液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
【課題】圧電素子の破壊を防止することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】圧力発生室12に対向する領域の下電極60が圧力発生室12の幅よりも狭い幅で形成されていると共に圧力発生室12に対応する領域の下電極60の上面及び端面が圧電体層70によって覆われ、圧電体層70の端面がその外側に向かって下り傾斜する傾斜面となっており、圧力発生室12に対向する領域においては、圧電体層70の上面及び端面が上電極80によって覆われ且つ下電極60の上面と圧電体層70の上面との距離D1と下電極60の端面と圧電体層70の端面との距離D2とがD2≧D1の関係を満たす構成とする。
【解決手段】圧力発生室12に対向する領域の下電極60が圧力発生室12の幅よりも狭い幅で形成されていると共に圧力発生室12に対応する領域の下電極60の上面及び端面が圧電体層70によって覆われ、圧電体層70の端面がその外側に向かって下り傾斜する傾斜面となっており、圧力発生室12に対向する領域においては、圧電体層70の上面及び端面が上電極80によって覆われ且つ下電極60の上面と圧電体層70の上面との距離D1と下電極60の端面と圧電体層70の端面との距離D2とがD2≧D1の関係を満たす構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の変位によってノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に、液滴としてインク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を噴射する液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、圧力発生室が形成された流路形成基板と、流路形成基板の一方面側に設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、この圧電素子の変位によって圧力発生室内に圧力を付与することで、ノズルからインク滴を噴射するものがある。このようなインクジェット式記録ヘッドに採用されている圧電素子は、例えば、湿気等の外部環境に起因して破壊され易いという問題がある。この問題を解決するために、例えば、圧電体層の外周面を上電極で覆うようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−88441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、圧電体層を上電極で覆うようにすることで、湿気に伴う圧電体層の破壊を抑制することはできるが、圧電体層の端面に形成されている上電極と下電極との距離が極めて近くなってしまうため、両電極間で絶縁破壊が生じて圧電素子が破壊されてしまう虞がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、圧電素子の破壊を防止することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、液滴を吐出するノズルにそれぞれ連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、前記圧力発生室に対向する領域の前記下電極が当該圧力発生室の幅よりも狭い幅で形成されていると共に前記圧力発生室に対応する領域の前記下電極の上面及び端面が前記圧電体層によって覆われ、前記圧電体層の端面がその外側に向かって下り傾斜する傾斜面となっており、前記圧力発生室に対向する領域においては、前記圧電体層の上面及び端面が前記上電極によって覆われ且つ前記下電極の上面と前記圧電体層の上面との距離D1と前記下電極の端面と前記圧電体層の端面との距離D2とがD2≧D1の関係を満たしていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる本発明では、圧力発生室に対向する領域の圧電体層の表面が、上電極膜によって実質的に覆われているため、大気中の水分に起因する圧電体層の破壊を防止することができる。さらに上記距離D1と距離D2との関係を満たしていることで、圧電素子を構成する下電極と上電極との間隔が十分に確保される。すなわち、上記関係を満たす程度に下電極と上電極との間隔を確保しておくことで、両者間で絶縁破壊が生じるのを確実に防止することができる。
【0007】
ここで、例えば、前記下電極は前記圧力発生室に対応して独立して設けられて前記圧電素子の個別電極を構成し、前記上電極は前記圧力発生室の並設方向に亘って連続的に設けられて前記圧電素子の共通電極を構成している。また例えば、前記下電極は前記圧電素子の共通電極を構成し、前記上電極は前記圧力発生室間の隔壁上で切り分けられて前記圧電素子の個別電極を構成していてもよい。このように圧電素子の電極構造に拘わらず、圧電体層の破壊を確実に防止することができる。
【0008】
また、前記圧力発生室の長手方向における前記下電極の一方の端部が前記圧力発生室に対向する領域内に位置すると共に、前記圧力発生室の長手方向における前記上電極の端部が前記圧力発生室に対向する領域内に位置し、前記圧電素子の前記下電極の端部と前記上電極の端部との間の部分が、実質的な駆動部となっていることが好ましい。このような構成では、圧力発生室の長手方向両端部近傍の振動板に、圧電素子の駆動による変形が生じることがないため、振動板の耐久性が向上する。
【0009】
また、耐湿性を有する材料からなる保護膜が、前記上電極の周縁部及び前記圧力発生室に対向する領域で露出された前記圧電体層の表面を覆って設けられていることが好ましい。これにより、大気中の水分に起因する圧電体層の破壊をさらに確実に防止することができる。
【0010】
また、本発明は、このような液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる本発明では、ヘッドの耐久性が向上した信頼性ある液体噴射装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る圧電素子の構成を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図及び断面図である。
【図5】実施形態2に係る圧電素子の構成を示す断面図である。
【図6】実施形態3に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図7】実施形態3に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図8】実施形態3に係る圧電素子の構成を示す断面図である。
【図9】実施形態3に係る圧電素子の構成の変形例を示す断面図である。
【図10】実施形態3に係る圧電素子の構成の変形例を示す断面図である。
【図11】一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0013】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では結晶面方位が(110)であるシリコン単結晶基板からなり、その一方面には酸化膜からなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11によって区画され一方側の面が弾性膜50で構成される複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。
【0014】
流路形成基板10には、圧力発生室12の長手方向一端部側に、隔壁11によって区画され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。連通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部15は、後述する保護基板30のリザーバ部32と連通して、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する。
【0015】
ここで、インク供給路13は、圧力発生室12よりも狭い断面積となるように形成されており、連通部15から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。例えば、インク供給路13は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、各連通路14は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部15側に延設してインク供給路13と連通部15との間の空間を区画することで形成されている。
【0016】
なお、流路形成基板10の材料として、本実施形態ではシリコン単結晶基板を用いているが、勿論これに限定されず、例えば、ガラスセラミックス、ステンレス鋼等を用いてもよい。
【0017】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼などからなる。
【0018】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を有する部分だけでなく、少なくとも圧電体層70を有する部分を含む。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を圧電体層70と共に圧力発生室12毎にパターニングして個別電極とする。またここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみを残して下電極膜60を振動板としてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0019】
ここで、本実施形態に係る圧電素子300の構造について詳しく説明する。図3に示すように、圧電素子300を構成する下電極膜60は、各圧力発生室12に対向する領域毎に、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で設けられて各圧電素子300の個別電極を構成している。また下電極膜60は、各圧力発生室12の長手方向一端部側から周壁上まで延設されている。そして下電極膜60には、圧力発生室12の外側の領域で、例えば、金(Au)等からなるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。一方、圧力発生室12の長手方向他端部側の下電極膜60の端部は、圧力発生室12に対向する領域内に位置している。
【0020】
圧電体層70は、下電極膜60の幅よりも広い幅で且つ圧力発生室12の幅よりも狭い幅で設けられている。圧力発生室12の長手方向においては、圧電体層70の両端部は、圧力発生室12の端部の外側まで延設されている。すなわち圧電体層70は、圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60の上面及び端面を完全に覆うように設けられている。なお、圧力発生室12の長手方向一端部側の圧電体層70の端部は、圧力発生室12の端部近傍に位置しておりその外側の領域には下電極膜60がさらに延設されている。
【0021】
上電極膜80は、複数の圧力発生室12に対向する領域に連続的に形成され、また圧力発生室12の長手方向他端部側から周壁上まで延設されている。すなわち、上電極膜80は、圧力発生室12に対向する領域の圧電体層70の上面及び端面のほぼ全域を覆って設けられている。これにより、圧電体層70への大気中の水分(湿気)の浸透が実質的に防止される。したがって、水分(湿気)に起因する圧電素子300(圧電体層70)の破壊を防止することができ、圧電素子300の耐久性を著しく向上することができる。
【0022】
また圧力発生室12の長手方向他端部側の上電極膜80の端部は、圧力発生室12に対向する領域内に位置しており、圧電素子300の実質的な駆動部が圧力発生室12に対向する領域内に設けられている。すなわち、圧力発生室12内に位置する下電極膜60の端部と上電極膜80の端部との間の部分の圧電素子300が実質的な駆動部となっている。このため、圧電素子300を駆動しても、圧力発生室12の長手方向両端部近傍の振動板(弾性膜50、絶縁体膜55)には大きな変形が生じることはないため、この部分の振動板に割れが発生するのを防止することができる。なおこのような構成では、圧力発生室12に対向する領域内でも圧電体層70の表面が若干露出されることになるが、その面積は極めて狭く、また後述するように上電極膜80の周縁部と下電極膜60の間の距離が大きいため、水分に起因する圧電体層70の破壊を防止することができる。
【0023】
また図4に示すように、上電極膜80の周縁部及び圧力発生室12に対向する領域で露出された圧電体層70の表面を覆って、例えば、酸化アルミニウム等の耐湿性を有する材料からなる保護膜150を設けるようにしてもよい。これにより、圧電体層70の水分に起因する破壊をより確実に防止することができる。
【0024】
そして本発明では、このような圧電素子300を構成する圧電体層70の各部の厚さが、次のような関係を満たしている。具体的には、下電極膜60の上面上に形成された圧電体層70の厚さ、つまり下電極膜60の上面と圧電体層70の上面との距離D1と、傾斜する下電極膜60の端面上に形成された圧電体層70の厚さ、つまり下電極膜60の端面と圧電体層70の端面との距離D2とが、D2≧D1の関係を満たしている(図3参照)。すなわち、下電極膜60の端面上の圧電体層70の厚さD2が、圧電素子300の駆動に寄与する部分である下電極膜60の上面上に形成されている圧電体層70の厚さD1以上の厚さとなっている。
【0025】
これにより、圧電体層70の端面上の上電極膜80と下電極膜60との間隔が十分に確保され、これら上電極膜80と下電極膜60との間で絶縁破壊が生じてしまうのを防止することができる。したがって、圧電素子300の破壊を防止することができ、耐久性を向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0026】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電素子保持部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。また、保護基板30には、流路形成基板10の連通部15に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に沿って設けられており、上述したように流路形成基板10の連通部15と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0027】
さらに、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、下電極膜60及びリード電極90の端部がこの貫通孔33内に露出されている。そして、図示しないが、これら下電極膜60及びリード電極90は、貫通孔33内に延設される接続配線によって圧電素子300を駆動するための駆動IC等に接続される。
【0028】
なお、保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0029】
この保護基板30上には、さらに、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0030】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動ICからの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加し、圧電素子300をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0031】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る圧電素子の構成を示す断面図である。図5に示すように、本実施形態では、圧電体層70を、並設された複数の圧力発生室12に対向する領域に亘って連続して形成するようにした例である。すなわち、並設された各圧電素子300間にも、圧電素子300を構成する圧電体層70よりも薄い厚さの圧電体層71を残すようにした以外は、実施形態1と同様である。この圧電体層71の厚さは特に限定されず、圧電素子300の変位量を考慮して適宜決定されればよい。
【0032】
このように圧電体層70を連続的に設けることで、圧電素子300の駆動に伴う振動板、すなわち弾性膜50及び絶縁体膜55の破壊を防止することができる。圧力発生室12の幅方向両端部近傍の振動板は、圧電素子300の駆動に伴って大きく変形するため割れが生じやすいが、圧電体層70を連続的に設けておくことで振動板の剛性が実質的に向上し、このような振動板の割れの発生を防止することができる。
【0033】
また、上述したように上電極膜80の周縁部及び圧電体層70の露出された表面は保護膜150で覆われていることが好ましい(図4参照)。
【0034】
(実施形態3)
図6は、実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図7は、図6の平面図及びそのC−C′断面図である。また図8は、実施形態3に係る圧電素子の構成を示す断面図である。なお図1〜図3に示した部材と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
本実施形態は、圧電素子300を構成する下電極膜60が、圧電素子300の共通電極膜を構成し、上電極膜80が個別電極を構成している以外は、実施形態1と同様である。
【0036】
図示するように、本実施形態に係る下電極膜60は、各圧力発生室12に対向する領域毎に、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で、各圧力発生室12の長手方向一端部側から周壁上まで延設され、周壁上で連結されて各圧電素子300に共通する共通電極を構成している。圧力発生室12の長手方向他端部側の下電極膜60の端部は、圧力発生室12に対向する領域内に位置している。
【0037】
圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向に両端部の外側まで延設されており、圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60の上面及び端面が圧電体層70によって完全に覆われている。また圧力発生室12の長手方向一端部側では、圧電体層70の外側まで下電極膜60がさらに延設されている。
【0038】
上電極膜80は、圧電体層70の幅よりも広い幅で、各圧力発生室12に対向する領域にそれぞれ独立して設けられている。すなわち上電極膜80は圧力発生室12間の隔壁11上で切り分けられて圧電素子300の個別電極を構成している。また上電極膜80は、圧力発生室12の長手方向他端部側から周壁上まで延設されている。これにより圧力発生室12に対向する領域の圧電体層70の上面及び端面は上電極膜80によってほぼ完全に覆われている。
【0039】
なお本実施形態では、上電極膜80は、各圧力発生室12の長手方向他端部側で圧電体層70の端部よりも外側まで延設されている。そして、この上電極膜80の端部近傍にリード電極91が接続されており、このリード電極91を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。
【0040】
また本実施形態の構成においても、下電極膜60の上面と圧電体層70の上面との距離D1と、下電極膜60の端面と圧電体層70の端面との距離D2とが、D2≧D1の関係を満たしている(図8参照)。すなわち、下電極膜60の端面上の圧電体層70の厚さD2が、圧電素子300の駆動に寄与する部分である下電極膜60の上面上に形成されている圧電体層70の厚さD1以上の厚さとなっている。
【0041】
そして、このような本実施形態の構成においても、勿論、水分等に起因する圧電素子300の破壊を防止することができる。つまり、圧電素子の電極構造に拘わらず、圧電体層の破壊を確実に防止することができ、耐久性を向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0042】
さらに本実施形態の構成においても、図9に示すように、並設された各圧電素子300間に圧電体層70よりも薄い厚さの圧電体層71を残し、並設された複数の圧力発生室12に対向する領域に亘って圧電体層70を連続して形成するようにしてもよい。
【0043】
またこのような構成においても、上述したように上電極膜80の端部及び圧電体層70の露出された表面は保護膜150で覆われていることが好ましく、本実施形態の構成においては、図10に示すように、圧力発生室12間の隔壁11上で露出されている圧電体層71の表面も、この保護膜150によって覆うようにすることが好ましい。隔壁11上、つまり圧力発生室12の外側の圧電体層71は、圧電素子300の変位には直接的に寄与する部分ではないため、隔壁11上で露出された圧電体層71の表面は必ずしも保護膜150で覆う必要はないが、隔壁11上で露出された圧電体層71の表面を保護膜150で覆っておくことで、圧電素子300を構成する圧電体層70の破壊をより確実に防止して、圧電素子300を常に良好に変位させることができる。
【0044】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0045】
また上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図11に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0046】
なお、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0047】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体膜、 80 上電極膜、 100 リザーバ、 150 保護膜、 300 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の変位によってノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に、液滴としてインク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を噴射する液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、圧力発生室が形成された流路形成基板と、流路形成基板の一方面側に設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、この圧電素子の変位によって圧力発生室内に圧力を付与することで、ノズルからインク滴を噴射するものがある。このようなインクジェット式記録ヘッドに採用されている圧電素子は、例えば、湿気等の外部環境に起因して破壊され易いという問題がある。この問題を解決するために、例えば、圧電体層の外周面を上電極で覆うようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−88441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、圧電体層を上電極で覆うようにすることで、湿気に伴う圧電体層の破壊を抑制することはできるが、圧電体層の端面に形成されている上電極と下電極との距離が極めて近くなってしまうため、両電極間で絶縁破壊が生じて圧電素子が破壊されてしまう虞がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、圧電素子の破壊を防止することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、液滴を吐出するノズルにそれぞれ連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、前記圧力発生室に対向する領域の前記下電極が当該圧力発生室の幅よりも狭い幅で形成されていると共に前記圧力発生室に対応する領域の前記下電極の上面及び端面が前記圧電体層によって覆われ、前記圧電体層の端面がその外側に向かって下り傾斜する傾斜面となっており、前記圧力発生室に対向する領域においては、前記圧電体層の上面及び端面が前記上電極によって覆われ且つ前記下電極の上面と前記圧電体層の上面との距離D1と前記下電極の端面と前記圧電体層の端面との距離D2とがD2≧D1の関係を満たしていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる本発明では、圧力発生室に対向する領域の圧電体層の表面が、上電極膜によって実質的に覆われているため、大気中の水分に起因する圧電体層の破壊を防止することができる。さらに上記距離D1と距離D2との関係を満たしていることで、圧電素子を構成する下電極と上電極との間隔が十分に確保される。すなわち、上記関係を満たす程度に下電極と上電極との間隔を確保しておくことで、両者間で絶縁破壊が生じるのを確実に防止することができる。
【0007】
ここで、例えば、前記下電極は前記圧力発生室に対応して独立して設けられて前記圧電素子の個別電極を構成し、前記上電極は前記圧力発生室の並設方向に亘って連続的に設けられて前記圧電素子の共通電極を構成している。また例えば、前記下電極は前記圧電素子の共通電極を構成し、前記上電極は前記圧力発生室間の隔壁上で切り分けられて前記圧電素子の個別電極を構成していてもよい。このように圧電素子の電極構造に拘わらず、圧電体層の破壊を確実に防止することができる。
【0008】
また、前記圧力発生室の長手方向における前記下電極の一方の端部が前記圧力発生室に対向する領域内に位置すると共に、前記圧力発生室の長手方向における前記上電極の端部が前記圧力発生室に対向する領域内に位置し、前記圧電素子の前記下電極の端部と前記上電極の端部との間の部分が、実質的な駆動部となっていることが好ましい。このような構成では、圧力発生室の長手方向両端部近傍の振動板に、圧電素子の駆動による変形が生じることがないため、振動板の耐久性が向上する。
【0009】
また、耐湿性を有する材料からなる保護膜が、前記上電極の周縁部及び前記圧力発生室に対向する領域で露出された前記圧電体層の表面を覆って設けられていることが好ましい。これにより、大気中の水分に起因する圧電体層の破壊をさらに確実に防止することができる。
【0010】
また、本発明は、このような液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる本発明では、ヘッドの耐久性が向上した信頼性ある液体噴射装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る圧電素子の構成を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図及び断面図である。
【図5】実施形態2に係る圧電素子の構成を示す断面図である。
【図6】実施形態3に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図7】実施形態3に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図8】実施形態3に係る圧電素子の構成を示す断面図である。
【図9】実施形態3に係る圧電素子の構成の変形例を示す断面図である。
【図10】実施形態3に係る圧電素子の構成の変形例を示す断面図である。
【図11】一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0013】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では結晶面方位が(110)であるシリコン単結晶基板からなり、その一方面には酸化膜からなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11によって区画され一方側の面が弾性膜50で構成される複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。
【0014】
流路形成基板10には、圧力発生室12の長手方向一端部側に、隔壁11によって区画され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。連通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部15は、後述する保護基板30のリザーバ部32と連通して、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する。
【0015】
ここで、インク供給路13は、圧力発生室12よりも狭い断面積となるように形成されており、連通部15から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。例えば、インク供給路13は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、各連通路14は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部15側に延設してインク供給路13と連通部15との間の空間を区画することで形成されている。
【0016】
なお、流路形成基板10の材料として、本実施形態ではシリコン単結晶基板を用いているが、勿論これに限定されず、例えば、ガラスセラミックス、ステンレス鋼等を用いてもよい。
【0017】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼などからなる。
【0018】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を有する部分だけでなく、少なくとも圧電体層70を有する部分を含む。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を圧電体層70と共に圧力発生室12毎にパターニングして個別電極とする。またここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみを残して下電極膜60を振動板としてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0019】
ここで、本実施形態に係る圧電素子300の構造について詳しく説明する。図3に示すように、圧電素子300を構成する下電極膜60は、各圧力発生室12に対向する領域毎に、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で設けられて各圧電素子300の個別電極を構成している。また下電極膜60は、各圧力発生室12の長手方向一端部側から周壁上まで延設されている。そして下電極膜60には、圧力発生室12の外側の領域で、例えば、金(Au)等からなるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。一方、圧力発生室12の長手方向他端部側の下電極膜60の端部は、圧力発生室12に対向する領域内に位置している。
【0020】
圧電体層70は、下電極膜60の幅よりも広い幅で且つ圧力発生室12の幅よりも狭い幅で設けられている。圧力発生室12の長手方向においては、圧電体層70の両端部は、圧力発生室12の端部の外側まで延設されている。すなわち圧電体層70は、圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60の上面及び端面を完全に覆うように設けられている。なお、圧力発生室12の長手方向一端部側の圧電体層70の端部は、圧力発生室12の端部近傍に位置しておりその外側の領域には下電極膜60がさらに延設されている。
【0021】
上電極膜80は、複数の圧力発生室12に対向する領域に連続的に形成され、また圧力発生室12の長手方向他端部側から周壁上まで延設されている。すなわち、上電極膜80は、圧力発生室12に対向する領域の圧電体層70の上面及び端面のほぼ全域を覆って設けられている。これにより、圧電体層70への大気中の水分(湿気)の浸透が実質的に防止される。したがって、水分(湿気)に起因する圧電素子300(圧電体層70)の破壊を防止することができ、圧電素子300の耐久性を著しく向上することができる。
【0022】
また圧力発生室12の長手方向他端部側の上電極膜80の端部は、圧力発生室12に対向する領域内に位置しており、圧電素子300の実質的な駆動部が圧力発生室12に対向する領域内に設けられている。すなわち、圧力発生室12内に位置する下電極膜60の端部と上電極膜80の端部との間の部分の圧電素子300が実質的な駆動部となっている。このため、圧電素子300を駆動しても、圧力発生室12の長手方向両端部近傍の振動板(弾性膜50、絶縁体膜55)には大きな変形が生じることはないため、この部分の振動板に割れが発生するのを防止することができる。なおこのような構成では、圧力発生室12に対向する領域内でも圧電体層70の表面が若干露出されることになるが、その面積は極めて狭く、また後述するように上電極膜80の周縁部と下電極膜60の間の距離が大きいため、水分に起因する圧電体層70の破壊を防止することができる。
【0023】
また図4に示すように、上電極膜80の周縁部及び圧力発生室12に対向する領域で露出された圧電体層70の表面を覆って、例えば、酸化アルミニウム等の耐湿性を有する材料からなる保護膜150を設けるようにしてもよい。これにより、圧電体層70の水分に起因する破壊をより確実に防止することができる。
【0024】
そして本発明では、このような圧電素子300を構成する圧電体層70の各部の厚さが、次のような関係を満たしている。具体的には、下電極膜60の上面上に形成された圧電体層70の厚さ、つまり下電極膜60の上面と圧電体層70の上面との距離D1と、傾斜する下電極膜60の端面上に形成された圧電体層70の厚さ、つまり下電極膜60の端面と圧電体層70の端面との距離D2とが、D2≧D1の関係を満たしている(図3参照)。すなわち、下電極膜60の端面上の圧電体層70の厚さD2が、圧電素子300の駆動に寄与する部分である下電極膜60の上面上に形成されている圧電体層70の厚さD1以上の厚さとなっている。
【0025】
これにより、圧電体層70の端面上の上電極膜80と下電極膜60との間隔が十分に確保され、これら上電極膜80と下電極膜60との間で絶縁破壊が生じてしまうのを防止することができる。したがって、圧電素子300の破壊を防止することができ、耐久性を向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0026】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電素子保持部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。また、保護基板30には、流路形成基板10の連通部15に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に沿って設けられており、上述したように流路形成基板10の連通部15と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0027】
さらに、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、下電極膜60及びリード電極90の端部がこの貫通孔33内に露出されている。そして、図示しないが、これら下電極膜60及びリード電極90は、貫通孔33内に延設される接続配線によって圧電素子300を駆動するための駆動IC等に接続される。
【0028】
なお、保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0029】
この保護基板30上には、さらに、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0030】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動ICからの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加し、圧電素子300をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0031】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る圧電素子の構成を示す断面図である。図5に示すように、本実施形態では、圧電体層70を、並設された複数の圧力発生室12に対向する領域に亘って連続して形成するようにした例である。すなわち、並設された各圧電素子300間にも、圧電素子300を構成する圧電体層70よりも薄い厚さの圧電体層71を残すようにした以外は、実施形態1と同様である。この圧電体層71の厚さは特に限定されず、圧電素子300の変位量を考慮して適宜決定されればよい。
【0032】
このように圧電体層70を連続的に設けることで、圧電素子300の駆動に伴う振動板、すなわち弾性膜50及び絶縁体膜55の破壊を防止することができる。圧力発生室12の幅方向両端部近傍の振動板は、圧電素子300の駆動に伴って大きく変形するため割れが生じやすいが、圧電体層70を連続的に設けておくことで振動板の剛性が実質的に向上し、このような振動板の割れの発生を防止することができる。
【0033】
また、上述したように上電極膜80の周縁部及び圧電体層70の露出された表面は保護膜150で覆われていることが好ましい(図4参照)。
【0034】
(実施形態3)
図6は、実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図7は、図6の平面図及びそのC−C′断面図である。また図8は、実施形態3に係る圧電素子の構成を示す断面図である。なお図1〜図3に示した部材と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
本実施形態は、圧電素子300を構成する下電極膜60が、圧電素子300の共通電極膜を構成し、上電極膜80が個別電極を構成している以外は、実施形態1と同様である。
【0036】
図示するように、本実施形態に係る下電極膜60は、各圧力発生室12に対向する領域毎に、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で、各圧力発生室12の長手方向一端部側から周壁上まで延設され、周壁上で連結されて各圧電素子300に共通する共通電極を構成している。圧力発生室12の長手方向他端部側の下電極膜60の端部は、圧力発生室12に対向する領域内に位置している。
【0037】
圧電体層70は、圧力発生室12の長手方向に両端部の外側まで延設されており、圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60の上面及び端面が圧電体層70によって完全に覆われている。また圧力発生室12の長手方向一端部側では、圧電体層70の外側まで下電極膜60がさらに延設されている。
【0038】
上電極膜80は、圧電体層70の幅よりも広い幅で、各圧力発生室12に対向する領域にそれぞれ独立して設けられている。すなわち上電極膜80は圧力発生室12間の隔壁11上で切り分けられて圧電素子300の個別電極を構成している。また上電極膜80は、圧力発生室12の長手方向他端部側から周壁上まで延設されている。これにより圧力発生室12に対向する領域の圧電体層70の上面及び端面は上電極膜80によってほぼ完全に覆われている。
【0039】
なお本実施形態では、上電極膜80は、各圧力発生室12の長手方向他端部側で圧電体層70の端部よりも外側まで延設されている。そして、この上電極膜80の端部近傍にリード電極91が接続されており、このリード電極91を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。
【0040】
また本実施形態の構成においても、下電極膜60の上面と圧電体層70の上面との距離D1と、下電極膜60の端面と圧電体層70の端面との距離D2とが、D2≧D1の関係を満たしている(図8参照)。すなわち、下電極膜60の端面上の圧電体層70の厚さD2が、圧電素子300の駆動に寄与する部分である下電極膜60の上面上に形成されている圧電体層70の厚さD1以上の厚さとなっている。
【0041】
そして、このような本実施形態の構成においても、勿論、水分等に起因する圧電素子300の破壊を防止することができる。つまり、圧電素子の電極構造に拘わらず、圧電体層の破壊を確実に防止することができ、耐久性を向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0042】
さらに本実施形態の構成においても、図9に示すように、並設された各圧電素子300間に圧電体層70よりも薄い厚さの圧電体層71を残し、並設された複数の圧力発生室12に対向する領域に亘って圧電体層70を連続して形成するようにしてもよい。
【0043】
またこのような構成においても、上述したように上電極膜80の端部及び圧電体層70の露出された表面は保護膜150で覆われていることが好ましく、本実施形態の構成においては、図10に示すように、圧力発生室12間の隔壁11上で露出されている圧電体層71の表面も、この保護膜150によって覆うようにすることが好ましい。隔壁11上、つまり圧力発生室12の外側の圧電体層71は、圧電素子300の変位には直接的に寄与する部分ではないため、隔壁11上で露出された圧電体層71の表面は必ずしも保護膜150で覆う必要はないが、隔壁11上で露出された圧電体層71の表面を保護膜150で覆っておくことで、圧電素子300を構成する圧電体層70の破壊をより確実に防止して、圧電素子300を常に良好に変位させることができる。
【0044】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0045】
また上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図11に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0046】
なお、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0047】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体膜、 80 上電極膜、 100 リザーバ、 150 保護膜、 300 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルにそれぞれ連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、
前記圧力発生室に対向する領域の前記下電極が当該圧力発生室の幅よりも狭い幅で形成されていると共に前記圧力発生室に対応する領域の前記下電極の上面及び端面が前記圧電体層によって覆われ、
前記圧電体層の端面がその外側に向かって下り傾斜する傾斜面となっており、前記圧力発生室に対向する領域においては、前記圧電体層の上面及び端面が前記上電極によって覆われ且つ前記下電極の上面と前記圧電体層の上面との距離D1と前記下電極の端面と前記圧電体層の端面との距離D2とがD2≧D1の関係を満たしていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記下電極が前記圧力発生室に対応して独立して設けられて前記圧電素子の個別電極を構成し、前記上電極が前記圧力発生室の並設方向に亘って連続的に設けられて前記圧電素子の共通電極を構成していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記下電極が前記圧電素子の共通電極を構成し、前記上電極が前記圧力発生室間の隔壁上で切り分けられて前記圧電素子の個別電極を構成していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記圧力発生室の長手方向における前記下電極の一方の端部が前記圧力発生室に対向する領域内に位置すると共に、前記圧力発生室の長手方向における前記上電極の端部が前記圧力発生室に対向する領域内に位置し、前記圧電素子の前記下電極の端部と前記上電極の端部との間の部分が、実質的な駆動部となっていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
耐湿性を有する材料からなる保護膜が、前記上電極の周縁部及び前記圧力発生室に対向する領域で露出された前記圧電体層の表面を覆って設けられていることを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項1】
液滴を吐出するノズルにそれぞれ連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備し、
前記圧力発生室に対向する領域の前記下電極が当該圧力発生室の幅よりも狭い幅で形成されていると共に前記圧力発生室に対応する領域の前記下電極の上面及び端面が前記圧電体層によって覆われ、
前記圧電体層の端面がその外側に向かって下り傾斜する傾斜面となっており、前記圧力発生室に対向する領域においては、前記圧電体層の上面及び端面が前記上電極によって覆われ且つ前記下電極の上面と前記圧電体層の上面との距離D1と前記下電極の端面と前記圧電体層の端面との距離D2とがD2≧D1の関係を満たしていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記下電極が前記圧力発生室に対応して独立して設けられて前記圧電素子の個別電極を構成し、前記上電極が前記圧力発生室の並設方向に亘って連続的に設けられて前記圧電素子の共通電極を構成していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記下電極が前記圧電素子の共通電極を構成し、前記上電極が前記圧力発生室間の隔壁上で切り分けられて前記圧電素子の個別電極を構成していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記圧力発生室の長手方向における前記下電極の一方の端部が前記圧力発生室に対向する領域内に位置すると共に、前記圧力発生室の長手方向における前記上電極の端部が前記圧力発生室に対向する領域内に位置し、前記圧電素子の前記下電極の端部と前記上電極の端部との間の部分が、実質的な駆動部となっていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
耐湿性を有する材料からなる保護膜が、前記上電極の周縁部及び前記圧力発生室に対向する領域で露出された前記圧電体層の表面を覆って設けられていることを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−47014(P2013−47014A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−268733(P2012−268733)
【出願日】平成24年12月7日(2012.12.7)
【分割の表示】特願2008−14265(P2008−14265)の分割
【原出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月7日(2012.12.7)
【分割の表示】特願2008−14265(P2008−14265)の分割
【原出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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