説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】接合基板を確実に保護することができると共に、接合基板を保護する保護膜を容易に且つ低コストで形成することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】接合基板40が複数一体的に形成された接合基板用ウェハーに、接合基板40の一端面となる領域に凹部を形成する工程と、接合基板の表面に亘って耐液体性を有する保護膜43を形成する工程と、流路形成基板10が複数一体的に形成された流路形成基板用ウェハーと接合基板用ウェハーとを接合する工程と、流路形成基板用ウェハーと接合基板用ウェハーとを凹部の底面で切り分けて、流路形成基板10と接合基板40とが接合された接合体を形成する工程と、接合基板の切り分けた切断面44をケース部材30に接合する工程と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を噴射する液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口に連通する圧力発生室が第1の方向に並設され、且つ圧力発生室の第1の方向と直交する第2の方向の一端部側に第1の方向に亘って設けられて各圧力発生室に連通する連通部が形成された流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成される圧電アクチュエーターと、流路形成基板の圧電アクチュエーター側の面に接合されて、連通部と共にマニホールドの一部を構成するマニホールド部を有する接合基板と、マニホールド及び流路の底面を構成し、かつノズル開口が形成されたノズルプレートと、を具備するものがある。
【0003】
このような構成では、流路形成基板及び接合基板にマニホールドを形成するため、流路形成基板及び接合基板が第2の方向に大型化してしまうという問題がある。そして、このような流路形成基板及び接合基板は、例えば、シリコンウェハーに複数一体的に形成されるため、流路形成基板及び接合基板が大型化すると、1枚のシリコンウェハーからの取り数が減少し、高コストになってしまうという問題がある。
【0004】
そこで、流路形成基板及び接合基板にマニホールドを設けずに、マニホールドの第2の方向の一端面を流路形成基板及び接合基板で画成し、他端面側を封止部材で封止することで、流路形成基板及び接合基板を第2の方向で小型化した液体噴射ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3402349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接合基板の端面がマニホールド内に露出してしまい、露出した端面がインクによって浸食されてしまい、製品寿命が短くなってしまうという問題がある。
【0007】
また、このような接合基板は厚さが比較的薄いため、接合基板の端面に保護膜を形成するのが困難であると共に、接合基板の端面は、一枚の基板から切り離した際に形成されるため、各接合基板の端面に保護膜を個別に形成しなくてはならず、高コストになってしまうという問題がある。
【0008】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドの製造方法に限定されず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法においても同様に存在する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、接合基板を確実に保護することができると共に、接合基板を保護する保護膜を容易に且つ低コストで形成することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、前記流路形成基板の一方面側に接合された接合基板と、前記接合基板の前記流路形成基板とは反対側に接合されて、前記流路形成基板及び前記接合基板の外側に、当該流路形成基板及び前記接合基板の一端面によって画成されたマニホールドを有するケース部材と、を具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記接合基板が複数一体的に形成された接合基板用ウェハーに、前記接合基板の前記一端面となる領域に凹部を形成する工程と、前記接合基板の表面に亘って耐液体性を有する保護膜を形成する工程と、前記流路形成基板が複数一体的に形成された流路形成基板用ウェハーと前記接合基板用ウェハーとを接合する工程と、前記流路形成基板用ウェハーと前記接合基板用ウェハーとを前記凹部の底面で切り分けて、前記流路形成基板と前記接合基板とが接合された接合体を形成する工程と、前記接合基板の切り分けた切断面を前記ケース部材に接合する工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、接合基板用ウェハーを接合基板毎に切り分ける前に保護膜を形成することができるため、一度に複数の接合基板に保護膜を形成することができ、コストを低減することができる。また、接合基板用ウェハーを切り分けた接合基板の切断面をケース部材に接合するため、接合基板の母材がマニホールドに露出されることがなく、接合基板が液体によって浸食されるのを確実に低減することができる。
【0011】
ここで、前記圧力発生手段が、前記流路形成基板の前記接合基板が接合される面に設けられた圧電アクチュエーターであると共に、前記接合基板には、前記圧電アクチュエーターを保持する凹形状を有する保持部が設けられており、前記接合基板用ウェハーに前記凹部を形成する工程では、前記保持部を同時に形成することが好ましい。これによれば、凹部と保持部とを同時に形成することで、製造工程を増加させることなく、凹部を形成することができ、コストを低減することができる。
【0012】
また、前記流路形成基板用ウェハーと前記接合基板用ウェハーと接合する工程の前に、前記流路形成基板用ウェハーに前記圧電アクチュエーターを形成する工程をさらに有することが好ましい。これによれば、流路形成基板用ウェハーに圧電アクチュエーターを形成してあっても、流路形成基板用ウェハーと接合基板用ウェハーとを接合する前に接合基板用ウェハーに保護膜を形成するため、保護膜を例えば熱酸化等の安価な方法で圧電アクチュエーターに悪影響を与えることなく形成することができる。
【0013】
また、前記流路形成基板用ウェハーと前記接合基板用ウェハーとを接合する工程の後、前記流路形成基板用ウェハーに前記圧力発生室を形成する工程をさらに有することが好ましい。これによれば、複数の流路形成基板に同時に圧力発生室を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの断面図及びその要部を拡大した断面図である。
【0016】
図1に示すように、液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッド1は、アクチュエーター基板11と、連通板15と、ノズルプレート20とで構成されている。
【0017】
アクチュエーター基板11は、図2に示すように、流路形成基板10及び接合基板40からなる。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向と称し、第1の方向と直交する方向を第2の方向と称する。本実施形態では、圧力発生室12が第1の方向に並設された列が、第2の方向に2列、列設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の第2の方向の一端側にはインク供給路14が設けられている。インク供給路14は、圧力発生室12の第1の方向の幅を片側から狭めることで圧力発生室12の断面積よりも小さい断面積となるように形成されている。もちろん、インク供給路14は、圧力発生室12の第1の方向の幅を両側から狭めることで形成してもよく、厚さ方向に深さを浅く形成してもよい。
【0018】
また、流路形成基板10の圧力発生室12及びインク供給路14の内面には、耐液体性(耐インク性)を有する耐液保護膜13が設けられている。なお、ここで言う耐液体性(インク性)とは、アルカリ性のインクに対する耐エッチング性のことである。このため、耐液保護膜13の材料としては、例えば、五酸化タンタル(Ta)等の酸化タンタルや、酸化シリコン(SiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等を用いることができる。なお、本実施形態では、個別流路である圧力発生室12及びインク供給路14を画成する壁部のマニホールド100側の端面にも耐液保護膜13が形成されている。このため、マニホールド100内のインクによって流路形成基板10の端面が浸食されるのは抑制される。
【0019】
このような流路形成基板10の一方の面には弾性膜50が形成されており、圧力発生室12及びインク供給路14の一方面はこの弾性膜50によって構成されている。
【0020】
流路形成基板10の開口面側(弾性膜50とは反対側の他方の面)には、連通板15が接合されている。連通板15は、板状部材からなり、流路形成基板10とは反対面側には、複数のノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接合されている。また、連通板15には、圧力発生室12とノズル開口21とを繋ぐ連通路16が設けられている。このような連通板15は、流路形成基板10よりも大きな面積を有する。これに対し、ノズルプレート20は流路形成基板10よりも小さい面積を有する。このようにノズルプレート20の面積を比較的小さくすることでコストの削減を図ることができる。特に、ノズルプレート20の表面に撥水性(撥液性)を有する撥水膜が設けられている場合には、高価な撥水膜の面積を低減させることができるので、顕著なコスト低減効果が得られる。
【0021】
流路形成基板10に形成された弾性膜50上には、さらに絶縁体膜55が形成されている。また、絶縁体膜55上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とからなる圧電アクチュエーター300(圧力発生手段)が設けられている。本実施形態では、第1電極60が複数の圧電アクチュエーター300に共通する共通電極として機能し、第2電極80が各圧電アクチュエーター300で独立する個別電極として機能する。各圧電アクチュエーター300は、各圧力発生室12に対応して形成されており、この圧電アクチュエーター300により圧力発生室12内のインクに圧力変化を生じさせる。
【0022】
また、第2電極80には、リード電極90の一端がそれぞれ接続されている。リード電極90の他端には、駆動回路120が設けられた配線基板121(例えば、COF等)が接続されている。
【0023】
流路形成基板10の圧電アクチュエーター300側の面には、流路形成基板10と略同一の大きさを有する接合基板40が接合されている。接合基板40は、圧電アクチュエーター300を保護するための空間である保持部41を有する。保持部41は、第1の方向に並設された圧電アクチュエーター300の列毎に独立して設けられている。もちろん、保持部41は、各圧電アクチュエーター300毎に独立して設けてもよく、2以上の圧電アクチュエーター300で構成される圧電アクチュエーター群毎に独立して設けてもよい。
【0024】
また、接合基板40には、貫通孔42が設けられている。貫通孔42は、本実施形態では、圧電アクチュエーターの列に対応して設けられた2つの保持部41の間に、第1の方向に沿って設けられている。そして、一端部が第2電極80に接続されたリード電極90の他端部側は、この貫通孔42内に露出するように延設され、リード電極90と配線基板121とが貫通孔42内で電気的に接続されている。
【0025】
このような接合基板40としては、例えば、シリコン単結晶基板を用いることができる。
【0026】
また、接合基板40には、マニホールド100側の端面の一部を除く表面に亘って保護膜43が形成されている。保護膜43は、例えば、酸化シリコン(SiO)からなり、シリコン単結晶基板からなる接合基板40を熱酸化することで形成することができる。
【0027】
また、接合基板40には、保護膜43が接合基板40のマニホールド100を画成する端面の流路形成基板10とは反対側の一部に設けられておらず、接合基板40の母材であるシリコンが露出した露出部44が設けられている。
【0028】
この露出部44は、本実施形態では、後述するケース部材30と接着剤39を介して接着されることで、マニホールド100内に露出しないようになっている。
【0029】
また、このような構成のアクチュエーター基板11には、複数の圧力発生室12に連通するマニホールドをアクチュエーター基板11と共に画成するケース部材30が固定されている。ケース部材30は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、接合基板40に接着剤39によって固定されると共に、上述した連通板15にも接着剤39によって固定されている。具体的には、ケース部材30は、連通板15側にアクチュエーター基板11が収容される第1凹部31を有する。この第1凹部31の底面(内部)には、さらに第2凹部32が設けられている。第2凹部32は、接合基板40の流路形成基板10とは反対側の面と略同じ面積の開口を有し、接合基板40の露出部44の厚さよりも深く形成されている。そして、接合基板40を第2凹部32内に接着剤39を介して接合することで、ケース部材30にアクチュエーター基板11が保持される。また、ケース部材30には、第2凹部32にアクチュエーター基板11が収容された状態で、第1凹部31の開口面が連通板15によって封止される。これにより、流路形成基板10と接合基板40との接合体の外周側には、ケース部材30と連通板15との間にマニホールド100が画成されている。すなわち、マニホールド100は、流路形成基板10及び接合基板40の端面と、ケース部材30と、連通板15とによって画成されている。
【0030】
このようにマニホールド100が、流路形成基板10及び接合基板40の端面とケース部材30と連通板15とによって画成されることで、流路形成基板10及び接合基板40の第2の方向の長さを短くすることができる。つまり、流路形成基板10及び接合基板40を第2の方向に拡幅し、流路形成基板及び接合基板をくりぬいてマニホールドを形成する場合、流路形成基板及び接合基板が第2の方向に長くなってしまうが、本実施形態のように、マニホールド100の一方の側面を流路形成基板10及び接合基板40の端面で画成し、マニホールド100の他方の側面をケース部材30が画成することで、流路形成基板10及び接合基板40の第2の方向の長さを短くすることができる。これにより、流路形成基板10及び接合基板40の取り数を増やして、インクジェット式記録ヘッド1のコストの低減を図ることができる。すなわち、詳しくは後述するが、流路形成基板10及び接合基板40は、一枚の基板に複数個を一体的に形成することで製造している。このため、流路形成基板10及び接合基板40の面積を小さくすれば、一枚の基板から取り出せる流路形成基板10及び接合基板40の数を増やすことができ、コストを低減することができる。
【0031】
また、ケース部材30の第1凹部31には、凹形状を有する第3凹部33がマニホールド100に対向して形成されている。また、第3凹部33の開口は、可撓性を有する封止膜34によって覆われている。これにより、マニホールド100のケース部材30側の一部は封止膜34のみで封止された撓み変形可能な可撓部となっており、この可撓部が撓み変形することで、マニホールド100内にインクが供給された際の圧力変動や、インク滴を吐出する際の圧力発生室12の圧力変動などを吸収することができる。
【0032】
また、ケース部材30には、マニホールド100にインクを供給するための導入路35が設けられている。この導入路35には、インクカートリッジやインクタンクなどのインク貯留手段が直接又はチューブ等を介して接続され、インク貯留手段からのインクをマニホールド100に供給する。
【0033】
さらに、ケース部材30には、接合基板40の貫通孔42に連通して配線基板121が挿通される接続口36が設けられている。
【0034】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド1では、インクを噴射する際に、まずインクカートリッジ等から導入路35を介してインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで流路内部をインクで満たす。その後、駆動回路120からの信号に従い、圧力発生室12に対応する各圧電アクチュエーター300に電圧を印加することにより、圧電アクチュエーター300と共に弾性膜50及び絶縁体膜55をたわみ変形させる。これにより、圧力発生室12内の圧力が高まり所定のノズル開口21からインク滴が噴射される。
【0035】
このように、本実施形態では、マニホールド100を連通板15とケース部材30とで封止し、流路形成基板10の取り数を増やしてインクジェット式記録ヘッド1のコストの低減を図ることができる。
【0036】
また、接合基板40のマニホールド100を画成する端面が保護膜43によって覆われているため、マニホールド100内のインクによって接合基板40がエッチングされるのを抑制することができる。なお、上述のように、流路形成基板10の端面(個別流路を画成する隔壁の端面)は、耐液保護膜13によって覆われているため、流路形成基板10の端面についてもマニホールド100内のインクによって浸食されるのが抑制されている。このため、流路形成基板10及び接合基板40のインクによる浸食を抑制して、長寿命化を図ることができる。
【0037】
ここで、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図8を参照して詳細に説明する。なお、図3〜図4及び図6〜図8は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図であり、図5は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す平面図である。
【0038】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10が複数一体的に形成されるシリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0039】
次いで、図3(c)に示すように、白金及びイリジウムからなる第1電極60を絶縁体膜55上に形成した後、所定形状にパターニングする。第1電極60の形成方法は特に限定されないが、例えば、スパッタリング法や化学蒸着法(CVD法)などが挙げられる。なお、本実施形態では、第1電極60の材料として白金及びイリジウムを用いるようにしたが、第1電極60の材料は、特にこれに限定されず、白金又はイリジウムだけであってもよく、またその他の金属材料を用いるようにしてもよい。
【0040】
次に、図4(a)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる第2電極80とを流路形成基板用ウェハー110の全面に形成する。なお、圧電体層70の形成方法は、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。
【0041】
次に、図4(b)に示すように、第2電極80及び圧電体層70を同時にエッチングすることにより各圧力発生室12に対応する領域に圧電アクチュエーター300を形成する。ここで、第2電極80及び圧電体層70のエッチングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0042】
次に、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って金(Au)からなるリード電極90を形成後、各圧電アクチュエーター300毎にパターニングする。
【0043】
次に、接合基板40を形成する。本実施形態では、まず、図5(a)に示す接合基板40が複数一体的に形成されるシリコンウェハーである接合基板用ウェハー140に、図5(b)及び図6(a)に示すように、保持部41、貫通孔42及び凹部141を形成する。
【0044】
ここで、凹部141は、接合基板用ウェハー140を接合基板40毎に切り分ける切断予定線200に沿って形成する。具体的には、本実施形態では、図2に示すように、接合基板40の第2の方向の端面が、マニホールド100の側面を画成するため、接合基板40の第2の方向の両側に設けられた切断予定線200に沿って凹部141を形成する。
【0045】
なお、保持部41及び凹部141は、接合基板用ウェハー140を一方面側から厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより貫通することなく形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。本実施形態では、保持部41と凹部141とは、接合基板用ウェハー140の同一面側からエッチングすることで、同一面に開口するように形成した。また、保持部41と凹部141とは、同時に形成した。このように凹部141を保持部41と同時に形成することで、凹部141を形成する新たな工程を増やすことなく、接合基板40をエッチングする際に用いるマスク形状を変更するだけで凹部141を形成することができるので、コストを低減することができる。
【0046】
また、凹部141は、上述のように接合基板用ウェハー140を厚さ方向に貫通することなく形成するので、接合基板用ウェハー140が接合基板40毎に分割されることなく、複数の接合基板40が一体化された状態が維持される。
【0047】
次に、図6(b)に示すように、接合基板用ウェハー140の表面に亘って保護膜43を形成する。本実施形態では、接合基板用ウェハー140を熱酸化することで、二酸化シリコン(SiO)からなる保護膜43を形成した。なお、保護膜43の形成方法は、特にこれに限定されず、例えば、スパッタリング法やCVD法等により形成してもよい。
【0048】
次に、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110と接合基板用ウェハー140とを接合する。本実施形態では、流路形成基板用ウェハー110と接合基板用ウェハー140とを、例えば、図示しない接着剤によって接合した。このように、接合基板用ウェハー140を接合することによって流路形成基板用ウェハー110の剛性は著しく向上することになる。
【0049】
次いで、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。
【0050】
次いで、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上にマスク52を新たに形成して所定形状にパターニングした後、流路形成基板用ウェハー110をマスク52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧力発生室12、インク供給路14を形成する。
【0051】
次いで、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧力発生室12及びインク供給路14の開口する面側から耐液保護膜13を形成する。これにより、圧力発生室12及びインク供給路14の内面に亘って耐液保護膜13が形成される。また、流路形成基板用ウェハー110の圧力発生室12及びインク供給路14を画成する隔壁の端面(マニホールド100側の端面)にも耐液保護膜13が形成される。
【0052】
次いで、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110及び接合基板用ウェハー140を切断予定線200に沿って分割することで、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10及び接合基板40の接合体となる。このとき、接合基板40の切断面は、凹部141によって除去されずに残った部分になる。この部分が保護膜43の形成されていない露出部44となる。
【0053】
その後は、流路形成基板用ウェハー110表面のマスク52を除去し、図2に示すように、流路形成基板10の接合基板40とは反対側の面に連通板15及びノズルプレート20を接合すると共に、接合基板40の流路形成基板10とは反対面側にケース部材30を接合することでインクジェット式記録ヘッド1とする。このとき、上述したように、ケース部材30の第2凹部32内に露出部44が埋設されるようにケース部材30と接合基板40とを接着剤39によって接合することで、接合基板40の露出部44は、マニホールド100内に露出されることなく形成することができる。
【0054】
このため、マニホールド100内にインクを充填した際に、接合基板40の露出部44がインクに接触することがなく、また、接合基板40には、保護膜43が設けられているため、インクが接合基板40の母材であるシリコンに接触することがない。これにより、接合基板40がインクによって浸食されるのを抑制することができる。
【0055】
また、接合基板40を熱酸化するだけで保護膜43を形成することができるため、比較的薄い接合基板40の端面にも良好に且つ安価な工程で保護膜43を形成することができる。すなわち、接合基板用ウェハー140から接合基板40を切り離した状態で保護膜43を形成するのは実質的に困難である。これは、接合基板40は、切断した状態ではなく、接合基板用ウェハー140の状態で、流路形成基板用ウェハー110と接合された後、一つのチップサイズに切断されるため、接合基板40を熱酸化するために加熱すると、流路形成基板10に設けられた圧電アクチュエーター300や配線(リード電極90)等が加熱によって悪影響を受けてしまう。また、ウェハー状態から一つのチップサイズに切り分けてから保護膜43をスパッタリング法やCVD法によって形成することも考えられるが、一つのチップサイズの流路形成基板10と接合基板40との接合体を個別に処理しなくてはならず、また、接合体の厚さが薄いため、ハンドリングが困難で、且つ保護膜43の端面への付き周りも十分ではない可能性がある。したがって、高コストになってしまう。本実施形態では、接合基板40を切り分ける前の接合基板用ウェハー140の状態で、保護膜43を形成することができるためコストを低減することができる。また、接合基板用ウェハー140の状態で保護膜43を形成することができるため、熱酸化によって保護膜43をさらに安価に形成することが可能である。
【0056】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電アクチュエーター300を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電アクチュエーターや、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電アクチュエーターなどを使用することができる。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
【0057】
また、例えば、上述した実施形態1では、流路形成基板10や接合基板40として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面、(110)面等のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0058】
また、上述した液体噴射ヘッド1は、インクジェット式記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置IIに搭載される。図9は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0059】
インクジェット式記録ヘッド1を有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0060】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0061】
またインクジェット式記録装置として、いわゆるライン式のものを例示したが、インクジェット式記録装置は、勿論、これに限定されるものではない。例えば、キャリッジに搭載された液体噴射ヘッドを移動させながら印刷を行う、いわゆるシリアル型のインクジェット式記録装置に搭載されるインクジェット式記録ヘッドにも本発明を適用することができる。
【0062】
さらに上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの一例として液体噴射ヘッドを挙げて本発明について説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッドの製造方法を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0063】
II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 11 アクチュエーター基板、 12 圧力発生室、 13 耐液保護膜、 14 インク供給路、 15 連通板、 16 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 ケース部材、 40 接合基板、 41 保持部、 42 貫通孔、 43 保護膜、 44 露出部(切断面)、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 121 配線基板、 300 圧電アクチュエーター(圧力発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、
前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、
前記流路形成基板の一方面側に接合された接合基板と、
前記接合基板の前記流路形成基板とは反対側に接合されて、前記流路形成基板及び前記接合基板の外側に、当該流路形成基板及び前記接合基板の一端面によって画成されたマニホールドを有するケース部材と、を具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記接合基板が複数一体的に形成された接合基板用ウェハーに、前記接合基板の前記一端面となる領域に凹部を形成する工程と、
前記接合基板の表面に亘って耐液体性を有する保護膜を形成する工程と、
前記流路形成基板が複数一体的に形成された流路形成基板用ウェハーと前記接合基板用ウェハーとを接合する工程と、
前記流路形成基板用ウェハーと前記接合基板用ウェハーとを前記凹部の底面で切り分けて、前記流路形成基板と前記接合基板とが接合された接合体を形成する工程と、
前記接合基板の切り分けた切断面を前記ケース部材に接合する工程と、を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記圧力発生手段が、前記流路形成基板の前記接合基板が接合される面に設けられた圧電アクチュエーターであると共に、前記接合基板には、前記圧電アクチュエーターを保持する凹形状を有する保持部が設けられており、
前記接合基板用ウェハーに前記凹部を形成する工程では、前記保持部を同時に形成することを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記流路形成基板用ウェハーと前記接合基板用ウェハーと接合する工程の前に、前記流路形成基板用ウェハーに前記圧電アクチュエーターを形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記流路形成基板用ウェハーと前記接合基板用ウェハーとを接合する工程の後、前記流路形成基板用ウェハーに前記圧力発生室を形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−218188(P2012−218188A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83204(P2011−83204)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】