説明

液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置

【課題】液体貯留部材の揺動等に起因して発生する衝撃が流路内の液体を伝播することによりメニスカスが破壊されることを抑制できると共に、流路内の液体に混入した気体を回収することができる液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体が導入される液体導入部12から液体流路を通じて圧力室34側に液体を導入し、圧力発生手段44の作動によって圧力室34内の液体をノズル21から液滴として噴射可能な液体噴射ヘッド2であって、前記液体導入部12の内部に、前記液体流路内の液体を濾過するフィルター17を備えたフィルター室51を形成し、該フィルター室51の前記フィルター17よりも重力方向の上方に、内部に気体を貯留した気体室16を形成し、当該気体室16と前記フィルター室51とを連通させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに係り、特に、液体貯留部材に貯留された液体を液体導入針を介して圧力室に導入し、この圧力室内に導入した液体をノズルから液滴として吐出する液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として噴射させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)などの画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレイなどのカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)などの電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどがある。
【0003】
例えば、上記のような記録ヘッドでは、図6に示すように、液体状のインクを封入した液体貯留部材としてのインクカートリッジ91に、液体導入針の一種であるインク導入針92を挿入することで、インクカートリッジ91内のインクを記録ヘッド93内のインク流路(インク導入針92内からケース流路95、リザーバー96、インク供給口97、圧力室98を介してノズル99に至る一連の流路)に導入している。これにより、インク流路をインクで満たしている。そして、圧力発生手段(図示せず)の作動によって圧力室98内のインクをノズル99から液滴として噴射している。
【0004】
ところが、インクカートリッジ91にインク導入針92を挿入する際に発生するインクカートリッジ91の振動(揺動)(図6(a)に示す破線がインクカートリッジ91の揺動を表している)や、インク導入針92をインクカートリッジ91に挿入した後のインクカートリッジ91に加わる外的作用(衝撃)等により、インク導入針92に衝撃が加えられるおそれがある(図6(a)の白矢印)。この衝撃による圧力が、インク導入針92内のインクに伝播し、さらにインク流路を介してノズル99に伝播することにより(図6(b)の白矢印)、ノズル99に形成されているメニスカス100が破壊されるおそれがあった。その結果、インクの噴射(吐出)不良が起きるおそれがあった。
【0005】
また、インク流路はインクで満たされている状態が理想であるが、インクカートリッジの交換等でインク流路内に気体が入り込むことがあった。このような不具合を防止するため、インク流路内のインクに混入した気体(気泡)を捕らえるフィルターを配置し、フィルターの上部の室に気泡を回収する気体回収部を透過区画壁により区画し、この透過区画壁を介して気泡を回収する構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、この構造によれば、透過区画壁を可撓性を有する部材で形成することで、上記衝撃を緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−173961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような構造では、透過区画壁を介して気泡を回収するため、回収効率が悪く、インク流路内の気泡を十分に排除することができなかった。また、透過区画壁では、インク導入針に加えられる衝撃を緩和するための十分な弾性を得られず、メニスカスの破壊を十分に防ぐことができなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体貯留部材の揺動等に起因して発生する衝撃が流路内の液体を伝播することによりメニスカスが破壊されることを抑制できると共に、流路内の液体に混入した気体を回収することができる液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体が導入される液体導入部から液体流路を通じて圧力室側に液体を導入し、圧力発生手段の作動によって圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドであって、
前記液体導入部の内部に、前記液体流路内の液体を濾過するフィルターを備えたフィルター室を形成し、
該フィルター室の前記フィルターよりも重力方向の上方に、内部に気体を貯留した気体室を形成し、当該気体室と前記フィルター室とを連通させたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、液体貯留部材を液体導入部に挿入する際に発生する液体貯留部材の振動(揺動)や、液体貯留部材を液体導入部に挿入した後の液体貯留部材に加わる外的作用(衝撃)等により、液体導入部に急激な圧力変動が発生したとしても、気体室内に貯留した気体によって圧力変動を緩和(吸収)することができ、この圧力変動がノズルに伝播することを抑制することができる。また、可撓性の膜等を介さず直接気体によって圧力変動を緩和できるため、より急激な圧力変動にも対応することができる。これにより、ノズルに形成されているメニスカスが破壊されることを防止でき、液体の噴射(吐出)不良を防止できる。また、フィルターよりも重力方向の上方に気体室を形成したので、フィルターによって補足された後、浮力によって上昇した気泡を気体室内に収容することができ、確実に液体に混入した気泡を回収することができる。そして、液体が導入される液体導入部に気体室を形成したので、内部の液体流路に連通する気体室を形成する場合に比べて、容易に気体室を形成でき、また、気体室の形状や大きさの自由度も高い。
【0011】
上記構成において、前記気体室に、該気体室内の気体の量を調節可能な気体量調節手段を備えた構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、気体室内の気体が液体内に溶け込む等により減少して、衝撃緩和効果が減少することを防止できる。また、液体に混入した気泡が、気体室の収容許容量を超えて気体室から気泡が溢れ出すことを防止できる。
【0012】
上記各構成において、前記フィルター室は、該フィルター室より上流側の流路との連通口である上流側連通口が開口され、該上流側連通口から前記フィルターに向けて内法を次第に拡大させた拡大部を形成した構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、フィルターによって捕らえた一部の気泡を、拡大部の内面に沿って上方に誘導させることができ、そこに開口した気体室に気泡を誘導させて、気泡を気体室内に収容し易くすることができる。また、フィルターを比較的大きくでき、通過する液体の流路抵抗を下げることができる。これにより、スムーズに液体を流すことができる。
【0013】
また、前記フィルター室は、該フィルター室より下流側の流路と連通する下流側連通口を有し、
当該下流側連通口の開口中心は、前記フィルターに対する平面視において、前記上流側連通口の開口中心から外れた位置に配置され、
前記気体室は、前記上流側連通口と前記下流側連通口との間における前記拡大部の内面に連通することが望ましい。
この構成によれば、拡大部の内面に沿って液体を流すことができ、その内面における上方の一部に気体室を連通することで、液体や気泡が気泡室の下方を通りやすくなり、インクによって押し流される気泡を浮力により気体室内に収容し易くすることができる。
【0014】
さらに、前記気体室は、前記拡大部における前記フィルターよりも上流側の部分に連通することが望ましい。
この構成によれば、より上流側において気泡を収集することができるため、気泡を気体室内に一層収容し易くすることができる。
【0015】
そして、本発明の液体噴射装置は、液体が導入される液体導入部から液体流路を通じて圧力室側に液体を導入し、圧力発生手段の作動によって圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射可能な液体噴射装置であって、
前記液体導入部の内部に、前記液体流路内の液体を濾過するフィルターを備えたフィルター室を形成し、
該フィルター室の前記フィルターよりも重力方向の上方に、内部に気体を貯留した気体室を形成し、当該気体室と前記フィルター室とを連通させたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プリンターの斜視図である。
【図2】インクカートリッジを装着した状態における記録ヘッドの断面図である。
【図3】記録ヘッド本体の断面図である。
【図4】(a)インク導入針の拡大断面図、(b)気体室の拡大断面図である。
【図5】第2の実施形態におけるインク導入針の拡大断面図である。
【図6】従来の記録ヘッドを説明する図であり、(a)記録ヘッド内の流路の模式図、(b)領域A拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、本実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を例に挙げて説明する。
【0018】
プリンター1は、記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体貯留部材の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6(ノズル21から噴射された液体が着弾する着弾対象の一種)の紙幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7と、紙幅方向に直交する方向である紙送り方向に記録紙6を搬送する紙送り機構8等を備えている。ここで、紙幅方向とは、主走査方向(記録ヘッド2の往復移動方向)であり、紙送り方向とは、副走査方向(即ち、記録ヘッド2の走査方向に直交する方向)である。
【0019】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、検出信号が位置情報として制御部(図示せず)に送信される。これにより、制御部はこのリニアエンコーダー10からの位置情報に基づいてキャリッジ4(記録ヘッド2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作(噴射動作)等を制御することができる。
【0020】
次に、記録ヘッド2の構成について説明する。ここで、図2は、インクカートリッジ3を装着した状態における記録ヘッド2の断面図、図3は、記録ヘッド本体15の断面図である。例示した記録ヘッド2は、カートリッジ装着部13にインク導入針12(本発明における液体導入部に相当)を有する導入針ホルダー14と、この導入針ホルダー14の下部に接続される記録ヘッド本体15と、を備えている。なお、図2は、インクカートリッジ3からノズル21に至る流路を分かり易く示すために、記録ヘッド2を模式的に示しているため、各部分の形状、位置関係、大きさ等が実際とは異なる場合がある。
【0021】
導入針ホルダー14は、例えば合成樹脂によって作製されており、図2に示すように、その上面には複数のカートリッジ装着部13が設けられている。各カートリッジ装着部13には、インク導入針12が、先端を上方に突出させた状態でそれぞれ取り付けられている。このインク導入針12の内部には、インクを濾過するフィルター17を内部に備えた導入針流路18と、この導入針流路18に連通した気体室16とが形成されている。なお、インク導入針12の詳しい構成は後述する。また、これらのカートリッジ装着部13には、各種インク(例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク)を貯留したインクカートリッジ3が装着される。カートリッジ装着部13にインクカートリッジ3を装着すると、インク導入針12がインクカートリッジ3の内部に挿入される。これにより、インクカートリッジ3内部のインク貯留空間3aと記録ヘッド2内部のインク流路とが、導入針流路18を介して連通し、インク貯留空間3a内に貯留されているインクが記録ヘッド2内に導入される。なお、インクカートリッジ3としては、本実施形態のようにキャリッジ4に装着するタイプには限らず、プリンター1の筐体側に装着されてインク供給チューブを通じて記録ヘッド2側にインクを供給するタイプを採用することも可能である。
【0022】
また、上記カートリッジ装着部13とは反対側となるインク導入針12の下面には、複数のインク導入針12に対応して、記録ヘッド本体15に向けて管状の流路形成管19が複数形成されている。この流路形成管19の内部には、上流側で導入針流路18に連通し、下流側で後述するヘッドケース24のケース流路26と連通する連通流路19aが形成されている。本実施形態では、連通流路19aはケース流路26に向けて、副走査方向および主走査方向に傾斜している。
【0023】
記録ヘッド本体15は、図3に示すように、ノズル21に連通するインク流路を形成する流路ユニット22と、流路内に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有する振動子ユニット23と、この子振動子ユニット23を内部に備えたヘッドケース24と、から構成されている。
【0024】
ヘッドケース24は、中空箱体状部材であり、その上面には、導入針ホルダー14が装着されている。また、導入針ホルダー14とは反対側の下面には、ノズルプレート28(後述)を露出させた状態で流路ユニット22が固定されている。さらに、ヘッドケース24の内部には、振動子ユニット23を収容するための収容空部25と、上流側(導入針ホルダー14側)からのインクをリザーバー32に供給するためのケース流路26と、がその高さ方向を貫通して形成されている。ケース流路26は、複数のリザーバー32に対応して複数形成されており、その上端が連通流路19aと、下端がインク導入口37(後述)を介してリザーバー32とそれぞれ液密に連通している。
【0025】
次に、流路ユニット22について説明する。流路ユニット22は、ヘッドケース24の下側(記録紙6側)に取り付けられる薄板状の部材である。この流路ユニット22は、ノズルプレート28、流路形成基板29、及び振動板30から構成され、ノズルプレート28を流路形成基板29の一方の表面に、振動板30をノズルプレート28とは反対側となる流路形成基板29の他方の表面にそれぞれ配置して積層し、接着等により一体化することで構成されている。
【0026】
記録ヘッド2の底面に配置されるノズルプレート28は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば、180dpi)で複数のノズル21を主走査方向に沿って開設した薄い金属板である。また、ノズル21は、ノズルプレート28に対して軸が垂直となるように形成されて内径が一定のストレート部と、流路形成基板29側から流路形成基板29とは反対側(記録紙6側)に向けて内径が縮径したテーパー部と、を有している。テーパー部の一端は、ノズルプレート28における流路形成基板29側の面に開口し、テーパー部の他端はノズルプレート28厚さ方向の途中に位置する。ストレート部の一端は、テーパー部の他端と連通し、ストレート部の他端はノズルプレート28における記録紙6側の面に開口している。そして、このストレート部にメニスカスが形成されている。さらに、本実施形態では、例えば、180個のノズル21を列状に開設し、これらのノズル21によってノズル列を構成している。
【0027】
流路形成基板29は、リザーバー32、インク供給口33、及び圧力室34からなる一連の流路を形成する板状部材である。具体的には、この流路形成基板29は、各ノズル21に対応させて圧力室34となる空部を隔壁で区画した状態で複数形成すると共に、インク供給口33およびリザーバー32となる空部を形成した板状の部材である。そして、本実施形態の流路形成基板29は、シリコンウェハーをエッチング処理することで作製されている。上記の圧力室34は、ノズル列方向に対して直交する方向に細長い室として形成され、インク供給口33は、圧力室34とリザーバー32との間を連通する流路幅の狭い狭窄部として形成されている。また、リザーバー32は、インクカートリッジ3に貯留されたインクを各圧力室34に供給するための室であり、インク供給口33を通じて対応する各圧力室34に連通している。なお、本実施形態では、インク導入針12の導入針流路18から、連通流路19a、ケース流路26、インク導入口37、リザーバー32、およびインク供給口33を介して圧力室34に至る一連のインク流路が本発明の液体流路に相当する。
【0028】
振動板30は、ステンレス鋼等の金属製の支持板35上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム36をラミネート加工した二重構造の複合板材である。この振動板30には、上下方向に貫通させたインク導入口37を各リザーバー32に対応して複数開設しており、リザーバー32とケース流路26を繋げている。また、振動板30の圧力室34に対応する部分には、圧力室34の一方の開口面を封止してこの圧力室34の容積を変動させるためのダイヤフラム部38を有している。ダイヤフラム部38は、圧力室34に対応した部分の支持板35にエッチング加工を施し、当該部分を環状に除去して後述する圧電振動子44の自由端部の先端を接合するための島部39を形成することで構成されている。この島部39は、圧力室34の平面形状と同様に、ノズル列方向と直交する方向に細長いブロック状であり、この島部39の周りの樹脂フィルム36が弾性体膜として機能する。さらに、振動板30のリザーバー32に対応する部分には、リザーバー32の一方の開口面を封止するコンプライアンス部40が形成されている。すなわち、コンプライアンス部40は、リザーバー32の開口形状に倣って支持板35がエッチング加工で除去されて樹脂フィルム36のみとなっている。
【0029】
次に、振動子ユニット23について説明する。振動子ユニット23は、複数の圧電振動子44(圧力発生手段の一種)からなる圧電振動子群42、フレキシブルケーブル43(配線部材)等から構成されている。圧電振動子群42を構成する圧電振動子44は、縦方向に細長い櫛歯状に形成されており、数十μm程度の極めて細い幅に切り分けられている。そして、この圧電振動子44は縦方向に伸縮可能な縦振動型の圧電振動子44として構成されている。各圧電振動子44は、固定端部を固定板45上に接合することにより、自由端部を固定板45の先端縁よりも外側に突出させて所謂片持ち梁の状態で固定されている。そして、各圧電振動子44における自由端部の先端は、前述したように、それぞれ流路ユニット22におけるダイヤフラム部38を構成する島部39に接合される。また、各圧電振動子44を支持する固定板45は、圧電振動子44からの反力を受け止め得る剛性を備えた金属製の板材によって構成される。本実施形態では、厚さが1mm程度のステンレス鋼板によって作製されている。さらに、フレキシブルケーブル43は、一端が固定板45とは反対側となる固定端部の側面で圧電振動子44と電気的に接続され、他端が図示しない制御基板に接続されている。これにより、制御部からの信号を制御基板、フレキシブルケーブル43を介して圧電振動子44に送ることができ、圧電振動子44の伸縮を制御している。
【0030】
このように構成された記録ヘッド2では、島部39に圧電振動子44の先端面が接合されているので、この圧電振動子44の自由端部を伸縮させることで圧力室34の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室34内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用して、圧力室34内のインクをノズル21からインク滴として噴射(吐出)させる。
【0031】
次に、インク導入針12の構成について説明する。図4(a)に示すように、インク導入針12は、内部空間を導入針流路18および気体室16とした部材である。本実施形態では、導入針ホルダー14に取り付けられる中空針状の針部材47と、その下方の部分(針部材47に対応する導入針ホルダー14の上面)と、が一体となってインク導入針12を形成している。針部材47は、内部に上流側フィルター室52(後述)を有し、下流側(フィルター17側)に向かって拡径(拡大)した略円錐形の拡径部47a(本発明における拡大部に相当)と、拡径部47aの上部に形成された円筒部47bと、円筒部47bの先端において先細り形状に形成された円錐形状の尖端部47cと、上流側フィルター室52(すなわち、フィルター室51のフィルター17よりも重力方向の上方)と連通する気体室16を内部に有する立方体状の気体室部47dと、を有しており、尖端部47cにインク導入針12の外部と内部とを連通(インク貯留空間3aと後述する貫通路49とを連通)する導入孔48が複数開設されている。また、針部材47の尖端部47cおよび円筒部47bの内部には、上端部が導入孔48の下端部(下流側)に連通する貫通路49が形成されている。
【0032】
貫通路49の下端部には、導入針流路18内のインクを濾過して異物や気泡等を除去するためのフィルター17を備えたフィルター室51が連通している。本実施形態のフィルター17は、細かな網目を有する金属製の平板状網材からなり、通過するインク内の気体(気泡b)やその他の異物を補足する。フィルター室51は、貫通路49との連通口である上流側連通口52aからフィルター17に向けて内径(内法)を次第に拡径(拡大)させた上流側フィルター室52と、これとフィルター17を挟んで反対側(下流側)に位置し、フィルター17から下端部に連通する連通流路19aとの連通口である下流側連通口53aに向けて内径(内法)を次第に縮径させた下流側フィルター室53と、から構成されている。このように、インク導入針12の内部には、導入孔48、貫通路49、上流側フィルター室52、および、下流側フィルター室53によって一連の導入針流路18が構成されている。したがって、インク導入針12の尖端部47cをインクカートリッジ3の内部に挿入すると、インク貯留空間3a内のインクが、導入針流路18を通じて連通流路19aに送られる。なお、本実施形態では、貫通路49と連通流路19aとは、フィルター17に対する平面視において、開口中心が揃えられている。
【0033】
気体室16は、その下部を拡径部47aの内面における上流側フィルター室52の上流側の部分に連通し、この連通口からインクを導入して途中の位置までインクで満たすと共に、浮力により上昇してきたインク内の気泡bを、連通口を通して捕集(収容)している。このため、気体室16内の重力方向の上側には、気体層aが形成される。そして、気体室16の天井面(重力方向の上側の面)には、気体層aの気体の量を調節可能な逆止弁57、ポンプ60および通気管56から構成される気体量調整機構55(本発明における気体量調節手段)を備えている。
【0034】
本実施形態の気体量調整機構55は、図4(b)に示すように、気体室16の天井面の一側(図4(b)における左側)に連通し、正圧に設定された加圧側通気管56aと、気体室16の天井面の他側(図4(b)における右側)に連通し、負圧に設定された減圧側通気管56bと、加圧側通気管56aの下側(気体室16側)に設けられた第1逆止弁57aと、減圧側通気管56bの下側(気体室16側)に設けられた第2逆止弁57bと、インクよりも比重が軽く、インク液面(気体室16内における気体層aとの境界面)に浮くフロート61と、により構成される。第1逆止弁57aは、加圧側通気管56aの通路の幅を狭めた第1狭窄部63と、第1狭窄部63の上方において、この第1狭窄部63を塞ぐ第1蓋部64(弁体)と、一端が第1蓋部64に固定され、他端がフロート61に固定された第1バネ65(引張バネ)と、から構成される。また、第2逆止弁57bは、減圧側通気管56bの通路の幅を狭めた第2狭窄部67と、第2狭窄部67の下方において、この第2狭窄部67を塞ぐ第2蓋部68(弁体)と、一端が第2蓋部68に固定され、他端がフロート61に固定された第2バネ69(圧縮バネ)と、から構成される。なお、加圧側通気管56aおよび負圧側通気管はそれぞれポンプを備えており、これらのポンプによって加圧側通気管56aを正圧に、減圧側通気管56bを負圧にそれぞれ設定している。
【0035】
気体量調整機構55をこのように構成することにより、気体室16内のインクの液面の変化、即ち、気体の体積の変化によるフロート61の変位(上昇または下降)が、第1バネ65または第2バネ69を介して第1蓋部64または第2蓋部68に伝達されて、第1逆止弁57aおよび第2逆止弁57bを開閉することができる。以下、この点について説明する。
【0036】
気体室16内の気体層aの量が一定の範囲内である場合、図4(b)に示すように、加圧側通気管56aが正圧であり、また、第1バネ65による付勢力(下方に引張する力)が作用するため、第1蓋部64が第1狭窄部63側に押圧される(図4(b)における下向き矢印)。同様に、減圧側通気管56bが負圧であり、また、第2バネ69による付勢力(上方に押圧する力)が作用するため、第2蓋部68が第2狭窄部67側に押圧される(図4(b)における上向き矢印)。このため、第1蓋部64および第2蓋部68が第1狭窄部63および第2狭窄部67の縁にそれぞれ当接する。これにより、加圧側通気管56aおよび減圧側通気管56bにおける気体の通過が阻止されて、いずれも閉弁状態となる。一方、導入針流路18(上流側フィルター室52)内のインクに混入した気泡bが、気体室16内に導入されていくと、当該気体室16内の気体層aの量が次第に増加することで気体室16内のインクの液面が下降する。これに伴い、第1バネ65の付勢力に抗してフロート61が下降すると、第2バネ69に固定された第2蓋部68が下降し、これにより、第2蓋部68が第2狭窄部67の縁から離れて第2逆止弁57bが開状態になる。この状態では、減圧側通気管56bが負圧に設定されているため、気体室16内の気体が排出される。これに伴って液面が上昇し、フロート61も上昇する。その結果、第2バネ69に固定された第2蓋部68が上昇し、第2蓋部68が第2狭窄部67の縁に当接して第2逆止弁57bが閉状態に復帰する。
【0037】
また、上流側フィルター室52内の気体が、インクに溶解したり或いは気体室部47dの壁面から外部に抜けたりすることにより、気体室16内の気体層aの量が減少した場合、当該気体室16内の気体の量が次第に減少することで気体室16内のインクの液面が上昇する。これに伴い、第2バネ69の付勢力に抗してフロート61が上昇すると、第1バネ65に固定された第1蓋部64が上昇し、これにより、第1蓋部64が第1狭窄部63の縁から離れて第1逆止弁57aが開状態になる。この状態では、加圧側通気管56aが正圧に設定されているため、気体室16内に気体が導入される。これに伴って液面が下降し、フロート61も下降する。その結果、第1バネ65に固定された第1蓋部64が下降し、第1蓋部64が第1狭窄部63の縁に当接して第1逆止弁57aが閉状態に復帰する。
【0038】
このように、インク導入針12の内部に、液体流路内のインクを濾過するフィルター17を備えたフィルター室51を形成し、該フィルター室51のフィルター17よりも重力方向の上方に、内部に気体を貯留した気体室16を形成し、当該気体室16とフィルター室51とを連通させたので、インクカートリッジ3をインク導入針12に挿入する際に発生するインクカートリッジ3の振動(揺動)や、インクカートリッジ3をインク導入針12に挿入した後のインクカートリッジ3に加わる外的作用(衝撃)等により、インク導入針12に急激な圧力変動が発生したとしても、気体室16内に貯留した気体によって圧力変動を緩和(吸収)することができ、この圧力変動がノズル21に伝播することを抑制することができる。また、可撓性の膜等を介さず直接気体によって圧力変動を緩和できるため、より急激な圧力変動にも対応することができる。これにより、ノズル21に形成されているメニスカスが破壊されることを防止でき、インクの噴射(吐出)不良を防止できる。また、フィルター17よりも重力方向の上方に気体室16を形成したので、フィルター17によって補足された後、浮力によって上昇した気泡bを気体室16内に収容することができ、確実にインクに混入した気泡bを回収することができる。そして、インクが導入されるインク導入針12に気体室16を形成したので、内部の液体流路に連通する気体室を形成する場合に比べて、容易に気体室を形成でき、また、気体室の形状や大きさの自由度も高い。
【0039】
また、本実施形態では、気体室16に、該気体室16内の気体の量を調節可能な気体量調節機構を備えたので、気体室16内の気体がインク内に溶け込む等により減少して、衝撃緩和効果が減少することを防止できる。また、インクに混入した気泡bが、気体室16の収容許容量を超えて気体室16から気泡bが溢れ出すことを防止できる。さらに、フィルター室51は、上流側連通口52aからフィルター17に向けて内径を次第に拡径させた拡径部47aを形成したので、フィルター17によって捕らえた一部の気泡bを、拡径部47aの内面に沿って上方に誘導させることができ、そこに開口した気体室16に気泡bを誘導させて、気泡bを気体室16内に収容し易くすることができる。また、フィルター17を比較的大きくでき、通過するインクの流路抵抗を下げることができる。これにより、スムーズにインクを流すことができる。また、気体室16は、拡径部47aにおけるフィルター17よりも上流側の部分に連通したので、より上流側において気泡bを収集することができ、気泡bを気体室16内に一層収容し易くすることができる。
【0040】
ところで、上記第1の実施形態では、フィルター17に対する平面視において、上流側連通口52aの開口中心と下流側連通口53aの開口中心とを揃えたが、これには限られない。例えば、図5に示す、第2の実施形態では、フィルター17に対する平面視において、上流側連通口52aの開口中心を下流側連通口53aの開口中心から外れた位置に配置している。さらに、本実施形態では、貫通路49をノズル21とは反対側(ノズル21から離れる側)に、連通流路19aをノズル21側に、ノズル列に対して垂直な方向へ相対的にずらして配置している。また、上流側フィルター室52は、一側端部(図5における左側端部)の内面を貫通路49の内面と揃えて鉛直方向(貫通路49の延伸方向)下側に延在させると共に、その他の面をフィルター17に向けて拡径させている。一方、下流側フィルター室53は、他側端部(図5における右側端部)の内面を連通流路19aの内面と揃えて鉛直方向(連通流路19aの延伸方向)下側に延在させると共に、その他の面をフィルター17に向けて拡径させている。このため、拡径部47aの上部の面が、上流側連通口52aと下流側連通口53aとの間に形成される。そして、気体室16は、この拡径部47aにおける上流側フィルター室52の上流側の部分に連通している。なお、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0041】
第2の実施形態では、このように構成したので、拡径部47aの内面に沿ってインクを流すことができる。そして、このインクの流れに沿った内面の上部に気体室16を連通することで、インクや気泡が気泡室16の下方を通りやすくなり、インクによって押し流される気泡bを浮力により気体室16内に収容し易くすることができる。
【0042】
また、気体量調整機構55は、上記実施形態に限られない。気体室内の気体の量を調節可能であれば、どのような構成であっても良い。例えば、気体室内のインク面を探知するセンサーを設け、このセンサーによる計測値に応じて、通気管に設けた逆止弁を開閉すると共に、通気管内に設けたポンプにより気体室内の気体を導入または排出するように構成しても良い。
【0043】
なお、以上の説明では、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッドを例に挙げて説明したが、本発明は、液体導入針を有する他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…プリンター,2…記録ヘッド,3…インクカートリッジ,12…インク導入針,17…フィルター,18…導入針流路,19a…連通流路,21…ノズル,26…ケース流路,34…圧力室,48…導入孔,49…貫通路,51…フィルター室,52…上流側フィルター室,55…気体量調整機構,56…通気管,57…逆止弁,60…ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が導入される液体導入部から液体流路を通じて圧力室側に液体を導入し、圧力発生手段の作動によって圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドであって、
前記液体導入部の内部に、前記液体流路内の液体を濾過するフィルターを備えたフィルター室を形成し、
該フィルター室の前記フィルターよりも重力方向の上方に、内部に気体を貯留した気体室を形成し、当該気体室と前記フィルター室とを連通させたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記気体室に、該気体室内の気体の量を調節可能な気体量調節手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記フィルター室は、該フィルター室より上流側の流路との連通口である上流側連通口が開口され、該上流側連通口から前記フィルターに向けて内法を次第に拡大させた拡大部を形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記フィルター室は、該フィルター室より下流側の流路と連通する下流側連通口を有し、
当該下流側連通口の開口中心は、前記フィルターに対する平面視において、前記上流側連通口の開口中心から外れた位置に配置され、
前記気体室は、前記上流側連通口と前記下流側連通口との間における前記拡大部の内面に連通することを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記気体室は、前記拡大部における前記フィルターよりも上流側の部分に連通することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
液体が導入される液体導入部から液体流路を通じて圧力室側に液体を導入し、圧力発生手段の作動によって圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射可能な液体噴射装置であって、
前記液体導入部の内部に、前記液体流路内の液体を濾過するフィルターを備えたフィルター室を形成し、
該フィルター室の前記フィルターよりも重力方向の上方に、内部に気体を貯留した気体室を形成し、当該気体室と前記フィルター室とを連通させたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−210770(P2012−210770A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77894(P2011−77894)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】