説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子

【課題】環境負荷が小さく、圧電体層にクラックがより形成されにくい圧電素子を備えた液体噴射ヘッド等を提供する。
【解決手段】本発明に係る液体噴射ヘッドは、ノズル孔に連通する圧力発生室と、圧電体部、及び前記圧電体部に設けられた電極を有する圧電素子と、を含み、前記圧電体部は、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型複合酸化物からなり、前記圧電体部は、前記ペロブスカイト型複合酸化物からなる第1圧電体層および第2圧電体層と、前記第1圧電体層及び第2圧電体層に挟まれた膜厚5nm以上20nm以下の酸化イリジウムからなる中間層と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、インクジェットプリンター等の液体噴射装置に用いられるインクジェット式記録ヘッドなどの液体噴射ヘッドが知られている(特許文献1参照)。このような液体噴射ヘッドに備えられる圧電素子の圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(組成式Pb(Zr、Ti)Oで表され、「PZT」と略称される圧電セラミックス)などのPZT系圧電材料が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、近年、環境問題の観点から、PZT系圧電材料の代替材料として、鉛の含有量を抑えたペロブスカイト型酸化物の圧電材料(以下、「非鉛系圧電材料」とも言う)が望まれている。しかしながら、鉛の含有量を抑えた圧電セラミックスは、一般的にPZT系圧電セラミックスに比べて歪量が小さい。
【0004】
一般的に、このような非鉛系圧電材料のヤング率は100GPaを超え、PZT系圧電材料のヤング率よりも非常に大きいことが知られている。例えば、ビスマスフェライト(BiFeO)、およびチタン酸バリウム(BaTiO)の混晶セラミックスからなる非鉛系圧電材料であるBFO−BT系セラミックスのヤング率は、140GP程度である。したがって、このような非鉛系圧電材を採用した圧電素子は、その圧電体層においてクラックを生じやすいという技術的課題がある。
【0005】
以上から、環境負荷が小さく、圧電体層にクラックがより形成されにくい圧電素子を備える液体噴射ヘッド等が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−211140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明のいくつかの態様のいずれかによれば、環境負荷が小さく、圧電体層にクラックがより形成されにくい圧電素子を備える液体噴射ヘッドを提供することができる。また、本発明のいくつかの態様のいずれかによれば、上記圧電素子、及び上記液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る液体噴射ヘッドは、
ノズル孔に連通する圧力発生室と、
圧電体部、及び前記圧電体部に設けられた電極を有する圧電素子と、
を含み、
前記圧電体部は、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型複合酸化物からなり、
前記圧電体部は、前記ペロブスカイト型複合酸化物からなる第1圧電体層および第2圧電体層と、前記第1圧電体層及び第2圧電体層に挟まれた膜厚5nm以上20nm以下の酸化イリジウムからなる中間層と、を有する。
【0009】
本発明によれば、環境負荷が小さく、圧電体層にクラックがより形成されにくい圧電素子を備える液体噴射ヘッドを提供することができる。
【0010】
(2)本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、
前記圧電体部の膜厚は、1μm以上であってもよい。
【0011】
(3)本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、
前記第2圧電体層の膜厚は、300nm以下であってもよい。
【0012】
(4)本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、
前記第1圧電体層の膜厚は、800nm以下であってもよい。
【0013】
(5)本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、
前記第1圧電体層の膜厚は、前記第2圧電体層の膜厚よりも厚くてもよい。
【0014】
(6)本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、
前記圧電素子は、絶縁膜を更に含み、
前記絶縁膜は、前記第1圧電体層及び前記第2圧電体層から露出した前記中間層の側面を覆っていてもよい。
【0015】
(7)本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、
前記中間層の側面は前記第2圧電体層に覆われていてもよい。
【0016】
(8)本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、
前記圧力発生室と前記圧電素子との間に設けられた基板を更に有し、
前記基板の材質は、シリコン基板であってもよい。
【0017】
(9)本発明に係る液体噴射装置は、本発明に係る液体噴射ヘッドを有する。
【0018】
本発明によれば、環境負荷が小さく、環境負荷が小さく、圧電体層にクラックがより形成されにくい圧電素子を備える液体噴射装置を提供することができる。
【0019】
(10)本発明に係る圧電素子は、
圧電体部、及び前記圧電体部に設けられた電極と、を含み、
前記圧電体部は、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型複合酸化物からなり、
前記圧電体部は、前記ペロブスカイト型複合酸化物からなる第1圧電体層および第2圧電体層と、前記第1圧電体層および第2圧電体層に挟まれた膜厚5nm以上20nm以下の酸化イリジウムからなる中間層と、を有する。
【0020】
本発明によれば、環境負荷が小さく、圧電体層にクラックがより形成されにくい圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図2】本実施形態に係る圧電素子の変形例を模式的に示す断面図。
【図3】本実施形態に係る圧電素子の変形例を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る圧電素子の製造方法を模式的に示すフローチャート。
【図5】本実施形態に係る圧電素子の製造方法を模式的に示すフローチャート。
【図6】実施例1に係る圧電体層の断面のSEM画像。
【図7】実施例1および比較例7に係る第2圧電体層の表面の金属顕微鏡画像。
【図8】実施例1のヒステリシスの印加電圧依存性を示すグラフ。
【図9】実施例1の耐電圧性を示すグラフ。
【図10】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図11】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【図12】本実施形態に係る液体噴射装置を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
1.圧電セラミックス
本実施形態に係る圧電素子を説明する前に、まず、圧電素子の圧電体層となる圧電セラミックスについて説明する。圧電セラミックスは、ペロブスカイト型の結晶構造を有する複合酸化物を主成分とする。つまりは、圧電セラミックスは、製造工程において不可避の不純物を含んでいてもよい。該複合酸化物は、一般式ABOで表され、Aサイトの元素の総モル数と、Bサイトの元素の総モル数と、酸素原子のモル数の比は、1:1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造をとり得る範囲内で、1:1:3からずれていてもよい。
【0024】
圧電セラミックスは、ペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、Aサイト元素として、ビスマス(Bi)およびバリウム(Ba)を含み、Bサイト元素として、鉄(Fe)、およびチタン(Ti)を含む。複合酸化物の少なくとも一部は、ビスマスフェライト(BiFeO)、およびチタン酸バリウム(BaTiO)の混晶セラミックスからなる固溶体(以下、「BFO−BT系セラミックス」ともいう)であってもよい。したがって、本実施形態に係る圧電素子の圧電体層は、鉛の含有量を抑えたペロブスカイト型酸化物の非鉛系圧電材料であることができる。
【0025】
非鉛系の圧電セラミックスは、例えば、マンガン(Mn)、コバルト(Co)などの任意の添加物(例えば、含有率10mol%以下程度)を加えることで特性改善をすることが知られている。圧電セラミックスは、本発明の効果を得られる範囲であれば、当然このような添加物を更に含んでいてもよい。例えば、圧電セラミックスは、マンガン(Mn)を添加物として含有していてもよい。その他の添加物としては、コバルト、クロム、アルミニウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、ニッケル、亜鉛、ケイ素、ランタン、セリウム、プラセオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム等を挙げることができる。
【0026】
圧電セラミックスがBFO−BT系セラミックスであった場合、その組成比は、有用な圧電特性を奏する範囲であれば、特に限定されない。例えば、Aサイト元素の総量に対するビスマスの割合をx(0<x<1)としたとき、xは、0.7≦x≦0.8の範囲内であってもよい。また、本実施形態に係る複合酸化物において、Bサイト元素の総量に対するチタンの割合をy(x+y=1、0<y<1)としたとき、yは、0.2≦y≦0.3の範囲内であってもよい。
【0027】
つまりは、本実施形態に係る複合酸化物は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型構造からなり、0.7≦x≦0.8、0.2≦y≦0.3、x+y=1である複合酸化物であってもよい。ここで、下記一般式(1)において、Mはマンガンやコバルト等の添加物である。一般式(1)において、添加物は、含有率が鉄(Fe)元素に対して5mol%となるように添加されている。しかしながら、これに限定されず、本発明の効果を得られる範囲であれば、添加物Mの添加量は適宜調整することができる。
【0028】
(Bi、Ba)(Fe0.95x、M0.05x、Ti)O・・・(1)
例えば、特許文献の特開2010−254560において、BFO−BT系セラミックス(xBiFeO−yBaTiO)が、0.7≦x≦0.8、0.2≦y≦0.3、x+y=1の組成比である場合、BFO−BT系セラミックスの結晶系は疑立方晶となり、それ以外の組成比である場合は菱面体晶となることが報告されている。これによれば、BFO系のセラミックスである複合酸化物は、上記一般式(1)において、組成比が0.7≦x≦0.8、0.2≦y≦0.3であることにより、結晶系が疑立方晶をとることが推定され、圧電セラミックスとしての実用性が高いことが推測される。したがって、圧電セラミックスの組成比は、その結晶系が疑立方晶をとりえる組成比においてビスマスおよびチタンを含むことができる。
【0029】
2.圧電素子
次に、本実施形態に係る圧電素子について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態にかかる圧電素子100を模式的に示す断面図である。
【0030】
圧電素子100は、図1に示すように、圧電体部20(21、22、23)、及び圧電体部20に電圧を印加する電極部(10、30)を含む。圧電素子100は、例えば、基板1の上方に形成されている。
【0031】
電極部(10、30)は、図1に示すように、基板1(圧力発生室622、図10参照)側の第1電極10と、圧電体部20を挟んで第1電極10と対向する第2電極30と、を含む。
【0032】
圧電体部20(21、22、23)は、図1に示すように、第1電極10側の第1圧電体層21と、第2電極30側の第2圧電体層22と、第1の方向Aにおいて第1圧電体層21及び第2圧電体層22に挟まれた中間層23と、を有する。
【0033】
ここで、本発明において、「第1の方向A」とは、図1に示すように、中間層23が挟まれる方向であり、層状の第1電極10、圧電体部20、及び第2電極30の膜厚(厚み)方向である。換言すれば、第1の方向Aは、第1電極10の上に圧電体部20及び第2電極30が積層される積層方向である。
【0034】
基板1は、例えば、導電体、半導体、絶縁体で形成された平板である。基板1は、単層であっても、複数の層が積層された構造であってもよい。基板1は、上面が平面的な形状であれば内部の構造は限定されず、例えば、内部に空間等が形成された構造であってもよい。基板1は、可撓性を有し、圧電体部20の動作によって変形(屈曲)することのできる基板であって、振動板と称されてもよい。基板1の材質としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、またはこれらの積層体が挙げられる。
【0035】
好適には、基板1の材質は、シリコン基板であってもよい。シリコン基板の表面は酸化処理によって酸化シリコンが形成されていてもよい。シリコン基板は、高品質な基板を比較的安価で安定的に入手可能であるため、商業的観点から好適な材質である。したがって、基板1の材質にシリコン基板を採用することにより、生産性を向上し、安定的に生産することが可能となる。
【0036】
第1電極10は、基板1上に形成されている。第1電極10の形状は、例えば、層状または薄膜状である。第1電極10の厚みは、例えば、50nm以上400nm以下である。第1電極10の平面形状は、第2電極30が対向して配置されたときに両者の間に圧電体部20を配置できる形状であれば、特に限定されず、例えば、矩形、円形である。第1電極10は、図1に示すように、単層の導電層であってもよいし、複数の導電層が積層されて形成されてもよい(図示せず)。
【0037】
第1電極10の材質は、導電性を有する物質である限り特に限定されない。第1電極10の材質として、例えば、Ni、Ir、Au、Pt、W、Ti、Cr、Ag,Pd、Cuなどの各種の金属およびこれらの金属の合金、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、SrとRuの複合酸化物、LaとNiの複合酸化物などを用いることができる。
【0038】
第1電極10の機能の一つとしては、第2電極30と一対になって、圧電体部20に電圧を印加するための一方の電極(例えば、圧電体部20の下方に形成された下部電極)となることが挙げられる。
【0039】
なお、基板1が振動板を有さず、第1電極10が振動板としての機能を有していてもよい。すなわち、第1電極10は、圧電体部20に電圧を印加するための一方の電極としての機能と、圧電体部20の動作によって変形することのできる振動板としての機能と、を有していてもよい。
【0040】
また、図示はしないが、第1電極10と基板1との間には、例えば、両者の密着性を付与する層や、強度や導電性を付与する層が形成されてもよい。このような層の例としては、例えば、チタン、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの酸化物の層が挙げられる。
【0041】
圧電体部20(21、22、23)は、第1電極10上に形成されている。第1圧電体層21及び第2圧電体層22は、上述の「1.圧電セラミックス」の項で述べた圧電セラミックスからなる。そのため、圧電素子100は、圧電体層に鉛を含まず、環境負荷が小さい圧電素子であることができる。第1圧電体層21及び第2圧電体層22の形状は、例えば、層状または薄膜状である。第1圧電体層21及び第2圧電体層22は、圧電性を有することができ、第1電極10および第2電極30によって電界が印加されることで変形することができる(電気機械変換)。
【0042】
図1に示すように、第1圧電体層21は上面21a(第1圧電体層21の第1電極10と接する面とは反対側の面)を有し、第2圧電体層22は上面22a(第2圧電体層22の中間層23と接する面とは反対側の面)を有する。また、第1圧電体層21は側面21b(第1圧電体層21の第1電極10と接する面と上面21aを連続する面)を有し、第2圧電体層22は側面22b(第2圧電体層22の中間層23と接する面と上面22aを連続する面)を有する。
【0043】
中間層23は、第1圧電体層21の上面21a上に形成される。中間層23の材質は、酸化イリジウム(IrO)である。ここで、第1の方向Aと直行する方向を第2の方向Bとした場合、図1に示すように、中間層23は、第1圧電体層21及び第2圧電体層22に挟まれ、かつ、第2の方向Bにおいて露出していてもよい。
【0044】
図1に示すように、中間層23の第1の方向Aにおける厚みtは5nm以上、20nm以下である(5nm≦t≦20nm)。導電性酸化物である中間層23をこのような厚みで形成することで、第2圧電体層22にクラックが発生することを防ぐと同時に、中間層23が実質的に電極部材として機能することを防ぐことができる。
【0045】
ここで、中間層23の厚みとは、材料となるイリジウム(Ir)膜が焼成工程を経て酸化した酸化イリジウム膜の厚みであり、焼成工程前のイリジウム膜の厚みとは区別される。中間層23の材質である酸化イリジウムは、イリジウム膜を例えばスパッタリング法により成膜した後、焼成工程で酸化処理することで得ることができる。一般的に、イリジウム膜は、酸化する際に膨張することが知られている。したがって成膜時のイリジウム膜の厚みは、酸化時の膨張を考慮し、15nm以下とすることが望ましい。詳細は「3.圧電素子の製造方法」の項で後述される。
【0046】
また、図1に示すように、圧電体部20(第1圧電体層21、中間層23、及び第2圧電体層22)の第1の方向Aにおける厚みT(t+t+t)は、1μm以上であってもよい。また、第1圧電体層21の厚みtは、800nm以下であってもよく、第2圧電体層22の厚みtは、300nm以下であってもよい。
【0047】
通常、商業的な液体噴射装置のアクチュエーターとして圧電素子が実用的な歪量(電圧印加時の変位量)を発揮するためには、非鉛系圧電材料の場合、圧電体層の膜厚が1μm以上であることが望ましい。本実施形態に係る圧電素子100によれば、圧電体部20を構成する第1圧電体層21、第2圧電体層22、及び中間層23を上記の厚みとすることで、圧電体部20にクラックを生じさせることなく、圧電体部20の厚みTを1μm以上とすることができる。詳細は「4.実施例」の項で後述される。
【0048】
また、図1に示すように、第1圧電体層21の第1の方向Aにおける厚みをt1とし、第1圧電体層21の第1の方向Aにおける厚みをt2とした場合、第1圧電体層21の厚みtは、第2圧電体層22の厚みtよりも厚くてもよい(t>t)。厚みTが1μm以上である圧電体部20を形成する場合、第1圧電体層21及び第2圧電体層22がt>tを満たすように構成することで、より確実にクラックの発生を抑制することができる。
【0049】
第2電極30は、圧電体部20(第2圧電体層22の上面22a)上に形成されている。第2電極30の形状は、例えば、層状または薄膜状である。第2電極30の厚みは、例えば、50nm以上300nm以下である。第2電極30の平面形状は、特に限定されず、例えば、矩形、円形である。第2電極30としては、第1電極10の材質として列挙した上記材料を用いることができる。
【0050】
第2電極30の機能の一つとしては、第1電極10と一対になって、圧電体部20に電圧を印加するための他方の電極(例えば、圧電体部20の上方に形成された上部電極)となることが挙げられる。
【0051】
なお、図示の例では、第2電極30は、圧電体部20の上面に形成されているが、さらに、圧電体部20の側面、基板1の上面に形成されていてもよい。
【0052】
以上のような圧電素子100は、例えば、圧力発生室内の液体を加圧する圧電アクチュエーターとして、液体噴射ヘッドや、該液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置(インクジェットプリンター)などに適用されてもよいし、圧電体層の変形を電気信号として検出する圧電センサー等その他の用途として用いてもよい。
【0053】
本実施形態に係る圧電素子100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0054】
本実施形態に係る圧電素子100によれば、圧電体部20の圧電体層に非鉛系圧電材料であるBFO−BT系セラミックスを採用している。これによれば、環境負荷の小さい圧電素子を提供することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る圧電素子100によれば、圧電体部20に酸化イリジウムからなる中間層23が形成されている。これによれば、圧電体層にクラックがより形成されにくい圧電素子を提供することができる。以下にその詳細を説明する。
【0056】
BFO−BT系セラミックス等の非鉛系圧電材料は、一般的に剛性が高い(ヤング率が大きい)ため、熱膨張係数が大きく、焼成時にクラックが発生しやすいことが知られている。また、ゾル‐ゲル法等を用いた化学溶液法(CSD法:Chemical Solution Deposition法)でもって圧電体層を形成する場合、ゲル膜の昇温過程において膜の面内に引張応力が発生し、クラックの発生が伴いやすい。したがって、非鉛系圧電材料の圧電体層を1回の成膜焼成過程においてクラックの発生を伴うことなく作製することは技術的な困難性が高い。特に第2圧電体層22の上面22aは、第2電極40が形成される面であり、微小なクラックであっても圧電素子の信頼性に大きく影響する。実験室レベルでは、1回の成膜工程における膜厚を例えば0.1μm以下とし、ゲル膜の成膜と焼成を繰り返してクラックのない1μm以上の膜厚の圧電体層を作製することが考えられるが、このようなプロセスは工業的には実用的ではない。
【0057】
これに対し、中間層23に採用される酸化イリジウムの有する膜内内部圧縮応力は、2GPa程度あり、非常に高い。また、イリジウム膜は酸化時に膨張することが知られている。したがって、イリジウム膜が材料である酸化イリジウム膜からなる中間層23を設けることにより、第2圧電体層22の前駆体溶液が結晶化する際の熱膨張や引張応力の発生を物理的に抑制することで、クラックの発生を抑制することができる。
【0058】
また、中間層23は、第1圧電体層21の上面21aを覆うように形成されることで、第1圧電体層21の上面21aに微小なクラックが発生した場合であっても中間層23がキャップ層として機能し、第1圧電体層21の圧電特性の信頼性を担保することができる。したがって、中間層23を設けることで上面21aに微小のクラックが発生しても圧電素子の信頼性が担保されるため、例えば、第1圧電体層21の膜厚を最大で800nmとすることができる。その結果、工業的に実用的な圧電特性を発揮することができる1μm以上の膜厚を有する圧電体部20を備えた圧電素子100を提供することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る圧電素子100によれば、基板1の材質にシリコン基板を選択することが可能となる。シリコン基板は、工業的に入手しやすく加工性が高い基板材料であるため、圧電素子の基板として採用することで、圧電素子の生産性を向上させることができる。しかしながら、シリコン基板の熱膨張係数と非鉛系圧電材料の熱膨張係数との関係から、圧電体層にクラックを発生させる要因の一つと考えられている。これに対し、本実施形態に係る圧電素子100によれば、圧電体部20に中間層23を設けることで、シリコン基板上であってもクラックの発生を伴わずに圧電素子を形成することができる。換言すれば、中間層23を設けることで、基板の材料としてシリコン基板を選択することができる。
【0060】
(第1変形例)
図2は、第1変形例に係る圧電素子101を模式的に示す断面図である。図2に示すように、圧電素子101は、絶縁膜50を更に含む。
【0061】
絶縁膜50は、第2の方向Bにおいて、第1圧電体層21の側面21b及び第2圧電体層22の側面22bと、第1圧電体層21及び第2圧電体層22から露出した中間層23の側面を少なくとも覆うように形成される。図2に示すように、絶縁膜50は、第2電極40の一部を連続して覆っていてもよく、第2電極40の一部が露出する開口部51を有していてもよい。
【0062】
絶縁膜50の材質は絶縁性を有する限り特に限定されない。例えば、絶縁膜50は、公知の絶縁性樹脂材料または絶縁性無機材料を用いて形成することができる。公知の絶縁性無機材料としては、酸化アルミニウムまたは酸化シリコンであってもよい。公知の絶縁性樹脂材料としては、例えば、公知の感光性樹脂材料を用いてもよいし、非感光性樹脂材料を用いてもよい。絶縁性樹脂材料が、感光性樹脂材料である場合、公知の不飽和結合含有重合性化合物、光重合開始剤等も含んでいてもよい。具体的には、絶縁性樹脂材料は、フォトレジストであってもよいし、ポリイミド、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリビニルアルコール誘導体等の樹脂組成物であってもよい。絶縁膜50の製造方法は特に限定されず、公知の成膜方法を用いることができる。
【0063】
本変形例によれば、圧電体部20の側面(21b、22b)と露出した中間層23が絶縁膜50によって覆われるため、環境に起因する圧電素子100の劣化を防ぐなど信頼性をより高めることができる。また、本変形例によれば、圧電体部20の側面におけるリーク電流の発生を抑制することができ、圧電素子101の信頼性を向上させることができる。
【0064】
(第2変形例)
図3は、第2変形例に係る圧電素子102を模式的に示す断面図である。図3に示すように、圧電素子102では、第2の方向Bにおいて、中間層23の側面は第2圧電体層22に覆われている。したがって、中間層23は、露出しないように形成される。第2変形例に係る圧電素子を製造する場合、例えば、中間層23を成膜する場合に所望の形状のマスクを形成した後、後述されるスパッタ法によりイリジウム膜を形成することで形成することができる。
【0065】
本変形例によれば、導電性酸化物である中間層23が圧電体部20の側面から露出しないため、圧電体部20の側面におけるリーク電流の発生をより確実に抑制することができ、圧電素子102の信頼性を向上させることができる。
【0066】
3.圧電素子の製造方法
次に、本実施形態に係る圧電素子100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図4は圧電素子の製造方法(S1〜S3)を説明するためのフローチャートであり、図5は、圧電体層形成工程(S2)を説明するためのフローチャートである。
【0067】
図4に示すように、圧電素子の製造方法は、第1電極形成工程(S1)と、圧電体部形成工程(S2)と、第2電極形成工程(S3)と、を有する。
【0068】
[第1電極形成工程(S1)]
図1に示すように、基板1上に、第1電極10を形成する。ここで、基板1は、例えば、シリコン基板上に、酸化シリコン層を積層し、その上に酸化チタン層、酸化ジルコン層、酸化アルミニウムのいずれかを積層することにより形成してもよい。酸化シリコン層は、例えば、熱酸化法により形成される。酸化ジルコン層や酸化チタン層は、例えば、スパッタ法などにより形成される。
【0069】
第1電極10の製造方法は特に限定されず、公知の成膜方法を用いることができる。例えば、第1電極10は、例えば、スピンコート法、スパッタ法、真空蒸着法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などの公知の成膜方法により形成される。第1電極10を形成する工程においては、必要に応じて、乾燥工程、脱脂工程、結晶化のための熱処理工程、およびパターニング工程が行われてもよい。
【0070】
[圧電体部形成工程(S2)]
次に、第1電極10上に、圧電体部20を形成する。図5に示すように、圧電体部20を形成する工程は、第1圧電体層21の成膜・焼成工程(S2−1、S2−2)と、中間層23及び第2圧電体層22の成膜・焼成工程(S2−3、S2−4、S2−5)を有する。
【0071】
第1圧電体層21及び第2圧電体層22は、例えば、スパッタ法、レーザーアブレーション法、MOCVD法や、ゾルゲル法およびMOD(Metal Organic Deposition)法などに代表される液相法により形成される。中間層23はスパッタ法により形成される。
【0072】
まず、第1電極10の上に第1圧電体層21を形成する。BFO−BT系セラミックスの前駆体溶液を用い、膜厚が800nm以下となるように成膜する(S2−1)。次に、800℃の温度で前駆体膜を焼成し、第1圧電体層21を得る(S2−2)。焼成温度を実質的に800℃と設定することで、第1圧電体層21の作製時におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0073】
ここで、第1圧電体層21が所望の膜厚となるように、前駆体溶液の塗布工程、乾燥・脱脂工程を含む成膜工程(S2−1)を所望の回数繰り返した後に前駆体膜をアニールする焼成工程(S2−2)を行うプロセスを複数回行ってもよい。
【0074】
次に、第1圧電体層21の上に中間層23及び第2圧電体層24を形成する。中間層23及び第2圧電体層24は、イリジウム膜をスパッタ法により成膜し(S2−3)、酸化処理前のイリジウム膜の上にBFO−BT系セラミックスの前駆体溶液からなり、膜厚が300nm以下である前駆体膜を形成する(S2−4)。ここで、イリジウム膜の膜厚は、酸化処理後における中間層23の厚みtが5nm≦t≦20nmを満たす膜厚となる限り特に限定されない。例えば、イリジウム膜の成膜時の膜厚は5nm〜10nm程度であればよい。その後、500℃以上、700℃以下の温度にて焼成し、イリジウム膜を酸化処理しつつ、前駆体膜を結晶化し、中間層23と第2圧電体層22を得る(S2−5)。したがって、圧電素子100の製造方法において、1回の焼成工程でもって第2圧電体層22は形成される。
【0075】
[第2電極形成工程(S3)]
次に、圧電体部20(第2圧電体層22)上に、第2電極30を形成する。第2電極30は、例えば、スパッタ法、真空蒸着法、MOCVD法により形成される。そして、所望の形状に第2電極30および圧電体部20をパターニングする。なお、第2電極30および圧電体部20のパターニングは、同じ工程で行ってもよいし、別々の工程で行ってもよい。
【0076】
以上の工程により、環境負荷が小さく、圧電体層にクラックがより形成されにくい圧電素子100を製造することができる。
【0077】
4.実施例
以下に実施例1、2および比較例1〜8を示し、図面を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によってなんら限定されるものではない。
【0078】
4.1.実施例及び比較例
[実施例1]
まず、基板を以下の工程にて作製した。単結晶シリコン基板上に二酸化シリコン層を熱酸化にて作製した。この二酸化シリコン層上にDCスパッタ法により膜厚が20nmのチタン層を形成し、熱酸化することで酸化チタン層を形成した。さらに、この酸化チタン層上にDCスパッタ法により膜厚が150nmの白金層を成膜して、第1電極10を作製した。
【0079】
次に、第1電極10上に圧電体部20を液相法及びスパッタ法により作製した。その手法は、以下のとおりである。
【0080】
まず、上述された圧電体層の原料液を準備し、この原料液を、スピンコート法により、第1電極上に滴下し基板を回転させた(塗布工程)。基板は、500rpmで5秒間回転させた後、2500rpmで30秒間回転させた。該原料液は、ビスマス、バリウム、鉄、チタンの元素と、添加物としてのマンガン元素を含む公知の金属アルコキシドもしくは有機酸金属塩を、溶媒(n−オクタン)に混合したものを用いた。
【0081】
次に、180℃に設定したホットプレート上に基板を乗せ、2分間乾燥を行った後(乾燥工程)、350℃に設定したホットプレート上に基板を乗せ、2分間保持して脱脂した(脱脂工程)。この塗布工程、乾燥工程、および脱脂工程を2回繰り返し行った(成膜工程)。
【0082】
次に、800℃で5分間、酸素雰囲気中でアニールを行って(結晶化工程)、薄膜の圧電体層を形成した(焼成工程)。上記の成膜工程及び焼成工程を6回繰り返し行った。これにより、下記一般式(2)で表され、x=0.75、y=1−x=0.25となる複合酸化物からなる第1圧電体層21を得た。このとき、第1圧電体層21の膜厚は、800nmであった。
【0083】
(Bi、Ba)(Fe0.95x、Mn0.05x、Ti)O・・・(2)
次に、第1圧電体層21上に、スパッタ法により膜厚10nmのイリジウム膜を作製した。
【0084】
次に、第1圧電体層21と同様に原料液を、スピンコート法により、イリジウム膜上に滴下し基板を回転させた(塗布工程)。基板は、500rpmで5秒間回転させた後、2500rpmで30秒間回転させた。
【0085】
次に、180℃に設定したホットプレート上に基板を乗せ、2分間乾燥を行った後(乾燥工程)、350℃に設定したホットプレート上に基板を乗せ、2分間保持して脱脂した(脱脂工程)。この塗布工程、乾燥工程、および脱脂工程を2回繰り返し行った(成膜工程)。
【0086】
次に、650℃で5分間、酸素雰囲気中でアニールを行って(結晶化工程)、薄膜の圧電体層を形成した(焼成工程)。第2圧電体層の作製においては、上記の成膜工程の後、焼成工程を1回行った。これにより、第1圧電体層21と同様の複合酸化物からなる第2圧電体層22を得た。このとき、第2圧電体層22の膜厚は、300nmであった。
【0087】
次に、第2圧電体層22上に、直径500μmの穴のあいた金属マスクを使用して、スパッタ法により膜厚100nmの白金層(第2電極)を作製した。
【0088】
[実施例2]
実施例2においては、第1圧電体層21上に、スパッタ法によりイリジウム膜を作製する際、その膜厚が5nmとなるように作製した。イリジウム膜の膜厚以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0089】
[比較例1]
比較例1においては、第2圧電体層22を作製する際の焼成工程において、800℃で5分間、酸素雰囲気中でアニールを行って、前駆体膜の結晶化を行った。第2圧電体層22のアニール温度以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0090】
[比較例2]
比較例2においては、第2圧電体層22を作製する際、焼成工程を2回に分けて行った。具体的には、300nmの第2圧電体層22を形成するために、前駆体溶液の塗布工程、乾燥工程、および脱脂工程を2回繰り返し行う成膜工程、及び650℃で5分間、酸素雰囲気中でアニールを行う焼成工程を2回行った。第2圧電体層22の焼成工程を2回行ったこと以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0091】
[比較例3]
比較例3においては、第1圧電体層22を作製する際の焼成工程において、650℃で5分間、酸素雰囲気中でアニールを行って、前駆体膜の結晶化を行った。第1圧電体層21のアニール温度以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0092】
[比較例4]
比較例4においては、中間層23の材料としてイリジウムではなく白金(Pt)を用いた。中間層23の材質として白金を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0093】
[比較例5]
比較例5においては、中間層23の材料としてイリジウムではなくチタン(Ti)を用いた。中間層23の材質としてチタンを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0094】
[比較例6]
比較例6においては、第1圧電体層21の膜厚を500nmとし、第2圧電体層22の膜厚を500nmとした。第1圧電体層21及び第2圧電体層22の膜厚を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0095】
[比較例7]
比較例7においては、中間層23を作製しなかった。中間層23を作製しなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0096】
[比較例8]
比較例8においては、第1圧電体層21上に、スパッタ法によりイリジウム膜を作製する際、その膜厚が20nmとなるように作製した。イリジウム膜の膜厚以外は、実施例1と同じ方法で形成した。
【0097】
4.2.SEM画像の評価
図6は、実施例1に係る圧電素子サンプルのSEM画像であって、断面の状態を示すSEM画像である。図6にしめされるように、実施例1に係る圧電素子サンプルでは、内部クラックの発生は確認されなかった。また、酸化イリジウム膜からなる中間層(破線部分)の最も厚い部分の膜厚は20nmであった。したがって、10nmで成膜したイリジウム膜が酸化する際に膨張していたことが確認された。
【0098】
4.3.クラックの評価
図7(A)は、実施例1に係る圧電素子サンプルの第2圧電体層22の表面(上面22a)を金属顕微鏡で観察した画像(総合倍率50倍)である。また、図7(B)は、同様の条件で比較例7に係る圧電素子サンプルの第2圧電体層22の表面(上面22a)を観察した画像である。実施例及び比較例におけるクラックの有無は、第2圧電体層22の表面を金属顕微鏡により目視で観察して判断した。
【0099】
それぞれの圧電素子サンプルにおけるクラックの有無の目視検査結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1及び図7(A)に示すように、実施例1、2においては第2圧電体層22の表面(上面22a)にクラックは確認されなかった。しかしながら、表1及び図7(B)に示すように、比較例1〜8においては第2圧電体層22の表面(上面22a)にクラックが確認された。
【0102】
実施例1、2から、非鉛系圧電材料を用いた圧電素子であって、圧電体部20の膜厚が1μm以上の場合であっても、クラックの発生を伴わずに作製することができた。
【0103】
また、実施例1、2及び比較例1〜7から、イリジウムを材料とした中間層23を圧電体部20に設け、所定の製造条件下(焼成温度及び回数)で製造した場合、第2圧電体層22においてクラックの発生を抑制することができることが確認された。
【0104】
また、実施例1、2及び比較例8、並びに実施例1のSEM画像解析結果から、中間層23の厚みが5nm以上、20nm以下である場合、クラックの発生抑制効果を得られることが確認された。
【0105】
4.4.ヒステリシスの評価
アグザクト社製の歪量測定装置(DBLI)を使用し、測定温度25℃において、実施例1に係る圧電素子サンプルのヒステリシスを測定した。
【0106】
図8は、実施例1のヒステリシスの印加電圧依存性を示すグラフである。図8に示すように、実施例1に係る圧電素子サンプルは、良好なヒステリシスを有し、工業的に実用性があることが確認された。
【0107】
4.5.耐電圧性の評価
図9は、実施例1に係る圧電素子サンプルに対する耐電圧性実験の結果をプロットした図である。横軸は、印加された電圧値(V)を示し、縦軸は、各電圧値におけるサンプルの電流密度を示す。図9に示すように、実施例1に係るサンプルにおいて、50(V)以上の電圧印加が可能であり、良好な耐電圧性を有することが確認された。
【0108】
5.液体噴射ヘッド
次に、本実施形態にかかる液体噴射ヘッドについて、図面を参照しながら説明する。図10は、液体噴射ヘッド600の要部を模式的に示す断面図である。図11は、液体噴射ヘッド600の分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0109】
液体噴射ヘッド600は、本発明に係る圧電素子を有する。以下では、本発明に係る圧電素子として、圧電素子100を用いた例について説明する。
【0110】
液体噴射ヘッド600は、図10および図11に示すように、例えば、振動板1aと、ノズル板610と、流路形成基板620と、圧電素子100と、筐体630と、を含む。なお、図11では、圧電素子100を簡略化して図示している。
【0111】
ノズル板610は、図10および図11に示すように、ノズル孔612を有する。ノズル孔612からは、インクが吐出される。ノズル板610には、例えば、複数のノズル孔612が設けられている。図11に示す例では、複数のノズル孔612は、一列に並んで形成されている。ノズル板610の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)が挙げられる。
【0112】
流路形成基板620は、ノズル板610上(図11の例では下)に設けられている。流路形成基板620の材質としては、例えば、シリコンなどを例示することができる。流路形成基板620がノズル板610と振動板1aとの間の空間を区画することにより、図11に示すように、リザーバー(液体貯留部)624と、リザーバー624と連通する供給口626と、供給口626と連通する圧力発生室622と、が設けられている。この例では、リザーバー624と、供給口626と、圧力発生室622と、を区別して説明するが、これらはいずれも液体の流路(例えば、マニホールドということもできる)であって、このような流路はどのように設計されても構わない。また例えば、供給口626は、図示の例では流路の一部が狭窄された形状を有しているが、設計にしたがって任意に形成することができ、必ずしも必須の構成ではない。
【0113】
リザーバー624は、外部(例えばインクカートリッジ)から、振動板1aに設けられた貫通孔628を通じて供給されるインクを一時貯留することができる。リザーバー624内のインクは、供給口626を介して、圧力発生室622に供給されることができる。圧力発生室622は、振動板1aの変形により容積が変化する。圧力発生室622はノズル孔612と連通しており、圧力発生室622の容積が変化することによって、ノズル孔612からインク等が吐出される。
【0114】
なお、リザーバー624および供給口626は、圧力発生室622と連通していれば、流路形成基板620とは別の部材(図示せず)に設けられていてもよい。
【0115】
圧電素子100は、流路形成基板620上(図11の例では下)に設けられている。圧電素子100は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて動作(振動、変形)することができる。振動板1aは、圧電体部20の動作によって変形し、圧力発生室622の内部圧力を適宜変化させることができる。
【0116】
筐体630は、図11に示すように、ノズル板610、流路形成基板620、振動板1a、および圧電素子100を収納することができる。筐体630の材質としては、例えば、樹脂、金属などを挙げることができる。
【0117】
液体噴射ヘッド600によれば、環境負荷が小さく、圧電体層にクラックが発生しにくい圧電素子100(101、102)を有することができる。したがって、液体噴射ヘッド600は、環境負荷が小さく、信頼性が高く、高い吐出能力を有することができる。
【0118】
なお、上記の例では、圧電体部20を2つの電極10、30で挟む圧電素子100を用いて、撓み振動によって圧力発生室622の容積を変化させる液体噴射ヘッド600について説明した。しなしながら、本発明に係る液体噴射ヘッドは、上記の形態に限定されず、例えば、圧電体層と電極とを交互に積層させてなる圧電素子を固定基板に固定し、縦振動によって圧力発生室の容積を変化させる形態であってもよい。また、本発明に係る液体噴射ヘッドは、圧電素子の伸張や収縮変形ではなく剪断変形によって圧力発生室の容積を変化させる、いわゆるシェアモード型の圧電素子を用いた形態であってもよい。
【0119】
また、上記の例では、液体噴射ヘッド600がインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本実施形態の液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0120】
6. 液体噴射装置
次に、本実施形態にかかる液体噴射装置について、図面を参照しながら説明する。図12は、本実施形態にかかる液体噴射装置700を模式的に示す斜視図である。
【0121】
液体噴射装置700は、本発明に係る液体噴射ヘッドを有する。以下では、本発明に係る液体噴射ヘッドとして、液体噴射ヘッド600を用いた例について説明する。
【0122】
液体噴射装置700は、図12に示すように、ヘッドユニット730と、駆動部710と、制御部760と、を含む。液体噴射装置700は、さらに、液体噴射装置700は、装置本体720と、給紙部750と、記録用紙Pを設置するトレイ721と、記録用紙Pを排出する排出口722と、装置本体720の上面に配置された操作パネル770と、を含むことができる。
【0123】
ヘッドユニット730は、上述した液体噴射ヘッド600から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット730は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ731と、ヘッドおよびインクカートリッジ731を搭載した運搬部(キャリッジ)732と、を備える。
【0124】
駆動部710は、ヘッドユニット730を往復動させることができる。駆動部710は、ヘッドユニット730の駆動源となるキャリッジモーター741と、キャリッジモーター741の回転を受けて、ヘッドユニット730を往復動させる往復動機構742と、を有する。
【0125】
往復動機構742は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸744と、キャリッジガイド軸744と平行に延在するタイミングベルト743と、を備える。キャリッジガイド軸744は、キャリッジ732が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ732を支持している。さらに、キャリッジ732は、タイミングベルト743の一部に固定されている。キャリッジモーター741の作動により、タイミングベルト743を走行させると、キャリッジガイド軸744に導かれて、ヘッドユニット730が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0126】
なお、本実施形態では、液体噴射ヘッド600および記録用紙Pがいずれも移動しながら印刷が行われる液体噴射装置の例を示しているが、本発明の液体噴射装置は、液体噴射ヘッド600および記録用紙Pが互いに相対的に位置を変えて記録用紙Pに印刷される機構であればよい。また、本実施形態では、記録用紙Pに印刷が行われる例を示しているが、本発明の液体噴射装置によって印刷を施すことができる記録媒体としては、紙に限定されず、布、フィルム、金属など、広範な媒体を挙げることができ、適宜構成を変更することができる。
【0127】
制御部760は、ヘッドユニット730、駆動部710および給紙部750を制御することができる。
【0128】
給紙部750は、記録用紙Pをトレイ721からヘッドユニット730側へ送り込むことができる。給紙部750は、その駆動源となる給紙モーター751と、給紙モーター751の作動により回転する給紙ローラー752と、を備える。給紙ローラー752は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー752aおよび駆動ローラー752bを備える。駆動ローラー752bは、給紙モーター751に連結されている。制御部760によって供紙部750が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット730の下方を通過するように送られる。ヘッドユニット730、駆動部710、制御部760および給紙部750は、装置本体720の内部に設けられている。
【0129】
液体噴射装置700によれば、環境負荷が小さく、圧電体層にクラックが発生しにくい圧電素子を備えた液体噴射ヘッド600を有することができる。したがって、液体噴射装置700は、環境負荷が小さく、信頼性が高い吐出能力を有することができる。
【0130】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0131】
1 基板、1a 振動板、10 第1電極、20 圧電体部、21 第1圧電体層、
22 第2圧電体層、23 中間層、30 第2電極、
100、101、102 圧電素子、
600 液体噴射ヘッド、610 ノズル板、612 ノズル孔、
620 流路形成基板、622 圧力発生室、624 リザーバー、626 供給口、
628 貫通孔、630 筐体、700 液体噴射装置、710 駆動部、
720 装置本体、721 トレイ、722 排出口、730 ヘッドユニット、
731 インクカートリッジ、732 キャリッジ、741 キャリッジモーター、
742 往復動機構、743 タイミングベルト、744 キャリッジガイド軸、
750 給紙部、751 給紙モーター、752 給紙ローラー、
752a 従動ローラー、752b 駆動ローラー、760 制御部、
770 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔に連通する圧力発生室と、
圧電体部、及び前記圧電体部に設けられた電極を有する圧電素子と、
を含み、
前記圧電体部は、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型複合酸化物からなり、
前記圧電体部は、前記ペロブスカイト型複合酸化物からなる第1圧電体層および第2圧電体層と、前記第1圧電体層及び第2圧電体層に挟まれた膜厚5nm以上20nm以下の酸化イリジウムからなる中間層と、を有する、液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1において、
前記圧電体部の膜厚は、1μm以上である、液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2圧電体層の膜厚は、300nm以下である、液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記第1圧電体層の膜厚は、800nm以下である、液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項において、
前記第1圧電体層の膜厚は、前記第2圧電体層の膜厚よりも厚い、液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項において、
前記圧電素子は、絶縁膜を更に含み、
前記絶縁膜は、前記第1圧電体層及び前記第2圧電体層から露出した前記中間層の側面を覆う、液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項において、
前記中間層の側面は前記第2圧電体層に覆われている、液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項において、
前記圧力発生室と前記圧電素子との間に設けられた基板を更に有し、
前記基板の材質は、シリコン基板である、液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドを有する、液体噴射装置。
【請求項10】
圧電体部、及び前記圧電体部に設けられた電極と、を含み、
前記圧電体部は、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型複合酸化物からなり、
前記圧電体部は、前記ペロブスカイト型複合酸化物からなる第1圧電体層および第2圧電体層と、前記第1圧電体層および第2圧電体層に挟まれた膜厚5nm以上20nm以下の酸化イリジウムからなる中間層と、を有する、圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91305(P2013−91305A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236265(P2011−236265)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】