説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】初期撓みを抑制しつつ圧電素子の駆動による振動板の変位量を向上させることが困難であった。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された基板と、第1電極、一方側において第1電極と接する圧電体層および圧電体層の他方側に形成された第2電極を有し、前記圧力発生室に対応して形成され圧電素子と、を備える液体噴射ヘッドであって、前記圧電素子間に形成された中間セグメントと、引張応力を有する所定の素材で形成され、前記圧電素子と中間セグメントとの間を接続する接続膜とを備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層および上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドが知られている。このような液体噴射ヘッドにおいて、水分等の外部環境に起因する圧電体層の破壊を防止しつつ、圧電素子および振動板の圧力室内側への撓み(圧電素子を駆動しない状態における撓み。初期撓みとも言う。)を低減するために、圧電素子を絶縁膜にて覆う構成が知られている(特許文献1参照)。
また、保護膜(絶縁膜)が上電極の全面を覆う場合に問題となる変位量の低下を解消するために、上電極上に保護膜を一部除去した開口部を形成する構成が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010‐42683号公報
【特許文献2】特開2007‐144998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような初期撓みがある状態では、圧電素子に電圧を印加して圧電素子を駆動させても、振動板の変位量を多く確保することはできない(圧電素子に電圧を印加する前後における振動板の位置の差が小さい)。このような初期撓みを抑制するためには、上記文献2のように上電極上の保護膜を除去するのではなく、上記文献1のように上電極を含む圧電素子を保護膜にて覆う必要があった。しかし一方で、上電極を保護膜で覆うと、保護膜自体が圧電素子および振動板の変位に対する妨げとなってしまう。すなわち、初期撓みを抑制しつつ圧電素子の駆動による振動板の変位量を向上させることが困難であった。
【0005】
本発明は少なくとも上記課題を解決するためになされたものであり、初期撓みを抑制しつつ圧電素子の駆動による振動板の変位量を向上させることが可能な液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様の一つは、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された基板と、第1電極、一方側において第1電極と接する圧電体層および圧電体層の他方側に形成された第2電極を有し、前記圧力発生室に対応して形成され圧電素子と、を備える液体噴射ヘッドであって、前記圧電素子間に形成された中間セグメントと、引張応力を有する所定の素材で形成され、前記圧電素子と中間セグメントとの間を接続する接続膜と、を備える構成としてある。
【0007】
当該構成によれば、圧電素子と中間セグメントとを接続する接続膜によって圧電素子が引張られることにより初期撓みが抑制される。また、従来のような圧電素子を覆う保護膜の存在によって圧電素子の駆動による変位が妨げられる、という問題も解消される。
【0008】
本発明の態様の一つは、前記接続膜は、有機材料を含む構成としてもよい。
例えば、ポリイミド等の有機材料は、引張応力を生じさせ、かつヤング率が比較的小さいため、このような有機材料を用いて接続膜を形成すれば、初期撓みの抑制と変位量の向上とを実現することができる。
【0009】
本発明の態様の一つは、前記接続膜は、異なる素材による複数の層で形成されるとしてもよい。より具体的には、例えば、前記接続膜は、所定の水分バリア性を有する素材による層と、前記引張応力を有する所定の素材による層とを含む構成としてもよい。
当該構成によれば、水分等の外部環境に起因する圧電体層の破壊の防止と、初期撓みの抑制とを的確に実現することができる。
【0010】
本発明の態様の一つは、前記接続膜は、圧電素子を構成する圧電体層の側面を覆う構成としてもよい。
当該構成によれば、圧電体層の側面からの水分の浸入等を防ぎ、圧電体層の破壊を的確に防止することができる。
【0011】
本発明の態様の一つは、前記基板は圧力発生室間を隔てる隔壁を有し、前記中間セグメントは当該隔壁に対応する位置に形成される構成としてもよい。
当該構成によれば、圧力発生室に対応する圧電素子の駆動による変位を中間セグメントが妨げることを的確に防止できる。
【0012】
本発明の態様の一つは、前記中間セグメントは、圧電体層と同じ素材で形成された第1層と第2電極と同じ素材で形成された第2層とを有して形成されるとしてもよい。
当該構成によれば、液体噴射ヘッドの製造過程において、圧電素子を構成する圧電体層および中間セグメントを構成する第1層、圧電素子を構成する第2電極および中間セグメントを構成する第2層、はそれぞれ共通のプロセス(パターニング)の中で形成されるため、上記製造が効率化される。
【0013】
本発明にかかる技術的思想は液体噴射ヘッドという形態のみで実現されるものではなく、例えば、上述したいずれかの態様の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置も、一つの発明として把握することができる。また、上述したようないずれかの態様の液体噴射ヘッドの製造過程を含む製造方法の発明も把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】記録ヘッドの概略を示す分解斜視図である。
【図2】記録ヘッドの長手方向に平行な面による断面図である。
【図3】記録ヘッドの幅方向に平行な面による一部断面図である。
【図4】変形例にかかる、記録ヘッドの幅方向に平行な面による一部断面図である。
【図5】インクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド1(以下、記録ヘッド1)の概略を、分解斜視図により示している。
図2は、記録ヘッド1における圧力発生室12の長手方向に平行な面であって一つの圧電素子3を通過する面による断面図を示している。
記録ヘッド1は、基板(流路形成基板)10を備える。基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方側の面には、振動板16が形成されている。振動板16は、例えば、基板10に接する酸化膜からなる弾性膜50と、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなり弾性膜50に積層される絶縁体膜55とを含む。基板10には、隔壁11によって区画されて一方側の面が振動板16で閉じられた複数の圧力発生室12が、その短手方向(幅方向)に並設されている。
【0016】
基板10には、圧力発生室12の長手方向の一端側に、隔壁11によって区画されて各圧力発生室12に連通するインク供給路14が設けられている。インク供給路14の外側には、各インク供給路14と連通する連通部13が設けられている。連通部13は、後述する保護基板54のリザーバ部51と連通して、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ9の一部を構成する。
【0017】
インク供給路14は、上記幅方向における断面積が圧力発生室12よりも狭くなるように形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、インク供給路14の断面積は、上記幅方向において絞るのではなく、基板10の厚さ方向において絞ることで、圧力発生室12の断面積よりも狭くなるようにしてもよい。基板10の材料としては、シリコン単結晶基板に限定されず、例えば、ガラスセラミックス、ステンレス鋼等を用いても良い。
【0018】
基板10の、振動板16が形成される面とは逆側の面には、ノズルプレート70が接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。ノズルプレート70においては、各圧力発生室12に対応して、上記長手方向の他端側近傍に連通するノズル開口71が穿設されている。ノズルプレート70は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0019】
振動板16の、基板10とは逆側の面には、第1電極としての下電極膜20と、圧電体層30と、第2電極としての上電極膜40とを有する圧電素子3が複数上記幅方向に並んで形成されている。ここで、圧電素子3は、下電極膜20、圧電体層30及び上電極膜40が重なった範囲を含む。また、圧電素子3と当該圧電素子3の駆動により変位が生じる振動板16とを合わせてアクチュエータ装置と称する。圧電素子3は、圧電体層30を挟むいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を個別電極として構成される。本実施形態では、下電極膜20を各圧電素子3にとっての共通電極とし、上電極膜40を圧電素子3毎の個別電極としている。ただし、下電極膜20を圧電素子3毎の個別電極とし上電極膜40を各圧電素子3にとっての共通電極としてもよい。
【0020】
また本実施形態においては、振動板16の、基板10とは逆側の面には、圧電素子3間に中間セグメント2が形成されている。すなわち圧電素子3と中間セグメント2は、上記幅方向において交互に形成されている。さらに、振動板16の圧電素子3が形成される側には、コンプライアンス基板60が固着された保護基板54が固着されている。本実施形態では、記録ヘッド1のコンプライアンス基板60側を上側、ノズルプレート70側を下側として適宜説明を行なう。
【0021】
次に、本実施形態にかかる圧電素子3間の構造について詳しく説明する。
図3は、記録ヘッド1の上記幅方向に平行な面であって複数の圧電素子3および中間セグメント2を通過する面による一部断面図を示している。図3に示すように、弾性膜50の下方には、隔壁11が一定間隔で上記幅方向に並んでおり、隔壁11に挟まれた空間が一つの圧力発生室12に該当する。各圧電素子3を構成する圧電体層30は、各圧力発生室12に対向する領域毎に、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で下電極膜20上に設けられている。また、各圧電素子3を構成する圧電体層30上には圧電素子3毎の個別電極として上電極膜40が形成されている。図2に示すように上電極膜40には、上記長手方向の一端側において、例えば、金(Au)等からなる図1および図2に示すリード電極45が接続されている。このリード電極45を介して各圧電素子3に選択的に電圧が印加されるようになっている。
【0022】
ここで、本実施形態の主たる特徴としては、図3からも明らかなように、圧力発生室12にそれぞれ対応して設けられた圧電素子3と圧電素子3との間に、中間セグメント2が形成されること、および、隣接する圧電素子3と中間セグメント2との間に両者を接続する接続膜80が形成されることが挙げられる。なお図1では、接続膜80の図示を省略している。また、図1に示した各圧電素子3および各中間セグメント2は、それらの側面が振動板16の面に対して垂直に立設しているが、図3に例示したように垂直ではなく所定の斜めの角度を持って立設していてもよい。また上記では、弾性膜50と絶縁体膜55とを合せて振動板16と呼んだが、振動板16の概念に下電極膜20を含めてもよい。
【0023】
本実施形態では、中間セグメント2は、圧電素子3と同じ素材によって形成されている。具体的には、中間セグメント2は、圧電体層30と同じ素材で形成された圧電体層31(第1層)と、圧電体層31上において上電極膜40と同じ素材で形成された上電極膜41(第2層)とを有する。ただし中間セグメント2は、その組成が圧電素子3と同じであることは必須ではない。本実施形態ではあくまで記録ヘッド1の製造工程の容易化のために、圧電素子3と中間セグメント2とを同じ素材で形成するようにしている。また、中間セグメント2の上電極膜41にはリード電極45は接続されない。そのため、中間セグメント2は圧電素子3とは異なり駆動不能である。従って、中間セグメント2はダミーの圧電素子であるとも言える。また本実施形態では、中間セグメント2は、各隔壁11に対向する領域毎に、隔壁11の幅よりも狭い幅で設けられている。
【0024】
接続膜80は、引張応力を有する所定の素材で形成されており、例えば、ポリイミド等の有機材料により形成されている。一般に、有機材料は引張応力を生じさせ、かつヤング率が比較的小さい素材である。接続膜80は、上記幅方向における圧電素子3と中間セグメント2との隙間を埋めるように設けられる。
上述したような接続膜80は、両側の圧電素子3および中間セグメント2から引張荷重を受けたときに、図3内に矢印で示す方向の引張応力を生じさせる。かかる引張応力により、圧電素子3および振動板16の圧力発生室12側への初期撓みが強制的に抑制される。
【0025】
また、図1〜3から明らかなように、本実施形態では各圧電素子3の上面(上電極膜40の上面)を保護膜等で完全に覆うことはしない。言い換えると、上電極膜40の上面を保護膜等で覆わなくても、上記接続膜80を設けることで上記初期撓みの解消を実現できている。また、上電極膜40の上面を保護膜等で覆わないため、上電極を保護膜で覆っていた従来のように圧電素子および振動板の変位を阻害してしまうということもない。
このように本実施形態によれば、上記初期撓みが解消され、かつ、圧電素子3および振動板16の変位を阻害する要因も無いため、従来よりも変位量が高い(変位特性に優れた)液体噴射ヘッドが実現される。
【0026】
さらに本実施形態では、中間セグメント2の存在により、圧電素子3間における力の伝播を適切に断っている。仮に、中間セグメント2が存在せず、隣り合う圧電素子3の間を接続膜80で接続した場合、一方の圧電素子3の駆動により生じた力が接続膜80を介して他方の圧電素子3に幾らか伝播してしまい、当該他方の圧電素子3における独立した駆動が妨げられかねない。本実施形態では、中間セグメント2が、両側の接続膜80同士の接触を断つため、圧電素子3間における不要な力の伝播を防止できる。その結果、圧電素子3毎(圧力発生室12毎)に独立した適切な液体噴射制御が実現される。
【0027】
さらに本発実施形態では、上述したように、中間セグメント2を振動板16上における隔壁11に対応する範囲内に形成している。中間セグメント2をかかる範囲内に形成することで、圧力発生室12に対応する位置で変位する圧電素子3や振動板16の動きを中間セグメント2が妨げてしまうことを極力回避することができる。
【0028】
また、図3から判るように、本実施形態では、接続膜80は圧電素子3を構成する圧電体層30の側面を覆うように形成されている。圧電体層30の側面を接続膜80で覆うことにより、圧電体層30への水分の浸入等による圧電体層30の破壊を防止している。なお、接続膜80は、圧電体層30の側面を覆うとともに上電極膜40の上面まで延伸し、上電極膜40の一部まで覆うとしてもよい。ただしこの場合でも、圧電素子3および振動板16の変位を阻害しないために、上電極膜40の上面の所定範囲(基本的には、当該上面の中央部)については覆わないようにする。
【0029】
図1および図2に戻って説明を続ける。
圧電素子3が形成された振動板16上には、圧電素子3に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電素子保持部52を有する保護基板54が接着剤35を介して接合されている。圧電素子3は、この圧電素子保持部52内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。また、保護基板54には、基板10の連通部13に対応する領域にリザーバ部51が設けられている。リザーバ部51は、本実施形態では、保護基板54を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に沿って設けられており、上述したように基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ9を構成している。
【0030】
更に、保護基板54の圧電素子保持部52とリザーバ部51との間の領域には、保護基板54を厚さ方向に貫通する貫通孔53が設けられ、リード電極45の端部がこの貫通孔53内に露出されている。そして、図示しないが、上電極膜40及びリード電極45は、貫通孔53内に延設される配線によって、圧電素子3を駆動するための駆動IC等を実装した駆動回路65(図1)に接続される。なお、保護基板54の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0031】
保護基板54上には、更に、封止膜61及び固定板62とからなるコンプライアンス基板60が接合されている。封止膜61は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜61によってリザーバ部51の一方面が封止されている。固定板62は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板62のリザーバ9に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部63となっているため、リザーバ9の一方面は可撓性を有する封止膜61のみで封止されている。
【0032】
このような記録ヘッド1では、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ9からノズル開口71に至るまで内部をインクで満たした後、上記駆動ICからの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの圧電素子3に電圧を印加し、圧電素子3をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口71からインク滴が吐出する。
【0033】
次に、記録ヘッド1の製造方法の一例を説明する。
例えば、シリコン単結晶基板である基板10上に、二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜50および酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成(特開2005‐8841号公報等参照)する。そして、例えば、スパッタ法等により白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより、電極膜(下電極膜20)を成膜後、当該電極膜を所定形状にパターニングする。
【0034】
次に、例えば、圧電体層(圧電体層30,31を含む層)を、絶縁体膜55および下電極膜20の全面にいわゆるゾル−ゲル法等を用いて形成した後、例えば、イリジウムからなる上電極膜(上電極膜40,41を含む層)を圧電体層の全面にスパッタ法等により形成する。本実施形態では、上電極膜を形成した後に、圧電体層及び上電極膜を各圧力発生室12に対向する領域および各隔壁11に対応する領域にパターニングすることにより、圧電素子3および中間セグメント2を形成している。次に、これまで形成された層上に、接続膜80の材料(ポリイミド等の樹脂材料)を例えばスピンコート法等により成膜し、次いで、圧電素子3と中間セグメント2の間に残るようにパターニングし、接続膜80を形成する。なお、接続膜80の材料として感光性を有する素材を用いれば、露光によるパターニングを実行することでパターニングを効率良く実施できる。
【0035】
その後は、圧電素子3の個別電極毎に対応するリード電極45の形成、圧電素子3側への保護基板54の接合、基板10のエッチングによる圧力発生室12等の形成、基板10へのノズルプレート70の接合、保護基板54上へのコンプライアンス基板60の接合といった各工程を経て、記録ヘッド1となる。なお、上述した圧電体層の成膜方法も特に限定されず、例えばスパッタ法で形成してもよい。また、圧電体層(圧電体層30,31)の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料や非鉛系のペロブスカイト型酸化物等、種々の材料を採用可能である。ただし、非鉛系の材料を用いて生成された圧電体層においては、圧力発生室12側への撓み(初期撓み)がかなり大きく発生するという特徴がある。そのため、初期撓みを抑制可能な本実施形態は、圧電体層30を非鉛系の材料を用いて生成する場合に、特に効果的であると言える。
【0036】
他の実施形態:
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば以下に述べるような実施形態も可能である。各実施形態を適宜組み合わせた内容も、本発明の開示範囲である。
以下では、上述の実施形態と異なる点について説明し、上述の実施形態と共通する構成や作用は説明を省略する。
【0037】
図4は、図3と同様に、記録ヘッド1の上記幅方向に平行な面による一部断面図である。ここで、接続膜80は、異なる素材による複数の層で形成されてもよい。接続膜80を形成する層数は特に限られないが、図4に示す例では、接続膜80は、圧電素子3と中間セグメント2との間であって下電極膜20上に形成された層80aと、層80a上に形成された層80bとからなる。例えば、層80aは、比較的高い水分バリア性を有する素材(例えば、酸化アルミニウム)によって形成され、層80bは、引張応力を有する所定の素材(例えば、ポリイミド)によって形成される。このように接続膜80を異なる特徴を持った複数の層で構成することにより、複数の目的(水分等の外部環境に起因する圧電体層30の破壊の防止や、初期撓みの抑制)をそれぞれ確実に実現することができる。
【0038】
上述した記録ヘッド1は、インクカートリッジ等と連通するインク流路を備える記録ヘッドユニットの一部を構成して、液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置に搭載される。図5は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図5に示すように、記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A,1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A,2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A,1Bを搭載したキャリッジ15は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A,1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車及びタイミングベルト7を介してキャリッジ15に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A,1Bを搭載したキャリッジ15はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には、キャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどによって給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0039】
なお、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドは、上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0040】
1A,1B…記録ヘッドユニット、2A,2B…カートリッジ、2…中間セグメント、3…圧電素子、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モータ、7…タイミングベルト、8…プラテン、9…リザーバ、10…基板、11…隔壁、12…圧力発生室、13…連通部、14…インク供給路、15…キャリッジ、16…振動板、20…下電極膜、30,31…圧電体層、35…接着剤、40,41…上電極膜、45…リード電極、50…弾性膜、51…リザーバ部、52…圧電素子保持部、53…貫通孔、54…保護基板、55…絶縁体膜、60…コンプライアンス基板、61…封止膜、62…固定板、63…開口部、70…ノズルプレート、71…ノズル開口、80…接続膜、80a,80b…層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された基板と、
第1電極、一方側において第1電極と接する圧電体層および圧電体層の他方側に形成された第2電極を有し、前記圧力発生室に対応して形成され圧電素子と、を備える液体噴射ヘッドであって、
前記圧電素子間に形成された中間セグメントと、
引張応力を有する所定の素材で形成され、前記圧電素子と中間セグメントとの間を接続する接続膜と、
を備えることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記接続膜は、有機材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記接続膜は、異なる素材による複数の層で形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記接続膜は、所定の水分バリア性を有する素材による層と、前記引張応力を有する所定の素材による層とを含むことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記接続膜は、圧電素子を構成する圧電体層の側面を覆うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記基板は圧力発生室間を隔てる隔壁を有し、前記中間セグメントは当該隔壁に対応する位置に形成されることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記中間セグメントは、圧電体層と同じ素材で形成された第1層と第2電極と同じ素材で形成された第2層とを有して形成されることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−111966(P2013−111966A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263441(P2011−263441)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】