説明

液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射装置

【課題】均一に形成でき、液体吐出特性を長期間一定に維持することができる液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】シリコンからなり、液体を噴射するノズル21に連通する圧力発生室12が形成された流路形成基板10を具備し、前記流路形成基板の、前記圧力発生室が形成され前記液体の流路となる面に、金属シリサイドからなる保護膜が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバーと、各圧力発生室に連通するノズルとを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズルと連通した圧力発生室内のインクに吐出エネルギーを印加してノズルからインク滴を吐出させる。
【0003】
このような従来のインクジェット式記録ヘッドは、一般的に、インクキャビティー(圧力発生室)がシリコン基板に形成され、インクキャビティーの一方面を構成する振動板はシリコン酸化膜で形成されている。このため、アルカリ性のインクを用いると、インクによってシリコン基板が除々に溶解されて各圧力発生室の幅が経時的に変化してしまう。そして、このことが、圧電素子の駆動によって圧力発生室内に付与される圧力を変化させる原因となり、インク吐出特性が除々に低下してしまうという問題がある。このため、インクキャビティー内に親水性及び耐アルカリ性を備えた膜、例えば、ニッケル酸化膜やシリコン酸化膜等を設け、インクによるシリコン基板等の溶解を防止したものがある(例えば、特許文献1参照)。また、さらに、アルカリ性インクに対する耐エッチング性を向上させたものとして五酸化タンタル膜からなる保護膜を設けたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−264383号公報
【特許文献2】特開2004−262225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した構造においては、圧力発生室の内壁の全体に均一に成膜するのが困難であり、また、振動板にも保護膜が形成されてしまうため、変位特性が低下してしまうという問題がある。また、シリコンの熱酸化膜を保護膜とすることも考えられるが、アクチュエーターを形成した後であれば、良好な保護膜とするためには1000℃以上の温度が必要であり、実際には使用することができない。
【0006】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、勿論、インク以外のアルカリ性の液体を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、均一に形成でき、液体吐出特性を長期間一定に維持することができる液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の態様は、シリコンからなり、液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室が形成された流路形成基板を具備し、前記流路形成基板の、前記圧力発生室が形成され前記液体の流路となる面に、金属シリサイドからなる保護膜が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、シリコンとの反応により形成された金属シリサイドからなる保護膜を設けたので、前記圧力発生室のシリコンからなる内壁表面のみに設けることができ、変位特性を良好に維持したまま、耐アルカリ性に優れ、吐出特性を長期間一定に維持することができる液体噴射ヘッドを提供できる。
【0009】
ここで、前記金属シリサイドが、ニッケル、タングステン、チタン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも一種の金属のシリサイドであるのが好ましい。これによれば、耐アルカリ性が良好で、耐酸性にも優れた金属シリサイドが形成できる。
【0010】
また、前記流路形成基板に設けられ、弾性を有し、一部が前記圧力発生室の一部を画成する振動板を備え、前記振動板の少なくとも前記圧力発生室の一部を画成する側が酸化シリコンであり、前記弾性膜の前記圧力発生室の一部を画成する領域に前記金属シリサイドが設けられていないのが好ましい。これによれば、酸化シリコン膜には金属シリサイドが形成されないので、振動板には保護膜が設けられず、また、耐アルカリ性が良好であるので、吐出特性を長期間一定に維持することができる液体噴射ヘッドを提供できる。
【0011】
本発明の他の態様は、シリコンからなる部材に、液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室を含む前記液体の流路を形成する流路形成工程と、前記部材の前記流路を形成した面に金属層を形成させる金属層形成工程と、前記金属層を除去して、前記部材の前記流路に金属シリサイドからなる保護膜を設ける保護膜形成工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、流路を形成した面にシリコンとの反応により形成された金属シリサイドからなる保護膜を設けることができ、耐アルカリ性、耐久性に優れた液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0012】
ここで、前記金属シリサイドが、ニッケル、タングステン、チタン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも一種の金属のシリサイドであるのが好ましい。これによれば、耐アルカリ性が良好で、耐酸性にも優れた金属シリサイドが形成できるので、金属除去を酸を用いて行うことができる。
【0013】
また、前記金属層形成工程の後、且つ金属層の除去の前に、熱処理を行う熱処理工程を含むのが好ましい。これによれば、金属シリサイドがより確実に形成できる。
【0014】
また、前記金属層形成工程の前に、前記保護膜を形成する前記部材の面に形成されているシリコンの自然酸化膜を除去する自然酸化膜除去工程を含むのが好ましい。これによれば、金属シリサイドの形成をより確実に行うことができる。
【0015】
本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。これによれば、変位特性を良好に維持したまま、耐アルカリ性に優れ、吐出特性を長期間一定に維持することができる液体噴射ヘッドを具備し、信頼性及び耐久性を向上した液体噴射装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図9】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′線断面図である。本実施形態において、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0018】
流路形成基板10には、隔壁11で区画された複数の圧力発生室12が並設されている(並設方向又は第1の方向という)。また、流路形成基板10の圧力発生室12の並設方向とは交差する方向(第2の方向という)の外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0019】
なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0020】
また、流路形成基板10のノズル面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
ここで、流路形成基板10の圧力発生室12の弾性膜50が一部を画成する領域以外の内壁表面には、金属シリサイドからなり耐インク性を有する保護膜16が設けられている。例えば、本実施形態では、ニッケルシリサイドからなる保護膜16が、流路形成基板10の弾性膜50以外のインクに接触するシリコンからなる全ての表面に設けられている。具体的には、圧力発生室12内の隔壁11及び弾性膜50の表面に保護膜16が設けられると共に、各圧力発生室12に連通するインク供給路14及び連通部13のインク流路の内壁表面にも保護膜16が設けられている。なお、保護膜16は、ニッケルシリサイドに限定されるものではなく、金属シリサイドとなるものであれば特に限定されない。ただし、耐酸性が良好で、金属膜を酸からなるエッチング液で選択的に除去できる金属シリサイドを用いるのが好ましく、このような金属シリサイドを形成する金属としては、ニッケルの他、タングステン、チタン、コバルトなどを挙げることができる。
【0022】
一方、このような流路形成基板10のノズル面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、二酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
圧電体層70は、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式がABOで表現されるペロブスカイト型結晶構造(Aサイトは任意の金属元素、Bサイトは任意の金属元素)を有し、金属としてPb、Zr、及びTiを含む強誘電体材料からなる。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。
【0024】
また、圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0025】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0026】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0027】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0028】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0029】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0030】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0031】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0032】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図8を参照して説明する。なお、図3〜図8は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の第2の方向の断面図である。
【0033】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハーであり流路形成基板10が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成する。
【0034】
そして、図3(b)に示すように、弾性膜50(酸化膜51)上に、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜、本実施形態では酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0035】
次いで、図3(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
【0036】
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、MOD(Metal−Organic Decomposition)法を用いてもよい。
【0037】
圧電体層70の具体的な作成手順を説明する。まず、図4(a)に示すように、第1電極60上に圧電体膜の組成液71を塗布する。
【0038】
次いで、圧電体膜の組成液71を熱処理することで、図4(b)に示す非晶質の圧電体前駆体膜72を形成する前駆体膜形成工程を行う。次に、乾燥した圧電体前駆体膜72を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する。次に、図4(c)に示すように、圧電体前駆体膜72を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜73を形成する。
【0039】
次に、図5(a)に示すように、第1電極60上に1層目の圧電体膜73を形成した段階で、第1電極60及び1層目の圧電体膜73をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。次に、図5(b)に示すように、1層目の圧電体膜73上を含む流路形成基板用ウェハー110上に、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を順次繰り返し行うことにより、複数層の圧電体膜73が形成される。
【0040】
次に、図6(a)に示すように、複数層の圧電体膜73からなる圧電体層70上に亘って、例えば、イリジウム(Ir)からなる第2電極80を形成する。そして、図6(b)に示すように、圧電体層70及び第2電極80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。圧電体層70及び第2電極80のパターニング方法としては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0041】
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0042】
次に、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接合する。そして、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さにする。
【0043】
次いで、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0044】
次いで、図9(a)に示すように、マスク膜52を燐酸等のウェットエッチングやプラズマエッチングにて除去した後、流路形成基板用ウェハー110の圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成した側に、保護膜16である金属シリサイドを形成する金属からなる金属膜17を成膜する。本実施形態では、ニッケルからなる金属膜17をスパッタリングやCVD法などにより成膜する。この金属膜17は、5〜10nm程度の膜厚で形成すれば十分であり、圧力発生室12内の弾性膜50の表面にも成膜される。
【0045】
このように金属膜17を成膜すると、図9(b)に示すように、連通部13、インク供給路14及び連通路15を含む圧力発生室12内のシリコン表面並びにマスク膜52が除去された領域のシリコン表面に成膜された金属膜17の金属がシリコン内に拡散して金属シリサイド、本実施形態ではニッケルシリサイド18が形成される。このニッケルシリサイド18は、成膜した初期に1〜2nm程度の厚さで形成され、それでも保護膜16として十分に機能するが、例えば、熱処理工程として、100℃〜400℃の温度でアニールすることにより、金属の拡散をより確実に行うことができ、十分に厚いニッケルシリサイド18を形成することができる。なお、何れにしても、ニッケルシリサイド18などの金属シリサイドは、成膜される膜などと比較して、均一の厚さに形成される。
【0046】
ここで、金属膜17を成膜する際に、シリコン表面に自然酸化膜が形成されている場合があるが、このまま金属膜17を成膜しても、金属シリサイドが形成される。勿論、自然酸化膜除去工程として、金属膜17を形成する前に、自然酸化膜を除去して、金属シリサイドの形成をより確実に行うようにしてもよい。
【0047】
また、金属膜17の形成は、マスク膜52を除去せずに行ってもよく、この場合には、マスク膜52が形成された領域には、ニッケルシリサイド18は形成されない。
【0048】
次に、図9(c)に示すように、金属膜17を、例えば、塩酸やフッ酸などの酸性のエッチング液でエッチングして、耐酸性が強いニッケルシリサイド18のみを残して金属膜17を除去し、保護膜16とする。また、この金属膜17のエッチングにより、弾性膜50上に堆積した金属膜17も除去され、酸化シリコンからなる弾性膜50にはニッケルシリサイドは形成されない。なお、ニッケルシリサイドは、金からなる配線上にも形成されない。
【0049】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、圧力発生室12の弾性膜50を除いた内部の壁面に金属シリサイドからなる保護膜16を設けたので、すなわち、変位の低下などの影響が生じる弾性膜50には保護膜16を設けることなく、圧力発生室12の内壁に選択的に保護膜16を設けることができるので、変位特性を良好に維持したまま、耐アルカリ性に優れ、吐出特性を長期間一定に維持することができるインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0051】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0052】
例えば、弾性膜50は酸化シリコンとしたが、窒化シリコンなど、あるいは、シリコン以外の酸化物、窒化物であってもよく、さらには、樹脂膜などであっても、金属シリサイドが形成されないので、上述した方法と同様に、弾性膜以外の部位に金属シリサイドからなる保護膜を形成することができる。
【0053】
さらに、上述した実施形態1では、連通部13、インク供給路14及び連通路15を含む圧力発生室12に保護膜16を設けたが、インクと接触するリザーバー部31の内壁にも同様に金属シリサイドからなる保護膜を形成することができ、かかる保護膜を形成してもよいことはいうまでもない。
【0054】
また、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面、(110)面等のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板等の材料を用いるようにしてもよい。
【0055】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図10は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0056】
図10に示すインクジェット式記録装置において、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0057】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0058】
また、上述したインクジェット式記録装置では、インクジェット式記録ヘッド1(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッド1が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0059】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0060】
1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 16 保護膜、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板(結晶基板)、 31 リザーバー部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバー、 120 駆動回路、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなり、液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室が形成された流路形成基板を具備し、
前記流路形成基板の、前記圧力発生室が形成され前記液体の流路となる面に、金属シリサイドからなる保護膜が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記金属シリサイドは、ニッケル、タングステン、チタン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも一種の金属のシリサイドであることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記流路形成基板に設けられ、弾性を有し、一部が前記圧力発生室の一部を画成する振動板を備え、
前記振動板の少なくとも前記圧力発生室の一部を画成する側が酸化シリコンであり、前記弾性膜の前記圧力発生室の一部を画成する領域に前記金属シリサイドが設けられていないことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
シリコンからなる部材に、液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室を含む前記液体の流路を形成する流路形成工程と、
前記部材の前記流路を形成した面に金属層を形成させる金属層形成工程と、
前記金属層を除去して、前記部材の前記流路に金属シリサイドからなる保護膜を設ける保護膜形成工程と、
を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記金属シリサイドは、ニッケル、タングステン、チタン及びコバルトのうち少なくとも何れか一種の金属のシリサイドであることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記金属層形成工程の後、且つ金属層の除去の前に、熱処理を行う熱処理工程を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記金属層形成工程の前に、前記保護膜を形成する前記部材の面に形成されているシリコンの自然酸化膜を除去する自然酸化膜除去工程を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−218253(P2012−218253A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84923(P2011−84923)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】