説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】異物欠陥を抑制することのできる液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】流路形成基板用ウェハ110と当該流路形成基板用ウェハ110よりも大きいリザーバ形成基板用ウェハ130とを接着剤35を介して接合する基板接合工程と、基板接合工程の後、流路形成基板用ウェハ110の外縁に沿ってはみ出している接着剤35aを2流体洗浄により除去する接着剤除去工程と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバと、各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズルと連通した圧力発生室内のインクに吐出エネルギーを印加してノズル開口からインクを吐出させる構成となっている。
【0003】
下記特許文献1には、インクジェット式記録ヘッドの製造方法が開示されている。この製造方法においては、流路形成基板の一方の面側に圧電素子の材料を複数成膜して圧電素子を形成した後、流路形成基板の一方の面側にリザーバ部を有するリザーバ形成基板を接合し、その後、流路形成基板を他方の面側から異方エッチング(ウェットエッチング)し、圧力発生室及び連通部を含む液体流路を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−261215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、流路形成基板用ウェハ及びリザーバ形成基板用ウェハは大きさが互いに異なっており、接着剤を用いて両者を接合させる場合、接着剤が接合部位からはみ出すことがある。この接着剤は、例えば、流路形成基板用ウェハに液体流路を形成する際、当該液体流路のためのマスク形成時にプラズマの照射を受け、また、そのマスクを介したウェットエッチング時には強アルカリ液に浸漬され、さらに、その後マスクを除去する時には強酸液に浸漬され、劣化・膨潤する。
劣化・膨潤した状態のまま別のウェットエッチング工程に移行すると、この接着剤がエッチング液中に脱落・飛散または拡散し、液体流路やその他のパターン面に残渣(所謂パーティクル)として付着し、異物欠陥を発生させる場合がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、異物欠陥を抑制することのできる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1の基板と上記第1の基板よりも大きい第2の基板とを接着剤を介して接合する基板接合工程と、上記基板接合工程の後、上記第1の基板の外縁に沿ってはみ出している上記接着剤を2流体洗浄により除去する接着剤除去工程と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、大きさが互いに異なる基板同士を、接着剤を介して接合した場合、大きさの小さい方の第1の基板の外縁に沿って接着剤がはみ出るため、このはみ出た接着剤を2流体洗浄によって除去する。2流体洗浄では、キャリアガスに所定の洗浄液を供給することにより、洗浄液を粒化及び加速させて接着剤に衝突させ、接着剤を、強い力で物理的に基板から引き剥がすようにして除去することができる。
【0008】
また、本発明においては、上記接着剤除去工程では、上記第1の基板側において、上記第1の基板の外縁に向けて配置されたノズルから2流体を噴射して上記2流体洗浄を行うという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、大きさの小さい第1の基板側に配置した2流体ノズルを用いて2流体を、はみ出した接着剤に向けて直接噴射することができる。
【0009】
また、本発明においては、上記2流体洗浄では、2流体として純水と窒素ガスとを用いるという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、キャリアガスとして不活性な窒素ガスを用い、純水を粒化及び加速させて接着剤を除去することができるため、基板や他にパターニングされた配線等にダメージを与えないようにすることができる。
【0010】
また、本発明においては、上記基板接合工程の後、上記接着剤除去工程の前に、上記第1の基板側にプラズマを照射するプラズマ処理工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、プラズマの照射により劣化し密度が小さくスポンジ状となって物理的に弱まった接着剤を2流体洗浄で効率良く除去することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記基板接合工程の後、上記接着剤除去工程の前に、上記第1の基板側をウェットエッチングするウェットエッチング工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、ウェットエッチングにより劣化・膨潤することにより物理的に弱まった接着剤を2流体洗浄で効率良く除去することができる。
【0012】
また、本発明においては、上記接着剤除去工程の後、上記第1の基板側をウェットエッチングする第2のウェットエッチング工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、前工程においてはみ出ている接着剤が除去されているため、その後のウェットエッチングにおいて異物欠陥を生じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの基板接合工程において流路形成基板用ウェハとリザーバ形成基板用ウェハとを接合して成る基板構造体を示す平面図及び断面図である。
【図6】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの接着剤除去工程に用いる洗浄装置を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの接着剤除去工程を説明するための図である。
【図10】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法の実施形態について、図を参照して説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録ヘッドを例示する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態における製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
図示するように、インクジェット式記録ヘッドは、流路形成基板10を有する。流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0016】
流路形成基板10には、弾性膜50が形成される一方の面側と逆側の他方の面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向に並設されている。流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、圧力発生室12と共に液体流路を構成するインク供給路14と連通路15とが、隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。
【0017】
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し、且つ、圧力発生室12より小さい断面積を有する。本実施形態のインク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、本実施形態のように、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成してもよいが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。
【0018】
連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12の幅方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の幅方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが、複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0019】
流路形成基板10の圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13を有する液体流路に臨む内壁表面には、耐インク性を有する材料、例えば、五酸化タンタル(Ta)等の酸化タンタルからなる保護膜16が設けられている。なお、ここで言う耐インク性とは、アルカリ性のインクに対する耐エッチング性のことである。また、本実施形態では、流路形成基板10の圧力発生室12等が開口する側の表面、すなわち、ノズルプレート20が接合される接合面にも保護膜16が設けられている。勿論、このような領域には、インクが実質的に接触しないため、保護膜16は設けられていなくてもよい。
【0020】
なお、保護膜16の材料は、酸化タンタルに限定されず、使用するインクのpH値によっては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等を用いてもよい。
流路形成基板10の他方の面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
流路形成基板10の一方の面側には、上述したように二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)等からなる絶縁体膜51が積層形成されている。また、絶縁体膜51上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。
【0022】
ここで、圧電素子300とは、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を、各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0023】
また、各圧電素子300の上電極膜80には、密着層91及び金属層92からなる配線層190で構成されるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。また、詳しくは後述するが、連通部13の開口周縁部に対応する領域の振動板、すなわち、弾性膜50及び絶縁体膜51上にも、リード電極90とは不連続の配線層190が存在している。
【0024】
流路形成基板10の一方の面側には、リザーバ100の一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接合されている。本実施形態では、このリザーバ形成基板30と流路形成基板10とは、接着剤35によって接合されている。リザーバ形成基板30のリザーバ部31は、弾性膜50及び絶縁体膜51に設けられた貫通部52を介して連通部13と連通され、これらリザーバ部31及び連通部13によってリザーバ100が形成されている。
【0025】
リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子300は、圧電素子保持部32内に形成されており、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。なお、圧電素子保持部32は、密封されていてもよいし密封されていなくてもよい。このようなリザーバ形成基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料であるシリコン単結晶基板を用いている。
【0026】
リザーバ形成基板30上には、所定パターンで形成された接続配線200が設けられ、この接続配線200上には圧電素子300を駆動するための駆動回路210が実装されている。駆動回路210としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、各圧電素子300から圧電素子保持部32の外側まで引き出された各リード電極90の先端部と、駆動回路210とが駆動配線220を介して電気的に接続されている。
【0027】
リザーバ形成基板30上には、リザーバ部31に対向する領域に、例えば、PPSフィルム等の可撓性を有する材料からなる封止膜41及び、金属材料等の硬質材料からなる固定板42とで構成されるコンプライアンス基板40が接合されている。固定板42のリザーバ部31に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ部31の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0028】
上記構成のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路210からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力を高め、ノズル開口21からインクを吐出させることが可能となっている。
【0029】
以下、上記構成のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図11を参照して説明する。
【0030】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ(第1の基板)110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜53を形成する。
次に、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜51を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜51を形成する。
【0031】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを絶縁体膜51上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
次に、図3(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成し、これら圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。また、圧電素子300を形成後に、絶縁体膜51及び弾性膜50をパターニングして、流路形成基板用ウェハ110の連通部(図示なし)が形成される領域に、これら絶縁体膜51及び弾性膜50を貫通して流路形成基板用ウェハ110の表面を露出させた貫通部52を形成する。
【0032】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO(PT)、PbZrO(PZ)、Pb(ZrTi1−x)O(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O−PbTiO(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O−PbTiO(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O−PbTiO(PSN−PT)、BiScO−PbTiO(BS−PT)、BiYbO−PbTiO(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成する。
【0033】
次に、図4(a)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、まず流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って密着層91を介して金属層92を形成し、密着層91と金属層92とからなる配線層190を形成する。そして、この配線層190上に、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を形成し、このマスクパターンを介して金属層92及び密着層91を圧電素子300毎にパターニングすることによりリード電極90を形成する。またこのとき、貫通部52に対向する領域に、リード電極90とは不連続の配線層(閉塞膜)190を残して、この配線層190によって貫通部52が封止されるようにする。
【0034】
金属層92の主材料としては、比較的導電性の高い材料であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)が挙げられ、本実施形態では金(Au)を用いている。また、密着層91の材料としては、金属層92の密着性を確保できる材料であればよく、具体的には、チタン(Ti)、チタンタングステン化合物(TiW)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)またはニッケルクロム化合物(NiCr)等が挙げられ、本実施形態ではニッケルクロム化合物(NiCr)を用いている。
【0035】
次に、図4(b)に示すように、リザーバ形成基板用ウェハ(第2の基板)130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接合する(基板接合工程)。ここで、このリザーバ形成基板用ウェハ130には、リザーバ部31、圧電素子保持部32等が予め形成されており、リザーバ形成基板用ウェハ130上には、上述した接続配線200が予め形成されている。
【0036】
図5(a)は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの基板接合工程において流路形成基板用ウェハ110とリザーバ形成基板用ウェハ130とを接合して成る基板構造体101を示す全体の平面図である。図5(b)は、図5(a)における矢視B−B断面図である。なお、図5(a)における点線は、基板構造体101においてインクジェット式記録ヘッドのチップ102が形成されるエリアを示す。基板接合時において各チップ102のエリアには、圧電素子保持部32や接続配線200等が形成されていることとなる。
【0037】
図示するように、基板構造体101は、流路形成基板用ウェハ110とリザーバ形成基板用ウェハ130とを接着剤35を介して接合することで構成されている。なお、接着剤35としては、例えば、熱硬化型のエポキシ系接着剤を用いることができる。
また、リザーバ形成基板用ウェハ130は、流路形成基板用ウェハ110よりも、図5(b)に示す距離Kだけ、ひと回り大きく形成されている。本実施形態の距離Kは、例えば直径150mm程度の流路形成基板用ウェハ110に対し、0.5mm程度に設定されている。
【0038】
このように、流路形成基板用ウェハ110とリザーバ形成基板用ウェハ130との大きさを互いに異ならせることで、リザーバ形成基板用ウェハ130の平面領域の上に流路形成基板用ウェハ110の平面領域の全てを重ね合わせることが容易に可能となる。ここで、大きさの異なるウェハ同士を、接着剤35を介して接合した場合、大きさの小さい方の流路形成基板用ウェハ110の外縁に沿って接着剤35がはみ出ることとなる(図5(b)において符号35aで示す)。
【0039】
次に、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研削・研磨した後、フッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにし、シリコン(Si)を露出させる。
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜54を新たに形成し、所定形状にパターニングする。当該パターニングでは、ドライエッチング法のうち、四フッ化炭素(CF)からなるエッチングガスをプラズマ化し、流路形成基板用ウェハ110側に照射する反応性イオンエッチング法を用いる(プラズマ処理工程)。
【0040】
そして、図6(c)に示すように、このマスク膜54を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13からなる液体流路を形成する(ウェットエッチング工程)。具体的には、流路形成基板用ウェハ110側を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液等の強アルカリ液によって弾性膜50及び密着層91が露出するまでエッチングすることより、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13を同時に形成する。
【0041】
次に、図7(a)に示すように、貫通部52内の配線層190の一部である密着層91を、連通部13側からウェットエッチング(ライトエッチング)することにより除去する。すなわち、連通部13側に露出されている密着層91と、この密着層91が拡散している金属層92の一部の領域とを、エッチングにより除去する。これにより、後の工程で、配線層190の金属層92と、その上に化学気相成長法(以下、CVD法と称する)よって形成される保護膜16との密着力が弱められ、金属層92上の保護膜16が剥離し易くなる。
【0042】
次に、図7(b)に示すように、マスク膜54を除去する。具体的には、流路形成基板用ウェハ110側を、例えば、リン酸(HPO)水溶液等の強酸液に浸漬させることにより、マスク膜54を溶解させて除去する。
このマスク膜54を除去した後は、図8に示す洗浄装置140を用いて基板構造体101の流路形成基板用ウェハ110側の洗浄を行うと共に、はみ出した接着剤35aの除去を行う(接着剤除去工程)。
【0043】
図8に示すように、洗浄装置140は、回転テーブル141上に基板構造体101を保持させ、この回転テーブル141を所定の回転数で回転させながら洗浄を行う、所謂スピン洗浄によって、流路形成基板用ウェハ110側を洗浄する構成となっている。洗浄装置140は、流路形成基板用ウェハ110側において、流路形成基板用ウェハ110の中央に向けて配置されたノズル142と、同じく、流路形成基板用ウェハ110側において、流路形成基板用ウェハ110の外縁に向けて配置された2流体ノズル(ノズル)143と、を有する。
【0044】
ノズル142は、純水を供給する。当該純水は、流路形成基板用ウェハ110の中央から回転テーブル141の回転による遠心力によって外縁まで広がり、流路形成基板用ウェハ110側を全面に亘って洗浄する。
一方、2流体ノズル143は、2流体として純水と窒素ガスとを用いた2流体洗浄を行う。この2流体洗浄では、キャリアガスとしての窒素ガスに洗浄液としての純水を供給することにより、純水を粒化及び加速させ、本実施形態では例えば0.1メガパスカル(MPa)程度の高圧で洗浄することができる。この2流体洗浄によれば、純水のみの洗浄では取り除けない接着剤35aを、容易に取り除くことができる。
【0045】
本実施形態では、2流体ノズル143を、リザーバ形成基板用ウェハ130と比較して小さい流路形成基板用ウェハ110側に配置することにより、図9(a)に示すように、2流体をはみ出した接着剤35aに向けて直接噴射することができる。窒素ガスにより粒化及び加速した純水は、接着剤35aに連続した衝撃を与えて叩き崩し、また、衝突した後は面方向に広がり、接着剤35aを物理的に強い力で引き剥がすようにして、接着剤35aを除去する。なお、本実施形態では、キャリアガスとして不活性な窒素ガスを用い、洗浄液として純水を用いているため、基板や他にパターニングされた配線(接続配線200等)にダメージを与えないようにすることができる。
【0046】
流路形成基板用ウェハ110の外縁からはみ出した接着剤35aは、上述したマスク膜54形成時のプラズマ処理、液体流路形成時の強アルカリ処理、さらには、マスク膜54除去時の強酸処理によって、劣化・膨潤している。より詳しくは、流路形成基板用ウェハ110側へのプラズマの照射により、接着剤35aに多数の孔部が形成され、密度が小さくスポンジ状となって物理的に弱まっている。また、流路形成基板用ウェハ110側の強アルカリ液及び強酸液への浸漬により、接着剤35aが化学的に劣化し、また、液浸によって膨潤することにより物理的に弱まっている。この物理的に弱まっている接着剤35aに2流体を直接当てることにより、劣化・膨潤した接着剤35aを、効率良く、且つ、図9(b)に示すように選択的に除去することができる。
【0047】
次に、図10(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の液体流路、すなわち、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13の内壁面に保護膜16を形成する。
保護膜16は、上述したように、例えば、酸化物又は窒化物等の耐液体性(耐インク性)を有する材料からなり、本実施形態では、五酸化タンタルからなる。また、保護膜16は、例えばCVD法によって形成する。
【0048】
なお、貫通部52は配線層190によって封止されているため、貫通部52を介してリザーバ形成基板用ウェハ130の外面等に保護膜16が形成されることはない。このため、接続配線200等が形成されたリザーバ形成基板用ウェハ130の表面に保護膜16が形成されて駆動回路210などの接続不良等が発生するのを防止することができる。また同時に、余分な保護膜16を除去する工程が不要となって製造工程を簡略化して製造コストを低減することができる。
【0049】
次に、図10(b)に示すように、保護膜16上に、保護膜16とはエッチングの選択性を有する材料からなる剥離層17を、例えばスパッタ法によって形成する。ここで、保護膜16とはエッチングの選択性を有する材料とは、その材料をウェットエッチングするためのエッチング液によって保護膜16がエッチングされ難く、実質的にエッチングされない材料のことをいう。また、剥離層17は、その内部応力が圧縮応力であることが好ましく、保護膜16との密着力が、保護膜16と配線層190との密着力よりも大きな材料を用いるのが好ましい。本実施形態では、剥離層17の材料として、以上の条件を満たすチタンタングステン化合物(TiW)を用いている。
【0050】
次に、図11(a)に示すように、この剥離層17をウェットエッチングによって完全に除去すると同時に、配線層190上の保護膜16を選択的に除去する。ここで、保護膜16の金(Au)からなる金属層92との密着力は、保護膜16の二酸化シリコン(SiO)からなる弾性膜50との密着力よりも弱く、剥離層17の内部応力が圧縮応力であるため、保護膜16上に剥離層17を形成することで、剥離層17の内部応力によって保護膜16は配線層190からある程度剥離された状態となる。この状態で、剥離層17をウェットエッチングによって除去することで、配線層190上の保護膜16も同時に選択的に除去される。
【0051】
このように配線層190上の保護膜16を除去した後は、図11(b)に示すように、配線層190(金属層92)を連通部13側からウェットエッチングすることによって除去して貫通部52を開口させる。このとき配線層190上には保護膜16が形成されていないため、保護膜16が配線層190のウェットエッチングを邪魔することはない。したがって、配線層190を容易且つ確実にウェットエッチングにより除去して貫通部52を開口させることができる。
【0052】
上記のように接着剤除去工程の後に、配線層190を貫通させるために行われる仕上げ段階の第2のウェットエッチング工程においては、はみ出ている接着剤35aが前工程において予め除去されているため、接着剤35aがエッチング液中に脱落・飛散または拡散し、液体流路やその他のパターン面に残渣(パーティクル)として付着することはなく、異物欠陥が低減されることとなる。
【0053】
その後は、リザーバ形成基板用ウェハ130に形成されている接続配線200上に駆動回路210を実装すると共に、駆動回路210とリード電極90とを駆動配線220によって接続する。次いで、流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110のリザーバ形成基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、リザーバ形成基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズに分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0054】
したがって、上述した本実施形態によれば、流路形成基板用ウェハ110と当該流路形成基板用ウェハ110よりも大きいリザーバ形成基板用ウェハ130とを接着剤35を介して接合する基板接合工程と、基板接合工程の後、流路形成基板用ウェハ110の外縁に沿ってはみ出している接着剤35aを2流体洗浄により除去する接着剤除去工程と、を有するという手法を採用することによって、大きさが互いに異なる基板同士を、接着剤35を介して接合した場合に、大きさの小さい方の流路形成基板用ウェハ110の外縁に沿ってはみ出ている接着剤35を、2流体洗浄によって除去することができるため、異物欠陥を抑制し、信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0055】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0056】
例えば、上述した実施形態においては、流路形成基板用ウェハ110よりもリザーバ形成基板用ウェハ130をひと回り大きく形成した形態について説明したが、リザーバ形成基板用ウェハ130よりも流路形成基板用ウェハ110をひと回り大きく形成した形態についても本発明を適用できる。
【0057】
また、例えば、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0058】
10…流路形成基板、30…リザーバ形成基板、35…接着剤、35a…はみ出た接着剤、101…基板構造体、110…流路形成基板用ウェハ(第1の基板)、130…リザーバ形成基板用ウェハ(第2の基板)、143…2流体ノズル(ノズル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と前記第1の基板よりも大きい第2の基板とを接着剤を介して接合する基板接合工程と、
前記基板接合工程の後、前記第1の基板の外縁に沿ってはみ出している前記接着剤を2流体洗浄により除去する接着剤除去工程と、
を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記接着剤除去工程では、前記第1の基板側において、前記第1の基板の外縁に向けて配置されたノズルから2流体を噴射して前記2流体洗浄を行うことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記2流体洗浄では、2流体として純水と窒素ガスとを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記基板接合工程の後、前記接着剤除去工程の前に、前記第1の基板側にプラズマを照射するプラズマ処理工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記基板接合工程の後、前記接着剤除去工程の前に、前記第1の基板側をウェットエッチングするウェットエッチング工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記接着剤除去工程の後、前記第1の基板側をウェットエッチングする第2のウェットエッチング工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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