説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】液体噴射ヘッド1から吐出された液滴やその飛沫がクーロン斥力により飛散し、記録品質が低下することを防止する。
【解決手段】液体吐出ヘッド1を、吐出用の液体を充填するチャンネル2と、充填された液体に圧力を加える圧電素子3と、チャンネル2に連通しその液体を吐出するノズル4と、ノズル4の近傍に設置され、液体に接触する内部電極5と、この内部電極5の電圧を設定する電圧設定部6とにより構成し、被記録媒体の帯電状況に応じて電圧設定部6が内部電極5に対して電圧及び極性を設定できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出して被記録媒体に画像や文字、あるいは薄膜材料を形成する液体噴射ヘッド、これを用いた液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出し、文字、図形を描画する、あるいは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜のパターンを形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、液体噴射ヘッドに形成した微小空間にこのインクを充填し、駆動信号に応じて微小空間の容積を瞬間的に縮小し溝に連通するノズルから液滴を吐出させる。
【0003】
液体噴射ヘッドは、内部にインク等の液体を充填したチャンネルにおいて、インクにかかる圧力を増大させて、チャンネルに連通するノズルからインクを吐出させる。通常、インク滴が着弾する被記録媒体は絶縁体で構成される。そのため、被記録媒体は帯電する。被記録媒体が帯電すると、ノズルから吐出されるインク滴の電圧に応じて、吐出された液滴が引っ張られる、或いは弾かれる等の力を受ける。特に、インク滴が被記録媒体と同じ極性に帯電するとインク滴が着弾する際に広がり、印字品質が低下する。
【0004】
特許文献1には、インク噴射ヘッドがホームポジションの位置にある時に、ノズルが形成されたノズル板の外部表面に所定距離を置いて対向して除電電極を設置したインク噴射ヘッドの除電装置が記載されている。インク噴射ヘッドはノズル板の背面側に金属板を備えている。ノズル板は合成樹脂から形成されている。この金属電極と除電電極との間に電界を印加して、ノズル板の外表面に帯電した電荷を除電する、というものである。
【0005】
特許文献2には、絶縁性インクが使用された場合に放電を防ぐことができ、導電性インクが使用された場合に凝集物の発生を防ぐことができる液体吐出装置が記載されている。図14は、インクジェットヘッドの圧力室を説明するための上面図である(特許文献2)。圧力室は、電極112aが設置された圧電体からなる2枚のアクチュエータ113により挟まれる領域であり、この領域に絶縁性のインクL2が充填されている。アクチュエータ113の下方端部にはノズルプレート103が設置されている。ノズルプレート103の圧力室に対応する位置にインクを吐出するためのノズル104が開口している。ノズルプレート103の外側にはノズル104の対応する位置に開口114を備える帯電制御用のマスクプレート110が設置されている。マスクプレート110はアース用リード線121と開閉スイッチ122を介してアースに接続されている。
【0006】
インクジェットヘッドが作動し用紙へプリントを行っている時、用紙がマスクプレート110に接触する際の摩擦により、マスクプレート110に電荷が溜まる。インクL2が絶縁性であるときは、開閉スイッチを閉じてマスクプレート110をアースに接続する。これにより、マスクプレート110に帯電した電荷をアースに逃がすことができる。そのため、マスクプレート110と筺体や電極112aとの間の放電を回避することができる。インクL2が導電性であるときは、インクジェットヘッドが用紙へプリントを行っている作動時は開閉スイッチを開いておき、電極112aからの電流の漏えいを防止する。メンテナンスのときは開閉スイッチを閉じ、マスクプレート110に溜まる電荷をアースに流して放電が発生しないようにする、というものである。
【0007】
特許文献3には、ノズル面に絶縁性被膜がなされたノズルプレートから静電気や帯電を逃がす液体噴射ヘッドが記載されている。インク等の液体を吐出するためのノズルが形成されたノズルプレートの外面側にヘッドカバーが設置されている。ノズルプレートは、導電性母材から構成され、そのヘッドカバーの側の表面には絶縁性被膜から成る撥水性被膜が形成されている。撥水性被膜は、ノズルプレートの外面にインクが残らないようにするために形成されている。撥水性被膜は、ノズルプレートのノズル開口周囲では除去されている。そして、ヘッドカバーとノズルプレートの導電性母材とを導通させたことにより、ノズルプレートの撥水性の表面から静電気を有効に逃すことができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−15754号公報
【特許文献2】特開2010−69856号公報
【特許文献3】特開2006−256231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しなしながら、引用文献1に記載されるインク噴射ヘッドは、インク噴射ヘッドに帯電した電荷をホームポジションで放電するものである。そのため、印刷時に被記録媒体が帯電し、この帯電した被記録媒体にインク滴を吐出する際に、被記録媒体の帯電とインク滴の電荷とが同極性のときにインク滴が弾かれ、これにより記録品質が低下することに対して、対応することができない。
【0010】
また、特許文献2においては、ノズルプレートの吐出側の表面に設置したマスクプレートをアースに接続して、ノズルプレートが帯電することを防止するものあり、被記録媒体の帯電と吐出するインク滴の帯電との間の極性について制御することができない。
【0011】
また、特許文献3においては、ノズルプレートの外面に形成した絶縁性の撥水性膜に静電気が帯電する場合に、この静電気を導電性のノズルプレートを介してヘッドカバーに逃がすものである。そのため、特許文献2と同様に、被記録媒体の帯電とインク滴の電荷との間の極性について制御できない。また、引用文献3においては、ノズルプレートを導電性母材により構成している。しかし、記録ピッチの高密度化に伴いノズル径の微細化が要求されており、金属等から成る導電性材料ではノズル径の微細化に限界がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被記録媒体が静電気等により帯電した場合でも、その帯電に影響を受けないで所定の記録品質を維持して液滴を吐出することができる液体噴射ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による液体噴射ヘッドは、吐出用の液体を充填するチャンネルと、駆動電極を有し、前記液体に圧力を加える圧電素子と、前記チャンネルに連通し前記液体を吐出するノズルと、前記ノズルの近傍に設置され、前記液体に接触する内部電極と、前記内部電極の電圧を設定する電圧設定部と、を備える。
【0014】
また、前記電圧設定部は、前記内部電極に正電圧と負電圧を切り替えて供給するスイッチを備える。
【0015】
また、前記電圧設定部は、前記内部電極とアースとの間に電気的に接続される静電気保護素子を備える。
【0016】
また、前記チャンネルは、アクチュエータ基板の表面に形成され、圧電体からなる隔壁により仕切られた溝と、前記溝の開口を塞ぐように前記表面に接合したカバープレートと、前記アクチュエータ基板及び隔壁の端面に接合した絶縁体からなるノズルプレートとにより囲まれた領域から構成され、前記ノズルは、前記溝に対応して前記ノズルプレートに設置され、前記圧電素子は、前記圧電体とこの圧電体に設置した前記駆動電極から構成される。
【0017】
また、前記内部電極は、前記ノズルプレートの前記アクチュエータ基板の側の内面に設置されている。
【0018】
また、前記内部電極は、前記隔壁の前記端面近傍の側面に設置されている。
【0019】
また、前記カバープレートのノズルプレート側の端面は前記アクチュエータ基板及び隔壁の端面と面一に構成され、前記内部電極は、前記カバープレートの前記端面近傍の前記チャンネル側の内面に設置されている。
【0020】
また、前記端面には、前記内部電極と電気的に接続する端面電極が設置されている。
【0021】
また、前記表面であり、前記複数の溝の外側に電極溝が形成され、前記電極溝の内面には前記内部電極と電気的に接続する引出電極が設置されている。
【0022】
また、前記引出電極は前記端面電極に電気的に接続する。
【0023】
また、前記電極溝は、前記複数の溝の深さの1/2を超えない深さを有する。
【0024】
また、前記引出電極は前記電極溝の底面及び側面に設置されている。
【0025】
本発明の液体噴射装置は、請求項いずれかに記載の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える。
【0026】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電体を含むアクチュエータ基板の表面に隔壁により仕切られた複数の溝を形成する溝形成工程と、前記隔壁の側面に第一の導体を堆積する第一堆積工程と、前記アクチュエータ基板の端面と前記隔壁の前記端面近傍の側面に第二の導体を堆積する第二堆積工程と、前記複数の溝の上部開口を塞ぐように前記表面にカバープレートを接合するカバープレート接合工程と、前記端面にノズルプレートを接合するノズルプレート接合工程と、を備える。
【0027】
また、前記溝形成工程の前に、前記表面に感光性樹脂を塗布し、次に感光性樹脂のパターンを形成する。
【0028】
また、前記第一堆積工程は、前記表面に前記第一の導体の堆積を遮蔽するためのマスクを設置し、前記隔壁の側面と上面に対して斜め方向から前記第一の導体を蒸着法により堆積する。
【0029】
また、前記第二堆積工程は、前記端面近傍の前記隔壁の側面に対して斜め方向から前記第二の導体を蒸着法により堆積する。
【0030】
また、前記第二堆積工程は、前記カバープレート接合工程の後に前記カバープレートの前記複数の溝の側の内面に対して斜め方向から前記第二の導体を蒸着法により堆積する工程である。
【0031】
また、前記溝形成工程は、前記アクチュエータ基板の表面に前記溝の深さの1/2を超えない深さの電極形成用の電極溝を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0032】
本発明の液体噴射ヘッドは、吐出用の液体を充填するチャンネルと、駆動電極を有し、充填された液体に圧力を加える圧電素子と、当該チャンネルに連通し上記液体を吐出するノズルと、このノズルの近傍に設置され、充填されている液体に接触する内部電極と、この内部電極の電圧を設定するための電圧設定部とを備える。この構成により、被記録媒体の帯電性質に応じて、電圧設定部により内部電極の電圧を設定することができる。即ち、ノズルから吐出される液滴の帯電を調節することができ、被記録媒体に液滴を吐出したときにクーロンの斥力により反発して記録品質が低下することを有効に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る液体噴射ヘッドの基本的な構成を表す模式的な斜視図である。
【図2】本発明に係る液体噴射ヘッドの模式的な部分分解斜視図である。
【図3】本発明に係る液体噴射ヘッドのカバープレートを取り外した状態を表す模式的な平面図である。
【図4】本発明に係る液体噴射ヘッドのアクチュエータ基板の模式的な部分斜視図である。
【図5】本発明に係る液体噴射ヘッドのアクチュエータ基板及びカバープレートの模式的な部分斜視図である。
【図6】本発明に係る液体噴射ヘッドのアクチュエータ基板及びカバープレートの模式的な部分斜視図である。
【図7】本発明に係る液体噴射ヘッドの模式的な分解斜視図及び端部の斜視図である。
【図8】本発明に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
【図9】本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す工程図である。
【図10】本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための図である。
【図11】本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための図である。
【図12】本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための図である。
【図13】本発明に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【図14】従来公知のインクジェットヘッドの圧力室を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<液体噴射ヘッド>
図1は本発明の液体噴射ヘッド1の基本的な構成を表す模式的な斜視図である。液体噴射ヘッド1は、吐出用の液体を充填するチャンネル2と、圧電素子3と、液体吐出用のノズル4と、チャンネル2内に設置された内部電極5と、内部電極5の電圧を設定する電圧設定部6を備えている。チャンネル2は実線で示され、側壁Mにより囲まれており、内部に吐出用の液体を収納する。圧電素子3はチャンネル2を構成する側壁の一部を構成し、図示しない駆動電極に駆動信号を供給することによりチャンネル2の内側又は外側に変形し、内部に収納さている液体に圧力を加える。ノズル4は手前側の側壁Mに開口し、チャンネル2に充填された液体の圧力変動に伴って図示しない被記録媒体に液滴を吐出する。電圧設定部6はノズル4の近傍の側壁Mの内面に設置され、チャンネル2内に充填された液体と接触している。電圧設定部6は内部電極5と配線により接続され、内部電極5の電圧や極性を設定することができる。
【0035】
この構成により、被記録媒体の帯電性質に応じて電圧設定部6により内部電極5の電圧や極性を設定することができる。その結果、被記録媒体に液滴を吐出したときにクーロンの斥力により液滴やその飛沫が反発して記録品質が低下することを有効に防止することができる。また、被記録媒体に高電圧の静電気が発生し、その静電気がノズル4を介して液体に放電したときは、その静電気を内部電極5を介して外部に放電させることができる。そのため、圧電素子3の表面に形成した図示しない駆動電極に放電電流が流れ、この駆動電極から圧電素子3を駆動する駆動部に放電し、駆動部が破壊されることを防止することができる。
【0036】
図1に示す構成において、内部電極5は手前側の側壁Mの内面に形成することの他に、左右の側壁Mの内面や、上下の側壁Mの内面に形成してもよい。また、圧電素子3は側壁Mの一部を構成しているが、これに代えて側壁Mの外部に設け、外部から側壁Mを変形させて内包する液体に圧力を加えるようにしても良い。電圧設定部6は、正電圧と負電圧を被記録媒体の帯電に応じて切り替えて供給するスイッチを備えることができる。なお、実際の液体噴射ヘッドは上記チャンネル2が多数配列している。以下、本発明の液体噴射ヘッド1について、図面を用いて詳細に説明する。
【0037】
(第一実施形態)
図2は本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の模式的な部分分解斜視図であり、図3はカバープレート8を取り外した液体噴射ヘッド1の模式的な部分上面図である。図2に示すように、液体噴射ヘッド1は、表面のx方向に配列した複数の溝12を有するアクチュエータ基板7と、この溝12の上部開口を塞いでアクチュエータ基板7の表面に接合したカバープレート8と、アクチュエータ基板7及びカバープレート8の前方の端面FEに接合したノズルプレート9を備えている。
【0038】
アクチュエータ基板7の表面に形成した複数の溝12は、y方向に細長く、x方向に隔壁11を介して複数配列している。各溝12はアクチュエータ基板7の端面FEに開口しアクチュエータ基板7の後方端の手前まで延在する。各隔壁11はその側面の略1/2の高さから隔壁11の上端部まで形成した駆動電極10を備えている。各駆動電極10は、アクチュエータ基板7の後方端近傍の表面に形成した複数の端子電極20にそれぞれ電気的に接続する。各端子電極20は、図示しないフレキシブル基板の配線電極を介して図示しない駆動部に電気的に接続する。
【0039】
カバープレート8は液体を外部から導入し、各溝12に供給するための液体供給孔17を備えている。カバープレート8はアクチュエータ基板7の表面に接着材により接合している。ノズルプレート9は、アクチュエータ基板7の端面FEに開口する各溝12に連通するノズル4を有し、そのアクチュエータ基板7側の表面に内部電極5を有している。ノズルプレート9は、カバープレート8とアクチュエータ基板7の端面FEに接着材を介して接合している。溝12とカバープレート8とノズルプレート9により囲まれる領域がチャンネル2を構成する。細長い形状の各チャンネル2は一方の端部においてノズル4に連通し、他方の端部においてカバープレート8の液体供給孔17に連通している。
【0040】
図3に示すように、各隔壁11はその両側面に駆動電極10を備えている。各駆動電極10とノズルプレート9に形成した内部電極5との間には間隙が介在する。そのため、駆動電極10と内部電極5とは電気的に分離する。内部電極5は図示しない引出電極を介して電圧設定部6に電気的に接続している。チャンネル2内にインク等の液体が充填されると、内部電極5は液体に接触する。つまり、ノズルプレート9に内部電極5を設置したことにより、ノズル4から吐出される直前の液体の電圧及び極性を制御することができる。
【0041】
ここで、アクチュエータ基板7はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスを使用した。PZTの他に例えばチタン酸バリウム等の圧電体を使用することができる。アクチュエータ基板7は基板面の法線方向、即ちz方向に分極処理が施されている。従って、隔壁11を挟む駆動電極10に電界を印加すると隔壁11は厚み滑り変形し、チャンネル2の容積を増加または減少させる。カバープレート8は、アクチュエータ基板7と同じPZTセラミックスを使用し、周囲の温度変化に対して熱膨張差を低減させ、耐久性を持たせている。ノズルプレート9は絶縁性の高分子材料を使用した。絶縁性の高分子材料は金属膜等に比較して微細加工が容易であり、ノズル径やノズルピッチの小さい高密度液体噴射ヘッドを構成することができる。ノズルプレート9として例えばポリイミド膜を使用することができる。また、アクチュエータ基板7としてPZT基板に代えて、隔壁11の部分のみを分極処理した圧電体材料を使用し、他の領域は非圧電体材料を使用してもよい。
【0042】
液体噴射ヘッド1は次のように駆動する。液体供給孔17にインク等の液体を供給する。すると各チャンネル2に液体が充填され、各ノズル4には液体のメニスカスが形成される。電圧設定部6は内部電極5にノズル4の直前に設置した被記録媒体の帯電極性と反対極性の電圧を与える。そのためノズル4の直近の液体は内部電極5の電圧と極性が反映される。次に、駆動部が駆動電極10に駆動信号を与え、隔壁11を厚み滑り変形させる。具体的には、一旦チャンネル2の容積を増大させて液体をチャンネル2内に吸引し、次にチャンネル2の容積を縮小させてノズル4から液滴を吐出する。吐出した液滴は被記録媒体と反対極性が付与されているので、クーロンの引力により引きつけられて被記録媒体に着弾する。一般的に吐出するインク滴は最初の主滴の後に径の小さいサテライト、その後に飛沫が追随する。吐出する液滴にクーロンの引力を付与する、或いは少なくともクーロンの斥力が働かないようにすれば、液滴の飛散を低減し、これらの液滴を被記録媒体に一体的に着弾させることに貢献することができる。
【0043】
また、被記録媒体はプレート等の表面を摺動しながらノズルに接近する。そのために、被記録媒体には静電気が帯電しやすくなる。被記録媒体に静電気が帯電するとノズル4から液滴を吐出させる際に被記録媒体と液滴との間が放電しやすくなる。本実施形態では、ノズル4の直近に内部電極5を形成したので、液滴を介してノズル4内の液体に放電した静電気を内部電極5、電圧設定部6を介して放電させることができる。これにより、チャンネル2内の液体に放電した電荷が駆動電極10を介して駆動回路に放電され、駆動部が静電破壊することを防止することができる。
【0044】
なお、図2及び図3に示す第一実施形態において、ノズルプレート9の内面に内部電極5を形成したが、更に、ノズルプレート9の外面に外面電極を形成してアースに接続する、或いは電圧設定部6に接続すれば、静電気に対するシールド効果をより一層高めることができる。
【0045】
(第二実施形態)
図4は本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1のアクチュエータ基板7の模式的な部分斜視図である。本実施形態では、カバープレート8及びノズルプレート9は省略した。図4に示すように、アクチュエータ基板7は、その端面FEに端面電極13aと、端面FEに近接する隔壁11の側面に端面電極13aと電気的に接続する内部電極5aを備えている。これらの端面電極13aと内部電極5aは電圧設定部6に電気的に接続する。また、隔壁11の側面に形成した駆動電極10は内部電極5aの手前まで形成し、駆動電極10と内部電極5aとは電気的に分離している。その他の構成は第一実施形態と同様なので説明を省略する。なお、第一実施形態のように、ノズルプレート9の内面に形成した内部電極5は省略することができる。
【0046】
このように、隔壁11の側面に内部電極5aを形成することにより、液体に対する内部電極5aの接触面積を増大させることができるので、液体の電圧や極性を設定しやすくすることができる。また、被記録媒体に帯電した静電気がノズル4やノズルプレート9を介して液体に放電した際に、内部電極5と液体の接触面積が増えるので、液体に印加された静電気は電圧設定部6に放電されやすい。なお、内部電極5aを隔壁11の側面に形成したが、これに代えて、又はこれに加えて溝12の底面に内部電極を形成することができる。これにより、内部電極と液体との接触面積を更に広くすることができる。
【0047】
(第三実施形態)
図5は本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1のアクチュエータ基板7及びカバープレート8の模式的な部分斜視図である。本実施形態ではノズルプレート9を省略した。図5に示すように、アクチュエータ基板7の端面FEと隔壁11の端面FE近傍の側面に端面電極13aと内部電極5aを形成することに加えて、カバープレート8の端面FEにも端面電極13bを形成した。アクチュエータ基板7の端面FEに形成した端面電極13aとカバープレート8の端面FEに形成した端面電極13bは電気的に接続し、内部電極5aとともに、電圧設定部6に電気的に接続している。これにより、電圧設定部6との間の抵抗を低減させ、ノズル4を介してチャンネル2内の液体に静電気が印加された場合でも、駆動電極10の側に静電気が流れ、図示しない駆動部が静電破壊を起こすことを防止することができる。
【0048】
(第四実施形態)
図6は本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッド1のアクチュエータ基板7及びカバープレート8の模式的な部分斜視図である。本実施形態ではノズルプレート9を省略した。図6に示すように、アクチュエータ基板7の端面FEに形成した端面電極13aと、隔壁11の端面FE近傍の側面に形成した内部電極5aと、カバープレート8の端面に形成した端面電極13bの他に、カバープレート8のチャンネル2側の端面FE近傍の内面に内部電極5bを形成した。内部電極5bは隔壁11の側面に形成した内部電極5aと電気的に接続し、電圧設定部6に電気的に接続する。これにより、内部電極5と液体とが接触する面積が更に増大し、ノズル4近傍の液体の電圧及び極性をより設定しやすい。また、被記録媒体に帯電した静電気がノズル4やノズルプレート9を介して液体に放電した際に、内部電極5と液体の接触面積が増えるので、液体に印加された静電気を電圧設定部6に一層放電しやすくすることができる。その結果、駆動部の静電破壊を有効に防止することができる。
【0049】
(第五実施形態)
図7(a)は本発明の第五実施形態に係る液体噴射ヘッド1の模式的な分解斜視図であり、図7(b)はアクチュエータ基板7の端部の模式的な斜視図である。図7(a)に示すように、アクチュエータ基板7は、その表面に並列に配列する液体吐出用の複数の溝12と、その外辺部に設置した電極溝14を備える。カバープレート8は液体供給孔17を有し、アクチュエータ基板7の表面に溝12及び電極溝14の上部開口を塞ぐように接合する。ノズルプレート9は各溝12に対応する複数のノズル4を備え、アクチュエータ基板7及びカバープレート8の端面FEに接合する。
【0050】
アクチュエータ基板7の表面に形成した各溝12は、y方向に細長く、x方向に隔壁11を介在して配列する。各溝12は、アクチュエータ基板7の端面FEに開口し反対側の後端部の手前まで延在する。電極溝14は、配列する複数の溝12とアクチュエータ基板7の側端部との間の表面に溝12と並列して設置されている。各隔壁11はその側面に溝12の底面から略1/2の高さから上部にかけて隔壁11を駆動するための駆動電極10を備えている。アクチュエータ基板7は、その後方端近傍の表面に駆動信号を入力するための複数の端子電極20を備え、各端子電極20は各駆動電極10に電気的に接続する。各端子電極20は、図示しないフレキシブル基板を介して図示しない駆動部と電気的に接続する。電極溝14はその側面に引出電極15aとその底面に引出電極15bを備えている。
【0051】
図7(b)に示すように、各溝12及び電極溝14は端面FEに開口する。電極溝14の深さtは溝12の深さdよりも浅い。電極溝14の深さtは好ましくは溝12の深さdの1/2よりも浅くする。これにより、隔壁11の両側面に斜め蒸着法により駆動電極10を形成する際に、電極溝14の側面に引出電極15a、底面に引出電極15bを同時に形成することができる。その結果、引出電極15を電極溝14の側壁にのみ形成する場合よりも配線抵抗が低減し、内部電極5に静電気が印加された時の放電時定数を低下させ、速やかに放電させることができる。
【0052】
アクチュエータ基板7はその端面FEに端面電極13aを備え、隔壁11はその端面FE側の側面に内部電極5aを備えている。隔壁11の端面FE側に形成した内部電極5aとその奥側に形成した駆動電極10との間に間隙を介在させて、内部電極5aと駆動電極10とを電気的に分離している。内部電極5aと端面電極13aとは電気的に接続し、端面電極13aと引出電極15a、15bとは電気的に接続する。引出電極15は図示しないフレキシブル基板を介して電圧設定部6と電気的に接続する。
【0053】
なお、電極溝14は、各溝12と同様にアクチュエータ基板7の端面FEに開口し反対側の後端部の手前まで延在してもかまわないし、またアクチュエータ基板7の端面FEから反対側の後端面にわたって形成されてもかまわない。そして、電極溝14は、各溝12と異なり、液体を吐出することができる溝ではないため、カバープレート8の液体供給孔17には連通していない。
【0054】
このように、電極溝14を形成し、その内壁に引出電極15を形成したので、内部電極5と電圧設定部6との間を電気的に容易に接続することができる。なお、端面電極13aに加えて、ノズルプレート9のアクチュエータ基板7側の内面に内部電極5を形成しても良いし、カバープレート8の端面FEに端面電極13bを、更にチャンネル2側の内面に内部電極5bを、更に溝12の底面に内部電極を形成することができる。
【0055】
(第六実施形態)
図8(a)は本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッド1の説明図である。第五実施形態と異なる部分は、電圧設定部6を具体的に表した点と、アクチュエータ基板7の表面に電極溝14を形成し、その内面に引出電極15を形成することに代えて、当該表面に引出電極15のみを形成した点である。その他の構成は第五実施形態と同様なので説明を省略する。
【0056】
アクチュエータ基板7の表面に配列する複数の溝12と側端部との間に引出電極15を形成し、端面FEや端面FE近傍に形成した端面電極13や内部電極5と電圧設定部6との間を配線Lを介して電気的に接続する。電圧設定部6は、配線Lとアースとの間に接続するバリスタVと、配線Lに与える電圧の極性を切り替えるためのスイッチSWと、2つの電源B1、B2を備えている。例えば、被記録媒体が正に帯電する場合はスイッチSWを電源B1側に倒して内部電極5を負極性とし、被記録媒体が負に帯電する場合はスイッチSWを電源B2側に倒して内部電極5を正極性とする。これにより、ノズル4から吐出される液滴や飛沫にクーロンの引力が働き、液滴や飛沫が飛散して記録品質が低下することを防止することができる。なお、印加する電圧は±20V〜±30V程度とする。また、バリスタVは静電気保護素子として機能する。液体を介して大きな静電気が内部電極5に印加されると、その静電気はバリスタVを介してアースに直接流れる。これにより、圧電素子を駆動する駆動部が静電破壊することを防止することができる。
【0057】
図8(b)は図8(a)に示す電位設定部6の変形例である。バリスタVに代えて、スイッチSWとアースの間に電源B1と並列にツェナーダイオードZ1を接続し、電源B2と並列にツェナーダイオードZ2を接続した。ツェナーダイオードZ1、Z2は静電気保護素子として機能する。ツェナーダイオードZ1はスイッチSWからアースに向けて順方向に接続し、ツェナーダイオードZ2はスイッチSWからアースに向けて逆方向に接続する。スイッチSWを電源B1側に倒したときは、配線Lに負電圧が印加されて、ツェナーダイオードZ1には電流が流れない。この状態で配線Lに大きな正の静電気が印加されたときは、配線LがツェナーダイオードZ1の順方向電圧を超えたときに静電気はアースに放電される。配線Lに大きな負の静電気が印加されたときは、配線LがツェナーダイオードZ1のブレークダウン電圧を超えたときに静電気はアースに放電される。スイッチSWを電源B2側に倒したときは、配線Lに正電圧が印加されて、ツェナーダイオードZ2には電流が流れない。この状態で配線Lに静電気が印加されたときは、ツェナーダイオードZ2の順方向電圧又は逆方向のブレークダウン電圧で静電気はアースに放電される。ツェナーダイオードZ1、Z2は大きな電流を流すことができるので、圧電素子を駆動する駆動部の静電破壊をより一層有効に防止することができる。
【0058】
<液体噴射ヘッドの製造方法>
図9は、本発明の液体噴射ヘッドの製造方法を表す工程図である。まず、溝形成工程S1において、圧電体基板又は絶縁体基板の上に圧電体を張り合わせたアクチュエータ基板を準備し、このアクチュエータ基板の基板表面に互いに隔壁により離隔する複数の溝を形成する。複数の溝は、フォトリソグラフィ及びエッチング法やサンドブラスト法により、或いはダイシングブレードを用いた切削法により形成することができる。次に、第一堆積工程S2において、アクチュエータ基板の表面と隔壁の側面に第一の導体を堆積する。金属等の導体をスパッタリング法や真空蒸着法、或いはめっき法により堆積することができる。次に、第二堆積工程において、アクチュエータ基板の端面と、隔壁の当該端面近傍の側面に第二の導体を堆積する。金属等の導体をスパッタリング法や真空蒸着法、或いはめっき法により堆積することができる。次に、カバープレート接合工程において、アクチュエータ基板の表面に、溝の開口を塞ぐようにカバープレートを接合する。カバープレートはアクチュエータ基板の表面に接着材により接着して接合することができる。次に、ノズルプレート接合工程において、アクチュエータ基板の当該端面にノズルを複数有するノズルプレートを接合する。ノズルプレートを接着材により当該端面に接合することができる。
【0059】
ここで、第一堆積工程S2は、アクチュエータ基板の表面にマスクを設置し、このマスクの斜め上方から第一の導体、例えば金属材料を蒸着法により堆積することができる。蒸着後にマスクを除去することにより、隔壁の側面に駆動電極を形成することができる。また、第二堆積工程S3は、アクチュエータ基板の端面近傍の側面に対して斜め上方から第二の導体、例えば金属材料を蒸着法により堆積して、当該端部近傍に内部電極を形成することができる。また、製造工程の順序を、溝形成工程S1、第一堆積工程S2、カバープレート接合工程S4、第二堆積工程S3、ノズルプレート接合工程S5の順で行うことができる。これにより、第二堆積工程S3においてアクチュエータ基板とカバープレートの両端面に端面電極を、ノズル近傍のチャンネル内面により広く内部電極を形成することができる。
【0060】
液体噴射ヘッドをこのように製造することにより、ノズル近傍に第二の導体から成る内部電極を容易に形成することができる。ノズル近傍に内部電極を形成することにより、ノズルから吐出される液滴の電圧や極性を調節することができ、被記録媒体に液滴を吐出したときにクーロンの斥力により反発して記録品質が低下することを有効に防止することが可能となる。以下、本発明の液体噴射ヘッドの製造方法について図面を用いて詳細に説明する。
【0061】
(第七実施形態)
図10〜図12は、本発明に第七実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための説明図である。図10(a)は、基板準備工程を表す。圧電体から成るアクチュエータ基板7を準備する。基板面の垂直方向に分極処理が施されたPZTセラミックス材料を使用している。アクチュエータ基板7の表面に感光性樹脂21を塗布し、パターンを形成する。感光性樹脂21のパターンは、例えば隔壁11が形成される中央部では感光性樹脂21を残し、端子電極が形成される端部近傍の表面では、端子電極の電極形状に感光性樹脂21を除去する。
【0062】
図10(b)、(c)は、溝形成工程S1を表す。ダイシングブレード22を用いてアクチュエータ基板7の表面を切削して複数の溝12を並列に形成する。隣接する溝12は隔壁11により離隔される。配列する複数の溝12の外側に、溝12の深さの1/2より浅い電極溝14を形成する。図10(b)に示すように、各溝12はアクチュエータ基板7の左右の端部の手前まで切削する。
【0063】
図10(d)は、第一堆積工程S2を表す。アクチュエータ基板7の表面を下方に向け、細長い遮蔽板19を、複数の溝12の長手方向に直交させて複数の溝12の中央部を覆い、電極溝14を露出させてアクチュエータ基板7の表面に設置する。一点鎖線CCが後にアクチュエータ基板7を切断分割する分割ラインである。この表面の法線方向nに対して+θ傾いた方向と、−θ傾いた方向であり、溝12の長手方向に直交する方向から金属等の第一の導体を蒸着法により堆積する。これにより、溝12の底面から略1/2の高さより上方の側面には第一の導体が堆積し、略1/2の高さより下方の側面には蒸発した金属当が手前の隔壁11により遮蔽されて第一の導体が堆積しない。
【0064】
遮蔽板19は蒸着された金属を遮蔽するので、複数の溝12の長手方向の中央領域には第一の導体が堆積されない。また、電極溝14は遮蔽板19により遮蔽されないので、側面や底面に第一の導体が堆積する。従って、遮蔽板19は蒸着物が基板表面や隔壁11の側面に堆積することを阻止するマスクとして機能する。また、アクチュエータ基板7の表面に塗布した感光性樹脂21は後に除去されるので、感光性樹脂21が残っている領域は第一の導体が除去され、感光性樹脂21が除去されている領域は基板表面に第一の導体が残るので、感光性樹脂21もマスクとして機能する。
【0065】
図10(e)は、遮蔽板19及び感光性樹脂21をアクチュエータ基板7の表面から除去し、一点鎖線CCの部分から切断分割した一方のアクチュエータ基板7の斜視図である。切断面を研磨しアクチュエータ基板7の端面FEとする。各隔壁11の側面には駆動電極10が形成され、アクチュエータ基板7の後方端近傍の表面には駆動電極10に電気的に接続する端子電極20が形成される。電極溝14の側面及び底面には引出電極15が形成されている。駆動電極10は、端面FEの手前の側面まで形成されている。引出電極15の端面は端面FEに露出している。
【0066】
図11(f)は、第二堆積工程S3を表す。アクチュエータ基板7の端面FEを下方に向け、端面FEの法線方向nに対し端面FEの長手方向に+φ傾いた方向と、−φ傾いた方向から金属等の第二の導体を蒸着法により堆積する。図11(g)はアクチュエータ基板7の端面FEを拡大した模式的な斜視図である。アクチュエータ基板7の端面FEには第二の導体が堆積して端面電極13aを構成する。隔壁11の端面FE側の側面にも第二の導体が堆積して内部電極5aを構成する。駆動電極10と内部電極5aは電気的に分離する。電極溝14はその側面及び底面に引出電極15a、15bを有し、端面電極13aと電気的に接続し、更に内部電極5aと電気的に接続する。
【0067】
図12(h)は、カバープレート接合工程S4を表す。液体供給孔17が形成されたカバープレート8をアクチュエータ基板7の表面に複数の溝12の一部及び電極溝14を覆うように接合する。接合は接着材を用いた。図12(i)は、ノズルプレート接合工程S5を表す。アクチュエータ基板7及びカバープレート8の端面FEにノズルプレート9を接合する。ノズルプレート9は複数のノズル4を備え、各ノズルが端面FEに開口する各溝12に連通する。図12(j)は、アクチュエータ基板7の後方端の表面にフレキシブル基板23を接続した状態を表す模式的な斜視図である。フレキシブル基板23は、駆動電極10や内部電極5と図示しない駆動部及び電圧設定部6とを電気的に接続する。
【0068】
なお、上記実施形態において、アクチュエータ基板7の2個取りの製造方法ついて説明したが、本発明はこれに限定されず、更に多数個同時に形成することができる。その場合に、偶数個同時に形成するのが好ましい。また、上記実施形態において、駆動電極10や端子電極20のパターニングを感光性樹脂をマスクとするリフトオフ法に行ったが、本発明はこれに限定されず、斜め蒸着法により第一の導体を堆積した後にフォトリソグラフィ及びエッチング工程を通して電極パターンを形成しても良い。また、アクチュエータ基板7の側端面の近傍の表面に電極溝14を形成したが、本発明はこれに限定されず、この電極溝14を形成することに代えてアクチュエータ基板7の表面に引出電極15のみを形成しても良い。
【0069】
また、端面FE近傍の隔壁11の側面に内部電極5aを形成したが、本発明はこれに限定されず、更に各溝12の底面に内部電極を形成することができる。第二堆積工程S3において、アクチュエータ基板7の端面FE近傍を除いてアクチュエータ基板7の表面に遮蔽用のマスクを設置し、±φ傾いた方向から第二の導体を斜め蒸着する際に、斜め蒸着方向を基板の表面側に若干倒すことにより、端面FE近傍の隔壁11の側面と溝12の底面に同時に内部電極を形成することができる。また、上記実施形態においては第二堆積工程S3の後にカバープレート接合工程S4を行ったが、本発明はこの工程順に限定されない。例えば、溝形成工程S1、第一堆積工程S2、カバープレート接合工程S4、第二堆積工程S3の順に行うことができる。この場合、第二堆積工程S3は、アクチュエータ基板7及びカバープレート8の両端面FEと隔壁11の端面FE近傍の側面に、端面電極と内部電極を同時に形成することができる。更に、この端面FEに第二の導体を斜め蒸着する際に、斜め蒸着方向を基板の溝12が形成された表面とは反対側の裏面側に若干倒すことにより、端面FE近傍のカバープレート8のチャンネル2側の内面に内部電極を形成することができる。また、端面FEに第二の導体を斜め蒸着する際に、斜め蒸着方向をカバープレート8側に若干倒すことにより、溝12の底面に内部電極を形成することができる。
【0070】
このように、製造工数を大幅に増加することなく隔壁11の側面や溝12の底面に容易に内部電極を形成することができる。ノズル近傍に内部電極を形成したので、ノズルから吐出される液滴の電圧や極性を調節することができ、被記録媒体に液滴を吐出したときにクーロンの斥力により反発して記録品質が低下することを有効に防止することが可能となる。
【0071】
<液体噴射装置>
(第八実施形態)
図13は、本発明の第八実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。液体噴射装置30は、上記本発明に係る液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構43と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給する液体供給管33、33’と、液体供給管33、33’に液体を供給する液体タンク31、31’を備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は本発明に係る液体噴射ヘッド1から構成される。即ち、基板表面に並列する複数の溝と、隣接する溝を離隔する隔壁を有するアクチュエータ基板と、溝を覆い、アクチュエータ基板の基板表面に接合するカバープレートと、溝に連通するノズルを有し、アクチュエータ基板の端面に接合するノズルプレートと、を備えている。溝とカバープレートとノズルプレートにより囲まれるチャンネルのノズル近傍に内部電極を設置し、電圧設定部によりこの内部電極の電圧や極性を設定することができる。
【0072】
具体的に説明する。液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体34を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体34に液体を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体タンク31、31’に貯留した液体を液体供給管33、33’に押圧して供給するポンプ32、32’と、液体噴射ヘッド1を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構43等を備えている。
【0073】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体34を主走査方向に搬送する。移動機構43は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット38と、キャリッジユニット38を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト39と、この無端ベルト39を図示しないプーリを介して周回させるモータ40を備えている。
【0074】
キャリッジユニット38は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク31、31’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ32、32’、液体供給管33、33’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット38を駆動するモータ40の回転及び被記録媒体34の搬送速度を制御することにより、被記録媒体34上に任意のパターンを記録することできる。
【0075】
この構成により、ノズルから吐出される液滴の電圧や極性を調節することができ、被記録媒体に液滴を吐出したときにクーロンの斥力により反発して記録品質が低下することを有効に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1 液体噴射ヘッド
2 チャンネル
3 圧電素子
4 ノズル
5 内部電極
6 電圧設定部
7 アクチュエータ基板
8 カバープレート
9 ノズルプレート
10 駆動電極
11 隔壁
12 溝
13 端面電極
14 電極溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出用の液体を充填するチャンネルと、
駆動電極を有し、前記液体に圧力を加える圧電素子と、
前記チャンネルに連通し前記液体を吐出するノズルと、
前記ノズルの近傍に設置され、前記液体に接触する内部電極と、
前記内部電極の電圧を設定する電圧設定部と、を備える液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記電圧設定部は、前記内部電極に正電圧と負電圧を切り替えて供給するスイッチを備える請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記電圧設定部は、前記内部電極とアースとの間に電気的に接続される静電気保護素子を備える請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記チャンネルは、アクチュエータ基板の表面に形成され、圧電体からなる隔壁により仕切られた溝と、前記溝の開口を塞ぐように前記表面に接合したカバープレートと、前記アクチュエータ基板及び隔壁の端面に接合した絶縁体からなるノズルプレートとにより囲まれた領域から構成され、
前記ノズルは、前記溝に対応して前記ノズルプレートに設置され、
前記圧電素子は、前記圧電体とこの圧電体に設置した前記駆動電極から構成される請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記内部電極は、前記ノズルプレートの前記アクチュエータ基板の側の内面に設置されている請求項4に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記内部電極は、前記隔壁の前記端面近傍の側面に設置されている請求項4又は5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記カバープレートのノズルプレート側の端面は前記アクチュエータ基板及び隔壁の端面と面一に構成され、
前記内部電極は、前記カバープレートの前記端面近傍の前記チャンネル側の内面に設置されている請求項4〜6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記端面には、前記内部電極と電気的に接続する端面電極が設置されている請求項4〜7のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記表面であり、前記溝の外側に電極溝が形成され、前記電極溝の内面には前記内部電極と電気的に接続する引出電極が設置されている請求項8に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記引出電極は前記端面電極に電気的に接続する請求項9に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記電極溝は、前記溝の深さの1/2を超えない深さを有する請求項9又は10に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記引出電極は前記電極溝の底面及び側面に設置されている請求項11に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。
【請求項14】
圧電体を含むアクチュエータ基板の表面に隔壁により仕切られた複数の溝を形成する溝形成工程と、
前記隔壁の側面に第一の導体を堆積する第一堆積工程と、
前記アクチュエータ基板の端面と前記隔壁の前記端面近傍の側面に第二の導体を堆積する第二堆積工程と、
前記複数の溝の上部開口を塞ぐように前記表面にカバープレートを接合するカバープレート接合工程と、
前記端面にノズルプレートを接合するノズルプレート接合工程と、を備える液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記溝形成工程の前に、前記表面に感光性樹脂を塗布し、次に感光性樹脂のパターンを形成する請求項14に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記第一堆積工程は、前記表面に前記第一の導体の堆積を遮蔽するためのマスクを設置し、前記隔壁の側面と上面に対して斜め方向から前記第一の導体を蒸着法により堆積する請求項14又は15に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記第二堆積工程は、前記端面近傍の前記隔壁の側面に対して斜め方向から前記第二の導体を蒸着法により堆積する請求項14〜16のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記第二堆積工程は、前記カバープレート接合工程の後に前記カバープレートの前記複数の溝の側の内面に対して斜め方向から前記第二の導体を蒸着法により堆積する工程である請求項14〜16のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項19】
前記溝形成工程は、前記アクチュエータ基板の表面に前記溝の深さの1/2を超えない深さの電極形成用の電極溝を形成する工程を含む請求項14〜18のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−125984(P2012−125984A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278488(P2010−278488)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】