説明

液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置

【課題】液体噴射ヘッド内の流路の圧力変動をより確実に抑制することが可能な液体噴射ヘッドを提供する。
【解決手段】インクをインク導入針23導入部からインク導入路25を通じて導入口35からリザーバー27に導入し、当該リザーバーからインク供給口28を介して圧力室29に供給する記録ヘッドにおいて、リザーバーは、導入口35およびインク供給口28よりも鉛直方向の上方に気体貯留部26を有し、当該気体貯留部にインク導入路内の気体を導入すると共に、導入した気体の弾性変形により、インク導入路内の圧力変動を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に用いられる液体噴射ヘッド、および、これを備えた液体噴射装置に関し、特に、液体貯留部材に貯留された液体を圧力室に導入し、圧力発生手段の駆動により圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
この種の液体噴射ヘッドとしては、流通に乗せ易く取り扱いが容易なカートリッジタイプの液体貯留部材を用いるものが開発されている。例えば、インクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという)では、液体状のインクを封入したインクカートリッジを使用するものが広く普及している。この構成では、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッドに対してインクカートリッジを装着する際、当該記録ヘッドのインク導入針(液体導入部)がインクカートリッジ内に挿入されることで、このインク導入針の先端側に開設されたインク導入孔(液体導入孔)を通じてインクカートリッジ内のインクが記録ヘッド側に導入される。記録ヘッドに導入されたインクは、ヘッド内部の導入路を通じて共通液体室(リザーバーまたはマニホールドとも呼ばれる)に導入される。共通液体室に導入されたインクは、当該共通液体室に連通する複数の圧力室にそれぞれ供給される。そして、圧力発生手段の一種である圧電振動子や発熱素子などを駆動することで圧力室内に圧力変動が生じ、この圧力変動が制御されることにより、圧力室に通じるノズルからインクが噴射される。
【0004】
ここで、温度変化や気圧の変化によりインクカートリッジ内に過度な正圧または負圧が生じる場合があり、その圧力がインクカートリッジから記録ヘッドのノズルに伝播すると、当該ノズルに形成されているメニスカスが破壊されることがある。即ち、メニスカスがノズルの内周面よりも圧力室側に過度に引き込まれた状態、或いは、ノズルの噴射側の開口面よりも外側に膨らんだ状態となる場合がある。そして、メニスカスにおける圧力が、当該メニスカスの耐圧を越えた場合、メニスカスが正常に形成されず、インクが噴射されない所謂ドット抜けが生じる虞があった。また、ノズルからインクが漏洩する可能性もあった。このような不具合を解決すべく、インクカートリッジ(インクタンク)に、当該カートリッジ内部の空気層を大気開放可能な圧力制御弁を設け、温度変化等によりインクカートリッジ内に過度な圧力が発生した場合に、圧力制御弁が開かれることでインクカートリッジ内の圧力変動が抑制されるように構成されたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−162217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の構成は、もとよりカートリッジ内部の圧力を一定にするための機構であり、圧力制御弁により閉じられた空間内の空気層の体積を一定に保つことは困難である。このため、上記構成では、圧力変動の衝撃緩和能力が不安定となる虞があった。
【0007】
上記のような現象は、例示した記録ヘッドだけではなく、液体貯留部材に貯留された液体を導入する構成を採用する他の液体噴射ヘッド、および、これを備える液体噴射装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導入流路内の圧力変動をより確実に抑制することが可能な液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、導入された液体を液体導入部から液体導入路を通じて導入口から共通液室に導入し、当該共通液室から液体供給口を介して圧力室に供給し、圧力発生手段の作動によって前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、当該圧力変動により前記圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射する液体噴射ヘッドであって、
前記共通液室は、前記導入口および前記液体供給口よりも鉛直方向の上方に、気体を貯留する気体貯留部を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、液体導入路内の気体が気体貯留部に導入されると共に、導入された気体の弾性変形により液体導入路内の圧力変動が緩和されるので、圧力変動がノズル側に伝わることが抑制され、ノズルにおけるメニスカスに対する悪影響を低減することが可能となる。また、共通液室の上方に気体貯留部が設けられていることで、気体が圧力室側に流入することがより確実に防止される。さらに、気体貯留部内の気体は、ノズルから液体を噴射する際に生じる圧力変動も緩和するコンプライアンス部としても機能するので、従来の液体噴射ヘッドにコンプライアンス部として設けられていたフィルム部材等が不要となる。
【0011】
また、上記構成において、前記気体貯留部内の気体の量を予め定められた範囲内に維持する調整機構を備えた構成を採用することが望ましい。
【0012】
この構成において、前記調整機構は、気体が通過可能な給排気口と、当該給排気口を開閉可能な給排気弁と、当該給排気口を通じて前記気体貯留部内に対して気体を供給または排出可能な給排気手段と、を有し、
前記気体貯留部内の気体の量が予め定められた上限値から下限値の間である場合、前記給排気弁が閉弁し、前記気体貯留部内の気体の量が下限値を下回った場合、前記給排気弁が開弁すると共に前記給排気手段側から前記給排気口を通じて気体貯留部内に気体が供給され、前記気体貯留部内の気体が上限値を超えた場合、前記給排気弁が開弁すると共に気体貯留部内の気体が前記給排気口を通じて前記給排気手段側に排出される構成を採用することが望ましい。
【0013】
この構成によれば、調整機構によって気体貯留部内の気体の量が一定範囲に維持されるので、気体貯留部内の気体による圧力変動の緩和作用を常に安定して確保することが可能となる。また、液体導入路内の気体(気泡)を気体貯留部内に導入し、また、一定量を超えた場合に外部に排出する構成であるため、液体噴射ヘッド内の流路に気泡が発生することが抑制される。これにより、気泡による流路の閉塞や圧力損失等の不具合が低減され、液体噴射ヘッドの信頼性を高めることが可能となる。
【0014】
また、本発明の液体噴射装置は、導入された液体を液体導入部から液体導入路を通じて導入口から共通液室に導入し、当該共通液室から液体供給口を介して圧力室に供給し、圧力発生手段の作動によって前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、当該圧力変動により前記圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射する液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置であって、
前記共通液室は、前記導入口および前記液体供給口よりも鉛直方向の上方に、気体を貯留する気体貯留部を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】インクカートリッジおよび記録ヘッドの構成を説明する模式図である。
【図3】リザーバーのノズル列方向の断面図である。
【図4】調整機構の動作について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体貯留部材の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する搬送機構8と、を備えている。
【0018】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報として図示しない制御部に出力する。
【0019】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート24:図2参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する。
【0020】
図2は、インクカートリッジ3と記録ヘッド2の構成を模式的に示した断面図である。
上記のインクカートリッジ3は、例えば熱可塑性プラスチック等の成型により作製された箱状のケース15を備え、このケース15内には収容室16が形成されている。この収容室16には、インク保持材17が収容されている。インク保持材は、本発明における液体の一種であるインクを吸収し保持する。このインク保持材17としては、例えば、スポンジ状の発泡素材が好適に用いられる。インクカートリッジ3の底面部には、記録ヘッド2のインク導入針23が挿入される針挿入部18が形成されている。この針挿入部18の内周面の開口部分にはパッキン19が設けられている。このパッキン19は、針挿入部18内にインク導入針23が挿入されると、インク導入針23の外周面に液密状態で密着し、インクカートリッジ3内に貯留されたインクがカートリッジ外部に漏れ出すことを防止する。なお、インクカートリッジ3(液体貯留部材)に関し、例示したものには限られず、種々の構成のものを用いることができる。
【0021】
本実施形態における記録ヘッド2は、合成樹脂製のヘッドケース21と、このヘッドケース21の上面(ノズルが形成されたノズル形成面24とは反対側の面)に設けられたカートリッジ装着部22と、当該カートリッジ装着部22に立設されたインク導入針23(本発明における液体導入部に相当)と、を備えている。また、ヘッドケース21の内部には、インク導入路25(本発明における液体導入路に相当)と、リザーバー27(本発明における共通液室に相当)、インク供給口28(本発明における液体供給口に相当)、圧力室29、及びノズル30に至るまでのインク流路と、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子31と、が設けられている。
【0022】
インク導入針23は、先端側が先細り形状(円錐形状)に形成された中空の針状部材である。このインク導入針23の先端部には、インクカートリッジ3内のインクを導入するインク導入孔32が開設されている。インク導入針23がインクカートリッジ3の針挿入部18内に挿入されると、カートリッジ内に貯留されたインクがインク導入孔32を通じて針流路33内に導入される。インク導入針23の基端部(先端部とは反対側の端部)は、先端側から基端側に向けて内径(内法)が次第に拡大する円錐形状となっている。そして、インク導入針23は、カートリッジ装着部22におけるインク導入路25の上流側開口周縁部に、フィルター34を介在させた状態で溶着されて固定されている。フィルター34は、インク導入針23の針流路33内に導入されたインクを濾過してインク導入路25側に供給する。
【0023】
インク導入路25は、一端(上流端)がカートリッジ装着部22に開口し、他端が導入口35を介してリザーバー27に連通した流路であり、ヘッドケース21の高さ方向に沿って形成されている。このインク導入路25の一端部は、内径が入口側開口に向けて次第に拡径した円錐形状となっている。そして、この拡径した部分は、インク導入針23の拡径部分と共に、フィルター34が配設されるフィルター室として機能する。
【0024】
インク導入路25を流下したインクは、導入口35からリザーバー27内に導入される。このリザーバー27は、複数の圧力室29に共通の空部であり、インクの種類、即ち、インクの色毎に設けられている。各圧力室29は、それぞれ個別のインク供給口28を介してリザーバー27と連通している。したがって、リザーバー27内のインクは、インク供給口28を通じて各圧力室29に供給される。本実施形態において、リザーバー27の上面(天井面)27′は、導入口35およびインク供給口28よりも鉛直方向において上方に十分に離れた位置に形成されている。そして、リザーバー27における導入口35およびインク供給口28よりも上方の部分は、気体(気泡、空気)を貯留する気体貯留部26としても機能する。そして、インク導入路25内のインクに混入した気泡が、導入口35からリザーバー27に流入すると、その浮力により気体貯留部26に導入されるように構成されている。この気体貯留部26の上面、即ち、リザーバー27の上面27′には、気体が通過可能な給排気口37(給気口37aおよび排気口37b。図3参照)が開設されている。そして、気体貯留部26には、当該気体貯留部26内の気体の量を調整可能な調整機構38が設けられている。なお、調整機構38の詳細については後述する。
【0025】
インク供給口28は、圧力室35よりも狭い幅で形成されており、リザーバー27から圧力室35に流入するインクに対して流路抵抗を付与する。圧力室35は、ノズル30の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成されている。圧力室35の上面には、可撓性を有する作動面40が設けられている。この作動面40の圧力室29とは反対側の面には、圧電振動子31が形成されている。圧電振動子31は、例えば、所謂撓み振動モードの圧電振動子であり、駆動電極41と共通電極43とによって圧電体42を挟んで構成されている。そして、圧電振動子31の駆動電極41に駆動電圧(駆動パルス)が印加されると、駆動電極41と共通電極43との間には電位差に応じた電場が発生する。この電場は圧電体42に付与され、圧電体42が付与された電場の強さに応じて変形する。即ち、駆動電極41の電位を高くする程、圧電体42の中央部が圧力室29の内側(ノズル30側)に撓み、圧力室29の容積を減少させるように作動面40を変形させる。一方、駆動電極41の電位を低くする程(0に近づける程)、圧電体42の中央部が圧力室29の外側(ノズルプレート29から離れる側)に撓み、圧力室29の容積を増加させるように作動面40を変形させる。なお、圧力発生手段としては、上記圧電振動子以外にも、静電アクチュエーター、磁歪素子、発熱素子等を用いることができる。
【0026】
そして、上記のように圧電振動子31を作動させると、圧力室29の容積を変化させることができる。これにより、圧力室29内のインクに圧力変動が生じるので、当該圧力変動を利用してノズル30からインクを噴射させることができる。例えば、圧電振動子31を充電して圧力室29を膨張させ、その後、圧電振動子31を急激に放電して圧力室29を収縮させると、圧力室29の膨張によって圧力室29内に流入したインクが急激に加圧され、ノズル30からインク滴が噴射される。
【0027】
本発明に係る記録ヘッド2は、リザーバー27の上方に気体貯留部26を設け、インク導入路25内のインクに混入した気体である気泡(空気)を当該気体貯留部26に誘導して捕捉すると共に、気体貯留部26内の気体によって、インク導入路25内のインクに生じた圧力変動を吸収することに特徴を有している。即ち、インクカートリッジ3の交換時などで当該インクカートリッジ3に衝撃が加わったりすることで、インク導入路25内のインクの圧力が急激に変化した場合にも、当該圧力変動に応じて気体貯留部26内の気体が膨張又は圧縮されることにより、圧力変動が吸収される。即ち、インク導入路25内の圧力が通常時よりも高くなった場合、気体貯留部26内の気体が圧縮され、或いは、インク導入路25内の圧力が通常時よりも低くなった場合、気体貯留部26内の気体が膨張されることで、インク導入路25内のインクの圧力変動が緩和される。これにより、圧力変動がノズル30側に伝わることが抑制され、ノズル30におけるメニスカスに対する悪影響を低減することが可能となる。また、圧力室31の手前のリザーバー27の上部に気体貯留部26が設けられていることで、圧力室29側に気泡が流入することがより確実に防止される。さらに、気体貯留部26内の気体は、ノズル30からインクを噴射する際に生じる圧力変動も緩和するコンプライアンス部としても機能するので、従来の記録ヘッドなどにコンプライアンス部として設けられていたフィルム部材等が不要となる。
【0028】
本実施形態においては、上記の圧力変動の緩和作用を常に一定に確保するべく、調整機構38によって気体貯留部26内の気体の量が調整される。
図3は、リザーバー27のノズル列方向の断面図であり、図4は、調整機構38の動作について説明する模式図である。調整機構38は、気体貯留部26内のインクの液面の高さに応じて上下に変位するフロート45と、給気口37aに設けられた給気弁46aと、排気口37bに設けられた排気弁46bと、給気口37aに接続された給気路47aと(図2参照。)と、排気口37bに接続された排気路47bと(図2参照。)と、給気路47aおよび排気路47bに接続されたエアーポンプ48(本発明における給排気手段の一種。図2参照。)と、を備えている。
【0029】
フロート45は、インクよりも比重の小さい部材、例えば、空気等の気体が封入された樹脂製の板状体であり、気体貯留部26におけるインクの液面に浮いた状態で配置されている。このフロート45の上面(リザーバー27の天井面27′に対向する側の面)における給気口37aに対向する部分には、引張バネ49の一端が接続されている。この引張バネ49の他端は、給気口37aの開口部に配設された給気弁46aに接続されている。同様に、フロート45の上面における排気口37bに対向する部分には、圧縮バネ50の一端が接続されている。この圧縮バネ50の他端は、排気口37bの開口部に配設された排気弁46bに接続されている。
【0030】
給気弁46aは、フロート45の変位に連動して気体貯留部26への気体の供給を許容する開弁状態と、気体貯留部26へのインクの供給を遮断する閉弁状態とに変換可能に構成されており、フロート45に一端が接続された引張バネ49によって下方(給気口37aの開口部内に設けられた当接部52a側)に付勢されている。給気弁46aの当接部52a側の面には、ゴムやエラストマー等の弾性部材からなるリング状のパッキン51aが取り付けられている。同様に、排気弁46bは、フロート45の変位に連動して開弁状態と閉弁状態とに変換可能に構成されており、フロート45に一端が接続された圧縮バネ50によって上方(排気口37bの開口部内に設けられた当接部52b側)へ付勢されている。この排気弁46bの当接部52b側の面には、リング状のパッキン51bが取り付けられている。
【0031】
調整機構38をこのように構成することにより、気体貯留部26内のインクの液面の変化、即ち、気体の体積の変化によるフロート45の変位(上昇または下降)が、バネ49,50を介して給気弁37aおよび排気弁37bに伝達されて、給気口37a又は排気口37bを開閉することができる。以下、この点について説明する。
【0032】
気体貯留部26内の気体の量が一定の範囲内である場合、図3に示すように、給気弁46aは、引張バネ49による付勢によりパッキン51aが当接部52aに密着する閉弁位置に保持され、また、排気弁46bは、圧縮バネ50による付勢によりパッキン51bが当接部52bに密着する閉弁位置に保持される。これにより、給排気口37a,37bからは気体貯留部26に対して気体の流入又は流出が無い状態とされる。また、インク導入路25内のインクに混入した気泡が、導入口35から気体貯留部26内に導入されていくと、図4(a)に示すように、当該気体貯留部26内の気体の量が次第に増加することで気体貯留部26内のインクの液面が下降し、これに伴ってフロート45が下降する。そして、液面が予め定められた下限位置(図4におけるLmin)よりも下がると、給気弁46aは、引張バネ49による付勢によりパッキン51aが当接部52aに密着する閉弁位置に保持され続けるのに対し、排気弁46bは、パッキン51bが当接部52bから下方に離間して密着状態が解除される位置まで変位する。
【0033】
これにより、排気口37bにおける気体の通過が可能な開弁状態となる。この状態では、エアーポンプ48が作動して負圧を発生し、気体貯留部26内の気体が排気口37bから排気路47bを通じて排出されるように構成されている。気体貯留部26内の気体が排出されると、これに伴って液面が上昇するので、フロート45が上昇して、給気弁46aが閉弁状態を保ったまま、排気弁46bが上昇する。そして、気体貯留部26内の気体の量が一定の範囲内になった場合、図3に示すように、排気弁46bが、圧縮バネ50による付勢によりパッキン51bが当接部52bに密着して閉弁状態に復帰する。
【0034】
また、インク導入路25内の気体が、インクに溶解したり或いはヘッドケース21の壁面から外部に抜けたりすることにより、気体貯留部26内の気体の量が減少した場合、図4(b)に示すように、気体の量の減少に伴って気体貯留部26内のインクの液面が上昇し、これに伴ってフロート45が上昇する。そして、液面が予め定められた上限位置(図4におけるLmax)よりも上がると、排気弁46bは、圧縮バネ50による付勢によりパッキン51bが当接部52bに密着する閉弁位置に保持され続けるのに対し、給気弁46aは、パッキン51aが当接部51aから上方に離間して密着状態が解除される位置まで変位する。これにより、給気口37aにおける気体の通過が可能な開弁状態となる。この状態では、エアーポンプ48が作動して給気路47aを通じて給気口37aから気体貯留部26内に気体が導入されるように構成されている。エアーポンプ48側から気体貯留部26内に気体が導入されると、これに伴って液面が下降するので、フロート45が下昇し、排気弁46bが閉弁状態を維持したまま、給気弁46aが下降する。そして、気体貯留部26内の気体の量が一定の範囲内になった場合、図3に示すように、給気弁46aは、引張バネ49による付勢によりパッキン51aが当接部52aに密着して閉弁状態に復帰する。
【0035】
このように、本実施形態においては、調整機構38によって気体貯留部26内の気体の量が一定範囲に維持されるので、気体貯留部26内の気体による圧力変動の緩和作用を常に安定して確保することが可能となる。また、インク導入路25内の気体(気泡)を気体貯留部26内に導入し、また、一定量を超えた場合に外部に排出する構成であるため、記録ヘッド2内の流路に気泡が発生することが抑制される。これにより、気泡による流路の閉塞や圧力損失等の不具合が低減され、記録ヘッド2の信頼性を高めることが可能となる。
【0036】
ところで、記録ヘッド2では、ノズル30からインクを噴射するのに伴ってノズル30におけるメニスカスが気泡を取り込む場合がある。また、ノズル30近傍のインクが増粘することも考えられる。このため、上記プリンター1では、定期的にキャップ部材11を用いてクリーニング動作を行うことで、圧力室29やノズル30近傍の気泡や増粘インクを排出するように構成されている。このクリーニング動作では、キャップ部材11をノズル形成面24に密着させた状態でポンプユニット等の負圧手段を作動させて通常の記録動作時の数倍の流速のインク流をインク流路内に生じさせ、気泡や増粘インクをこの流れに乗せることでノズル30からヘッド外部に排出する。本発明に係るプリンター1では、リザーバー27よりも上流側の気泡は気泡貯留部26に捕捉され、気泡貯留部26に溜まった気体は、一定量を超える毎に排出されるので、クリーニング動作における吸引量は、少なくとも圧力室29内に存在する気泡が排出される程度で済む。このため、一回のクリーニング動作時に消費するインク量を低減することができる。
【0037】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0038】
例えば、調整機構38に関し、気体の量(液面の高さ)に応じて給排気口37a,37bを開閉可能な構成であれば、上記実施形態で例示した構成には限られない。例えば、気体貯留部26内のインクの液面の上限および下限を光学センサーなどにより検出し、当該光学センサーの検出に応じて、電磁弁などにより給排気口37を開閉する構成を採用することもできる。
また、上記実施形態では、リザーバー27の上部が気泡貯留部26として機能する構成を例示したが、これには限られず、リザーバー27よりも鉛直方向の上方に当該リザーバー27に連通した状態で気泡貯留部26を別個に設ける構成を採用することも可能である。
【0039】
さらに、本発明は、液体貯留部材から液体を導入する構成を採用する液体噴射ヘッドであれば、上記記録ヘッド2に限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等に搭載される液体噴射ヘッドにも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0040】
1…プリンター,2…記録ヘッド,3…インクカートリッジ,21…ヘッドケース,23…インク導入針,25…インク導入路,26…気体貯留部,29…圧力室,30…ノズル,35…導入口,37a…給気口,37b…排気口,38…調整機構,45…フロート,46a…給気弁,46b…排気弁,47a…給気路,47b…排気路,48…エアーポンプ,49…引張バネ,50…圧縮バネ,51…パッキン,52…当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入された液体を液体導入部から液体導入路を通じて導入口から共通液室に導入し、当該共通液室から液体供給口を介して圧力室に供給し、圧力発生手段の作動によって前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、当該圧力変動により前記圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射する液体噴射ヘッドであって、
前記共通液室は、前記導入口および前記液体供給口よりも鉛直方向の上方に、気体を貯留する気体貯留部を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記気体貯留部内の気体の量を予め定められた範囲内に維持する調整機構を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記調整機構は、気体が通過可能な給排気口と、当該給排気口を開閉可能な給排気弁と、当該給排気口を通じて前記気体貯留部内に対して気体を供給または排出可能な給排気手段と、を有し、
前記気体貯留部内の気体の量が予め定められた上限値から下限値の間である場合、前記給排気弁が閉弁し、前記気体貯留部内の気体の量が下限値を下回った場合、前記給排気弁が開弁すると共に前記給排気手段側から前記給排気口を通じて気体貯留部内に気体が供給され、前記気体貯留部内の気体が上限値を超えた場合、前記給排気弁が開弁すると共に気体貯留部内の気体が前記給排気口を通じて前記給排気手段側に排出されることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
導入された液体を液体導入部から液体導入路を通じて導入口から共通液室に導入し、当該共通液室から液体供給口を介して圧力室に供給し、圧力発生手段の作動によって前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、当該圧力変動により前記圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射する液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置であって、
前記共通液室は、前記導入口および前記液体供給口よりも鉛直方向の上方に、気体を貯留する気体貯留部を有することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−210769(P2012−210769A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77893(P2011−77893)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】