説明

液体噴射ヘッドの駆動方法及び液体噴射ヘッドの駆動信号生成装置

【課題】高分子を含有する液体を噴射するに際し噴射される液体を微小化すること。
【解決手段】電圧を液体噴射ヘッドに印加して、高分子を含有する液体を噴射させる液体噴射ヘッドの駆動方法であって、前記電圧を第1電圧から第2電圧に上昇させることと、前記電圧を前記第1電圧から前記第2電圧に上昇させたときよりも大きな傾きで前記第2電圧から第3電圧に上昇させ、該第3電圧に保持することと、前記電圧を前記第3電圧から第4電圧に降下させ、該第4電圧に保持することと、前記電圧を前記第4電圧から第5電圧に上昇させ、該第5電圧に保持することと、前記電圧を前記第5電圧から第6電圧に降下させ、該第6電圧に保持することと、前記電圧を前記第6電圧から第7電圧に上昇させることと、を含み、前記第5電圧は前記第3電圧よりも高い液体噴射ヘッドの駆動方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの駆動方法及び液体噴射ヘッドの駆動信号生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被噴射液体に向けて液体を噴射して、ゲルを製造する方法が知られている。そして、このような方法で製造されたゲルに薬剤を含有させ、このゲルを血管に注入することにより、体内の患部に薬剤を到達させるドラッグデリバリーが考えられている。体内に注入することから、より小さなゲルを製造することが望ましい。よって、液体噴射ヘッドからより微小な液体を噴射し、ゲルを製造することができるようにすることが求められている。
【0003】
なお、本明細書では、説明の都合上「ゲル」と記載するが、「マイクロスフィア」、「マイクロカプセル」、「ゲルビーズ」等の、微小サイズのカプセル化の技術に関するものである。
【0004】
特許文献1には、小さな液体を吐出するために、駆動波形のうち、圧力発生室の体積を収縮させるための第1電圧変化プロセスと、圧力発生室の体積を膨張させる第2電圧変化プロセスの変化時間を、それぞれ電気機械変換機の固有振動の固有周期以下(アクチュエーターの固有周期)に設定して、微小化を図ることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−218778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のように、プロセスの変化時間をアクチュエーターの固有周期以下にしても、高分子を含有する液体を微小化して噴射することが困難であるという問題があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高分子を含有する液体を噴射するに際し噴射される液体を微小化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、
電圧を液体噴射ヘッドに印加して、高分子を含有する液体を噴射させる液体噴射ヘッドの駆動方法であって、
前記電圧を第1電圧から第2電圧に上昇させることと、
前記電圧を前記第1電圧から前記第2電圧に上昇させたときよりも大きな傾きで前記第2電圧から第3電圧に上昇させ、該第3電圧に保持することと、
前記電圧を前記第3電圧から第4電圧に降下させ、該第4電圧に保持することと、
前記電圧を前記第4電圧から第5電圧に上昇させ、該第5電圧に保持することと、
前記電圧を前記第5電圧から第6電圧に降下させ、該第6電圧に保持することと、
前記電圧を前記第6電圧から第7電圧に上昇させることと、を含み、
前記第5電圧は前記第3電圧よりも高いことを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ゲル製造装置を示す概略側面図である。
【図2】ゲル製造装置を示す概略平面図である。
【図3】噴射ヘッド12の構造を説明する図である。
【図4】本実施形態における噴射機構1のブロック図である。
【図5】駆動信号生成回路70の構成を説明するブロック図である。
【図6】波形生成回路71の構成を説明するためのブロック図である。
【図7】電流増幅回路72の出力電圧を、電圧E1から電圧E4まで降下させる動作を説明するための図である。
【図8】電流増幅回路72の構成を説明する図である。
【図9】本実施形態における駆動信号の説明図である。
【図10】本実施形態におけるメニスカスの動きを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0011】
電圧を液体n噴射ヘッドに印加して、高分子を含有する液体を噴射させる液体噴射ヘッドの駆動方法であって、
前記電圧を第1電圧から第2電圧に上昇させることと、
前記電圧を前記第1電圧から前記第2電圧に上昇させたときよりも大きな傾きで前記第2電圧から第3電圧に上昇させ、該第3電圧に保持することと、
前記電圧を前記第3電圧から第4電圧に降下させ、該第4電圧に保持することと、
前記電圧を前記第4電圧から第5電圧に上昇させ、該第5電圧に保持することと、
前記電圧を前記第5電圧から第6電圧に降下させ、該第6電圧に保持することと、
前記電圧を前記第6電圧から第7電圧に上昇させることと、を含み、
前記第5電圧は前記第3電圧よりも高い液体噴射ヘッドの駆動方法。
このようにすることで、高分子を含有する液体を噴射するに際し噴射される液体を微小化することができる。また、前記第5電圧は前記第3電圧よりも高いため、前記第3電圧を付加したときに生じたメニスカスの引き込みよりも、さらに内側(非噴射される側)にメニスカスを引き込むことが出来るため、引き込む際の力が増大し、増大した強い力で液滴と液滴の尾を切り離せる。特に噴射させる溶液の粘度が高いほど液滴の尾が切れにくいが、前記第5電圧は前記第3電圧よりも高くすることで、液滴の尾が切ることができる。
【0012】
かかるヘッドの駆動方法であって、前記第2電圧は前記第3電圧の50%以上の電圧を有することが望ましい。
このようにすることで、メニスカスに窪み部を形成して、より微小化した液体を噴射することができるようになる。
【0013】
また、前記第1電圧は前記第7電圧と等しいことが望ましい。
このようにすることで、第1電圧と第7電圧とを中間電圧とすることができる。
【0014】
また、前記第4電圧は前記第1電圧よりも高いことが望ましい。
このようにすることで、大きな液滴を噴射しない程度にメニスカスを外側(噴射される側)に押し出すことができる。
【0015】
また、前記第5電圧の保持時間は前記第3電圧の保持時間よりも短いことが望ましい。
このように、第5電圧の保持時間が第3電圧の保持時間より長いと、前記第4電圧から前記第5電圧に引き上げた際に発生させた内側向き(非噴射される方向)のメニスカス変動が、第5電圧の保持時間中に反作用による外側向き(噴射される方向)のメニスカス変動に変わってしまうため、切断された尾だけでなく、変動した液体全体が液滴として噴射されてしまう虞がある。そのため、第5電圧の保持時間を第3電圧の保持時間より短くすることで、外側向き(噴射される方向)のメニスカス変動による液滴噴射が起こる前に、次の駆動信号を印加する。そうすることで反作用によって生じた制御しにくい外側向き(噴射される方向)のメニスカス変動を、制御可能なメニスカス変動に変えることができるため、変動した液体全体が液滴として噴射されてしまうことを防止し、安定した液滴の噴射が可能となる。
【0016】
また、前記高分子を含有する液体の粘度は5mPa.s以上であることが望ましい。
このようにすることで、粘度の高い高分子の液体を含んだゲルを製造することができる。
【0017】
また、前記高分子を含有する液体は、アルギン酸ナトリウムを含むことが望ましい。
このようにすることで、アルギン酸ナトリウムを含んだゲルを製造することができる。
【0018】
電圧を液体噴射ヘッドに印加して高分子を含有する液体を噴射させるための駆動信号を生成する液体噴射ヘッドの駆動信号生成装置であって、
前記ヘッドに印加する電圧を、
第1電圧に保持し、
前記第1電圧から上昇させて第2電圧にし、
前記第1電圧から前記第2電圧に上昇したときよりも大きな傾きで前記第2電圧から上昇させて第3電圧にし、該第3電圧に保持し、
前記第3電圧から降下させて第4電圧にし、該第4電圧に保持し、
前記第4電圧から上昇させて第5電圧にし、該第5電圧に保持し、
前記第5電圧から降下させて第6電圧にし、該第6電圧に保持し、
前記第6電圧から上昇させて第7電圧にし、
前記第5電圧は前記第3電圧よりも高い液体噴射ヘッドの駆動信号生成装置。
このようにすることで、高分子を含有する液体を噴射するに際し噴射される液体を微小化することができる。
【0019】
===実施形態===
図1は、ゲル製造装置を示す概略側面図であり、図2は、ゲル製造装置を示す概略平面図である。ゲル製造装置10は、噴射機構1と、流動機構2と、ゲル回収機構3と、噴射計測機構4と、ゲル計量機構5と、観察機構6とを備えている。
【0020】
ゲル製造装置10は、流動機構2を流動する第2溶液L2に向けて、噴射機構1から第1溶液L1を噴射させることで、排出部22において、第1溶液L1と第2溶液L2とが化学反応して生成されたゲルGを得る。本実施形態では、第1溶液L1としてアルギン酸ナトリウム水溶液を用い、第2溶液L2として塩化カルシウム水溶液を用いる。アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムとが化学反応し、アルギン酸カルシウムゲルが生成される。
【0021】
噴射機構1は、第1溶液L1を収納する第1タンク11と、噴射ヘッド12と、第1タンク11から噴射ヘッド12へ第1溶液L1を供給する供給配管14と、ギャッププレート16と、補強プレート19と、固定柱15と、固定治具15aとを備えている。
【0022】
噴射ヘッド12には、ノズル13が形成されたノズルプレート13aを備えている。ノズル13は、例えば直径20μmであり、噴射周波数10Hz以上で第1溶液L1はノズル13から噴射される。ノズル13は、噴射ヘッド12に1つ形成されている様子を図示したが、これに限られず、複数形成されていてもよい。また、噴射ヘッド12は、噴射機構1に1個配置していると図示したが、これに限るものではなく、噴射機構1に複数配置している構成としてもよい。
【0023】
ギャッププレート16は、貫通孔17と溝18とを備えている。ギャッププレート16は、たとえば透明なアクリルからなる。透明なギャッププレート16を用いることにより、顕微鏡などを用いて、目視により確認してノズル13と貫通孔17との位置合わせを容易にする。貫通孔17とノズル13とは連通されるように配置されている。これにより、ノズル13から噴射される第1溶液L1が、貫通孔17を通り抜ける構成となっている。貫通孔17には、フッ素系やシリコン系などの撥水コーティングが施されている。同様に、ギャッププレート16には、フッ素系やシリコン系などの撥水コーティングが施されている。ノズル13と面する側の貫通孔17の直径は、ノズル13の直径と同等またはそれ以上とする。そして、貫通孔17のもう一方側の直径は、ノズル13と面する側の貫通孔17の直径と同等またはそれ以上とする。つまり、貫通孔17は、同一直径または、ノズル13と面する側からもう一方側へ大きくなるテーパー形状である。このテーパー形状の角度は、90度から180度の範囲で適宜決定される。そして、貫通孔17の流動部21側は、R形状に加工されている。
【0024】
ギャッププレート16は、枠状に形成された補強プレート19に、接着剤などにより固定されている。補強プレート19により、ギャッププレート16の機械的強度を補強させる。ギャッププレート16及び補強プレート19の外径は、補強プレート19からギャッププレート16にかけて、細く形成されている。
【0025】
流動機構2は、第2溶液L2を収納する第2タンク20と、第2溶液L2が流動される流動部21および排出部22と、溶液循環部23とを備えている。第2タンク20は、フィルター25および流動部21に連通されている。排出部22は、流動部21と連通されている。第2タンク20に収納された第2溶液L2は、フィルター25で濾過され、流動部21及び排出部22へ流動される。そして、排出部22は、流動部21を流動した第2溶液L2及び生成されたゲルGを通過させる。溶液循環部23は、例えば、ポンプ24を備えている。排出部22を通過した第2溶液L2は、溶液循環部23により回収され、ポンプ24により第2タンク20へ循環される。
【0026】
第2タンク20は、例えば透明又は半透明なポリエチレンなどからなる。流動部21及び排出部22は、例えば透明なアクリルなどからなり、管状に形成されている。排出部22は、L字形に形成されており、流動部21から流動した第2溶液L2が、排出部22から飛散しないようにされている。
【0027】
流動部21とギャッププレート16との間に、第2溶液L2を流動させることにより、ギャッププレート16の貫通孔17内部は負圧になるため、これを生かして、溝18から貫通孔17へ空気(気体)の流れを生じさせる。これにより、第2溶液L2が、流動機構2からギャッププレート16の貫通孔17へ流入することを防止することができる。さらには、噴射ヘッド12のノズル13から噴射される第1溶液L1の噴射速度を維持又は補助させることができる。
【0028】
また、噴射機構1において、貫通孔17の流動部21側は、R形状に加工されているので、第2溶液L2が、ギャッププレート16の貫通孔17から、噴射ヘッド12のノズル13へ入り込んでしまうことを抑制し、第2溶液L2によりノズル13が塞がれることを防ぐ。
【0029】
溶液循環部23は、流動部21、排出部22、及び後述するゲル回収機構3を流動した第2溶液L2を回収し、第2タンク20へ循環させる。
【0030】
ゲル回収機構3は、流動された第2溶液L2に第1溶液L1を噴射させることにより生成されるゲルGを回収する。
【0031】
噴射計測機構4は、噴射機構1の第1タンク11の重量を計測する。第1溶液L1を収納する第1タンク11の重量を計測することにより、噴射される前後の重量差から、ノズル13から噴射される第1溶液L1の重さを計測する。
【0032】
ゲル計量機構5は、レーザー光源51と光電検出器52とを備えている。レーザー光源51から投射された投射光を、第2溶液L2及びゲルGが流動される流動部21に照射する。そして、流動部21において、投射光が反射された反射光を光電検出器52により受光することにより、生成されたゲルGの数量、形状、及び大きさを計量する。
【0033】
観察機構6は、ゲル回収機構3で回収されたゲルGの状態、例えば形状及び大きさなどを観察する、又は計測する。観察機構6は、カメラ61を備えている。カメラ61を用いて、回収ネット31でとらえられたゲルGを撮像することにより、生成されたゲルGの状態、例えば形状及び大きさなどを観察する、または計測する。
【0034】
図3は、噴射ヘッド12の構造を説明する図である。図には、ノズル13、ピエゾ素子PZT、液体供給路402、ノズル連通路404、及び、弾性板406が示されている。
【0035】
液体供給路402には、第1タンクから高粘度の液体が供給される。そして、これらの液体等は、ノズル連通路404に供給される。ピエゾ素子PZTには、後述する駆動信号が印加される。駆動信号が印加されると、駆動信号に従ってピエゾ素子PZTが伸縮し、弾性板406を振動させる。そして、駆動信号の振幅に対応するように液体を移動させる。
【0036】
上記の液体の移動を具体的に説明する。本願実施形態のピエゾ素子PZTは、電圧を印加すると図3の上下方向に収縮する特性を有する。駆動信号としてある電圧からより大きい電圧を印加した場合、ピエゾ素子PZTは図3の上下方向に収縮してノズル連通路404の容積を拡大する方向に弾性板406を変形させる。このとき、ノズル13における液体表面(後述のメニスカス)はノズル13の内側(図3の上側)方向に移動する。逆に、ある電圧からより小さい電圧を印加した場合、ピエゾ素子PZTは図3の上下方向に伸長し、ノズル連通路404の容積を縮小する方向に弾性板406を変形させる。このとき、ノズル13の液体表面はノズル13の外側(図3の下側)方向に移動する。
【0037】
図4は、本実施形態における噴射機構1のブロック図である。噴射機構1は、噴射機構1及びゲル製造装置10を制御するためのコントローラー60と、駆動信号を生成する駆動信号生成回路70と、噴射ヘッド12とを備える。コントローラー60は、駆動信号生成回路70に対して、形成するべき駆動信号の波形のデータを送る。駆動信号生成回路70は、送られた波形のデータに基づいて駆動信号を生成する。生成された駆動信号は、噴射ヘッド12のピエゾ素子PZTに印加され、液滴が噴射ヘッド12から噴射される。
【0038】
図5は、駆動信号生成回路70の構成を説明するブロック図である。本実施形態の駆動信号生成回路70は、波形生成回路71と電流増幅回路72を有している。
【0039】
図6は、波形生成回路71の構成を説明するためのブロック図である。波形生成回路71は、D/A変換器711と、電圧増幅回路712とを有する。D/A変換器711は、DAC値に応じた電圧信号を出力する電気回路である。このDAC値は、電圧増幅回路712から出力させる電圧(以下、出力電圧ともいう。)を指示するための情報であり、記憶された波形データに基づいてコントローラー60から送られる。
【0040】
電圧増幅回路712は、D/A変換器711からの出力電圧を、ピエゾ素子PZTの動作に適した電圧まで増幅する。本実施形態の電圧増幅回路712では、D/A変換器711からの出力電圧を、最大40数Vまで増幅する。そして、増幅後の出力電圧は、制御信号S_Q1及び制御信号S_Q2として電流増幅回路72に出力される。
【0041】
図7は、電流増幅回路72の出力電圧を、電圧E1から電圧E4まで降下させる動作を説明するための図である。
駆動信号COMを生成する場合には、コントローラー60は、所定の更新周期τ毎のDAC値を、D/A変換器711へ順次出力する。図7の例では、クロックCLKで規定されるタイミングt(n)で電圧V1に対応するDAC値が出力される。これにより、周期τ(n)にて、電圧増幅回路712からは電圧E1が出力される。そして、更新周期τ(n+4)までは、電圧E1に対応するDAC値がコントローラー60からD/A変換器711に順次入力され、電圧増幅回路712からは電圧E1が出力され続ける。また、タイミングt(n+5)では、電圧E2に対応するDAC値がコントローラー60からD/A変換器711に入力される。これにより、周期τ(n+5)にて、電圧増幅回路712の出力は、電圧E1から電圧E2へ降下する。同様に、タイミングt(n+6)では、電圧V3に対応するDAC値がコントローラー60からD/A変換器711に入力され、電圧増幅回路712の出力が電圧E2から電圧E3へ降下する。以下同様に、DAC値がD/A変換器711に順次入力されるため、電圧増幅回路712から出力される電圧は、次第に降下する。そして、周期τ(n+10)にて、電圧増幅回路712の出力は電圧E4まで降下する。このようにして、駆動信号が、波形生成回路71から出力される。
【0042】
図8は、電流増幅回路72の構成を説明する図である。電流増幅回路72は、駆動信号COMを電力増幅するトランジスター対721を有する。トランジスター対721は、互いのエミッター端子同士が接続されたNPN型のトランジスターQ1とPNP型のトランジスターQ2を有する。NPN型のトランジスターQ1は、駆動信号COMの電圧上昇時に動作するトランジスターである。このNPN型のトランジスターQ1は、コレクターが電源に、エミッターが駆動信号COMの出力信号線に、それぞれ接続されている。PNP型のトランジスターQ2は、電圧降下時に動作するトランジスターである。PNP型のトランジスターQ2は、コレクターが接地(アース)に、エミッターが駆動信号COMの出力信号線に、それぞれ接続されている。なお、NPN型のトランジスターQ1とPNP型のトランジスターQ2のエミッター同士が接続されている部分の電圧(駆動信号COMの電圧)は、符号FBで示すように、電圧増幅回路712Aへフィードバックされている。
【0043】
電流増幅回路72は、波形生成回路71からの出力電圧によって動作が制御される。例えば、出力電圧が上昇状態にあると、制御信号S_Q1によってNPN型のトランジスターQ1がオン状態となる。これに伴い、駆動信号COMの電圧も上昇する。一方、出力電圧が降下状態にあると、制御信号S_Q2によってPNP型のトランジスターQ2がオン状態となる。これに伴い、駆動信号COMの電圧も降下する。なお、出力電圧が一定である場合、NPN型のトランジスターQ1もPNP型のトランジスターQ2もオフ状態となる。その結果、第1駆動信号COMは一定電圧となる。
このようにすることによって、所望の形状の駆動信号を生成することができる。
【0044】
図9は、本実施形態における駆動信号の説明図である。駆動信号の電圧の変化と各駆動信号成分の時間を示している。図10は、本実施形態におけるメニスカスの動きを説明する図である。ここで、「メニスカス」は、ノズルにおける液体表面である。両図には、円で囲われた成分番号が示されている。そして、図9には、成分番号に対応する電圧と成分番号に対する時間が示され、図10には、成分番号に対応するノズル部の状態が示されている。図において、黒色で塗りつぶされているのが液体の部分である。尚、図における「N.P部」は、ノズルプレートの部分であることを示している。このようにして、電圧変化に応じたメニスカスの様子がわかるようになっている。
【0045】
成分番号1において、電圧はV1(第1電圧に相当)の中間電圧に維持されている。中間電圧とは、メニスカスに特段の変化を与えないときにおいて、ピエゾ素子PZTに印加する定電圧である。このとき、メニスカスは変化しないので、ノズルプレートとほぼ同じ面で平面を形成する。
【0046】
成分番号2において、電圧は中間電圧V1から電圧V2(第2電圧に相当)に上昇させられる。ピエゾ素子PZTに印加される電圧が上昇することで、メニスカスは噴射ヘッド内部側に引き込まれる。この電圧変化は比較的緩やかなものであるので、メニスカスは緩やかな弧を描くような形状となる。
【0047】
成分番号3において、電圧は電圧V2から電圧V3(第3電圧に相当)へと上昇させられる。成分番号3において、電圧の上昇は成分番号2のときよりも急峻である。換言すると、成分番号3における電圧の上昇率は成分番号2のときにおける電圧の上昇率よりも大きい。このように、より急峻に電圧上昇させることにより、メニスカスはより急激にヘッド側に引き込まれることから、メニスカスの中央部には図に示されるような小さな窪みが形成させる。尚、電圧V2は電圧V3の50%以上の電圧であることが望ましい。
【0048】
成分番号4において、電圧は電圧V3に維持される。このように電圧が電圧V3で維持される期間が存在することで、成分番号3において形成された小さな窪みは表面張力のバランスが崩され、窪みが元に戻ろうと図の下向きに動く。このように、元に戻ろうとする力により、下向きの方向に液滴が膨らんで、液滴を形成する。
【0049】
成分番号5において、電圧は電圧V3から電圧V4(第4電圧に相当)へ降下させられる。このとき、電圧V4は電圧V2よりも低く設定されている。前述の成分番号4の状態でも液滴はノズルから飛び出すと考えられるが、液滴の噴射促進のため、成分番号5において電圧が降下させられている。電圧の降下により、液体全体がノズルから押し出されるようになる。尚、電圧V4は、前述の電圧V1よりも高いことが望ましい。
なぜなら、電圧V4を電圧V1より低くした場合、液滴を形成し噴射するのに必要な電圧変化(電圧V1から電圧V3)よりも大きい電圧変化になってしまい、液滴の噴射促進だけでなく、ノズル内にある液体全体が液滴となって噴射されてしまう虞がある。そのため、電圧V4を電圧V1よりも高くすることで、ノズル内にある液体全体を噴射することを防止することができる。
【0050】
成分番号6において、電圧は電圧V4に維持される。ここで、電圧の一定電圧V4での維持は、次の成分において逆方向の電圧変化を与える前における緩衝の役割を果たす。
【0051】
成分番号7において、電圧は電圧V4から電圧V5(第5電圧に相当)へと上昇させられる。なお、電圧V5は、電圧V3よりも高い電圧値に設定されている。このように、電圧V5を電圧V3以上の電圧値にすることで、メニスカスの引き込みをより内側(非噴射される側)に変動させることが出来るため、そのときに発生した強い力で液滴と液滴の尾を切り離せる。
【0052】
成分番号8において、電圧は電圧V5に維持される。これにより、メニスカスの動きが整えられる。
また、成分番号8において、電圧保持時間t8は電圧保持時間t4よりも短く設定されている。第5電圧の保持時間が第3電圧の保持時間より長いと、第4電圧から第5電圧に引き上げた際に発生させた内側向き(非噴射される方向)のメニスカス変動が、第5電圧の保持時間中に反作用による外側向き(噴射される方向)のメニスカス変動に変わってしまうため、切断された尾だけでなく、変動した液体全体が液滴として噴射されてしまう虞がある。
そのため、第5電圧の保持時間を第3電圧の保持時間より短くすることで、外側向き(噴射される方向)のメニスカス変動による液滴噴射が起こる前に、次の波形成分を印加する。そうすることで反作用によって生じた制御不能の外側向き(噴射される方向)のメニスカス変動を、制御できるメニスカス変動に変えることができるため、変動した液体全体が液滴として噴射されることを防止し、安定した液滴噴射が可能になる。尚、ここでは、メニスカスの動きを整えてはいるが、液滴とメニスカスとの間に尾が生じていることが観察できる。
【0053】
成分番号9において、電圧が電圧V5から電圧V6(0V:第6電圧に相当)に降下させられる。このように、電圧を降下させることで、成分番号8において観察された尾をノズルプレートよりも外側(図3または図10における下側)へメニスカスを突出させて回収する。尚、電圧V5から電圧V6へと降下させたときの傾きは、電圧V3から電圧V4へと降下させたときの傾きより緩やかである。換言すると、電圧V5から電圧V6への電圧の変化率は、電圧V3から電圧V4へと降下させたときの変化率よりも小さい。
【0054】
成分番号10において、電圧は電圧V6に維持される。これにより、メニスカスの動きが整えられる。
【0055】
成分番号11において、電圧は電圧V6から中間電圧V7(第7電圧に相当)へと上昇させられる。そして、成分番号12において、中間電圧V7の状態が維持され、次の液滴の噴射に備えられる。
【0056】
このようにすることで、メニスカスの揺れを抑制できるとともに、次の微小液滴形成にむけたメニスカス形成が可能になる。特に、本実施形態では、粘度が5mPa.s以上の高粘度の液体を噴射することができる。また、さらに高粘度である20mPa.s以上の液体は、液滴の尾を切断することが非常に困難であったが、本実施形態により20mPa.s以上の液体を噴射し、微小なゲルを製造することができる。尚、本実施形態で噴射されるアルギン酸ナトリウムの粘度は、20〜100mPa.s程度である。また、アルギン酸ナトリウムの表面張力は、70mN/m程度となっている。
【0057】
尚、本実施形態ではアルギン酸ナトリウムを噴射することとしたが、これに限られず、高分子を含む液体であって高粘度の液体を噴射することができる。ここで、高分子とは、原子が1000個以上であって分子量が1万以上のものをいう。
【0058】
また、本実施形態では電圧を印加した場合に図3の上下方向に収縮するピエゾ素子を用いたが、電圧の印加によって図3の上下方向に伸長するピエゾ素子を用いても良い。この場合の駆動信号波形は、本実施例に示した駆動信号における電圧値の大小関係が逆転したものとなる。
【0059】
本実施形態において製造されるゲルの内部には、所望の物質を封入することができる。ゲルの内部に封入する所望の物質としては、各種細胞及び各種薬剤等を例示することができるがこれらに限定されるおのではない。より具体的には、細胞としては、血管内皮細胞、線維芽細胞、平滑筋細胞、赤血球、白血球、血小板、がん細胞、さらには、大腸菌、乳酸菌などの細菌(単細胞)等を例示することができ、これらの細胞を封入したゲルは、乳酸菌などの細菌(単細胞)等を例示することができ、これらの細胞を封入したゲルは、乾燥などの細胞の各種障害刺激からの保護、細胞・細菌のキャリアーとして、細胞移植用ゲル等の治療用機材やバイオチップ等の診断用機材等に利用することができる。また、ゲルに封入する薬剤としては、抗生物質、抗真菌剤、血管内皮細胞増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、各種血管作動性物質、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、インスリンなどのホルモン剤、その他、タンパク質、酵素、核酸、糖類、アミノ酸、乳化した脂質、保湿剤、香料、染料等を例示することができ、これらの薬剤を封入したゲルは、これらの薬剤のDDSとして利用することができる。なお、薬剤をゲルに封入することにより、薬剤を直接投与する場合に比べて作用時間を長期に保つ、作用時間を制御する、環境の薬剤に対する影響を緩衝する、多種薬剤を反応させずに混合できるなどという利点が得られる。さらに小さい微粒子としては、金属や無機材料、有機材料によるナノ粒子なども含めることができる。顔料や蛍光性粒子、リポゾーム、ナノミセルなど、それら自身特殊な機能を持つので、それらを含めることにより、ゲルはさらに複雑な除放制御機能を持つDDSとして利用することができる。また、ゲル中に触媒や酵素を封入すれば、ミクロのサイズの酵素・触媒の反応場となる。流路での反応場においてのマイクロカラムに利用できる。
【0060】
ここでは、第1溶液L1としてアルギン酸ナトリウム水溶液とし、第2溶液として塩化カルシウム水溶液として説明を行ったが、これには限られない。これらは、アルギン酸塩水溶液とアルカリ土類金属塩水溶液の組み合わせの一例として挙げたものであるが、アルカリ土類金属塩としては、塩化バリウムを例示することもできる。
【0061】
また、例えば、第1溶液L1と第2溶液L2の組み合わせとして、(1)ホウ酸水溶液とポリビニルアルコール水溶液、(2)ペプチドハイドロゲル形成性ペプチド水溶液と塩化ナトリウム水溶液、(3)昇温時ゲル化型熱可逆ハイドロゲル形成性親水性高分子水溶液と温水、の組み合わせを挙げることができる。また、(4)トロンビン水溶液、フィブリノーゲン水溶液、及び、カルシウム塩水溶液のうちいずれか2成分を含む水溶液と、残りの1成分を含む水溶液の組み合わせでもよい。
【0062】
上記(2)のペプチドハイドロゲル形成性ペプチドとしては、中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び/又は塩基性アミノ酸を交互に配置したアミノ酸数12〜20、好ましくは16程度のペプチドである。
【0063】
上記(3)の昇温時ゲル化型熱可逆ハイドロゲル形成性親水性高分子は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリプロピレンオキサイドのような温度感受性ポリマーセグメントと、ポリエチレンオキサイドのような親水性ポリマーセグメントからなるブロックコポリマーであり、例えば、メビオール株式会社からメビオールジェルという商品名で市販されているものである。メビオールジェル(商品名)は、低温時にはゾルであり、37℃以上でゲル化するので、第1溶液L1として、36℃以下のメビオールジェル(商品名)水溶液を用い、第2溶液L2として37℃以上の温水を用いることにより、第1溶液L1を第2溶液L2に噴射すれば第1溶液L1が第2溶液L2内でゲル化する。なお、メビオールジェル(商品名)水溶液は、比較的粘度が高いものであるが、本実施形態における駆動信号を用いた場合には適切に当該水溶液を噴射することができる。
【0064】
===その他の実施の形態===
上述の実施形態では、液体噴射装置としてゲル製造装置10が説明されていたが、これに限られるものではなく他の流体(液体や、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流状体)を噴射したり吐出したりする液体吐出装置に具現化することもできる。例えば、カラーフィルター製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、気体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の装置に、上述の実施形態と同様の技術を適用してもよい。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。
【0065】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0066】
1…噴射機構、2…流動機構、3…ゲル回収機構、4…噴射計測機構、5…ゲル計量機構、6…観察機構、10…ゲル製造装置、11…第1タンク、12…噴射ヘッド、13…ノズル、14…供給配管、16…ギャッププレート、17…貫通孔、18…溝、19…補強プレート、20…第2タンク、21…流動部、22…排出部、23…溶液循環部、24…ポンプ、25…フィルター、31…回収ネット、60…コントローラー、61…カメラ、70…駆動信号生成回路、71…波形生成回路、72…電流増幅回路、402…液体供給路、404…ノズル連通路、406…弾性板、711…D/A変換器、712…電圧増幅回路、G…ゲル、L1…第1溶液、L2…第2溶液、PZT…ピエゾ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を液体噴射ヘッドに印加して、高分子を含有する液体を噴射させる液体噴射ヘッドの駆動方法であって、
前記電圧を第1電圧から第2電圧に上昇させることと、
前記電圧を前記第1電圧から前記第2電圧に上昇させたときよりも大きな傾きで前記第2電圧から第3電圧に上昇させ、該第3電圧に保持することと、
前記電圧を前記第3電圧から第4電圧に降下させ、該第4電圧に保持することと、
前記電圧を前記第4電圧から第5電圧に上昇させ、該第5電圧に保持することと、
前記電圧を前記第5電圧から第6電圧に降下させ、該第6電圧に保持することと、
前記電圧を前記第6電圧から第7電圧に上昇させることと、を含み、
前記第5電圧は前記第3電圧よりも高いことを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法。
【請求項2】
前記第2電圧は前記第3電圧の50%以上の電圧を有する、請求項1に記載の駆動方法。
【請求項3】
前記第1電圧は前記第7電圧と等しい、請求項1または2に記載の駆動方法。
【請求項4】
前記第4電圧は前記第1電圧よりも高い、請求項1〜3のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項5】
前記第5電圧の保持時間は前記第3電圧の保持時間よりも短い、請求項1〜4のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項6】
前記高分子を含有する液体の粘度は5mPa.s以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項7】
前記高分子を含有する液体は、アルギン酸ナトリウムを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項8】
電圧を液体噴射ヘッドに印加して高分子を含有する液体を噴射させるための駆動信号を生成する液体噴射ヘッドの駆動信号生成装置であって、
前記ヘッドに印加する電圧を、
第1電圧に保持し、
前記第1電圧から上昇させて第2電圧にし、
前記第1電圧から前記第2電圧に上昇したときよりも大きな傾きで前記第2電圧から上昇させて第3電圧にし、該第3電圧に保持し、
前記第3電圧から降下させて第4電圧にし、該第4電圧に保持し、
前記第4電圧から上昇させて第5電圧にし、該第5電圧に保持し、
前記第5電圧から降下させて第6電圧にし、該第6電圧に保持し、
前記第6電圧から上昇させて第7電圧にし、
前記第5電圧は前記第3電圧よりも高いことを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動信号生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−39533(P2013−39533A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178788(P2011−178788)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】