液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに圧電素子
【課題】 環境負荷を低減し、高い絶縁性を有してリーク電流が抑制される液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに圧電素子を提供する。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧電体層と該圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含む。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧電体層と該圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせ、圧電体層と圧電体層に電圧を印加する電極を有する圧電素子を具備する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電アクチュエーターとしては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成された圧電素子を用いているものがある。液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
【0003】
このような圧電素子を構成する圧電体層(圧電セラミックス)として用いられる圧電材料には高い圧電特性が求められており、代表例として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境問題の観点から、鉛の含有量を抑えた圧電材料が求められている。鉛を含有しない圧電材料としては、例えばABO3で示されるペロブスカイト型構造を有するBiFeO3などがある。ここで、ABO3のA、Bは、Aサイト、Bサイトを指し、それぞれ、酸素が12配位、6配位しているサイトをいう。しかし、BiFeO3系の圧電材料は、絶縁性が低く、リーク電流が発生しやすいという問題があった。リーク電流が発生しやすいと、特に高電圧印加状態で使用した際に、クラックが発生しやすいなどの問題が生じやすいため、液体噴射ヘッドに使用し難いという問題がある。よって、圧電素子に用いられる圧電材料には、例えば、代表的な駆動電圧である25V印加時において、1×10−3A/cm2以下の高い絶縁性が求められる。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在し、また、液体噴射ヘッド以外に用いられる圧電素子においても同様に存在する。さらにこのリーク電流の問題は、圧電素子をセンサーとして使用するときに消費エネルギーの上昇という形で深刻な問題を生じる。例えば、1V以下の印加電圧の下で使用する圧電センサー、赤外線センサー、感熱センサー、焦電センサーに用いられる圧電素子においても、リーク電流は低いことが好ましい。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、環境負荷を低減し、高い絶縁性を有してリーク電流が抑制される液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧電体層と該圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、リーク電流が抑制されて高絶縁性の圧電素子となり、耐久性に優れたものとすることができる。また、鉛を含有していないため、環境への負荷を低減できる。
【0009】
ここで、前記ビスマス及び前記第1ドープ元素及び第2ドープ元素はAサイトに含まれており、前記鉄はBサイトに含まれていることが好ましい。
【0010】
また、前記複合酸化物は、ペロブスカイト型構造のAサイトに欠損を有し、かつBサイトにビスマスを有することが好ましい。
【0011】
また、前記複合酸化物は、ビスマス及び鉄に加えて、チタン酸バリウムをさらに含むことが好ましい。これによれば、さらに高い圧電特性(歪み量)を有する圧電素子を有する液体噴射ヘッドとなる。
【0012】
本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、リーク電流が抑制されて絶縁性に優れた圧電素子を具備し、耐久性に優れた液体噴射装置を実現することができる。また、鉛を含有していないため、環境への負荷を低減できる。
【0013】
本発明の他の態様は、圧電体層と前記圧電体層に設けられた電極とを備え、前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含むことを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、リーク電流が抑制されて絶縁性に優れた圧電素子を実現することができる。また、鉛を含有していないため、環境への負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】BiFeO3完全結晶の電子状態密度を示す図である。
【図5】BiFeO3のBiがAサイト中で12.5%欠陥した際の電子状態密度を示す図である。
【図6】BiFeO3のBサイトの鉄をBiが12.5%置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図7】PbZrTiO3において、Bサイトの遷移金属をPbが12.5%置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図8】BiFeO3に酸素サイト中で4%の酸素欠損が生じた際の電子状態密度を示す図である。
【図9】複合酸化物の結晶中におけるホッピング伝導を説明する模式図である。
【図10】本発明の複合酸化物の結晶中におけるホッピング伝導を説明する模式図である。
【図11】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をNaで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図12】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をKで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図13】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をCaで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図14】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をSrで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図15】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をBaで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図16】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をCeで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図17】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図18】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図19】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図20】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図21】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図22】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3は図2のA−A′線断面図である。図1〜図3に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0016】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0017】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0018】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば厚さ30〜50nm程度の酸化チタン等からなり、弾性膜50等の第1電極60の下地との密着性を向上させるための密着層56が設けられている。なお、弾性膜50上に、必要に応じて酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜が設けられていてもよい。
【0019】
さらに、この密着層56上には、第1電極60と、厚さが2μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び必要に応じて設ける絶縁体膜が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や密着層56を設けなくてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0020】
以下では、遷移金属を含む複合酸化物のペロブスカイト型構造をABO3で記す。ここで、Aサイト、Bサイトとは、それぞれ、酸素が12配位、6配位しているサイトを指す。
【0021】
本実施形態においては、圧電体層70は、ビスマス(Bi)及び鉄(Fe)を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウム(Ce)からなる第2ドープ元素とを含む。これにより、後述するように、リーク電流が抑制され且つ絶縁性に優れたものとすることができる。また、鉛を含有していないため、環境への負荷を低減できる。
【0022】
本実施形態にかかる複合酸化物としては、ペロブスカイト型構造のAサイトにビスマスを含み、Bサイトに鉄を含むものが挙げられるが、Aサイト、Bサイトのそれぞれにビスマスや鉄と置換して他の元素を含むものでもよい。例えば、Aサイトの置換元素としては、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、イットリウムなどが挙げられ、Bサイトの置換元素としては、コバルト、クロム、マンガン、ニッケル、銅などを挙げることができる。
【0023】
BiFeO3等に含まれるビスマスは、製造工程、特にそのなかでも圧電体層の焼成工程において揮発しやすく、Aサイトの結晶欠陥を生じやすいという問題がある。失われたBiは製造チャンバーの雰囲気中および下部電極側に拡散してしまう。Biが系から抜けると同時に、電子数のバランスを保つために酸素が欠損する。Bi欠陥と酸素欠陥の割合は電荷中性の原理を満たすために2:3である。この酸素欠損の存在自体が、クーロンポテンシャルを介して遷移金属のd電子の軌道エネルギーを下げて圧電素子のバンドギャップを狭めて、結果としてリーク電流を生じさせる直接の原因になる。酸素欠損を押さえるためには、Biの欠損を押さえればよい。そのための手段として、Biをあらかじめ化学量論組成に対して過剰に入れる手法が考えられる。しかしながら、過剰なBiはAサイトのみならず、Bサイトにも意図せずに一定の割合で入りこむ。これらBサイトに入りこんだBiは電子キャリアの供給元となり、圧電素子にリーク電流を生じさせるという問題点が生じる。そのためBiFeO3の系では、Biを化学量論組成に対して過剰に仕込む製造方法をとることができない。
【0024】
ここで、従来材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO3:PZT)では、鉛(Pb)がBiと同様に製造過程で揮発しやすい。そのためPbをあらかじめ化学量論組成に対して過剰に入れる手法がとられている。過剰なPbは、Bサイトに意図せずしてPbが入り込む現象を引き起こす。しかしながら、PZTでは、後述する図7に示すように、BサイトにPbが意図せず含まれたとしても、電子構造におけるバンドギャップを保つことができる。したがって、PbZrTiO3を製造する場合、Pbをあらかじめ化学量論組成に対して過剰に入れる手法をとったとしても、圧電体の絶縁性を損なうことはない。
【0025】
これらの問題点を、第一原理電子状態計算を用いてさらに検討した結果、以下の知見を得た。
【0026】
図4〜図8は、第一原理電子状態計算を用いて求めた各結晶の電子状態密度を示す図であり、横軸は電子のエネルギー差(eV)を示し、縦軸は電子の状態密度(DOS:Density of states)を示す。また、状態密度0(/eV)よりプラス側がアップスピンを示し、マイナス側がダウンスピンを示す。第一原理電子状態計算の条件としては、一般化された密度勾配近似(Generalized Gradient Approximation, GGA)の範囲での密度汎関数法に基づく、超ソフト擬ポテンシャル法(Ultra soft pseudopotential)を用いた。Bサイトの遷移金属原子に対しては、d電子軌道の局在性からくる強相関効果(strong correlation effect)を取り入れるために、GGA+U法(GGA plus U method)を適用した。波動関数(Wave function)のカットオフ及び電子密度(Charge density)のカットオフは、それぞれ20ハートリー、360ハートリーである。計算で用いた結晶のスーパーセルは、ABO3型ペロブスカイト型構造を2×2×2=8個用いて構成した。また、逆格子点(k点)のメッシュは(4×4×4)である。
【0027】
図4は、鉄酸ビスマス(BiFeO3)の完全結晶の電子状態密度を示す図であり、図5は、鉄酸ビスマス(BiFeO3)のAサイトのBiが12.5%欠陥した際の電子状態密度を示す図であり、図6は、鉄酸ビスマス(BiFeO3)のBサイトにBiが12.5%置換した際の電子状態密度、図7は、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO3)でBサイトにPbが12.5%置換した電子状態密度、図8は、鉄酸ビスマス(BiFeO3)の酸素サイトに4%の欠損が生じた場合の電子状態密度を示す図である。
【0028】
系は、図4、図5、図6、図8のいずれの場合も反強磁性状態が安定であった。
【0029】
図4に示すように、BiFeO3完全結晶の場合、すなわち各サイトに空孔が無く、Biの他の元素による置換もない場合は、最高電子占有準位(Ef)が価電子帯のトップにあり、バンドギャップが開き絶縁性となっていた。図4では、バンドギャップに対してエネルギーが低い側の状態が価電子帯、高い側の状態が伝導帯である。
【0030】
なお、最高電子占有準位とは、電子状態シミュレーションで得られた一電子エネルギーにおいて、電子が占有している最高軌道エネルギーレベルを示す。各電子状態密度のグラフでは、横軸の0点を最高電子占有準位(Ef)にとる。
【0031】
図5に示すように、BiFeO3において、Aサイトのビスマス(Bi)の一部を欠損させて欠陥を生じさせると、エネルギー0eVよりもプラス側に空(から)の状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が価電子帯のエネルギー領域に入り込む。従って系は絶縁性ではなくなり、ホールキャリアが生じて、電気伝導タイプとしてはp型となっていることがわかった。このとき空(から)の状態密度の面積を求めることで、AサイトのBiの欠損は3個分のホールキャリアを与えることがわかる。
【0032】
また、図6に示すように、Bサイトにビスマス(Bi)が含まれると、エネルギー0eVよりもマイナス側に占有された状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が伝導帯のエネルギー領域に入り込む。従って系は絶縁性ではなくなり、電子キャリアが生じてn型となっていることがわかった。このとき占有された状態密度の面積を求めることで、BサイトのBiは2個分の電子キャリアを与えることがわかる。このため製造過程で仕込み組成として過剰なBiを用いることは、系に電子キャリアを持ち込むこととなり、リーク特性の上で好ましくない。
【0033】
図7には、PZTでBサイトにPbが含まれている電子状態密度を示す。PZT系圧電材料では、BサイトにPbが意図せず含まれたとしても、図7に示すように、電子構造におけるバンドギャップを保つことができるので、PbZrTiO3を製造する場合、Pbをあらかじめ化学量論組成に対して過剰に入れる手法をとったとしても、圧電体の絶縁性を損なうことはない。
【0034】
また、図8に示すように、BiFeO3の酸素サイトに4%の欠損が生じると、エネルギー0eVよりもマイナス側に占有された状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が伝導帯のエネルギー領域に入り込む。従って、系は絶縁性ではなくなり、電子キャリアが生じてn型となっていることがわかった。このとき占有された状態密度の面積を求めることで、酸素サイトの欠損は2個分の電子キャリアを与えることがわかる。
【0035】
従って図5、図6、図8で示すように、BiFeO3中にはn型欠陥とp型欠陥が共存している。例えば半導体の場合には、伝導帯および価電子帯のキャリアの電子状態が自由電子的であるために、p型欠陥からくるホールキャリアとn型欠陥からくる電子キャリアは空間的に広がっており、互いに打ち消しあうことができる。一方、遷移金属酸化物の場合、伝導帯および価電子帯のキャリアは局在的であり、モビリティが小さい。そのためホールキャリアと電子キャリアの打ち消しあいは完全ではない。そのため遷移金属酸化物では、互いに打ち消しあうことのできなかったキャリアがホッピング伝導として系の電気伝導に寄与する。
【0036】
図9は、p型欠陥とn型欠陥とが存在する遷移金属化合物におけるホッピング伝導の状態を模式的に示したものである。このように、遷移金属化合物では、p型欠陥、n型欠陥のそれぞれにおいて、それぞれホールキャリアおよび電子キャリアの移動が生じるホッピング伝導のチャンネルが形成されている。このような状況では、仮に片側のキャリアを補償するようにドーピングを行ったとしても、もう片側のキャリアによるホッピング伝導を抑えることができない。これがBiFeO3で絶縁性を向上させることができない原因であると推測される。
【0037】
よって、p型欠陥を打ち消すn型ドープ元素や、n型欠陥を打ち消すp型ドープ元素を単独でドープしても、リーク電流の発生が防止できないが、n型ドープ元素及びp型ドープ元素を同時にドープ(コドープ)すれば、p型欠陥によるリーク電流並びにn型欠陥に基づくリーク電流が防止できる。
【0038】
本発明は、このような知見に基づくものであり、BiFeO3などの遷移金属化合物である複合酸化物に、n型ドープ元素及びp型ドープ元素を同時にドープ(コドープ)し、p型欠陥によるリーク電流並びにn型欠陥に基づくリーク電流を防止し、絶縁性を向上させたものである。
【0039】
このようにn型ドープ元素及びp型ドープ元素を同時にドープ(コドープ)した本発明の遷移金属化合物の模式図を図10に示す。この図に示すように、BiFeO3などの遷移金属化合物である複合酸化物に、n型ドープ元素及びp型ドープ元素を同時にドープ(コドープ)すると、p型欠陥がn型ドープ元素によって打ち消され、n型欠陥がp型ドープ元素で打ち消される。そのため、p型欠陥の間をホッピングして生じるリーク電流も、n型欠陥の間をホッピングして生じるリーク電流も大きく低減することができる。
【0040】
すなわち、本発明は、具体的には、例えば、BiFeO3に、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウム(Ce)からなる第2ドープ元素とを同時にドープしたものである。
【0041】
これらのドープ元素は、Aサイトに置換されるものであり、第1ドープ元素は、p型ドナーとなり、n型欠陥を打ち消し、第2ドープ元素は、n型ドナーとなり、p型欠陥を打ち消す。
【0042】
図11〜図16には、Aサイトの12.5%のBiがナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びセリウム(Ce)でそれぞれ置換された各結晶について、第一原理電子状態計算を用いて求めた電子状態密度を示す図である。なお、第一原理電子状態計算の条件は、上述したものと同様である。
【0043】
図11〜図15に示すように、BiFeO3のビスマス(Bi)の一部を強制的に第1ドープ元素であるナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)で置換すると、エネルギー0eVよりもプラス側に空(から)の状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が価電子帯のエネルギー領域に入り込む。従って系は絶縁性ではなくなりホールキャリアが生じて、ドーピングのタイプとしてはp型となっていることがわかった。このとき空(から)の状態密度の面積を求めることで、Aサイトに対する第1ドープ元素は、以下のホールキャリアを与えることがわかる。すなわち、NaとKの場合、2個分のホールキャリアを与える。また、またCa、Sr、Baの場合、1個分のホールキャリアをそれぞれ与える。これより、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)の各元素は、p型ドナーとして働くことがわかる。
【0044】
また、図16に示すように、BiFeO3のビスマス(Bi)の一部を強制的に第2ドープ元素であるセリウム(Ce)で置換すると、エネルギー0eVよりもマイナス側に占有された状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が伝導帯のエネルギー領域に入り込む。従って系は絶縁性ではなくなり、電子キャリアが生じてn型となっていることがわかった。このとき占有された状態密度の面積を求めることで、Aサイトを置換したCeは1個分の電子キャリアを与えることがわかる。これより、セリウムがn型ドナーとして働くことがわかる。
【0045】
以上説明したように、本発明では、例えば、BiFeO3に、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素をドープすることにより、n型欠陥を打ち消し、また、セリウム(Ce)からなる第2ドープ元素をドープすることにより、p型欠陥を打ち消すことができ、結果として、高い絶縁性を維持できる。
【0046】
本発明の第1ドープ元素であるNa、Kの場合、2個分のホールキャリアを系に与えるため、n型欠陥から生じる2個分の電子キャリアをキャンセルすることができる。また、本発明の第1ドープ元素であるCa、Sr、Baの場合、1個分のホールキャリアを系に与えるため、n型欠陥から生じる1個分の電子キャリアをキャンセルすることができる。
【0047】
また本発明の第2ドープ元素であるCeは1個分の電子キャリアを系に与えるため、p型欠陥から生じる1個分のホールキャリアをキャンセルすることができる。
【0048】
これらドープ元素は、Aサイトに位置することでビスマス欠陥自体を完全になくしてしまうわけではない。すなわちAサイトの原子欠陥と、Aサイトの第1および第2ドープ元素は共存することができる。例えば、Aサイトにビスマス欠陥が生じている場合でも、ビスマスが抜けた位置にドープ元素が入るわけではなく、それらのビスマス欠陥が存在したまま、それ以外のAサイトのBi等の元素を置換してドープされる。そしてBサイトのビスマス(n型)およびAサイトのビスマス欠陥(p型)を打ち消すように働く。
【0049】
ここで、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素は、予想されるn型欠陥の量に対応する量をドープし、セリウム(Ce)からなる第2ドープ元素は、予想されるp型欠陥の量に対応する量をドープするのが好ましい。そのため例えば、10%以下、好ましくは5%以下がドープ適正量となる。なお、第1ドープ元素は、1種類でも2種類以上同時にドープしてもよい。
【0050】
このようなドープ元素は、元となるペロブスカイト型構造を構成する元素とは区別され、結晶中に生じる欠陥量に応じてドープされるものである。
【0051】
本発明において、複合酸化物は、Aサイトに、大きなイオン半径を有するランタンを含んでいてもよい。ランタンを含むことでペロブスカイト型構造以外の異相の出現を押さえることができる。さらにランタンはビスマスの場合に比べて、最近接の酸素との共有結合性がかなり弱いため、印加電界による分極モーメントの回転に対して、ポテンシャル障壁が下がる。この分極モーメントの回転を容易に起こしやすい状況が圧電特性を高める。またランタンは+3のイオン価数を有する金属であるため、これら金属元素がAサイトに存在していても、本発明の「価数バランス」は変わらずに、リーク電流の状況に悪影響を及ぼすことはない。Aサイトにおけるランタンの含有割合は、ビスマスとランタンの総量に対してモル比で0.05以上0.20以下とするのが好ましい。プラセオジム、ネオジム、サマリウムも+3のイオン価数を有するイオン半径の大きな元素であるため、ランタンと同様の効果を有する。
【0052】
また、複合酸化物は、Bサイトに鉄(Fe)の他、コバルト(Co)、クロム(Cr)又は両者を含んでもよい。これらの元素は、Bサイトの元素の総量に対して、モル比で0.125以上0.875以下含むのが好ましい。このように、複合酸化物が、Bサイト位置に鉄とコバルトおよびクロムとを所定の割合で含むことにより、絶縁性及び磁性を維持することができる。また、かかる複合酸化物は、組成相境界(MPB:Morphotoropic Phase Boundary)を有しているため、圧電特性に優れたものとすることができる。特に、鉄及びコバルト又はクロムの総量に対するコバルト又はクロムのモル比が0.5付近では、MPBにより、例えば、圧電定数等が大きくなり、圧電特性に特に優れたものとなる。
【0053】
さらに、複合酸化物は、BiFeO3に加えて、さらに、化学量論組成のチタン酸バリウム(例えばペロブスカイト型構造のBaTiO3)を含んでいるのが好ましい。この場合、室温において、ロンボヘドラル構造のBiFeO3とテトラゴナル構造のBaTiO3の間でMPBが現れる。MPBが現れるおよその組成比は、BiFeO3:BaTiO3で3:1である。そのためこの組成では圧電体層70の圧電特性が良好になり小さい電圧で振動板を大きく変位させることができる。ここで、圧電体層70がチタン酸バリウムを含む場合は、例えば、チタン酸バリウムと主成分である鉄酸ビスマスとで形成されるペロブスカイト型構造の複合酸化物(例えば(Bi,Ba)(Fe,Ti)O3)に、第1ドープ元素及び第2ドープ元素が同時にドープされたものとなる。特に本発明のように第1ドープ元素としてバリウムを選択する場合には、化学量論組成を満たすチタン酸バリウム(BaTiO3)に対してさらに過剰なバリウムを添加することとなる。
【0054】
かかる本実施形態の圧電体層70は、単斜晶系の結晶構造を有するものである。すなわち、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70は、モノクリニックな対称性を有するものである。このような圧電体層70は、高い圧電特性を得ることができる。その理由としては、面に垂直方向にかかる印加電界に対して、圧電体層の分極モーメントが容易に回転しやすい構造となっていることが考えられる。圧電体層においては、分極モーメントの変化量と結晶構造の変形量が直接結合しており、これがまさに圧電性となる。以上より、分極モーメントの変化が起きやすい構造においては、高い圧電性を得ることができる。
【0055】
また、圧電体層70は、分極方向が膜面垂直方向(圧電体層70の厚さ方向)に対して所定角度(50度〜60度)傾いているエンジニアード・ドメイン配置であることが好ましい。
【0056】
圧電体層70の結晶配向方向としては、前記エンジニアード・ドメインの分極方向の条件をみたすのであれば、(100)配向、(111)配向、(110)配向のいずれか、あるいはそれらの入り混じった構造であってもよい。
【0057】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0058】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、必要に応じて設ける絶縁体膜等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0059】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0060】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0061】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0062】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0063】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0064】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0065】
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図17〜図21を参照して説明する。なお、図17〜図21は、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0066】
まず、図17(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図17(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜)上に、酸化チタン等からなる密着層56を、スパッタリング法や熱酸化等で形成する。
【0067】
次に、図18(a)に示すように、密着層56の上に、第1電極60を構成する白金膜をスパッタリング法等により全面に形成する。
【0068】
次いで、この白金膜上に、圧電体層70を積層する。圧電体層70は、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層(圧電体膜)を得るMOD(Metal−Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法や、スパッタリング法等の気相法により形成できる。なお、圧電体層70は、その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法などで形成してもよい。
【0069】
圧電体層70の具体的な形成手順例としては、まず、図18(b)に示すように、第1電極60上に、金属錯体、具体的には、Bi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素を含有する金属錯体を、目的とする組成比になる割合で含むゾルやMOD溶液(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して圧電体前駆体膜71を形成する(塗布工程)。
【0070】
塗布する前駆体溶液は、Bi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素を含む複合酸化物を形成し得る金属錯体を、各金属が所望のモル比となるように混合し、該混合物をアルコールなどの有機溶媒を用いて溶解または分散させたものである。
【0071】
ここでいう「焼成によりBi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素を含む複合酸化物を形成し得る金属錯体」とは、Bi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素のうち一種以上の金属を含む金属錯体の混合物を指す。Bi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素をそれぞれ含む金属錯体としては、例えば、金属アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。
【0072】
Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマスなどが挙げられる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄などが挙げられる。Coを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸コバルトなどが挙げられる。Crを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸クロムなどが挙げられる。Laを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸ランタンなどが挙げられる。また、Naを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ナトリウムアセチルアセトナート、ナトリウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。Kを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸カリウム、酢酸カリウム、カリウムアセチルアセトナート、カリウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。Caを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸カルシウムが挙げられる。Srを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸ストロンチウムが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸バリウムが挙げられる。Ceを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸セリウムなどが挙げられる。なお、勿論、Bi、Fe、Co、Laなどの元素のうち二種以上含む金属錯体を用いてもよい。
【0073】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度(150〜400℃)に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。なお、ここでいう脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中でも不活性ガス中でもよい。
【0074】
次に、図18(c)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば600〜800℃程度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中でも不活性ガス中でもよい。
【0075】
なお、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0076】
次に、図19(a)に示すように、圧電体膜72上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして第1電極60及び圧電体膜72の1層目をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。
【0077】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72からなる圧電体層70を形成することで、図19(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、塗布溶液の1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、例えば、10層の圧電体膜72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.1μm程度となる。なお、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0078】
このように圧電体層70を形成した後は、図20(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜800℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0079】
次に、図20(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0080】
次に、図20(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0081】
次に、図21(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0082】
そして、図21(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0083】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0084】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0085】
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0086】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図22は、そのインクジェット式記録装置IIの一例を示す概略図である。
【0087】
図22に示すように、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0088】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0089】
図22に示す例では、インクジェット式記録ヘッドユニット1A、1Bは、それぞれ1つのインクジェット式記録ヘッドIを有するものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、1つのインクジェット式記録ヘッドユニット1A又は1Bが2以上のインクジェット式記録ヘッドを有するようにしてもよい。
【0090】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0091】
本発明の圧電素子は、良好な絶縁性及び圧電特性を示すため、上述したように、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドの圧電素子に適用することができるものであるが、これに限定されるものではない。例えば、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧電トランス、並びに赤外線センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー及び焦電センサー等の各種センサー等の圧電素子に適用することができる。また、本発明は、強誘電体メモリー等の強誘電体素子にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせ、圧電体層と圧電体層に電圧を印加する電極を有する圧電素子を具備する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電アクチュエーターとしては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成された圧電素子を用いているものがある。液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
【0003】
このような圧電素子を構成する圧電体層(圧電セラミックス)として用いられる圧電材料には高い圧電特性が求められており、代表例として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境問題の観点から、鉛の含有量を抑えた圧電材料が求められている。鉛を含有しない圧電材料としては、例えばABO3で示されるペロブスカイト型構造を有するBiFeO3などがある。ここで、ABO3のA、Bは、Aサイト、Bサイトを指し、それぞれ、酸素が12配位、6配位しているサイトをいう。しかし、BiFeO3系の圧電材料は、絶縁性が低く、リーク電流が発生しやすいという問題があった。リーク電流が発生しやすいと、特に高電圧印加状態で使用した際に、クラックが発生しやすいなどの問題が生じやすいため、液体噴射ヘッドに使用し難いという問題がある。よって、圧電素子に用いられる圧電材料には、例えば、代表的な駆動電圧である25V印加時において、1×10−3A/cm2以下の高い絶縁性が求められる。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在し、また、液体噴射ヘッド以外に用いられる圧電素子においても同様に存在する。さらにこのリーク電流の問題は、圧電素子をセンサーとして使用するときに消費エネルギーの上昇という形で深刻な問題を生じる。例えば、1V以下の印加電圧の下で使用する圧電センサー、赤外線センサー、感熱センサー、焦電センサーに用いられる圧電素子においても、リーク電流は低いことが好ましい。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、環境負荷を低減し、高い絶縁性を有してリーク電流が抑制される液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧電体層と該圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、リーク電流が抑制されて高絶縁性の圧電素子となり、耐久性に優れたものとすることができる。また、鉛を含有していないため、環境への負荷を低減できる。
【0009】
ここで、前記ビスマス及び前記第1ドープ元素及び第2ドープ元素はAサイトに含まれており、前記鉄はBサイトに含まれていることが好ましい。
【0010】
また、前記複合酸化物は、ペロブスカイト型構造のAサイトに欠損を有し、かつBサイトにビスマスを有することが好ましい。
【0011】
また、前記複合酸化物は、ビスマス及び鉄に加えて、チタン酸バリウムをさらに含むことが好ましい。これによれば、さらに高い圧電特性(歪み量)を有する圧電素子を有する液体噴射ヘッドとなる。
【0012】
本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、リーク電流が抑制されて絶縁性に優れた圧電素子を具備し、耐久性に優れた液体噴射装置を実現することができる。また、鉛を含有していないため、環境への負荷を低減できる。
【0013】
本発明の他の態様は、圧電体層と前記圧電体層に設けられた電極とを備え、前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含むことを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、リーク電流が抑制されて絶縁性に優れた圧電素子を実現することができる。また、鉛を含有していないため、環境への負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】BiFeO3完全結晶の電子状態密度を示す図である。
【図5】BiFeO3のBiがAサイト中で12.5%欠陥した際の電子状態密度を示す図である。
【図6】BiFeO3のBサイトの鉄をBiが12.5%置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図7】PbZrTiO3において、Bサイトの遷移金属をPbが12.5%置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図8】BiFeO3に酸素サイト中で4%の酸素欠損が生じた際の電子状態密度を示す図である。
【図9】複合酸化物の結晶中におけるホッピング伝導を説明する模式図である。
【図10】本発明の複合酸化物の結晶中におけるホッピング伝導を説明する模式図である。
【図11】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をNaで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図12】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をKで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図13】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をCaで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図14】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をSrで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図15】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をBaで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図16】BiFeO3のAサイトのBiの12.5%をCeで置換した際の電子状態密度を示す図である。
【図17】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図18】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図19】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図20】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図21】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図22】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3は図2のA−A′線断面図である。図1〜図3に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0016】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0017】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0018】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば厚さ30〜50nm程度の酸化チタン等からなり、弾性膜50等の第1電極60の下地との密着性を向上させるための密着層56が設けられている。なお、弾性膜50上に、必要に応じて酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜が設けられていてもよい。
【0019】
さらに、この密着層56上には、第1電極60と、厚さが2μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び必要に応じて設ける絶縁体膜が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や密着層56を設けなくてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0020】
以下では、遷移金属を含む複合酸化物のペロブスカイト型構造をABO3で記す。ここで、Aサイト、Bサイトとは、それぞれ、酸素が12配位、6配位しているサイトを指す。
【0021】
本実施形態においては、圧電体層70は、ビスマス(Bi)及び鉄(Fe)を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウム(Ce)からなる第2ドープ元素とを含む。これにより、後述するように、リーク電流が抑制され且つ絶縁性に優れたものとすることができる。また、鉛を含有していないため、環境への負荷を低減できる。
【0022】
本実施形態にかかる複合酸化物としては、ペロブスカイト型構造のAサイトにビスマスを含み、Bサイトに鉄を含むものが挙げられるが、Aサイト、Bサイトのそれぞれにビスマスや鉄と置換して他の元素を含むものでもよい。例えば、Aサイトの置換元素としては、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、イットリウムなどが挙げられ、Bサイトの置換元素としては、コバルト、クロム、マンガン、ニッケル、銅などを挙げることができる。
【0023】
BiFeO3等に含まれるビスマスは、製造工程、特にそのなかでも圧電体層の焼成工程において揮発しやすく、Aサイトの結晶欠陥を生じやすいという問題がある。失われたBiは製造チャンバーの雰囲気中および下部電極側に拡散してしまう。Biが系から抜けると同時に、電子数のバランスを保つために酸素が欠損する。Bi欠陥と酸素欠陥の割合は電荷中性の原理を満たすために2:3である。この酸素欠損の存在自体が、クーロンポテンシャルを介して遷移金属のd電子の軌道エネルギーを下げて圧電素子のバンドギャップを狭めて、結果としてリーク電流を生じさせる直接の原因になる。酸素欠損を押さえるためには、Biの欠損を押さえればよい。そのための手段として、Biをあらかじめ化学量論組成に対して過剰に入れる手法が考えられる。しかしながら、過剰なBiはAサイトのみならず、Bサイトにも意図せずに一定の割合で入りこむ。これらBサイトに入りこんだBiは電子キャリアの供給元となり、圧電素子にリーク電流を生じさせるという問題点が生じる。そのためBiFeO3の系では、Biを化学量論組成に対して過剰に仕込む製造方法をとることができない。
【0024】
ここで、従来材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO3:PZT)では、鉛(Pb)がBiと同様に製造過程で揮発しやすい。そのためPbをあらかじめ化学量論組成に対して過剰に入れる手法がとられている。過剰なPbは、Bサイトに意図せずしてPbが入り込む現象を引き起こす。しかしながら、PZTでは、後述する図7に示すように、BサイトにPbが意図せず含まれたとしても、電子構造におけるバンドギャップを保つことができる。したがって、PbZrTiO3を製造する場合、Pbをあらかじめ化学量論組成に対して過剰に入れる手法をとったとしても、圧電体の絶縁性を損なうことはない。
【0025】
これらの問題点を、第一原理電子状態計算を用いてさらに検討した結果、以下の知見を得た。
【0026】
図4〜図8は、第一原理電子状態計算を用いて求めた各結晶の電子状態密度を示す図であり、横軸は電子のエネルギー差(eV)を示し、縦軸は電子の状態密度(DOS:Density of states)を示す。また、状態密度0(/eV)よりプラス側がアップスピンを示し、マイナス側がダウンスピンを示す。第一原理電子状態計算の条件としては、一般化された密度勾配近似(Generalized Gradient Approximation, GGA)の範囲での密度汎関数法に基づく、超ソフト擬ポテンシャル法(Ultra soft pseudopotential)を用いた。Bサイトの遷移金属原子に対しては、d電子軌道の局在性からくる強相関効果(strong correlation effect)を取り入れるために、GGA+U法(GGA plus U method)を適用した。波動関数(Wave function)のカットオフ及び電子密度(Charge density)のカットオフは、それぞれ20ハートリー、360ハートリーである。計算で用いた結晶のスーパーセルは、ABO3型ペロブスカイト型構造を2×2×2=8個用いて構成した。また、逆格子点(k点)のメッシュは(4×4×4)である。
【0027】
図4は、鉄酸ビスマス(BiFeO3)の完全結晶の電子状態密度を示す図であり、図5は、鉄酸ビスマス(BiFeO3)のAサイトのBiが12.5%欠陥した際の電子状態密度を示す図であり、図6は、鉄酸ビスマス(BiFeO3)のBサイトにBiが12.5%置換した際の電子状態密度、図7は、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO3)でBサイトにPbが12.5%置換した電子状態密度、図8は、鉄酸ビスマス(BiFeO3)の酸素サイトに4%の欠損が生じた場合の電子状態密度を示す図である。
【0028】
系は、図4、図5、図6、図8のいずれの場合も反強磁性状態が安定であった。
【0029】
図4に示すように、BiFeO3完全結晶の場合、すなわち各サイトに空孔が無く、Biの他の元素による置換もない場合は、最高電子占有準位(Ef)が価電子帯のトップにあり、バンドギャップが開き絶縁性となっていた。図4では、バンドギャップに対してエネルギーが低い側の状態が価電子帯、高い側の状態が伝導帯である。
【0030】
なお、最高電子占有準位とは、電子状態シミュレーションで得られた一電子エネルギーにおいて、電子が占有している最高軌道エネルギーレベルを示す。各電子状態密度のグラフでは、横軸の0点を最高電子占有準位(Ef)にとる。
【0031】
図5に示すように、BiFeO3において、Aサイトのビスマス(Bi)の一部を欠損させて欠陥を生じさせると、エネルギー0eVよりもプラス側に空(から)の状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が価電子帯のエネルギー領域に入り込む。従って系は絶縁性ではなくなり、ホールキャリアが生じて、電気伝導タイプとしてはp型となっていることがわかった。このとき空(から)の状態密度の面積を求めることで、AサイトのBiの欠損は3個分のホールキャリアを与えることがわかる。
【0032】
また、図6に示すように、Bサイトにビスマス(Bi)が含まれると、エネルギー0eVよりもマイナス側に占有された状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が伝導帯のエネルギー領域に入り込む。従って系は絶縁性ではなくなり、電子キャリアが生じてn型となっていることがわかった。このとき占有された状態密度の面積を求めることで、BサイトのBiは2個分の電子キャリアを与えることがわかる。このため製造過程で仕込み組成として過剰なBiを用いることは、系に電子キャリアを持ち込むこととなり、リーク特性の上で好ましくない。
【0033】
図7には、PZTでBサイトにPbが含まれている電子状態密度を示す。PZT系圧電材料では、BサイトにPbが意図せず含まれたとしても、図7に示すように、電子構造におけるバンドギャップを保つことができるので、PbZrTiO3を製造する場合、Pbをあらかじめ化学量論組成に対して過剰に入れる手法をとったとしても、圧電体の絶縁性を損なうことはない。
【0034】
また、図8に示すように、BiFeO3の酸素サイトに4%の欠損が生じると、エネルギー0eVよりもマイナス側に占有された状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が伝導帯のエネルギー領域に入り込む。従って、系は絶縁性ではなくなり、電子キャリアが生じてn型となっていることがわかった。このとき占有された状態密度の面積を求めることで、酸素サイトの欠損は2個分の電子キャリアを与えることがわかる。
【0035】
従って図5、図6、図8で示すように、BiFeO3中にはn型欠陥とp型欠陥が共存している。例えば半導体の場合には、伝導帯および価電子帯のキャリアの電子状態が自由電子的であるために、p型欠陥からくるホールキャリアとn型欠陥からくる電子キャリアは空間的に広がっており、互いに打ち消しあうことができる。一方、遷移金属酸化物の場合、伝導帯および価電子帯のキャリアは局在的であり、モビリティが小さい。そのためホールキャリアと電子キャリアの打ち消しあいは完全ではない。そのため遷移金属酸化物では、互いに打ち消しあうことのできなかったキャリアがホッピング伝導として系の電気伝導に寄与する。
【0036】
図9は、p型欠陥とn型欠陥とが存在する遷移金属化合物におけるホッピング伝導の状態を模式的に示したものである。このように、遷移金属化合物では、p型欠陥、n型欠陥のそれぞれにおいて、それぞれホールキャリアおよび電子キャリアの移動が生じるホッピング伝導のチャンネルが形成されている。このような状況では、仮に片側のキャリアを補償するようにドーピングを行ったとしても、もう片側のキャリアによるホッピング伝導を抑えることができない。これがBiFeO3で絶縁性を向上させることができない原因であると推測される。
【0037】
よって、p型欠陥を打ち消すn型ドープ元素や、n型欠陥を打ち消すp型ドープ元素を単独でドープしても、リーク電流の発生が防止できないが、n型ドープ元素及びp型ドープ元素を同時にドープ(コドープ)すれば、p型欠陥によるリーク電流並びにn型欠陥に基づくリーク電流が防止できる。
【0038】
本発明は、このような知見に基づくものであり、BiFeO3などの遷移金属化合物である複合酸化物に、n型ドープ元素及びp型ドープ元素を同時にドープ(コドープ)し、p型欠陥によるリーク電流並びにn型欠陥に基づくリーク電流を防止し、絶縁性を向上させたものである。
【0039】
このようにn型ドープ元素及びp型ドープ元素を同時にドープ(コドープ)した本発明の遷移金属化合物の模式図を図10に示す。この図に示すように、BiFeO3などの遷移金属化合物である複合酸化物に、n型ドープ元素及びp型ドープ元素を同時にドープ(コドープ)すると、p型欠陥がn型ドープ元素によって打ち消され、n型欠陥がp型ドープ元素で打ち消される。そのため、p型欠陥の間をホッピングして生じるリーク電流も、n型欠陥の間をホッピングして生じるリーク電流も大きく低減することができる。
【0040】
すなわち、本発明は、具体的には、例えば、BiFeO3に、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウム(Ce)からなる第2ドープ元素とを同時にドープしたものである。
【0041】
これらのドープ元素は、Aサイトに置換されるものであり、第1ドープ元素は、p型ドナーとなり、n型欠陥を打ち消し、第2ドープ元素は、n型ドナーとなり、p型欠陥を打ち消す。
【0042】
図11〜図16には、Aサイトの12.5%のBiがナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びセリウム(Ce)でそれぞれ置換された各結晶について、第一原理電子状態計算を用いて求めた電子状態密度を示す図である。なお、第一原理電子状態計算の条件は、上述したものと同様である。
【0043】
図11〜図15に示すように、BiFeO3のビスマス(Bi)の一部を強制的に第1ドープ元素であるナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)で置換すると、エネルギー0eVよりもプラス側に空(から)の状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が価電子帯のエネルギー領域に入り込む。従って系は絶縁性ではなくなりホールキャリアが生じて、ドーピングのタイプとしてはp型となっていることがわかった。このとき空(から)の状態密度の面積を求めることで、Aサイトに対する第1ドープ元素は、以下のホールキャリアを与えることがわかる。すなわち、NaとKの場合、2個分のホールキャリアを与える。また、またCa、Sr、Baの場合、1個分のホールキャリアをそれぞれ与える。これより、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)の各元素は、p型ドナーとして働くことがわかる。
【0044】
また、図16に示すように、BiFeO3のビスマス(Bi)の一部を強制的に第2ドープ元素であるセリウム(Ce)で置換すると、エネルギー0eVよりもマイナス側に占有された状態密度が現れる。すなわち、最高電子占有準位が伝導帯のエネルギー領域に入り込む。従って系は絶縁性ではなくなり、電子キャリアが生じてn型となっていることがわかった。このとき占有された状態密度の面積を求めることで、Aサイトを置換したCeは1個分の電子キャリアを与えることがわかる。これより、セリウムがn型ドナーとして働くことがわかる。
【0045】
以上説明したように、本発明では、例えば、BiFeO3に、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素をドープすることにより、n型欠陥を打ち消し、また、セリウム(Ce)からなる第2ドープ元素をドープすることにより、p型欠陥を打ち消すことができ、結果として、高い絶縁性を維持できる。
【0046】
本発明の第1ドープ元素であるNa、Kの場合、2個分のホールキャリアを系に与えるため、n型欠陥から生じる2個分の電子キャリアをキャンセルすることができる。また、本発明の第1ドープ元素であるCa、Sr、Baの場合、1個分のホールキャリアを系に与えるため、n型欠陥から生じる1個分の電子キャリアをキャンセルすることができる。
【0047】
また本発明の第2ドープ元素であるCeは1個分の電子キャリアを系に与えるため、p型欠陥から生じる1個分のホールキャリアをキャンセルすることができる。
【0048】
これらドープ元素は、Aサイトに位置することでビスマス欠陥自体を完全になくしてしまうわけではない。すなわちAサイトの原子欠陥と、Aサイトの第1および第2ドープ元素は共存することができる。例えば、Aサイトにビスマス欠陥が生じている場合でも、ビスマスが抜けた位置にドープ元素が入るわけではなく、それらのビスマス欠陥が存在したまま、それ以外のAサイトのBi等の元素を置換してドープされる。そしてBサイトのビスマス(n型)およびAサイトのビスマス欠陥(p型)を打ち消すように働く。
【0049】
ここで、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素は、予想されるn型欠陥の量に対応する量をドープし、セリウム(Ce)からなる第2ドープ元素は、予想されるp型欠陥の量に対応する量をドープするのが好ましい。そのため例えば、10%以下、好ましくは5%以下がドープ適正量となる。なお、第1ドープ元素は、1種類でも2種類以上同時にドープしてもよい。
【0050】
このようなドープ元素は、元となるペロブスカイト型構造を構成する元素とは区別され、結晶中に生じる欠陥量に応じてドープされるものである。
【0051】
本発明において、複合酸化物は、Aサイトに、大きなイオン半径を有するランタンを含んでいてもよい。ランタンを含むことでペロブスカイト型構造以外の異相の出現を押さえることができる。さらにランタンはビスマスの場合に比べて、最近接の酸素との共有結合性がかなり弱いため、印加電界による分極モーメントの回転に対して、ポテンシャル障壁が下がる。この分極モーメントの回転を容易に起こしやすい状況が圧電特性を高める。またランタンは+3のイオン価数を有する金属であるため、これら金属元素がAサイトに存在していても、本発明の「価数バランス」は変わらずに、リーク電流の状況に悪影響を及ぼすことはない。Aサイトにおけるランタンの含有割合は、ビスマスとランタンの総量に対してモル比で0.05以上0.20以下とするのが好ましい。プラセオジム、ネオジム、サマリウムも+3のイオン価数を有するイオン半径の大きな元素であるため、ランタンと同様の効果を有する。
【0052】
また、複合酸化物は、Bサイトに鉄(Fe)の他、コバルト(Co)、クロム(Cr)又は両者を含んでもよい。これらの元素は、Bサイトの元素の総量に対して、モル比で0.125以上0.875以下含むのが好ましい。このように、複合酸化物が、Bサイト位置に鉄とコバルトおよびクロムとを所定の割合で含むことにより、絶縁性及び磁性を維持することができる。また、かかる複合酸化物は、組成相境界(MPB:Morphotoropic Phase Boundary)を有しているため、圧電特性に優れたものとすることができる。特に、鉄及びコバルト又はクロムの総量に対するコバルト又はクロムのモル比が0.5付近では、MPBにより、例えば、圧電定数等が大きくなり、圧電特性に特に優れたものとなる。
【0053】
さらに、複合酸化物は、BiFeO3に加えて、さらに、化学量論組成のチタン酸バリウム(例えばペロブスカイト型構造のBaTiO3)を含んでいるのが好ましい。この場合、室温において、ロンボヘドラル構造のBiFeO3とテトラゴナル構造のBaTiO3の間でMPBが現れる。MPBが現れるおよその組成比は、BiFeO3:BaTiO3で3:1である。そのためこの組成では圧電体層70の圧電特性が良好になり小さい電圧で振動板を大きく変位させることができる。ここで、圧電体層70がチタン酸バリウムを含む場合は、例えば、チタン酸バリウムと主成分である鉄酸ビスマスとで形成されるペロブスカイト型構造の複合酸化物(例えば(Bi,Ba)(Fe,Ti)O3)に、第1ドープ元素及び第2ドープ元素が同時にドープされたものとなる。特に本発明のように第1ドープ元素としてバリウムを選択する場合には、化学量論組成を満たすチタン酸バリウム(BaTiO3)に対してさらに過剰なバリウムを添加することとなる。
【0054】
かかる本実施形態の圧電体層70は、単斜晶系の結晶構造を有するものである。すなわち、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70は、モノクリニックな対称性を有するものである。このような圧電体層70は、高い圧電特性を得ることができる。その理由としては、面に垂直方向にかかる印加電界に対して、圧電体層の分極モーメントが容易に回転しやすい構造となっていることが考えられる。圧電体層においては、分極モーメントの変化量と結晶構造の変形量が直接結合しており、これがまさに圧電性となる。以上より、分極モーメントの変化が起きやすい構造においては、高い圧電性を得ることができる。
【0055】
また、圧電体層70は、分極方向が膜面垂直方向(圧電体層70の厚さ方向)に対して所定角度(50度〜60度)傾いているエンジニアード・ドメイン配置であることが好ましい。
【0056】
圧電体層70の結晶配向方向としては、前記エンジニアード・ドメインの分極方向の条件をみたすのであれば、(100)配向、(111)配向、(110)配向のいずれか、あるいはそれらの入り混じった構造であってもよい。
【0057】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0058】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、必要に応じて設ける絶縁体膜等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0059】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0060】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0061】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0062】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0063】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0064】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0065】
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図17〜図21を参照して説明する。なお、図17〜図21は、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0066】
まず、図17(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図17(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜)上に、酸化チタン等からなる密着層56を、スパッタリング法や熱酸化等で形成する。
【0067】
次に、図18(a)に示すように、密着層56の上に、第1電極60を構成する白金膜をスパッタリング法等により全面に形成する。
【0068】
次いで、この白金膜上に、圧電体層70を積層する。圧電体層70は、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層(圧電体膜)を得るMOD(Metal−Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法や、スパッタリング法等の気相法により形成できる。なお、圧電体層70は、その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法などで形成してもよい。
【0069】
圧電体層70の具体的な形成手順例としては、まず、図18(b)に示すように、第1電極60上に、金属錯体、具体的には、Bi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素を含有する金属錯体を、目的とする組成比になる割合で含むゾルやMOD溶液(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して圧電体前駆体膜71を形成する(塗布工程)。
【0070】
塗布する前駆体溶液は、Bi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素を含む複合酸化物を形成し得る金属錯体を、各金属が所望のモル比となるように混合し、該混合物をアルコールなどの有機溶媒を用いて溶解または分散させたものである。
【0071】
ここでいう「焼成によりBi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素を含む複合酸化物を形成し得る金属錯体」とは、Bi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素のうち一種以上の金属を含む金属錯体の混合物を指す。Bi及びFe、必要に応じて含有させるLaやCo、Cr、並びに第1ドープ元素及び第2ドープ元素をそれぞれ含む金属錯体としては、例えば、金属アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。
【0072】
Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマスなどが挙げられる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄などが挙げられる。Coを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸コバルトなどが挙げられる。Crを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸クロムなどが挙げられる。Laを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸ランタンなどが挙げられる。また、Naを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ナトリウムアセチルアセトナート、ナトリウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。Kを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸カリウム、酢酸カリウム、カリウムアセチルアセトナート、カリウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。Caを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸カルシウムが挙げられる。Srを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸ストロンチウムが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸バリウムが挙げられる。Ceを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸セリウムなどが挙げられる。なお、勿論、Bi、Fe、Co、Laなどの元素のうち二種以上含む金属錯体を用いてもよい。
【0073】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度(150〜400℃)に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。なお、ここでいう脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中でも不活性ガス中でもよい。
【0074】
次に、図18(c)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば600〜800℃程度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中でも不活性ガス中でもよい。
【0075】
なお、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0076】
次に、図19(a)に示すように、圧電体膜72上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして第1電極60及び圧電体膜72の1層目をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。
【0077】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72からなる圧電体層70を形成することで、図19(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、塗布溶液の1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、例えば、10層の圧電体膜72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.1μm程度となる。なお、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0078】
このように圧電体層70を形成した後は、図20(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜800℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0079】
次に、図20(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0080】
次に、図20(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0081】
次に、図21(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0082】
そして、図21(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0083】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0084】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0085】
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0086】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図22は、そのインクジェット式記録装置IIの一例を示す概略図である。
【0087】
図22に示すように、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0088】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0089】
図22に示す例では、インクジェット式記録ヘッドユニット1A、1Bは、それぞれ1つのインクジェット式記録ヘッドIを有するものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、1つのインクジェット式記録ヘッドユニット1A又は1Bが2以上のインクジェット式記録ヘッドを有するようにしてもよい。
【0090】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0091】
本発明の圧電素子は、良好な絶縁性及び圧電特性を示すため、上述したように、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドの圧電素子に適用することができるものであるが、これに限定されるものではない。例えば、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧電トランス、並びに赤外線センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー及び焦電センサー等の各種センサー等の圧電素子に適用することができる。また、本発明は、強誘電体メモリー等の強誘電体素子にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、
圧電体層と該圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子と、を具備し、
前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ビスマス及び前記第1ドープ元素及び第2ドープ元素はAサイトに含まれており、前記鉄はBサイトに含まれていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記複合酸化物は、ペロブスカイト型構造のAサイトに欠損を有し、かつBサイトにビスマスを有することを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記複合酸化物は、ビスマス及び鉄に加えて、チタン酸バリウムをさらに含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
圧電体層と前記圧電体層に設けられた電極とを備え、
前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含むことを特徴とする圧電素子。
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、
圧電体層と該圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子と、を具備し、
前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ビスマス及び前記第1ドープ元素及び第2ドープ元素はAサイトに含まれており、前記鉄はBサイトに含まれていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記複合酸化物は、ペロブスカイト型構造のAサイトに欠損を有し、かつBサイトにビスマスを有することを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記複合酸化物は、ビスマス及び鉄に加えて、チタン酸バリウムをさらに含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
圧電体層と前記圧電体層に設けられた電極とを備え、
前記圧電体層は、ビスマス及び鉄を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の第1ドープ元素と、セリウムからなる第2ドープ元素とを含むことを特徴とする圧電素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−148495(P2012−148495A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9282(P2011−9282)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]