなる部分の下方には、平面部31側となる左方に開口する凹部33が形成されている。また、平面部31は復路斜面29の下端部に接続するとともに、凹部33内に延設されている。そして、液体供給孔32aはその上流端の開口の半分程度が凹部33内に位置するように配置されている。
【0051】
上記実施形態によれば、上記(1)〜(6)と同様の効果を得ることができる。
(第4実施形態)
次に、本発明を同じくインクジェット式プリンターに具体化した第4実施形態について、図9〜図13に基づいて説明する。なお、第4実施形態のプリンター11については、第1実施形態と相違する部分について主に説明する。
【0052】
図9に示すように、本実施形態においては、右側の非印刷用域に加えて、左側の非印刷領域にも磁石25が配置されている。また、図10及び図11に示すように、液体収容体16の内底面27は往路斜面28及び接続斜面30を2つずつ有している。具体的には、復路斜面29の左右両側にそれぞれ往路斜面28及び接続斜面30が設けられている。
【0053】
次に、以上のように構成された液体噴射システムの作用について図12及び図13に基づいて説明する。
記録処理を実行するためにキャリッジ15が右側の非印刷領域(ホームポジション側)から図12(a)に示すように左方に向かって移動すると、液体収容体16が磁石25と隣接する位置に至り、磁性体26に磁石25の磁力が及ぶ。すると、図12(b)に示すように、磁性体26が磁石25に引き寄せられて上昇するとともに、主走査方向Xへの移動が規制される。
【0054】
この状態でキャリッジ15が左方に進むと、図12(c)に示すようにケース17は磁性体26を残して左方に移動するので、磁性体26は主走査方向Xにおいて、液体収容体16に対して復路斜面29側から右側の往路斜面28側へと相対移動する態様となる。そして、キャリッジ15が更に左方に移動して印刷領域に至ると、ケース17の移動に伴って磁性体26に磁石25の磁力が及ばなくなり、図12(d)に示すように磁性体26が右側の往路斜面28の一方側の端部(上端部)上に落下する。すると、磁性体26はキャリッジ15が印刷領域を左方に移動する間に、自重によって右側の往路斜面28、右側の接続斜面30及び復路斜面29の上を転動し、平面部31上で停止する。
【0055】
続いて、キャリッジ15が印刷領域を左方に移動して左側の非印刷領域に至った場合にも、液体収容体16が左側の磁石25と隣接する位置に至り、図12(a)〜図12(d)に示すように磁性体26が左側の磁石25の磁力によって平面部31から右側の往路斜面28の上端側に移動する。したがって、磁性体26はキャリッジ15が左側の非印刷領域を左方に移動して方向転換する間に、自重によって右側の往路斜面28、右側の接続斜面30及び復路斜面29の上を転動し、平面部31上で停止する。なお、非印刷領域は印刷領域よりも主走査方向Xにおける長さは短いが、キャリッジ15は方向転換に伴って減速するので、磁性体26が往路斜面28、接続斜面30及び復路斜面29を移動する時間が確保される。
【0056】
また、図13(a)に示すようにキャリッジ15が左側の非印刷領域を右方に向かって移動すると、液体収容体16が左側の磁石25と隣接する位置に至り、磁性体26に左側の磁石25の磁力が及ぶ。すると、図13(b)に示すように、磁性体26が磁石25に引き寄せられて上昇するとともに、主走査方向Xへの移動が規制される。
【0057】
この状態でキャリッジ15が右方に進むと、図13(c)に示すようにケース17が磁性体26を残して右方に移動するので、磁性体26は主走査方向Xにおいて、液体収容体16に対して復路斜面29側から左側の往路斜面28側へと相対移動する態様となる。そして、キャリッジ15が更に右方に移動して印刷領域に至ると、ケース17の移動に伴って磁性体26に磁石25の磁力が及ばなくなり、図13(d)に示すように磁性体26が左側の往路斜面28の一方側の端部(上端部)上に落下する。すると、磁性体26はキャリッジ15が印刷領域を右方に向かって移動する間に、自重によって左側の往路斜面28の、左側の接続斜面30及び復路斜面29の上を転動し、平面部31上で停止する。
【0058】
続いて、キャリッジ15が印刷領域を右方に移動して右側の非印刷領域に至った場合にも、液体収容体16が右側の磁石25と隣接する位置に至り、図13(a)〜図13(d)に示すように磁性体26が右側の磁石25の磁力によって平面部31から左側の往路斜面28の上端側に移動する。したがって、磁性体26はキャリッジ15が右側の非印刷領域を右方に移動して方向転換する間に、自重によって左側の往路斜面28、左側の接続斜面30及び復路斜面29の上を転動し、平面部31上で停止する。
【0059】
このように、キャリッジ15の主走査方向Xに沿う往復移動に伴って、磁性体26が磁石25の磁力によって内底面27の下端部となる平面部31から上端部となる復路斜面29上に引き上げられるとともに、自重による往復移動によって液体収容体16内の顔料インクを撹拌する。
【0060】
本実施形態によれば、上記(1)〜(5)と同様の効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(8)主走査方向Xにおける復路斜面29の両側に往路斜面28が設けられているので、キャリッジ15のホームポジション側から印刷領域に向かう左方への往路移動時に加えて、右方への復路移動時にも磁性体26を平面部31(復路斜面29側)から往路斜面28側に移動させることができる。
【0061】
(9)磁石25が主走査方向Xに沿って複数(2つ)設けられているので、キャリッジ15の一方に向かう移動時(左方への往動時又は右方への復動時)に複数回(2回)、磁性体26を平面部31(復路斜面29側)から往路斜面28側に移動させることができる。
【0062】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・磁性体26は必ずしも液体収容体16が磁石25と隣接する位置に至る毎に平面部31から往路斜面28の上端側に移動しなくてもよい。すなわち、磁性体26が平面部31まで往復移動する時間は磁性体26の重さ並びに往路斜面28及び復路斜面29の傾斜角度及び長さなどによって異なるので、磁性体26の移動時間をキャリッジ15の移動時間と同期させなくてもよい。
【0063】
・液体収容体16の副走査方向Yにおける両端部と隣接するように、磁石25を副走査方向Yに沿って2つ配置してもよい。この場合には、復路斜面29の上端側が往路斜面28の下端側よりも高い位置に配置されても、往路斜面28側から復路斜面29側に磁性体26を移動させることができる。なお、この場合には、接続斜面30を省略することができる一方、復路斜面29にも副走査方向Yに沿って延びる案内部を設けるのが好ましい。
【0064】
・案内部は往路斜面28と復路斜面29との間に副走査方向Yに沿って延びる凸部として実現してもよい。また、往路斜面28を主走査方向Xにおいて復路斜面29側となる一方側から他方側に向けて下方に傾斜させるようにしてもよい。
【0065】
・接続斜面30及び平面部31のうち少なくとも何れか一方を形成しなくてもよい。
・磁石25を液体収容体16の他方側(後方側)に配置してもよい。この場合には、往路斜面28は後方側が上端に、前方側が下端になるように傾斜し、復路斜面29は前方側が上端に、後方側が下端になるように傾斜する態様となる。
【0066】
・往路斜面28及び復路斜面29は主走査方向X及び副走査方向Yに対して斜めに交差するように配置してもよいし、曲線状に延びるように配置してもよい。また、復路斜面29及び往路斜面28を複数ずつ交互に並設してもよい。
【0067】
・磁石25を電磁石とし、キャリッジ15が非印刷領域に移動したとき又は液体収容体16が接近したときに励磁するようにしてもよい。
・液体収容体16は、キャリッジ15に着脱可能に装着されるインクカートリッジとして実現してもよいし、キャリッジ15上に搭載されたインクタンク(サブタンク)として実現してもよい。なお、液体収容体16をインクカートリッジとして実現する場合には、ケース17は色毎(種類毎)に個別に着脱されるものに限らず、1つのケース17(インクカートリッジ)に複数の液体収容室17aを備えるものでもよい。また、液体収容体16をインクタンク(サブタンク)として実現する場合、本体ケース12に設けられたカートリッジホルダを備え、このカートリッジホルダに着脱可能に装着されるインクカートリッジとキャリッジ15上のケース17とがインクチューブを介して接続されるようにしてもよい。すなわち、本発明はいわゆるオンキャリッジタイプのプリンターに限らず、いわゆるオフキャリッジタイプのプリンターとして具体化することもできる。
【0068】
・液体収容体16に収容するのは顔料インクに限らず、例えば比重の異なる複数種類の液体が混合された液体を収容した場合にも、同様の撹拌効果を得ることができる。
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。更に、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうち何れか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
11…液体噴射システムを構成する液体噴射装置としてのプリンター、15…キャリッジ、16…液体収容体、17a…液体収容室、18…液体噴射ヘッド、25…磁石、26…磁性体、27…内底面、28…往路斜面、28a…案内部としての案内溝、29…復路斜面、30…接続斜面、31…平面部、32a…液体供給孔、P…印刷媒体、X…主走査方向、Y…副走査方向、Z…重力方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主走査方向に沿って移動するキャリッジと、
該キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドと、
前記キャリッジに配置される液体収容体と、
前記主走査方向と交差する副走査方向において、前記液体収容体の一方側の端部と隣接する位置に配置される磁石とを備え、
前記液体収容体の内底面は、重力方向において前記磁石よりも低い高さ位置で前記副走査方向における前記一方側から他方側に向かって下方に傾斜しつつ延びる往路斜面と、前記副走査方向における前記他方側から前記一方側に向かって下方に傾斜しつつ延びるとともに、前記一方側の端部が前記往路斜面と前記主走査方向に沿って並ぶ復路斜面とを有し、
前記液体収容体内には、自重により前記往路斜面及び前記復路斜面を移動可能であるとともに、前記磁石の磁力が及ぶと該磁力で上昇する磁性体が収容されていることを特徴とする液体噴射システム。
【請求項2】
前記往路斜面及び前記復路斜面は各々が前記副走査方向に沿って延びるように前記主走査方向に並設され、
前記液体収容体の前記内底面は、前記往路斜面の前記他方側の端部を該往路斜面よりも更に下方に傾斜する前記復路斜面の前記他方側の端部に接続する接続斜面を有することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射システム。
【請求項3】
前記往路斜面には、前記磁性体を前記副走査方向に沿って移動するように案内するための案内部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射システム。
【請求項4】
前記液体収容体の前記内底面は前記復路斜面の前記一方側の端部に接続する平面部を有し、
該平面部には、前記液体収容体内に収容された液体を前記液体噴射ヘッド側に供給するための液体供給孔が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の液体噴射システム。
【請求項5】
前記キャリッジは前記主走査方向に沿って、前記液体噴射ヘッドが印刷媒体に対して液体を噴射する印刷領域と、該印刷領域外となる非印刷領域との間を往復移動し、
前記磁石は前記主走査方向において、前記非印刷領域に設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の液体噴射システム。
【請求項6】
主走査方向に沿って移動するキャリッジと、該キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドとを備え、請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の液体噴射システムにおける前記液体収容体が前記キャリッジに設けられたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
主走査方向に沿って移動するキャリッジと、該キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドとを備え、前記キャリッジには、請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の液体噴射システムにおける前記液体収容体が着脱可能に装着されることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の液体噴射システムにおける前記液体収容体であって、主走査方向に沿って移動するキャリッジと、該キャリッジに搭載される液体噴射ヘッドとを備える液体噴射装置の前記キャリッジに着脱可能であることを特徴とする液体収容体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−126154(P2011−126154A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287313(P2009−287313)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】