説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】ノズルプレートの耐久性の向上した液体噴射ヘッドおよびブレードの劣化を抑えた液体噴射装置を提供すること。
【解決手段】ノズルプレート22の外周に段差部220が設けられ、段差部220にも撥水膜100が形成されているので、段差部220を形成しないで噴射面222に撥水膜100を形成した場合と比較して、ノズルプレート22外周の露出した側面221の面積を狭くできる。したがって、インクが側面221に触れる確率も小さくでき、ノズルプレート22がエッチングされにくく、ノズルプレート22の耐久性の向上した記録ヘッドを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドとして、例えば、ノズルプレートに形成されたノズル開口と連通する圧力室内のインクを加圧して、ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドが知られている。
液体噴射ヘッドを複数使用し、ユニット固定板を用いて、液体噴射ヘッド間の位置を決め、固定する構造が知られている。液体噴射ヘッドのノズルプレートの大きさは、ユニット固定板の開口部より大きく形成され、ノズルプレートは、開口部を取り囲むユニット固定板で支えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ノズルプレートとして、例えば、複数のノズルプレートが形成されたシリコン基材から切り出すシリコンノズルプレートの製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。ノズル開口からのインク滴離れをよくしたり、インク滴の吐出面の汚れを防止したりするために、吐出面には撥水膜が形成されている。
ここで、コスト削減のため、1つのシリコン基材から多くのノズルプレートを取り出すために、ノズルプレートの小型化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−167956号公報
【特許文献2】特開2011−893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ノズルプレートの小型化に伴って、ユニット固定板の開口部より小さなノズルプレートを使用し、例えば、圧力室の一部が形成される流路基板にノズルプレートを接着し、流路基板をユニット固定板で支えて、液体噴射ヘッド間の位置を決め、固定する構造では、ノズルプレートの側面が露出した構造となる。
ノズルプレートの側面が露出していると、液体によってノズルプレートがエッチングされる。また、ノズルプレートを、液体噴射装置に設けられたブレードでワイピングすると、ノズルプレートの角でブレードが傷つきブレードが劣化する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
液体を噴射するノズルが形成されたノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドであって、前記ノズルプレートの外周には、前記液体が噴射される噴射面から前記噴射面と対向する面に向かって前記ノズルプレートの厚さが薄くなる段差部が設けられ、前記噴射面から前記段差部にわたって撥水膜が形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0008】
この適用例によれば、ノズルプレートの外周に段差部が設けられ、段差部にも撥水膜が形成されているので、段差部を形成しないで噴射面に撥水膜を形成した場合と比較して、ノズルプレート外周の露出した側面の面積が狭くなる。したがって、液体が側面に触れる確率も小さくなり、ノズルプレートがエッチングされにくく、ノズルプレートの耐久性の向上した液体噴射ヘッドが得られる。
【0009】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドであって、前記ノズルは、前記噴射面側の第1の内径を有する第1のノズル部と前記対向する面側の第2の内径を有する第2のノズル部とを有し、前記第1の内径は前記第2の内径よりも小さいことを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、噴射面側の第1のノズル部の第1の内径が、噴射面と対向する面側の第2のノズル部の第2の内径より小さいので、ノズル内の液体の液面が噴射面と対向する面に向かって後退しようとすると、液体の表面張力によって液面が縮もうとするので、内径の小さい第1のノズル部に引き戻される。また、噴射面には撥水膜が形成されているので液体の液面は、噴射面に近い位置でメニスカスを形成する。したがって、安定した液体の噴射が可能な液体噴射ヘッドが得られる。
また、段差部の段差と第1のノズル部の深さとは同じ工程でハーフエッチングされるので、第1のノズル部の加工とともに同じ加工方法で段差部の加工が行える。
ここで、段差部の段差と第1のノズル部の深さとが同じとは、製造上のばらつきによるずれが生じても、同じという文言に含むものである。
【0010】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドであって、少なくとも前記ノズルプレートの側面が接着剤で覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、露出したノズルプレートの側面が接着剤で覆われているので、液体によってエッチングされる側面の露出が少なくなり、ノズルプレートの耐久性のより向上した液体噴射ヘッドが得られる。
【0011】
[適用例4]
上記液体噴射ヘッドと、前記ノズルプレートの前記噴射面をふき取る部材とを備えていることを特徴とする液体噴射装置。
【0012】
この適用例によれば、前述の効果を達成できる液体噴射装置が得られる。また、ノズルプレートの側面が、噴射面より離れた位置にあるので、製造過程で側面に発生した欠けによるブレードの劣化を抑えた液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プリンターの構成を示す概略構成図。
【図2】記録ヘッドの構成を示す分解概略斜視図。
【図3】ヘッドユニットの構成を示す分解概略斜視図。
【図4】ヘッドユニットの概略断面図。
【図5】ヘッドユニットとユニット固定板とが接合される部分の拡大概略断面図。
【図6】(a)は、ノズルプレートを噴射面から見た平面図、(b)はノズルプレートの側面図。
【図7】ノズルプレートが切り出されるシリコンウェーハーの平面図。
【図8】(a)は、ノズルプレートが切り出される前の溝付近の概略拡大図、(b)は、ノズルプレートが切り出された後の段差部付近の概略拡大図。
【図9】溝を形成しないで、シリコンウェーハーから各ノズルプレートを切り離した従来例を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
また、以下の説明は、本発明の液体噴射ヘッドとして、インクジェット式プリンター(液体噴射装置の一種で、以下単にプリンター1という)に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッド3という)を例に挙げて行う。
【0015】
まず、プリンター1の概略構成について、図1を参照して説明する。図1は、プリンター1の構成を示す概略構成図である。
図1において、プリンター1は、記録紙等の記録媒体2の表面へ液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。
プリンター1は、インクを噴射する記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送するプラテンローラー6等を備えている。ここで、インクは、インクカートリッジ7に貯留されている。インクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。
なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じて記録ヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
【0016】
キャリッジ移動機構5は、タイミングベルト8を備えている。このタイミングベルト8は、DCモーター等のパルスモーター9により駆動される。パルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。
また、プリンター1は、記録媒体2の表面へインクを噴射して画像等の記録を行う領域外に、記録ヘッド3の後述するノズルプレートのインクの噴射面222をワイピングして清掃する、噴射面をふき取る部材としてのブレード1000を備えている。
【0017】
図2は、記録ヘッド3の構成を示す分解概略斜視図である。実施形態における記録ヘッド3は、ケース15と、複数のヘッドユニット16と、ユニット固定板17と、ヘッドカバー18とにより概略構成されている。
ケース15は、内部にヘッドユニット16や図示しない集束流路を収容する箱体状部材であり、上面側に針ホルダー19が形成されている。この針ホルダー19は、インク導入針20を取り付けるための板状部材であり、実施形態においてはインクカートリッジ7のインクの色に対応させて8本のインク導入針20がこの針ホルダー19に横並びに配設されている。
インク導入針20は、インクカートリッジ7内に挿入される中空針状の部材であり、先端部に開設された図示しない導入孔から図1に示したインクカートリッジ7内に貯留されたインクをケース15内の集束流路を通じてヘッドユニット16側に導入する。
【0018】
また、ケース15の底面側には、4つのヘッドユニット16が、主走査方向に横並びに位置決めされた状態で各ヘッドユニット16に対応した4つの開口部170を有する金属製のユニット固定板17に接合されると共に、同じく各ヘッドユニット16に対応する4つの開口部180が開設された金属製のヘッドカバー18によってケース15に固定される。
【0019】
ヘッドユニット16は、ノズルプレート22、フレキシブルケーブル39等を備えている。
ノズルプレート22は、ユニット固定板17の開口部170より小さい大きさで、ヘッドユニット16は、ノズルプレート22以外の後述する部材とユニット固定板17に接合されている。
フレキシブルケーブル39は、ヘッドユニット16を駆動する駆動電圧を、図1に示したプリンター1から供給するものである。
例えば、フレキシブルケーブル39としてCOF(Chip On Film)基板を用いることができる。
【0020】
図3は、ヘッドユニット16の構成を示す分解概略斜視図であり、図4は、ヘッドユニット16の概略断面図である。また、図5は、ヘッドユニット16とユニット固定板17とが接合される部分の拡大概略断面図である。
なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。
【0021】
図3において、実施形態におけるヘッドユニット16は、ノズルプレート22、流路基板23、共通液室基板24、コンプライアンス基板25等から概略構成され、これらの部材を積層した状態でユニットケース26に取り付けられている。
ここで、ノズルプレート22は、他の基板より積層面が小さく形成されている。
【0022】
ノズルプレート22は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル27を列状に開設した板状の部材である。実施形態では、300dpiに対応するピッチで300個のノズル27を列設することでノズル列が構成されている。実施形態においては、当該ノズルプレート22に2つのノズル列が形成されている。ここで、2つのノズル列は、ノズル27の並んだ方向にノズル27間のピッチの半分だけずれて形成されている。
ノズルプレート22は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板またはステンレス鋼等から形成できる。
【0023】
流路基板23は、その上面(共通液室基板24側の面)に二酸化シリコンからなる極薄い弾性膜30が熱酸化によって形成されている。
図4において、流路基板23には、異方性エッチング処理によって複数の隔壁で区画された圧力室31が各ノズル27に対応して複数形成されている。したがって、圧力室31も列状に形成され、ノズル27の並んだ方向にノズル27間のピッチの半分だけずれている。
流路基板23における圧力室31の列の外側には、共通液室32の一部を区画する連通空部33が形成されている。この連通空部33は、インク供給路34を介して各圧力室31と連通している。
【0024】
図4および図5において、流路基板23のノズルプレート22が接合される側には、外周に凸部230が形成されている。
ノズルプレート22は、凸部230の内側に、ノズルプレート22の側面221によって位置決めされてはめ込まれている。
また、ヘッドユニット16は、ユニット固定板17の開口部170に、凸部230で位置決めされてはめ込まれている。
【0025】
図6(a)に、ノズルプレート22を噴射面222から見た平面図を、図6(b)にノズルプレート22の側面図を示した。
図4、図5および図6において、ノズルプレート22の外周には、インクが噴射される噴射面222から噴射面222と対向する面223に向かってノズルプレート22の厚さが薄くなる段差部220が設けられている。
また、図4および図5において、噴射面222から段差部220にわたって撥水膜100が形成されている。
【0026】
図5において、ノズル27は、噴射面222側の第1の内径rを有する第1のノズル部271と噴射面222と対向する面223側の第2の内径Rを有する第2のノズル部270とを有している。
第1の内径rは第2の内径Rよりも小さく、段差部220の段差Dと第1のノズル部271の深さdとは、同じ工程でハーフエッチングされた深さとなる。
また、段差部220およびノズルプレート22の側面221が接着剤300で覆われている。ここで、接着剤300は、少なくとも側面221を覆っていればよい。
【0027】
外周に段差部220が形成されたノズルプレート22は、例えば、以下に述べる製造方法で製造することができる。
図7に、ノズルプレート22が切り出されるシリコンウェーハー400の平面図を示した。また、図8(a)には、ノズルプレート22が切り出される前の溝410付近の概略拡大図を、図8(b)には、ノズルプレート22が切り出された後の段差部220付近の概略拡大図を示した。
図7において、例えば、ノズルプレート22の製造方法として、複数の直方体で板状のノズルプレート22を、一枚のシリコンウェーハー400から切り出す方法がある。ここで、一枚のシリコンウェーハー400からたくさんのノズルプレート22を切り出せるように、切り出されるノズルプレート22は隙間なく配置される。
例えば、直方体で板状のノズルプレート22の場合、平面視において隣り合う長方形の辺224を共有するように配置する。
【0028】
先ず、図4〜図6に示したノズルプレート22のノズル27を、エッチングによって形成する。エッチングは、噴射面222側からのエッチングで第1のノズル部271を形成し、噴射面222と対向する面223側からのエッチングで第2のノズル部270を形成する。
エッチングは、例えば、ドライエッチングを用いることができる。
【0029】
図8(a)において、第1のノズル部271を形成する際に、噴射面222側から、切り出されるノズルプレート22の共有される各辺224に沿って溝410が形成されるようにエッチングを行う。エッチングの結果、辺224に沿って第1のノズル部271の深さdと同じ深さDの溝410が形成される。ここで、第1のノズル部271を形成するとともに、溝410を形成してもエッチングの位置等で製造上のばらつきとして第1のノズル部271の深さdと溝410の深さDが異なる場合があるが、文言上同じと表現する。
次に、噴射面222から溝410にわたって撥水膜100を形成する。撥水膜100は、例えば、フッ素含有有機化合物から形成することができる。撥水膜100の撥水性は、純水の撥水膜100に対する接触角が40°以上が好ましい。
その後、図8(b)において、溝410を分割するように各ノズルプレート22を、図8(a)に示す分割部420で切り離すことによって、ノズルプレート22の噴射面222側の外周に段差部220が形成される。分割部420は、切り離されたそれぞれのノズルプレート22の側面221になる。
【0030】
図9に、溝410を形成しないで、シリコンウェーハー400から従来例の各ノズルプレート500を切り離した従来例を示した。図9(a)は、ノズルプレート500が切り出される前の概略拡大図を、図9(b)は、ノズルプレート500が切り出された後の概略拡大図である。同じ構成要素、部材等には同符号を付している。
分割の際に欠け225や撥水膜100のはがれ部226が発生する場合があるが、従来例で発生する欠け225やはがれ部226と比較して、図8(b)において、実施形態で発生する欠け225やはがれ部226は、段差部220の噴射面222から遠い位置に発生する。
【0031】
図4において、流路基板23の上面の弾性膜30上には、図示しない共通素子電極と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる図示しない圧電体層と、金属からなる図示しない個別素子電極とを順次積層することで形成された圧電素子35が圧力室31毎に形成されている。
共通素子電極は、例えば、白金(Pt)などの金属やルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)などの金属酸化物からなる。また、個別素子電極は、例えば、Au、Irなどの金属からなる。
【0032】
圧電素子35は、所謂撓みモードの圧電素子であり、圧力室31の上部を覆うように形成されている。実施形態において、2列のノズル列に対応して2列の圧電素子列が、ノズル列方向で見て圧電素子35が互い違いとなる状態でノズル列方向に並設されている。
なお、弾性膜30上に形成される電極が個別素子電極で、圧電体層上に形成される電極が共通素子電極である構成を採用することもできる。
【0033】
実施形態においては、圧力室31の一部を区画する弾性膜30上に各圧電素子35に共通な共通素子電極が、ノズル列方向に沿って同方向に長尺な平面視矩形状に連続的に形成され、その上に圧電体層、個別素子電極が順次積層されて圧電素子35毎にパターニングされている。個別素子電極の長手方向の寸法は、共通素子電極の短尺方向の幅よりも少し長くなっている。
また、個別素子電極の幅方向(短尺方向)の寸法は、圧電素子35の幅と同程度に揃えられている。隣り合うノズル列の間には、各個別素子電極に対応して当該電極に導通する平面視短冊状の個別素子電極端子48(48a、48b)が形成されている。この個別素子電極端子48の長尺方向の寸法は、隣の共通素子電極に接触しない程度の長さに設定されている。また、個別素子電極端子48の幅方向(短尺方向)の寸法は、個別素子電極の幅の寸法に揃えられている。そして、一方(図において左側)のノズル列に対応する個別素子電極端子48aと、他方(図において右側)のノズル列に対応する個別素子電極端子48bとは、ノズル列方向において互い違いに並ぶように一定の間隔で列状に配置されている。これらの個別素子電極端子48は、フレキシブルケーブル39と電気的に接続される部分である。
各圧電素子35は、フレキシブルケーブル39を通じて個別素子電極および共通素子電極間に駆動電圧が印加されることにより変形するように構成されている。
【0034】
図3および図4において、圧電素子35が形成された流路基板23上には、厚さ方向に貫通した貫通空部36を有する共通液室基板24が配置される。
共通液室基板24の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路基板23の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましい。例えば、流路基板23がシリコン単結晶基板の場合と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成することができる。
【0035】
また、この共通液室基板24における貫通空部36は、流路基板23の連通空部33と連通して共通液室32の一部を区画する。また、共通液室基板24には、圧電素子35に対向する領域に当該圧電素子35の駆動を阻害しない程度の大きさの圧電素子収容空部37が形成されている。
さらに、共通液室基板24において、隣り合う圧電素子列の間には、基板厚さ方向を貫通した配線空部38が形成されている。この配線空部38内には、平面視において、圧電素子35の個別素子電極端子48等が配置される。
【0036】
また、共通液室基板24の上面側には、コンプライアンス基板25が配置される。このコンプライアンス基板25における共通液室基板24の貫通空部36に対向する領域には、インク導入針20側からのインクを共通液室32に供給するためのインク導入口40が厚さ方向に貫通して形成されている。
また、このコンプライアンス基板25の貫通空部36に対向する領域のインク導入口40および後述する貫通口25a以外の領域は、極薄く形成された可撓部41となっており、この可撓部41によって貫通空部36の上部開口が封止されることで共通液室32が区画形成される。そして、この可撓部41は、共通液室32内のインクの圧力変動を吸収するコンプライアンス部として機能する。さらに、コンプライアンス基板25の中央部には、貫通口25aが形成されている。この貫通口25aは、ユニットケース26の空部44と連通する。
【0037】
ユニットケース26は、インク導入口40に連通してインク導入針20側から導入されたインクを共通液室32側に供給するためのインク導入路42が形成されると共に、可撓部41に対向する領域にこの可撓部41の膨張を許容する凹部43が形成された部材である。このユニットケース26の中心部には、厚さ方向に貫通した空部44が開設されており、この空部44内にフレキシブルケーブル39の一端側が挿通されている。ユニットケース26の材料としては、例えば、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。
【0038】
フレキシブルケーブル39は、ポリイミド等の矩形状のベースフィルムの一方の面に圧電素子35への駆動電圧の印加を制御するための制御IC52が実装されると共に、この制御IC52に接続される個別電極配線のパターンが形成されている。
また、フレキシブルケーブル39の一端部には、図示しない一端側個別電極配線端子が、圧電素子35の各個別素子電極端子48に対応して複数列設され、他端部には、プリンター1本体側からの信号を中継する基板の基板端子部に接続される他端側個別電極配線端子が複数列設されている。そして、フレキシブルケーブル39は、両端部の配線端子以外の配線パターンや制御IC52の表面がレジストで覆われている。
【0039】
ノズルプレート22、流路基板23、共通液室基板24、コンプライアンス基板25、及び、ユニットケース26は、接着剤や熱溶着フィルム等を間に配置して積層した状態で加熱することで相互に接合される。
【0040】
以上のように構成されたヘッドユニット16を備える記録ヘッド3は、各ノズルプレート22がプラテンローラー6に対向した状態でノズル列方向が副走査方向と一致するようにキャリッジ4に取り付けられる。そして、各ヘッドユニット16は、インクカートリッジ7からのインクを、インク導入路42を通じてインク導入口40から共通液室32側に取り込み、共通液室32からノズル27に至るインク流路(液体流路の一種)をインクで満たす。そして、フレキシブルケーブル39からの駆動電圧を圧電素子35に供給してこの圧電素子35を撓み変形させることによって、対応する圧力室31内のインクに圧力変動を生じさせ、このインクの圧力変動を利用してノズル27からインクを噴射させる。
【0041】
このような実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)ノズルプレート22の外周に段差部220が設けられ、段差部220にも撥水膜100が形成されているので、段差部220を形成しないで噴射面222に撥水膜100を形成した場合と比較して、ノズルプレート22外周の露出した側面221の面積を狭くできる。したがって、インクが側面221に触れる確率も小さくでき、ノズルプレート22がエッチングされにくく、ノズルプレート22の耐久性の向上した記録ヘッド3を得ることができる。
【0042】
(2)噴射面222側の第1のノズル部271の第1の内径rが、噴射面222と対向する面223側の第2のノズル部270の第2の内径Rより小さいので、ノズル27内のインクの液面が噴射面222と対向する面223に向かって後退しようとすると、インクの表面張力によって液面が縮もうとするので、内径の小さい第1のノズル部271に引き戻される。また、噴射面222には撥水膜100が形成されているのでインクの液面は、噴射面222に近い位置でメニスカスを形成する。したがって、安定したインクの吐出が可能な記録ヘッド3を得ることができる。
また、段差部220の段差Dと第1のノズル部271の深さdとが同じであるので、第1のノズル部271の加工とともに同じ加工方法で段差部220の加工を行うことができる。
【0043】
(3)露出したノズルプレート22の側面221が接着剤300で覆われているので、インクによってエッチングされる側面221の露出が少なくなり、ノズルプレート22の耐久性のより向上した記録ヘッド3を得ることができる。
【0044】
(4)前述の効果を達成できるプリンター1を得ることができる。また、ノズルプレート22の側面221が、噴射面222より離れた位置にあるので、製造過程で側面221に発生した欠けによるブレード1000の劣化を抑えたプリンター1を得ることができる。
【0045】
以上、実施形態を説明したが、上述したものに限定されるものではない。
例えば、実施形態では、段差部220の段差Dと第1のノズル部271の深さdとが同じものを例として挙げたが、形成方法が異なっていて、段差Dと第1のノズル部271の深さが異なっていてもよい。
また、実施形態では、ノズルが内径の異なる第1のノズル部271と第2のノズル部270とで構成されていたが、一つの内径を有するノズルから構成されていてもよい。
さらに、実施形態では、噴射面222をふき取る部材としてのブレード1000を示したが、回転しながら噴射面をふき取るロール状の部材であってもよい。
【0046】
なお、上記実施の形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてプリンターを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1…プリンター、2…記録媒体、3…記録ヘッド、4…キャリッジ、5…キャリッジ移動機構、6…プラテンローラー、7…インクカートリッジ、8…タイミングベルト、9…パルスモーター、10…ガイドロッド、15…ケース、16…ヘッドユニット、17…ユニット固定板、18…ヘッドカバー、19…針ホルダー、20…インク導入針、22…ノズルプレート、23…流路基板、24…共通液室基板、25…コンプライアンス基板、25a…貫通口、26…ユニットケース、27…ノズル、30…弾性膜、31…圧力室、32…共通液室、33…連通空部、34…インク供給路、35…圧電素子、36…貫通空部、37…圧電素子収容空部、38…配線空部、39…フレキシブルケーブル、40…インク導入口、41…可撓部、42…インク導入路、43…凹部、44…空部、48…個別素子電極端子、48a…個別素子電極端子、48b…個別素子電極端子、52…制御IC、100…撥水膜、170,180…開口部、220…段差部、221…側面、222…噴射面、223…対向する面、224…辺、226…はがれ部、230…凸部、270…第2のノズル部、271…第1のノズル部、300…接着剤、400…シリコンウェーハー、410…溝、420…分割部、500…ノズルプレート、1000…ブレード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルが形成されたノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドであって、
前記ノズルプレートの外周には、前記液体が噴射される噴射面から前記噴射面と対向する面に向かって前記ノズルプレートの厚さが薄くなる段差部が設けられ、
前記噴射面から前記段差部にわたって撥水膜が形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記ノズルは、前記噴射面側の第1の内径を有する第1のノズル部と前記対向する面側の第2の内径を有する第2のノズル部とを有し、
前記第1の内径は前記第2の内径よりも小さい
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
少なくとも前記ノズルプレートの側面が接着剤で覆われている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記ノズルプレートの前記噴射面をふき取る部材とを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−111767(P2013−111767A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257167(P2011−257167)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】