説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】液体に混入する気泡や塵埃がヘッド内に滞留し、あるいはノズルに詰まって吐出特性を劣化させることを防止する。
【解決手段】
液体噴射ヘッド1は、液体吐出用のチャンネル5が形成されるアクチュエータ基板3と、チャンネル5に液体を供給する液体供給室6が形成されるカバープレート4とが積層するヘッドチップ2と、カバープレート4に設置され液体供給室6に液体を供給する流路部材7とを備える。ここで、流路部材7は、液体を流入する流入口8と、液体を流出する流出口9と、流入口8から流出口9に液体を循環させる循環路10とを備え、流入口8又は流出口9とチャンネル5との間のいずれの流路にもフィルターが介在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出して被記録媒体に画像や文字、あるいは薄膜材料を形成する液体噴射ヘッド、これを用いた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字、図形を描画する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、チャンネルに充填したインクや液体材料をチャンネルに連通するノズルから吐出させる。インクの吐出の際には、液体噴射ヘッドや噴射した液体を記録する被記録媒体を移動させて、文字や図形を記録する、或いは所定形状の機能性薄膜を形成する。
【0003】
例えば特許文献1にはこの種の液体噴射ヘッドが記載されている。図9は特許文献1に記載される印字ヘッド101のインクの流路の概略を示す図である(特許文献1の図2)。印字ヘッド101の下部には下方にインクを吐出するインク吐出ノズル201と、このインク吐出ノズル201にインクを供給するノズル液室202が設置されている。印字ヘッド101の上部の右側にはノズル液室202にインクを供給するOUT液室301と、OUT液室301にヘッドフィルタ203を介してインクを供給するIN液室204が設置されている。ヘッドフィルタ203は垂直もしくは傾きを持って配置されている。チューブ114に圧送されるインクはIN液室204の下部に流入し、IN液室204の上部からチューブ115に流出する。
【0004】
OUT液室301とIN液室204の間にヘッドフィルタ203が設置され、インクはチューブ114、IN液室204及びチューブ115を経由して循環する構成となっている。また、ノズル液室202に対してOUT液室301を上方に設置している。これにより、クリーニング時は気泡がヘッドフィルタ203を通過せず、気泡の浮力によりインクの循環とともに外部に排出される。そのため、循環クリーニングで使用されるインク流量を従来と比較して格段に少なくすることができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−351641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来例では、IN液室204とOUT液室301の間に設置されるヘッドフィルタ203はインクに混入する塵埃を除去するために設けられている。しかし、インク流入部とインク吐出ノズル201の間にヘッドフィルタ203が挿入されると流入するインクの圧力損失が大きくなり、インクを安定して吐出させるための条件幅を示す印字安定領域が狭くなる。たとえば、安定して印字することができる電圧幅が狭くなる。また、印字ヘッド101を使用するに従いヘッドフィルタ203のIN液室204に気泡が付着して蓄積し、ヘッドフィルタ203の実効面積が低下してノズル液室202側にインクの供給不足が生じる。更に、IN液室204に蓄積した気泡がヘッドフィルタ203を通り抜けてノズル液室202に流れ出し、ドット抜けなどの印字品質が低下する原因となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、印字安定領域が狭くなる、また、気泡が蓄積する等により吐出特性が劣化するのを防止した液体噴射ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射ヘッドは、液体吐出用のチャンネルが形成されるアクチュエータ基板と、前記チャンネルに液体を供給するための液体供給室が形成されるカバープレートとが積層するヘッドチップと、前記カバープレートに設置され前記液体供給室に液体を供給する流路部材と、を備え、前記流路部材は、液体を流入する流入口と、液体を流出する流出口と、前記流入口から前記流出口に液体を循環させる循環路とを備え、前記流入口又は前記流出口と前記チャンネルとの間のいずれの流路にもフィルターが介在しないこととした。
【0009】
また、前記チャンネルは、前記アクチュエータ基板の前記カバープレートの側の表面に複数配列し、前記液体供給室は、前記チャンネルに連通し前記チャンネルの配列方向に長尺状に形成され、前記循環路は、液体が流れる方向に直交する方向の断面積が、前記液体供給室の長尺方向に直交する方向の断面積よりも大きいこととした。
【0010】
また、前記液体供給室は前記カバープレートの前記流路部材側の表面に開口し、前記循環路は前記流路部材の前記カバープレート側の表面に開口し、前記循環路の開口が前記液体供給室の開口に重なるように設置されることとした。
【0011】
また、前記循環路の液体が流れる方向に直交する方向の断面積が上流側から下流側に向かって漸次小さくなることとした。
【0012】
また、前記ヘッドチップは、第一ヘッドチップと第二ヘッドチップが積層された構造を有することとした。
【0013】
また、前記第一ヘッドチップと前記第二ヘッドチップは、アクチュエータ基板どうしが対面して接合される対称構造を有し、前記流路部材は、前記第一ヘッドチップに設置される第一流路部材と、前記第二ヘッドチップに設置される第二流路部材を含み、前記ヘッドチップは、前記第一流路部材の側から前記第二流路部材の側に貫通する流入貫通孔と流出貫通孔を備え、前記第二流路部材は、前記流入貫通孔を介して前記第一流路部材から液体を流入し、前記流出貫通孔を介して前記第一流路部材に液体を流出することとした。
【0014】
また、前記第一ヘッドチップと前記第二ヘッドチップは、アクチュエータ基板どうしが対面して接合される対称構造を有し、前記流路部材は、前記第一ヘッドチップに設置される第一流路部材と、前記第二ヘッドチップに設置される第二流路部材を含み、前記第一流路部材と前記第二流路部材は、前記第一及び第二ヘッドチップを挟んで対称の構造を有することとした。
【0015】
また、前記循環路は前記液体供給室よりも重力方向に対して上位に設置されることとした。
【0016】
本発明の液体噴射装置は、上記いずれか一に記載の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えることとした。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液体噴射ヘッドは、液体吐出用のチャンネルが形成されるアクチュエータ基板と、チャンネルに液体を供給するための液体供給室が形成されるカバープレートとが積層するヘッドチップと、カバープレートに設置され液体供給室に液体を供給する流路部材と、を備え、流路部材は、液体を流入する流入口と、液体を流出する流出口と、流入口から流出口に液体を循環させる循環路とを備え、流入口又は流出口とチャンネルとの間のいずれの流路にもフィルターが介在しない構成とした。
【0018】
これにより、流入した液体に混入する気泡や塵埃は循環路を経由して流出口から流出される。また、流入口又は流出口からチャンネルにかけてフィルターが介在しないので、気泡がフィルターに蓄積されて流路断面積が次第に減少したり、フィルターの圧力損失により吐出安定領域が縮小したりすることを防止した液体噴射ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる液体噴射ヘッドの基本的な構成を表す概念図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な分解斜視図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの縦断面模式図である。
【図4】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドのヘッドチップ部の縦断面模式図である。
【図5】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの斜視図である。
【図6】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドのヘッドチップ部の縦断面模式図である。
【図7】本発明の第五実施形態に係る液体噴射ヘッドのヘッドチップ部の縦断面模式図である。
【図8】本発明の第六実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【図9】従来から公知の印字ヘッドのインクの流路の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明にかかる液体噴射ヘッド1の基本的な構成を表す概念図である。液体噴射ヘッド1は、液体吐出用の複数のチャンネル5が形成されるアクチュエータ基板3とこれらのチャンネル5に液体を供給するための液体供給室6が形成されるカバープレート4とを備えるヘッドチップ2と、カバープレート4に設置され液体供給室6に液体を供給する流路部材7とを備える。
【0021】
流路部材7は、液体を流入する流入口8と、液体を流出する流出口9と、流入口8から流出口9に液体を循環させる循環路10と、液体供給室6に液体を供給するための連通口12を備える。流路部材7からカバープレート4の液体供給室6には連通口12を介して液体が供給される。液体供給室6から各チャンネル5に供給される液体はアクチュエータ基板3のノズル11から吐出される。流入口8と複数のチャンネル5との間、又は流出口9と複数のチャンネル5との間のいずれの流路にもフィルターが介在しない。
【0022】
この構成としたことにより、流入口8から流入した液体に混入する気泡や塵埃は循環路10を経由して流出口9から流出される。更に、流入口8や流出口9と複数のチャンネル5にかけてフィルターが介在しないので、フィルターに気泡が蓄積して流路断面積が次第に減少したり、フィルターの圧力損失により液体を安定して吐出させるための条件幅を示す吐出安定領域が縮小したりすることを防ぐことができる。
【0023】
なお、図1に示す液体噴射ヘッド1は、流路部材7の循環路10と液体供給室6が連通口12を介して連続的に形成されているが、本発明はこの形態に限定されず、流路部材7の循環路10とカバープレート4の液体供給室6の間に分離壁を設け、この分離壁に循環路10と液体供給室6を連通させる連通口12を設けてもよい。この場合に、流入口8側と流出口9側の両側に連通口12を設置すれば、液体供給室6を循環路として機能させることができる。なお、図1に示すように、液体供給室6と循環路10を連続的に形成することにより液体供給室6も循環路として機能するので、本発明の効果を一層奏することができる。
【0024】
また、循環路10の液体が流れる方向に直交する方向の断面積S1が液体供給室6のチャンネル5が配列する方向に直交する方向の断面積S2よりも大きくすれば、液体供給室6よりも循環路10をより多くの液体が流れる(液体供給室6はチャンネル5が配列する方向に長尺状の細長い形状を有する)。そのため、流入口8から流入した気泡や塵埃は循環路10を経由して流出口9から流出され、ノズル11に気泡や塵埃が詰まり難い。
【0025】
また、循環路10を液体供給室6よりも重力方向に対して上位に設置すれば、液体よりも軽い気泡は液体供給室6に流入することなく、循環路10を経由して流出口9から流出される。そのため、クリーニング時の液体の廃棄量を従来と比べて大幅に減らすことができる。なお、図示しない被記録媒体に対してノズル11が重力方向下位になるように液体噴射ヘッド1を配置する場合は、流出口9を循環路10よりも重力方向に対して上位になるように配置することで、より効果的に気泡を液体供給室6や循環路10から排除することができる。この場合は、流入口8が循環路10に連通する向きについては、どのような方向で接続されてもよい。この具体的な形態は、以下の第一実施形態に記載する。
【0026】
(第一実施形態)
図2は、本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の模式的な分解斜視図である。図2に示すように、液体噴射ヘッド1は、アクチュエータ基板3と、その上に接合されるカバープレート4と、その上に接合される流路部材7から構成されている。アクチュエータ基板3の表面には平行する多数の溝が形成される。カバープレート4をアクチュエータ基板3に接合することによりチャンネル5を構成する。アクチュエータ基板3とカバープレート4の各前方端面に各チャンネル5に連通するノズル11を有するノズルプレート13が接合されている。
【0027】
液体供給室6は、カバープレート4の後方側に設置され、各チャンネル5の後方端に連通し、各チャンネル5に液体の供給を可能とする。液体供給室6は流路部材7側に開口する。アクチュエータ基板3及びカバープレート4の前方端にはノズルプレート13が接合される。アクチュエータ基板3とカバープレート4とノズルプレート13によりヘッドチップ2が構成される。ノズルプレート13には複数のノズル11が形成され、各ノズル11はそれぞれチャンネル5に連通する。隣接するチャンネル5は側壁16により仕切られ、側壁16の側面に駆動電極が形成される。駆動電極は、アクチュエータ基板3の後方端の表面に形成される電極端子17に電気的に接続される。
【0028】
流路部材7の内部には、循環路10やその他の流路(例えば流入口8と液体供給室6の間の流路)が形成され、流入口8には流入接続部14が、流出口9には流出接続部15が設置される。循環路10はカバープレート4側に開口する。循環路10の開口と液体供給室6の開口が重なるように流路部材7とカバープレート4を接合する。従って、循環路10と液体供給室6が連続し、液体供給室6はチャンネル5に液体を供給する機能と流入口8から流入した液体を流出口9に流出させる循環路としての機能も有する。
【0029】
液体噴射ヘッド1は次のように動作する。図示しない液体貯留部から流入接続部14に供給される液体、例えばインクは、流入接続部14に連通する流入口8から流路部材7に導入される。流路部材7に導入された液体の一部は液体供給室6に流入し、各チャンネル5に供給される。流路部材7に導入された液体の残りは循環路10を流れて流出口9に流出し、流出接続部15を経て図示しない液体貯留部に戻される。そして、図示しない駆動部により生成された駆動信号はアクチュエータ基板3の電極端子17に供給され、側壁16の側面に形成した駆動電極に印加される。側壁16は印加された駆動信号に応じて変形し、チャンネル5の内容積が変化して、チャンネル5に充填された液体がノズル11から吐出される。
【0030】
本第一実施形態において、液体は、流入口8のx方向から循環路10へ流入し流出口9の−x方向に流出され、ノズル11からx方向に吐出される。また、チャンネル5はy方向に配列するので、液体供給室6はy方向に長い長尺状の形状を有している。流路部材7の循環路10は液体供給室6と同様にy方向に長い長尺形状を有している。液体噴射ヘッド1は、液体の流入、流出する方向と液滴の吐出方向がいずれもx方向となり、液体の流入、流出及び吐出する方向に直交するz方向の厚さを薄く形成することができる。
【0031】
ここで、循環路10の液体が流れる方向に直交するxz平面の断面積S1を液体供給室6の長手方向に直交するxz平面の断面積S2よりも広く形成すれば、循環路10の流路断面積は液体供給室6の流路断面積よりも大きくなる。従って、流入口8から流入した液体に気泡や塵埃が混入する場合でも、液体は液体供給室6よりも循環路10を多く流れて流出口9から流出する。そのため、気泡や塵埃は液体供給室6に滞留し難く、ノズル11を詰まらせてドット抜けとなる欠陥の発生が低減する。
【0032】
また、循環路10を重力方向に対して液体供給室6よりも上位に設置すれば、流入口8から流入する気泡は上位の循環路10を流れて流出口9から流出され液体供給室6には浸入しない。そのため、ノズル11に気泡が詰まってドット抜けとなる欠陥の発生を無くすことができる。例えば重力方向に対してx方向が下方、−x方向が上方となるように液体噴射ヘッド1を設置する場合は、循環路10の上端k1を液体供給室6の上端k2よりも上位に形成する。これにより、流入口8から流入する気泡は循環路10を流れ、液体供給室6には流入しないように構成することができる。
【0033】
なお、本実施形態においては、ノズル11の配置はチャンネル5の並設方向に一直線とする形態を示したが、ノズルの配置は千鳥配列とすることも可能であるし、三つのノズル11についてチャンネル5の深さ方向に所望の距離だけ互いに位置をずらし、該ノズル群が一組となって駆動する方式(スリーサイクルタイプ)を採用することも可能である。
また、本実施形態において、全てのチャンネル5は液体供給室6に連通する形態(壁共有型)を示したが、チャンネル5のうち液体が供給されるチャンネルと液体が供給されないチャンネルを形成することも可能である。この場合は、液体供給室6がチャンネル5に開口する位置にスリットを設け、該スリットが液体を供給したいチャンネル5に開口するように形成する。壁共有型は、隣り合うチャンネルから同時に液体を吐出することが困難であるので、適宜これらの変形例を採用すればよい。
【0034】
(第二実施形態)
図3は、本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1の縦断面模式図である。図2に示すAA部分の縦断面に相当する。第一実施形態と異なる部分は、流路部材7に形成した循環路10の形状であり、その他の部分は第一実施形態と同様である。
【0035】
図3に示すように、液体噴射ヘッド1はアクチュエータ基板3、カバープレート4及び流路部材7が積層する構造を備えている。アクチュエータ基板3はその上面に並列する複数のチャンネル5を備え、各チャンネル5はカバープレート4に形成した液体供給室6に連通している。ヘッドチップ2はアクチュエータ基板3とカバープレート4により構成される。
【0036】
流路部材7は、ヘッドチップ2側の表面に開口する循環路10を備え、−x方向の端面の−y方向側に流入口8を、−x方向の端面の+y方向側に流出口9を備え、それぞれ循環路10に連通する。更に、循環路10は、液体の流れ(+y方向への流れ)に直交する方向の断面積Sxが流入口8の側から流出口9の側に向かって漸次小さくなる形状を有している。なお、液体供給室6の長手方向に直交する方向の断面積S2は、流入口8側から流出口9側へ徐々に小さくなる断面積Sx(最も小さい断面積Sx)よりも小さいこととした。
【0037】
これにより、ノズル11から液体を吐出する場合は液体がy方向に流れるに従って消費されるが、循環路10の流路断面積が液体の流入側から流出側に向かって狭まることにより循環路10内における流速と各チャンネル5の内圧を流入側から流出側に亘って所定値以上に維持することができる。その結果、液体の吐出条件を液体の流入側のチャンネルから流出側のチャンネルに亘って均等化することができる。また、循環路10に混入した気泡や塵埃は循環路10に滞留することなく流出口9に向かって流出させることができる。
【0038】
(第三実施形態)
図4及び図5は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1を説明するための図であり、図4がヘッドチップ部25の縦断面模式図、図5がヘッドチップ部25を基体21に組み付けた液体噴射ヘッド1の斜視図である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0039】
図4に示すように、ヘッドチップ部25は、第一のヘッドチップ2aと第二のヘッドチップ2bがアクチュエータ基板3a、3bどうしを対面させて接合した対称構造を有している。即ち、第一のヘッドチップ2aは、表面に液体吐出用のチャンネル5aが形成されるアクチュエータ基板3aと、チャンネル5aに液体を供給するための液体供給室6aを備えるカバープレート4aが接合される。第二のヘッドチップ2bは、表面に液体吐出用のチャンネル5bが形成されるアクチュエータ基板3bと、チャンネル5bに液体を供給するための液体供給室6bを備えるカバープレート4bが接合される。そして、アクチュエータ基板3aとアクチュエータ基板3bがチャンネル5a、5bの反対側の表面どうしを対面して接合される。
【0040】
更に、カバープレート4aに形成される液体供給室6aの一方の端部からカバープレート4bに形成される液体供給室6bの一方の端部にかけて、2枚のアクチュエータ基板3a、3bを貫通する流入貫通孔18が形成される。また、液体供給室6bの他方の端部から液体供給室6aの他方の端部にかけて、2枚のアクチュエータ基板3b、3aを貫通する流出貫通孔19が形成される。
【0041】
流路部材7aは、流入口8と流出口9とカバープレート4a側に開口する循環路10aを備え、循環路10aの開口部と液体供給室6aの開口部が重なるようにカバープレート4aの表面に接合される。流路部材7bは、循環路10bを備え、循環路10bの開口部と液体供給室6bの開口部が重なるようにカバープレート4bの表面に接合される。
【0042】
流路部材7aの流入口8から流入した液体は、カバープレート4aの液体供給室6aに充填され、アクチュエータ基板3aの各チャンネル5aに供給されるとともに、循環路10aを経由して流出口9に流出する。更に、流入口8から流入した液体は流入貫通孔18を介して液体供給室6bに供給され、アクチュエータ基板3bのチャンネル5bに供給される。また、循環路10bを経由して流出貫通孔19から流出口9に流出する。
【0043】
このように、2列のチャンネル5a、5bを形成したので高密度の記録を行うことができる。更に、2つの液体供給室6a、6bの外側にそれぞれ循環路10a、10bを設置したので、流入口8から流入した液体に混入する気泡や塵埃は循環路10a、10bを経由して流出口9から流出される。更に、流入口8や流出口9と複数のチャンネル5a、5bにフィルターが介在しないので、フィルターに気泡が蓄積して流路断面積が次第に減少したり、フィルターの圧力損失により吐出安定領域が縮小したりすることが防止される。
【0044】
なお、循環路10aの液体が流れる方向に直交する方向の断面積を、液体供給室6aが連通するチャンネル5aの配列方向に直交する方向の断面積よりも大きく形成すれば、流入口8から流入する液体は液体供給室6aよりも循環路10aを多く流れる。そのため、液体に混入した気泡や塵埃は液体とともに流出口9から流出され、液体供給室6aには滞留し難く、ノズルを詰まらせてドット抜けとなる欠陥の発生を低減させることができる。循環路10bの液体が流れる方向に直交する方向の断面積を、液体供給室6bが連通するチャンネル5bの配列方向に直交する方向の断面積よりも大きく形成すれば、同様に、気泡や塵埃が流出口9から流出され、ノズルを詰まらせてドット抜けとなる欠陥の発生を低減させることができる。
【0045】
また、循環路10a、10bを重力方向に対してそれぞれ液体供給室6a、6bよりも上位に設置すれば、流入口8から流入する気泡は上位の循環路10a、10bを流れて流出口9から流出され、液体供給室6a、6bには流入しない。例えば、+x方向を重力方向に対して下位の方向とし、−x方向を重力方向に対して上位の方向とする。そして、液体供給室6a、6bに対して循環路10a、10bを−x方向に突出するように形成すればよい。
【0046】
なお、流入貫通孔18と流出貫通孔19が形成される位置は、複数のチャンネル5の最も外側に位置するチャンネル5とy方向におけるアクチュエータ基板3a、3bの端部との間であればどこでもよく、また、図4に示すように、液体供給室6a、6bと直接連通しても構わないし、カバープレート4a、4bに隔壁を設けて液体供給室6a、6bと隔てることも可能である。液体供給室6a、6bと隔てる場合は、カバープレート4a、4bに流入貫通孔18と流出貫通孔19と連通する図示しない孔部が必要であり、この孔部が循環路10a、10bにそれぞれ連通する。
【0047】
図5に示すように、ヘッドチップ部25を基体21に組み付ける。ヘッドチップ部25には液体の流入用の流入接続部14と液体を流出して循環させる流出接続部15が設置される。基体21には、放熱板22と回路基板23が設置される。ヘッドチップ部25と放熱板22の間、及び放熱板22と回路基板23の間はフレキシブル基板20により電気的に接続される。放熱板22の裏側には図示しない駆動ICが実装され、回路基板23からの信号に基づいてアクチュエータ基板3a、3bを駆動する駆動信号を生成する。
【0048】
このように、液体は流入口8のx方向から循環路10a、10bへ流入し流出口9の−x方向に流出され、ノズル11からx方向に吐出されるので、x方向に直交するz方向の厚さを薄くする形成することができる。キャリッジユニットに複数の液体噴射ヘッド1をz方向にコンパクトに配設することができる。
【0049】
(第四実施形態)
図6は、本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッド1のヘッドチップ部25の縦断面模式図である。第三実施形態のヘッドチップ部25と異なる部分は、流路部材7a、7bの構成であり、その他は第三実施形態と同様なので、以下、主に異なる部分について説明し、同一の部分については説明を省略する。
【0050】
図6に示すように、流路部材7aは、流入口8とカバープレート4a側に開口する循環路10aを備え、循環路10aの開口部と液体供給室6aの開口部が重なるようにカバープレート4aの表面に接合される。流路部材7bは、カバープレート4b側に開口する循環路10bと流出口9を備え、循環路10bの開口部と液体供給室6bの開口部が重なるようにカバープレート4bの表面に接合される。ヘッドチップ2a、2bの一方の端部と他方の端部にはカバープレート4a、アクチュエータ基板3a、アクチュエータ基板3b及びカバープレート4bを貫通する流入貫通孔18と流出貫通孔19が形成される。
【0051】
従って、流入口8から流入した液体は、カバープレート4aの液体供給室6aに充填され、アクチュエータ基板3aの各チャンネル5aに供給されるとともに、循環路10aを流れる。そして、流入口8から流入した液体は、流入貫通孔18を介して液体供給室6bに充填され、アクチュエータ基板3bの各チャンネル5bに供給されるとともに、循環路10bを流れる。循環路10bを流れる液体と循環路10aから流出し流出貫通孔19を流れる液体が合流して流出口9から流出する。
【0052】
ヘッドチップ部25に形成される流路は、中心点Pを通る紙面垂直方向の直線に関して線対称の構造を有している。従って、循環路10aと循環路10bのそれぞれを流れる流量が等しくなる。また、流路部材7a、7bとヘッドチップ2a、2bは同じ形状を有するので供用することができ、設計や製造が容易となる。
【0053】
(第五実施形態)
図7は、本発明の第五実施形態に係る液体噴射ヘッド1のヘッドチップ部25の縦断面模式図である。第三実施形態のヘッドチップ部25と異なる部分は、流路部材7a、7bの構成と流入貫通孔18及び流出貫通孔19を形成しない点であり、その他は第三実施形態と同様なので、以下主に異なる部分について説明し、同一の部分については説明を省略する。
【0054】
図7に示すように、流路部材7aは、流入口8aとカバープレート4a側に開口する循環路10aと流出口9aを備えている。流路部材7bは、同様に、流入口8bとカバープレート4b側に開口する循環路10bと流出口9bを備えている。そして、カバープレート4a、4b及びアクチュエータ基板3a、3bには貫通孔が形成されていない。つまり、アクチュエータ基板3aとカバープレート4aを積層したヘッドチップ2aの上に流路部材7aを積層した2つの積層体を反転させて、アクチュエータ基板3a、3bを貼り付けている面Qを基準として面対称の構造を有している。なお、流入口8a、8bと流出口9a、9bはy方向において同じ側に位置するようにしている。このように形成することで、流入口8a、8bに流入するまでの直前に位置する流路チューブを共有し易くなる。そして、各積層体を独立して液体を循環させる。
【0055】
このように構成すれば、2つの循環路10a、10bを流す流量や、2つの液体供給室6a、6bに供給する液量や圧力を独立して制御することができるので、2つのチャンネル5a、5bの吐出特性のばらつきを低減させることができる。また、クリーニング等のメンテナンスを独立して実施することができる。
【0056】
(第六実施形態)
図8は本発明の第六実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。液体噴射装置30は、液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構40と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給する供給チューブ35、35’と、液体噴射ヘッド1、1’から液体を回収する回収チューブ45、45’と、供給チューブ35、35’に液体を圧送する液体ポンプ33、33’と液体タンク34、34’を備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は複数の吐出溝を備え、各吐出溝に連通するノズルから液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’は既に説明した第一〜第五実施形態のいずれかを使用する。
【0057】
液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体44を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体44に液体を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体噴射ヘッド1、1’を載置するキャリッジユニット43と、液体タンク34、34’に貯留した液体を供給チューブ35、35’に押圧して供給する液体ポンプ33、33’と、液体噴射ヘッド1、1’を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構40を備えている。図示しない制御部は液体噴射ヘッド1、1’、移動機構40、搬送手段41、42を制御して駆動する。
【0058】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体44を主走査方向に搬送する。移動機構40は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット43と、キャリッジユニット43を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト38と、この無端ベルト38を図示しないプーリを介して周回させるモータ39を備えている。
【0059】
キャリッジユニット43は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク34、34’は対応する色の液体を貯留し、液体ポンプ33、33’、供給チューブ35、35’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給し、回収チューブ45、45’を介して液体を液体タンク34、34’に回収する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット43を駆動するモータ39の回転及び被記録媒体44の搬送速度を制御することにより、被記録媒体44上に任意のパターンを記録することできる。
【0060】
本発明による液体噴射装置30は、ヘッドチップの流路部材に液体を循環させるための循環路を設けたので、液体に混入する気泡や塵埃は循環路を経由して流出される。また、流入口又は流出口とチャンネルとの間のいずれの流路にもフィルターが介在しないので、気泡がフィルターに蓄積して流路断面積が減少したり、フィルターの圧力損失により吐出安定領域が縮小したりすることのない液体噴射装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 液体噴射ヘッド
2 ヘッドチップ
3 アクチュエータ基板
4 カバープレート
5 チャンネル
6 液体供給室
7 流路部材
8 流入口
9 流出口
10 循環路
11 ノズル
12 連通口
13 ノズルプレート
14 流入接続部
15 流出接続部
25 ヘッドチップ部
30 液体噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出用のチャンネルが形成されるアクチュエータ基板と、前記チャンネルに液体を供給するための液体供給室が形成されるカバープレートとが積層するヘッドチップと、
前記カバープレートに設置され前記液体供給室に液体を供給する流路部材と、を備え、
前記流路部材は、液体を流入する流入口と、液体を流出する流出口と、前記流入口から前記流出口に液体を循環させる循環路とを備え、
前記流入口又は前記流出口と前記チャンネルとの間のいずれの流路にもフィルターが介在しない液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記チャンネルは、前記アクチュエータ基板の前記カバープレートの側の表面に複数配列し、
前記液体供給室は、前記チャンネルに連通し前記チャンネルの配列方向に長尺状に形成され、
前記循環路は、液体が流れる方向に直交する方向の断面積が、前記液体供給室の長尺方向に直交する方向の断面積よりも大きい請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記液体供給室は前記カバープレートの前記流路部材側の表面に開口し、
前記循環路は前記流路部材の前記カバープレート側の表面に開口し、
前記循環路の開口が前記液体供給室の開口に重なるように設置される請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記循環路の液体が流れる方向に直交する方向の断面積が上流側から下流側に向かって漸次小さくなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記ヘッドチップは、第一ヘッドチップと第二ヘッドチップが積層された構造を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第一ヘッドチップと前記第二ヘッドチップは、アクチュエータ基板どうしが対面して接合される対称構造を有し、
前記流路部材は、前記第一ヘッドチップに設置される第一流路部材と、前記第二ヘッドチップに設置される第二流路部材を含み、
前記ヘッドチップは、前記第一流路部材の側から前記第二流路部材の側に貫通する流入貫通孔と流出貫通孔を備え、
前記第二流路部材は、前記流入貫通孔を介して前記第一流路部材から液体を流入し、前記流出貫通孔を介して前記第一流路部材に液体を流出する請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記第一ヘッドチップと前記第二ヘッドチップは、アクチュエータ基板どうしが対面して接合される対称構造を有し、
前記流路部材は、前記第一ヘッドチップに設置される第一流路部材と、前記第二ヘッドチップに設置される第二流路部材を含み、
前記第一流路部材と前記第二流路部材は、前記第一及び第二ヘッドチップを挟んで対称の構造を有する請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記循環路は前記液体供給室よりも重力方向に対して上位に設置される請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−71301(P2013−71301A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211218(P2011−211218)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】